ifの短編集   作:人型(改)

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まだ生きてます。たぶん、きっと?
※なおこれから遅寝早起きの日々が続く予定。


緑谷出久は理解した 3

―雄英高校 廊下―

 

「……っ!」

 

食いしばった歯をギリリと鳴らしながら、爆豪は廊下を歩いていた。元々短気な爆豪だが、ここまで苛ついたことはこれまでの彼の人生でもあまりない。そんな彼の背後では触らぬ神に祟り無しとばかりにクラスメイト達がひっそりと続いていた。

 

(気に入らねぇ…)

 

ほんの少し前にUSJで起こった出来事とそこで再開した幼馴染みを思い出す爆豪の内心は、ただただ気に入らないの一言のみだった。

 

とにかく全てが気に入らない。ヴィランに好き勝手されたのに自分はなにもできなかったこと、突然消えた幼馴染みがなんか少し偉そうになって出てきたこと、そしてなにより…変わった幼馴染みの姿を見て、ほんの少しでも勝てないと思ってしまった自分が気に入らなかった。

 

『変わった自分の姿をよく見ていろ』と言ってヴィラン達のもとに駆け出していった時の出久の姿は、爆豪の脳裏に強く焼き付いている。

 

蒼のなかに赤が混じって輝いていた鮮やかな瞳も印象的ではあったが、爆豪が何よりも驚いたのは出久の体捌きだった。爆豪が知っているかつての出久は体を鍛えてはいたものの、動きは一般人のそれでしかないという程度のもの。だが先の出久の動きは全く違う、合理的で洗練されたものだった。激しく動いていても決してブレずに安定している体の軸。重心の移動は滑らかで、突きや蹴りの一つ一つにはしっかりと体全体が使われており、力を余すところなく相手に伝えていた。

 

 

(あれは一朝一夕で身に付くもんじゃねぇ。それを失踪してからの10ヶ月程度で身に付けてきやがった…。よりにもよってあいつが…あのデクが……)

 

『これでも死線は何度も越えてきたんだ。君らには捕まえられないよ』

 

『もう僕は昔の僕じゃない』

 

「っ!!」

 

 

リフレインする出久の言葉。ずっと見下して笑い続けてきた『道端の石ころ』からの言葉は、他の誰の言葉よりも強く爆豪の『真ん中』に残っていた。

 

 

「お、おい爆豪、少し落ち着けよ。なにもできなかったのが悔しいのはわかるけどよ…」

 

「そうだぜ。一応無事に帰ってこれたんだしs「うるせぇよ!おれはすこぶる冷静だ!!」

 

((絶対嘘だ……))

 

 

今にも噛み砕きそうなほどに歯軋りする姿を見かねて、恐る恐る話しかけた切島と上鳴に対する爆豪の返答に一同の心がひとつになった。

 

 

「おい、爆豪」

 

「あ?なんだよ」

 

 

唐突に、今まで黙っていた轟が爆豪に近よって話しかけた。もしかしてクールかつスタイリッシュに爆豪を宥めてくれるのかと周囲が期待したのもつかの間…。

 

 

「あの緑谷って奴と幼馴染みなんだろ?昔はどんな奴だった?寿命がどうってなんのことだ?」

 

「あ゛ぁ゛?」

 

 

この状況で最大の燃料を投げ込んだ。

 

 

「ととととっどろきオメエこの状況で何てこと言いやがるんだよ!」

 

「なんか悪いこといったか…?」

 

「天然か!?天然なのか!?」

 

「空気読めなさすぎて、むしろ少し面白いかも」

 

 

峰田の突っ込みの意味が心底分からないという顔の轟に一同が苦笑いになり、張り詰めていた空気が弛緩するなか、爆豪は轟の言葉が気になっていた。

 

 

(寿命、そうだ寿命だ。オールマイトが言っていた。なんのことだ?あんときの傷は火傷だけ。死にかけたにしてもこの先の寿命には関係ねぇはずだ)

 

 

ヘドロヴィランの事件を思い出すが、出久の寿命に関わることについて爆豪に心当たりはない。

 

 

(考えてもわかんねぇなら…聞きにいくか)

 

(爆豪、あいつどこに…?)

