ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター 作:ヘッズ
内容の一部にニンジャプラスの記事を引用したものがありますので、
ネタバレが嫌な方は注意してください
◇ファル
タノシイ・エンタテイメント社が運営する複合スポーツエンターテイメント施設「ラウンド無限大」、ここでは卓球、ボーリング、ダーツ、ビリヤード、ヤブサメ、蹴鞠、野球、サッカー、アメフト等のスポーツを楽しめ、学生から親子連れも訪れる人気スポット、とホームページには書かれていた。
スノーホワイトはそのラウンド無限大の入り口で待っていた。スノーホワイトは熟考の結果、このラウンド無限大でドラゴンナイトと休日を過ごす事にした。理由としてはドラゴンナイトがスポーツや体が動かすのが好きだという単純な理由だった。
スノーホワイトは準備運動のように体を軽く動かしながら待つ、半袖白シャツにクロップ丈のデニムパンツにスニーカー。いつもの魔法少女の恰好ではない。これはこの日のために買った服装である。その際にスノーホワイトが以前のようにニチョームで姫河小雪として働いて購入しようとしたが、全力で止めファルが株で儲けた金で購入した。
あの時は金を稼ぐ手段が無かった故の緊急措置だ、今は合法的に金を稼げるのでバイトをする暇が有ったら、フォーリナーXを探す時間にあてるべきと強く主張した。スノーホワイトもその主張に納得しすんなり引いた。
「ごめん、待った?」
するとドラゴンナイトがやってくる。ポロシャツにジャージパンツといつもと大して変わらない服装だ、スノーホワイトが動きやすい服装でと連絡しておいたのでパトロールの時と変わらないのは当然とも言える。
「大丈夫、私も今来たとこ、じゃあ行こうか」
スノーホワイトはデートの時の恋人同士の定型文を交わしながら、チケット売り場に向かう。
「すみません、ジュニアハイスクール1枚、ハイスクール1枚で」
「学生証をお見せください」
ドラゴンナイトは財布から学生証を出し、スノーホワイトは財布から学生証を探すふりをする。異世界から着て住所不定職業不定のスノーホワイトが学生証を持っているわけがない、当然だ。
「学生証を忘れたみたいです」
「では、通常料金をお支払いください」
スノーホワイトは若干残念そうにしながら金を払う。だがこれは演技で有り予定通りだった。この対応は予想済みだった。だがすんなり通常料金で払えば怪しまれるので、学生証を忘れたという小芝居を一つ入れたのだった。
「うっかりしてた」
少し恥ずかしそうに笑みを浮かべる。これで怪しまれないだろう、ドラゴンナイトのことだから怪しむどころか、普段はしっかりしているスノーホワイトだが抜けているところも有るのだと、所謂ギャップ萌えというものを感じているのかもしれない。
中に入るとネオサイタマ特有のネオン装飾はなく、天井には青空の絵が描かれ壁面も暖色で彩られ外をイメージしたように解放感ある空間になっている。
「まず何で遊ぶ?」
「そうだな、ケマリとヤブサメはいいかな、授業で散々やっているし、特にケマリは好きじゃない」
蹴鞠と流鏑馬は確かスノーホワイトの世界での日本の貴族や武士がやるものだ。普通ではやる機会はなく、授業でやるなんてまず無い。改めてネオサイタマは変だと思わされる。スノーホワイトも同じ事を考えているようだった。
「あ、でもあれは面白そう」
ドラゴンナイトは興味深そうに視線を向ける。そこにはヤブサメエキスパートコースと書かれており、「治療費は払わない」「怪我は自己責任」と書かれている。様子を見ると利用者が機械の馬に乗って行うようだ。
「グワーッ!」
馬は物凄いスピードで走り利用者はふるい落とされて、のたうち回っている。あのスピードで落ちれば無傷で済まないだろう。だから治療費を払わない、怪我は自己責任等と明記していたのか、しかしいくら明記していると云えど、あんな危険なものを設置していて営業停止にならないのか?
