ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター 作:ヘッズ
「では、マタタビ=サンの退院と陰謀を防げた事を祝って、カンパイ!」ドラゴンナイトの声がアジトに響き、スノーホワイトはドラゴンナイトの紙コップに自分の紙コップを当て乾杯のアイサツを交わす。スノーホワイトとドラゴンナイトは床に座り、マタタビは敷かれている座布団に座り三角形を作る
三名の目の前にはスナック菓子や炭酸飲料のクラムボンやバイオサバ缶やキャットフードもあった。「他に欲しいものあれば買ってくるけど」ドラゴンナイトは上機嫌でマタタビに話しかける。『これは何をしているんだドラゴンナイト=サン?』「退院祝いと祝勝会を兼ねたパーティーかな、人間は退院するとそれを祝って美味しいものを食べるんだよ」
『そうか』「だから遠慮せずに食べていいよ」マタタビはバイオサバ缶を缶切りを使わずに開けてバイオサバを口にする。始めて食べたが味はまあまあだった。マタタビはアジトに向かう間に自分に起こった出来事を聞かされる。テイマーは爆発四散した後マタタビは気絶した。そして怪我の状態は重く直様動物病院に連れ込み治療を受けていた。
手術費などの治療費は親に出して貰えずドラゴンナイトが支払った。所有している全財産の半分を支払うことになり懐具合は厳しかった。だがニンジャで同じ目的の為に行動すれば最早仲間だ。金を惜しんで仲間を見捨てることは正しい事ではない。
ドラゴンナイトは納得した上での行動だが、無意識にお金が減って困るという声を出しており、スノーホワイトはその声を聞いていた。『それで祝勝会とは何だ?』「イクサに勝ったり目標を実現できた時に祝うパーティーだよ」『何を実現できたのだ?』「それはナシモト=サンの命を守り、マルノミ社の陰謀を防いだことだよ!」
ドラゴンナイトは興奮気味に顛末を語り始める。シシマイ社のペットの遺伝子的欠陥は無いことが発覚し、嘘情報を流したのはマルノミ社によって行われたことが判明、ジンスケを含む上位役職者はケジメし株価は暴落した。「ザマアミロ!薄汚いコーポは正義には勝てないんだ!」ドラゴンナイトは叫ぶ。「さあマタタビ=サン、イッパイ食べて」
三名の宴は盛り上がった。余興としてドラゴンナイトがボトルネックカットチョップを行い二名を楽しませ、成り行きでスノーホワイトもボトルネックカットチョップを行い、白熱した二人は多くのビンをチョップで切断する。スノーホワイトのチョップの方が精度は高く、ドラゴンナイトは僅かに落ち込んでいた。
「ところで、あのニンジャスレイヤー=サンはどういう経緯で一緒に行動していたの?」ボトルネックカット演舞が終わりドラゴンナイトはマタタビに尋ねる。ニンジャスレイヤーはあの日マタタビともに姿を現し、テイマーが爆発四散するともに姿を消した。ドラゴンナイトにとって謎の存在だった。
マタタビは知っている情報を二人に話す。「ニンジャスレイヤー=サンはあの計画を知って、それを阻止しに来たってことかな」「多分そうだね」「ボクたち以外にも正義のニンジャは居るのか」ドラゴンナイトは嬉しそうに呟く、計画を知り阻止するために行動した。それはまさに正義、いずれカトゥーンのように共闘できたらと胸に抱いていた。
『それでは私は去るとしよう。食事も美味しかったし楽しかった』「マタタビ=サン!」宴が終わりのアトモスフィアを見せ、マタタビが立ち上がりビルから去ろうとする。それをドラゴンナイトは声をかけて止める。その声量は何時もより大きかった。
