ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター 作:ヘッズ
対面にいるスノーホワイトの表情はいつもと違っていた。普段見せる優しげだが少しぎこちない笑顔ではなく、無表情で冷たい目で見つめていた。ドラゴンナイトはその普段と違う様子に戸惑うことなく戦闘態勢をとり、ジリジリと間合いを詰めていく。スノーホワイトも構えて迎撃体勢をとる。
距離をタタミ5枚分、3枚分、1枚分で足を止めた。両者の間にキリングオーラが立ちこみ膨れ上がる。感受性が高いモータルがいれば重篤NRSにかかってしまうだろう。「イヤーッ!」先に動いたのはドラゴンナイト!死神の鎌めいたバックスピンキックを頭部に繰り出す!スノーホワイトは数インチ単位の最小限の動きで攻撃を回避。
バックスピンキックという大技を繰り出したことでドラゴンナイトの隙は大きい、アブナイ!だが防御のために回転を止めるどころか、さらに加速させる。ドラゴンナイトの体は一回転してそのままボディーブローを打ち込んだ!初撃を避けられると見越しての二段構えの攻撃!大技を避けた直後のコンマ何秒の安堵感の隙を突くセットアップ攻撃!ワザマエ!
回転を利用していることで威力は二倍だ!「グワーッ!」攻撃を受けて吹き飛んだのは…ドラゴンナイト!何が起こったのか?この場にニンジャ動体視力の持ち主がいれば詳細を把握できただろう。スノーホワイトはバックスピンキックを避け、ドラゴンナイトの回転力が落ちないのを見てどのような攻撃が来るかすぐに察知できていた。
ボディーブローが来る前に半歩ほど下がり肘にオーガニックトーフ職人めいた繊細な手つきで手を添え力を加える。ドラゴンナイトの攻撃は外されさらにスノーホワイトが力を加えたことでさらに180°余分に回転、がら空きになった背中に攻撃を加えたのだ。タツジン!何たる流麗かつ繊細なカラテか!
ドラゴンナイトからすれば攻撃が当たったと確信した瞬間攻撃が回避され、次の瞬間自分の攻撃が背中に当たったと錯覚してしまうだろう。タタミ5枚分ほど吹き飛ばされたドラゴンナイトは咳き込みながら立ち上がりスノーホワイトのほうを向く、痛打を受けたがその目から戦意は衰えていない。
「リュウジン・ジツ!イヤーッ!」シャウトとともにドラゴンナイトの体が異形に変化していく。その体はドラゴンが人の形をしたようだ。リュウジン・ジツ。ドラゴンナイトに宿ったソウル、タツ・ニンジャがドラゴンの身体能力に人間の繊細なカラテが合わされば最強であるという考えから作り上げたヘンゲヨーカイ・ジツの亜種である。
ジツを使うことで攻撃力や耐久力は飛躍的に上がる。「イヤーッ!」弾丸めいたスピードでタタミ五枚分の距離を詰めスノーホワイトに突きを繰り出す。スノーホワイトはそれを回避、髪の毛に突きが掠り独特の臭いが鼻腔を刺激する。カミヒトエ!
だがこれはギリギリで回避した結果ではない。スノーホワイトは回避し次の動作に早く移れるよう必要最小限の動きで回避した結果なのである。「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ドラゴンナイトは一心不乱に攻撃を繰り出す。その攻撃はジツを使う前と比べて手数スピード威力のすべてが上であり相手に与える重圧もまた格段に上がる。
だがスノーホワイトは顔色ひとつ変えず攻撃を回避し捌いていく。この様子をかつて平安時代に活躍した哲学剣士ミヤモト・マサシが眺めていたら、自身のコトワザ「テヌギーに牛車が突撃した」と呟いていただろう。
スノーホワイトの不動のアトモスフィアにドラゴンナイトの中で焦りが募る。「イヤーッ!」のど元への突きを放つ。暗黒ジュージツの技の一つジゴグヅキだ!スノーホワイトは左半身の体勢をとり突きをかわし巻きつくように腕を脇に抱えドラゴンナイトの体勢を崩した。ジュドーの禁止技の一つ脇固めである!