 

 

難しい顔をしながら一人先を歩き、教室とは別の方向を行く爆豪。その姿を轟だけはしっかりと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無事にUSJから帰還したオールマイトは、今回の件について話し合うため、刑事の塚内と共に応接室に向かっていた。マッスルフォームの活動時間も限界に差し掛かってきているため自然と早足になる。

 

 

「大丈夫かい?オールマイト。少し焦っているように見えるが」

 

「あぁ、大丈夫だよ塚内くん。ただ活動限界が近いからね」

 

 

大丈夫というわりにはオールマイトの笑みにいつもの力強さがない。刻一刻と迫る限界時間だけでなく出久との再会、そして何より出久から告げられた言葉が、オールマイトから活力を奪っていた。それほどまでに出久の変貌はオールマイトにとって衝撃的だったのだ。

 

そのまま無言になってしまった二人が歩いていると、背後から少なくとも聞いた人間の十人中八人は感じ取れるほどの苛立ちを込めた足音が聞こえてきた。

 

 

「オールマイト!!」

 

「ば、爆豪少年!?それに轟少年も!?」

 

「あ?おい…なんでテメェがついてきてやがんだ半分野郎!!」

 

「オールマイト。あの緑谷って奴とはどういう関係なんですか。あいつのあの強さはいったい…」

 

「無視してんじゃねぇ!!」

 

「こ、こら君たち」

 

 

気づかない内についてきた轟にキレる爆豪と、それを素でスルーする我関せずな轟。唐突に現れた二人の存在やその発言に困惑しながらも、活動限界時間が迫り焦るオールマイト。さらにはとりあえずこの場をどうにかしようと爆豪たちを注意しようとする塚内というように混沌とした現場で、ついにオールマイトの限界が訪れた。

 

 

「ま、不味い。もう限界が…」

 

「「っ!?」」

 

 

突如身体中から煙を発しながら萎んでいくオールマイトを前に、信じられないものを見る目で驚く爆豪と轟。

 

 

(あのときと少し似ているな)

 

 

力が抜けていく感触と共に、正義の象徴はかつてちっぽけで気弱な少年に秘密がばれてしまったときのことを思いだし、懐かしさを感じながら苦笑した。

 

 

「オールマイト…なのか?」

 

 

信じられないというような轟の声。爆豪は言葉をなくしている。

 

 

「ああ、そうだとも。この貧弱な姿が、今の私さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―雄英高校 応接室―

 

とりあえず応接室まで移動した三人は校長の根津を含めて話をすることになり、まずはオールマイトの事情をかいつまんで話した。塚内は別室で待機している。

 

 

「オールマイトがそんなことになってたとはな…」

 

「んなことは今はどうでもいい。俺らが言わなきゃいいだけの話だ。それよりデクのことだ!」

 

「緑谷少年については轟少年にも分かりやすいように説明しよう。10ヶ月ほど前とあるヴィランが大暴れしたのを覚えているかな?」

 

「ヘドロの個性をもったヴィランですよね。被害者の片方は確か…」

 

 

隣の爆豪を見る轟。爆豪は苦虫を千匹ほど噛み潰した顔で舌打ちした。

 

 

「ああ、爆豪少年だ。そして被害者のもう一人、爆豪少年を助けるために我が身を省みず飛び出したのが緑谷出久少年だ」

 

「でもその行動は、ヒーロー側としては決して褒められたものじゃあないね」

 

「ええ、仰る通りです校長先生。彼もそれをよく理解していたようでしてね。病室を訪れたときの彼の顔はとても見ていられませんでしたよ。目の前に私がいるはずなのに、彼の瞳はなにも写していなかった」

 

 

オールマイトの悲壮な表情に皆何も言えないでいる。特に爆豪の衝撃は大きい。彼にはそんな姿の出久がまるで想像できなかった。なぜなら爆豪が知っている出久はどんなことがあっても諦めない人間だったからだ。

 

個性がなくても、いじめられても、どこか俯瞰した目で背中を追いかけてくるような奴。自分に対して腰の低い対応をしていながらも決して媚びることはなく、むしろ歯向かうことすらあった異質な存在。何を考えているのか全くわからない部分は正直気持ち悪くてたまらなかったが、そこだけは認めていた。

 

だからこそ納得できない。自分のやったことが誰かを助けるどころかむしろ迷惑になった程度や、無力さを思い知らされた程度では、落ち込みはすれど絶望して立ち止まることなどないはずだ。少なくとも人を容赦なく殺したり、母親を泣かせるようなことはしないし、そんなことをする度胸はない。爆豪のなかでは、出久は『そういう奴』だった。

