ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター   作:ヘッズ

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  ア・シーン・オブ・スノーホワイト:「マジカルガール・アンド・ニンジャガール」#2

「ドーモ、はじめまして、ヘッドバンガです」謎の襲撃者はニンジャだった。ヤモトのニューロンは相手の素性や目的を推察しようとするが、その前にアイサツの動作に入る。アイサツをされたらアイサツを返さなければならない。それはニンジャの本能であり、古事記でも書かれている。

 

だがアイサツの動作に移る前に体が固まる。スノーホワイトはヘッドバンガが頭を上げ終わる前に攻撃をしかける!スノーホワイトはニンジャではなく魔法少女である。古事記にすら書かれているルールも通用しない!先ほどのアンブッシュは明らかに殺意が有った。そんな相手のアイサツを待つほど甘くはなかった。

 

「イヤーッ!」スノーホワイトの頭部へのパンチをブリッジで躱し、そのままバックフリップで距離を取る。「ニチョームに住むゴミニンジャの仲間らしいカスぶりだな。ヤモト・コキ=サン」「ドーモ、ヘッドバンガ=サン、ヤモト・コキです。その人はニチョームとは関係ない。何故アタイとユキノ=サンを狙う?」

 

「イディオットか?ターゲットを狙う理由を話すと思うか。貴様で考えろ」ヘッドバンガはクニャクニャと体を動かし舌を出しながら頭を震わせて挑発する。「ユキノ=サン、その傷」スノーホワイトの太腿から出血し血で靴を赤く染める。決して浅くはない傷だった。これはヘッドバンガの攻撃からヤモトを庇った際に負った怪我だった。

 

「かすり傷だから心配しないで」「ユキノ=サン逃げて、時間は稼ぐから」ヤモトは細長い袋からウバステを取り出し構える。名前を知っていたということはターゲットは自分、スノーホワイトは近くに居たので口封じで狙われたのだろう。ならば優先順位は低い。そして相手はニチョーム関連のニンジャを狙っているとしたら、ザクロが狙われる可能性がある。

 

そうはさせない、ここで食い止める。何より無関係なスノーホワイトにこれ以上怪我を負わせるわけにはいかない「何か狙われる理由は?」「アタイに思い当たるところはない、それより早く逃げて」「断ります」スノーホワイトはヤモトの申し出を拒否する。ヤモトは思わぬ答えに振り向く。

 

魔法でヘッドバンガがキルバッファロー・ヤクザクランから雇われて、ヤモトとザクロを殺害しようとしているのは分かった。詳しい事情は知らないが、ヤクザと名乗っているからには悪事を働いているのだろう。それにヤモトも殺されるような悪事を働いてないことも分かった。ならばここはヘッドバンガを撃退する。

 

「分かった。危なくなったらすぐに逃げて」ヤモトはスノーホワイトに向かって頷く、スノーホワイトの意志は固い、強固な意志を持つ相手の考えを変えられるような言葉は持っていなかった。それに相手は手練れだ、アイサツと先ほどの動きで分かる。ここは共闘して倒す方がお互いの為に良いかもしれない。

 

スノーホワイトもヤモトと同じようにヘッドバンガは手練れと感じていた。「作戦会議は終わったか?こっちとしては……」ZAAP!ZAAP!ヘッドバンガは手を掲げ指先から光線が発射される!話の途中で攻撃し相手の虚をついた!ヤモトはバックフリップ、スノーホワイトは半身、それぞれニンジャ反射神経と魔法による読心で足元への光線を回避!

 

スノーホワイトはそのままは間合いを詰めようとするが、動きを止める。「行け!」ヤモトの周りにはツルやイーグルや飛行機の形に折られた数十個のオリガミが桜色の光を帯びながら浮遊し、掛け声ともにヘッドバンガに向かって行く。「イヤーッ!」KABOOM!ヘッドバンガは手から発する光線でオリガミミサイルを撃墜、爆発音と桜色の煙がヘッドバンガの周りを包む。

 

その煙に乗じるようにスノーホワイトが間合いを詰める。魔法でヤモトの攻撃を読み取りフレンドリーファイヤーを防ぎ、遠距離と近距離の波状攻撃につなげる。スノーホワイトは魔法の袋からルーラを取り出し足を薙いだ、ヘッドバンガも察知し小ジャンプ、だがそれを読み手首を返し切り上げる。下段から上段への軌道変化だ!

 

「イヤーッ!」金属音の鈍い音が響く、ヘッドバンガは足裏の特殊合金で斬撃を防御、そして刃を足場代りして跳躍し「ドリームキャッチ!ナナコ・プロダクション」と書かれたネオン看板に飛び移る!ミガル!ヘッドバンガは挑発的に頭を揺らした。二人はすぐさま飛び移ろうと足に力が込める。

 

二人は異変に気付く、ヘッドバンガの足元にあった看板の文字が「ドリ ム・プダ」に変化していた。そのコンマ5秒後、文字は全て消え光輝いていたネオン看板は光を失った。ZAAP!ZAAP!ZAAP!指先から光線!先ほどより強力だ!二人はフリップジャンプや反復横跳びで回避する。数秒後光線攻撃は止む、

 

