ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター   作:ヘッズ

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第九話 だいすき ずっと またね#3

部屋の壁には「静かに」「他の人の気持ちを考えて」「先輩が見ている」と利用者への注意喚起を促すショドーが飾られている。利用者達はショドーに従うように静かに過ごす。本をめくる音、空調の音、ノートにペンを走らせる音、利用者の息遣い、普段ではかき消されてしまうような音がここではよく響き、音が合わされゼンめいた落ち着いた空間を作り出す。

 

ここはアカツキジュニアハイスクールの図書室である。受付では黒髪ロングの少女と茶髪の少年が座っている。黒髪の少女はセンジョウメ・フガシ、茶髪の少年はカワベ・ソウスケ、二人は図書委員である。

 

アカツキジュニアハイスクールでは委員会というものが存在する。委員会とは学校をより良くするために教師の仕事を手助けし労働する組織であり、生徒の服装が乱れていないかを確認する風紀委員、昼食の時間にラジオ番組めいた放送をして生徒を楽しませる放送委員、学校で飼っている動物を世話する飼育委員等がいる。

 

そして図書室の管理運営を手伝うのが図書委員であり、受付業務も委員活動の一環だった。二人は本を読みながら思い出したかのように図書室を見渡し利用者の様子を伺う。二人は今日の雑務をこなし残りは受付業務だけで、基本的に利用者が少ない図書室では暇を持て余す。

 

受付で本を読むことは黙認されている。ソウスケは著名なスポーツ選手の自伝を読み、フガシは古典文学を読んでいた。ソウスケは隣に座るフガシの横顔を覗く、フガシはソウスケにとって図書委員でのメンターだった。

 

野球部の時は練習が優先され委員会活動を行う時間が少なかった。その短い時間で図書委員の仕事を教えてくれ、時には仕事を代わりにやってくれた事も有った。ソウスケはフガシに感謝しており図書委員の中でも気にしている人物でもあった。

 

フガシの学年が上がった月の当初はかなり落ち込み、お通夜めいた様子だった。だが最近は表情が明るくニルヴァーナに居るように上機嫌だ。暫くすると扉が開く音が聞こえ二人は本から目を離し入り口に目を向ける。入ってきたのは茶髪でおさげの女子生徒だった。女子生徒は二人に向かって軽く手を振り、フガシはさらに笑顔を見せながら手を振った。

 

ソウスケは利用者に見覚えがあった。名前はマエダイラ・アラレ、フガシが委員会活動で図書室に居る時はいつも訪れていた。アラレは本棚から本を取り出すと受付にいる二人に本を渡す。ソウスケの眉がわずかに動く、本は「宮本武蔵伝」剣豪宮本武蔵の半生を描いたフィクション小説である。ソウスケも読んだが面白かったので印象に残っている。

 

「あっ、宮本武蔵伝。読んでるんだ」「うん、流石フーチャンお薦めだね。最初は乗り気じゃなかったけど気付けばページが止まらなくて、戦闘描写の緊張感がたまらない、特に武蔵とインジュンの戦いなんて…」「オホン、オホン」ソウスケはわざとらしく咳き込む。これは静かにしろというサインである、

 

図書室には暗号めいたサインが存在し、それらを知らない或いは意図的に無視すれば図書室の利用禁止、最悪セイトポイント、進級や受験を左右するポイントが大きく減点される仕打ちを受ける。図書室では小声での私語は許されているがアラレの声のボリュームは明らかに許容範囲を超えていた。図書委員としては看過するわけにはいかない。

 

アラレは周囲の非難の目を感じ、サラリマンめいて頭を下げながらそそくさと机に座り本を読み始めた。暫くの間他の利用者は訪れず図書室は静かだった。すると大人しく受付に座っていたフガシが立ち上がり、アラレが座っている席に向かい隣に座り密談めいて小声で話し始め、話が終わるとフガシは受付に戻りソウスケに話しかける。

 

「カワベ=サン、お願いがあるんだけど」「何ですか?」「弟が病気で世話しなくちゃいけないから後は任せてもいいかな?」フガシはソウスケの目を見据えながら頼み込む。それは明らかに欺瞞だった。世話をするのだったら図書委員の仕事を始める前に伝えるはずだ。ソウスケは数秒ほど間を置いて返答する。

 

「いいですよ、今日は利用者が少ないですしボク一人でも充分です」「ありがとう」フガシは礼を述べると急いで帰り支度をしてアラレと一緒に図書室を後にした。「ねえ大丈夫だったの仕事さぼって?セイトポイント下がらない」「大丈夫、何とかなるよ。それよりクレープ谷渋の新メニュー楽しみだね」

 