「グワーッ!」ドラゴンナイトの肩はスノーホワイトの全体重が乗っかった状態で地面に激突した。モータルなら肩の骨が粉々に砕けているが、耐久力が増したドラゴンナイトの肩は無事である。だがスノーホワイトの攻撃はこれで終わらない、空かさず肩の稼動域を超えた方向に曲げる。
「グワーッ!」肩関節破壊!さらにアームロックに移行し力をこめる!「グワーッ!」肘関節破壊!スノーホワイトが腕を開放するとドラゴンナイトは肘を手でさすりながら蹲る。スノーホワイトは無表情なままドラゴンナイトの無防備な頚椎を全力で踏み抜いた。
◆◆◆
「初代オーバーロードは誰ですか、ツルドメ=サン?」「はい、エド・トクガワです」「正解です」 カワベ・ソウタ、ドラゴンナイトは生徒の声で現実に引き戻される。周りを見渡すと自分と同じ学ランに身を包んだ生徒が教師の授業を真面目に聞いていた。ドラゴンナイトはスノーホワイトと現実で戦っていたのではない。
戦っていたのはニューロンで作り上げたスノーホワイトであり、そのスノーホワイトと自分のイメージが戦っていたのだ。これはニューロン内でカラテシュミレーションをするイマジナリー・カラテと呼ばれるトレーニングである。結果はベイビーサブミッションと言える内容だった。ドラゴンナイトはイマジナリースノーホワイトに踏み砕かれた頚椎を無意識に触れていた。
バー「アラバマ」で負った怪我が全快し、夜のニンジャパトロールが終えた直後のことだった。「私と組み手してくれない?」スノーホワイトからの突然の提案だった。ドラゴンナイトは家で怪我を癒している時から考えていた。ニンジャの暴威からモータルを守れるように強くなる為にはどうすればよいか?
肉体の鍛錬、技を磨く。それも大事であるが一番重要なのは実戦経験である。実戦でもヤンクのグループや武装したヤクザとの戦いではない、ニンジャとの戦いである。ニンジャのヘッドハンターと戦いニンジャとヤクザではプロ野球選手とリトルリーグ以上の差を感じた。ニンジャの戦いに慣れることが必要不可欠である。
真っ先に相手として思い浮かんだのがスノーホワイトだった。だがスノーホワイトは仲間であり女の子だ。トレーニングといえどカラテをみまうのは気が引ける、しかしトレーニングパートナーとして適任なのはスノーホワイトしかいない。誘うべきか否か、怪我が治りスノーホワイトとパトロールする当日まで答えが出ずにいた。
そんな矢先にスノーホワイトからの提案である。これはブッタが一緒にトレーニングしろと言っていると解釈しその提案を受け入れた。最初はスノーホワイトに怪我しないようにと恐る恐る手加減しながら組み手をしていた。だが速攻でイポンをとられ続け、スノーホワイトから本気でこいと言われ手加減をやめた。
ドラゴンナイトは全力でカラテをしたが実力差は想像以上に開いており毎日イポンをとられ続けた。男性は女性よりカラテが強い。親や先生からの教育と実体験から作り上げられた価値観だったがスノーホワイトとの組み手でそれは壊された。同年代で好意を抱いている相手にブザマをさらし続け、オナーは大いに傷ついた。そして自分にとっての禁じ手を打ってしまう。
リュウジン・ジツ。かつてはその過剰な力ゆえに禁じ手とし、ヘッドハンターを殺めたジツ。本来なら好意を向けている相手に向けるべきではない。だがドラゴンナイトの心はオナーの回復を求め気がつけばジツを使っていた。その過ちに気づいたのは気絶からさめた後だった。ドラゴンナイトはスノーホワイトに気絶させられたのだ。
リュウジン・ジツを使ってもスノーホワイトに勝てなかった。ドラゴンナイトのプライドは粉々に砕けた。ドラゴンナイトは組み手が終わり家に帰るがそのときの記憶に無く、家に帰っても放心状態でただ虚空を見つめ続けていた。何の言い訳のしようがない敗北。悔しすぎて惨め過ぎて涙すら出ない。
ジュニアハイスクールに入学して練習でおこなった上級生とのフリーバッティングで完膚なきまでに打ち込まれたことがあったが、悔しさはその比ではない。ドラゴンナイトは何時間もただ虚空を見つめ続けた。そして突如天啓めいた答えがニューロン内に浮かんだ。スノーホワイトはニンジャニュービーではない。
