緑谷出久は継承した
学校からの帰り道、この超個性社会において珍しい無個性である少年、緑谷出久は自分の夢について考えていた。
『てめぇが何をやれるんだ?無個性のクセによ!』
学校で幼馴染みである爆豪勝己に言われた言葉。彼から言われたことと似たような言葉はいろんな人から何度も言われてきた。さすがにここまでオブラートなしで直球だったことは少ないが。ただ今回は長年ずっと嫌悪だけでなく羨望や憧れも同時に向けていた相手であったために、いつもより心にきた。
(わかってるんだ。無個性がヒーローを目指したところでなにもできやしないってことは)
(どんなに努力したって、強力な個性を持った人間には全くかなわないってことは、僕が一番わかってる)
かつてアングラ系ヒーローのイレイザーヘッドを見たとき、体を鍛えて強力なサポートアイテムを使えば無個性でもヒーローになれるのではないかと考えたことがあった。だが、その後すぐに彼は個性を消す個性を持っていたのだったと気づいた。例え自分がどれだけ徒手格闘の達人になったところで、近づけなければ意味がない。敵が遠距離攻撃型や高機動型の個性持ちなら、それだけで接近するのが難しくなる。そう考えて、体を鍛えることさえやめてしまった。ちなみに裏の世界では無個性でも鍛え抜いた体で戦っている人物がいるのだが、一般市民の彼には知るよしもない。
(今僕がやっていることは、ヒーローのことをノートに書いているだけ……。)
(っ!だめだ。ネガティブ思考になりすぎてる。)
このままでは無駄に暗い気持ちになるだけだ。そう考えた出久は気分転換をすることにした。
(そうだ。あの人のところにいこう)
こうして出久は寄り道をする。数年前に出会った、今の自分にとってオールマイトや母親と同じくらい大好きな人物のもとへ。
奇しくもこの選択が彼の運命の分岐点となった。この寄り道によって出久はヘドロヴィランに襲われるという未来を避け、ヘドロヴィランはオールマイトにあっさりとペットボトルに詰められて警察へ引き渡され、オールマイトは自身の後継者を見つけることなく雄英高校に赴任する。
だがそれでも、世界は出久に力を得る機会を与えた。
暗い気持ちを引きずったまま、出久は目的地にたどり着いた。そこは普通の住宅街に不釣り合いな西洋建築の豪邸。一般庶民なら敷居が高く緊張してしまうであろうその家のチャイムを、出久は慣れた様子で押す。
「はい」
年老いた男性の声。温かさと優しさを感じられるその声に、出久は少し安心する。
「ティモッテオ。僕だよ」
「ああ、出久くんか。よく来たね。鍵は開いているから入っておいで」
出久は家のなかに入り、まっすぐにひとつの部屋を目指す。ドアを開けると白髪で優しげな顔つきをした老人が椅子に座っていた。
「こんにちは。ティモッテオ!」
「こんにちは出久くん。今日はどうしたのかな?」
出久は学校で少し嫌なことがあって気分転換に会いに来た、と正直に言う。ティモッテオはそうか、と微笑みながらお茶とお菓子を出久に出した。出久にとってティモッテオはおじいちゃんのような存在であり、ティモッテオにとっても、出久は孫のような存在である。
出久がはじめてティモッテオに出会ったのは公園で勝己たちにいじめられていた子を庇ってボコボコにされ、誰もいなくなった後に通りかかったティモッテオに傷の手当てをしてもらったときだった。
手当てしてもらった後に優しく話を聞いてもらい、家がそれなりに近かったこともあって出久はすぐに懐いた。
なによりも、自分の夢を否定しなかったはじめての人だった。
『ねえ、ティモッテオ。ぼく、オールマイトみたいにみんなを救える超カッコイイヒーローになりたい。でもぼくは無個性だし、みんな無理だって言うし、お母さんは毎回泣きそうな顔になるんだ…。ぼくは本当に、ヒーローを目指してもいいのかな……』
『出久くんはどうしてヒーローになりたいのかな?』
『どうしてって、えっと、それは…』
当時の彼はうまく言葉にできなかった。ただオールマイトのようになりたいとばかり思っていた。
『なら、聞き方を変えよう。ヒーローになったらどうしたい?人気になりたいのか、お金を稼ぎたいのか、それとも他のことをしたいか』