ヘッドバンガは二人を見下ろし、スノーホワイトとヤモトは見上げる。あの光線はモーションも小さく速度も速い、光線でヤモトのオリガミミサイルが撃墜された。スノーホワイトも遠距離の攻撃手段は無い、遠距離はヘッドバンガに分があると察した。ならば近距離だ。二人はアイコンタクトで意思疎通を図る。

 

「相変わらず汚い街だ。生産性のないマイノリティのクズが集まる巣窟、存在するだけで一般市民は恐れる。ネオサイタマの為に全員首を括ってもらいたいものだ。ヤモト=サンの口からそう言ってやれ」「皆をバカにするな!」桜色のマフラーと瞳は光が増しヤモトは飛び掛かる!スノーホワイトは一瞬間を置き追随する。

 

「イヤーッ!」ヤモトは首元にイアイを放つ、刀身は桜色に輝いていた。ヘッドバンガは手を掲げ、ウバステが腕に接触する。SWASH!金属音、レザージャケットの上に着けていたブレーサーが攻撃を防ぐ。「イヤーッ!」肩の電飾から顔に向かって光線が発射される!虚を突かれたヤモトは反射的に避けるが光線でこめかみが焼かれる!

 

「イヤーッ!」「ンアーッ!」体勢を崩したところにミドルキック!ヤモトはワイヤーアクションめいて吹き飛ぶ!直後スノーホワイトが間合いを詰める。ZAP!足の甲の電飾から光線!スノーホワイトは突きの攻撃モーションを解除し回避行動、無傷で光線を回避!ヘッドバンガはその隙を突いて素手のカラテの間合いに侵入!

 

ルーラは長物だが素手の間合いでも無力ではない、すぐにルーラを引き近距離の足薙ぎを仕掛ける!ZAP!ZAP!サングラスのフレームの電飾から顔面への光線!スノーホワイトは魔法で読み回避する。だが回避行動を強いられたことで攻撃は乱れている。

 

「イヤーッ!」ルーラの柄の部分をレガースで蹴り上げ攻撃を弾く、そのまま踏み込みボディーブロー!スノーホワイトもワイヤーアクションめいて吹き飛ぶ!ZAAP!ZAAP!指から追撃の光線を放つ、二人は何とか回避し、その様子を嗤いながらヘッドバンガは二人を手招きのジェスチャーで挑発する。

 

スノーホワイトは腹部の焼け焦げる匂いと痛みに耐えながら相手を見据える。ワザマエ!言葉でヤモトの心を乱し先走らせ、連携を分断。そして光線とカラテによるコンビネーション!そのコンビネーションは魔法による鉄壁の防御を誇るスノーホワイトを打ち破った!「そこで一休みか?俺は構わんが」舌を出して首を揺すり挑発行為!

 

スノーホワイトとヤモトは風景の変化に気づく、周りにあったネオン看板の光が徐々に弱くなっている。そしてヘッドバンガの服の電飾が光を増している。スノーホワイトは魔法と推察でジツを解析する。「ヤモトさん長期戦は不利、短期決戦で決めよう」「わかった」二人は同時に向かった。

 

ヘッドバンガに宿ったソウルはヒカリ・ニンジャクラン、ネオンの光と熱を吸収し光線に変換する。その最大出力はニンジャの体に穴を開けることすら可能である。夜のニチョームはネオン看板の巣窟、周りのネオンから光と熱を吸収していたのだ。フーリンカザンは圧倒的にヘッドバンガに有り!

 

ヤモトとスノーホワイトは左右に分かれ挟み撃ちを狙う。ヘッドバンガはヤモトの方に向かう。「イヤーッ!」ヤモトは自分の速度と相手の速度を計算し最高のタイミングでイアイを閃かせる。だがそのタイミングを見計らったように光線!ヤモトの体勢はまたしても崩され、ヘッドバンガは難なく弾き素手の間合いに侵入!

 

「イヤーッ!」ヘッドバンガは片手をスノーホワイトに向けて光線攻撃!だがスノーホワイトは光線を読み跳躍回避!そのまま上斜めから刺突する。「イヤーッ!」ヘッドバンガは後ろに振り向きヤモトにバックキックを見舞う。ヤモトは瞬時にクロスガードし、威力を殺しきれずタタミ2枚分吹き飛ばされた。

 

そしてスノーホワイトの攻撃はブレーサーで防御し、宙に浮いている一瞬を見計らって光線攻撃、スノーホワイトは回避。ヘッドバンガはルーラの柄を掴み奪い取りにかかるがスノーホワイトはルーラを勢いよく引き抜き指切断を図る。しかし狙いを察知し手を離す。スノーホワイトはその間に間合いを取って仕切りなおす。

 

「シ・ニンジャ!」ヤモトは手持ちのオリガミの大半を使いオリガミミサイルを放つ。前回と違い左右上下に大きな曲線を描く、「イヤーッ!」ヘッドバンガは光線を放ちイージスBMDめいてオリガミを落としていく。その間にスノーホワイトは背後をとりにかかるが、背中の電飾から光線攻撃、スノーホワイトは回避行動をせず突っ込む。無謀!