きっと数々のニンジャと戦ったベテランニンジャに違いない。訳あってニュービーと嘘をついていたのだ。まさしくリトルリーグの打者がプロ野球選手に挑んだようなものだ。勝ち目がないのは当然である。
ドラゴンナイトのニューロンはスノーホワイトが自分と同じニュービーだとすればあまりにも才能の差が有りすぎる。その事実を認めたくない故にニューロンの防衛機構が無意識にこの結論を導き出した。そして結果的にはその答えはニンジャではないということ以外は正解だった。
今の自分はプロ野球選手と練習しているようなものだ。プロの技術を体験できなおかつ色々と教えてもらえる。強くなるには最高の環境ではないか!答えにたどり着いたドラゴンナイトの体に活力が沸き、先ほどまでのジョルリめいた無気力さが吹き飛んでいた。そしてこの答えにたどり着いたことで無意識に考えていた疑問に対する答えを導き出した。
ドラゴンナイトは強くなると誓ったがある疑問があった。悪意あるニンジャを倒しモータルを守れるようになるにはどれほど強くなればいいのだろう?ドラゴンナイトはニンジャのなかでの強さがわからなかった。自分の立ち位置もわからず、強さの上限もわからない。漠然とした理想があるが明確な目標がない状態だった。そんな矢先にスノーホワイトのカラテを体験する。
その圧倒的なカラテはニューロンに深く刻み込まれた。この強さがあればどんなニンジャと対決しても倒すことができモータルを守ることができる!ドラゴンナイトは強くなりたいという熱意はあった。だがその熱量をどこに向ければよいかわからない状態だった。だが今はスノーホワイトという目標を見つけ熱量を向ける目標を見つけることができた。
それからのドラゴンナイトのエネルギーはスノーホワイトに追いつくことに注ぎ込まれた。スノーホワイトに薦められたイマジナリーカラテトレーニング、できる限りやったほうがよいと言われたので数多く行った。就寝前、登校時のバスの中、授業を受けている最中。特に授業中のすべてをイマジナリーカラテトレーニングに費やしたので授業内容が全く頭に入っていなかった。
そしてフィジカル強化としてエアーチェアーをおこなった。エアーチェアーとは椅子に座る際に尻を椅子につけるのではなく数センチばかり浮かす筋力トレーニングである。ドラゴンナイトはすべての授業でエアーチェアーを実践しており、今現在もエアーチェーをしながらイマジナリーカラテトレーニングをおこなっていた。
ドラゴンナイトは教室の壁にある時計を確認する。授業終了まで残り10分、あと一試合はできるな。ドラゴンナイトはイマジナリーカラテトレーニングを再開した。
◇スノーホワイト
「お邪魔します」
誰もいない廃ビルの空間に声が響き渡る。いないことは分かっているが日頃身に着いた習慣がそうさせた。ここはドラゴンナイトが廃ビルの一室を拝借し作り上げた活動拠点である。パトロール前にここに集合するのが決まりになっていた。
スノーホワイトは何となく木人人形前に近づき打ち込みを始める。普段は集合時間の10分前程度に来るのだが今日は一時間前に来ていたので手持ち無沙汰だった。
「使い方それで合っているぽん?というよりそれって意味あるぽん」
スノーホワイトは何となく木人人形に近づき打ち込みを始める。普段は集合時間の10分前程度に来るのだが今日は一時間前に来ていたので手持ち無沙汰だった。
ファルの問いに素っ気なく答えながら木人人形に軽く打ち込む。
ドラゴンナイトが使っていたというので興味が湧いて試したがどのような意図で使えばいいかさっぱり分からない。
この手づくりの粗末な木人人形なら魔法少女の力である程度の力で打ち込めば壊れてしまう、だが壊れない程度の手打ちで打ち込んでも実戦で使えるとは思えない、暫くして打ち込みを止めた。
「しかもこれもスノーホワイトと組手するようになって使わなくなったらしいぽん」
「そうらしいね」
「それでドラゴンナイトは強くなっているぽん」
「一週間で強くなったら苦労しないよ」
怪我が治りドラゴンナイトとパトロールが終わった時明らかにソワソワとしていた。
何かを言おうとしていることは魔法を使わなくても理解でき、魔法を使って何を言おうとしていることは分かった。スノーホワイトはドラゴンナイトが言う前に先に言葉に出す。
――――私と組手をしない?