「これからどうするの?」「まだやり残した事がある。それをやってくる」「手伝おうか?」「大丈夫だ。一人で出来る」「ボク達はもう仲間だ。力が必要になったら何時でも呼んで」ドラゴンナイトは力強く言い放つ。マタタビは言葉に微笑で応え、部屋から出て行く。ドラゴンナイトは無意識に手を伸ばしていた。
ドラゴンナイトのニューロンにマタタビはもう二度と姿を現さないのではと浮かび上がる。家族の敵を探していた時は怒りと同時にエネルギーも満ち溢れていた。だが今のマタタビにはエネルギーを一切感じられない。まるでゾンビのようだ。スノーホワイトもビン等のゴミを片付けながらマタタビの様子をじっと見つめていた。
◆◆◆
(((アイエエエー!)))(((グワーッ!)))(((アバーッ!))部屋には血飛沫と両親の悲鳴が木霊する。そしてニンジャのように飛び回る白ネコと黒ネコ。二匹は怪しげな笑みを浮かべ自分に飛び込んでくる。
「ヤメロー!ヤメテクレー!」カツタロウは自分の悲鳴で目を覚まし、存在を確かめるように体に触る。手に伝わるベタついた汗の感触、いつも通りの朝の目覚めだ。辺りを見渡すと天井には「落ち着こう」「両親が見ている」「大丈夫」のショドーが書かれ、畳にタンスの上に今の流行りとはかけ離れたオールドスクールのコケシが見下ろしている。
「イヤーッ!」カツタロウは枕をコケシに投げつける。コケシはタンスから畳に落ちると拾い上げた。「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」カツタロウは雄叫びを上げながら薬物中毒者めいた目つきでコケシを叩きつける。何という異常な攻撃性!まるで親の敵を目の前にしているようだ!
「やめなさいカツタロウ!」「やめるんだ!」すると声と物音を聞いた老人たちが駆けつけカツタロウを羽交い締めにする。「フゥー!フゥー!」カツタロウは暴れるが幼い体では老人の力にすら抗えなかった。
カツタロウは両親が死亡したことで祖父母達の家に引き取られていた。両親はハックアンドスラッシュで殺された。それが世間での真実になっているがカツタロウの真実は違っていた。両親を殺したのは飼いネコのタマとクロだ。タマとクロが突然暴れだし両親を殺し、自分を襲った。
両頬を触ると四本の線が刻まれていた。これはタマとクロの爪痕だ、タマとクロに襲われ重傷を負ったカツタロウは手術によって一命を取り留めた。だが傷跡は所々に残っており左右の頬もその一部だ。カツタロウはマッポや祖父母に事実を伝えた。だが事件によって錯乱したと決めつけ、それでも訴えるカツタロウを狂人扱いし、自我科に強制入院させた。
それがカツタロウの心を傷つけ異常な攻撃性を持たせた。カツタロウが落ち着くと祖父母達は部屋に朝食を持ってきて食べ始める。これはカツタロウが錯乱しないように監視するためだ。「大丈夫悪い人はマッポが捕まえてくれるから」祖母は諭すようにカツタロウに話しかける。だがカツタロウは話を聞かず窓から見える景色を眺める。
同じ年頃の少年達が楽しそうに笑いながら学校に向かっている。カツタロウは異常な攻撃性のせいで学校には行けなかった。その扱いは不満だった。自分は正常だ。世間が両親を殺した犯人がタマとクロと認めない怒りをぶつけているにすぎない。自分の人生を壊したタマとクロ、二匹を殺し両親の敵を討つことで人生が始まる!
窓の外を見ると少年たちが足を止めて何かに群がっている。円になって座り込みながら中心に向かって話しかけている。それは白ネコだった。その瞬間カツタロウのニューロンがスパークする。「タマーッ!!!」カツタロウは叫ぶ。あの毛並みあの姿見間違えるはずがない!あれはタマだ!両親を無残に殺したタマだ!