 

スノーホワイトの太腿や二の腕が焼ける。ヤバレカバレか!?スノーホワイトはヘッドバンガから『手のひらと指以外の光線の威力が強くないと知られたら困る』という声を聞いていた。最初のヤモトとスノーホワイトを狙撃した光線と指先からの光線で殺傷能力の高さを植え付けさせ、他の光線に過剰に反応させ疲弊させる。これもヘッドバンガのタクティクスの一つだった。

 

火傷は痛いが我慢できる程度だ。致命傷にはならない。「グワーッ!」ヘッドバンガが切りつけられる!「指から出る光線以外は弱い、目に当たらなきゃ大丈夫」スノーホワイトはヤモトにアドバイスしながら切りかかる。「何故分かった!?イヤーッ!」ヘッドバンガは振り向き攻撃をいなしながら声を荒げる。ヘッドバンガは初めて余裕の表情を崩していた。

 

ヘッドバンガは肩とサングラスのフレームの電飾から光線を放つ。スノーホワイトは目に当たらないように必要最小限の動きで回避、髪や顔が焼けるが意に介さず体勢を崩されることなく攻撃を繰り出す。充分な態勢での攻撃はルーラをいなし素手の間合いに入る隙を与えない。

 

「イヤーッ!」側面からヤモトが襲い掛かる。ヘッドバンガは攻撃のモーション中に肩から光線を放つ、ヤモトもスノーホワイトと同じように目に当たらないように回避し耳を焼かれながらも構わず攻撃する。この攻撃も態勢充分!「イヤーッ!」ヘッドバンガはブリッジで回避!だが首元を僅かに斬られる。

 

すかさずスノーホワイトがルーラを振り下ろす!「イヤーッ!」バックフリップで寸前回避!連続バク転でタタミ10枚分の間合いをとる。「弱い光線はサングラスのフレーム、肩、足の甲、背中の電飾から出る。出る直前に僅かに強く光る」「わかった」スノーホワイトは魔法で知った情報を端的に伝えた。「何故分かるビッチ!?」ヘッドバンガはスノーホワイトの言葉を聞き、さらに声を荒げる。

 

この短時間でジツと弱点を見破られたのは初めてだった。「イヤーッ!」ZAAP!ZAAP!ヘッドバンガは指先、フレーム、肩、足の甲から光線発射!四肢を巧みに操作し、指先以外は目を狙い、それ以外は体を狙う。この波状攻撃には二人も回避に専念する。

 

「イヤーッ!」二人も不規則に動き間合いを詰めようとするが、ヘッドバンガの光線が巧みに妨害しタタミ10枚分から詰めることができない!さらに気づけば二人の距離が徐々に離され、タタミ8枚分ほどになっていた。「イヤーッ!」ヘッドバンガはスプリントからヤモトに向かって前宙回転、これは暗黒カラテボディースピンキック!

 

遠心力で加速した踵がヤモトの脳天を狙う!ヤモトはウバステにエンハンスをさらに込めガードする!「グッ…」手が痺れ、足が床に数センチめり込む!何たる威力!ヤモトがウバステにエンハンスを込めなければウバステは砕かれ、頭は胴体にめりこみ死んでいただろう!

 

「イヤーッ!」ヘッドバンガはウバステを足場にして跳躍!そこから繰り出されるはダブルフットスタンプ!ゴウランガ!何たる身軽さ!かつてのリアル・ニンジャであるブル・ヘイケを思い出さずにはいられない!「シ・ニンジャ!」ヤモトはウバステに全力のエンハンスを込め頭上に掲げる!マフラーと目はこの日一番の桜色に輝く、

 

金属音がニチョームの夜空に響き渡る!ヤモトは無事だ!桜色のマフラーをはためかせながらウバステを頭上に掲げる。足は床にさらにめり込んでいる!ヘッドバンガはまたしても跳躍、またしてもダブルフットスタンプか!?ならば我慢比べだ!相手もエンハンスしているウバステで全力で技を出せばダメージが蓄積する。どちらがギブアップするかだ!

 

ヤモトは息を深く吸い込み足を広げエンハンスを込める。ヘッドバンガは足を曲げる、力を入れろ、ヤモトは衝撃に備える。足の裏がウバステに当たらない!?ヘッドバンガは足を曲げたままウバステを通過し、前宙し逆さ釣りの状態でヤモトの背後を取った。ダブルフットスタンプに備えていたヤモトは反応できない!

 

ヘッドバンガは両肘を引く、この構えはダブルダーカイ掌打!これをキドニーに打ち込むつもりだ!何たるアクロバティックカラテ!並みのニンジャであれば、この状態ではダメージは与えられない。だがヘッドバンガの卓越したニンジャバランス感覚と筋力が有れば殺人技に昇華する!

