臆病者の英雄 作:練乳
今回はお試しで書きました。
楽しんで読んでもらえたら幸いです。
こんにちは! 突然ですが僕は転生者です。
いや、気付いたら暇潰しだとか神様に言われて転生されました。
えぇっと特典っは何て言ってましたっけ?
あ、やばい今考えてる暇がない!
「ヒエェエェェーーッ!?」
え、と分かりやすく説明しますと、今現在僕は弓持った女性に命狙われているんです。
いや、だって転生して気付いた時には森の中にいるし、さ迷ってたら水浴中の女性を発見そして問答無用で矢を射られて現在に至る訳ですよ!
しかも顔の横とかを矢が通過するしあれ絶対に殺す気だって! 嫌だ死にたくない! 死にたくなーーい!
少女は焦っていた。
彼女は狩人として育った、故に森は彼女の独壇場なのだ。
しかし不覚にも水浴中の裸を見た男、初めの時からそうだが一向に仕留められ無い、そして何よりも……
「何ては速い奴だ!」
そう、少女と彼の距離が一向に縮まらない、辛うじて地の利がこちらにあるにも関わらず、ギリギリ距離を保っているのがやっとな位だ。
狩人である少女は同時に自身の走力には自信があった。
つまり、少女にとって目の前の男は実力でも走力でも勝っているという事に他ならない。
そしてその事実は少女のプライドが許さず同時に認められない事実であった。
故に少女は理解したのだ。少しでも気を抜けば逃げられると。
故に少女は焦っていたのだ。自分が追いつけない相手の存在に⋯⋯
(矢は残り3本⋯⋯どうする!?)
気付けば3本となった矢、これを使い切れば少女にとって距離を縮められない以上は打つ手が無くなるも同義。
その事実が更に少女を焦らせる。
だが、そんな時少女に天啓が舞い降りる。
そう、今逃走中の男は地の利を知らないからか、我武者羅で向こう見ずに方向や地理を考えずに走っている。
故にこの先には絶壁の崖がそびえ立っている事も奴は気付いていない。
だが矢を少しでも射らなければ、奴に感ずかれる可能性がある。
(崖までに後一~二本と言った所か)
その場合最後の一本で確実に仕留めないと行けない訳だが、今はそうも言ってられない状況だ。
そして少女は次なる一本を引き狙いを定めると再び矢を放つ。
「ひゃあっ!?」
情けなくも声を上げる目の前の男、そんな情けない姿に少女は気が抜けそうになるがすぐさま気を引き締める。
ここまで自分を手こずらせたのだ。ここは殺すでなく生け捕りにして持ち帰るのも手だろう。
そしたら早速でも余興に試してみるのも良いかもしれない。
「フフッ⋯⋯今日の私はどうかしているな」
少女はそう笑みを浮かべ呟く、そしていよいよ二本目を射り遂に崖まで追い詰める。
少女は勝利を確信し弓を引いたその時だった。
「な!?」
少女は目の前の光景に目を見開いた。
何故なら目の前の少年は崖を水平に走り出したのだ。
少女にとって予想外の事態に一瞬戸惑うが、すぐさま崖を駆け抜ける男に狙いを定める。
最後の一本、これを外せば次は無い、その為に少女はその一本に全身前例をかけて集中し研ぎ澄ます。
「アルテミス様⋯⋯どうか私に力を⋯⋯」
そしてついに少女の手から矢が解き放たれた。
男のもとへと向かう矢だが、男の踵ギリギリの位置に当たる。
そして男はそのまま崖を登り切ってしまった。
「⋯⋯」
少女は仕留められ無かった男の過ぎ去った方向をただ見詰める。
完敗だった。少女にとって狩人としても走力でも、敗けたのだともはや認めるしか無かった。
そして敗けた事の悔しさ、手を伸ばし届かなかった事えの虚しさ、そして何よりも自らが信仰する神に祈り射った渾身の一矢、その矢を外した自身を何よりも恥じた。
少女は自身の手から血がにじみ出る殆どに強く握りしめる。
そして、同時に決意する。
己が生涯をかけてでも、必ずや自身から逃げ延びたあの男を手に入れてみせると……