ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター   作:ヘッズ

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第九話 だいすき ずっと またね#6

「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ファルコンクローです」「イヤーッ!」ファルコンクローのアイサツからコンマ03秒、ニンジャスレイヤーはパンチを繰り出す。アイサツ終了後は隙が生じやすい、突然のエントリーで少なからず動揺しており、ニンジャスレイヤーはその隙を見逃さなかった。

 

ファルコンクローは辛うじて防御するが、態勢が不十分で思わず後ろに下がる。ニンジャスレイヤーは間合いを詰めるように個室に侵入し、個室の鍵を閉めた。「貴様!何故ここにいる!?」「何故ここにいる?アマクダリのニンジャで、女子中高校生の連続カラテ拉致監禁犯のオヌシを見逃すと思うか?オメデタイ頭だ」

 

ニンジャスレイヤーは侮蔑的に言う。ファルコンクローは女子中高校生をカラテ拉致監禁し、アジトで研修。そして気に入らない或いは飽きると拉致した女子中高校生を殺害、それか闇カチグミに売り飛ばし私腹を肥やしていた。何と言う邪悪行為!「そこの女性もオヌシの雛人形にするつもりだったろうが、それは出来ぬ。続きはジゴクでやれ」

 

ニンジャスレイヤーはブルーリリィを一瞥する。(((グググ。あの小娘にはバビロン・ニンジャのソウルが宿っておる。中々のキンボシ。速く殺せフジキド!)))ニンジャスレイヤーに宿るナラク・ニンジャが囃し立てる。当初はモータルの少女を攫ったと思ったがニンジャだったか。すぐさま状況判断し、ナラクの声を無視しファルコンクローに視線を向ける。

 

「ここでは得意の玩具は使えんだろう。ここがオヌシのオブツダンだ」ニンジャスレイヤーはファルコンクローを調べ上げ、改造デッカーガンを使用していることを知っていた。ピストルは遠距離では脅威だが、このようなショートレンジでは只の置物にすぎない。フーリンカザンはニンジャスレイヤーにある。

 

「フフフ、玩具か」ファルコンクローは不敵に笑う。「イヤーッ!」人差し指と中指を立てた突きを心臓に繰り出す。ニンジャスレイヤーは腕を掲げ防ぐ。指とブレーサーがぶつかり金属音が響く。「ブレーサーか、運がいいなニンジャスレイヤー=サン。それが無ければお前の腕は死んでいた」両手の人差し指と中指を針のように伸ばし構えを取る。

 

「組織に属しても奥の手は持っておくものだ。デッカーガンは謂わばデコイ!デッカーガンを使うカラテ弱者と見せかけ油断させ、カラテで殺す!これがセクトにも秘密にしている奥の手だ!」ファルコンクローは勝ち誇るように宣言する。「フーリンカザンを得たと思ったか?バカめ!ここは俺のフーリンカザンだ!」

 

(((愚かなりフジキド。奴はキンナ・ニンジャのグレーター、そしてあれはテンケツ・カラテ。テンケツと呼ばれる急所を突き相手を行動不能にさせ破壊する。非力なキンナ・ニンジャが戦えるように編み出したカラテ。所詮力なきものが編み出した児戯。儂ならば……)))(黙れナラク)(((あのサンシタが言うように実際不利だ。テンケツを突かれるな)))

 

「イヤヤヤヤヤヤッー!」ファルコンクローはニンジャスレイヤーに目掛けマシンガンめいた突きを繰り出す。ニンジャスレイヤーはその速さに攻勢に回れずブレーサーでの防御に専念させられる。ニンジャスレイヤーとファルコンクローが戦っている間合いは腕を満足に引き威力を出せないショートレンジ、この間合いではワンインチカラテを強いられる。

 

そしてテンケツ・カラテはテンケツを突けば僅かな力でも効果を発揮する。ワンインチカラテの打撃より力が要らず速く手数を増やせる。この間合いはテンケツ・カラテを最も生かせる間合いだった!「どうしたニンジャスレイヤー=サン!攻撃しないのか!イヤヤヤヤヤヤヤッー!」

 

テンケツは無数に存在し、そこを突けば激痛で動きが止まり、その隙で更なるテンケツを突き、動きを止められ、最後は破壊する致命的なテンケツを突く。一発でもテンケツを突かれればピタゴラスイッチめいて状況の隙が大きくなり死を迎える。何たるアドバンスド・ショーギ名人の詰めめいたカラテか!

 

ニンジャスレイヤーもそれを理解しており、細心の注意を払い攻撃を防御する。だが攻撃しなければ勝つことはできない、このままではジリープアー(徐々に不利)であり、いずれ集中力が切れ攻撃を受けてしまうのは必至だ!「イヤーッ!」ファルコンクローの突きがニンジャスレイヤーの両肩に刺さる!

 

ニンジャスレイヤーの腕がダラリと下がる。これはテンケツが利いた。これで防御不可能だ!「これで終わりだ!ニンジャスレイヤー=サン!イヤーッ!」右手は心臓に、左手を喉仏に向ける。ここは数あるテンケツ中でも最も殺傷能力が高い場所だ、この二つのテンケツを突かれれば死は確実である!

 

「グワーッ!」ファルコンクローの指はテンケツを突いて……はいない!人差し指と中指は割り箸めいてへし折れている!「バカな!何故動ける!」激痛に耐えながら壁に持たれこみ困惑の目でニンジャスレイヤーを見つめる。読者の皆様の中にニンジャ動体視力の持ち主が居られれば一部始終を目撃出来ていただろう!

