ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター   作:ヘッズ

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これまでのあらすじ
スノーホワイトは悪しき魔法少女フォーリナーXを追っていたが相手の魔法によって異世界に飛ばされてしまった。
飛ばされた先で介抱してくれた女性コバヤシ・チャコの意味不明な言葉や自らの体調不良戸惑うスノーホワイト。
ファルは体調不良を治し今の状況を整理するためにコバヤシの家に泊まることを提案しスノーホワイトもそれを了承する……


第二話 ニンポショウジョ・パワー♯3

♢姫河小雪

 

「大丈夫ですか?長かったようだったのでもしかして倒れていると思っていましたよ」

「大丈夫です。問題ありません」

 

 小雪がフスマを開けると目に飛び込んできたのはコバヤシの安堵の表情だった。

 今にも泣きそうな顔を見れば心の声を聞かなくても身を案じてくれたのが分かり、それだけで信用できる人物であると判断できる。

 意識を取り戻すまで寝ていた布団ではなくコバヤシの5メートル前で正座し、お辞儀をしてから話をきりだした。

 

「コバヤシさんが助けてくれなければ死んでいたかもしれません。本当にありがとうございます」

「いや、そんな!ニンポ少女が倒れているなら助けるのは当然です!」

 

 小雪の礼に対してコバヤシは深々と頭を下げるその様子に恐縮しながらも頭が上がるのを待ってから話を続けた。

 

「それで実は……魔法…ニンポの国から修業でここに来たのですが、身一つで送り出されて右も左もわからない状態で泊まるところも無くて……もしよければ一晩だけ泊めてくれないでしょうか?」

 

 ファルからコバヤシの家に泊まらないかと提案され即答することができなかった。

 健全な体に健全な精神が宿る。身体と心の相互関係は強く体が弱れば心も弱まり、その逆のパターンも有る。

 小雪は見知らぬ世界に飛ばされたと聞かされて少なからず動揺していた。元の世界に帰れるだろうか?このままこの世界に取り残されるかもしれない。様々なネガティブな感情が心を満たしていく。

 しかし姫川小雪、魔法少女スノーホワイトは不安に押しつぶされるような弱者ではない。元の世界に帰るために唯一の手がかかりであるフォーリナーXを探すためにすぐに行動をおこしていただろう。通常の状態であれば。

 しかしフォーリナーXの魔法により異世界に移動した影響か、原因不明の体調不良に陥っていた。

 身体が弱れば心も弱まる。今すぐ行動に移す気力は小雪にはなく休息のために無意識にコバヤシの家に泊まることを選ぶ。

 どう提案しようと考えながらコバヤシの元へ向かおうと先にファルの一言で足が止まった。

 

「ニンポ少女の設定はどうするかぽん」

 

 ファル曰くニンポ少女と信じきっているからこそ、ニンポ少女の設定のディティールを細かくしなければ逆に怪しまれるとのことだった。

 話を聞く限りでは慣れ親しんだ魔法少女ものと類似点が多いらしく、古今東西の魔法少女もの設定を参考にしてそれっぽい設定をでっち上げ二人で共有する。

 設定では気弱で臆病なニンポ少女が一人前のニンポ少女になるために半ば強引にこの世界に送り込まれたというものである。

 小雪も魔法少女もの愛好家であり、ファルも元の主であるキークから魔法少女もの知識を叩き込まれている。

 よりそれっぽいニンポ少女の設定を考えどんどん細かく膨大になっていき、設定は資料集に記載されるレベルに付け加えさらに増えていったが、これでは埒があかないと思った二人は大筋だけを決め、あとはアドリブで済ますことにしていた。

 

 小雪は気弱そうな少女を演じながらコバヤシの様子を確認する。これでダメと言われれば潔く諦め雨風が凌げるところでも探そうと考えた始めた刹那に答えが返ってくる。

 

「ヨ……ヨロコンデー!気が済むまで泊まってかまいません!」

 

 嬉しそうに目を輝かせながら即答する。見知らぬ他人を泊めることにもう少し警戒心をもったほうがいいのではとお人よしに分類される小雪ですら心配になるほどの無警戒ぶりだった。

 だが気持ちは分かる。仮に幼い頃の自分がキューティーヒーラーに自分の家に泊まりたいと言われたら嬉しさで狂喜乱舞するだろう。

 そしてコバヤシの取る次の行動もわかる。恐らくニンポの国やニンポ少女について質問してくるだろう、一応設定は考えているがいつボロが出るか分からない。

 ならばこちらから質問しコバヤシに話させこちらは極力話さない。ファルの言う通りこの世界についての情報を聞いておく必要があり丁度良い。設定どおりオドオドとした仕草でコバヤシに話しかけた。

 

「あと自分で調べるのも修業の一環だと言ってここについて何も教えてくれなかったのです……よかったらここについて色々と教えてくれませんか?」

「ユキコの上司は身を持って体験しろと言うけど、失礼なことをして恥をかくなんてユキコが可哀そうだぽん。そうならないために必要最低限の常識を教えて欲しいだぽん」

「恥ですか……そうですね恥をかくのは辛いことです……わかりました!私が知る限りのことを教えましょう。ユキコ=サンには恥はかかせません!」

 