 

「イ」ヘッドバンガは両手を押し出す、その瞬間視界の端にスノーホワイトが映り、ルーラを突いてきた。この技を読んでいたのか、憎たらしいビッチめ!ヘッドバンガは右手を防御に使いルーラを防ぐ、「ヤーッ!」もう片方の腕はキドニーへダーカイ掌打を打ち込む!「ンアーッ!」

 

浅い!スノーホワイトの突きで態勢が崩されたせいで威力が弱まりキドニーを外した。ヘッドバンガは転がり、スノーホワイトが追撃を図る!だがブレイクダンスじみた動きから指先の光線を放ち牽制する!「邪魔しやがって!ビッチ!」残心を決めスノーホワイトを見据える。

 

不完全ながらダーカイ掌打は入った。ヤモトは暫く動けない。この間に厄介なスノーホワイトを仕留める!スノーホワイトに両指先を向ける。だがスノーホワイトはそれを察知し光線を放つ前に突きを放つ。「邪魔だ!」ヘッドバンガは攻撃をやめ防御する。スノーホワイトは蒸気ピストンめいた速度で突きを繰り出す!

 

眉間、首、腹部、股間、太腿、足、上下左右に突きを散らす。高速の突きでヘッドバンガの視界は濃霧めいてルーラが埋め尽くす。だがヘッドバンガはブレーサーとレガースで全て防ぐ!ゴウランガ!何たる防御!ヘッドバンガも指以外の場所から光線を放ち、隙を作ろうとするが、スノーホワイトは隙を見せず攻め続ける!ゴジュッポヒャッポ!

 

だが変化がおきる。ネオン看板のように輝いていたヘッドバンガのレザージャケットが光を失っていく!ヘッドバンガのジツは無尽蔵ではない、ヘッドバンガの光線攻撃に耐え、絶えず攻め続けたことでネオンの光と熱を吸収する時間を与えなかった。その結果光と熱の貯蓄が無くなったのだ!

 

「グワーッ!」ルーラがヘッドバンガの腹部に刺さる。だがルーラが抜けない!筋肉を固めたのだ、すかさず刃の空洞部分を万力めいた力で掴む。ここに刃はついておらず握りしめても問題ない!「綱引きだビッチ!」ヘッドバンガとスノーホワイトはルーラを引っ張り合う。

 

「イヤーッ!」突如サングラスの奥から光が溢れだし、光線がスノーホワイトの顔面に発射される!ナムサン!その威力は指先の光線以上だ!当たれば顔面は穴あきチーズめいた惨状になってしまう!スノーホワイトはヤモトに指先以外から強い光線は出ないと言った。だがヘッドバンガには奥の手があった!目からも高威力の光線を出せるのだ!

 

ヘッドバンガの光の貯蓄量は減り、レザージャケットの光も弱くなっていた。だがそれは減っていたのではなく、この一撃の為に溜め込んでいたのだ!だが高威力の光線にはタメの時間が必要である。ならいつ溜めたのか?それはスノーホワイトの連続突きの最中である!

 

スノーホワイトの攻撃に順応し、できた余裕で少しずつ溜めていた。そして腹部にワザと攻撃を受け、ルーラを奪い取る綱引きに持ち込み動きを止めて光線を発射した!まさに肉切り包丁で骨も切る!ゴウランガ!何たる古の伝説的軍師、コウメイ・ニンジャめいた作戦か!

 

光線はスノーホワイトの顔面に向かっていき通り過ぎる。通り過ぎた光線はニチョームの夜空を一条の光となって駆け抜けた。「は?」ヘッドバンガは思わず声を上げる。作戦は完ぺきだった。奥の手は絶対に決まる状況だった。何故避けられる?このビッチはデーモンか?ヘッドバンガはゼロコンマ数秒放心する。

 

ヘッドバンガのニンジャ感覚が強制的に振り向かせる。そこにはヤモトがいた。ヘッドバンガの感覚は沼めいて鈍化する。ヤモトはイアイの状態で突っ込んでくる。足を踏みしめた瞬間地面が爆ぜる。ロケットめいて加速する。さらに踏み込む。地面が爆ぜロケットめいて加速する。今までに無いスピードだ。だが対応範囲内だ。ルーラを離し防御姿勢をとる。

 

ヤモトが抜刀し爆発音が聞こえる。右腕を首元に掲げた。その瞬間ヘッドバンガの意識は途絶え首と右腕は宙に舞っていた。「サヨナラ!」ヘッドバンガは爆発四散!ヤモトは数メートルブレーキ跡をつけながら静止、その場でウバステを支えにしながら膝をついた。

 

ヤモトが何をしたかニンジャ観察力があれば理解できただろう。残りのオリガミミサイルを機雷めいて地面に置く、それを踏んで走ることで爆発的な加速を生む。ウバステの切っ先にオリガミをつけ爆発させることでイアイのスピードが上昇。突進スピードと抜刀スピードは上昇、エンハンスで強化したイアイはヘッドバンガのブレーサーごと首を切断!

 

「大丈夫?」「うん」スノーホワイトは手を差し伸べヤモトは素直に受け取る。「ゴメンね……。巻き込んじゃって……髪は焼け焦げて……顔は火傷してるし……ザクロ=サンに言ったらスゴイ怒られそう」ヤモトは奥ゆかしくオジギする「気にしないでください、私が勝手にやっただけですから、それよりヤモトさんこそ大丈夫ですか?」

 

「大丈夫、かすり傷、寝ていれば直ぐに治る」ヤモトはザクロのように強がりの笑顔を見せた。「実際……危なかった……動かない状態じゃなきゃ……決まらなかった……」「そうですね」ヤモトは息を乱しながら喋り、スノーホワイトは静かに頷いた。ヘッドバンガが動かなかったのは偶然か?否!偶然ではない!

