緑谷出久は理解した
燃え盛る炎のなかで、無個性の少年緑谷出久は走っていた。
「バカ野郎!やめろ!!」
「止まれ!止まれー!」
辺りからは制止の声。目の前にはヘドロのようなものに飲まれかけながらも必死に抵抗している幼馴染み。
(何で出た!?)
自分でも自分の行動がわからない。ただ、内心で疑問の声をあげながらもその足は止まらなかった。ぐちゃぐちゃな思考のなかでもヘドロのヴィランに対抗する方法を考え、自分のノートにまとめていたヒーローたちの戦闘方法の中から今の自分に出来そうなものを思い付いた。
そしてヴィランに自分のリュックを投げつけて怯ませ、なんとか幼馴染みを救い出そうと掴めるはずもない泥の体を掴もうとする。
「なんでてめぇが!」
(色々理由はあったと思う)
目の前の幼馴染み、爆豪勝己とは色々あった。彼は昔から出久に意地悪だったし、出久が無個性と判明してからは扱いはより酷くなった。それでもなんでもできる彼に出久は憧れたし、彼がヒーローになるために体を鍛えたりしていると知ったときは素直に尊敬して、出久も真似して鍛え始めたりもした。
けれど……。
(だけど、ただその時は)
「君が!助けを求める顔してた!!」
その言葉を聞いた瞬間、勝己の顔が大きく歪んだ。そして同時にヘドロヴィランの声が響く。
「目障りなガキがァ!」
勝己を乗っ取ろうとするヴィランの力が強まり、それに対する勝己の抵抗も強くなる。それによって勝己の個性の制御が甘くなった。
その結果……
今までで最大威力かつ最大規模の爆発が起こり、出久は至近距離でそれを受けた。
一瞬の浮遊感と共に出久を襲うのは熱さと激痛。自身が耐えられる限界を越えたそれを感じて、出久の意識はだんだん薄れていく。
(痛い。体が動かない。感覚もなくなっていって…。僕きっと死ぬんだ。そっか、これが…死か)
そして出久は完全に意識を失った。
次に目を覚ましたとき、出久は病院にいた。自分が生きていることに疑問を持ちながら母に抱き締められ、医師からオールマイトによって事件は解決し、自分は奇跡的に助かったのだと教えられた。
今回の事件についてマスコミはヒーローの質の低下が少年の無謀な行動を起こしたと騒ぎ立てた。
噂の渦中にいるということで、出久は念のため面会謝絶になっており、今は母ぐらいしか見舞いに来ない。しかしそれは出久にとって好都合だった。というのも、怪我の後遺症なのか、視界が少しおかしくて会話に集中できない。
端的に言えば、あらゆる物に線が見える。病室の床や窓際の花瓶からその中に生けられている花まで、ありとあらゆるすべての物に黒い線が見える。もちろん人も例外ではない。
不思議に思った出久は、医師と母に相談した。だが、医師が言うには手術は成功しているし、後遺症などないはずとのこと。ならばこれはなんなのか。医師の仮説はこうだった。
「命の危機に瀕して、個性が目覚めたのではないでしょうか。恐らくは過去視や未来視などと同じ、なにか特別なものを見る個性が」
これには出久も母も喜んだ。幼い頃からの夢であるヒーローへの道が開けたかもしれないからだ。そして医師の立ち会いのもと、実験が行われた。内容は簡単で、要らなくなった椅子の線をなぞってみると言うもの。出久が線をなぞってみると、その線に沿って椅子はバターのように切り落とされた。そのあとは石、鉄とどんどん材質を変えていく。どれも簡単に切れた。
「先生。息子の個性は何なのでしょうか」
「恐らく、切断ではないかと。強力な個性ですよ」
両親も医師も出久を祝福した。強力な個性が目覚めてよかったね、と。
しかし出久は喜べなかった。自分の個性がもっと違う何かであるような気がして。恐ろしくて。
(違う。分からないけどたぶん切断なんかじゃない。もっと危険な何かだ)
出久は自分の能力を判明させるために次の実験を行うことにした。花瓶の中の花にある線をただなぞるのではなく、線が重なっている部分をついてみたのだ。
震える指先で花に触れると、
普通に見れば『枯れた』なのだが、そのとき出久は『死んだ』と思った。
そして出久は理解する。
「こ、れ。この、線は……『死』だ」
そこから出久の日々は地獄になった。出久の目に写るのは死の概念に満ち溢れた世界。頭に浮かぶのはそれに触れば容易く殺せてしまうと言う事実。出久の精神は追い詰められていく。
そして精神が限界を迎えたその日、出久は自分の目を潰した。それでもまだ、線だけは感じ取れた。
