ifの短編集   作:人型(改)

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緑谷出久は呼び出した
緑谷出久は呼び出した


不思議な夢を見た。

 

 

真っ暗闇のなかに立っていて、辺りには誰もいない。

 

 

ただ目の前にはドアがあったから、不安になった僕はとりあえずドアを開けてなかに入ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは青い部屋だった。落ち着いた雰囲気の広い空間の中央にぽつりとテーブルと椅子があって、やたらと鼻が長い老人が座っている。その横にはソファに座っている学生服を着た容姿端麗な高校生くらいの少女。ⅩⅩⅡに見えるようにつけたヘアピンと、腕に巻いた腕章が特徴的だ。

 

 

「ほう、これはまた変わった場所からお越しの方だ。まさか繋がるはずのない世界からいらっしゃるとは」

 

 

驚いた顔で僕の方を見ながら老人が話しかける。言葉の意味がわからない僕はただ困惑するだけだ。すると老人の言葉に少女が反応した。

 

 

「これ、もしかしなくても私のせいだよね」

 

「いえ、貴女のせいではございません。貴女を助けようと異世界にまで手がかりを求めながら後始末をおざなりにしたエリザベスのせいでございます」

 

「うん、やっぱり私のせいだね」

 

 

少女の言葉に老人が黙り込んでしまう。この状況はなんだろう。この青い部屋も彼らの言葉もよくわからない。しかもなんだか僕の存在は忘れられてしまっているし。とりあえず彼らに話しかけてみよう。

 

 

「あ、あの…」

 

「おお、これは失礼いたしました。私の名はイゴール。ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場「私は汐見琴音。昔ここに招かれた人間だよ。まあ、君の先輩になるかもしれない人かな。今は訳あってここでお世話になってるの。君は?」

 

(すごく食い気味な自己紹介だ!?)

 

 

老人の言葉を遮ってこちらに近づき自己紹介をし始める少女に、つい内心で突っ込みを入れてしまった。老人は笑顔のままだが心なしか不満げに見える。そして少女は距離が近い。

 

 

「緑谷出久、です」

(お、女の人としゃべっちゃってる!!)

 

「よろしくね!出久くん」

 

「は、はい!」

(なんか輝いて見える!笑顔ヤベェェ!!)

 

 

汐見さんのまわりが輝いて見える。正直このレベルの美少女は見たことがない。汐見さんの笑顔にどぎまぎしていると、イゴールさんが唐突に話を始めた。

 

 

「本来ここは何らかの形で『契約』をなされたお客人のみがおとずれることのできる部屋。であれば、ここにいらっしゃった貴方にも『契約』をしていただきましょう」

 

「契約って…。僕は何かしなくちゃいけなくなるんですか?」

 

 

お金払えとかだったらどうしよう。今月はオールマイトのグッズの新作が発売されるし結構厳しいから無理なんだけど。

 

 

「ご心配めさるな。なに、そう難しいことではございません。貴方は内容を確認した上でこれにサインするだけでよろしい」

 

 

イゴールさんはテーブルに紙とペンを置いた。紙にはこう書かれている。

 

 

『我、自ら選び取りし、いかなる結末も受け入れん』

 

 

「貴方が支払うべき対価はただ一つ。ご自身の選択に相応の責任を持ち、その先の結末を受け入れて頂くことです」

 

 

正直、この契約を結ぶ必要はない。はっきりいって色々怪しいし。でも、ここで契約すれば何かが変わるような気がした。ヒーローを目指しながらもなにも出来ずに過ごしている日々が、確かに変わる気がしたんだ。だから僕は少し震える手でその契約書にサインした。

 

 

「では、これで貴方は我が『ベルベットルーム』のお客人だ。これをお持ちなさい」

 

 

イゴールさんから渡されたのは青い鍵。汐見さんが言うにはベルベットルームの使用者である証であり、契約者の鍵というらしい。

 

 

「それにしても貴方は変わった運命をお持ちのようだ」

 

「変わった運命?」

 

 

なんのことなんだろう。まるで占い師みたいな言葉に余計に混乱してしまう。

 

 

「左様。貴方はご自身の持つ力に気づいておられますかな?」

 

「いや、力もなにも僕は無個性で……」

 

 

そう、僕は無個性だ。他のみんなが何かしらの能力をもって生まれるなかで、僕は何の能力も持たずに生まれてきた。だからイゴールさんの言う力に心当たりなんてない。

 

