『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』第六部「無限なる力」 作:城元太
デッドリーコングの背後から白銀の輝きが過る。
「何だ今のは。太刀が二振のライガーだと」
過った瞬間、組みあっていたバイオケントロは真っ二つに切断されていた。
ソウルタイガーとワイツタイガーの間を、白銀の輝きが過る。
「疾風ライガーか。いや、疾風でも村雨でもない」
「見たこともない機体だが、あのようなゾイドを何処に隠しておられたのか」
過った瞬間、ヘルファイアー発射寸前のバイオメガラプトルの頸部が地上にどさりと斬り落とされた。
ランスタッグ部隊の傍らを、白銀の輝きが過る。
「ライガーなのか」
「知らぬぞ。小次郎はこんなゾイドには乗っておらんわ」
過った瞬間、バイオトリケラのヘルツインホーンが吹き飛び、巨大なフリルごと頭部が断ち割られていた。
石井勢と水守勢の争うそのほぼ中央、周囲をぐるりと見渡せる平原に、二振の太刀を構える荘厳な獅子が立っていた。後衛に護られていた多岐が身を乗り出し歓声をあげる。
「父うえ!」
愛娘は忽ちにして真髄を見抜いていた。
「殿」
「兄者」
「将門殿」
「小次郎殿」
「小次郎」
「あなたさま」
霰石色の獅子が咆哮する。
居合わせる誰もの心の中に、その銘が響き亘った。
「将門ライガー、推参」
小次郎は輝きに包まれた操縦席の中で叫んでいた。
無限なる力が漲っている。
小次郎は操縦桿を握り締め、バイオゾイドを睥睨した。
やれる。
「行くぞ」
白銀の輝きを纏い、将門ライガーが勇躍した。
バイオメガラプトルがヘルファイアーを雨霰と撃ち込んでくる。赤い焼夷弾が獅子に直撃した。紅蓮の焔を十文字に切り裂き、炎の中心より白刃を煌めかせ、将門ライガーはバイオメガラプトルを瞬時に切り刻んでいた。
バイオトリケラが大地を蹴立てて突進する。
フレアシールドから発生する電磁バリアが周囲の空気を陽炎の如く揺らめかせる。
四肢を踏み締め跳躍した獅子は、ヘルツインホーン激突の寸前、バイオトリケラの直上で背面となる。ムラサメブレイカーとムゲンブレードが振り下ろされ、バリア効果のない無防備の胴体を三つに切断した。
バックランスを備える2機のバイオケントロがソードダンスを舞い、前後から獅子を挟み込んで迫る。将門ライガーが緩やかに走る。走るその姿が、次第に数を増していく。
二つ。三つ。
伊和能員が驚嘆する。
「ライガーが分身していく」
バックランスが撃ち込まれる。しかし鋼鉄の魚群は、幻影の背後の大地を虚しく穿っただけであった。
四つ。五つ。
平三郎将頼が歓喜する。
「速い、速いぞ兄者。まるで風のようだ」
ビーストスレイヤーを無茶苦茶に振り回し、獅子を切り刻もうとするが、切っ先は徒に空を斬る
六つ。
藤原玄明が
「俺は幻を見ているのか。雲のように滲んで見える」
七つ。
多岐と良子が呟く。
「きれい。ライガーが、七色に分かれて光っている」
「まことに。まるであれは」
母と娘の声が揃った。
「虹のよう」
ソードダンスを舞い続けるバイオケントロに、七色に変化する獅子が次々と斬撃を叩き込んだ。因縁深き剣竜は、脳天から尾の先まで物の見事にかち割られ、左右に切断された躯を大地に晒した。
残ったバイオゾイドの群れがじりじりと後退を始める。
将門ライガーの頭上に黒い影が飛来した。
「空飛ぶバイオゾイド、今頃になって」
多治経明が背部の将文から送られた情報を睨み、天を仰ぐ。
将門ライガーは既に察知していた。
二振の太刀が輝く。
「飛ぶぞ」
小次郎の掛け声と共に、七色に分身した獅子が、それぞれの身体を足掛かりにして跳躍した。
速く、高く、そして強く。
一列の
落下する残骸を足掛かりにして地上に降り立つ。将門ライガーは筑波峰を背に勝鬨の雄叫びをあげていた。
「これが無限なる力なのか」
小次郎は散乱するバイオゾイドの骸が、微細な炎をメラメラとあげて燃え尽きていく光景を見ていた。そしてその奥に、アイスメタル装甲を纏う黒い猟犬が浮かび上がる。
「良正叔父、覚悟は宜しいか」
しかしアイスブレーザーへ向かう小次郎を妨げる、生き残りのバイオゾイドが一斉に結集した。バイオメガラプトル、バイオトリケラ、バイオケントロ、そして最後に飛来したバイオプテラである。
頭長高の最も高いバイオメガラプトルが、狙い澄ましたヘルファイアーを吐き出そうとした瞬間であった。
突如として、メガラプトルの身体が横転する。右脚の付け根が醜くぶくぶくと膨張し、流体金属装甲表面に無数の水疱が発疹する。悲鳴を上げるメガラプトルの頭部にも、全く同じ水疱が湧き上がっていた。
バイオトリケラの四肢と、頭部フレアが付け根から分解し、叫ぶ間もなくばらばらに千切れて行く。傍らのバイオケントロも、ビーストスレイヤーの刃を除き、その身体全体が炎を浴びた飴細工の如く崩れ落ちた。
空を舞っていたバイオプテラが、飛ぶことを忘れ落下する。青く透き通っていた翼には、最早正真正銘の骸骨しか残っていなかった。
どのバイオゾイドも、自らの身体が溶解していく。
良子達と共に後詰めで戦況の一部始終を見守っていた平四郎将平が己自身に向かって告げていた。
「流体金属装甲とは、即ち生きた金属細胞だったのか。攻撃を受けても傷付かなかったのは、瞬時にして細胞を再生していたから。
だが細胞再生には限界がある。バイオゾイド達は、自ずとテロメアを使い果たし、そしてこうして自滅したのだ」
どろどろと解けるバイオゾイドを踏み越え、小次郎が林の縁に達した時、既にアイスブレーザーは消え去っていた。
口惜しさはない。行く先は判っている。
小次郎が心を鎮めると共に、二振の太刀は一振となり、霰石色の獅子は碧き獅子へと姿を戻していった。
遂に決着を着ける時が来た。
刹那に瞑った瞼の裏側、将門の目には、桔梗のどこか物悲しげだった微笑みが浮かんでいたのであった。