ifの短編集   作:人型(改)

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つづいた…だと…?

なんか長めになっちゃいました。ごめんなさい。


緑谷出久は理解した 2

4月。新入生が入学し、ようやく雄英高校での新生活になれてきはじめた頃にそれは起きた。昼休み、生徒たちや教師陣が午前中の授業を乗り越えて美味しい昼食を食べながら、各々好きなように過ごしているなかで、唐突に警報が鳴り響く。雄英のセキュリティを突破して侵入したものがいたらしい。

 

校門では大勢のマスコミがぞろぞろと侵入してオールマイトを出せと騒いでいる。教師陣はマスコミの対応で手一杯。生徒たちは一人が非常口の標識と化し、その他の者は一斉に避難していた。そんないろんな意味で混沌とした状況のなか、この混乱に乗じて自らの目的を果たした者達がいた。

 

ある者は雄英の今年の新入生たちのカリキュラムという襲撃の計画を組み立てるための材料を手にいれ、またある者はそれを眺めて自身が追っている相手が次にどんな手を打つつもりであるのかを悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やつの手駒の今回の狙いは雄英の新入生のカリキュラムだった。ってことはやっぱりあいつはオールマイトを狙っているわけだから、このスケジュールだとあいつが手を出してきそうなのは……」

 

 

なにやらブツブツと呟きつつ手元の紙を眺めながら、フードを目深に被った少年が町を歩いていた。通りすぎていく人々は若干引いているが、集中している少年は気づかない。そのまま少年は裏路地の方に歩いていく。人気の無い裏路地の一角にある自分の今のアジトにたどり着くと、少年、緑谷出久はフードを取って座り込んだ。

 

 

「はぁ…。まさか憧れの雄英にあんな形で入ることになるなんて思わなかったよ。気配は完璧に消してたけど長居するわけにもいかなかったし…。ああもう!もっとじっくり見学したかった!!」

 

 

出久が病院から抜け出してもう10ヶ月ほどが過ぎ、その10ヶ月で味わった裏の世界は出久を大きく成長させていた。実戦で何度か死にかけながら高いレベルの対人戦闘などの技術を身に付け、色々な方面の人脈を得たことによって生活も少し安定してきた。

 

ひとしきり愚痴った後、出久は今回の敵の動きを脳内でまとめてその先を思考する。

 

今回の敵の動きから見て、次に巻き込まれるのは新入生。それも恐らくA組だろう。潰しやすいヒーローの芽は潰しておきたいだろうし、オールマイトの精神にもダメージを与えられるからほぼ間違いない。あとはヤツの情報から考えて、使えそうな個性の選別をかねている可能性もある。と、そこまで考えてふと思う。新入生のA組ということは……。

 

 

「絶対いるよなぁ……かっちゃん」

 

 

もちろん入試の結果など知らないが、自らの幼馴染みが雄英の上位にいることは出久にとってほぼ確定した事実であり、何の疑いも持っていない。あの幼馴染みはいろんな方面で優秀だったのだから、受かるくらい当然だろうというある種の信頼があった。

 

しかし問題はそこではない。問題は会ってしまったときである。あの幼馴染みは基本的に沸点が低いが、出久に対しては常温より低い。ほぼ常に沸騰している。半年以上も失踪しているのに唐突に顔を出せば、色々とんでもないことになるのではないのか。さらには今の出久の顔にはあの事件での火傷の痕が残っているということもあって、単純に顔を会わせづらい。だが、実のところ出久の心は決まっていた。

 

 

「まぁ、行くしかないかな。一人でも多くの人を助けたいし、かっちゃんが襲われるのはなんか気にくわない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄英高校の演習場のひとつ、ウソの災害や事故ルームにて1年A組の生徒たちは唐突なヴィランの襲撃に驚いていた。イレイザーヘッドこと相澤と13号が警戒し、生徒たちも緊張するなか、敵のリーダー格と思われる身体中に手をつけた男、死柄木弔と黒いモヤでつつまれた男、黒霧が話している。どうやらオールマイトの命を狙っており、いないことに落胆していたらしい。

 

 

「―――子供を殺せば、くるのかな?」

 

 

