『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』第六部「無限なる力」   作:城元太

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第六拾話

 小次郎は、既に服織に向け移動を開始していた平良兼に、合戦を挑む牒を送った。

 先行していた良兼とその妻小枝の護衛ゾイド部隊は、直ちに迎撃態勢を取り進軍の速度を速める。一方上総武射郡尾形の良兼の営所にも、小次郎参戦の報が届けられ、増援として嫡男平公雅を将とするダークホーン部隊が出撃した。同時に水守の平良正も、バイオゾイド軍団を引き連れ移動を開始し、また服織の荘からも源護配下のゾイドが出陣する。石井、尾形、水守、服織の軍が衝突するのは、筑波を望む大宝沼南岸周辺と予測された。

 ここで双方の兵力を確認する。

○下総、石井勢

 村雨ライガー(平将門;指揮、棟梁)

 ソードウルフ(平将頼;上兵)

 デッドリーコング(伊和員経(いわのかずつね);上兵)

 ソウルタイガー(坂上遂高(さかのうえのかつたか);上兵)

 サビンガ(文屋好立(ふんやのよしたつ);上兵)

 ディバイソン(多治経明(たぢのつねあきら);上兵 平将文;兵)

藤原玄明(ふじわらのはるあき)よりの増援

 ランスタッグブレイク(藤原玄明;従類)

 ランスタッグ(藤原玄茂(ふじわらのはるもち);従類)

 ランスタッグ量産型(兵、従類)×13

※尚、石井勢の進軍に伴い、潜伏していた旧鎌輪勢の伴類も続々と参戦し、上総の境に入る頃には、ブロックスや小型ゾイドを含め、凡そ100弱のゾイド部隊へと増大していた。

 

 対する良兼、良正、及び源護の軍勢

○上総より

 ダークホーン(平良兼(たいらのよしかね);指揮、棟梁)

 ダークホーン(平公雅(たいらのきみまさ);兵)

 ダークホーン(平公連(たいらのきみつら);兵)

 ダークホーン(兵)×9

※鹵獲中のレインボージャークもグスタフにより移送。

○常陸、石田荘より

 ブラストルタイガー(平貞盛(たいらのさだもり);惣領)

 レッドホーン(平繁盛(たいらのしげもり);上兵、貞盛の弟)

 レッドホーン(他田真樹(おさだのまき);従類、上兵)

 レッドホーン(搭乗者不明;兵)×3

○常陸、服織の営所より

 ゲーター(搭乗者不明;兵)×2

 マーダー(搭乗者不明;兵)×5

○水守より(別働隊。石井勢への挟撃)

 アイスブレーザー(平良正;指揮、館主)

 バイオメガラプトル(土魂)×5

 バイオトリケラ(土魂)×4

 バイオケントロ(土魂)×6

 バイオプテラ(搭乗者不明だが土魂と推察)参加機数不明

※その他の伴類部隊(一部に僦馬(しゅうま)の党、俘囚を含む)

 ヘルキャット(搭乗者不明。伴類)×5

 エクスグランチュラ(搭乗者不明。伴類)

 レブラプター(搭乗者不明。伴類)×3

 モルガ(搭乗者不明。伴類)×5

 シェルカーン(搭乗者不明。伴類)

 フライシザース(搭乗者不明。伴類)×3

 機種不明ブロックス(搭乗者不明。伴類)×10

 

 石井勢は、中型・大型合せて20のゾイド。

 対する上総・常陸連合部隊は19、及びバイオゾイド15の計34機。

 着目すべきは、高速型戦闘を得意とする石井勢とは対照的に、上総・常陸勢が「動く要塞」の異名を持つレッドホーン、ダークホーンを計17機擁している点である。但しそれを補って余りある程に、良兼側には機動性に優れるバイオゾイドが追加されていた。

 

 主君を乗せた碧き獅子は、久方ぶりに編成された大毅を引き連れ、堂々と歩んで行く。上下に揺れる村雨ライガーの操縦席で、小次郎の思考は堂々巡りに陥っていた。

――(いくさ)とは、果たして正しき事なのか――

 それは朴訥な坂東武者の中に、初めて湧き上がった疑問であった。

 都から戻って以来、無我夢中で戦い続けてきた。

――だがこの惨状を産み出したのは、他ならぬ(いくさ)の為ではないか――

 服織への途中、先の堀越の戦いで良兼勢に焼かれ、廃村と化した村々を幾つも目にした。更に筑波の麓には、嘗て小次郎が初めて挑んだ野本の合戦により、略奪と殺戮の惨禍を被った百姓もいる。常陸の国境を越えると、ウィルスに冒され放置されたゾイドの骸が数を増していく。偏に、良兼にせよ源護にせよ、彼らが小次郎の所領を蚕食したのは、都が齎した疫病の流行によるものだ。

