四月。子供たちが進級、入学して新たな環境へと進んでいく、出会いと別れの時期。
出久もまた自分の通うことになった高校である雄英高校に、少しの不安と大きな期待を感じながら通学しようとしていた。
忘れ物がないかもう一度確認し、ポケットに手をいれて取り出したのは銀色の懐中時計。雄英高校の合格祝いとしてティモッテオから送られたものだ。とても高価なものなのはすぐにわかったので受け取れないと言ったのだが、君のために用意したから受け取れないなら捨てると言われては貰うしかなかった。
時計を眺めながら、もらったときの言葉を思い出す。
『いいか出久君。時間を大切にするんだ。ブラッド・オブ・ボンゴレは縦の時空軸、すなわち時を司り、その力は時に奇跡を起こす。継承した者の思念が血に宿り次代へと受け継がれるのもその一つだ』
『君の人生の全てはその血に刻み込まれていく。その血を次の世代に伝えるかどうかは君次第だが、それに関係なく一分一秒を大切にして、できるだけ後悔なく生きなさい』
ティモッテオの言葉を今一度胸に刻んで時計をポケットにしまうと、出久は心配と喜びをないまぜにしたような表情の母に声をかけた。
「それじゃあ、行ってきます!」
「出久!」
「なあに!?」
「……超かっこいいよ」
目にうっすらと涙を浮かべながら言う母に、出久はとびきりの笑顔で答えて雄英へと向かった。
雄英高校ヒーロー科の一般入試の定員数は36人、そこに推薦入試組が加わりおおよそ20人ずつの2クラスに別れる。出久のクラスはA組だった。
「えーっと、1のAは……あった。ここか」
自分のクラスの教室にたどり着くと、目についたのは大きなドア。出久は少し驚いたが体の大きい異形型個性の持ち主のためのバリアフリーかとあたりをつけて、ドアを開ける前にまず深呼吸をひとつ。
「怖い人たちとクラス違いますように…」
常時イラついている幼馴染みと、入試のときに出久を何度も叱った眼鏡の人物を思い浮かべつつ、入り口のドアを開けた。
「机に足を掛けるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」
「思わねぇよ!てめぇどこ中だ端役が!!」
(ダブルで同じクラス!!)
「ぼ…俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ」
(素直に答えるんだ!?)
ドアを開けた瞬間目に入った2トップに出久は放心ぎみになりながらも内心で逐一ツッコミをいれる。二人はそのまま騒いでいたが、眼鏡をかけた生徒、飯田天哉がドア付近で立ち尽くす出久に気づいて近づいてきた。
「おはよう!俺は「きいてたよ。僕、緑谷出久。よろしく飯田くん」
「緑谷君、君はあの実技試験の構造に気付いていたのだな。俺は気付けなかった。機動力も素晴らしかったし、君を見誤っていたよ。悔しいが君の方が上手だったようだ」
どうやら入試で女子生徒を助けたことをいっているらしい。しかし、救助ポイントの存在など全く気づいていなかった出久としては苦笑いだ。出久がどう言葉を返そうかと悩んでいると聞き覚えのある女子の声が聞こえてきた。
「あっそのもさもさ頭は!地味めの!」
「んな!?」
(すっごいナチュラルにディスられたー!?)
満面の笑みで放たれたまさかの言葉に面食らう出久。本人には悪気がないということはわかるが、やはり心にグサッと来る。なにより地味めのもさもさ頭という言葉で自分のことだとすぐに分かってしまう分いたたまれなさは割り増しだ。
「やっぱり受かったんだ!そりゃそうか。あのパンチと炎すごかったもん。でもやっぱり個性使ってたときと感じ違うね」
「いや、それは、その。……?」
話しかけてきた女子生徒、麗日お茶子と少しの間雑談していた出久は直感的に妙な気配を感じた。場所はおそらく麗日の足元。そのまま出久が下に目を向けるとそこには細長く黄色い何か、具体的には寝袋に入って横たわる 男性がいた。
「ほう。俺に気づいたか」
((なっ。なんかいるー!!))
「だけど静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠けるね。お友だちごっこがしたいならよそへ行け。ここはヒーロー科だぞ」
ぬっと寝袋からでた男は黒ずくめの格好をしていた。言葉からして教師でありプロヒーローのはずだが……。
(こんなくたびれたヒーロー見たことない…)
「担任の相澤消太だ。よろしくね」
自己紹介をかなりあっさり目にすませると相澤は驚く生徒たちをスルーして体操着を取りだし、着替えてグラウンドに出るように指示して去っていく。残された生徒たちは困惑しながらも指示どおりグラウンドへと向かっていった。
「個性把握テスト!?」
僕たちがグラウンドで伝えられたのは個性把握テストをするということだった。入学初日に真っ先にすることがこれというのはさすがに常軌を逸している。
「入学式は?ガイダンスは!?」
「ヒーローになるのにそんな悠長な行事に出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまたしかりだ」
麗日さんの質問をバッサリと切る相澤先生。少し合理的さを求めすぎているような気もするけれど、たしかに先生の言葉は一理ある。僕は最高のヒーローを目指すんだから悠長になんてしていられない。
「お前たちも中学の頃からやってるだろ?個性禁止の体力テスト。国はいまだに画一的な記録を取って平均を作り続けている。合理的じゃない」
まっ、文部科学省の怠慢だなとこぼしながら相澤先生はボールを取り出してかっちゃんを呼び、前に出るように言った。
「爆豪。お前中学のときソフトボール投げ何メートルだった?」
「67メートル」
「じゃあ個性使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい。はよ。思い切りな」
そう言ってボールをかっちゃんに渡すと相澤先生は下がっていった。なるほど、このテストは個性ありきの超人的な記録をとって、個性の内容だけじゃなく制御具合や応用力などを見るためのものなんだ。
「んじゃまあ……死ねぇ!!」
((死ね?))