「学校では馬がポニーだからつまらないんだよね、ちょっとやってくる」
そう言うとドラゴンナイトは楽し気にヤブサメコーナーに向かって行き、機械のウマに乗ってゲームを始める。
「イヤーッ!」
矢は的のど真ん中を射抜く、するとその偉業を祝福するようにパワリオワーとけたたましい電子音が鳴り響いた。ドラゴンナイトは機械の馬から下りると係員から何かを受け取り、スノーホワイトの元へ戻ってくる。
「やっぱり馬が速いと楽しいね、ポニーとは全然違う難易度が実際高い。あとこれいる?」
それは人形だった。球体にデフォルメされた表情をつけ手足をつけたデザインで、ラウンド無限大のマスコットキャラクターである。スノーホワイトは躊躇ったが折角だからと魔法の袋とは違うポーチに入れた。
「ソウスケさん、次からはああいうのは止めたほうがいいよ」
「どういうこと?」
「普通の人は多分あのスピードで矢を放ってど真ん中に当てられない、当てられたとしても何十年も練習した大人で、14歳には無理だと思う」
スノーホワイトの言葉でドラゴンナイトは口を開け自身の迂闊さに気づく、流鏑馬については詳しくは知らないが、恐らくあのスピードでど真ん中に当てるのは不可能だ、ましては少年であの馬に振り落とされないのも異常である。実際利用者もドラゴンナイトに好奇の視線を向ける。
「ソウスケさん、まぐれだって喜んで」
「うん、ヤッター、まさかど真ん中に当たるなんて、ブッダもこんなところでラッキーを使わないで欲しいよ。きっと明日からアンラッキーばかりだ、ヤダなー」
小声で耳打ちされ指示通り喜ぶ、まさに大根芝居にふさわしい拙さだったが、効果があるようで周囲もまぐれかという雰囲気に変わっていく。その間に二人はそそくさとその場を後にした。
「ごめん、ウカツだった」
「ニンジャだとバレると色々とマズいから気をつけよう」
「うん、でも色々と出来ないやつもありそうだな」
ドラゴンナイトは残念そうに呟く、このまま手を抜かず遊び続ければ、驚異的なプレイを見せ不倒のレコードを残すだろう。そうなれば嫌でも注目を浴び、その記録からニンジャと感づかれる可能性がある。普段の学校では手を抜いてフラストレーションが溜まっているので、今日は全力で遊ぼうとしていたのだろう。
それぐらい気づきそうだがそこら辺は中学生というところか、魔法少女でも同じようなことをして、指導官の魔法少女に注意されることは度々ある。
「ねえ、ソウスケさん、勝負しない?」
「勝負?」
「ここで色々な遊びで勝負して、勝った人が負けた人にそうだな…ご飯を奢るとか?」
「いいよ。やろう。負けないから、まず何から遊ぶ?」
ドラゴンナイトは先程までの沈んだ表情から一転、すぐに表情を明るくさせ、足取り軽く歩き始める。
「これは予定通りぽん?」
「いや、こうすれば盛り上がるかなって、ソウスケさんは勝負事好きみたいだし、組手では私に負け続けているから、ここでは勝とうと張り切るかなって」
確かにドラゴンナイトは勝負事が好きそうではある。漫然と遊ぶより勝敗を競えば熱中し楽しくなるので、スノーホワイトの提案は楽しませるという意味では正解かもしれない。しかし組手では負けているがここでは勝つという細やかなプライドと自尊心すら見透かされているとは思ってもいないだろう。
「それで負けるぽん?」
「そうするつもり、今日はソウスケさんに楽しんでもらいたいから」
「手を抜くにしても気を付けるぽん。手を抜かれたと気づいたらショックで寝込むぽん」
「ファルに男の子の気持ちが分かるの?」
「一般論だぽん」
こうしてスノーホワイトの接待勝負が始まった。だが勝負は思わぬ方向に進んでいく。
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ギャバーン!パワリオワー!