 

 

「それだけじゃねぇだろ。それだけであのデクに人殺しができるだけの度胸がつくとは思えねぇ」

 

「さすが幼馴染みだね。爆豪少年の言うとおり、緑谷少年を苦しめていたのはその事だけじゃない。続きを話そうか。次は彼の個性についてだ」

 

「それだ。デクの野郎は無個性だった。だがさっきあいつがやったことは個性なしじゃ説明がつかねぇ。あいつ…!!」

 

 

再びギリリと歯軋りし始める爆豪。言外に自分を騙していたのかと言っている爆豪を見て、慌てながらも決まりの悪い様子でオールマイトが否定した。

 

 

「爆豪少年。別に緑谷少年は君を騙していた訳じゃないんだ。彼の個性は彼自身の、その…臨死体験によって発現したんだよ」

 

「臨死体験ってことは…」

 

 

ヘドロヴィランの事件で出久が重傷を負った原因を思い出した轟は、爆豪の様子をうかがう。爆豪の表情が固くなった。

 

 

「…彼の個性は死を視ることができる個性だ」

 

「死を…視る……?」

 

 

まるで意味がわからないといった様子の轟にオールマイトは無理もないと苦笑する。

 

 

「分からなくて当然だ。何せ、直接説明された私も未だに理解できていないからね。ただ彼が言うには、この世に存在するありとあらゆるものの『終わり』というか、『寿命』のようなものを認識できるらしい」

 

「なんか理解できそうで、いまいちピンと来ない話ですね」

 

「『見る』類いの個性は大体皆そうだよ。視覚にしろ聴覚にしろ、どれだけ説明されたって、実際に彼らの感じている世界は彼ら以外にはわからない。理解はできても共感はできないんだ。そしてさらに言えば、そういう類いの個性持ちは得てして見えてしまうが故の苦しみを抱えているものさ。その子もそうだったんだろう?」

 

「緑谷少年の個性はオンオフができない。死という概念を24時間常に感じ、意識し続けるんだ。彼の感じているストレスは計り知れない。実際に彼は個性が発現した数日後に発狂し、自らの両目を潰している。もっとも、翌日には再生したらしいがね」

 

「目を…!?」

 

「っ……!」

 

 

両目を潰したという事実のインパクトがよほど大きかったらしく、翌日に再生したという異常が頭に入ってこないほどに驚く轟。爆豪に至っては頭の中が真っ白になってしまったのか、最早声すらあげられずに血の気の引いた顔で口を開けたまま硬直していた。

 

そんな爆豪の姿を痛ましげに見るオールマイトは、もう話を切り上げてしまおうかと考える。このまま話を続けるのなら、彼はさらに残酷な事実を爆豪に突きつけなければならない。そうなってしまえば爆豪はこれから永遠に罪の意識を感じながら生きていくだろう。

 

出久の味わった苦しみも、出久がとった行動も、その原因はヘドロヴィランでありオールマイトだ。少なくともオールマイトはそう考えている。だが同時に、爆豪本人はそうは思わないであろうとも考えていた。

 

爆豪は他人に対していろんな意味で厳しく容赦がないが、己にもまた高いハードルを課す性格である。他人が何を言おうと―例え出久本人に悪くないと言われたとしても―納得しないだろう。罪を抱えて生きていく教え子の姿など見たくはない。故にオールマイトは席をたとうとした。

 

 

「緑谷少年についてはこんなところだ。僕は塚内くんを呼んでこよう。さあ、君たちももう教室に戻りなさい。相澤くんに連絡したはとはいえさすがに「……待てよオールマイト。話は終わってねぇ。デクの奴にはまだ何かあるんだろ?」

 

 

言葉を遮って、しかしいつものように声を荒らげることなく話の続きを求める爆豪の顔は決意に満ちている。その顔を見たオールマイトははぐらかすための言葉をつい飲み込んでしまった。もう爆豪自身が薄々気づいてしまっていると悟ったからだ。轟も真剣な表情でオールマイトを見つめている。ここで引く気などないという気持ちが表れていた。

 

 

「…緑谷少年の個性はとても強力なものだ」

 

 