 

ファルコンクローの指がテンケツに刺さるその瞬間!ニンジャスレイヤーは人差し指と中指で横から挟み込み、そのままニンジャてこの原理で指をへし折ったのだ!ゴウランガ!何というワザマエ!かつてミヤモト・マサシは箸で飛んでいるハエを掴んだという逸話があるが、それを遥かに凌ぐワザマエである!

 

「何故だ!両肩のテンケツに刺さったはず!?まさか貴様!?」ファルコンクローのニューロンは答えを導き出す。テンケツ・カラテは繊細な技であり、少しでもテンケツから外れると効果は劇的に薄れる。そして相手の筋肉が厚いとテンケツに届かず効果が薄れる。

 

ニンジャスレイヤーはテンケツを受ける瞬間に肩を数ミリほど動かし、瞬間的にパンプアップさせ敢えて攻撃を受けた。これによりテンケツは完全に突けずニンジャスレイヤーは腕を動かせる状態だった。だが相手の油断を誘うためにあえて動かせないふりをしていたのだ!

 

手ごたえに違和感はあった。だがニンジャスレイヤーの様子を見てテンケツを突けたと思い込んでしまった。「大した奥の手だ、ファルコンクロー=サン」「グヌーッ」ファルコンクローのニューロンは後悔で染まる。カラテ不足だ。普段からテンケツ・カラテを使用していればこんなミスは起こさなかった。インガオホー!

 

「モータルを己の欲のために一方的に踏みにじる卑怯者にふさわしいカラテだ。その自慢の技は随分とナマクラのようだな。腕はこのように動かせる」ニンジャスレイヤーはファルコンクローの右指を全て掴み一気にへし折る!「グワーッ!」「左手も動かせるぞ」「グワーッ!」左指を全て掴み一気にへし折る!

 

「インタビューの時間だ、ファルコンクロー=サン。アマクダリについて喋ってもらおう」ニンジャスレイヤーは首を掴み持ち上げると壁に押し付ける。「知らない!何も知らない!俺は只の下っ端だ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」ナムサン!ニンジャスレイヤーの目突きでファルコンクローの右目を摘出!

 

「私もオヌシのカラテの真似事は出来る。もう片方の目を潰されたくなければ喋れ」「知らない!本当に知らない!」ニンジャスレイヤーは様子を観察する。目の前の相手は何も知らない。何人ものアマクダリニンジャも同じような反応をしていた。アマクダリは狡猾だ。下っ端からは組織を辿れないようになっている。

 

「ハイクを詠めファルコンクロー=サン」「俺の嗜好、生まれ変わっても、変わらない」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは首をへし折り、鍵を解錠しファルコンクローを個室の外に投げた。「サヨナラ!」ファルコンクローは爆発四散!ニンジャスレイヤーはファルコンクローの爆発四散跡を確認すると、便座に座る視線をブルーリリィに向けた。

 

だがその視線はすぐに別の場所に向けられる。背後を振り向くと十代のピンク髪の少女が立っていた。その人物は徐にアイサツする。「どーも、ニンジャスレイヤーさん、スノーホワイトです」

 

 

◇スノーホワイト

 

 スノーホワイトはネオサイタマ・ステイションの入り口を見上げる。この世界ではキョートは国内ではなく海外だ。自分の世界では成田空港のようなものだろう。中に入ってみるとそれに相応しく、豪華な内装と広大な広さであり人の数もネオサイタマで訪れた場所で一番多かった。残り1時間でフガシとアラレを探すのは魔法少女でも苦労するだろう。

 

「ファル、監視カメラの映像をハッキングして顔写真から判別できない?」

「やってみるけど、結構時間かかるぽん。スノーホワイトの方が早く見つける可能性が高いぽん」

 

 ファルのハッキング能力に期待したが、そこまで万能ではないか。ここは地道に足で探す。スノーホワイトは困った声が聞ける魔法が使えるので、他の魔法少女より人探しに向いている。

 気を取り直して魔法を使う。頭の中に大量の雑多な声が聞こえてくる。声を一つ一つ吟味していく。『早くトイレに行かないと漏れて困る」等普段で有れば手助けする声も聞こえてくるが、今はフガシの方を優先しなければならない。心の中で謝りトイレに間に合うことを祈りながらフガシの声を探索する。

 

(((オキナワに行けないと困る!アーちゃんとオキナワに行けないと困る!)))

 

 スノーホワイトの脳内に声が響く。オキナワ、そしてアーちゃん。ドラゴンナイトからフガシは友人のアラレをアーちゃんと呼んでいると聞いている。これは当たりだ。魔法の精度を高め場所を特定しようとするが声は途切れる。

 意識を失ったか、意識を失うなど普段ではそうそう無い。有るとしたら何かしらのトラブルに巻き込まれた場合だ。急がなければ、正確な場所は把握できなかったが大雑把な場所は把握できた。とりあえずそこに向かう。声が聞こえた場所に向かおうとするが思わず足を止める。

 

(((ニンジャを殺せないと困る!)))

(((ニンジャを殺せないと困る!)))

 

 この異常な困った声は間違いない。こんな物騒で殺意に満ちた声を発する人物は知る限りでは一人しかいない。ニンジャスレイヤーがここに来ている。何のために?まさかフガシはニンジャで、何かしらの理由で殺しに来たのか?

