ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター 作:ヘッズ
「今日一日中はとても雨が強いドスエ」テレビの液晶にはオイラン天気予報キャスターが扇情的な衣装で胸の谷間をアピールしている姿が映し出されていた。ネオサイタマのテレビ番組の天気予報はよく外れる。本来であれば高精度な天気予報が出来るのだがそれはしない。
精度を高める為に予算を使うのではなく、オイラン天気予報キャスターや演出に金を使ったほうが視聴率が上がる。視聴率至上主義のネオサイタマでは真実の情報など二の次なのだ。だが今日は珍しく予報が当たった。
「フェ〜フェ〜、コン…コン」辺りには電子シャクハチの音色とシシオドシの音がストリートを行きかう人の耳触りにならず、かつ耳に届きリラクゼーション効果をもたらす絶妙な音量で流れている。そして「品質が良い」「良心的」「買う、買わないはお客様の自由」購買欲を過剰に煽らない奥ゆかしい手作りのぼりが店先に並んでいる。
ここではネオサイタマの至る所にあるネオン看板の使用は禁止され、DIYのぼりしか使用することが出来ない。そしてストリートを行きかう人々は激しい雨が降っているはずなのに誰もレインコートや傘を差していなかった。上を見上げてみると全体がドーム状に覆われていた。ここはコバン・ストリート、カチグミのみが出入りできるストリートである。
そんなストリートに明らかに相応しくない者がいた。行きかう人々はそれを見ると顔を顰めあからさまに距離をとる。それは二匹のバイオ猫だった。一匹は黒猫でもう一匹は白猫だった。足取りは覚束なく精気がまるで感じられない。体全体も薄汚れており、白ネコは汚れのせいで白色が灰色にみえていた。
二匹はとあるカチグミ一家に飼われていた飼いバイオ猫だった。何の不自由もなく暮らしていたが父親のケジメ案件で家計は苦しくなり二匹のバイオ猫は捨てられた。家計に余裕があれば問題ないが苦しくなればバイオ猫など何も生み出せず金を消費するだけの不良債権である。
それからは苦しい日々だった。食料は自分達で見つけなければならず、カチグミの家で飼われていた猫達は餌を取る術もまるで知らない、そして食料を見つけられたとしても大概が残飯であり、高級猫缶を与えられていた猫達には耐えがたいものだった。それでも二匹は懸命に生き抜いた。
だが愛玩用に改良され野生の本能と闘争心を失ったバイオ猫にとって重金属酸性雨が降るネオサイタマをサバイブすることはあまりにも厳しかった。雨に打たれバイオドブネズミに襲われ餌を取れない日々が続いた。みるみるうちに衰弱していき死ぬ寸前だった。
そして二匹は最後の力を振り絞りコバン・ストリートに向かっていた。以前の家族とここに来た思い出が蘇る。マタタビの匂いが充満した空間でのブラッシング、麻薬めいたマグロのサシミの美味さ。それらの良い思い出がソーマトリコロールめいてニューロンに浮かんでいた。だがコバン・ストリートは本来なら薄汚れた野良猫が入れる場所ではない。
しかしセキュリティ機械の故障、警備員の馴れからくる怠慢、それらが重なり合って偶然にもエントリーできたのだ。「ニャーン……」白ネコが力無く鳴き声をあげて、黒ネコも返事をするように鳴き声をあげる。二匹は家族との幸せな記憶を思い出しながら寄り添う様にして道端に倒れた。
「……さん、ニャンコが……るよ、死……の?」「まだ……生……る……いだ、でも……死ぬ……」「かわいそ……よ。ニャンコ……病院に……行って!」「わかった、ちゃんと……世話……だぞ」
―――――
『お前達の合体ヒサツ技は見切った!』『何だと!』TVではアニメーションが流れている、サムライファイブ。一昔前にネオサイタマでヒットした映画五人のサムライを幼児少年向けのアニメーションに大胆にアレンジしたものだ。それをコケシカットの8歳児の少年、カツタロウはソファに座りながら食い入るように見つめていた。
『見切ったといったはずだ!』『グワーッ!』敵の攻撃を受けた赤、黄、緑、青、ピンク色のパワードスーツを装着したサムライファイブ達が吹き飛ばされる。「ガンバレー!サムライファイブ!」カツタロウは懸命にサムライファイブに向って声援を送る。『これで終わりだ、ハイクを詠め、サムライファイブ』悪役がサムライファイブにカイシャクせんと近づいてくる!ここまでか!?