 コバヤシは小雪の手を両手でギュッと握り少し涙を浮かべながら見つめる。この世界において礼儀は小雪が住む世界より重要視され、シツレイな行為を行えば最悪ケジメという罰則で指を斬り落とさなければならないこともある。

 ニンポ少女シリーズでもシツレイを働き危うくケジメされる場面があった。それだけはさせてはならない。コバヤシは小雪の手をさらに強く握った。

 

▼▼▼

 

「後何か聞きたいことがありますか?」

「特にはないです」

「特にはないぽん」

 

 小雪は深く息を吐いた後コバヤシから聞いた情報を整理する。この世界は小雪達が居た世界との類似点が多くあることが分かった。

 まず今いる場所はニホンという国のネオサイタマと呼ばれる都市である。他にもオキナワやキョートなど同じような名前の都市が存在し、人類の歴史も細部は違うが、ある時点までは大まかな部分では同じであった。

 さらに食事でも豆腐や寿司など馴染みのある食べ物も存在していた。異世界というからにはもっとファンタジーめいたものでカルチャーギャップがあるものかと予想していたが、ここまで似ているとなるとそこまで無さそうだ。

 長くいるつもりはないが長期間の滞在を余儀ならざるえない可能性を考えると、その点については安堵していた。

 

「あの、ユキコ=サンはシノビに会ったことがありますか?」

 

 するとコバヤシが小雪の様子を見計らい質問を投げかける。シノビとはコバヤシが一番好きなニンポ少女である。

 ネオサイタマについてのレクチャーの合間にニンポ少女シノビについての良さを講釈するので頭に刻まれている。

 アニメのニンポ少女に会ったことがあるという質問は奇妙だったが、自分をニンポ少女だと仮定すればアニメに登場していたニンポ少女が実在していると思うのは不思議ではない。

 

「えっと……シノビさんは色々と忙しいみたいで会ったことはないです」

「そうですか……」

 

 小雪の答えにコバヤシは残念そうに肩を落とす。だがすぐさま顔を上げた。

 

「もし……もしシノビに会うことがあれば伝えてもらいますか。ありがとうございます。貴女のおかげで一人の人間は救われましたと」

「どういうことですか?」

 

 小雪は思わず聞き返す。コバヤシの言葉には感謝の他に様々な想いが込められているのを感じ取れた。

 何があったのか気になる、小雪の言葉を聞きコバヤシは思い出すように語り始める。

 

「私がスクール通っている時なのですが、同級生にツバキ=サンという女の子が居たんです。カワイイなんですが性格は奥ゆかしくてそんなに目立つ娘じゃありませんでした。ある時転校生が現われて瞬く間にジョック……えっと何と言えばいいかな……男で運動ができて、そう、クラスの中心的存在です。わかりますか?」

「何となく」

 

 小雪は今までの学校生活を思い出し置き換える。今までのクラスでも男子でクラスの中心的存在は必ずいた。ジョックと言うのはそのような生徒のことだろう。

 

「それでそのジョックがツバキ=サンに言い寄ってきたんです。普通ならジョックはジョックやクイーンビー……ジョックの女性版と考えてください。普通ならそのクイーンビーとつるむんですよ。でもその人はナードやゴスの下層階級にも声をかけたりするんですよ。普通ならムラハチですがその人自身のカリスマ性や親がメガコーポの重役なこともあってそんなことは起きずジョックの頂点でした」

 

 ムラハチは確かいじめのようなものだったか。小雪は言葉を自分の知る言葉に変換しながら話を聞く。

 

「そしてそのジョックはツバキ=サンに言い寄りました。普通だとジョックはクイーンビーと付き合ったりするんだけど見向きもしなかった。それがクイーンビーの堪忍袋を温めてツバキ=サンはムラハチされました。私も何度も助けようと思いました。でもそれをすれば自分もムラハチです。そう考えると怖くて何もできませんでした」

 

 当時の事を思い出したのかコバヤシの表情は青ざめ僅かに震えている。ムラハチの当事者ではなかったが思い出しただけでもツバキに対する行為は壮絶なものだった。

 学生にとってムラハチにあうことは社会的な死と同意義である。平穏な日常が地獄に変わり精神を削り身体を蝕んでいく。

 正しいおこないではないことは分かっていたが動けなかった。例え自分がかばってもムラハチは終わらない。助けるだけ無駄だ。ネガティブな感情がコバヤシの胸中に駆け巡る。

 

「でもシノビが……シノビが力をくれました」

 

 コバヤシはふとニンポ少女のシノビについて思いをはせる。もしシノビが自分の立場だったらならば迷わずツバキを庇いクイーンビーに立ち向かうだろう。

 人の痛みを自分の痛みのように悲しみ助けようとする慈愛の心、正しいことのためにどんな障害にも立ち向かう勇敢さ、その姿の感銘を受け憧れていた。そしてシノビのこと思い出すと力と勇気が湧いてきた。