 そしてもう一人ニンジャスレイヤーのような異常者が居る。何者だ?スノーホワイトはニンジャスレイヤーと謎の異常者の声に耳を傾ける。その声はフガシの声が聞こえた場所に近づいていた。

 スノーホワイトはすぐに声が聞こえた場所に向かう。全力を出せば一分程度あればたどり着くが、こんな往来で全力を出して移動すれば確実に目立つ。目立たないように人間の走り程度の動きで移動する。

 その間にニンジャスレイヤーの声に耳を傾ける。相変わらず物騒な声を発しているがもう一人居るようで『ニンジャスレイヤーに遭遇して困る、殺されたら困る』という声が聞こえる。声からしてフガシではなく、別の人物だ。

 移動するにつれ声は大きくなり場所も正確に分かってくる。300メートル先のトイレだ。二人の声はまだ聞こえてくる。数秒後トイレに入ると思わず目を細める。男性が血まみれになっている。この様子だと既に死んでいる。

 その直後サヨナラという叫び声と爆発音が聞こえてくる。これはマウンテンストームが死んだ状況に似ている。ということはニンジャが一人死んだということだ。ニンジャスレイヤーか、別のニンジャか、それともフガシがニンジャだったのか?

 スノーホワイトは周囲を見渡す。一番奥のタイルと壁に爆発跡、そして個室の扉が破壊されている。破壊された扉の個室の中にはニンジャスレイヤーとフガシがいた。

 

「どーも、ニンジャスレイヤーさん、スノーホワイトです」

 

 とりあえずニンジャに会ったら挨拶をする。それがニンジャの常識であり敵意が無いことを示すことになる。

 

「ドーモ、スノーホワイト=サン、ニンジャスレイヤーです」

 

 ニンジャスレイヤーも返礼するように挨拶する。スノーホワイトはニンジャスレイヤーの様子を観察する。ここにはニンジャスレイヤーしか居ない。だが声は依然二人だ。誰かが潜んでいると考えたが、それも違う。謎の声はニンジャスレイヤーと同じ場所から聞こえていた。こんなケースは初めてだ。スノーホワイトは訝しみながら様子を観察する。

 ニンジャと勘違いされて攻撃される可能性があり、対応されるように全神経を集中させる。ニンジャスレイヤーは挨拶を終えるとスノーホワイトを見据える。相手も何故自分が居るのかと多少戸惑っているようだった。場の主導権を握ろうと問いかける。

 

「そこの男性は誰が?」

「私が入った時には死んでいた。ファルコンクロー=サンが殺したのだろう」

「そのファルコンクローさんは?」

「今しがた殺した」

 

 ニンジャスレイヤーは平然と答える。目の前の相手は謎が多い、ニンジャスレイヤーと物騒な名を名乗り、ニンジャに対して強迫観念のように殺せないと困ると声を発し、ニンジャを殺したと平然と言い放つ。何故ニンジャを殺すのだろうか?ニンジャに対して個人的恨みがあるのだろうか?

 

「オヌシは何故ここに居る?」

「ある人を探していて、その人がここに居ると分かったので、ここに来ました」

「それはファルコンクロー=サンか?」

「違います。そこにいるセンジョウメ・フガシさんを探していました」

「そのニンジャをか?」

 

 ニンジャスレイヤーはフガシを一瞥する。ニンジャスレイヤーの判断が正しいとすればフガシはニンジャか。だがフガシがニンジャだとしても、アラレのイジメや両親の死に対する関与しているかは分からない。改めて魔法で聞く必要がある。スノーホワイトは便器に座り気絶しているフガシを担ぎ上げた。

 

「その娘をどうする?」

「別の場所に移して、話を聞きます」

 

 ニンジャスレイヤーは特に邪魔することなくスノーホワイトの様子を見ている。一つの心の声で攻撃する意思は無いと分かっている。だがもう一つの声は『金星を殺せなくて困る』とけたたましく騒いでいる。ニンジャスレイヤーは行動する気はないようだが全神経を集中させながら移動する。すると肩にモゾモゾと動く感触が伝わってくる。スノーホワイトはフガシの体を壁に寄り掛からせ意識が覚醒するのを待った。するとフガシは目を開く。

 

「どーも、センジョウメ・フガシさん、スノーホワイトです」

「ドーモ、はじめまして、ニンジャスレイヤーです」

「……ドーモ、スノーホワイト=サン、ニンジャスレイヤー=サン、ブルーリリィです……あいつは!?」

 

 ブルーリリィは起き上がろうとするが上手く起き上がれず、横に倒れこむ。ファルコンクローにテンケツを突かれており、歩ける状態ではなかった。スノーホワイトは体を起こし元の状態に戻しながら答える。

 

「その人はもうここにはいません」

 

 あいつとはニンジャスレイヤーが殺したファルコンクローのだろう。死んだと言っても警戒されそうなので伏せておく。その答えを聞きブルーリリィは安堵の様子を見せる。その瞬間を見逃さずスノーホワイトは質問をした。

 

「マエダイラ・アラレ=サンがムラハチを受けている件で何か関与していますか?」

 

 単刀直入に聞く、この質問なら関与しているならば何かしらの困った声が聞こえてくる。スノーホワイトの魔法では虚偽は通用しない。次にフガシの両親の通夜で笑みを浮かべたことを聞く、悲しさのあまり動揺して笑ってしまったなら、それでいい。

 だが親が死んで嬉しいほど仲が悪かった。あるいは親を始末できて嬉しかったのから笑った。嫌な想像がスノーホワイトの脳裏に過る。

 

「アーちゃん……アーちゃん!アーちゃん!」

 

 フガシは錯乱したようにアラレの名前を大声で呼び、鬼のような形相を浮かべ目が発光する。その瞬間スノーホワイトは膝をついた。

 

◇ブルーリリィ

 

 気づけばブルーリリィの意識は宇宙空間のような場所に彷徨っていた。上も下も右も左も果てしない闇が続く、分かるのは現実の空間ではないということだ。

 そんなことより何とかしないと!ファルコンクローを殺さないと!

