ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター 作:ヘッズ
申し訳ありません
◇ファル
時刻は午前0時を過ぎていた。だがネオン看板はギンギンに光り輝き夜ということを感じさせない、呼び込みの声やスピーカーから流れてくる音で常に騒がしい。そしてキャバクラやホストクラブなどの風俗店がそこらに立ち並んでいる。
行きかう人も異様に筋肉が発達した男性、顔中にピアスを刺している白塗りの女性、あきらかにヤクザな男性、一目で同性愛者とわかる男性同士のカップルや女性同士のカップルなど道端で歩いていたら振り返って二度見してしまうもしくは視線を意図的に逸らしてしまうような強烈な人物が多くいた。
ネオサイタマという都市は猥雑という印象を持っていたが、この街はその猥雑さを濃縮したようだった。それがニチョーム。巨大繁華街ネオカブキチョの一角にあるストリートであり、スノーホワイトとファルは今そこにいた
スノーホワイトがニチョームに足を運んだ理由、それはアンダーグランドな部分だろう。ニチョームは非合法な店が多くアンダーグラウンド的な側面があると聞いた、そういったところには一般的では流れない情報も集まってくるものである。これまでの聞き込みで情報が得られなかったということはフォーリナーXもアンダーグラウンドに潜んでいる可能性があると踏んだようだ。
今はドラゴンナイトはおらずスノーホワイト単独で出向いている。その理由は街に着いてすぐに理解できた。これは刺激が強すぎる。コンビニにある18禁の本やアダルトビデオ的な商品を販売している店の看板には女性の裸体の写真が堂々と展示され、キャバクラの客引きはほぼ裸体のような格好で過剰な接触でおこなっている。さらに「SMマイコ」「ハードレズビアンプレイ」など倒錯的な需要を満たす店も建ち並んでいる。
元の主人であり魔法少女に一家言あるキークがスノーホワイトがこの街に訪れていると知ったら、魔法少女がこんな場所に訪れるなんて穢らわしいと憤慨するだろう。
ネオサイタマの中学生がどれくらい性的なことへの興味と理解があるかはわからないが、スノーホワイトが居た世界の中学生を想定するなら刺激が強すぎる。ちなみにスノーホワイトも今ではいつも通りの鉄仮面だがここに訪れた当初は扇情的な看板から露骨に目を逸らし挙動不審だった。
スノーホワイトはこのニチョームに来てからも従来と変わらない行動をしていた。人助けをしながらフォーリナーXについて聞きまわっていた。だがそれがファルには気がかりだった。
従来と変わらず人助けと善行をしており、例えヤクザのような反社会的組織だろうが困っている人がいれば乗り込んでいた。不当に搾取される人を助けるスノーホワイトの行動は社会的から見て正しいが反社会的組織からしてはたまったものではない。
特にヤクザはメンツを気にするものであり、スノーホワイトの行動はヤクザ達に命を狙われても不思議ではない。ファル自身はヤクザに狙われることはさほど重要視していなかった。現地に乗り込みヤクザより危険なテロ組織を相手に紛争を止めたスノーホワイトにとってヤクザの組の一つや二つに狙われることは何の問題もない。
だが問題はニンジャの存在だ。反社会的勢力には暴力のプロフェッショナル、つまりニンジャが居る可能性が高い、厳しいルールがある魔法少女でもカラミティメアリを筆頭に悪事に手を染める魔法少女もいる。ニンジャにも魔法少女のようにルールがあればいいが、恐らく無いだろう。
それにニンジャが出てくるならまだマシなほうだ。最悪ニンジャスレイヤーから聞き出したアマクダリという組織の縄張りだったら事を構える事になるかもしれない。それだけは避けたい。スノーホワイトはファルの心配をよそにいつも通り、道端に落ちているゴミなど拾うなどしながらニチョームを散策していた。
「ドーモ、カワイイね。キャバ嬢やってみない?チヤホヤされるよ」
安っぽいスーツを着た男性がスノーホワイトに声をかけてくる。キャバクラのスカウトか何かだろう。ホストクラブのキャッチ等から声はかけられていたが、キャバクラのスカウトは初めてだった。スノーホワイトの世界では未成年をキャバクラ嬢として就労させれば一発で摘発され閉店に追い込まれる。明らかな未成年をスカウトするという事はネオサイタマにはそんな法律が無いのか、法律を無視しなければならないほど切羽詰まっているのか。スノーホワイトは無表情を作り早歩きで移動するがスーツの男も小走りで着いてきた。