『グワーッ!』だが弾丸めいた速さで悪役に激突する物体が一つ。サムライファイブのサポートアニマル、ドサンコ犬のポチだ!『グルルルー!』『イヌ風情が邪魔だ』ポチが纏わりつき妨害する。『今だ、サムライカラテボール!』五人のカラテエネルギーを合わせてぶつける合体技!ポチが隙を作っている間に技を出したのだ。
『グワーッ!ヤ・ラ・レ・ターッ!』悪役はサムライカラテボールが当たり空の遥か彼方まで飛んで行った。「ヤッター!」その様子を見てカツタロウも喝采を上げる。『ありがとうポチ、これで平和は守られた』『ワン!』リーダーのサムライレッドがポチの頭を撫でエンディングに入る。
「今日もサムライファイブが勝ったよ。タマ」太ももの上に乗っている白ネコの顎を撫でながら笑顔で話しかける。タマは気持ちよさそうに鳴き声をあげる。「サムライファイブは強いね、クロ」同じように太ももの上に乗っかっている黒ネコの顎を撫でる。クロもタマと同じように鳴き声をあげた。
「でもポチがいなかったら危なかったね。タマとクロも僕やパパやママが危なかったら助けてくれる?」カツタロウは不安げに問いかける。「「ニャン」」二匹は同時に鳴き声を出した。「ありがとうタマ、クロ!」カツタロウは二匹を嬉しそうに抱きかかえた。
「カツタロウ、御飯よ」するとカツタロウの母親の声が台所から聞こえてくる。「御飯だ。タマ、クロ行くよ」カツタロウはTVを消しイスから立ち上がり食卓に向かい、タマとクロも従う様に食卓に向かった。
「やったカレーだ!」カツタロウは食卓にあるカレーを見て喜びの声をあげる。「カツタロウは本当にカレーが好きだな」「うん!」喜ぶカツタロウの笑顔に父親も顔を綻ばせた。「いただきます!」「待ちなさいカツタロウ、タマとクロのご飯がまだよ」「あっ」喜びのあまり忘れていた。カツタロウはスプーンを置き台所に向う。
タマとクロのそれぞれの名前が書かれているトレーを取り出しキャットフード「ネコマッシグラ」を入れる。今日はカレーだし少しだけ豪勢にしよう。カツタロウはいつもよりキャットフードを多く入れ、学校で見つけ保管していたマタタビを混ぜた。マタタビはネオサイタマのネコにとって麻薬めいた多幸感を味わえるもので植物である。
「ごめんねタマ、クロ。ごはんだよ」小走りで戻り二匹の前にキャットフードを置く。マタタビが入っていることに気付いたのか興奮気味になっていた。二匹の猫はカツタロウとその両親を見つめる。自分達はなんて良い人達に拾われたのだろう。拾われた幸運と今の生活の豊かさを噛みしめた。
コバンストリートで行き倒れた白ネコと黒ネコ、それがタマとクロだった。その時訪れていたカツタロウは二匹を見つけ親に病院に連れていくように頼む。二人で寄り添うように倒れている姿はひどく訴えかけるものがあった。可哀想だ、助けてあげたいと思った。しかし親はそれを拒否した。
このストリートに薄汚れた野良猫がいるもの不自然だ、何より触ってカツタロウに病原菌が移るのは避けたかった。しかしカツタロウは何度も頼みこみ、ついに親は熱意に折れた。二匹の猫は病院に運ばれ一命を取り留める。そしてカツタロウはネコを飼いたいと頼み、しっかりと面倒をみることを条件に家で飼うことを認められる。
白ネコはタマ、黒猫はクロと名付けられた。カツタロウは甲斐甲斐しく世話をしていつも遊んでくれる。抜けているところがあり不注意で怪我をし、また餌に危険物を混入して体調を悪くすることが有った。だが憎むことは無い、カツタロウのほうが年は上だが、二匹にとっては愛すべき弟のようだった。