 意識は現状の分析からファルコンクロー打倒へ向ける。ジツも通用しない、体も満足に動かせない。だが殺さなければならない。すると下のほうに光が見える。ブルーリリィは吸い寄せられるように光源に向かって行く。そこは部屋だった。

 見た瞬間違和感を覚えた。この部屋に見覚えがあるとも言えるし、見覚えが無いとも言える。普通なら見たことあるか無いかの二択だが、どちらとも取れる間取りだった。しばらく考え込むと違和感の正体が分かった。

 この部屋は自分とアラレの部屋が混じったものだ。ベッドは自分の部屋の物で、カーテンはアラレの物だ。間取りも二人の部屋が混じったようなものになっている。二つの部屋は知っているが、それが混じると見たことないものになる。それが違和感の正体か。

 すると部屋の中央に人の形をした影が現れる。それは何故か女性であることは分かっていた。

 

「ドーモ、センジョウメ・フガシです。貴女が私の中に居るニンジャね?」

 

 フガシの答えに影はコクリと頷いた。

 

「単刀直入に言う、力をもっと頂戴!ファルコンクローを殺さないとアーちゃんとオキナワに行けない!私には分かる。貴女はもっと力を持っているって!この通り」

 

 フガシは土下座して頼み込む。土下座はネオサイタマに住む人間には最大限の屈辱で有り、胸中には恥辱で溢れているがアラレと過ごすために恥辱に耐えた。影はフガシに土下座をやめるように促し、首を横に振った。

 

「どうして!?宿主の私がピンチなんだよ!私があのヘンタイにファックされるってことは貴女もファックされるってことだよ。最悪死ぬかもしれない、死んでもいいの!?」

 

 フガシは影の肩を握りしめ頼み込むが、影は首を横に振るばかりだった。

 

「なら力づくだ!イヤーッ!」

 

 影を押し倒すと馬乗りになり顔を掻きむしる。影も反抗するようにフガシの顔をかきむしり、髪の毛を引っ張る。そこからは引っ掻き、噛みつきなど子供の喧嘩のような攻防が繰り広げられる。

 今までのフガシなら影の気が変わるという環境の変化を待ち行動を起こさなかった。だが今は暴力という行動を起こし、影の気を変えさせようとした。暫くすると影は勘弁してくれというように手を伸ばす。すると光の粒子のようなものがフガシの体に纏わりついた。

 

「最初からそうしてよ」

 

 フガシは満足げに呟く。力が奥底から湧いてくる感覚、これならファルコンクローをジツで殺せる!すると重力で落下するようにフガシの体が浮上していき、影とその部屋は瞬く間に視界から消えていった。

 

「どーも、センジョウメ・フガシさん、スノーホワイトです」

「ドーモ、はじめまして、ニンジャスレイヤーです」「……ドーモ、スノーホワイト=サン、ニンジャスレイヤー=サン、ブルーリリィです……あいつは!?」

 

 目を開くと同世代の少女と赤黒のシノビ装束を着た男がアイサツした。ブルーリリィは本能的にアイサツする。両方とも知らない人物だ。スノーホワイトは自分の名前を知っていたが、同じ学校の生徒か?だがこのパンクスのような派手な色の髪にこの端麗な容姿なら、学校中で噂になり顔ぐらい知っているだろう。そしてニンジャスレイヤーは値踏みするような目で見据えていた。

 ブルーリリィは瞬時に状況判断を始める。体は上手く動かない、そのようにした犯人のファルコンクローがいない。何故いない?何が起こった?

 

「その人はもうここにはいません」

 

 スノーホワイトは先回りするように答え、それを聞き安堵する。これで当面の危機は去った。あとはすぐにオキナワに向かうだけだ。とりあえず二人にジツをかけ新幹線まで運ばせるか、今後の算段を立てると思考に割って入るように質問された。

 

「マエダイラ・アラレ=サンがムラハチを受けている件で何か関与していますか?」

 

 その瞬間ブルーリリィの顔が強張る。スノーホワイトもジツについて知っている、ということはファルコンクローの仲間だ!ニンジャスレイヤーも仲間だ!私を殺しに来た!アーちゃんとオキナワに行けない!アーちゃんと二度と会えなくなる!イヤだ!ならば殺すしかない!二人を敵と瞬時に認定し、ジツを使った。人型の陰から与えられた力により威力はファルコンクローに使用したよ時より跳ね上がっていた。

 

 

◇スノーホワイト

 

 脳に別の命令が植え付けられ強制的に実行されそうになるような不自由感、これがフガシのジツか、そして全ての真相とフガシの胸中を知った。

 

(((ジツを使ってアーちゃんをムラハチさせていたと知られたら困る)))

(((両親とアーちゃんの両親をジツで殺したと知られたら困る)))

(((ジツでサラリマンを自殺させて金を得たと知られたら困る)))

 

 スノーホワイトはゾっとする。フガシがした行為は予想を遥かに邪悪だった。理由は知らないが両親と友達の両親をその手にかけ、さらに金のために他の人も殺した。その所業は今まで捕まえた悪人の中でも上位に入るほどの悪の所業だ。何故そんなことができる?ニンジャは皆そうなのか?

 

(((アーちゃんとオキナワに行けなければ困る!)))