投げる瞬間かっちゃんの手から爆発が起こった。それによってボールは爆風と共に彼方へ飛んでいく。それにしてもかっちゃんは相変わらずというか…。無機物相手に死ねとかもはや意味がわからない。ただそれでもやっぱりかっちゃんはすごい。705.2mという大記録を出した。
「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
目の前で出された記録に生徒たちが興奮する。個性を思いっきり使うことが出来るということもあってか面白そうと言う人もいたけど、僕は気を抜いていられない。何せみんなと違って僕は個性を手に入れてから10ヶ月くらいしかたってないんだ。
ティモッテオとの猛特訓でかなり使えるようになったとはいえ、あの奥義は未完成な上にその他の部分もまだ向上の余地がある。今の僕の最大限を確かめないと。そう一人で決意を固めていると、先生の雰囲気が変わった。
「面白そう、か…。ヒーローになるための3年間そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?」
そして言い渡されたのは、最下位は見込みなしとして除籍処分にするというものだった。
「生徒の如何は俺たちの自由。ようこそ。これが雄英高校ヒーロー科だ」
なんて理不尽だ。みんなもそう思ったらしく抗議の声が出るけれど無駄だった。そして先生は言う。自然災害や大事故にヴィラン。世の中は理不尽にまみれているのだと。
「これから3年間雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。更に向こうへ…"Plus Ultra"さ。全力で乗り越えてこい」
緩んでいたみんなの心が緊張感で張り詰めた状態になったのがわかる。いたずらに不安を煽って浮き足立たせるのではなく、みんなのやる気を起こさせて覚悟を決めさせた。見た目はあれでもやっぱりこの人はプロなんだってことがよくわかった。
「さて、デモンストレーションは終わり。こっからが本番だ」
そうして個性把握テストは始まった。まず最初は50m走だ。飯田くんの個性はエンジンだそうで、水を得た魚とばかりに駆け抜けていた。記録は3秒04だ。そのほかにも蛙のようにぴょんぴょんと跳び跳ねている人や素で身体能力が高い人、さらにはレーザーで飛んでいく人など、もはや走ってすらいない人もいた。だがそれも許されていたということは文字通りなんでもありなんだろう。だったらあれをやっても問題ない。そろそろ僕の番が近づいてきたし、準備することにしよう。
目を閉じて僕自身の心の奥底にある意思を自覚し、覚悟をきめる。
雄英に入学して初日で除籍なんて冗談じゃない。僕は最高のヒーローになるんだ。
だから…。
「最下位を回避しなければ、死んでも死にきれない!」
ボゥと僕の額にオレンジ色の炎が灯る。思考がクリアになり、体は軽く、心も落ち着いていった。
目の前で起きた出来事を、突如出久の雰囲気が変わったと思ったら額に炎が灯ったというその光景を、勝己は初めは理解できなかった。いや、理解したくなかった。
なぜ、あの出久が静謐な雰囲気をまとっているのか。
なぜ、額に炎が灯っているのか。
なぜ、その瞳には確かな自信が宿っているのか。
(個性だってのか…?そんなはずねぇ!個性の発現は四歳までのはずだ)
出久は無個性だ。無個性のはずだ。いつも自分に何をされても反抗できてなかったではないか。そんな思いが勝己のなかに浮かんでくる。だが個性でなければ目の前の光景に説明がつかない。勝己は認めた。非常に不本意だが確かに認めた。緑谷出久には個性がある。
そして認めてしまったその瞬間、勝己の中のなにかが切れた。
「どーいうことだコラ!ワケを言えデクてめぇ!!」
感情の赴くまま叫びつつ、手加減などせずに個性を発動しながら出久に飛びかかった。出久は勝己の声に振り向くと、迫り来る勝己に鋭い視線を向けてオレンジ色の光を放つ左手で迎え撃とうとする。そして勝己の右腕が振り下ろされようとしたその瞬間…。
唐突に個性の爆発が止み、勝己は相澤の持つ長い布で動きを止められていた。
「なっ。なんで爆発しねぇ……!?」
「個性を消した」
静かに、だが確かな威圧感を放ちながら相澤が言う。その言葉を聞いた出久が相澤のゴーグルに目をとめ、なにかを思い出したかのように口を開いた。
「個性の抹消…あのゴーグル……。っ!抹消ヒーローイレイザーヘッドか」
「ったく…。こんなことで個性使わせんな。俺はドライアイなんだ!」
((個性すごいのにもったいない!))