死柄木のその一言に生徒たちが身構え、状況把握を始めると、相澤が指示を出してヴィランの集団に突っ込んでいった。相澤が戦っている傍らで黒霧が生徒たちのもとに現れる。

 

 

「はじめまして。我々は敵連合。僭越ながらこの度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせていただいたのは平和の象徴オールマイトに息絶えていただきたいと思ってのことでし――ガァッ!?」

 

 

黒霧が話している最中、唐突に何者かが猛スピードで襲いかかり、黒霧が蹴り飛ばされ、中央広場まで落ちていった。先程まで黒霧がいた場所には大きめのナイフを逆手にもち、右足を振り抜いた出久の姿。静まった空気のなか、ふぅっとひとつ息を吐くと出久はいきなりブツブツと話し始めた。

 

 

「しまった。今のは下に落とすように蹴り飛ばすべきじゃなかった。でも手応えあったし、たぶん半日は動けないかな。センサーが止められてて良かった。もし動いてたら侵入するのに時間がかかったし、あのモヤ男への対処が遅れてた。そしたらたぶん別の誰かが襲いかかっていただろうけどたぶん実体があるのは一部分だけだろうから危なかったし…」

 

((いきなり乱入したと思ったらなんかブツブツ言い始めた!?))

 

 

謎の事態に生徒たちは若干思考停止し、一人の少年は聞きなれたブツブツとした独り言にキレた。

 

 

「ブツブツ鬱陶しいんだよデクゥ!」

 

「わっ!ご、ごめんかっちゃん!…えっ?」

 

 

幼馴染みの爆豪勝己の怒声にもはや条件反射で謝った出久はギギギ、と錆び付いたロボットめいた様子で生徒たちの方を見て爆豪を見つけると、明らかに慌てた様子で口を開く。

 

 

「あっ、ひ、久しぶりかっちゃん。また一段とヴィランっぽくなったね」

 

「うっせぇよ誰がヴィランだ!!」

 

((爆豪にビビってるわりに辛辣!?))

 

 

誰しもが思いながら、しかしあえて誰も口にしなかったことをあっさりと、なぜかビビりながら言い放った不審者に心の中で突っ込みをいれる一同。

 

 

「な、なあ爆豪、あいつお前の友達とか?」

 

「んなわけあるか!誰があんなクソナードと」

 

 

切島の質問にまたもやキレる爆豪。予想通りすぎる幼馴染みに苦笑いしながらも、周囲に対して警戒を解かずに出久は答える。

 

 

「あはは…。僕とかっちゃんは幼馴染みなんだ」

 

「へぇ…爆豪の幼馴染みか。なんか大変だな」

 

「アァ!?どういうことだコラ!」

 

(かっちゃんがいじられてる!?さすが雄英…)

 

 

爆豪と対等に話す雄英生に出久が戦慄していると、13号が生徒を守るように立ち、出久に話しかける。

 

 

「待ちなさい。緑髪に蒼く輝く瞳、そして顔にある火傷の痕。君は『死神』ですね?」

 

「死神!?自警団の類いではもっともヒーローらしいヴィランと呼ばれるヴィランではないか。まさか俺たちと同年代だったとは。だが、なぜここに?」

 

「あいつらを潰しに来たんだ。」

 

 

出久は飯田の質問に対して短く答えると、先ほどの様子が嘘であるかのような鋭い目で戦っている相澤の方を見た。状況確認を終えると、真剣な顔で13号たちに話しかける。

 

 

「僕はこのままイレイザーヘッドに加勢するので皆さんは雄英に戻ってください」

 

「あ?何言ってやがる。デクの分際で」

 

 

要するに逃げろと言っている出久の言葉に生徒たちは顔をしかめる。あくまでヴィランの部類に入る出久を信じていいのか、そしてヒーローを目指す自分達がヴィランを前に逃げるなんてことをしていいのか。そんな気持ちに囚われてしまっていたのだ。

 

 

「貴方が絶対に相澤先生を襲わないという確証がありませんわ」

 

「お前一人が加勢してどうにかなるのか?それにお前も犯罪者だ。見逃すわけねぇだろ」

 

 