 

 ひと際大きい声が脳内に響く、この声に比べれば他の声はひどく小さい、いかにジツでムラハチさせた等の行為を知られるのは些細な問題で、アラレとオキナワに行けないことが重大な問題であるかを表している。

 

(((この二人には死んで口封じしないと困る)))

 

 ふと気づくと右手でルーラを取り出し、刃を喉元に向けていた。スノーホワイトは自身の手元を見て驚愕する。魔法の袋からルーラを取り出し、刃を喉元に向ける。それらの一連の動作をとった記憶がまるでなかった。フガシにジツをかけられていたクラスメイト達の言葉の意味を理解できた。

 したくないのにムラハチしていて困る。それはこういう意味だったのか、スノーホワイトもいつの間に意図しない動作をさせられていた。そして気がつけば刃を喉元に近づいていた。このジツは危険だ。スノーホワイトは意識を強く持ちジツに抗う。

 

 スノーホワイトはニンジャスレイヤーをチラリと覗く。するとスノーホワイトと同じように膝をつき自身の首を両手で握っていた。これは自殺しろと命令されているのだろう。速く状況打開しないとマズい。

 

「一つ聞かせて……どうして……アラレさんをムラハチさせたの?アラレさんとは友達なのに何故傷つけるの?」

 

 時間を稼ぎジツを打開する方法を考えなければ、スノーホワイトは必死に言葉を紡ぎブルーリリィの気を逸らそうとする。この質問はあわよくばジツの威力が弱まればという僅かな期待があった。そして純粋に聞きたい疑問でもあった。

 

「アーちゃんと元のように仲良くなるためには必要だった」

「それならアラレさんにジツをかけて好意を持たせればいい……貴女のジツならそれができるはず……」

 

 その質問を聞くとフガシは鬼のように目を開いていた表情がさらに見開く。それは修羅のようだった。

 

「そんなことをしても意味がない!私はジツで歪められた意志ではなく、本心からアーちゃんに好かれたいの!」

 

 好きな相手を自分の意志で傷つけるのは許容して、ジツで自分に好意を抱かせるのは許容しない。スノーホワイトはフガシの主張に怒りを覚えた。

 ムラハチはとても辛いと聞いている。フガシも無論知っているだろう、それを大好きな人に好かれたいという個人的な理由で、アラレをムラハチにあわせた。アラレはムラハチで苦しんで、苦しみのあまり自ら命を投げ出そうとすらしていた。そんな苦しみを好きな友人に味あわせたのか。

 

「どうして…両親とアラレさんの両親を殺したの?」

 

 もう一つ質問を投げかける。その声には怒気が籠っているが、フガシは興奮状態なのかそれに気づかず声を張り上げ饒舌に語る。

 

「おとうさんもおかあさんも!アーちゃんのおじさんもおばさんも!私とアーちゃんの世界にいらない!世界は私とアーちゃんだけ!それ以外のモータルなんて私とアーちゃんの世界の餌だ!奪って当然だ!」

 

 自分勝手で我儘で思い通りにするために平気で暴力を行使し解決しようとする。目の前にいるニンジャはクラムベリーの子供達だ。このニンジャは止めなければならない。スノーホワイトは歯を食いしばりジツに対抗しようとする。

 

 スノーホワイトは何かを感じ取り反射的にニンジャスレイヤーがいる場所に視線を向ける、そこにはニンジャスレイヤーが立ち上がりフガシを見下ろしていた。その姿を見て体を震わせる。

 憎悪、ニンジャスレイヤーの体には憎悪が漲っていた。憎悪が可視化されたように辺りが陽炎のように歪んでおり、ニンジャスレイヤーと謎の声はシンクロし『悪しきニンジャを殺せないと困る』と言っている。人はここまで憎悪を漲らせることができるのか?ブルーリリィもスノーホワイトと同様に感じ取ったのか、体を強張らせた。

 

「私とアーちゃんの世界にそれ以外の人間は要らない。違うな。オヌシがこの世界に要らないのだ。オヌシは駄々をこね、周りの物を壊す幼稚園児だ。そんな者に好かれるアーちゃんが気の毒でならぬ。アーちゃんの為にジゴクに送ってやる」

 

 ニンジャスレイヤーはブルーリリィを罵倒しながら近づいていく。ブルーリリィの目がさらに発光し、スノーホワイトの目からみてもジツの威力が増しているのが分かる。そのせいかニンジャスレイヤーはすり足で数センチ距離を詰めるのがやっとだ。

 ニンジャスレイヤーに敵意を向けているということはスノーホワイトへの注意が疎かになり、ジツの威力が弱まるはず。だがその考えとは裏腹にジツの威力は増しており、スノーホワイトは喉にルーラを突きささないように抗うのがやっとだった。

 

 お互い動かないが二人の攻防は熾烈を極めた。ジツで殺そうとするブルーリリィとジツに抗い殺そうとするニンジャスレイヤー、お互い玉のような汗を浮かべる。二人の動きがコマ送りのように動かないが確実にニンジャスレイヤーが距離を縮めていた。そしてニンジャスレイヤーは貫手の形を作りゆっくりと腕を引いていく。

 

「私はアーちゃんとオキナワで!二人で幸せに暮らしたいだけ!小学校までは二人一緒だった!でも中学やアーちゃんのおじさんとおばさんが!世間が私たちを引き離した!だからニンジャの力で取り返した!それの何が悪いの!私たちの邪魔をしないで!殺したなかに知り合いでもいたの!?」

「おらぬ。だが殺す」

 

 ブルーリリィは恐怖と怒りが綯交ぜになった表情だった。自分のジツが利かず憎悪の化身が殺そうと迫りくる恐怖、それも敵でも何でもない人間がこれほどまでに憎悪を漲らせ殺そうとするのだ。その恐怖は筆舌に尽くしがたいもので、理不尽とすら思っているかもしれない

 

「ハイクを詠め」

 

 

◇ブルーリリィ

 

 

「ハイクを詠め」

 

 何故死なない!?迫りくる恐怖を排除しようとブルーリリィは人型の影から力を貰おうと必死に対話を試みる。だが影からの応答は全くない。

 力も増した。アーちゃんとオキナワに行き幸せな生活を送るという確固たる意志もある。私はアーちゃんが大好きだ、世界で一番好きだ。アーちゃんの為なら全てを犠牲にして投げ出せる気持ちもある。物語なら強い意志を持つ自分が勝つはずだ!それともニンジャスレイヤーの意志のほうが強いとでも言うのか!?敵でもないニンジャに何故それほどまでに憎悪を燃やせる!?