隣では電子アナウンスと電子ファンファーレがけたたましく鳴り、大学生らしき若者たちがハイタッチをしながら喜び和やかな空気になっている。だが二人の周りはそれらの空気とは無縁でピリピリとひり付いていた。
ドラゴンナイトがダーツを手に取り狙いを定め三本立て続けに投げる。
ギャバーン!ブルズアイ!ギャバーン!ブルズアイ!ギャバーン!ブルズアイ!オメデトウドスエ!アナタの勝ちです。
ダーツは吸い込まれるように的の中心点のダブルブルに吸い込まれた。ドラゴンナイトは憚れることなくガッツポーズを見せ、スノーホワイトは落胆と観念が混じったような息を吐いた後その様子をじっと見つめた。
「よし、これでイーブン!」
「最後はバスケの3Pと勝負だね」
「よしバスケエリアに行こう。絶対に勝つから」
「私も負けないよ」
ドラゴンナイトは意気揚々とスノーホワイトも密かに気持ちを高ぶらせながら移動する。
二人の勝負の種目はゴルフのパター勝負、サッカーでは的に当てる競技、ビリヤード、ダーツ、ボーリング、アーチェリー、バスケの7番勝負で行われることになった。
ゴルフでの飛距離勝負やパンチングマシーン等のパワーを競う種目ではプロでも出せない距離を出し、マシーンを壊してしまうのは確実なので却下。バッティングセンターでも魔法少女にとっては剛速球も簡単に打ち返せるので却下、必然的に消去法で勝負は精密性を争うものになっていた。
流石に魔法少女とニンジャでも、ずぶの素人だけあって最初はそれなりの成績だった。だがすぐさま上達し2ゲーム3ゲームでは上級者並みの成績を出してしまうので、パターなら全部入れるのではなく、半分はカップから1メートルに近い方が勝ちというように周囲に怪しまれないように工夫した。
ダーツとボーリング、アーチェリーはドラゴンナイトが勝利。
サッカーとゴルフとビリヤードはスノーホワイトが勝利。
勝負はバスケのスリーポイント対決で決まる。時間は10時から遊び今は18時を回っていた。昼食休憩が有ったがここまで長時間遊ぶと思っていなかった。何よりスノーホワイトがここまで熱中するとは思っていなかった。
「随分楽しんでいるぽん、スノーホワイト」
「楽しい勝負は接戦だから、これならソウスケさんも楽しんでくれるよ」
勝負を楽しませる為に演技で悔しがり接戦を演出している。そう言っているがファルには分かっていた。スノーホワイトは本気であると。
勝負を楽しませるために演出しているというのも本心だろう。だが結果的にそうなっているだけにすぎない。
ファルも組手の結果からスノーホワイトが優勢で手を抜くと思っていた。だが戦闘能力とスポーツの実力は直結しないと思い知った。
実力もそうだが、種目がスノーホワイトには不利なものだった。ボーリング、ダーツ、アーチェリー。これらは投擲系と分類され、手裏剣を投げるのが得意なドラゴンナイトには適性が有ったのか有利に働いた。
さらに言えばアーチェリーは流鏑馬で弓を扱っているだけあって、さらに有利に働いたかもしれない。サッカーもボールの扱いがスノーホワイトと比べ明らかに馴れていた。
結果ボーリング、ダーツ、アーチェリーでは負け、ゴルフのパターとビリヤードは勝ったが、サッカーはドラゴンナイトが自滅して勝ちを拾ったもので、全体的に苦戦している印象が目立つ。
「勝つぽんスノーホワイト、ドラゴンナイトに負けちゃダメぽん」
「どうしたのファル?そんなに熱くなって」
「いいから勝つぽん、次は、秘密を暴露してメンタル攻撃するぽん」
「そんなことしないから」
スノーホワイトはファルの妙に熱が入った言葉を無視する。この勝負でどちらが勝っても何かが起こり何かが変わるわけではない。
だが魔法少女に造られ、魔法少女に仕えるファルにとって魔法少女がそれ以外の存在に負けるのは許容できなかった。
スノーホワイトの熱に当てられたのかこれは遊びではなく、魔法少女とニンジャの種族間闘争と考えていた。
「じゃあ最後の勝負だよ。ルールは……」
───
「今日は楽しかったよ、ありがとうスノーホワイト=サン」
「私も楽しかった。明日からパトロール頑張ろう」
「うん」
「じゃあ、晩御飯食べようか、どこか行きたいところある?」
勝負はドラゴンナイトの勝ちで終わった。3P対決でスノーホワイトが最後の一投を外して勝負は決した。