長い沈黙の後に、オールマイトは観念したかのように話始めた。その表情は重い。

 

 

「彼の目は死を捉え、彼の脳は死を理解する。『見えるのなら触れる。理解できるのなら干渉できてしまう』緑谷少年が私に言った言葉だ。彼はその言葉の通りに死に触れ、いつか来るそれを強制的に現在に発現させてしまえる。言ってしまえば、彼は指で触れるだけでも殺せてしまうんだよ」

 

「じゃあ死神…緑谷がナイフ一刺しで地面を割ったのは」

 

「地面を『殺した』んだろうね。まさに崩壊といっていい割れ方だった。ただの地割れだけだとまずああはならない」

 

「だけどそれほどの個性なら何かしらデメリットがあるんだろう?死なんてものを感じとるんだ。脳への負担は尋常じゃないはずさ」

 

 

根津の言葉を聞いたオールマイトの雰囲気がよりいっそう重くなる。その顔に滲むのは悲哀、悔恨、そして罪悪感。

 

 

「…流石にご慧眼ですね。校長先生。仰る通りです。結論から言ってしまえば、緑谷少年の余命は長くて3年ほどらしい。20まで生きられる可能性はほぼないそうだ」

 

 

オールマイトの言葉の後に沈黙が訪れる。根津も轟も爆豪も声も出ないといった様子だ。三人の返答を待たずして、オールマイトは話を続ける。

 

 

「ここから先は私の罪の告白になるが…。あの事件のしばらく後、メディアへの対応などを済ませた後に、私は緑谷少年の病室を訪れた。彼は悩んでいたよ。彼の夢はヒーローだった。だが彼は誰にでもあるはずの力(こせい)を手に入れたと同時に、誰にでもあるはずの時間(みらい)を取り上げられた!」

 

 

オールマイトが感じているのはやるせない現実に対する行き場のない怒り。それはこの場にいる全員が気づいていた。子供の前ですらそれを隠し通せないほどに、平和の象徴の心は傷ついていた。

 

 

「助けたいと、助けなければと思ったんだ。だから彼が元々持っていた『人を助けたい』という気持ちを思い出させた。彼は少しだけ元気になってくれたよ。そこで私は安心してしまった。少しは償えたと」

 

 

オールマイトの拳が固く握りしめられる。

 

 

「そしてそれどころか…ッ!私は…『これで少しは許されてもよいのではないか』などと!」

 

「そんなことを無意識にでも考えていたからだろうな。『その個性も人助けに使えるはずだ』などと言ってしまった。緑谷少年がどれ程ヒーローに執着していたかを…どれ程自己を省みないかを知っておきながら…私は……ッ!」

 

 

荒くなった息を落ち着けようとしながらも、未だにオールマイトの拳は握りしめられており、血が流れてすらいる。

 

 

「…すまない、取り乱してしまった。ともかく、私が緑谷少年について語れるのはここまでだ。二人とも、今度こそ教室に戻るといい」

 

 

オールマイトは立ち上がる。まだ完全に落ち着いてはいない。ともかく今は少しでもクールダウンする時間が欲しかった。オールマイトが部屋を後にしようとドアを開けたそのとき。

 

 

「オールマイト」

 

「爆豪…?」

 

「爆豪少年?」

 

 

立ち去ろうとするオールマイトを爆豪が呼び止めた。

 

 

「俺だ」

 

「……?」

 

「デクの奴を終わらせちまったのは、俺だ」

 

「っ!爆豪少年…君はやはり……」

 

 

一言いい終えると同時に、爆豪は返事も聞かずにオールマイトの隣を通りすぎていく。

 

 

(そうだ、俺だ。俺がアイツのすべてを奪った(終わらせた)。だからまた俺が…アイツのことを止める(終わらせる)

 

 

10ヶ月前の間に合わなかったあの数秒が、二人目の少年の進む道を大きく変えた瞬間だった。




機種変してから多機能フォームがうまく作動しなくなるという悲劇。

るびがふれない。

誰にでもあるはずの力≪こせい≫

誰にでもあるはずの時間≪みらい≫

アイツのすべてを奪った≪終わらせた≫

アイツのことを止める≪終わらせる≫

こんな感じの予定でした。……あれ?別にルビなくてもよくない?

※4/12 ルビの振り方を教えもらったぞ!ジョジョーーッ!!
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