突然の豹変に祖父母は取り押さえようとするが、力を振り絞り拘束から逃れタンスに立てかけていた木刀を手に取り窓から外に出た。「タマーッ!」「アイエエエ!」「助けてママー!」鬼めいた表情を浮かべながら近づいてくるカツタロウを見て少年たちは悲鳴をあげながら散っていき、白ネコだけは残った。
白ネコはカツタロウに向けて悲哀が漂う視線を向けた後移動する。カツタロウは必死に追った。そのスピードは幼いカツタロウでも何とか追いつける程度だった。暫くチェイスすると白ネコは脚を止めた。そこはスクラップ工場のような場所で油の匂いが充満し、鉄パイプやドラム缶が散乱していた。
「イヤーッ!」カツタロウは走りながらゴルフスイングのように木刀を振り抜いた。白ネコは避けることなく木刀が腹部に突き刺さり数メートル転がった。「死ね!死ね!死ね!タマ!」カツタロウは木刀を容赦なく振り下ろしながら狂気の笑みを浮かべる。一方白ネコは痛みに耐えながら静かに笑った。
○マタタビ
そうだこれでいい。これでいいんだ。
起きていても、いや夢の中でもカツタロウの両親を切り裂いた時の肉の感触と血の暖かさがこびりついている。
それは地獄のような責め苦であり、今すぐに死んで楽になりたかった。だがその誘惑に懸命に堪える。自分を操り両親を殺させたニンジャを殺すために、もう一つはカツタロウの手で殺されるために。
マタタビはニンジャになった後、テイマーを探す傍らカツタロウが生きていたことを知る。操られ殺したと思い込んでいたが生きていた。マタタビは大粒の涙を流しながら喜んだ。会いたい。無事な様子を確認したい。カツタロウの行方は報道規制されて情報は出なかったが、ネオサイタマを駆けずり回り探した。
捜索を続けるなかニューロン内である記憶が蘇る。家族と一緒に連れられ別の人間の家に行ったことがあり、それは両親の両親だった。
もしかしてそこに居るかもしれない。一縷の望みを託して向かうとそこにはカツタロウが居た。だがそこにいるカツタロウは記憶とは別人だった。屈託のない笑顔は影を潜み、常にイラつき攻撃的で祖父母に暴れていた。そして叫んでいた。
―――パパとママを殺したのはタマとクロなんだ!
カツタロウの言葉はマタタビの心を貫き粉々に砕いた。
無意識で操られただけで、悪いのは操ったテイマーだと言い聞かせていた。だがカツタロウにはそんなのは関係ない。両親を殺したのは自分とクロであり、操られたという答えにたどり着くことは永遠にない。
改めて自分がしでかした事に気づいてしまう。カツタロウの人生を狂わせてしまった。もはや生きていい存在ではない。
出来る償いはテイマーを殺し、ケジメとしてカツタロウの手で殺され溜飲を下げさせる。その程度で心の傷が癒えはしない。だが少しでも前を向ける手助けになるかもしれない。それが贖罪だ。
マタタビはカツタロウの攻撃を受ける。モータルの幼子の攻撃を避けるなどベイビーサブミッションどころの騒ぎではない、息をすることより簡単だ。
だが無意識で避けようとするニンジャ反射神経を意思で押さえ込み、ニンジャ筋力で反射的にダメージを軽減させようとするのを意思で押さえ込みダメージを最大限に受ける。
「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」
カツタロウの一心不乱に攻撃する。幼きモータルの単発の攻撃では死にはしない。だが確実にダメージは蓄積し、この調子ならばいずれは死ぬ。
不意に攻撃が止まる。攻撃疲れで手を止めたか?だが攻撃疲れではなく何者かの手によって攻撃が止められていた。マタタビは相手を見て戸惑い、そして怒りの表情を見せる。
『何故止めるスノーホワイト=サン!』
◇スノーホワイト
マタタビが自分の行為でカツタロウの人生を無茶苦茶にしたのを苛んでいる事、そして自殺に近い形でカツタロウに殺される事で贖罪を果たそうとしているのは魔法によって知っていた。
人として魔法少女としてはマタタビの行為を止めるべきだろう。だがマタタビの苦悩も痛いほど伝わり、罪悪感で一生苦しむぐらいなら止めるべきではないと思ってしまうほどだった。