今日は負けたが決して魔法少女が劣っているわけではない、やはり種目が不利だった。これがテニスや卓球やバスケの1on1等の対人競技なら思考が読めるスノーホワイトが楽に勝てた。むしろこんな遊びで勝っても意味が無い。寧ろ有事の際の戦闘力こそ重要だ。つまり魔法少女のほうがニンジャより優れている。ファルは愚痴を呟きながら二人の様子を見る。ドラゴンナイトは勝ったせいか表情は晴れやかだ。スノーホワイトも目的が達成できたさいか表情が爽やかだ。
常にパトロールとフォーリナーX探索で忙しかった。魔法少女でも肉体的にも精神的にも僅かでも疲労する。今日は息抜きになって良かったのかもしれない。そう考えるとファルの怒りは治まっていった。
「そうだな~、あっ、ちょっと移動するけど、行きたいところ有るけどいいかな」
◇スノーホワイト
「確か、ここらへんだって言っていたと思うけど」
ドラゴンナイトは自信なさげにキョロキョロと辺りを見渡す。通りには居酒屋数多く有り活気にあふれていた。所謂飲み屋街というところだろう、行きかう人もサラリーマンがほとんどで二人は明らかに場違いでサラリーマン達は訝し気に見る。二人はサラリーマンの視線を浴びながら通りを進んでいく。
「あった!ここだよ、ここ」
ドラゴンナイトは遭難した登山者が休憩所を見つけたように安堵の表情を見せながら店に向かって行く。店の看板には「ワザ・スシ」と書かれていた。
中高生が遊んだ後の食事で寿司か、元の世界では友達と遊びに行ったときはファーストフードかチェーン店かちょっとお洒落なイタリアン等で寿司屋どころか回転スシ店にすら行った事はなかった。店構えからして高級店というわけではなさそうだが、中高生が行くには金銭的にも雰囲気的にも敷居が高そうだ。スノーホワイトは財布の残りをチラりと確認した。
「ここはボクが払うよ」
その動作を目に捉えていたのか支払いを申し出る、だがスノーホワイトは毅然と断った。
「大丈夫、私が払う」
「でも、ボクが行きたいって言ったし、それにちょっと高そうだし」
「でも勝負に負けたのは私だから」
「けれど、スノーホワイト=サンもこんな店に行くのは想定していなかったでしょ」
二人の押し問答は続く、確かにスノーホワイトはこのような店に行くことを想定していなかった。だからこその気遣いだろう、だがスノーホワイトにも面子がある。
暫く口論が続き、結局ここはドラゴンナイトが支払いを持ち、次に2回ほどスノーホワイトが食事の代金を支払うということで落ち着いた。
二人は戸を開け暖簾をくぐる。寿司はぼったりバーでドラゴンナイトが怪我をした際にアフロのニンジャに怪我の治りが速くなると勧められてパック寿司を買ったが、毒キノコのような色合いで見るからにマズそうだった。
さすがにあんなものは出ないだろうが味は元の世界より見劣りするだろう。スノーホワイトは味のハードルを下げる。店に入ると手狭だが清潔感が保たれた空間で期待感を促される。
「イラッシャイマシ」
「イラッシャイマセ!」
カウンターから老人の落ち着いた声と若い女性の力強い声が出迎える。女性のほうにはどこか見覚えがあった。
「ドーモ、エーリアス=サン、お久しぶりです」
「ドーモ、カワベ=サン、ス…ユキノ=サン、あの時は世話になった」
「近くに寄ったので来ました。是非来たいと思っていたので」
エーリアス、あのニンジャスレイヤーと一緒に居た女性だ。確か寿司屋でアルバイトしていると言っていたが、ここだったのか。二人はエーリアスにカウンター席に促され着席する。
「よく来たな、来る時は両親と来ると思ったが、まさか二人で来るとは思っていなかった」
「すれ違うサラリマンに見られました」
「それはそうだ」
エーリアスは笑みをこぼしながらお茶を差し出し、二人は茶に口をつける。ドラゴンナイトは目を僅かに見開く。
「美味しいチャです」
「おっ、流石だな、スシ屋はスシだけじゃない、チャにも気を使わないとな。と言ってもアキモト=サンの受け売りだけどな」
ドラゴンナイトの言葉にエーリアスは嬉しそうに笑い、アキモトと呼ばれた老人が静かに頭を下げた。
「それで二人は何の帰りだ?」
「ラウンド無限大で遊んできた帰りです。タマゴ一つ、ユキノ=サンは?」
「お任せで握ってもらうことってできますか?」