「うん、アンコは美味しい、バナナも美味しい、美味しいものに美味しいものを掛ければ美味しさは100倍だよ!何で今まで出さなかったんだろう!ホントバカ!」「本当にアンコとバナナが好きだねアーチャンは、昔とちっとも変わらない」「そういえばフーちゃん眼鏡は?」「最近コンタクトにしたんだ」二人は楽し気にお喋りしながら下駄箱に向かっていく。

 

 

やはりそういうことか。ソウスケはニンジャ聴力で二人の会話に聞き耳を立てていた。本来ならばフガシの行為は発覚すれば教師から叱責を受けセイトポイントが下がる行為だ。だがソウスケは特に教師に報告しようと思わなかった。野球部時代は認められているにせよ図書委員の仕事をフガシに任せ、好きなことをやっていたという負い目もあった。

 

それにアラレとフガシの今の状況を顧みればブッダも目をつぶるだろう。だが気がかりな点も有った。以前ならば同じような頼む時でも、もう少し申し訳なさそうに頼み込み、感謝の気持ちを見せたはずだ。先ほどのフガシにはそれらが感じず、承諾するのが当然であり断れば強引に押し通そうとするエゴのようなものを感じた。

 

ソウスケはフガシのアトモスフィアの変化に違和感を覚えつつ図書委員の仕事に戻った。

 

 

◇スノーホワイト

 

「それでアラレ=サンを庇ったフガシ=サンもムラハチにあっている。でもアラレ=サンの表情は明るいというかフガシ=サンがいればへっちゃらって感じかな」

 

 日課のパトロールが終わり、雑居ビルの屋上でネオサイタマの極彩色の夜景を眺めながらドラゴンナイトの報告を受け、安堵の息を漏らす。

 アラレを助けた際にドラゴンナイトと同じ学校だと知ったスノーホワイトはアラレの様子の調査を頼んでいた。残念ながらイジメは終わっていないが、アラレを庇ってくれる人物がいることが分かった。恐らくフガシという人物があの時言い淀んだ助けてくれる人物だったのだろう。

 

「フガシ=サンが庇ってくれて良かったよ。ムラハチは一人で受けるのは実際キツイ。ボクもニンジャじゃなきゃキツイ」

「え?ムラハチされているの?」

 

 スノーホワイトは思わず聞き返す。イジメられている様子が全く見えないだけに今の言葉は全く予想していなかった。ドラゴンナイトはスノーホワイトの様子を見て余計なことを漏らしてしまったとバツの悪そうな顔を浮かべながら補足していく。

 

「でも問題ないよ。非ニンジャがいくらムラハチしてもベイビー・サブミッションというか……あれだよ、幼稚園児にいくらイジメられても何とも思わないでしょ?あれと同じ感じ。それに多少はインガオホーな面も有るし」

 

 ドラゴンナイトの顔に一瞬影が差す。スノーホワイトは何かしら事情が有ることを察した。この話題はこれで終わらそうと別の話題に変えようとするがドラゴンナイトは気にすることなくアラレについて話を続ける。

 

「それでどうする?庇ってくれる人が居るのはいいけどムラハチを見過ごすわけにはいかないし、首謀者を棒で叩いておく?」

「そうだね。それは私がやるよ。ドラゴンナイトさんがすると何と言うか……」

「大丈夫だよ。棒で叩くって言っても実際やらないよ、ちょっと注意するだけ」

「でも首謀者は恐らく女の子だから、話をつけるなら同姓の方が良いと思うんだ」

 

 スノーホワイトの言葉に渋々という具合に納得する。ドラゴンナイトの言う通り実際に暴力は振るわないだろう。だが共に行動していくうちにドラゴンナイトが語気を強めたり、威圧感を強めると人々は過剰に委縮したり変調をきたすなど場面を度々見かける。

 ある時にその日は機嫌が悪かったのかカツアゲしている女性を見つけ必要以上に叱責を行い、結果女性はアイエエという悲鳴のような声をあげながら失禁してしまった。

 最初は穏便に説得するだろうが、話を聞いてくれず圧を掛けてしまい失禁させてしまうかもしれない。もし学校でそれが起こればその生徒の名誉は地に落ち学校生活は暗黒に染まるだろう。

 それはあまりにも可哀そうだ。それに圧を掛けてイジメを止めるのは一種の暴力のようなものだ、暴力で我を通している自分が言うのは烏滸がましいかもしれないが、そういった手段は最後にとっておき可能な限り穏便に解決したい。

 

――――――

 

「これを飲めば大丈夫!ヨロシサンのニューロンX!何でも覚えられる!テストも満点!これで試験を乗り切ろう!」

 

