『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』第六部「無限なる力」 作:城元太
小次郎は、既に服織に向け移動を開始していた平良兼に、合戦を挑む牒を送った。
先行していた良兼とその妻小枝の護衛ゾイド部隊は、直ちに迎撃態勢を取り進軍の速度を速める。一方上総武射郡尾形の良兼の営所にも、小次郎参戦の報が届けられ、増援として嫡男平公雅を将とするダークホーン部隊が出撃した。同時に水守の平良正も、バイオゾイド軍団を引き連れ移動を開始し、また服織の荘からも源護配下のゾイドが出陣する。石井、尾形、水守、服織の軍が衝突するのは、筑波を望む大宝沼南岸周辺と予測された。
ここで双方の兵力を確認する。
○下総、石井勢
村雨ライガー(平将門;指揮、棟梁)
ソードウルフ(平将頼;上兵)
デッドリーコング(
ソウルタイガー(
サビンガ(
ディバイソン(
※
ランスタッグブレイク(藤原玄明;従類)
ランスタッグ(
ランスタッグ量産型(兵、従類)×13
※尚、石井勢の進軍に伴い、潜伏していた旧鎌輪勢の伴類も続々と参戦し、上総の境に入る頃には、ブロックスや小型ゾイドを含め、凡そ100弱のゾイド部隊へと増大していた。
対する良兼、良正、及び源護の軍勢
○上総より
ダークホーン(
ダークホーン(
ダークホーン(
ダークホーン(兵)×9
※鹵獲中のレインボージャークもグスタフにより移送。
○常陸、石田荘より
ブラストルタイガー(
レッドホーン(
レッドホーン(
レッドホーン(搭乗者不明;兵)×3
○常陸、服織の営所より
ゲーター(搭乗者不明;兵)×2
マーダー(搭乗者不明;兵)×5
○水守より(別働隊。石井勢への挟撃)
アイスブレーザー(平良正;指揮、館主)
バイオメガラプトル(土魂)×5
バイオトリケラ(土魂)×4
バイオケントロ(土魂)×6
バイオプテラ(搭乗者不明だが土魂と推察)参加機数不明
※その他の伴類部隊(一部に
ヘルキャット(搭乗者不明。伴類)×5
エクスグランチュラ(搭乗者不明。伴類)
レブラプター(搭乗者不明。伴類)×3
モルガ(搭乗者不明。伴類)×5
シェルカーン(搭乗者不明。伴類)
フライシザース(搭乗者不明。伴類)×3
機種不明ブロックス(搭乗者不明。伴類)×10
石井勢は、中型・大型合せて20のゾイド。
対する上総・常陸連合部隊は19、及びバイオゾイド15の計34機。
着目すべきは、高速型戦闘を得意とする石井勢とは対照的に、上総・常陸勢が「動く要塞」の異名を持つレッドホーン、ダークホーンを計17機擁している点である。但しそれを補って余りある程に、良兼側には機動性に優れるバイオゾイドが追加されていた。
主君を乗せた碧き獅子は、久方ぶりに編成された大毅を引き連れ、堂々と歩んで行く。上下に揺れる村雨ライガーの操縦席で、小次郎の思考は堂々巡りに陥っていた。
――
それは朴訥な坂東武者の中に、初めて湧き上がった疑問であった。
都から戻って以来、無我夢中で戦い続けてきた。
――だがこの惨状を産み出したのは、他ならぬ
服織への途中、先の堀越の戦いで良兼勢に焼かれ、廃村と化した村々を幾つも目にした。更に筑波の麓には、嘗て小次郎が初めて挑んだ野本の合戦により、略奪と殺戮の惨禍を被った百姓もいる。常陸の国境を越えると、ウィルスに冒され放置されたゾイドの骸が数を増していく。偏に、良兼にせよ源護にせよ、彼らが小次郎の所領を蚕食したのは、都が齎した疫病の流行によるものだ。
