ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター   作:ヘッズ

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スノーホワイトが出てニンジャを倒す短編シリーズと書きましたが
すみません。この話にはニンジャは出ません
あと時系列はバラバラです


ア・シーン・オブ・スノーホワイト:「スノーホワイト活動記録」

◇ファル

 

 スノーホワイトがネオサイタマに来てからそれなりの月日が経った。最初は戸惑っていたが次第に慣れていき、今では前の世界に居た時と同じように魔法少女としての活動を行っている。

 もし万が一、他の魔法少女がネオサイタマに来てしまった時に役立つようここにスノーホワイトの活動の一部を記録していく。

 

05:00

 

 この時間はまだ太陽は登っておらず、只でさえ雲で覆われて薄暗いネオサイタマの空はさらに薄暗い。人々もまだ起きていないのかアーケードには誰一人いない。その代わりとはいっては何だが、何者かによって破壊された看板や割れた空き瓶やら吐瀉物が散乱しており、とても客が寄り付かないような有様である。

 スノーホワイトはその惨状を見てやれやれと言ったようにため息を僅かに漏らしながら、魔法の袋から道具を取り出す。

 

 ここはオニタマゴ・スタジアムという野球場に程よく近い飲み屋街である。オフィス街からも近く、パブリックビューイングを見るような感覚で仕事が終わったサラリーマンが店に訪れ、球場で見終わったファンが試合内容を肴に一杯ひっかける為に店に訪れて、それなりに繁盛しているようだ。

 昨日はネオサイタマの野球リーグの首位攻防戦が行われたが大いに荒れた。

 首位のリキシーズの絶対的エースが頭へのデッドボールを受け退場に追い込まれ、現在も病院で生死を彷徨っている。

 二位のイーグルスに所属しているリーグ屈指のスラッガーは守備中に相手選手に危険なスパイクにより選手生命が危ぶまれる怪我を負った。

 それをきっかけに試合はラフプレイの応酬になり、空振りでキャッチャーの頭に打撃を加える、走塁で守備選手の足を踏み抜くなど宛らラフプレイの博覧会だったそうだ。

 さらに両チームのファンもヒートアップし、スノーホワイトの世界だったらコンプライアンスに引っかかるような罵詈雑言が飛び交い、両チームの応援席に発煙筒が投げ込まれる。

 極めつけには始球式と7回のインターバルでパフォーマンスを行う予定だったアイドルは顔面にファールボールが当たり顔はグシャグシャにされ、それに激怒したアイドルファン達がフィールドに雪崩れ込む。

 それからは選手、野球ファン、アイドルファン達が所かしこで殴り合いが始め試合は没収試合になる。

 そんな試合を見せられては飲み屋で試合を見ていたファンもたまったものではない。

 飲み屋でもフーリガンさながらに小競り合いが始まり、店から追い出されても乱闘騒ぎが起こり、ある者は選手がした怪我からヤケ酒しそこら辺に嘔吐するなどして結果現状のあり様になっている。

 

 スノーホワイトは魔法の袋から箒や塵取りやごみ袋を取り出し掃除を始める、吐瀉物は知り合いの魔法少女から分けてもらった凝固剤で固め、埃は箒で払い、ガラス片など危険なものは手で回収するし種別ごとに分類し捨てるなどして店先を一軒一軒丁寧に掃除していく。

 スノーホワイトは以前同じように店先を掃除したことがあり、掃除するほど汚れていない場所は掃除をしなかった。その結果汚れていない店先の店は商店街からムラハチされたそうだ。

 あとで知ったことだが、「向こう三軒両隣」と呼ばれる礼儀の作法があり。開店前に、自分の店の向かいの三軒と両隣の店先も清掃すべしというもので、掃除されていない店先の店主は商店街の権力者であり、その結果両隣の店はムラハチされた。そのことに心を痛め、それを教訓に見える全ての店先を掃除するようになった。

 

「これでいいかな?」

「大丈夫だと思うぽん」

 

 三十分後、スノーホワイトは綺麗なった飲み屋街を眺めファルに確認する。スノーホワイトが掃除したことで見間違えるように綺麗になった。これで掃除していないと判断されたら潔癖症の店主の隣になった不運を呪うしかない。