 

「お気づきでないのならば今はまだそれでよろしい。貴方と我々は本来出会うはずのない者どうしであり、貴方の持つ力もまた、目覚めるはずがなかった力。しかしこうして我々が出会ったことで、貴方はこの先定められていたものとは異なる未来を行くことになるでしょう」

 

 

結局言っていることがよくわからない。僕になにかしらの力があるって言いたいんだろうか。すごく思わせ振りなことを言っているけどいまいち伝わってこないし、どうすればいいんだろう。

 

そしてさっきからずっとあの長い鼻が気になって仕方ない。あれはイゴールさんの個性だったりするんだろうか。鼻が伸縮自在とか。

 

そんな僕の気持ちが伝わったのか、汐見さんが笑い声を抑えようとしながらソファの上で悶えている。でもぶっちゃけ抑えきれてないんだけど…。

 

 

「プ…ククッ……出久くん、ずっと鼻見てっ…ヤバッ…あの歌…思い出し……長い鼻っ…クククッ」

 

 

すごく楽しそうだ。あと歌ってなんだろうすごく気になる。そしてイゴールさんに目を向けると……。

 

 

(笑顔だけど目が笑ってない!?怒ってる!絶対怒ってるよ!!)

 

「ご、ごめんなさいイゴールさん。その、えっと…」

 

「いえいえ、お気になさらず。詳しくは後々、いずれまたお越しになられたときにご説明致しましょう。それではまた会うときまで、ごきげんよう」

 

「えっ、ちょっまっ…」

 

 

そんな一方的な言葉で急に話を完結させてくるイゴールさん。

 

 

(やっぱ怒ってますよね!?)

 

 

そんなこんなで僕は追い出されるように夢から覚めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校が終わった帰り道。片手に少し焦げたノートを持ちながら、僕は道端の石ころを蹴る。今日はさんざんだった。妙な夢を見るし、先生は志望校のことばらしちゃうし、かっちゃんは僕のノート投げ捨てるし。

 

そういえばあの夢はなんだったんだろう。起きたときには契約者の鍵もちゃんとあったから、少なくともただの夢で済む話ではない。イゴールさんの言っていた目覚めるはずのなかった力っていうのも気になる。

 

 

「って、考えたところで分かるわけないか」

 

 

とりあえず今は目先のことを考えよう。僕は無個性だけど、何とかして雄英に受からなきゃ。ヒーローになるためにこんなところで躓く訳にはいかない。そう思ったときだった。

 

 

「……?」

 

 

背後から変な気配がするような気がして振り向くと、そこにはヘドロのような何かが。よく見てみれば目みたいな部分があるし、それ以前に自立移動してる。ということは生物、恐らくは個性を使っている誰かなんだろうけど、ここで個性を使う必要なんてないし、明らかに悪そうな表情で徐々にこっちに近づいてきてるから…。

 

 

「ヴィラン!?」

 

 

叫んだ瞬間、ヴィランはこっちに飛びかかってきた。反射的に後ろに飛んで回避し、そのまま全力で逃げる。

 

 

(大通りまで逃げよう!そこまで行けばきっと誰かがヒーローを呼んでくれる!!)

 

 

しかし相手は思ったより素早かった。

 

 

「大丈夫。ちょっと君の体を乗っとるだけさ。逃げないでよ」

 

(えっ、ちょっはやっ!?)

 

 

ヴィランは僕に巻き付くと、締め上げながら僕の体を乗っ取ろうとしてくる。呼吸が出来ずに息が苦しくなり、徐々に体の自由がきかなくなってきた。自分の体が異物に侵食されていく気持ち悪い感覚が苦しさと共にやって来る。

 

 

(死ぬ…死ぬのか?僕、こんなところで死…ぬ……?)