「う、あ、あぁ、ああああああぁ!!」
痛みなど気にならなかった。線を、『死』を感じることに耐えられずに暴れまわる。異変に気づいた看護師や医師、そして母が駆けつけ、出久を押さえつけて麻酔を打とうとした。
「全力で押さえろ!思ったより力が強い!」
「出久落ち着いて!出久!!」
「違う!僕が欲しかったのはこんな力じゃない!!いやだ、いやだもう見たくない!!」
なんとか出久を眠らせた医師たちは、その後さらに驚くことになる。数日で目が再生したのだ。出久の精神状態が心配され、隔離しようと言う意見まで出たが、予想に反して出久は落ち着いていた。だが次第に出久が頭痛などの不調を訴えるようになった。
様々な検査が行われ、結果は…。
「正直、普段出久くんがどんなものを見ているのかは分かりません。ですが、脳に負担がかかりすぎている。この調子なら二十歳を迎える前に死んでしまってもおかしくない」
「そんな…。そんなことって…。う、嘘でしょう先生。息子が、出久が成人前に、なんて……」
「残念ですが…」
医師の言葉に出久の母は泣き崩れた。出久はただそれを虚ろな目で見ていた。
こんな状況になって、僕は自分のことを考えることが増えた。相変わらず視界は死で溢れてる。この光景にもう僕は慣れてしまった。きっとどこか壊れたんだろう。たぶん正気ではないと思う。この先どうしようか。このまま死んでしまってもいいかも。少なくとも死は怖くなくなってしまった。
面会謝絶の札はもうとれてるのに、母以外はやってこない。いや、プロヒーローは何人か来たか。全員僕を怒っていったけど。彼らの表情から察するに、僕はヒーローたちの立場を悪くした厄介者らしい。ぼんやり考えていると、ノックが聞こえた。
「はい」
ドアが開けられ、意外な人物が現れた。
「わーたーしーがー、トゥルーフォームで来た!」
「……オールマイト」
やはりファンだからだろうか、なんだか少しだけ気分がよくなった。
「やあ、緑谷少年。調子はどうだい?」
「もう体はずいぶん良くなりました。顔の火傷の痕は、もうとれないみたいですけど」
それを聞いたオールマイトは少し表情を曇らせる。そして、突然土下座した。
「……緑谷少年。本当にすまなかったっ!!」
「えっ。ちょっと、やめてくださいオールマイト!」
さすがに驚いてしまう。まさか土下座されるなんて思わなかった。
「あのとき私がもっと早く決断していれば…。君を救えた。プロはいつだって命がけだと、そう君に言ったのは私だというのに……。」
「顔をあげてください。オールマイトには時間制限があったじゃないですか。愚かなことをしたのは僕なんだ。僕はヒーローたちの立場を悪くしただけだった。ヒーローとはほど遠いことをしたんだ」
「それは違う。緑谷少年、小心者で無個性の君が行動したからこそ私は心動かされた。」
「トップヒーローは学生時から逸話を残している。そして彼らの多くが話をこう結ぶ。考えるより先に体が動いていた、と。あのときの君はまさにそうだったはずだ」
「あの事件の後から、ずっと君に言いたかった。緑谷少年、君はヒーローになれる!!」
自然と涙が流れていた。憧れのヒーローにずっと言って欲しかった言葉を言われたことが嬉しくて。そして、言ってくれたことがもう不可能なことだと分かってしまって、悲しくて。
「君なら私の力を受け継ぐに値する」
そしてオールマイトは自らの個性の秘密を教えてくれた。『ワン・フォー・オール』聖火のごとく引き継がれてきた個性。
「ずっと後継を探していた。そして君にならば託せる。君の体はよく鍛えられているし、今すぐにでも受け継ぐことができるだろう。使いこなすには時間が必要だがな。それで、どうする?」
……答えはもう決まっている。
「ごめんなさい」
「即答で拒否!?わ、訳を聞いても?」
僕は自分の個性のことを話した。僕の見る世界のことやこの個性が常時発動型であること、そして寿命のこと。
「あなたはヒーローになれるっていってくれたけど、無理なんです。この力は手加減が難しいんだ。僕の眼は生きているなら神様だって殺せてしまう、そんな個性だから。それに何より僕には時間がない。短命の僕が受け継いだところで、高校を卒業する頃には次の後継を探さなきゃいけなくなる」
「緑谷少年…」
「ねぇオールマイト。僕は残された時間で何をすれば良いのかな」
「ねぇオールマイト。僕は残された時間で何をすれば良いのかな」