 

スノーホワイトはヤモトがしようとしていた事を魔法で把握していた。そしてヘッドバンガの奥の手も作戦も把握していた。故にヘッドバンガを利用した。光を溜められるほどの手を抜いた攻撃で足を止めさせ、奥の手を避けることで隙を作り、ヤモトのイアイで仕留める。何たるフーリンカザン!何たるデーモンめいた策略!

 

「良ければ……アタイの働いているところに寄っていく……治療とかできるよ?」「はい、お言葉に甘えます」「わかった……その前にさっきの男の人をマッポに運んで……女の人も一緒に店に運んでもらっていい?」

 

◆◆◆

 

 

「ヤモト=サン、パトロールお疲れ様……ってその娘誰?それに二人とも怪我しているじゃない!?どうしたの!?」七フィートのボンズヘアの男は閉店作業を中断し駆け寄る。彼はヤモトが働いているニチョームのゲイ・バー「絵馴染」のオーナーであるザクロである。

 

「ニンジャに襲われた。アタイとザクロ=サンを殺そうとしたみたい」「そんなのどうでもいいわよ!それで怪我は?」「そんなに」「本当?」「大丈夫だって…ッ……」ヤモトは腕を回すが痛みが顔を顰める。「どこが大丈夫よ!アバラをやったわね。それでアータは……ニンジャ?」

 

ザクロは訝しむようにスノーホワイトを見つめる。「どーも、初めまして、スノーホワイトです」スノーホワイトは手を合わせて挨拶する。「ドーモ、スノーホワイト=サン、ネザークイーンです」「ドーモ、スノーホワイト=サン、ヤモト・コキです。そういうニンジャネームなんだ」「アータ、知らなかったの?」「アイサツするタイミングが無くて」

 

「それでスノーホワイト=サンも太腿を怪我してる。とりあえず応急処置しなきゃ……あっ…ゴメンね」ザクロは救急箱から包帯をとって応急処置しようかと思ったがスノーホワイトを見て手を止める。心は女だが相手にはそう見えていない。ゴツイ男に触られるのは不快だろう。

 

「とりあえず、医者呼んでくるわ。それまで我慢してね」ザクロは二人に告げると店から出ていった。「驚いた?」「いえ」ヤモトの問いにスノーホワイトは動揺を出さないように答える。ヤモトが働いている店がゲイバーだとは想像していなかった。さらに向かいの店はゲイマイコポルノショップという想像もできない店だ。

 

そういった人達が居るとは知識として知っていたが、実際に見ると少なからず動揺していた「それは驚くよね、でも皆良い人だから」ヤモトは感慨深げに喋る。ザクロの先ほどのやりとりで奥ゆかしい人物で、見ず知らずの人間を世話しようとする優しい人だと分かる。だからこそヤモトはヘッドバンガにニチョームの人を罵倒された時激昂したのだろう。

 

「医者連れてきたわよ!」ザクロは息を切らせながら扉を開け、医者の手首をつかみ店に入れた。

 

「まあ、多少怪我しているけど若いから直ぐに治る」「それより、顔の火傷とかはどうなの!?顔は女の命なの!何とかして治しなさい!皮膚移植ならいくらでも皮膚とっていいわよ!ほら!」ザクロは医者に腕を差し出す。医者はザクロの腕を押しのける。「これぐらいなら傷跡は残らん」医者は店を出た。

 

「あ~よかった」ザクロは大げさに胸をなでおろす。「とりあえず、暫く安静ね。当分は店の手伝いもパトロールも無し」「大丈夫だよ、ちょっと痛いだけだし」「ダメ!許さない!」ドスン!ザクロはバンブー製のカウンターを殴る。ヤモトはその勢いに体をビクンとさせる。「怪我を直ぐ治す!でないとクビにするわよ」「うん」ヤモトはシュンとなり頷いた。

 

落ち込むヤモトをザクロがそっと抱いた。「よく帰ってきた」「うん」ヤモトは抱擁に素直に応じた。「それでスノーホワイト=サンもゴメンなさい。アタシたちの問題に巻き込んで」「ヤモトさんにも言いましたが、気にしないでください。私が勝手に首を突っ込んだだけです。怪我も全て自己責任ですから」

 

申し訳なさそうに言うザクロの言葉にスノーホワイトはきっぱりと答える。「とりあえず二人とも大変だったわね。こういう時は甘い物、女の子は甘い物を食べれば元気になる」ザクロは二人の前に飲み物を出した。ヤモトが口につけて、スノーホワイトも倣うように口につける。二人の目が輝く。

 

「試作品のミカンのムース、どう?」「美味しい」「美味しいです」二人は満足げに飲んでいく。「スノーホワイト=サンはハイスクール?」「はい一年です」「若いわね。アタシもアータぐらいの年は恋に生きていたわ。一杯恋しなさい。恐れちゃダメよ。恋愛相談なら受けてあげる」ザクロはおどけるようにスノーホワイトに語り掛ける。

 