『みんなを助けたい!』
『君にとってのみんなは誰かな?』
『みんなはみんなだよ。お母さんとか、学校のみんなとか、町のみんなとか……。あ、あとティモッテオもだよ!』
『……そうか。その気持ちを忘れなければ、きっと君は誰かのヒーローになれる。ヒーローを目指すのも諦めるのも、好きにしなさい。君の人生だ』
そのとき出久はとにかく嬉しかった。ティモッテオの言うヒーローが職業としてのそれを指しているわけではないことは幼いながらに分かっていたが、それでも構わなかった。肯定されたことそのものが嬉しかったのだ。
「それでかっちゃんのやつ、雄英受けるなっていってきて…」
「でも、そこまで言われても君はまだヒーローを目指すんだろう?」
「うん。やっぱり僕は困っている人を助けたいから。困っている人がいると、どんなに危険でも助けたいって思っちゃうから」
雄英受験はやめないし、例え落ちてもヒーローの夢は諦めない。結局はこの結論に行き着くんだなと出久はどこかおかしく感じながらも、やっぱりティモッテオと話してよかったと思い、笑みを浮かべる。
反対にティモッテオは厳しい顔でなにかを考え込んでいる。それに気づいた出久が心配そうな顔で見つめていると、やがてティモッテオはなにかを決心したように真剣な顔で出久に話しかけた。
「出久くん。君は雄英に受かるために、ヒーローになるために、命をかける気はあるか?」
「い、命って…。急にどうしたのさ、ティモッテオ」
「順番に話そうか。私の個性は知っているね」
「うん、昔見せてくれたよね。炎の個性だ」
出久は思い出す。たしかティモッテオの個性は炎が特徴的な個性だった。オレンジ色の温かい炎。炎なのに触っても燃えない、ただ温かい炎。しかしティモッテオによれば敵をかき消すことも出来るらしい。ほかにも物を凍らせたり、石化させたりしていた。
「……あの炎は確かに私の個性によってだしたものだが、私の個性の本質はこの体に流れる血」
「血…?」
「私の個性の名前は『
「そ、そんな!?個性を受け継ぐこと自体は珍しくないけれど片方の親の個性だけを受け継ぎ続けるなんて聞いたことがない何より形を変えることなくってことはもう片方の親の個性と混ざるようなことも突然変異することもないってことだし……」
(スイッチをいれてしまったか)
息継ぎもなしにブツブツと呟き続ける出久。ティモッテオはしまったと思いながら話を戻すことにした。
「続きを話していいかな」
「あっ、ご、ごめんティモッテオ」
「本来なら私の一族が自然に生まれ持つ個性だが、ひとつだけ血の繋がりがない相手に与えることが出来る方法がある」
「っ!本当!?」
「本当。だが、この方法は一回きりであり、少しばかり問題がある。この個性を受け継ぐものには試練が与えられるのじゃ」
「試練…」
出久は自然と冷や汗をかく。ティモッテオの表情は今まで見たことがないくらい厳しいものだ。
「試練自体は私の血族であっても与えられ、この力を完全に受け継ぐに値するかどうかを試される。血族であれば、もし失敗しても不完全な力しか得られない代わりに、命は助かる。しかし他人に力を与える場合、試練に失敗してしまえば確実に死ぬ。」
「死っ…」
冗談とは思えないほどの声音に出久は気圧される。
「命に関わることだ。本来なら受け継がせる気はなかった。子のいない私の代で絶えてしまっても構わないとも思っていた。だが、無個性でありながら人を助けたいと願う君を見て、もしかしてこの子ならと思った。受け継ぐかどうかは君次第だ。どうする?」
ティモッテオの話を聞きながら真っ先に浮かんでいたのは恐怖だった。死ぬのが怖い。当然のことだ。
でも…。
でも僕はヒーローになりたい。ただ僕は無個性で、気持ちはあったってヴィランと戦うための力がない。つまりかっちゃんや他の雄英受験者と違ってマイナスからのスタート。スタートラインにすら立っていないんだ。
(こんなに大きな差を覆すなんて奇跡、命ぐらいかけなきゃ釣り合わない!)
「受け継ぐかどうかは君次第だ」
それに、そもそもヒーローになった人はそのときから命がけなんだ。
「どうする?」
(なら無個性の僕は、もっと前から死ぬ気にならなきゃ最高のヒーローになんてなれない!!)