「キミなら直ぐにナンバーワンになれるよ!そしたらお金が貰える!」
その言葉にスノーホワイトの移動速度が僅かに落ちる。スーツの男は脈有りと判断し捲し立てるように勧誘文句を並べる。
「ナンバーワンになってカチグミと結婚!タマノコシ!ニチョームドリーム!」
だがスノーホワイトはそれらの言葉に靡くことなく結構ですと、キャッチセールを断るような表情を見せスピードを上げスーツの男性を捲いた。
「キャバ嬢ぽんね、どれくらい儲かるぽん?」
「分からないよ」
「スノーホワイトなら手術費ぐらいすぐに儲かるぽん」
ファルの言葉にスノーホワイトは一瞬悩まし気な表情を見せた。
ニンジャ猫のマタタビが重傷を負った為手術を行い数日ほど入院した。その手術費と入院費はドラゴンナイトが捻出した。言葉では仲間の為なら当たり前と強がっていたが、欲しい物を買うのを諦め全財産の半分を失った。その困った声はスノーホワイトに聞こえていた。
本来なら年長者である自分が出すべきであるのに、年下に貯金を切り崩しさせた事をひどく責めていた。
どうにかして金を稼げないかと考えていたが予想以上に困難だった。まずはバイトをすることを考えたが住所不定の女子高校生を雇う一般企業はネオサイタマにすら存在しなかった。
次に困っている人を助けた時に心ばかりの金銭を援助してもらうように提案したが、スノーホワイトは断固拒否する。利益目的で魔法少女の力を使ってはならないというのがスノーホワイトのポリシーであり、監査部から支給される給金も一切手を出していない。
「ドラゴンナイトはいいって言っているから払わなくていいんじゃないかぽん?金を払う意志はあるけど金を得られないんだから仕方がないぽん。きっと分かってくれるぽん」
「ダメ、善意に甘えないでしっかり払わないと」
「じゃあ、魔法少女の力で稼ぐぽん。一回の人助けで500円徴収すれば結構稼げるぽん。500円なら良心的だと思うぽん」
「それはできない」
「わがままぽん」
ファルはあからさまにため息をつく、高潔と言えば聞こえはいいがこれは融通が利かないというやつだ。多少自分を曲げればいいのに、本当に頑固だ。
バイトはできない、魔法少女の力を使って金を稼ぎたくない。わがままな主人の要望に応えるアイディアはファルには思い浮かばなかった。
ファルとスノーホワイトはどうやって金を稼ぐかという議題で議論を交わしながら、ニチョームを探索するなか、魔法で何かを感知したのか怪しまれない程度の早歩きでどこかに向かう。50メートル先を右に曲がり、次の角を左に曲がると店の裏口のような場所で酔っ払った女性がゴミ袋にもたれ掛かり、ここには相応しくない真面目そうなサラリーマン風の男性が心配そうに見つめながら介抱していた。
あの酔っぱらった女性の声が聞こえたのか、だが男性が介抱してくれそうなのでスノーホワイトは用済みだろう。だがファルの予想とは裏腹にスノーホワイトは二人に近づく、男性と一言二言かわしていると男性が突然襲い掛かり、スノーホワイトは一瞬で男を気絶させた。
「何で攻撃したぽん」
「介抱する名目で家に上がって、金目の物を盗んで暴行しようと思っていた」
「酷い野郎だぽん」
一見紳士風に見え親切心で介抱していると思っていたがそんなことを企んでいたのか。恐らく自分のする行為がバレたら困るという心の声が聞こえたのだろう。スノーホワイトの魔法の前では隠し事はできない。ファルはスノーホワイトの魔法の厄介さを改めて認識した。
「で、この酔っ払いと、この犯罪者はどうするぽん?」
「どうしようか、でもその前に」
スノーホワイトが後ろを振り向く、そこには女性が立っていた。黒髪のショートヘア、年齢はスノーホワイトと同じぐらいだろうか恰好はジャージ姿でこの歓楽街にはそぐわない。すると女性はスノーホワイトに話しかけてきた。
「ドーモ、初めまして、ヤモト・コキです」
◆ヤモト・コキ
「どーも、ユキノ・ユキコです」
ヤモトはユキノ・ユキコと名乗る少女を観察する。年齢は同じぐらいか少し下ぐらいか。容姿は整っておりニチョームのキャバクラスカウトなら誰しも声をかけるだろう。美人というよりカワイイという印象だ、そして体つきもそこらへんにいる高校生と変わらない。そんな年頃の女性がこの時間にこの場所に居る事は普通ではない、何か訳が有るのだろう。