 

「昨日の試合見た?」

「見た見た。没収試合だろう」

「そのせいで店先が散らかっているからって、早朝出勤かよ」

「どうせ残業代も出ないし、ファッキンベースボール!って店先片付いてるぜ」

「オイオイ見間違えだろ、店長がスゲエ散らかっているって…本当だ」

 

 するとスノーホワイトの後ろから若者たちが近づいてきて飲み屋街の様子に驚いている。恐らくバイトか何かで昨日の件で店先が汚れているから早朝出勤して片付けろとでも言われたのだろう。若者たちに見つからないように足早に飲み屋街を後にした。

 

06:00

 

「チュチューン!チュチューン!」

「アイエエエ!」

 

 スノーホワイトが駆け付けた先、そこはアパートのような集合住宅でそのゴミ捨て場の近くで男性の老人が数羽の雀に襲われていた。老人は蹲り血を流している。

 雀と言えばこの世界に来る前は小柄で愛くるしさを覚えるような姿としてインプットされていた。だがネオサイタマに来てイメージはガラリと変わった。

 バイオスズメと呼ばれており姿は変わらないが、そのサイズは鷹や鷲などの猛禽類のように大きく、そのくせ鳴き声は小さい雀のように甲高く可愛らしい。

 その鳴き声と姿に一瞬騙されそうになるが複数の猛禽類サイズの鳥に襲われれば人であれば太刀打ちできない。

 

 スノーホワイトは老人の間に割って入り、老人を庇いながらバイオスズメを叩くなどして敵意と注意を向ける。すると雀たちはスノーホワイトを攻撃し始めた。

 

「隠れていてください」

「アイエエエ……」

 

 老人は悲鳴を上げながらアパートに駆け込みその様子を確認しながらバイオスズメの襲撃に対応していく。

 この世界のバイオスズメは獰猛だった。空から急降下し脳天や眼球を嘴で抉りにくる等その攻撃は殺意に満ちている。人間がこの攻撃を受ければ一たまりもないだろう。

 だがスノーホワイトは魔法少女、攻撃を難なくいなしバイオスズメが疲弊して立ち去るまで防御し続ける算段だった。

 するとバイオスズメから視線を外し建物にアパートに視線を向ける。そこには窓から猟銃を構えている先ほどの老人の姿がいた。

 

「死ね害鳥!イヤーッ!」

「チュチューン!」

 

 スノーホワイトはその反射的にその場から離れる。数発の銃声ともにスノーホワイトの数メートル前にバイオスズメがボトリと落ちる。頭部が半分無くなっておりヘッドショットされていた。

 

「ブルズアイ!まだ終わらんぞ害鳥!イヤーッ!」

 

 老人は続けさまに発砲する。バイオスズメ達は身の危険を感じたのかスノーホワイトから離れ一目散にゴミ置き場から逃げていく、その様子を満足げに眺めた後下に目線を向けるとスノーホワイトの姿は消えており、その事を訝しみながら窓を閉めた。

 

 

「スノーホワイトが近くにいるのに平気で猟銃をぶっ放してきたぽん。恐ろしいぽん」

「他の流れ弾は当たってないみたいでよかった」

 

 スノーホワイトとファルは先ほどのことを振り返りながら移動する。老人が猟銃で発砲した際に一発の弾丸がスノーホワイトに向かっていた。

 反射的に避けたがその動きは明らかに人間ができる動きではなかった。それを見た者にニンジャか何かと怪しまれるのは面倒なのでファルの指示で即座に離脱していた。

 

「あのバイオスズメは何であそこにいたんだぽん」

「あれはゴミを漁っていたみたい。『御飯がなくて困る』って声が聞こえたから」

 

 ゴミ捨て場の映像を振り返ると確かに青色のネットが破られていた。あれはゴミ荒らしようの対策用のネットだろう。それを破ってゴミを漁っていたところ男性が遭遇して追い払おうか何かしてバイオスズメに襲われたのだろう。

 

「適当にあしらって逃げてくれればよかったんだけど、あんなことになるなんて」

 

 スノーホワイトの声が僅かに沈んでいる。声が聞こえたからこそバイオスズメ達も生きるのに必死で餌を求めてゴミを漁っているのを知り、追い払うために傷つけるのは忍びないからと防御に徹していたのだろう。