八百万と轟の言葉に出久は心中で舌を打つ。中央広場では相澤が死柄木の個性によって肘を負傷していた。あの様子ではもはや満足に戦えまいと考え、出久は焦る。このままでは生徒達が加勢しに行きかねない。13号も生徒さえいなければ行っているだろう。取り巻きの連中は生徒たちでも倒せるだろうが、数人強いヴィランが混じっているため殺されてしまいかねない。出久は強行手段に出ることにした。

 

 

(ならもう、早くあいつらを消してしまおう)

 

 

敵連合が消えれば雄英の生徒たちも自分にしか攻撃しに来ないだろう。それに13号が止めるだろうし、たぶんどうにかなるだろうと若干なげやりに考え、出久は生徒たちに背を向けた。

 

 

「僕はヴィラン以外とは戦わないよ。ただ人を助けたいだけだ。それに見逃す見逃さないとかの話じゃない。そもそも前提が間違ってる。これでも死線は何度も越えてきたんだ。君らには捕まえられないよ」

 

 

出久は己の中で戦闘のスイッチをいれる。中央広場では相澤が黒い筋骨隆々の男、改人脳無に殴られていた。もう時間がない。

 

 

「かっちゃん。もしここに残るつもりなら見てて。もう僕は昔の僕じゃない」

 

 

出久は返事を待たずに駆け出すと広場まで飛び降り、ヴィランたちに大声で声をかける。

 

 

「一応言っておくけど、おとなしく投降する意思はある?」

 

「あ?何だこいつ。お前ら、やれ」

 

 

死柄木の指示と共に脳無は戦闘不能になった相澤を放り出し、残りの取り巻きと共に出久に襲いかかった。

 

 

「そうか、人生をやり直すつもりはないんだね。それなら――命の保証はできないな」

 

出久は脳無の拳を避けながら飛びかかってきた取り巻きの一人顎を殴って昏倒させた。13号がブラックホールで相澤を引き寄せて回収していくのを横目にそのまま脳無の攻撃を紙一重で避け続け、順番に一人ずつ取り巻きを気絶させていく。ついに残っているのは脳無と死柄木の他にもう一人だけとなった。

 

 

「はっ!確かに接近戦じゃ強いようだが、これならどうだ!!」

 

 

ヴィランがかざした手から電撃が巨大な槍のような形をして飛んでくる。どうやら電気系の個性の持ち主だったらしい。出久はナイフを逆手から順手に持ちかえて、迫り来る雷の一点を突いた。すると電撃は初めから存在しなかったかのように霞と消える。

 

 

「電撃を無効化しやがった…」

 

「無効化した?違うよ。君の攻撃を殺したんだ」

 

「攻撃を殺しただと?意味わかんねえこと言ってんじゃねえよ」

 

「この世に存在している以上、全てのものには『死』がある。僕はそこにナイフを通しただけだ」

 

 

自分の個性が効かないことでパニックになり電撃を連発するヴィランに多少の憐れみさえ覚えつつも、出久は攻撃を殺しながら走って接近し、蹴りの一撃で意識を刈り取った。

 

 

「さあ、これで残ったのは君とあの脳みそおっぴろげだけだよ」

 

「無傷で攻略、それも一人でとか。すごいねぇ最近の子供は。恥ずかしくなってくるぜ敵連合。だが、こっちにはまだ切り札がある。いけ、脳無」

 

 

再び脳無が襲いかかり、激しいラッシュを繰り出す。オールマイト並みのスピードで仕掛けてくる脳無のラッシュを、出久は見切って回避し渾身の一撃をいれる、が、脳無は無傷。体内にダメージが行っているという様子でもなさそうだった。ここで出久にできた隙を見逃すはずもなく、脳無は強力な一撃を叩き込む。出久は軽々と吹き飛ばされた。

 

 

(っ!とっさにガードしたけど、左腕が折れたか。それにさっきの感覚。まるでクッションを殴っているみたいだった)

 

「脳無はショック吸収と超再生を持ってる。さっきの攻撃が効かなかったのはそのせいだな。そいつはオールマイトの100%にも耐えられるよう改造された超高性能サンドバッグ人間さ」

 