ドラゴンナイトは強さを求めていたがそれを得るには一人では限界がある。強さを得るには指導者と戦いの経験を積むことが必要だがその二つの要素を補うことは難しい。
ニンジャとは二人しか出会っていないが二人とも好戦的で殺す気で戦いを挑んできた。それがニンジャにすべて当てはまるとは限らないがそうと仮定する。
そんなニンジャの中で闘い方を教えてくれる友好的な者が都合よく現われるだろうか?そして相手を簡単に殺害できる攻撃力を持つニンジャ相手に死なずに何回も戦闘を行い経験を積めるだろうか?自分基準ではドラゴンナイトはまだまだ未熟だ。戦闘の際に生活に障害をきたす怪我、いや殺されてしまう可能性も充分に有る。
だが自分なら戦い方はある程度教えられ、そして怪我をさせないように組手をして経験を積ませることもできる。その日からスノーホワイトの戦闘訓練が始まった。
ドラゴンナイトは未熟だった。身体能力はそれなりだが技術がまるでない、ただ本能のままに蹴り殴りただ思うがまま行動していた。そんな戦いをしていれば必ず命を落とす。まずは正しい打撃と投げの仕方、そして人体に効果的な関節技を教えた。
センスが抜群に良いのか、ニンジャが全員そうなのか分からないがドラゴンナイトの上達は早かった。
リップルに教えられたことをそのままドラゴンナイトに伝え実際に見せるとすぐさま同じような動きを実践できていた。コツを感じ取り理解し自分の中に落とし込むことが上手いのだろう。
スノーホワイトは一週間程度で強くはならないと言ったが、それは一週間程度で一線級になれないという意味であり最初と比べると見違えるように強くなっていた。
スノーホワイトの指導方法は自分が受けたものを踏襲するものだった。リップルとの訓練のように間接技等で相手を制するか、致命的な打撃が当たる前に寸止めする。
決着がつくごとにどの部分が悪かったのかを指摘し、また組み手を再開する。それの繰り返しである。そしてイメージトレーニングをすることを薦めた。これはあのフレデリカに薦められた鍛錬方法だ。
―――ピティ・フレデリカ。
余罪だけで図書館が建てられると言われているほどの極悪人、魔法少女は清く正しくあるべきである。だがフレデリカのような女性でも魔法少女であり、その事実だけで虫唾が走る。そして遺憾ながらその極悪人から一時期指導を受けていた。
言いたくは無いが魔法少女としては最低だが指導者としては優秀だった。フレデリカの教えがなければスノーホワイトは魔法少女狩りとしての強さを得ることはできなかっただろう。
正直に言えば躊躇していた。この指導方法がニンジャに適切なのかは分からず、何よりフレデリカという穢れた存在の教えをドラゴンナイトに伝えることはその清廉さを汚してしまうように思えた。
だがこれを教えなかったことで強くなれずドラゴンナイトが命を落とすかもしれない。そんなことはあってはならない。スノーホワイトはフレデリカに対する負の感情をグッと押し込んだ。
スノーホワイトはドラゴンナイトとの訓練において自分が受けたものとは一つ違う要素を付け加えた。それは褒めることである。
指導する上では褒めて伸ばすのが最良である。TVで知ったのか本で読んだのか誰かから聞いたのかはわからないがとりあえず実践してみた。スノーホワイトからしてみれば拙い攻撃でも昨日より進歩があればとりあえず褒めた。
ドラゴンナイトとの組み手は楽しかった。日々成長する姿に喜びを感じ、褒められてはにかむドラゴンナイトの仕草にほほを緩ませた。だが一つの棘がスノーホワイトの心をちくりと刺す。
ドラゴンナイトは全力で向かってきた。相手を倒すことにすべてを注ぎ急所にも躊躇無く攻撃してきた。実践を想定して戦わなければ意味は無く自分も全力で戦うように言っていた。
今のドラゴンナイトなら全力で向かってきても難無くいなせるのでそれはかまわない。だが岸辺颯太と同じ顔をしたドラゴンナイトが向かってくる姿は自分を壊す為に攻撃してくるようだった。
あの心優しかったそうちゃんが自分に暴力を振るう。ありえないことだが、もしそんなことが起こったらどうなっていただろう?