 乾いた大気の中、晴れ上がる青空に軌道エレベーターのケーブルが伸びあがっている。

 ソラは、坂東の現状など歯牙にもかけず、唯々搾取の対象としか考えていない。

――武士の名誉を守るため、孝子を筆頭に、討たれた家臣の仇を取るため、そして奪われた所領を取り戻すためと戦いに臨んでいる。だが骨肉の争いを繰り返してみたところで、世界は変わらない。

 世界を変えねばならぬ。いや、創世せねばならぬのだ。

 だが、新しい世界を創る為に、俺に出来る事とは何なのだ――

 

〝上総方面より飛行型と思しきゾイドが接近。斥候と思われます〟

 五郎将文が語尾を上げ、ディバイソン後部席より告げた。小次郎は現実に引き戻された。

「あの時の空飛ぶバイオゾイドであるやもしれぬ。警戒は怠るな」

 通達の後、小次郎は右斜め前で位置する棺桶を背負うゾイドを見た。

『この猩々にて仇を取れれば、幾分なりとも娘の無念を晴らせるというもの』

 出撃直前、静かに語る伊和員経の心中で、怒りが煮え滾っているのが判った。

 デッドリーコングへの搭乗を申し出た時、押し留めることは出来なかった。操縦席には桔梗の形見となった衵の細片が貼り付けてあるはず。憎しみの連鎖は止め処なく繰り返されていく。

 棟梁として、主君として、己は如何に下総を、いや、この坂東を律して行かねばならぬのだ。

 その時小次郎の脳裏に、またあの言葉が閃光となって過った。

〝無限〟

 操作盤の画面に目を落とす。しかし、何の文字も浮かんではいない。

「村雨よ、お前は俺に何を求めている」

 僅かに歩みが緩くなった。しかし碧き獅子は、すぐまた何事も無かったかの如く、服織へ向けての進撃を継続していった。

 

〝飛行ゾイドを目視確認〟

 石井勢のゾイドに緊張が奔る。

〝機種照合。えっ、これは、レインボージャーク!〟

「何だと」

 小次郎は進軍中にも関わらず、村雨ライガーの風防を目一杯開放した。

 進路右の低空を、菫色の孔雀が両足を伸ばし着陸体勢に移行している。

〝好立殿のサビンガが接近し、複合センサーアイで確認したところ、紛れもなく良子義姉様、多岐様が操縦席にいるとのことです。多岐様は元気よく手を振ってくれたそうです〟

 村雨ライガーがやや落ち着きを失い出した。鎌輪の営所の馬場で、何度となく戯れたレインボージャークが戻って来たからに違いない。

「浮つくな村雨」

 そう言う小次郎の口許も、喜びに緩んでいた。

 理由はどうあれ、紛れもなく、妻良子と娘多岐が戻って来たのだ。

 やがて純白のウィングカッターを羽ばたかせ、菫色の孔雀は小次郎達の進路脇の草原に着地した。

 村雨ライガーが真っ先に駆けつける。レインボージャークと互いの無事を祝う様に啼き合った。

 頭部を下げ、開いた風防から良子と多岐が降り立つ。小次郎は既に村雨ライガーから飛び降りていた。

「父うえー!」

 多岐が駆け寄り抱き着いた。

 小次郎は娘を軽々と持ち上げる。同時に、その重みと温もりを改めて感じていた。

 良子が潤んだ瞳で見つめる。

「よくぞ無事で戻った」

 涙声にならないように、小次郎は堪えた。

「ただいま、戻りました。あなた様」

 良子も嗚咽を堪えていた。

「あいたかった」

 出会った頃の乙女の如く、良子は多岐を抱いたままの小次郎に抱き着いた。

 小次郎の両脚は、妻子をしっかりと支えていた。

 良子は泣いていた。

 多岐は太陽のような笑顔で笑っていた。

 村雨ライガーとレインボージャークが戯れていた。

 離れていた家族が、再び会い見えた。

 

 

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