 

「アーちゃんとオキナワに行くんだ!」

 

 ブルーリリィは叫ぶ。これはハイクではない、二人を殺しアラレの元に行くという自分の意志を言葉にした決意表明である。

 ブルーリリィの目がさらに輝きを増す。それは残りの命を全て燃やし尽くすような輝きだった。だがその光は一瞬であり、光が消えると同時にニンジャスレイヤーの手がブルーリリィの胸に深々と刺さっていた。

 脳内に数々の映像が浮かび上がる。これがソーマト・リコールか、本当にあるのだな。どこか他人事のように映像を眺める。

 その映像には両親も友人も誰一人映っておらずアラレだけ映っていた。映像は過去の見覚え有るものから、見覚えのない映像に変わる。

 見たことのないような青い空、照り付ける太陽の熱、むせ返るような樹木の匂い、さざ波の音、そんな海辺で二人の女性が飲食店を切り盛りしている。見覚えのない姿がだがすぐに分かった。一人は自分、もう一人はアラレだった。

 肌は若干焼け、太陽のような笑顔は変らずエネルギーに満ち溢れている。やっぱり美人だな、本当にオキナワが似合う。

 

 たどり着いたはずの未来、だがニンジャスレイヤーに潰された。

 

「ごめんね、アーちゃん」

 

 勝てなくてごめんね。弱くてごめんね。一人にしてごめんね。一つの言葉に多くの意味が込められていた。ブルーリリィは体の奥からエネルギーが徐々に溢れ出るのを感じていた。これが溢れ出れば死ぬだろう。あと何秒持つだろう。せめて一目でもアーちゃんを見たかったな。

 

(((フーちゃん!)))

 

 アーちゃんの声が聞こえる。幻聴にしてはやけにハッキリしているな、すると今度はアーちゃんの姿が見える。幻覚かと思ったが目を凝らすと確かにアラレの姿があった。

 

───

 

 

「フーちゃん」フガシの帰りを待っていたアラレのニューロンにインセクト・オーメンが過る。少し前のアラレなら気にしなかった。だがムラハチされ、フガシの計画通り依存体質になりフガシが居なくなることを恐れているアラレには無視できないものだった。アラレはIRC通信機で通話を試みるが反応はない。

 

アラレは別のボタンを押す「この先前方500メートル、上に30メートルドスエ」通信機から電子マイコの声が聞こえてくる。これはアラレがフガシの通信機に密かに備え付けたオナタカミナ製の探知機である。アラレの両親はオナタカミナ系列に勤めており、親のコネで調達していた。

 

アラレは音声に従うように走り出す。インセクト・オーメンが気のせいで、フガシに笑われる。きっとそうに違いない。不安を払いのけるように全力で走り続ける。「イッテエナコラー!」アラレの肩がパンク風の男にぶつかる。「スミマセン」「スミマセンで済むかコラー!」パンクはアラレを恫喝!

 

「スミマセン、急いでいるので」「急いでるで済むならマッポはいらねえぞコラー!」パンクは執拗に絡む。このまま恫喝すれば金を巻き上げられると踏んだのだ、このまま金を取られてしまうのか!?「うるさい!邪魔しないで!」アラレはフロア中の人が聞こえるような大声で凄む!

 

その大声にパンクは思考停止、その間にアラレは走り始める。アラレにとって今は人生で屈指の緊急事態であり、ASAPで向かわなければならない。そのキアイは凄まじく、それをカツアゲで止めるならばソンケイが必要だ。一介のパンク程度には不可能!

 

「あと30メートルドスエ」アラレの目の前には男性トイレがある。女性が男性トイレに入るのは非常識で品がなくムラハチ対象である。だがそんな考えはアラレのニューロンの片隅にもない!決断的に男性トイレに入る。

 

「フーちゃん!フーちゃんニンジャナンデ!?ニンジャナンデ!?アババババー!」ナムサン!NRSだ!目の前に飛び込んできたのは血まみれでニンジャ装束を着たフガシ、そしてニンジャスレイヤー。この二人を見ればNRSを発症するのは必然である!

 

ニンジャスレイヤーとスノーホワイトは驚きの表情でアラレを見る。ブルーリリィのジツを受けたせいで周囲への注意が散漫になり、アラレの接近に気づかなかったのだ。「アーちゃん!」ブルーリリィはワームムーブメントで近づく。「アーちゃん!」「アバババー!あれ……フーちゃん?」「フガシだよ……本物のアーちゃんだ。会えないと思った……」

 

NRSで危険と察したブルーリリィはアラレにジツを使った。それにより意識をブルーリリィに集中させ、ブルーリリィもニンジャでないと思い込ませた。それによりNRSの症状を強引に治したのだ。「フーちゃん……その傷どうしたの!?早く医者に行かないと!」アラレはブルーリリィを抱きかかえ、血が零れないように手で抑える。

 

だが血はアラレをあざ笑うように零れ落ち床を赤く染め上げる。「最後に……アーちゃんに会えて……よかった……」「最後ってどういうこと!?」「私はもう死ぬ……オキナワには一緒に行けなさそう……ゴメンね……」「イヤだ!死んじゃヤダ!」アラレの顔は涙でグシャグシャに濡れ、ベイビーめいて泣き叫ぶ。