また両親もカツタロウと同じように愛情を持って接してくれた。母親は日当たりが良い場所でブラッシングをしてくれてそれはとても気持ち良かった。父親も二匹のためにオーガニックマグロの刺身を買って分け与えてくれた。タマとクロは幸せだった
「おいしい?」カレーを嬉しそうに頬張りながら足元にいるクロとタマに問いかける。「「ニャン!」」マタタビの成分で軽くトリップしている二匹はいつもより大きく鳴く。それを見て嬉しそうに笑いそれにつられて両親も笑う。和やかな雰囲気で囲まれる食卓はネオサイタマにいる家族が求める理想の幸せの形のようだった。
「「ニャバババー!!」」突如タマとクロが仰向けに倒れ込み身体を痙攣させた!「タマ!クロ!」カツタロウはその異変に気付き声をかける、突然の変化とその異様な状態に戸惑いと恐怖を感じたのか泣いていた。「パパ!ママ!タマとクロが!」泣きながら助けを乞い、両親はタマとクロの元に駆け寄る。
食当たりか?原因はわからないがマズイ状況であることは素人でも分かる。「母さん、獣医に連絡してくれ」「はい」母親は声を震わせながら返事し電話に向かう。「タマとクロは大丈夫だよね!」「ああ、大丈夫だ」父親は泣きじゃくるカツタロウをあやすように頭に手を添える。そして容体を心配そうに見下ろす。
「「ニャーッ!」」「グワーッ!」突如タマとクロがバネ仕掛けめいて跳ね上がる!その高さは父親の頭を通過し天井に足裏をつけていた。なんたるバイオ飼い猫には到底なし得ないバイオノミめいた跳躍力!父親は目を抑えて倒れ込み抑えた手から血が溢れ床を汚す。
「「ニャーッ!」」タマとクロは天井を踏みつけ急降下!その爪で首元を斬りつけた!「アバーッ!」頸動脈を斬られ首からスプリンクラーめいて血が噴き出す!即死!その血は食卓とカツタロウを赤く染め上げた。カツタロウはできのわるいオイランロイドめいて無反応だった。あまりの出来事にニューロンが反応しないのだ。
「アイエエエ!」母親は叫び声を聞き後ろを振り返るとそこにはアビ・インフェルノ・ジゴクめいた光景が飛び込んできた。「「ニャーッ!」」その声に反応するようにタマとクロは襲い掛かる!「アバーッ!」母親も首元を斬られスプリンクラーめいて血を噴き出す!即死!
タマとクロは血の雨を浴びながら口角を上げ妖しげに笑い、爪を舐めた。その様子は江戸時代に存在した辻斬りと呼ばれる人斬りフリークスのようだ!コワイ!そして妖しげな笑みをカツタロウに向けた。「「ニャーッ!」」「アイエエエー!」カツタロウは叫び失禁!タマとクロはカツタロウに跳びかかった。
――――――
タマが無造作にリモコンを踏むとテレビの電源がつく。『これで正解すればポイント5倍点!』『ちょっと聞いてないですよ!』司会者の突然の提案に回答者が抗議する。その様子に合わせるように観衆の笑い声が聞こえてくる。和やかなアトモスフィアだ。だがタマとクロがいる場所は三人が血まみれで倒れているツキジめいた光景だった。
タマとクロはお互い示し合わせるように向き合い、襲い掛かった。「「ニャーッ!」」お互いの体に爪をたて血が噴き出る!ナムサン!恩人であるカツタロウ一家を襲うのに飽き足らず兄弟同然に過ごした者をその手にかけようというのか!
お互い殺意を漲らせ自分が傷つくのを厭わず相手を攻撃する。そして決着はすぐについた。「ニャバーッ!」タマの一撃が急所に入りクロは断末魔をあげて絶命した。だがタマも致命傷を負いクロにもたれ掛るように倒れた。