乾いた大気の中、晴れ上がる青空に軌道エレベーターのケーブルが伸びあがっている。
ソラは、坂東の現状など歯牙にもかけず、唯々搾取の対象としか考えていない。
――武士の名誉を守るため、孝子を筆頭に、討たれた家臣の仇を取るため、そして奪われた所領を取り戻すためと戦いに臨んでいる。だが骨肉の争いを繰り返してみたところで、世界は変わらない。
世界を変えねばならぬ。いや、創世せねばならぬのだ。
だが、新しい世界を創る為に、俺に出来る事とは何なのだ――
〝上総方面より飛行型と思しきゾイドが接近。斥候と思われます〟
五郎将文が語尾を上げ、ディバイソン後部席より告げた。小次郎は現実に引き戻された。
「あの時の空飛ぶバイオゾイドであるやもしれぬ。警戒は怠るな」
通達の後、小次郎は右斜め前で位置する棺桶を背負うゾイドを見た。
『この猩々にて仇を取れれば、幾分なりとも娘の無念を晴らせるというもの』
出撃直前、静かに語る伊和員経の心中で、怒りが煮え滾っているのが判った。
デッドリーコングへの搭乗を申し出た時、押し留めることは出来なかった。操縦席には桔梗の形見となった衵の細片が貼り付けてあるはず。憎しみの連鎖は止め処なく繰り返されていく。
棟梁として、主君として、己は如何に下総を、いや、この坂東を律して行かねばならぬのだ。
その時小次郎の脳裏に、またあの言葉が閃光となって過った。
〝無限〟
操作盤の画面に目を落とす。しかし、何の文字も浮かんではいない。
「村雨よ、お前は俺に何を求めている」
僅かに歩みが緩くなった。しかし碧き獅子は、すぐまた何事も無かったかの如く、服織へ向けての進撃を継続していった。
〝飛行ゾイドを目視確認〟
石井勢のゾイドに緊張が奔る。
〝機種照合。えっ、これは、レインボージャーク!〟
「何だと」
小次郎は進軍中にも関わらず、村雨ライガーの風防を目一杯開放した。
進路右の低空を、菫色の孔雀が両足を伸ばし着陸体勢に移行している。
〝好立殿のサビンガが接近し、複合センサーアイで確認したところ、紛れもなく良子義姉様、多岐様が操縦席にいるとのことです。多岐様は元気よく手を振ってくれたそうです〟
村雨ライガーがやや落ち着きを失い出した。鎌輪の営所の馬場で、何度となく戯れたレインボージャークが戻って来たからに違いない。
「浮つくな村雨」
そう言う小次郎の口許も、喜びに緩んでいた。
理由はどうあれ、紛れもなく、妻良子と娘多岐が戻って来たのだ。
やがて純白のウィングカッターを羽ばたかせ、菫色の孔雀は小次郎達の進路脇の草原に着地した。
村雨ライガーが真っ先に駆けつける。レインボージャークと互いの無事を祝う様に啼き合った。
頭部を下げ、開いた風防から良子と多岐が降り立つ。小次郎は既に村雨ライガーから飛び降りていた。
「父うえー!」
多岐が駆け寄り抱き着いた。
小次郎は娘を軽々と持ち上げる。同時に、その重みと温もりを改めて感じていた。
良子が潤んだ瞳で見つめる。
「よくぞ無事で戻った」
涙声にならないように、小次郎は堪えた。
「ただいま、戻りました。あなた様」
良子も嗚咽を堪えていた。
「あいたかった」
出会った頃の乙女の如く、良子は多岐を抱いたままの小次郎に抱き着いた。
小次郎の両脚は、妻子をしっかりと支えていた。
良子は泣いていた。
多岐は太陽のような笑顔で笑っていた。
村雨ライガーとレインボージャークが戯れていた。
離れていた家族が、再び会い見えた。