「ありがとうございます。でも今は恋より大切な事がありますので」スノーホワイトは愛想笑いを浮かべながら答える。「そうね、恋だけじゃない、スクール活動に打ち込むのも青春よね」ザクロは踏み込む話題ではないと判断し切り上げる「それでスノーホワイト=サンは何でここら辺に居たの?」

 

ザクロの目が鋭くなる。ニンジャといえど普通の高校生はニチョームには来ない、面白半分で来た可能性はあるが、そんなアトモスフィアではない。だからこそ理由が気になる。「人を探しています」「その人はここに来るような人なの?」「可能性の一つとして来ました」「その人の名前は?」「フォーリナーXです」

 

スノーホワイトはフォーリナーXの画像をザクロに見せる。ザクロは首を横に振った。「でも迷惑料として調べといてあげるわ。こう見えても顔が広いの」「ありがとうございます」ザクロは胸を叩きスノーホワイトは軽く会釈した。「あと、不躾ですが、一つ頼みたいことが有るのですが、よろしいですか?」

 

スノーホワイトは畏まって言う。「何?遠慮せず言いなさい。出来る範囲で手伝うわ」「実は姫川小雪という友達がいるのですが、色々と訳有って、履歴書とかを提出しないで現金即払いのバイトを探しているのですが、どこか心当たりが有りませんか?」スノーホワイトはネザークイーンの顔を伺う。

 

魔法少女の力を使って金を稼ぐのは主義に反する。だが姫川小雪として稼ぐのは問題ないと考えた。魔法少女の活動で得た恩を着せるのは若干心が痛むがグレーゾーンとして割り切ることにした。「……いくつか心当たりが有るから紹介できるわ」「ありがとうございます」スノーホワイトは深々と頭を下げた。

 

ニチョームには様々な人が流れ着き、様々なことが起こる。そんな場所で生活するネザークイーンには身分証明できない若者が働ける場所を紹介しろという依頼などチャメシインシデントだった。「ザクロ=サン…スノーホワイト=サン…実際限界…寝かしてもらう」ヤモトが眠そうに言う。

 

「運んであげようか?」「大丈夫、お休みなさい」ヤモトは二人にアイサツするとフラフラと2階に上がっていった。「アータは眠くない?終電も無いし、上には空き部屋が有るし泊っていく?」「ありがとうございます。ですが家まで走って帰れる距離ですので、お暇させていただきます」「そう、カラダニキヲツケテネ」「はい」

 

スノーホワイトは店を出ようとする「あっ、ちょっと待って」ネザークイーンは呼び止め、スノーホワイトは扉の前で振り向く。「そのフォーリナーX=サンを探す交換条件ってわけじゃないけど、お願いが一つあるの」「何ですか?」「時々でいいからニチョームに来てヤモト=サンと遊んでくれない」「遊びに?」

 

スノーホワイトは予想もしない依頼に思わずオウム返しする。ネザークイーンは予想通りの反応とばかりに言葉を続ける。「周りは大人ばかりで同世代が居なくてね。何も言わないけど、もしかして寂しいかもしれない。だからね、アータは同世代だしニンジャだから色々と合うかなって思ったわけ」

 

「はい、都合があえば」ニンジャは特殊な生き物だ。人より遥かに優れた力を持っている。そして心も違うかもしれない。そうだとしたらニンジャと人は心を通じ合わせることができないのだろうか?そうだとしたら、それは辛い事だ。だからこそネザークイーンは友人になってもらいたいとスノーホワイトは推察した。

 

「やっぱり今のは忘れて、あ~ヤダヤダ、年を取ると余計なお節介ばかりしちゃう!」ネザークイーンはスノーホワイトの前に手を出しブンブンと横に振る。「余計じゃないです。その気持ちは伝わっていると思います」「アリガトウ。じゃあお節介ついでに言うけど、もっと自分をさらけ出していいのよ、それこそ相談があれば乗るから」

 

「相談?」スノーホワイトの眉がピクリ動く、「アータ色々と溜め込むタイプでしょう。それにアトモスフィアが良い意味で大人びている。悪い意味で可愛げが無い。そういう人って結構気を張って疲れている事が多いの」「はい」動揺が出ないように返事をする。外面を良く猫を被っているところはある。だが初対面の人間に見破られるとは思っていなかった。

 

「では失礼します」スノーホワイトは頭を下げ退出しようとドアノブに手をかける。「あと、またお願いがあるのですが」スノーホワイトは恐縮そうに言った。

 

◆◆◆

 

「ドーモ、ネザークイーンです」「ドーモ、ヤモト・コキです」「ドーモ、スノーホワイトです」「ドーモ、ドラゴンナイトです」ニチョームにあるゲイバー絵馴染、その店内で三人のニンジャと一人の魔法少女がアイサツを交わす。ヤモトとネザークイーンとスノーホワイトはリラックスしていたが、ドラゴンナイトは緊張していた。

 

「中々のグッドルッキングね、ドラゴンナイト=サン。食べちゃいたい」ネザークイーンはドラゴンナイト投げキスをして、ドラゴンナイトは明らかに顔を引き攣らせる。「ザクロ=サン」「分かってる、ゲイジョークよ、アタシの想い人はあの人だけ、とりあえず座って、何飲む」「ミカンムースで」スノーホワイトはカウンターに座り注文する。