ネオサイタマの寿司事情には疎いのでお任せで握ってもらおう。あの老年の寿司職人であれば客に合ったチョイスをしてくれ、大外れはないだろうと予想した。その言葉を聞き、三人の目が変わる。
「これはキアイ入れないとな、アキモト=サン」
「そうですね、満足させないといけませんね」
アキモトは静かに答える。だが目には職人の矜持のようなものが漲っていた。雰囲気の変化を察知したのか、ドラゴンナイトに小声で尋ねる。
「何か、失礼した?」
「うん、まあ、それなりに、でも許してくれたよ」
ドラゴンナイトの歯切れの悪い言葉に、スノーホワイトは僅かばかり不安そうな表情を見せる。どうやら何か失礼を働いたようだ。するとファルが液晶に文字を表示させ三人の目を盗み読む。
お任せとは「店の実力をみてやる」という品定めを意味しており、挑戦的言動でもあると書かれていた。なるほど女子高校生がこんな事を言うのは生意気であり失礼だ。
アキモトは滑らかな手つきでシャリを握り、包丁でタマゴを切りシャリに置き差し出す。
「エーリアス=サンは握らないの?」
「俺はサブだ、忙しくなれば握るけどメインはアキモト=サンだ、さあドーゾ」
「いただきます」
「いただきます」
スノーホワイトは口に入れ表情が綻ぶ、シャリがふわっと解ける握りにタマゴの味わい。高級寿司店には行ったことは無いが、そこの店で出される寿司はこれぐらい美味しいのだろう。少なくともスーパーのパック寿司のタマゴより断然美味しい。
「美味しいです。こんなに美味しいお寿司は初めて食べました」
スノーホワイトは賛辞を述べる。先程の失言をカバーするために話を盛っているが本心だった。ネオサイタマの寿司は下は元の世界の寿司より下かもしれないが上のレベルは変らないのかもしれない。
「初めてですか。ありがとうございます」
アキモトは予想以上の誉め言葉に少しはにかみながら嬉しそうに礼を言う。
「でも実際美味しいです」
「そうだろ、オレも初めて食べた時は美味さで衝撃が走ったぜ」
ドラゴンナイトも感想を述べるとエーリアスが自分のことのように嬉しそうに笑う。それからスノーホワイトはお任せで、ドラゴンナイトは注文しスシを食べる。どれも美味しかった。
二人がスシを堪能している間に客が入り始め、ドラゴンナイトが十貫目のスシを食べたところで店はほぼ満席になっていた。するとエーリアスがアキモトに意味ありげに耳打ちし、アキモトは静かに頷いた。
「今から良い物見せてやるよ、運が良いぜお二人さん。オキャクサン!注目!」
エーリアスが声を上げると客たちが一斉にカウンターに視線を集め店内は活気づく。
「イヤーッ!」
すると奇妙な光景が目に飛び込んできた。左手でネタを切り余剰エネルギーでネタが横に跳ね飛ばされ、そのネタにいつの間に握ったシャリが合体する。そして合体したスシ十数個が浮遊しているのだ。
「ウオーッ!ワザマエ!」
「これを見に来たんだ!」
「タツジン!」
「ワザマエ!」
客から次々と驚きと称賛の声が上がり、店内は興奮の坩堝と化した。これはネタとスシの衝突した運動エネルギーが完全に拮抗したことで宙に浮き滞空したのか?理屈は分からないが途轍もない技だということは分かる。これほどの繊細な技は魔法少女でも一朝一夕では無理だろう。
「スゴイです!スゴイですエーリアス=サン!」
ドラゴンナイトは客と同じように興奮しながら声をかける。こんなものを見せられたら興奮するのも分かる。最高のパフォーマンスだ。しかも味も普通に握ったものと変わらない味でこれはパフォーマンスではなく、大量に握るための合理的な技だった。スノーホワイトも驚愕と称賛の目線を向ける
「ガンフィッシュって言うんだ。アキモト=サンはもっとすごいぞ」
「本当ですか!?」
エーリアスは自慢げに答え、ドラゴンナイトとスノーホワイトは勢いよくアキモトに目線を向けるとアキモトは奥ゆかしくオジギした。
「ボクはお腹一杯だけど、スノーホワイト=サンは?」
「私も、とても美味しかったですエーリアスさん、アキモトさん。そして失礼を働いてしまい申し訳ございませんでした」
スノーホワイトは席を立ち深々と頭を下げた。
「気にしないでください、それどころか楽しかったです。お任せを握るのは職人と客の真剣勝負、久しぶりにお任せを握ったので、勝負を堪能させてもらいました」