 その結果が銃殺だ、今回は優しさが裏目に出てしまった。だが遅かれ早かれ駆除されていただろう。カラス等都市部で生きる鳥は害鳥として駆除される可能性はある。これも一種の弱肉強食だ。

 

「まあ、仕方がないぽん」

 

ファルは機械的にスノーホワイトを慰めた。

 

07:00

 

「そこを……右に曲がって……」

 

 灰色スーツの男性はスノーホワイトの肩を借りながら左わき腹を抑えて、脂汗を浮かべ苦虫を噛み潰したような険しい顔を浮かべながら歩く。そのスピードは遅く、通勤中のサラリーマン達はスノーホワイト達を次々と追い抜いていく。

 スノーホワイトは突如オフィス街近くにある駅に向かって行く。どうやら痛いなど苦しいなどの声が聞こえてきたそうだ。

 何か事故でも起こったのかと来てみるが駅前には救急車や消防車等は特に見当たらない。するとスノーホワイトは苦しそうに歩くサラリーマンの元に駆け寄り声をかけた。

 

「会社まで一緒に行きましょうか」

 

 その言葉にサラリーマンは首を縦に振って返事をした。

 スノーホワイトはサラリーマンの体揺らさないように注意を払いながら歩き、サラリーマンの会社の正門にたどり着く。

 目の前には回転式自動ドアがあった。これはスノーホワイトの世界でも見かけるものだが大きさはせいぜい三メートルぐらいだろう。だがこれは十メートル以上ある、さらに回転スピードも明らかに速い。これはタイミングを間違えると危険ではないかと思わず訝しんでしまう。

 だがファルの杞憂をよそにサラリーマン達はタイミング良く自動扉に入っていった。そしてスノーホワイトも倣うようにしてタイミングを計り入ろうとする。だがサラリーマンは痛みのせいでバランスを崩しスノーホワイトはその体を支える。その間に巨大自動ドアが迫っていた。このままでは二人はドアに挟まれてしまう。

 スノーホワイトは瞬時に移動して中に入り込む。そのスピードは人に肩を貸している人間に出せるスピードではなかった。その光景を見ていた者はいたが、特に気にすることなくIRC端末に視線を向けていた。騒がれないのはありがたい。しかしよく周りを見てみるとサラリーマン達の目には隈が出来ており目も死んでいた。

 スノーホワイトは男性をセキュリティゲートまで送るとその会社を出ると駅前に戻り、同じように痛がっている人に肩を貸し会社まで送るのを数回ほど続けた。

 

「しかしスノーホワイトが送った人達みんな痛そうだったぽん」

「うん、最初に送った人は電車に乗っていたらアバラが折れていたと思うし、2人目も内臓を痛めたのか血を吐いてた」

「重傷ぽん、というよりどうやって電車に乗ってそこまでダメージを受けるぽん」

「満員電車で他の人の肘が自分のアバラにめり込んで、圧力で折れたみたい」

「それで折れるってどんだけ人乗ってるぽん、というよりそんな怪我なら病院に行けぽん」

「休むとムラハチやクビになるから困るって声が、痛くて困るって声より大きかったから」

 

 スノーホワイトは歯切れ悪く答える。スノーホワイトも病院に連れていきたかったのだろう。だがサラリーマン達は会社に行くことを強く望んだのだから要望に応えないわけにはいかない。苦渋の決断だったのだろう。

 しかし骨折して休んだだけでムラハチにあい最悪クビになるとは何て酷い労働環境だ。まるで社畜ではないか。

 ファルも前の主人のキークにデスマーチと呼べるデバッグ作業を任され、あまりの仕事量にブラック企業に勤めていた人のブログを読み『下には下がいる』と自分を慰めていた地獄みたいな日々がフラッシュバックする。そしてそんな会社が複数有る。ネオサイタマという都市は大丈夫なのだろうか?

