『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』第六部「無限なる力」   作:城元太

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第六拾四話

「あのね、バイオゾイドはリューグーがジョートでタイヨしたものなんだって!」

 多岐は小次郎の膝にちょこんと座り、穢れない大きな瞳を輝かせ、屈託なく答える。

 深刻な事情を気取られるよう、娘に向かい合う母良子は優しく問いた。

「他に、じじさまが言った事で覚えていることはないか」

「うん、えーと……ジッセンのケッカをシモツキのトータドノのモト、って言ってた」

 小次郎の大きな掌が、娘の頭をそっと撫でる。

「多岐は利発だのう。よしわかった。もういいぞ、五郎と一緒に遊んで来るがいい」

 はーい、と無邪気な歓声を上げ、多岐は手を引く五郎将文と共に、陣幕の向こうに駆け出して行った。温和な表情が一転し、良子は、夫と同席する伊和員経、三郎将頼、四郎将平を見廻した。

「お聞きの通りです。どうやら父は、多岐を膝に抱いたまま、貞盛殿と戦の策を話し合っていたようです。孫娘可愛さに油断したとも言えますが、よもや多岐が会話の一部を覚えてしまうとは思いもしなかったことでしょう」

 そして良子は軽く会釈し、評定の重苦しい空気を察して、娘の後を追って退出していった。残された評定の面々は、多岐がいた時とは一変し、一様に渋面を浮かべていた。

「バイオゾイドは〝龍宮〟が〝譲渡〟という形で〝貸与〟した、ということか」

 三郎が顎に手を当て、小次郎を見る。

「〝実戦〟の〝結果〟をシモツキの、つまり〝下野(しもつけ)〟の〝藤太〟の元へ。俵藤太、藤原秀郷は、龍宮が新たに開発したバイオゾイドの戦闘諸元を送ることを条件に、良兼達に与えたと判断すべきかと。して兄上、そして員経殿。龍宮とは如何なるものでございますか。都に昇ったことのない者にとっては見当もつきません」

 四郎の問い掛けに、依然小次郎は無言であった。

「藤原秀郷殿とは、あまり事を構えぬ方が良いでしょう。弓袋に立て篭もった上総、常陸勢との決着が未だにつかない現在、これ以上の敵を増やしたくはない。ここはひとつ、真意を問う書簡を秀郷殿に送り、龍宮との関係を質してみては如何かと……殿、御加減でも悪いのですか」

 我に返った小次郎が、員経に応える。

「……すまぬ、考え事をしておった」

「また脚病が再発したのでは」

 大きく首を横に振り、小次郎は腰掛けたまま両足で大地を力強く踏み締めてみせた。

「龍宮と藤太殿のことであれば、瀬田の唐橋の件もあり、俺も薄々は感じていたから驚きはしない。気になるのは、桔梗と俵藤太は繋がりがあると嘗て蔵人頭藤原師氏様から伺った事があるからなのだ」

 桔梗の前の通り名を知らない三郎と四郎は顔を見合わせ、父として振る舞ってきた員経は僅かに表情を曇らせる。

 詳しく語る必要はない。ではどうやって伝える。小次郎の懸念を瞬時に判断した員経は、滔々と語り出した。

「桔梗の前とは、嘗て孝子が都で名乗っていた通り名です。優秀なゾイド乗りでありましたが、仕官には身元引受人が必要で、素性が定かではなかった桔梗は出仕できませんでした。そこで私が養父として桔梗を引き取り、令外官の更に令外として、女人としては異例の滝口の武士に属することができたのです。説明が遅れたこと、お許しください」

 老齢な武士は、瞬時にして見事に桔梗の素性を築き上げ語る。今は亡き孝子の思い出をそれ以上掘り下げる事を悼んだ兄弟達は、追及することもしなかった。

「問題は、本人さえ出生の経緯を知らなかった孝子が、何処かで藤原秀郷殿と繋がっていたのではないかということです。孝子がこれまで我ら下総の動きを下野に伝えていたとは俄かに信じ難いが、場合によっては亡き者も疑ってかかる必要もあるのではないかと思います。重ね重ね養父として、申し訳ないことです」

「員経が謝ることではない」

 小次郎がやおら立ち上がった。

「もはやこの弓袋峠などに貼りついている暇などない。

 全軍通達、喫緊に陣を退き、石井に戻ることとする。叔父殿達は捨て置け。下野に未だバイオゾイドが残されているやも知れぬと判った以上、長居は無用だ。早々に営所を固め、策を練ることとする」

 小次郎の指示に従い、三郎、四郎、員経は各部隊に向かい、包囲戦の解除を告げに奔走を始めた。やにわに色めき立つ陣を背後に、小次郎は出会った頃の桔梗の姿を思い浮かべていた。

「桔梗は本当に死んでしまったのか」

 その日も鳶色のシュトルヒが、筑波峰の空に輪を描いて舞っていた。

 

 

「桔梗の前は、死してもなお、生き続けていると思われます」

 藤原三辰が、若干声を潜めた。

「持って回った言い方は要らぬ。手短に説明してくれ、俺にも判るようにな」

 日に日に立ち込める霧が深くなり、日振島はその全体を海上から完全に隠していた。島を洗う波音が響く館の中、2人の海賊は顔を寄せるようにして向かい合っていた。

「バイオゾイドに関して調査する内、思いがけず掴んだ情報です。頭はバイオゾイドを操っているのが人ではなく、妖怪(あやかし)の如き土塊という機械兵であることは御存知か」

「バイオゾイドとやらでさえ未だ目にした事が無いのに、その中に誰が乗っているかなど知ろうはずもあるまい」

 幾分怒気を含んだ声で、純友は答える。

「龍宮は土魂と呼ばれる機械兵士を製造しております。何やら人の魂を入れ、脆弱な人の肉体に頼るのではなく、頑強な土塊に魂を封じ、バイオゾイドを操作させるものです」

「人の魂を取り出し封入する事など出来るのか。その問答、まるであの糞坊主の言い草と同じではないか」

「これは龍宮の連中が編み出した技であり、詳細は判りませぬ。しかし、証拠はあります。それが桔梗の前なのです」

 純友の額には薄らと血管が盛り上がってくる。

「桔梗の前が、どうかしたのか」

「桔梗の前は、1人にして1人ではなかったのです」

 沈黙が途切れるのには、暫しの時間が必要であった。

 

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