緑谷少年の眼は光を写していなかった。やはり私は間に合わなかった。全てが遅かった。彼を助けに行くという決断も、彼にヒーローになれると伝えるのも、なにもかも。
彼は私を責めなかった。彼の母親もだ。ここに来る前に彼の家にも行ってきたが、彼の母親は私を責めなかった。私に対して怒りを抱いていたはずなのにそれを飲み込んで、それどころか礼をいってきた。
このままではいけない。私はまだ彼を救えていない。それなのに許されてしまうなどあり得ない。私は彼の心を救わなければならない。だって彼は私を応援してきてくれたファンであり、私はNo.1ヒーローで平和の象徴なのだから。
「これまでの君の夢はヒーローだった。だがそれはヒーローになることで終わりではなかったはずだ。ヴィランに立ち向かって行ったあのとき、君の頭にあったのは人を助けることだけだった。そうだろう?」
「人を、助ける」
緑谷少年の目にわずかに光が灯る。緑谷少年と私の心はきっと同じであるはずだ。だって彼は昔の私に似ているのだから。
「職業としてのヒーローにはなれないかもしれない。でも困っている人を助けることはできる」
「僕にできるかな…」
「できるとも!」
笑顔で緑谷少年を見つめる。すると緑谷少年も笑ってくれた。…よかった。彼の立ち直った様子に安心する。
だからだろうか、私は大事なことを伝え損ね、あまつさえ余計な一言を言ってしまった。
「君の個性だって、きっと人助けに使うことができるはずだ!」
ヴィランを倒すことだけが人助けではない。このとき私はそう言うべきだったのだ。
私はこのときのことを、一生後悔することになる。
やっぱりオールマイトは最高のヒーローだ。僕に道を示してくれた。ヒーローになれずとも一人でも多くの人を助ける。それがこの命尽きるまで僕がやらなきゃいけないことだ。
僕の個性はヴィランに手加減するのが難しい。場合によってはヴィランを殺さなきゃ人を救えない。なら、そうしよう。これなら人を助けられる。
人を助けるために人を殺す。ヴィランとほぼ同類の存在になる。以前の僕なら絶対許容できなかったのに今は普通に受け入れることができた。やっぱり僕はどこか狂っているらしい。
だからもう、ここでみんなとはお別れだ。
その日、とある病院から一人の少年が消えた。
世論がヒーローを叩く方向にばかりいったためにそう騒がれることはなかったが、少年の失踪は、少年に関わっていた数人の心に確かに傷跡を残す。
それから少し後、『死神』と呼ばれる存在が現れた。
彼は主にナイフや刀などの刃物を使い、鉄をも切り裂きどんな個性でも永久に抹消する力を持つ。
最も特徴的なのは、市民の救出を最優先し、どんなヴィランでも必ず一度だけ自首を促すことだ。それに応じたものは助かり、拒否したものや自首するふりをして逃げようとしたものは個性を抹消されるか殺されるという。
まるでヒーローのような行動に賛否両論の声があがり、彼が現れた町はヴィランの被害件数が大きく減るため、一部では彼を称えるものまで出始めた。
そして『死神』はやがてヒーローの卵たち、ひいては平和の象徴と関わっていくことになる。
「あっ、ひ、久しぶりかっちゃん。また一段とヴィランっぽくなったね」
「うっせぇよ誰がヴィランだ!!」
((爆豪にビビってるわりに辛辣!?))
「テメェ何で勝手にいなくなりやがった!訳を言えデクゥ!!」
「いや攻撃しながら聞かないでよ!?」
「緑谷少年、君がこうなったのは私のせいだ。だから私が君を止めてみせる!」
「ごめんオールマイト、僕は止まれない。少なくとも最大の悪、オールフォーワンを殺すまでは!」
「オールフォーワンだと!?」
「何で左側を使わないの?君の力だろう?」
「俺、の……」
「言ったよねステイン。僕の周りでヒーローは殺させないって」
「君は…!」
「ハァ…。やはりお前のようなものこそ英雄とされるべきだというのに……」
たぶんつづかない。
第三弾は月姫および空の境界から直死の魔眼です。
雄英側じゃない出久くんを書きたいなと思ったときに浮かんで気づいたらこんなことに。
出久くん短命になった上に若干狂っちゃいました。
……変化つけようとした結果です。
直死の魔眼とかもってたらそりゃまともでいられないですよね。
でもヒーローじゃない出久くんって悪堕ちさせるか狂わせるしかないと思うんですよ!!(ただの言い訳)
嘘です。ごめんなさい私の力不足です。反省してます。