「お願い、ティモッテオ。僕にその個性を受け継がせてください」
顔をあげて言い切ると、ティモッテオは目を見開いて驚いていた。
「即答、か。やはり君ならばと思ってしまうよ」
するとティモッテオは血液の入ったアンプルを持ってくる。
「これはこの力を発現した初代の血だ。いつか血の繋がらない後継者候補が現れたときにと保管されてきた」
そして自分の指を軽く切り、血を数滴入れて僕に渡してきた。
「これを飲めば継承の試練は始まる」
「これを…」
「試練を受けた先達としてひとつ。自分の中の信念と覚悟を見失わないことだ」
僕はティモッテオの言葉を心に刻んで数秒ばかりアンプルを見つめ、意を決して一気に飲んだ。口のなか一杯に血の味が広がって気持ち悪いと感じたすぐあとに、異変は起きた。
「かっ、かはっ、ぐっがぁぁ!?」
苦しい。その一言に尽きる。身体中が燃えるように熱くなって、呼吸が難しくなり倒れる。浮遊感を感じたあとに柔らかさを感じた。ティモッテオがベッドに寝かせてくれたらしい。苦しさが強くなり、視界が霞む。やがて意識が途絶えていって……。
気がつけば、僕は謎の空間に立っていた。目の前に複数の人影が現れる。人影たちの額にはオレンジ色の炎が灯っている。
「ボンゴレの血を継がんとするものよ。この血、この炎に秘められし業を受け入れることが出来るか?」
「受け入れる…。それが試練なのかでも業ってなんだろういやそれ以前にこの人影はなんだもしかしてこの個性は意思を持っていたりして……」
「……お前に見せてやろう。ボンゴレの血に伝わる過去の記憶を」
この個性のことが気になってついブツブツと考え込んでいた僕の額に人影の一人の手が添えられる。
そして僕は、地獄を見た。
人が燃やし尽くされた。人が石になって砕かれた。人が撃ち殺された。人が人が人が人が人が…
「やめろ!まて、殺すなよ!!」
「我らの力は隠されなければならないもの。強力である上に、子を作ればその子供は100%の確率でこの力を受け継ぐ。さらには継承に失敗した不完全な力でも十分な強さを得ることができる。ゆえに秘密を知ったものや一族での裏切り者は消し去らねばならない」
「この業を受け入れるか?」
受け入れればきっと継承できる。僕が誰にも話さなければきっと人を殺さなくてもいい。簡単だ、認めろよ。そうすれば個性が手にはいるんだ。
『自分の中の信念と覚悟を見失わないことだ』
「……できない。僕はこんなこと、認められない!」
「なっ、拒むというのか!?力を求めておきながら!」
「僕は最高のヒーローになりたいんだ。こんなことを認めてちゃ、誰も助けることなんてできないじゃないか!それは僕の目指すヒーローじゃない!こんなことしなくちゃ手に入らない力、僕はいらない!!」
言った。言ってやった。
だけどこれで継承は失敗だろう。ごめんなさいティモッテオ。ごめんなさい母さんっ……。そんな風に心のなかで謝っていると、今まで黙っていたマントを着けた人影が話しかけてきた。
「継承しなければ死ぬのだぞ」
責めるわけでもなく、心配するような、でもどこか嬉しそうな声で確かめてくる。優しく包むような雰囲気。大空みたいだと思った。なんだか自然と敬語になる。
「それでも、構わないです。ヒーローになりたいって未練はあるし、死にたくないけれど、誰かを殺すかもしれない可能性があるなら、その誰かを助けるために僕はここで死ぬ」
「それがお前の覚悟か」
その言葉と同時に、空間ががらりと変わる。鮮やかな青の大空の下、僕の目の前には9人の人物が並んでたっている。そのなかにはティモッテオもいて……。
「ってえええええぇぇ!?ティモッテオ!?」
ティモッテオは僕に薄く微笑むと視線をはずす。すると金髪にオレンジ色の瞳、マントとスーツを身に付けた男性が僕の前にやってきた。
「汝の覚悟、しかと受け取った。伝えるも絶やすも好きにせよ。
「継、承…?僕がもらってもいいんですか!?」
「ああ。
努力を、夢を認めてもらったことが嬉しくて涙が止まらない。それでも確かに返事をした。
「……はいっ。絶対に、なって見せます!」
これが僕の
その後、個性を使うとなんだかクールな感じに性格が変わることが発覚した出久。彼は色々大変な学園生活を送ることになる。
「両手からの死ぬ気の炎を、推進力に!」
「おいクソデクゥ!てめぇ勝手に俺の爆速パクんじゃねぇ!!」
「許可をとればいいのか?」
「そういうこと言ってんじゃねえよ死ね!」
ビリは除籍の個性把握テストから始まり……。
「頑張ろうねデク君!」
「う、うん。よろしく麗日さん」
『それではAコンビ対Dコンビによる屋内対人戦闘訓練スタート!』
(よし、死ぬ気でいくぞ)
(あっ、デクくん炎でた)
「いくぞ麗日」
「急にめっちゃクールや!」
最初の戦闘訓練
「死ぬ気のゼロ地点突破!」
「まじかよ…。脳無が全身凍りつきやがった。聞いてねえぞ先生、対平和の象徴じゃねえのかよっ」
「もう、その氷が溶けることはない」
「もう大丈夫、私が来…ってええええ!!もう終わってる!?」
USJでの襲撃
「緑谷ちゃんって、個性使うと轟ちゃんみたいな性格になるわよね」
「あはは…」
まさかのキャラ被り!出久の明日はどっちだ!?
第二弾は家庭教師ヒットマンREBORN!より死ぬ気の炎と超直感でした。なおハイパーデクくんは轟くんのようにクールになる模様。
若干オリジナルの設定を加えています。そこはどうか見逃していただきたいっ……。
受け継ぐ力って何があったっけと考えたら真っ先に出てきました。
……なんかジャンプ作品ばっかだ。