 

「頑張ってほしいぽん」

「ファル何か言った?」

「何でもないぽん」

 

 ファルはネオサイタマに働く人々にエールを送る。彼らは他人ではない、もはや仲間だ。過酷な労働環境に身を置いた立場として深く共感していた。

 しかしこれでもマシのようだ。以前ネオサイタマ市長選でラオモト・カンとかいう人物が労働者に権利が有るのがおかしいと労働基準法撤廃を政策に掲げたらしい。そんな悪法は通るわけがないが、ラオモトは大本命でその悪法が通りかけたらしい。だが選挙特番でスキャンダルが暴露され事故死したそうだ。

 やはり悪は滅びるのだ。そのスキャンダルを暴露した人には心から賞賛を送りたい。

 

12:00

 

 スノーホワイトの世界でもネオサイタマでも12時は昼食の時間のようで、サラリーマン達は外食店で食事し、学校に通う生徒たちは給食や家族に作ってもらった弁当で空腹を満たしていく。

 

「ウォー!ウォー!」

 

 道路脇の側溝にしゃがみながら大学生らしき青年が声を上げる。行きかう人々は青年に視線を向けながらクスクスと嘲笑を浮かべながら立ち去っていく。青年はそんな視線を意に介することなく歯を食いしばる。

 青年は側溝の蓋を持ち上げようとしていた。だが蓋は重く青年の力では持ち上げられるものではない。するとスノーホワイトは青年のとなりにしゃがみ、あっさりと蓋を持ち上げ側溝から何かを拾い上げ青年に渡した。青年は過剰なまでに頭を下げてスノーホワイトに感謝した。

 

「あの人は何を落としたぽん。よほど大切なものだったのかぽん?」

「お金だよ」

「きっと一万円ぐらいぽん」

「ううん、百円玉」

「百円!?そんなはした金であそこまで騒いでたぽん」

「百円玉が無いと『カルテットトーフが買えなくて困る』って言っていたから、重要だったんだよ。それで一日の食事が賄えるみたい」

「所謂苦学生って奴かぽん。しかし百円で一日分の食料ってどれだけの量だぽん、少し気になるぽん」

 

16:00

 

「今日はお使い?」

「今日は週刊フジサンの発売日だから。それで本屋に行ったんだけどパンクしちゃって」

「大変だったね」

 

 野球帽を被った少年が紙袋を大切に持ちながら歩く後ろを、スノーホワイトは自転車を担ぎながら歩いていく。

 スノーホワイトはパトロールをしている最中に自転車で蹲って泣いている少年を見つける。不運にも自転車の前輪と後輪のタイヤがパンクしたようだ。そんな少年に元に座り込み家まで運ぶのを手伝ってあげると言った。

 

「お姉さん力持ちだね。兄ちゃんでも持てないよ」

「女の子だって鍛えれば、これぐらい出来るよ」

 

 少年の言葉に淀みなく答える。実際魔法少女なら自転車と少年を担いで家まで運ぶどころかベンチプレスだって出来る。

 本当ならさっと運びたいところだろうが、それだと怪しまれるので少年の歩くスピードに合わせて自転車を持ち上げながら歩いていく。

 少年の家まではさほど距離は無く十五分ほどで到着した

 

「ありがとうお姉さん」

 少年はお礼の気持ちを伝えるように手を力強くブンブンと振る。それに返答するように小さく手を振り立ち去った。

 

20:00

 

「ザッケンナコラー!」

「スッゾコラー!」

 

 怒号と銃弾が飛び交い通行人の悲鳴が木霊する。どうやらヤクザ同士の抗争が始まったのか、お互い黒塗りの高級車を盾にしながら道路を挟んで銃撃戦を繰り広げている。すると二人がそれぞれ両陣営の元へ飛び込んでいく。スノーホワイトとドラゴンナイトだ。

 

 いつも通り二人はパトロールを開始した。今日は拾った財布を届けたり、脱走した飼い猫を捕まえたりと比較的穏やかな案件が続いた。だがスノーホワイトが突然移動し始めるとそこではヤクザ達が銃撃戦を繰り広げていた。

 二人はヤクザの抗争に介入し両陣営に向かって行く。ヤクザ同士で争うなら放置していたかもしれない。だが往来で銃撃戦を行えば流れ弾で一般市民が傷つく可能性が出る。

 二人によってヤクザは次々と倒されていく、相手は魔法少女とそれに匹敵する戦闘力を持つニンジャだ。重火器をいくら持っていようが人間で倒せるわけがない。

 ヤクザ達が残り数人ほど減った時スノーホワイトは対面のビルの屋上と背後にあるビルの屋上を見上げる。そこには潜んでいた両陣営のヤクザが大砲を構え、それぞれの陣営に向かって発砲しようとしていた。