ドラゴンナイトは全力でくるがそこに敵意はない。だがそうちゃんが敵意を自分に向けながら挑んできたら?敵意むき出しで向かってくる姿をイメージした瞬間胸が苦しくなり思わず手を当てた。
スノーホワイトは手を当てながら視線を木人人形からコンクリートの壁からその近くにある座布団に目を向けた。
嫌なイメージは別のイメージで塗り替える。イメージトレーニングをしようと考え壁に視線を向けた。
立った状態で壁に寄りかかりながらでもイメージトレーニングはできるが、経験上瞑想を行う時は正座で座り姿勢を正した時が一番没頭できる。
別にコンクリートの上で正座してもよいが痛いし不快であり、魔法少女は心も強くなるといえど不快感はある。その時座布団に目が向いた。ドラゴンナイトからはここにあるものは好きに使ってよいと言われていたのでお言葉に甘えることにした。
スノーホワイトは座布団に正座し目を閉じようとする、だがある物が目に入り目を開けた。マンガ、こっちの世界ではカートゥーンと呼ばれている。確かドラゴンナイトの実家から運び出したものだ。
マンガは好きでも嫌いでもないぐらいで魔法少女ものを読むぐらいである。
ドラゴンナイトがどのようなものを好んで読んでいるかは興味がある。瞑想を中断し本棚にある1巻らしきマンガを手に取った。タイトルはカラテ戦士マモルと書かれ、絵柄は自分の世界のアメコミ的なものだった。
一話の半分ぐらいまで読んだが正直オモシロくない、いや、自分の趣味にはあわない。コマ割りというものだろうが、それが自分の世界のマンガと違うせいか、読んでいてストレスが溜まる。
ページを閉じようとしたが主人公の戦闘描写でその手を止めた。
相手に右正拳突きを放ち当たる直前で手を引き、それと同時に右のハイキックを放つ。右手がブラインドになり右のハイキックが当たりやすくなると解説されている。
これはドラゴンナイトが自分に使った技、このマンガから真似したのか。思い出してみると他の攻撃と比べて異質な行動や攻撃がありそれもマンガをマネしたのだろう。
効果的な技も有りその点を褒めれば喜ぶかもしれない。スノーホワイトは今日の組み手のことを考えながら目を閉じイメージトレーニングを続けた。
◆ドラゴンナイト
「ワオ、ゼン」
言葉が自然と漏れていた。
目に入ったのはスノーホワイトが正座している姿だった、イメージトレーニングでもしているのだろう。
その一分の緩みも感じさせない姿勢と醸し出す凛としたアトモスフィア、部屋はライトがついていなく外から漏れるネオン看板の弱い光がスノーホワイトを照らしだす。薄汚れたアジトという場所は神々しさすら感じるスノーホワイトの姿をさらに引き立たせる。まるで美術作品のようだ。
ドラゴンナイトはスノーホワイトをカワイイと思ったことは数多くあるが、美しいと思ったのは初めてだった。
この姿をいつまでも見ていたい。ドラゴンナイトは無意識にニンジャ野伏力を全力で発揮し存在感を消す。
「こんばんは、ドラゴンナイトさん」
だがニンジャ野伏力を発揮してから一秒後、その姿はすぐに感知された。スノーホワイトは正座で自分のほうに向き直り笑顔を浮かべ挨拶する。その笑顔はカワイイだった。
「アイエエ!こんばんは、スノーホワイト=サン。イメージトレーニングしてたの?」
「うん」
「もしかして邪魔しちゃった?」
「大丈夫。ちょうど終わったところだったから」
「じじゃあ、そろそろ行こうか、今日はシラセ・ストリートの方を見回ろう」