 スノーホワイトは屋上の手すりに肘をかけながら空を見上げる。重金属雲で覆われた鈍色の空に女性の電子音が辺りに響き、大型のコケシ型の飛行物体がアカツキジュニアハイスクール周辺の空を浮遊している。液晶パネルには『ヨロシサン』『バリキキッズも勉強に有効』と自社の宣伝広告が表示されている。

 ネオサイタマに来た当初はマグロ型の飛行物体が何艇も浮遊し、様々な商品アピールをする光景には面を喰らったが、今では慣れたものだ。だがコケシ型の飛行物体は見るのは初めてだった。コケシとスノーホワイトの目線があう。その無表情は人間味が無く、まるで監視されているようでいい気分ではない。

 

「コケシが浮遊しているなんて趣味悪いぽん。ネオサイタマの住民はあんなのが好きぽん?」

「どうだろう」

「しかし魔法少女は大変ぽん、イジメ問題まで解決しなきゃいけないなんてぽん」

「それで困っているならやれることはやらないと。あれみたい」

 

 スノーホワイトはファルと雑談を交わしながらアカツキジュニアハイスクールから数百メートル離れた場所から校門前を監視する。校舎の教室に目線を送ると窓際のドラゴンナイトと視線が合いハンドジェスチャーで前を指す。するとそこには5人ほどの女子生徒の集団が居た。前もって教えてくれた背格好に一致している。屋上から下りて女子生徒達が向かう場所に先回りする。

 

「どーも、雪野雪子です。少しお話よろしいですか?」

 

 スノーホワイトは外向き用の笑顔を作りながら柔和な声で問いかける。すると集団の中心的人物が訝しみながら答えた。

 

「ドーモ、カガ・スミノです。何の用ですか?」

 

 言葉遣いは丁寧だった。イジメをするような人物なのでもっと不遜な態度をとると思っていたが意外だった。一応は富裕層の子供が通う私立だけあって礼儀については教育されているということか。だが制服なども若干着崩し、マニキュアなどもしている。中学でもクラスで目立つグループはこんな感じだった。これはネコを被っている可能性が有る。

 そして言葉遣いとは裏腹に声には敵対心が籠っている。心の困った声を聞けば後ろめたいことをしている事が分かり、そのことを探られたくないと思っているのだろう。

 

「マエダイラ・アラレさんとセンジョウメ・フガシさんのことについてです。イジ……ムラハチは止めてくれませんか?二人が何かしら失礼を働いたかもしれませんが、ムラハチの度が過ぎていると聞きます。そこまでやる必要はないと」

 

 スノーホワイトは相手を刺激しないように落ち着いた声色で喋る。これでは止まらないだろう。白を切るようなら聞こえてくる声から弱みを握って黙らせるか、取る手段をしていると思わぬ声が聞こえてきた。

 

―――別にしたくないのにムラハチしていて困る。やりすぎたムラハチのせいでセイトポイントが下がったら困る。

 

 ムラハチをさせられていて困るなら分かる。だがしていて困るというのはどういう意味だ?まるで自分の意思とは無関係に行っているようだ。スノーホワイトは一礼しスミノ達の元から離れる。その様子をスミノ達は困惑しながら見送った。

 

「何か分かったぽん?」

「ニンジャが関わっているかも」

「どいうことだぽん?」

「困った声で意思とは関係なくムラハチしていて困るって聞こえてきた」

「精神操作系の魔法ぽん。ルーラとかのっこちゃんとか珍しくはないぽん」

 

「目の前の相手に命令できるよ」という魔法のルーラ、この魔法なら対象に行動を強制させられる。

「周りの人の気分を変えることができるよ」という魔法ののっこちゃん。この魔法なら行動を誘導させられる。人を操る魔法は決して珍しくない。

 

「それで首を突っ込むぽん?ファルとしてはニンジャには関わってほしくないぽん」

 

 これは判断に迷うところだ。元の世界ではイジメの問題に首を突っ込むことはなかった。正直に言えば自分ではどうしようもできない問題だった。

 だが今回はニンジャが絡んでいる可能性が有る。そうなればムラハチさせているニンジャを見つけ魔法を止めればいいという単純な問題に変わる。それにニンジャは基本的に邪悪だ。遊び感覚でさらにエスカレートして追い込む可能性は十分にある。

 

「突っ込む。アラレさんとフガシさんが死ぬ可能性もあるなら止めないと」

「そう言うと思ったぽん。それでどうやって見つけるぽん?」

「直接聞く、その魔法を使っているのは学校内にいると思う」

「まあそうだぽん。魔法少女の魔法だったら、射程距離とかはそこまで広範囲ではないはずだぽん」

 

 方針は決まった。あとは地道に聞きこむだけだ。スノーホワイトはIRC通信機を取り出しドラゴンナイトに連絡をとった。

 

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