 持っているのはRPG、対戦車グレネードランチャーだった。何故ヤクザの抗争でRPGなんて物騒な武器を使う。明らかに過剰火力だ。もし着弾すれば被害は甚大になってしまう。

 

「目の前のビルと背後のビルの屋上に手裏剣を投げて!」

 

 突如スノーホワイトは車線の反対側にいるドラゴンナイトに大声で指示を出す。ドラゴンナイトは指示に応えるように両陣営の中間地点に移動し、手裏剣を目の前のビルの屋上にいるヤクザと背後の屋上にいるヤクザに向けて投げ込む。

 するとヤクザの叫び声と爆発音が響き渡る。ドラゴンナイトの手裏剣が弾に当たり爆発したのだろう。戦闘能力という面ではスノーホワイトが上だが、遠距離攻撃に関しては手裏剣を生成できるドラゴンナイトのほうが上である。

 スノーホワイトがビルに駆け上がっても間に合わないと判断し、ドラゴンナイトの手裏剣で弾を迎撃させた。

 

 

「ドラゴンナイトさんありがとう。流石だね」

「いやスノーホワイト=サンが気づいたおかげだよ。でなければボクもロケットランチャーの弾を喰らって実際危険だった」

「そろそろ警察も来るだろうし離れようか」

「そうだね」

 

 二人は隠れているヤクザが居ないのを確認しその場を立ち去った。

 

22:00

 

「なにこれ!?」

 

 ドラゴンナイトは思わず困惑の声を上げ、スノーホワイトも声は出さないものの明らかに困惑の表情を浮かべていた。魔法少女は肉体と精神力も向上している。それによりどんな事態でも動じず冷静に行動できる。

 だがその魔法少女のスノーホワイトが動揺している。それは仕方がない、むしろ声を上げなかっただけ精神力が強いと言える。

 大通りから離れた空き地で恐ろしい出来事が起こっていた。

 目の前には自動販売機がある。だがその自動販売機の取り出し口から触手のようなものが伸びており、その触手が若者を締め上げている。それは悪夢のような光景だった。

 動揺で放心しているドラゴンナイトに先んじてスノーホワイトが若者の救出を試みる。手刀によって触手は簡単に切れ巻き付いていた触手の先は力を失いポトリと落ち若者は解放された。

 

「アイエエエエ!」

 

 若者は失禁し叫び声をあげ半狂乱になりながら逃げていく。その姿に一切目を向けることなく二人は自動販売機に全神経を向ける。スノーホワイトに切断された触手は徐々に再生していき元の姿に戻っていた。

 

「どうするスノーホワイト=サン?というより何なのこれ?」

 

 ドラゴンナイトは助けを求めるようにスノーホワイトに視線を送る。スノーホワイトはドラゴンナイトに目線を向けることなく自動販売機、正確には自動販売機にいる謎の生物を見続ける。

 

「駆除しよう」

「……本当にやるの?」

 

 ドラゴンナイトはマジでやるの?というように嫌々そうな表情を向ける。スノーホワイトの言う事や行動には基本的に同意するドラゴンナイトがこのような表情をするのは初めてだ。それ程までに薄気味悪い。

 

「あんなの放っておけばいいぽん」

「あれは空腹で人を捕食しようとしている。放っておいたら犠牲者が出るかもしれない」

 

 バイオスズメには何もしなかったが、この謎の生物は駆除するのか。まあ人を捕食するような生物は人間界には居てはならないということだろう。まあ妥当な判断と言えるし気持ち悪い生物を排除したいという心理も有るのだろう。

 しかしあの謎の生物は人を捕食するのか。そんな危険な生物が都市部の自動販売機に潜んでいる。ファルはネオサイタマの異常さに思わず眩暈のようなノイズが走る。

 

「シュシューッ!」

 