ドラゴンナイトは動揺で挙動不審にならないようにパトロールの前の準備運動をしている体でごまかしながら何とか会話をしていた。
危なかった。少し前だったら動揺で挙動不審になっていただろう。イメージトレーニングに深く没入していると思ったが即座に感知した。自分なら気づかない。それに神々しいアトモスイフィアから年相応のカワイイの変化から生じるギャップは破壊力抜群だ。
スノーホワイトが正座から立ち上がるのをチラリと確認する。まだ心臓の高鳴りが止まらない。きっと顔も赤くなっているのだろう。顔が見られないようにしばらくはスノーホワイトの姿を見ないようにしながら移動しよう。ドラゴンナイトはアジトの窓から屋上に飛び移りパトロールを開始した。
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「間に合わなければ0点」「連帯責任」劣化し塗料がはがれた壁には労働者に重圧を与えるような貼紙が貼られショドーは掠れている。ここはとある廃工場、廃棄されてから長時間経過しており辺り廃材や放置された機材は埃がかぶっている。その廃工場の壁に携帯式ボンボリライトの光が二人の人影を映し出しカラテシャウトが響き渡る。
「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」カラテシャウトが廃工場内に響き渡る。ドラゴンナイトだ。リュウジン・ジツで体を変化させたドラゴンナイトが連続攻撃で攻め立てる。一方スノーホワイトは攻撃を難なく捌き隙を突いてドラゴンナイトを投げた。背中から強烈に打ち付けられたドラゴンナイトの意識はコンマ数秒スノーホワイトから外れる。
その間にスノーホワイトはカワラ割りパンチを振り下ろし顔面に当たる寸前で止めた。「今日はこれぐらいにしようか、お疲れ様」「ありがとうございました…スノーホワイト=サン…」ドラゴンナイトは緊張を解き大の字で寝そべる。ジツを解いており、その体は人間の状態に戻っていた。
パトロールが終了後、拠点から程よく近いこの廃工場で組み手をおこなうのが日々の日課になっていた。「最初に比べて大分良くなってきているよ」「そう…」スノーホワイトの言葉にドラゴンナイトは呼吸を激しく乱しながら答える。
ドラゴンナイトのリュウジン・ジツは体内の血中カラテを多大に消費するため体力の消費が激しく短時間しか使用できない。「特に、あのフッと力を抜いて地面に体がぶつかる直前に踏み込んで突進する攻撃は良かったよ」
ドラゴンナイトが使った技は恐らくカートゥーンに出てきたものだろう。スノーホワイトはそれを予想し褒める。「本当に」ドラゴンナイトはわずかばかり笑顔を見せる。自分の好きなキャラクターが使用していた技を真似したものであり、それがスノーホワイトに褒められることは嬉しかった。
「ところで、僕が拠点に来た時はイメージトレーニングしてたの?」ドラゴンナイトは息を整えながらゆっくりと立ち上がり問いかける。「うん」「スノーホワイト=サンはどんなイマジナリーカラテをしてるの?」「どんなって?」「えっと…どんな相手とか、どんな状況で戦っているかなって」
スノーホワイトは魔法でドラゴンナイトの質問の意味を理解した。イメージトレーニングの基本的なことは教えたが正しいやり方なのか不安なのだろう。「そうだね。状況は基本的に障害物もない物凄く大きい荒野みたいなところで一対一かな。相手は今まで戦った相手を想像したり、その相手を強くしたイメージとも戦ったりもするかな」