確かにマタタビの気持ちは分かる。だがカツタロウはどうだ?真実も知らぬままマタタビを自らの手で殺してしまって良いのだろうか。せめてカツタロウに真実を伝えて判断を任せるべきだ。
スノーホワイトはドラゴンナイトとのパトロール以外はマタタビの尾行に時間を費やし、数日かけてカツタロウが住んでいる家を見つけ姿を確認する。姿を一目、いや心の困った声を聞いた瞬間理解できた。
(((お父さんとお母さんが居なくて困る)))
カツタロウの心は未だ両親を失った悲しみを癒せていなかった。
当然だ、あの様な惨劇に巻き込まれてしまったのだ。大の大人でも立ち直るのに時間がかかるものを小学校低学年の子供が立ち直るというのは無理な話だ。
どのようにコンタクトを取り真実を伝えるべきか、スノーホワイトは暫く熟考し方針を固め、窓をノックし声をかけた
「こんにちはカツタロウさん」
スノーホワイトは最大限に優しげで好感が持てる声で話しかける。初対面の人物に話す声色、これで大半の人物は警戒心を多少は薄める。
これは魔法少女としての生活で身につけた処世術であり多少なり自信がある。するとカツタロウが窓越しに誰と声をかける。心の声からしてまだ警戒心は高い。
「私はニンポ少女のユキコ、今日はカツタロウさんとお話に来たの」
見知らぬ人物がニンポ少女と名乗れば、自分の世界なら変質者扱いで警察を呼ばれるだろう。
だがこの年の子供はまだフィクションと現実の境界が曖昧な年頃だ。自分の世界でも幼子は大人と比べ、一般的な格好とは違う魔法少女を見ても特に動じることなく存在を受け入れる傾向がある。
それにフィクション上の人物が会いに来たとしても興味を持ってコンタクトしてくるかもしれない。スノーホワイトはその可能性に賭けた。
数秒後窓からカツタロウが部屋から顔を出し目線が合う。その瞬間わざとらしくない自然な笑顔を向けカツタロウは顔を紅潮させた。
魔法少女の容姿は容姿端麗であり、街ゆく人々がすれ違えば大概の人は思わず振り向くほどだ。そして人は容姿が美しいものに対して好感を持ち、幼子のカツタロウも例外ではなかった。部屋に上がる許可を貰うとスノーホワイトは畳に正座し改めて挨拶をする。
「初めましてカツタロウさん。私はニンポ少女のユキコ。ニンポ少女は知っている?」
「知ってる。サムライファイブの後にやってるから」
スノーホワイトは言葉の意味を推測する。サムライファイブとは恐らく自分たちの世界の戦隊もののような特撮だろう。カツタロウが右手に持っている人形や部屋にある銃の玩具は、小さい頃魔法少女のアニメの前に放送していた特撮もののヒーローの姿や武器に似ている。
「ニンポは!?ニンポは使えるの!?」
するとカツタロウは目を輝かせながら近寄ってくる。ニンポ少女を信じているとすればニンポを見せてくれとお願いするのはある意味当然の反応であり、想定できることだ。
スノーホワイトは魔法の袋から明らかに入らないだろうという大きな物体を袋から出し入れする。その物理法則を無視した現象は幼子のカツタロウでも理解できるものだった。
「それでどうしたの?」
カツタロウは魔法の袋から取り出したお菓子を頬張りながら尋ねる。スノーホワイトのことをニンポが使えるニンポ少女だと完全に信じきっていた。スノーホワイトはお菓子を食べ終わるのを見計らって、目を見据えて語りかける。
「辛かったね。誰もカツタロウさんの言うことを信じなくて、でも私は知っている。カツタロウさんは嘘をついていないって」
その言葉を聞いた瞬間カツタロウは堰を切ったように大声で泣き始める。スノーホワイトは涙と鼻水でグチョグチョになるのを気にすることなく胸を貸し、頭を優しく撫でた。
自分の言うことを信じてもらえないということは辛いことだ、それは人の心に大きな影を落とす。
そこに信じると言ってくれる人が現れれば忽ち信頼を寄せるだろう。これでカツタロウは自分に全幅の信頼を寄せる。詐欺師のような手口で心が痛む、だがこれでカツタロウの心は癒されるのは事実だ。