 

 

ドクン、と鼓動が聞こえる。僕の心臓の鼓動。自分の中から何かが弾け出しそうな感覚と共に鼓動は徐々に速まっていく。そして僕は極限状態のなか、叫べと言わんばかりに頭のなかに強烈に浮かび上がる言葉を口にした。

 

 

「ペ」

 

 

自らを蝕もうとする『死』を強く意識する。

 

 

「ル」

 

 

苦しさも不快感も、今このときはすべて忘れて。

 

 

「ソ」

 

 

自分の内より出ようとする何かの声にただ耳を傾け。

 

 

「ナ」

 

 

心の中の引き金を、引いた。

 

 

パリン、とガラスが割れるような音と共に僕の足元から蒼い光が湧き出し、光の粒子が舞い踊る。ヴィランは僕の体から弾かれるようにして吹き飛んだ。

 

それと同時に感じる、自分の内側から何かが外に出て行く感覚。後ろを振り向くと、僕の背後には太刀と長弓を持ち、古代日本の白い服を着た黒髪の美丈夫が浮かんでいた。

 

 

《我は汝…汝は我…我は汝の心の海より出し者……拓き治めるもの『オオクニヌシ』なり!》

 

 

オオクニヌシの力強い声に背中を押されるようにヴィランを見る。なんだか体が熱い。力がみなぎってくる上に妙に冷静だ。さっきまで息苦しかったこともあり、僕は学ランのボタンを上から順に外していく。ふぅ、これで楽になった。

 

 

「な、なんだよ。それ。お前の個性か?は、ははっ!こりゃいいや。お前を乗っとればヤツに報復できる!!」

 

 

気圧されながらも強気な言葉を吐くヴィランを見ていると自分の中に自信が生まれた。いける。今の僕ならきっとあいつを倒せる!

 

 

「その体、よこせェ!」

 

 

叫びながら襲いかかってくるヴィランを避けつつオオクニヌシに攻撃させる。頭のなかに『スラッシュ』という言葉が浮かんだ。するとオオクニヌシは太刀を抜き放ちヴィランを切り伏せる、が、しかし切られたヴィランは何事もなかったかのようにくっつき、再び僕を襲ってきた。

 

 

「やっぱりあの体じゃ斬撃は効かない…。それなら!」

 

 

僕の頭に『ジオ』という言葉が思い浮かぶ。どうやら雷を出す魔法らしい。魔法なんてものが使えるのかと驚きながらも僕はジオを放つ。

 

 

「グッ、ガアアァ!」

 

「通った!」

 

 

不純物だらけだったのか、液体の体であるヴィランに電撃はよく通った。それでもまだ動けるようで、じりじりとこちらに迫ってきている。あれに触れられるのは良くない。恐らく触れられた所から絡み付いて乗っ取りにくるだろう。だからまずは……。

 

 

「動きを止める。オオクニヌシ!」

 

 

僕の声と共にオオクニヌシが長弓を構え、光の矢を二回連続で放つ。二連牙という技だ。放たれた矢はヴィランを貫通して消えていき、ヴィランはダメージこそないが、二連牙の衝撃で体が飛び散ったために動けなくなった。ヴィランが元に戻ろうと一塊になったところを見計らって僕はジオを放つ。耐え切れかったらしいヴィランは気絶して動かなくなった。

 

 

「終わった、のか…?」

 

 

相手を倒したことを実感した瞬間にどっと疲れが押し寄せてきた。肉体的なものじゃなくて精神的なものだ。意識も朦朧としてきたし、オオクニヌシも蒼い光を放ちながら徐々に消えていっている。

 

 

(だめだ、もう、限…界……)

 

 

オオクニヌシが消えると同時に僕は意識を手放した。

 

 

「大丈夫か少年!しっかりするんだ!!」

 

 

気絶する寸前、聞き覚えのある誰かの声が聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がついたときに視界に入ってきたのは青色。状況が飲み込めない僕は辺りを見回す。

 

 

「ここは…」

 

 

見覚えのある青い部屋。椅子に座りテーブルに両肘をつく長鼻の老人と、高級品であろう上質なソファに腰かける美少女。どうやら僕はまたベルベットルームにやって来たらしい。

 

 

「ようこそ。我がベルベットルームへ」

 

「やっほー!出久くん」

 

(挨拶の落差が激しい!?)

 

 

二人にどうもと返しながら、記憶を振り返る。たしか僕はヴィランに襲われて、撃退した後に意識を失ったはずだ。なんで僕はベルベットルームにいるんだろう。僕の体はどうなってるのかな。考え込んでいると、イゴールさんが話しかけてきた。

 

 

「ご心配めさるな。現実の貴方は眠りについていらっしゃる…。私が夢の中にて、お呼び立てしたのでございます。再びお目にかかりましたな」

 

 

どうやら現実での僕は気絶したままらしい。イゴールさんはお呼び立てしたと言っていた。呼ばれた理由は恐らく、さっきの戦いで目覚めた力のことだろう。たぶん知っているだろうし聞いてみようか。