スノーホワイトはドラゴンナイトにニンジャになったばかりではなく、ある程度年月が経っており戦いも何度もしてきたと伝えていた。ドラゴンナイトとの実力差を考えると同じニンジャに成り立てだと不自然だからと考えたからだ。ドラゴンナイトは嘘をついたことを特に責めずスノーホワイトの言葉を信じてくれた。
「なるほど」「イメージトレーニングは体をイメージ通り動かせるようにするための練習だから場所とか状況はこだわらずに一対一でいいと思う」ドラゴンナイトは相槌をつくように頷く。「ドラゴンナイトさんはどんな風にやっているの?」「僕はえっと…スノーホワイト=サンと一対一でずっとイマジナリーカラテしてる」
(((イマジナリースノーホワイト=サンに頚椎踏み砕かれたりして何回も殺されていると言ったら気まずくなりそうで困る)))ドラゴンナイトの困った声が聞こえてくる。他人の想像でも自分がドラゴンナイトを何回も殺していることを知ったスノーホワイトは複雑そうな顔を浮かべる。
「えっと…そういえばスノーホワイト=サンはどんなトレーニングをしてきたの?やっぱりヒサツ・ワザの習得とか?」ドラゴンナイトはスノーホワイトの表情を見て話題を変えた。「必殺技の練習はしていないかな。イメージトレーニングして組手をする。ドラゴンナイトさんと同じ」
スノーホワイトは必殺技という単語に思わず笑みをこぼす。何と言うか男の子の発想だ。「それだけ?」「それだけ」ドラゴンナイトは拍子抜けといった顔をしていた。想像ではスポ根マンガの養成ギブスをつけて壮絶な特訓をしているのだろう。だが今のトレーニングでそれ相応の強さを得られる。あとは実戦経験だがそれを強要することはできない。
「へ~。あと組手の相手は誰なの?メンター?」「メンター?師匠じゃなくて友達かな」「その友達はニンジャ!?近くにいるの!?会える!?」ドラゴンナイトは興味津々で見つめる。スノーホワイトの組手相手なら同等、いやそれ以上の実力の持ち主だろう。その相手から強くなる何かを得られるかもしれない。
「一応忍者かな…でも今は……遠い所に行っちゃったから会えないかな」スノーホワイトは想いを馳せる様に遠くを見つめる。同じ魔法少女であり大切な友人であるリップル。今何をしているのだろう?ネオサイタマに来てしまった自分はあちらでは行方不明扱いだろう。ファルを通して連絡を取れず心配してリップルは行方を捜しているかもしれない。
リップルを切掛けに元の世界の人々のことを思い出す。父親に母親、友人の芳子、スミレ、皆は元気だろうか?心配しているだろうか?だが魔法少女の活動で連絡もせずふらっと外国に行くことが有るので、いつものことだと思っているのかもしれない。これからは連絡の一つでもいれよう。
「どんな人?ジツは?」ドラゴンナイトは興味を持ったのか矢継ぎ早に質問する。スノーホワイトはそれを答えようとした時だった(((仇じゃなかったら困る)))突如頭の中に声が響き渡る。魔法で聞いた声は敵意に満ちていた。「スノーホワイト=サン?」ドラゴンナイトはスノーホワイトのアトモスフィアが変わったのを感じ取った。
スノーホワイトは声に意識を向ける、声の主は高速でこちらに近づいてくる。「ドラゴンナイトさん気をつけて」スノーホワイトは注意喚起して身を構えた。CRASHH!窓ガラスが砕けガラス片が勢いよく散乱する。スノーホワイトはエントリーしてきた謎の闖入者に目を凝らす。そこには一匹の薄汚れた猫がいた。
「ニャー」「ドーモ、マタタビ=サン、ドラゴンナイトです。ニンジャの……ネコ!?」