暫くするとカツタロウは泣き止みスノーホワイトを見上げながら話しかける。
「クロとタマは!?クロとタマが居るところを教えて!ボクが!ボクがやっつけてやる!」
人は殺意を持ったとしても殺意のままに人や動物を殺めることはない、リスクとリターン、共感性、倫理観といったものが抑止力となる。
だが幼子にはそれらがなく、ちょっとした事でも殺意を抑止することなくぶつける。そしてカツタロウの目と声には殺意が宿っていた。
「お父さんとお母さんは飼い猫のタマとクロが…」
「うん!そう!だからタマとクロを!」
「本当は違うの、タマとクロは悪い人に操られたの。タマとクロはお母さんとお父さんが大好きだった。悪い人に傷つけたくないよって一杯泣いて頼んだけど、でも悪い人が止めてくれなかったの」
「嘘だ!嘘だ!嘘だ!ボクだってお父さんとお母さんは大好きだ!ボクだったらそんなことしないもん!」
カツタロウはダダをこねながらスノーホワイトの言葉を全力で否定する。両親を殺された憎しみは信頼しているスノーホワイトの言葉すら拒んだ。
「そうだね。でも、タマとクロはカツタロウさんと同じぐらいお父さんとお母さんが好きだった。止めて止めてって心の声が私のニンポで聞こえてきた」
スノーホワイトは目を伏せ悲しげに呟く。人を操り意思をねじ曲げ意図しない行動をさせる洗脳、この世で最も卑劣な能力だ。もし自分が洗脳されそうちゃんやリップルを殺してしまったら自責の念で自殺してしまうかもしれない。
「私はボロボロになったタマをニンポで治してあげた。そしてタマは操った悪い人を探してやっつけようとしている。もしタマがカツタロウさんに会いに来たら許してあげて」
マタタビが真犯人を裁いた後贖罪のためにカツタロウの目の前に現れるだろう。その時赦されたらマタタビは生きるかも知れない。何の非もないマタタビが自殺するのはあまりにも悲しすぎる。
スノーホワイトは気持ちの整理がつかず独り言を呟くカツタロウを一瞥した後部屋から立ち去った。
ーーーーーー
「落ち着いてカツタロウさん」
「ニンポ少女のおねえちゃん……」
カツタロウが後ろを振り向くと木刀を握り締めるスノーホワイトの姿があった。その瞬間先日の出会いと言われた事を思い出す。すると僅かばかり殺意が薄まっていく。それでも惨劇の映像がニューロンに鮮明に映し出され、マタタビへの殺意が再び燃え上がる。
「離して!離して!タマがお母さんとお父さんを!」
カツタロウはマタタビに憎悪の視線をぶつけ、マタタビは悲痛な顔を見せながら視線を逸らした。
「カツタロウさん、前にも行ったけどタマは悪い人に操られたの。タマは悪くない、けれど一杯ごめんなさいしたの。だから許してあげよう。サムライファイブだったら許してあげるんじゃないかな」
スノーホワイトはカツタロウを振り向かせると、膝をつき目線を合わしながら言葉を紡ぐ。サムライファイブという言葉が出たせいか心は明らかに揺らぎ始めている。
サムライファイブの事は全く知らず、そんなエピソードが有ったかも知らない。特撮のヒーローは幼い自分にとっての魔法少女のような存在なはずだ。清く正しい存在、そんなヒーローが非のないにも関わらず謝罪の心を持ち続ける者を許さないわけがない。
「ウ~~~!だったらケジメだ!ケジメしろタマ!悪いことをしたらケジメするんだぞ!」
カツタロウはやり場のない怒りをぶつけるように地団駄を踏む。スノーホワイトはケジメについて思い出す。
ケジメとはネオサイタマ特有の罰則であり、ミスに応じて指を切断し度合いに応じて切断する指の数が増えていく。それがケジメだ。
「ニャーッ!」
マタタビのカラテシャウトがスクラップ工場に響き渡る。二人は反射的に振り向き絶句した。本来有るはずの左前足が消えていた。その左前足は落ち地面を赤色に染め上がっていた。
マタタビは自ら左前足をケジメしたのだ。カツタロウはその壮絶な光景に呆然とし、スノーホワイトも思わず息を飲んだ。まず猫が何故ケジメなんて知っているのだろうという疑問が一瞬思い浮かんだ。だが直様その疑問は吹き飛んだ。