 

 

「あの力ってなんだったんですか」

 

「あれはね、出久くん。『ペルソナ』っていうの」

 

「ペルソナ…?」

 

 

ペルソナ…。聞いたことのない言葉だ。

 

 

「貴方が手に入れられた『ペルソナ』…。それは、貴方が貴方の外側の事物と向き合った時、表に現れ出る『人格』。様々な困難に立ち向かうための人格の鎧」

 

 

つまりペルソナは僕自身ということだろうか。

 

 

「じゃあ、このペルソナがイゴールさんの言っていた僕の持つ力、僕の個性なんですか。」

 

「そうとも言えますがそうでないとも言える。貴方の持つ真に他者とは異なる力、それは『ワイルド』と呼ばれる力。空っぽにすぎないが、無限の可能性も宿る。いわば数字のゼロのようなもの」

 

「ワイルド…。この力があれば、僕もヒーローに……」

 

 

ヒーローになれるかもしれない。でもいまいち自信がでなかった。今までずっとなれないと言われ続けたからかもしれない。悩んでいるのが表情に出ていたのか、汐見さんが僕の手を握って語りかけてきた。

 

 

「実はね、私もワイルドなんだよ」

 

「汐見さんも!?」

 

「琴音でいいよ」

 

 

まさか汐見さんもワイルドだったなんて思わなかった。

 

 

「私の友達が言ってたんだけど、ワイルドの力は『何にでもなれるけど、何にも属さない力』なんだって」

 

「なんにでも…?」

 

「うん、だから出久くんは何にだってなれるよ!もちろん、ヒーローにだってなれる!!」

 

「そっか…僕は…ヒーローになれるんだっ……!」

 

 

ようやく誰かに認めてもらえた。そんな気持ちで胸がいっぱいになって、自分でも気づかないうちに涙が流れていた。やっぱりあのとき契約書にサインしておいてよかったと思う。僕の本来の運命がどんなものだったかは知らないけど、それでもこの道が今の僕の歩むべき旅路なんだ。

 

ただ、泣いてしまったことで汐…こ、琴音さんによしよしと慰められてしまったのは恥ずかしい秘密だ。

 

 

 

 

 

こうして交わることのない二つの世界の住人たちが交わり、出久の旅路は変化する。

 

 

「そいつのような偽物はヒーローを歪ませるガンでしかない。誰かが正さねばならないんだ。だから殺す」

 

 

「もっと血出てたほうがもっとカッコイイよ出久くん!」

 

 

「やっぱり鬱陶しいんだよお前!オールマイトみたいな目をしやがって…。救われなかった人間などいないかのようにすごしやがって!!」

 

 

「ペルソナァァァ!!」

 

 

「ペルソナ能力は心を御する力。他者と関わり、絆を育むことで、貴方だけの『コミュニティ』を築かれるが宜しい。」

 

「か、かっちゃん」

 

「あ?なんだよデク」

 

「その…。一緒に帰らない?」

 

「なんでてめぇなんかと一緒に帰んなきゃならねえんだよクソナード!!」

 

(どうやって絆を育めっていうのさ!?)

 

 

「む、あそこにいるのは他校の女子か?見たことのない制服だが…」

 

「あっ!おーい、出久くーん!!」

 

「琴音さん!?」

 

「緑谷ァ!あんな超絶美人の姉ちゃんと知り合いなんてオイラ聞いてねぇぞ!!」

 

 




第四弾はペルソナシリーズよりペルソナ能力とワイルドの力でした。

実は私はペルソナ3が大好きでして。
ペルソナ3ダンシング・ムーンナイトのニュースを見て狂喜乱舞しつつ勢いで書き始めたは良いものの、色々悩んでこんな形に。完成度低いかも。

出久くんの初期ペルソナをオオクニヌシにしたのは、オオクニヌシが日本最古のいじめられっ子だったからという単純な理由でした。あまり考えてません。もちろんペルソナシリーズに元々いる方のオオクニヌシではないですし、アルカナは愚者です。

ペルソナ3の主人公については、ぶっちゃけこんな感じでも助かってたらいいなという願望だったり。最初はキタローにするつもりだったんですけど、ハム子の方が出久くんの反応が良さそうなのでそっちにしました。

今までの話のなかで、もし続きが読んでみたいと思うものがありましたら、活動報告の方へコメントください。
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