 

「私はツバキ=サンを庇いクイーンビーに反抗した結果ムラハチにされました。辛かったですが後悔はないです」

 

 結局はムラハチを止めるどころかムラハチに巻き込まれてしまった。自分がしたことは何も意味が無かったのかもしれない。

 だが庇わなければ見てみぬふりをしたという事実が一生後悔し心に重くのしかかるだろう。シノビがコバヤシを後悔と言う呪いから救い出したのだ。

 

 一方小雪も後悔はないという言葉を聞き昔のことを思い出していた。

 N市で行われた魔法少女選抜試験において自分は何もせず何も選ばず見ているだけだった。その結果多くの魔法少女が死んだ。

 ラ・ピュセル、ウインタープリズン、シスターナナ、ハードゴア・アリス。もう選ばないで後悔したくない。それがスノーホワイトの行動の原動力となる。

 あの時自分は選べなかったが、コバヤシはニンポ少女の影響で選ぶことができた。魔法少女とニンポ少女、世界は違えども自分が愛したものと似たような存在が人に力を与えたことが少しだけ嬉しくもあり誇らしかった。

 そして立場は違えども自ら選択し困難に立ち向かったコバヤシに敬意のような感情が芽生えていた。

 

「わかりました。もしシノビさんに会ったら伝えておきます。シノビさんもこのことを伝えたら喜んでくれると思いますよ」

 

 小雪の言葉にコバヤシは照れ臭そうに、そして嬉しそうに微笑んだ。

 

 

▼▼▼

 

「フゥー」コバヤシはタタミに大の字になり息を吐く。その顔は薬物中毒者めいて緩み切った笑顔だった。ニンポ少女が実在しそしてニンポ少女と会話し役に立てた。幸せだ!今幸せの絶頂にいる。実際バリキの成分とそれをきっかけに出される脳内麻薬物質によりコバヤシは薬物中毒者と同じような多幸感を感じていた。

 

その緩みきった笑顔は他人に見られれば訝しまれるものだが、今はコバヤシただ一人であり小雪は今シャワー室に居る。コバヤシは小雪にシャワーを使う様に勧めた。最初は丁重に断っていたが重金属酸性雨は早めに洗わないと健康に悪いと強く言われ、それに折れたのか申し訳なさそうにシャワー室に向かって行った。

 

一しきり幸福を噛みしめた後、何かを思いついたようにおもむろに立ち上がりリュックサックに手に取り様々な物を入れていく。レインコート、タオル、地図。とりあえず今後生活に必要そうなものはあらかた入れていった。

 

コバヤシは生活が安定するまで好きなだけ泊っていいと小雪に勧めた。これは小雪の今後を心配、もっとニンポ少女の役に立ちたい、ニンポ少女と一緒に生活したい。様々な想いが入り混じった提案だった。これも丁重に断られシャワーの時と同じように強く勧めたが小雪は決して首を縦に振らなかった。結果今度は小雪が自分の意見を押し通した。

 

コバヤシは食い下がろうとしたが自分の願望を優先しすぎるのは奥ゆかしくない行為だ。自分の想いをグッと飲み込んだ。明日にはここを出発する、残された少ない時間でニンポ少女に何が出来るだろうか?考えた末の行動がこの荷づくりだった。コバヤシは荷造りを終えるとフートンが入っている押入れに向かい奥底にある物品を取り出す。

 

それはバイオ笹に密封された長方形の形をしていた。これはモコテック・オタミで販売されている高級アンコヨーカンである。コバヤシはこれが好物であり、値段が高く誕生日など特別な行事にしか食べられなかった。そしてこのヨーカンはセンタ試験を突破し大学の合格祝いにくれた最高級の一品であり、祖母がくれたもので何か特別な日に食べようと保管していたが、特別な日は来なく一年が過ぎていた。

 

そしてニンポ少女が現れた今日こそがコバヤシにとって特別な日だった。好みに合うかはわからないが自分もそうだが女性は甘いモノが基本的に好きだし何より美味しいから大丈夫だろう。小雪が喜ぶ顔を想像しながらヨーカンと一緒に出すチャを用意し始めた。

 

ターン!ショウジ戸が勢いよく開く音がコバヤシの耳に届く。シャワーからあがったのか、早く用意しなければ。後ろを振りむくとそれはあまりにも予想外の光景があった。目の前にいたのは可憐なニンポ少女ではなく、大柄な男だった。レザージャケットを身に纏い髪型はX型のモヒカン。そして口元は髑髏のイラストが描かれているスカーフで覆い隠されていた。

 

男はコバヤシの足元に何かを投げてアイサツをする。「ドーモ、はじめましてコールドスカルです」コバヤシは緩慢な動きで目線を足元に移す。そこにはドアノブとチェーンがあった。何故こんなものがここに?確かに施錠したはずだが?男のことは何も知らない。だが気づけば本能に従って叫んでいた。

 

「アイエエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」コバヤシ・チャコにとって今日は特別な一日となった。

 

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