 

「アータは?」「えっと…コーヒーで」「コーヒーね、有ったかしら?」「ここらへんじゃない」ネザークイーンとヤモトはカウンター後ろの棚から探し始める。その間キョロキョロと辺りを見渡しながら今日の事を振り返る。

 

休日の昼過ぎにスノーホワイトに呼ばれアジトに向かった。「これ受け取って」スノーホワイトから有無を言わさず封筒を握らされた。中身は金で中学生が受け取るには大金だった。「遅くなったけど、マタタビさんの入院費と治療費、全額とはいかないけど」「いや、こんなに受け取れないよ」

 

ドラゴンナイトは返そうとするがスノーホワイトが手を握りこみ離させない。「ドラゴンナイトさんに払わせるわけにいかない」「でも……ボクの家はカチグミだしお金あるし、ボクが払うのが筋というか、それにマタタビ=サンは仲間だし」「私はマタタビさんの仲間じゃないの?」

 

「え?」「仲間が怪我すれば助け合うし、治療費が払えないなら仲間で払うでしょ。私は仲間じゃないのかな」スノーホワイトは悲しそうに呟く。ドラゴンナイトは言葉を詰まらせる。スノーホワイトの言う通り仲間は助け合うものだ、スノーホワイト仲間の為に金を捻出した。それを受け取らないのは仲間と認めないものだ。

 

「とりあえず受け取って、気に入らないなら寄付するなり燃やすなりしていいから」「じゃあ…」ドラゴンナイトは封筒から金を取り出し財布に入れた。「それでこの後どこ行くの?」ドラゴンナイトは問いかける。スノーホワイトからこの後会わせたい人がいるから、そこに向かうと言われていた。

 

そして来たのがニチョームのゲイバー絵馴染だった。セクシャルマイノリティーの聖地ニチョーム、セクシャルマイノリティーの人と接する機会が無かったドラゴンナイトは警戒し、恐怖を覚えていた。集合時間は昼過ぎで、ストリートの活動は大人しかった。もし夜に行けば、客引きとネオン看板の光の洪水で動揺し混乱しただろう。

 

そして店に入っていたのが、ネザークイーンとヤモトだった。一人は7フィートある巨漢のあからさまにゲイのニンジャ、一人はスノーホワイトより少し年上の若い女性のニンジャ、しかもカワイイだ。彼女もセクシャルマイノリティーなのだろうか?ドラゴンナイトは二人を観察する。

 

「はい、コーヒーにミカンムース、それにしても若いわね、スノーホワイト=サンより年下ね、何歳?」「14歳で中二です」「ヤング!肌もピチピチじゃない、肌のケアなんて全く気にしなくていいじゃない」ネザークイーンは羨望の眼差しでドラゴンナイトを見つめた。

 

ドラゴンナイトは目を伏せコーヒーを飲む。苦い、思わず顔を顰める。正直ミカンムースの方が良かったが見栄の為に頼んだだけで、好きでもなかった。その様子を三人は微笑ましく見ていた。

 

それから4人のお茶会めいた会合は始まった。最初はスノーホワイトとヤモトの出会いに始まり、様々な事を話した。主にネザークイーンが話題を振りまく、バーの店長だけあって話し上手であり聞き上手だった。ドラゴンナイトに影響が出ない程度のニチョームでの出来事を語り、時には巧みに話題を引き出し、話を広げた。

 

最初は緊張していたドラゴンナイトも会話を楽しみ、ネザークイーンの人間性に触れ、抱いていたセクシャルマイノリティーへの偏見は薄れていた。「二人はどんなジツを使えるんですか?」ドラゴンナイトが何気なくネザークイーンとヤモトに尋ねる。その瞬間アトモスフィアが若干変化する。

 

「それを聞いてどうするの?」「実際ニュービーですので、もしニンジャと戦った時に二人と似たようなジツを使うのだったら、対策が立てられると思って」「ニンジャと戦いたいの?」ヤモトが戒めるように聞き返す。戦うことを前提としており、ニンジャと戦う恐ろしさと危険性を感じていないようだった。

 

ヤモトのアトモスフィアを感じ取ったのか、ドラゴンナイトはシリアス気味に語り始める。「ボク達はネオサイタマをパトロールして、困っている人を助けています。そして、ニンジャが悪いことをしている場面にも遭遇しました」「遭遇した?それでどうしたの?」「人々を虐殺していたので、二人で戦いそのニンジャを倒しました」ドラゴンナイトは息を吸い込む。

 

「もし同じような事が有ったら、同じように立ち向かいます。それで相手のニンジャを倒し弱い人を守れるように、出来る限りの事はしておきたい」ドラゴンナイトは静かに息を吐き、ヤモトとネザークイーンはドラゴンナイトに視線を向ける。危機感もなく遊び半分で言っているわけではなくシリアスであることは伝わった。

 

「わかった。アタイのジツについては教える」「ありがとうございます」「でも」ヤモトはアクセントをつけ声を大きくした。「偶然会ったら仕方がない、でも自分からニンジャを探して倒そうとしちゃだめ」ヤモトはドラゴンナイトとスノーホワイトに視線を送る。「それじゃあ、自分から悪いニンジャを探す努力をしないで、見過ごせって言うんですか?」