「なにか因縁があるようだが授業中に暴れるな。二人とも早く位置について始めろ。時間がもったいない」
「チッ」
相澤の言葉に出久は素直に従い、苛ついてはいるが冷静さを取り戻した勝己は舌打ちしながらも従った。
位置についた出久はスターティングブロックを気にせずに立ったままで両手を目の前に持ってくる。そして両手がオレンジ色の光を放った次の瞬間、出久の両手が炎に包まれた。
用意の指示と共に出久は炎の特徴と使い方を脳内でおさらいしていく。
(死ぬ気の炎はそれそのものが熱をもった超圧縮エネルギー。僕の大空の炎は七属性随一の推進力を持つ。そして純度の高い色鮮やかな炎ほど属性の持つ力を強く引き出す。)
出久の炎が鮮やかな赤に近いオレンジ色になった。この炎は高純度かつ高出力だが制御の難しいじゃじゃ馬だ。出久は通常の炎を柔の炎、この炎を剛の炎と呼んでいる。
スタートの合図が鳴った。勝己が走り出しながら両腕を背後に突き出す。出久は軽く前方にジャンプしながら両手を背後に向け、炎を噴出させた。
「両手からの死ぬ気の炎を、推進力に…!」
「爆速…ターbっ!?」
掌から起こす爆発で加速しようとしていた勝己の隣を超スピードで出久が通り抜けた。勝己は予想外の速度に驚きながらも動きを止めることなくゴールする。
その結果、出久が2秒48。勝己が4秒13だった。記録的には勝己の大敗なのだが、勝己が苛ついたのはそこだけではない。
「おいクソデクゥ!てめぇ勝手に俺の爆速パクんじゃねぇ!!」
推進力としているものが炎か爆発の衝撃かの違いはあるものの、はっきり言えば被っていた。出久からすれば真似したつもりは全くないが勝己は納得しないだろう。
どうするか、と考えたところで出久はふと気づく。勝手にということはもしかして…。
「…許可をとればいいのか?」
「そういうこと言ってんじゃねえよ死ね!」
((キャラ違うっていうか、意外と天然…?))
豹変した出久にクラス全員が戸惑う。勝己でさえいつもと違う出久の様子に調子を狂わされたのか、舌打ちしながら離れていった。
出久は額の炎を消すと、ひとつ息を吐く。
「ふぅ。な、なんとかなった。でもやっぱり剛の炎の制御が甘いな。制御しようとしすぎて出力も低かった。でも出力を上げすぎるとブレーキが大変になるし。いやでも最高出力を一瞬だけ出せたら瞬間移動みたいなことも……」
((キャラ違いすぎる。なんなんだこいつ…))
ブツブツと呟きながら考察する出久に若干引き気味の生徒たちをよそに個性把握テストは続く。
次の種目は握力だ。触手を複製できる個性をもつ生徒が540㎏という記録を出していたが、出久にはそんな個性はない。
(今の僕に握力を上乗せする方法はない。でも底上げならできる)
出久は再び額に炎を灯す。超死ぬ気モードの出久は全身のリミッターを外した状態であるため、身体能力が底上げされている。出久はこの状態に耐えるために入試までの10ヶ月間で必死に体を鍛え上げた。
「……いくぞ」
記録は235㎏だった。
第三種目の立ち幅跳びは炎を使って飛んだのだが…。
「なあ、緑谷のやつ…。何処まで行くんだ…?」
「もう見えなくなっちゃったわね…」
赤毛の少年、切島鋭児朗の発言に蛙のような少女の蛙吹梅雨が答える。口には出さなかったが今の状況に対してクラスの全員の心情はひとつであった。
つまりは、どうすんだこれ…というものである。
「あっ、あれ!デク君帰ってきた!」
しばらくした後、飛んで帰ってきた出久に麗日が気づいた。出久はスタート地点まで戻ってくると、着地することなくホバリングし、口を開く。
「………すまない。少し行きすぎた」
((絶対少しじゃない!!))
「緑谷。お前いつまで飛び続けられる?」
「…気力が続く限りいつまでも」
「そうか。それじゃ…」
相沢は出久の答えを聞くと手元の機械を操作し、結果を表示する。記録は∞だった。
今回は『継承した』の続きでした。
個性把握テストは一話で終わらせようと思っていたんですが、結局終わらなかったという…。
今年の夏はなかなか大変で、fgoの夏イベやりながら勉強しつつ、僕アカを14巻分一気に買って小説を書いてました。
水着ガチャ1でジャックを引き、水着ガチャ2でジャックを引きました。
つまりジャックは水着サーヴァントだった……?