 

死柄木の言葉を聞いた出久はなにも答えない。ただ無言で駆け出した。当然脳無も応戦するが出久は易々と回避し、脳無の右腕にある『死の線』をなぞる。

 

 

「改造、か。確かに君は継ぎはぎだらけだ。『線』や『点』ばっかりだよ。」

 

 

脳無の右腕がだらりと力無く下がった。ナイフを通された部分はパックリと裂け、塞がる様子はない。

 

 

「おい脳無。何で傷が治らない。たかだか腕を切られただけだろ!超再生はどうした!!」

 

「治らなくて当然だよ。腕を切られたんじゃない。腕を殺されたんだ。その腕は今死んだ。死んだものが再生するはずないだろう?」

 

 

右腕が使えなくなっても脳無はまだ出久に攻撃を続けているが、やはり出久に当たることはない。出久は左腕、右足、左足と順々に四肢を殺していき、やがて脳無は動けなくなった。

 

 

「君はもう人には戻れない。人として完全に死んでいるからね。」

 

「だからさ――死が、僕の前に立つな」

 

 

出久は最後に脳無の胴体にある『死の点』を突く。脳無の生命はこれで完全に刈り取られ、その巨体は地面に崩れ落ちた。

 

 

「あとは君だけだ」

 

「嘘だろ。まさか脳無がやられるなんて。おい、黒霧!ゲームオーバーだ!撤退するぞ。起きろ!」

 

「無駄だよ。そのモヤ男はしばらく起きられない」

 

 

情緒不安定なのか、さっきまで余裕たっぷりだった死柄木は首元を激しくかきむしりながら騒ぎ始めた。そして出久が死柄木を仕留めようとしたその時、死柄木の背後に黒い穴が二つ現れて死柄木と黒霧を吸い込んで消えていき、さらに中央広場にオールマイトや13号、生徒たちがやって来た。

 

 

「やあ、緑谷少年!私が来た!!」

 

「相変わらずだね。オールマイト」

 

「ああ、変わらないとも。私はまだ現役さ!」

 

 

犯罪者とヒーローの立場でありながら、二人の距離間は友達のそれだった。奇妙な光景だな、と出久は薄く微笑む。

 

 

「緑谷少年…。なぜこんなことをしている。自分が無力であっても他人のために命を懸けられた、誰よりもヒーローたりえた君がなぜこんなことを……」

 

「人を助けるためだよ。こんな個性だって人助けに役立つはずだって思って、僕は使い方を考えたんだ。なんてことはなかった。殺すことに特化した個性なら、更正の余地のないヴィランを殺すことに使えばいいだけだったんだ」

 

「っ!私の、せいなのか…。私が…あんなことを言ったから……」

 

「オールマイトは悪くないよ。こんな個性をもった僕が悪いんだ。どうせこれのせいで僕はヒーローには成れない。でもこの方法なら、多くの人を助けられ…グッ!」

 

 

話の途中で唐突に出久が頭を押さえて踞る。その姿に皆が困惑するが、オールマイトだけは察しがついた。

 

 

「緑谷少年。やはりこんなことはもう止めて、罪を償うんだ。私も君のお母さんも心配しているし、なによりもうこれ以上は君の寿命が「それでも!!」

 

「それでも。僕にはまだやることがある。だから、ごめんなさいオールマイト」

 

 

謝罪と共に出久は逆手にもったナイフを地面に降り下ろした。

 

ナイフが地面に突き立った瞬間、地面がひび割れ砕け始めた。生徒たちは大慌てで避難し、オールマイトもその手助けを余儀なくされる。

 

そして地割れが止んで土煙が収まったとき、そこにもう出久の姿はなかった。

 

 




今回は『理解した』の続きです。

なんか長くなっちゃったし、最後ちょっと駆け足になっちゃいました。

この出久君は裏の世界でかつて君臨していたAFOの存在を知り、仕留めるために追っているという設定にしました。

雄英に潜入できたのはまあ、気配遮断くらいは身に付けてもらおうかなと。ほ、ほら、元ネタの片方は某ソシャゲでアサシンになってるし。もう片方も暗殺系だし。いけますって(震え声)
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