ケジメというからには指の一本や二本ぐらい切断すると予想していたが、まさか腕ごと切断するとは、何より驚いたのが困った声が全く聞こえなかった事だ。
普通ならば『痛いのは困る』『これからの生活が不便になって困る』と声が聞こえてくるはずだ。だが全く聞こえなかった。マタタビはケジメと聞いた瞬間に反射行動のような速さで自ら切断したのだ。
マタタビは二足歩行で立ち上がると残った前足に口を持っていく、スノーホワイトはその行動の意味を察し目を見開く。
自身のケジメは終わっておらず右前足を噛みちぎるつもりだ。このままだと全ての手足を切断する、スノーホワイトはマタタビのケジメを止めようと駆けつけようと脚に力を込めた瞬間にカツタロウの声が響く。
「タマやめて!ケジメしないで!タマは悪くない!タマは悪くないから!」
カツタロウは泣きじゃくりながらマタタビに歩み寄る。いつか転んだ時に膝を擦き少しだけ血が出た。あまりの痛さに泣く以外しか考えらないほどの痛かった。そして目の間のマタタビは地面を染め上がるほど血が出ている。きっと考えらないほど痛いはずだ。
「ごめんね!ごめんねタマ!いっぱい殴ってごめんねタマ!」
カツタロウはタマを抱え上げ力いっぱい抱きしめる。その衣服は血で染め上がるが全く意に介さなかった。悪いことをしてもゴメンなさいをしたら許してあげようって。これはサムライピンクの言葉だ。タマは両親を殺したのは事実だ、でもタマはケジメをしていっぱい痛い思いをした。だから許す。
そして怒りのままにマタタビを殴打し傷つけた事への自責の念が心を苛む。マタタビはニャーニャーと高い声で鳴いた。
「気にしないで、カツタロウさんは悪くないし、ちっとも痛くないって」
「タマの言葉が分かるの」
「うん、ニンポ少女はネコさんの言葉が分かるの」
カツタロウはマタタビに視線を送ると痛みを堪えながら精一杯の笑顔を向けた。スノーホワイトにはドラゴンナイトのように言葉を翻訳できない。だが言葉が分からなくても気持ちは手に取るようにわかる。
「カツタロウさん、ちょっとごめんね」
スノーホワイトは右手でカツタロウを担ぎ、左でマタタビと切断された左前足を回収すると、高速パルクール移動でカツタロウの家に戻った。
「家の人にタマを助けてと言って、そうすれば何とかしてくれるから」
「うん」
カツタロウはマタタビを抱えながら家に入り祖父母に声をかけ、祖父母が慌てながら動物病院の住所を調べる声を聞こえてくる。スノーホワイトはその声を確認すると足早に去っていく。
マタタビから『死ねなくて困るという』困った声は聞こえてこない。これで自殺めいた行為はすることはないだろう。
スノーホワイトはマタタビから『死ねなくて困る』という声と同時に『死にたくなくて困る』という声も聞こえていた。贖罪の為に死ぬことを考えていた。それと同時に無意識では贖罪として生き続け、残されたカツタロウの為に償う事を考えていたのだろう。
ならば生きて償うべきだ。死んでしまえばカツタロウに大好きだったタマを殺してしまったという重い十字架を背負わせる事になり、さらに精神を病むだろう。
初めて会った時からマタタビを憎んでいると同時に、マタタビを愛しており許したいという気持ちを抱いていたのは分かっていた。でなければ木刀の殴打でマタタビは死んでいた。恐らく無意識で加減していた。
マタタビはこれから死ぬまでカツタロウに尽くすだろう。けれどその行為は贖罪ではない両親とカツタロウに注がれた愛情に報いる恩返しという前向きな理由の為に尽くすのだ。スノーホワイトは目を閉じてカツタロウとマタタビの今後の人生に祝福がある事祈った。
キャット・リペイズ・ヒズ・カインドネス 終
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宝島社がとうとう重い腰を動かしてくれて嬉しい限りです。
私もこれを機に電子書籍デビューします