 

「それは無理……」「ならアタシも死ぬ!」ブルーリリィは僅かに目が開く。好きな人と心中か、それは最良の結末の一つかもしれない。だがすぐに考えを打ち消した。他の人間ならいくらでも踏みにじれる。心中するならいくらでも付き合わせる。だがアラレはダメだ。自分のエゴでアラレを殺せない。

 

「ダメだよ、生きていればいつか良いことあるよ……」「フーちゃんは私の太陽!私の全て!フーちゃんが居ない世界なんて意味ないし、生きられない!」ブルーリリィは唇を噛みしめる。自分だけに愛を向けさせようと依存させた。その結果元々持ち好きだったアラレの強さを消してしまった。

 

今のアラレはバイオミニ水牛めいて弱弱しい。依存体質にさせたのは悔やんでいない。だがブルーリリィが生きているのが前提だ。死んでしまえば依存体質は枷だ。そんな軟弱な精神ではどこにいっても生きられない。ならばその枷を外す。それがアラレに最後に出来ることだ。

 

「アーちゃん、今まで楽しかった……ありがとう」ブルーリリィはアラレの頭にそっと手を添える。(((フジキド!今すぐあのニンジャを殺せ!あれはイザナイ・ジツ!バビロン・ニンジャが死に際に最後に放ったジツ!周囲一帯の人間は操られて死んだ。あれを喰らえば儂ならともかく、お前の貧弱なカラテでは耐え切れん!)))

 

ニンジャスレイヤーは状況判断する。ブルーリリィは邪悪なニンジャだ、道連れでジツを使う可能性は有る。コンマ03秒でスリケンを生成し後頭部に投げ込む。だがスリケンは投げずブリッジ回避!スノーホワイトがルーラの石突でニンジャスレイヤーを攻撃!そのままニンジャスレイヤーを攻撃する。錯乱!何が起こった!?ジツに操られたのか!?

 

否!スノーホワイトは正常である!ナラクの助言を参考にニンジャスレイヤーはブルーリリィを危険と判断した。一方スノーホワイトは魔法で声を聞きブルーリリィが周囲に危害を加えるつもりはなく、アラレの為に何かをしようとしていると判断した。ブルーリリィは邪悪で歪んでいるが、アラレを思う気持ちは本物だ。決して害は加えない。

 

だがニンジャスレイヤーは攻撃態勢に入り、口で伝えても間に合わないと判断しインターラプトしたのだ!それは完全な敵対行動だった。ニンジャスレイヤーは敵意を向けるがスノーホワイトは構わず突く。ニンジャスレイヤーはジュージツでいなす。この間ニンジャスレイヤーが攻撃をブルーリリィに攻撃を加えるのは不可能である。

 

「だいすき……ずっと……またね」二人の攻防を尻目にブルーリリィはアラレの額に口づけしジツを使う。その瞬間アラレは糸が切れたジョルリ人形めいて崩れ落ちる。ブルーリリィは優しく受け止め横にさせ胸ポケットに何かを入れた後トイレの個室に入る。「サヨナラ!」ブルーリリィは爆散!個室に入ったのはアラレを巻き込まないためだった。

 

スノーホワイトは爆発四散を見届けるとルーラを離しハンズアップする。ニンジャスレイヤーは無防備な首元にチョップを放つが数センチ手前で止める。敵意が無いのを感じ取っていた。「どういうつもりだ?」「非礼をお詫びします。ただブルーリリィさんは私たちやアラレさんに害意はなく、アラレさんの為に何かをしようとしていると分かりました」

 

「だから、私が殺さないようにインターラプトしたと?」「はい、強引な手段をとってしまい申し訳ありません」「何故そんなことが分かった?」「私のジツで」ニンジャスレイヤーはニンジャセンスを駆使し真偽を確かめる。「本当のようだな」ニンジャスレイヤーは拳を収めた。

 

ニンジャスレイヤーはブルーリリィの爆発四散跡を確かめると、用が済んだとばかりに出口に向かう。「待ってください」スノーホワイトが声をかけニンジャスレイヤーを呼び止めた。

 

 

◇スノーホワイト

 

 スノーホワイトは駅構内の医務室前のベンチで黙って座り込む。あの後倒れこんだアラレを回収し駅の医務室に運んだ。そのまま立ち去ってもよかったが、容体も気になり、ブルーリリィが最後にした何かの影響が出る可能性もあるので去るわけにはいかなかった。

 

「フガシがニンジャで、ニンジャスレイヤーが居て、ニンジャスレイヤーがフガシを殺した。色々有りすぎぽん」

「うん」

「それで、ドラゴンナイトに報告するぽん?」

 

 ファルの問いにスノーホワイトは黙り込む。フガシはニンジャであり、アラレのムラハチに関与し、両親とアラレの両親を殺し、他者を踏みにじった。そしてニンジャスレイヤーに殺された。

 ドラゴンナイトの気質からしてフガシを許すことは無いだろう。だがニンジャになる前は世話になっており、それなりの好意を抱いているのは分かる。一方ニンジャスレイヤーに対してもクレープ屋の一件での騒動でその強さに尊敬の念を抱いているのも知っている。

 ある程度好意を抱いていたフガシをニンジャスレイヤーが殺した。果たして割り切ることができるのだろうか?どの程度話せばいいか決めかねていた。スノーホワイトはドラゴンナイトへの報告については一旦保留し、ニンジャスレイヤーについて思考を移し、先ほどの問答を思い出す。

 

「どうしてニンジャを殺すのですか?」

 