 

ドラゴンナイトは反論する。「アタイもニンジャに追われた。あれは辛かった。そんな風にやっていたら、いずれ大きな力に飲み込まれ、家族や友達も危険な目にあう。それでいいの?」ヤモトのニューロンにニチョームに辿り着く前の日々が過る。ニンジャ組織ソウカイヤに命を狙われたことがあった。

 

その日々は辛く苦しかった。もしあの時に家族がいれば人質、最悪殺されていただろう。ドラゴンナイトのようにしていたら、いずれニンジャ組織アマクダリに捕捉され狙われる。「でも…困っている人を助けないのは腰抜けじゃないか!」ドラゴンナイトは感情的に反論する。正しい事を、自分の正義を否定されたようだった。

 

「それは分かる。でも死んだら終わりだよ。ドラゴンナイト=サンはニンジャの恐ろしさをまだ知らない」ヤモトは諭すように言う。ドラゴンナイトの行動は素晴らしい、だがいずれアマクダリと衝突し、ベイビーサブミッションで潰される。ドラゴンナイトは反論しようがヤモトの有無を言わせないアトモスフィアに言葉が詰まる。

 

「まあ、ヤモト=サンも見捨てろと言っているわけじゃなくて、悪いニンジャが居ても実力差を考えずヤバレカバレに戦うんじゃなくて、引くことも大切って言いたいのよね」「うん」ネザークイーンの捕捉にヤモトは頷く。「それにそういうニンジャは案外別のニンジャにやられるもんよ、インガオホーってね」ネザークイーンは意味ありげにウインクした。

 

「じゃあ、ヤモト=サン、ジツを見せてあげて」「うん」ヤモトはカウンターのペーパーナプキンをツルに折ると浮遊させる。「ワオ、キレイだ」ドラゴンナイトは桜色のツルに目を奪われる。「これをぶつけてミサイルにするのがアタイのジツ」ヤモトはイーグルやエイなどを折り浮遊させ旋回させた。

 

それからネザークイーンも自分のジツを教え、ドラゴンナイトとスノーホワイトも教えた。ドラゴンナイトは全てを教えたが、ネザークイーンとスノーホワイトは自分のジツと魔法を一部秘匿していた。

 

「そろそろ開店準備だから、オヒラキね」時間は16時を回り、絵馴染の営業時間が迫っていた。ネザークイーンの言葉を皮切りにドラゴンナイトとスノーホワイトは立ち上がる。「ありがとうございました。今日は楽しかったです」ドラゴンナイトはネザークイーンに頭を下げる。

 

「ヤモトさん、ネザークイーンさん、今日は付き合ってくださってありがとうございます」スノーホワイトは礼儀正しく頭を下げる。今日の会合はスノーホワイトが主催したものだった。目的はドラゴンナイトがニンジャとの知り合い、コネクションを作る事だった。人脈は力になる。それは友人のリップルのフォローで身に染みている。

 

「もしドラゴンナイトさんが助けを求めたら、手を差し伸べてくれれば幸いです」「アータが助けてあげればいいじゃない」ネザークイーンは意外そうに答える。スノーホワイトは神妙な顔で答える「私はいずれドラゴンナイトさんの元から去ります。それは何時になるかは分からないですが」

 

「実際辛くないの?」ヤモトは問う。「正直言えば後ろ髪を引かれる思いはあります。でも去らなければなりません」スノーホワイトは唇を噛みしめる。その顔を見てヤモトは何も言う事はできなかった。「困っている人を助けないのは腰抜けだしね、出来る限り助けるわ」ネザークイーンは胸を張る。

 

「ありがとうございます」「あと、さっきもヤモト=サンが言ってたけど、必要以上にクビを突っ込まないように」「はい、ドラゴンナイトさんに言っておきます」「アータもね」「私も?」スノーホワイトは思わず聞き返す。「何か切羽詰まったアトモスフィアなのよね。死んだら終わりよ、生き残り重点」

 

スノーホワイトは一瞬キョトンとした表情を見せ、すぐに笑顔を作った。「分かりました」頭を下げて店を出た。「大丈夫かな、あの二人」スノーホワイトが出た後ヤモトは心配そうに呟く、あの夜に共闘してスノーホワイトの強さは肌で感じた。実際強い、だがそれでもアマクダリと敵対したら生き残れる保証は全く無い。

 

「そうね、ドラゴンナイト=サンもそうだけど、スノーホワイト=サンも心配だわ」ネザークイーンはため息をつく。スノーホワイトは自分に厳しい理想を課し、その理想の為に無理をし、理想に殉じそうな危うさを感じていた。「もし二人がアマクダリに睨まれて、助けを求めたらどうするの?」ヤモトは扉からザクロに視線を向ける。

 

「勿論助ける。困っている人を助けないのは腰抜けだしね」「アタイも」ヤモトはネザークイーンの答えに満足げに頷いた。あの若い二人が助けを求めたら手を指し伸ばそう。かつて自分がされたように。だがそうなればアマクダリとの衝突はさけられない。そんな日々は来ては欲しくない。ヤモトは二人がアマクダリに見つからないように祈った。

 


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