 すると謎の捕食生物は二人に向けて取り出し口から触手を伸ばす。二人はそれを避けると同じタイミングで飛び蹴りを自動販売機に叩き込む。自動販売機は吹き飛んでいきビルの壁に激突する。二人の蹴りの威力を物語るように足跡がくっきりと残っており、足跡からバチバチと火花を散らしていた。

 

「今ので死んだかな?」

 

 ドラゴンナイトはすり足で距離を詰めながら問う。スノーホワイトはその質問に答えるようにツカツカと自動販売機に近づき蹴りを叩き込んだ場所に手をねじ込みこじ開ける。

 そこにはオウムガイ状の軟体動物がいた。ドラゴンナイトはおっかなびっくりつま先で軟体動物に触れ生死を確認する。軟体動物はピクリとも動かないのを確認すると安堵の息を漏らしていた。

 

「これが自動販売機に潜んで人を襲ったの?」

「信じられないけど多分そう」

「自動販売機に謎の生物が潜んでいて人を襲う。こんなことを学校で行ったら即狂人マニアック認定されちゃうよ」

「そうだね」

 

 確かにそうだ。たとえ事実だとしても誰も信じないのは明らかだ。もしスノーホワイトがそんな事言ったら出来るだけ傷つけないように言葉を選びながら精神科への通院を勧めるだろう。

 喋ってしまえば社会的地位は一気に下がるのは必至だ。このことは二人の社会的地位の為に胸に収めておいた方がいい。

 

23:00

 

「じゃあお休みスノーホワイト=サン」

「うん、お休みドラゴンナイトさん」

 

 スノーホワイトとドラゴンナイトは廃工場で日課のトレーニングを済まし、ドラゴンナイトはスノーホワイトに手を振りながら廃工場を後にする。

 

「ファル…」

「もうやったぽん。スノーホワイトとドラゴンナイトの映像は消したぽん」

「ありがとう」

 

 スノーホワイトの要望は言わずとももう分かる。スノーホワイトはアマクダリに注目されるのを恐れていた。このまま従来通りに活動を繰り返せば遅かれ早かれアマクダリと衝突する。

 自分一人だったら振りかかる火の粉を振り払えばいい。だがその火の粉がドラゴンナイトに振りかかるのを恐れていた。そこでファルの出番だ、アマクダリに敵対する行動や捕捉される行動の痕跡は消す。

 飲み屋街の清掃なり、サラリーマンに肩を貸して通勤を手伝う姿は監視カメラに写り、その話題がIRCネット上にあがっても只のボランティアをする優しい少女ぐらいでとどまると予測されるので問題ない。

 だがヤクザ抗争に介入し止めたのはボランティアをする少女の域を明らかに超えている。なのでアマクダリに注目されないように痕跡は消さなければならない。

 

「ファル、フォーリナーXが居る確率が高そうな場所分かる?今日はそこに行こう」

「今日はこれで終わりだぽん。休むぽん」

 

 ファルの立体映像は鱗粉を振りまきながら体を左右に振り拒否の意志を示した。

 

「なんで?」

「働きすぎだぽん、魔法少女は疲れないと言っても限度があるぽん。この状態でニンジャに出会えば大変だぽん」

 

 スノーホワイトはフォーリナーXを探す為に以前体験したデスマーチ並みに活動を続けている。生物である以上魔法少女でも疲弊するし力も落ちる。

 その状態でニンジャと戦闘することになれば苦戦する確率は高くなる。スノーホワイトはこの世界に来て複数のニンジャと出会い戦っている。そのエンカウント率は元の世界で魔法少女と出会う確率より高い。リスクは抑えるべきだ。

 

「あとスノーホワイトが活動するとファルも働かなきゃならないぽん、正直ファルも働きすぎだぽん。ここで休憩しないとパフォーマンスが落ちて、証拠隠滅に不備が出るかもしれないぽん」

 

 これ以上活動するとドラゴンナイトに危険が及ぶぞ、ファルは暗に脅迫する。だがファルの言葉は事実だった。証拠隠滅作業を続けていくうちにスペックの低下を感じていた。どこかで休憩しなければスペックは低下し続ける。

 

「分かった。しばらく休む」

 

 スノーホワイトもファルの言葉に心当たりがあったのか、工場の壁に背中を預け座り込み目を閉じた。その様子を見てファルもスリープモードに移行した。

 

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