 ニンジャスレイヤーはニンジャと相対すると憎悪を漲らせていた。最初は因縁がある敵でもいるのかと思っていた。だがブルーリリィとは何の因縁もなかった。もしブルーリリィが魔法少女だったら、スノーホワイトはさきほど以上に怒りを募らせていただろう。

 だがニンジャスレイヤーほど憎悪を漲らせることはない。何故あれほどまで憎悪を漲らせニンジャを殺すのか、それがまるで理解できなかった。

 

「悪しきニンジャは殺す。それが私のエゴだ」

 

 端的に言い放つとトイレから去っていた。

 

 ニンジャスレイヤーを見ると心がざわつき、言いようのない嫌悪感を抱く、何故嫌悪する?ニンジャを平然と殺したから?ニンジャと云えど少女を躊躇なく殺したから?自問自答を繰り返し、答えを出す。

 

 スノーホワイトは自分の主義主張を通すために魔法少女狩りとしての活動をおこない、多くの悪い魔法少女を逮捕してきた。時には暴力を駆使し相手を傷つけて逮捕したこともある。世間では正しいというかもしれないが、自分のエゴを通しているだけだ。

 自分勝手で我儘で思い通りならないと暴力で解決する。結局は忌むべきクラムベリーの息子そのものだ。それでも理想のために活動している。

 

 一方ニンジャスレイヤーも悪しきニンジャを殺すというエゴで行動している。人を殺す権利は誰にもない。正当防衛以外はどんなに相手が悪かろうが人を殺せば罪になり罰せられる。それがスノーホワイトの住む世界のルールであり、殺人という行為に対して忌避感を持っている。

 だがそんなことはお構いなしにニンジャスレイヤーはニンジャを殺す。ブルーリリィが言う通り、敵でもないのに首を突っ込み、勝手に憎悪を募らせ殺した。その姿は過激で理不尽で有り、多少なりの嫌悪感を募らせる。だが結局は自分も同じだ。

 

 ルールを無視し、自分の価値観で行動し首を突っ込み、時には相手を傷つける。当初思い描いていた理想の魔法少女とはまるで違う。

 夢見る少女の時に描いていた理想の魔法少女とは遠く離れてしまったのは分かっている。それではダメだった。描いた理想の魔法少女のように選ばず何もしなければ誰も助けられず、後悔するばかりだ。だから後悔する前に選び行動する魔法少女になりたいと思った。

 ニンジャスレイヤーも後悔する前に選び行動しているのだろう。だがそのやり方は過激だ。それは自分の合わせ鏡のようであり、自分はあそこまで酷くないと思うと同時に、自分も人から見たらこう見えていると責められているようだ。

 すると医務室からアラレが出てきた。足取りは軽くはないが、特に異常はなさそうだ。スノーホワイトはアラレの元に歩み寄る。

 

「あれ?シロコ=サン?どうしたの?」

「トイレで気絶していたので、念のために医務室まで運びました」

「そうか、また迷惑かけちゃったね、あれ?最初は何で世話になったんだっけ?」

「学校近くの建築現場で」

「建築現場?あんな場所行ったことないよ」

 

 自殺しようとしたのを助けたことを覚えていない?普通なら覚えているはずだ。記憶の操作、これがブルーリリィのした何かだろうか?スノーホワイトはその事には触れず、記憶を確認するために探りを入れる。

 

「何でここに?」

「ちょっとオキナワに行こうと思ったんだよね。一人で」

「一人?」

 

 スノーホワイトは思わず聞き返す。ブルーリリィとアラレでオキナワに行くはずではなかったのか、それを一人でと言った。これは明らかに異常だった。

 

「センジョウメ・フガシさんは?」

「センジョウメ・フガシ?誰それ?」

 

 この答えでブルーリリィがアラレにした何かを理解した。ブルーリリィはジツで自身の存在を記憶から消したのだ。最後に『私のことを覚えていたら困る』という声が聞こえた。    

 スノーホワイトから見てもアラレは危うかった。ブルーリリィに完全に依存し、後追い自殺すると泣きじゃくった。あの状態では遅かれ早かれ自殺していただろう。

 だから存在を消した。依存する存在を忘れてしまえば、死んだことを知ってもショックを受けることは無い。

 ブルーリリィはアラレに本心で愛されたくて、ムラハチさせて愛を向けさせようと歪んだ行動をとった。それでも決して直接アラレにはジツを使い愛されようとしなかった。そして最後にポリシーを曲げてアラレにジツを使った。それは自分の為ではなく、アラレの為だった。ブルーリリィもアラレの記憶に永遠に残りたいと思ったはずだろう。それでもアラレのために最悪な結末を受け入れた。

 

 愛されるために行動した中で最後はアラレの中から自身の存在は消えた。結果からすればブルーリリィの行動は何一つ意味がなく、周囲に不幸をまき散らしただけで自身にとって最悪の結末を迎えただけだった。

 ブルーリリィの行為は決して許されない。ニンジャスレイヤーが現れなくても、いつもの魔法少女狩りの活動のように暴力を駆使しても止めた。だがアラレへの愛する気持ちは歪んでしまっても本物だった。元々歪んでいたのか、ニンジャになって歪んでいたのか分からない。だがニンジャにならなければ健全な関係を築けたかもしれない。

 

「あれ何か、入ってる?」

 

 アラレはポケットに手を入れる。そこには青い何かの花を閉じた栞が入っていた。それをまじまじと見つめる。

 

「ずっと、だいすき、またね。なんだろうこれ?でも暖かい気分になる。お守りタリスマンにしようかな」

 

 アラレは無意識に言葉を発し、栞を胸に当て大切そうに抱きかかえた。

 

 

だいすき ずっと またね 終

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