それだけだったら訳ありの少女で済み、危ないから家に帰るように言うだけでいい。だが一瞬で男性を気絶させたワザマエ、あれはニンジャである可能性が高い。そしてアトモスフィアも容姿の可愛らしさとは違い冷ややかである。
ヤモトは敵意を見せないように僅かに口角をあげる。ニンジャといえど攻撃的で敵対するとは限らない。逆に警戒するあまり相手に悪い印象を持たれ敵対してしまう、それが最悪の状況だ。だが警戒心を解き過ぎるのもダメだ。口角をあげてリラックスしながらもいつでも相手に対応できるように緊張感も保っていた。
「その人達はどうしたの?」
「男の人が女の人を介抱すると言い家に押し入り犯罪行為をしようとしていて、それを告げたら襲い掛かってきたので気絶させました」
現場に偶然居合わせて女性を守る為に男を気絶させたのだろう。随分と穏便な対応だ。ニンジャなら残虐性の赴くままに男を殺害し、序に女性も殺害して金品を強奪するという行為をしても不思議ではない。ニンジャは基本的に欲望に忠実で残虐だ。そういった意味では彼女は奥ゆかしいニンジャらしい。
「どこか安全な場所は無いですか?」
ヤモトは言葉の意味を推理し察する。このまま放置していれば同じような目に合うかもしれない。そうならないように安全な場所に移動させ、意識が戻るまで安静にしてもらおうということだろう。そういった場所は有ることはある。酔っ払いの女性の肩や頬に触り呼びかけ反応が無いのを確認すると、体を揺らさないようにそっと担ぎ上げた。
「アタイが働いている場所に空きスペースがあるから、そこに運ぶ。あっ、安心して。店の人は良い人だから何もしないよ」
「分かりました。よろしくお願いします」
スノーホワイトは疑った非礼を詫びるように頭を下げ、ヤモト返礼するように頭を下げる。自分の事を信じて任せてくれたことは少しだけ嬉しかった。
「あと一つお聞きしたいのですが、フォーリナーXという名前かこの人物に心当たりはありませんか?」
ヤモトは端末に写る画像を見る。そこには異様に大きい黒い三角帽子を被った金髪の女性が写っていた。自分と同世代ぐらいだろう、残念ながら画像の女性もフォーリナーXという名前も知らなかった。
「ごめん、見たことない」
「そうですか、ありがとうございます」
礼を述べると踵を返し背中を向ける。その背中に向けてヤモトは声をかけた。
「アタイの働いている店の人なら知っているかも、その人顔が広いし、よかったら店についていく?」
思わぬ提案に僅かにユキノの眉が上がる。フォーリナーXという女性について尋ねる際の仕草と雰囲気から絶対に会いたいという意志のようなものを感じた。ならばその思いに応える為に最大限の努力をするのが礼儀だ。それに女性を犯罪から守り結果的にニチョームの治安を守ったとも言える。その行為に対する礼でもあった。
「ありがとうございます」
「じゃあ、この人マッポのところに持っていくから、その後でいい?」
「はい」
ヤモトは酔いつぶれた女性と気絶した男性を担ぎ上げてマッポの所に向かう。その際に手伝うと申し出たが丁重に断った。
数歩ほど歩いたその時だった。瞬間背中に衝撃が走る。打撃というより足の裏で押し出されるような衝撃だった。ヤモトは突然の事で無様に転がり担ぎ上げていた二人を放り投げそうになる。だが瞬時に態勢を立て直し足の裏から着地した。ヤモトは瞬時に状況判断する。
アスファルトには二つの焦げ跡があり、場所は自分が先ほどいた場所とそのすぐ近く、焦げ臭い匂いが立ち込めている。狙撃されたのか?でも銃弾ではアスファルトにこのような痕はつかないし、焦げたりもしない。だが当たれば致命的な怪我を負う攻撃だ。その攻撃を回避させてくれたのがユキノだ。
そのユキノは?次にヤモトは姿を探すと視界の端にビルの壁を飛び石代わりに昇る姿を捉えた。ヤモトは担いでいた二人を地面に置くと同じように駆け上がり雑居ビル屋上に辿り着く。そこには肩に棘をつけたレザージャケットに顔を覆う大きなサングラスをつけた男がいた。サングラスとライダースーツには電飾がついており、数秒ごとに色が赤からオレンジと変わっていた。男は尊大に名乗る。
「ドーモ、はじめまして、ヘッドバンガです」