「それで勝負はどうだった?」
「私の完敗です」
スノーホワイトはおどけるように手を挙げて笑みを見せる。それを見て三人は朗らかに笑った。
「あとお聞きしたい事があるのですが、フォーリナーXと名乗る人物をご存じないですか?」
フォーリナーXの姿が移る写真をエーリアスとアキモトに見せる。するとエーリアスが答えた。
「この女は見たことないが、似たような名前の奴は知っている」
その瞬間スノーホワイトの空気が変わる。ガンフィッシュを見た興奮も、美味しい寿司を食べた幸福感も消えていた。
全く手がかりがなかった相手の手がかかりがこんな場所で見つかるのか。ドラゴンナイトも思わずスノーホワイトに視線を向ける。スノーホワイトはエーリアスの言葉を固唾を飲んで待つ。
「名前はフォーリナーXX、でも金髪でこんな髪は長くなかった。黒髪でセミロングぐらいだ。でもアイサツした時に言ったんだ「フォーリナーX、いや今はフォーリナーXXか」って」
エーリアスの情報ではフォーリナーXとはまるで別人だ。それでも一度はフォーリナーXと名乗って訂正した。ということはやはりフォーリナーXで、姿が違うのは整形手術したことを考えたが、普通の手術では魔法少女の顔を変えられない、それこそ魔法少女の魔法でなければ不可能だ。様々な可能性を瞬時に検討する。
その間にエーリアスはスノーホワイトに耳打ちした。その瞬間スノーホワイトの表情は困惑の色を深めた。
―――フォーリナーXXはニンジャだ
ディスカバリー・オブ・ミスティック・ニンジャ・アーツ:タツ・ニンジャ
●ドラゴンへの憧れ
タツ・ニンジャが幼きモータルだった頃、彼は一冊の絵巻に強い衝撃を受けた。
天高く空を舞い、鱗で剣や弓を弾き、口から吐く炎で人々を焼き払い、その牙で人々を噛み砕く。その異形と力に恐れ慄いた。だがそれはニューロンに強烈なインパクトを残した。その絵巻に出てくるドラゴンはニンジャのメタファーであり、それを無意識に感じ取ったのかドラゴンへの憧れはニンジャへと変化していく、リアルニンジャを目指すようになった。
●リュウジン・ジツ
時が経ちケモノ・ニンジャクラン系統のドージョーに入門し修行を積む。ある日幼き頃に見た絵巻を読む。だが当時のドラゴンへの憧れは薄れていた。絵巻のドラゴンの動きは鈍重でありドージョーのセンセイが戦えば簡単に倒せるだろう。その時ニューロンが閃く。
もしドラゴンの特性をニンジャが持てば、ニンジャの素早さとカラテと判断力を持ち、硬い鱗による防御力、強大なカトンと牙と爪による攻撃力、翼による飛行能力と機動力を持つ強力なニンジャになれるのではないか?それがリュウジン・ジツの発想となり、ジツの実現の為に修行に励みセンセイのカイデンし独立した。
●試行錯誤
独立しリュウジン・ジツの開発が始まった。鱗は様々な外皮が硬い生物を捕食し、それらの成分を合わせた物を生成できるように体を作り替え、それらにカラテを込めてさらに硬度を与えた。カトンは可燃性の液体を生成し口から吐けるようにした。
体は理想に限りなく近づいたが長年の肉体改造により、リュウジン・ジツを使うとニンジャ器用さと判断力が大きく減退してしまう。それを解消するために数か月による瞑想修行を数十回行い、リュウジン・ジツを使っても判断力とニンジャ器用さはほぼ減退しなくなった。
一番苦労したのは飛行能力だった。絵巻のように空を駆けるのが理想だったが、ニンジャと云えど超自然的な力が無ければ飛行は不可能であり、十数秒間のホバリングが限界だった。
こうして妥協も有りながらもリュウジン・ジツは完成し、自らを故郷のドラゴンの呼び方であるタツ・ニンジャというガイデン・ネームを名乗った。ジツ完成には百年単位の年月が掛かった。
●苦悩
さっそくジツを試したいと思ったが、世はソガ・ニンジャに支配され「カラテによる支配は野蛮の極み。高位のニンジャは奥ゆかしく闇に潜みジツによってモータルを操るべし」と述べた事もあり、戦いにおいてもリアル・ニンジャ同士のカラテは行われず、ジツを使う機会は訪れなかった。これを無視すればムラハチ、又はソガ・ニンジャやその一派に棒で叩かれ粛清されてしまう。タツ・ニンジャはそれほどまでのリスクを払ってまでもリュウジン・ジツを使う気はなかった。いつか考えが変わり、カラテによってイクサの雌雄を決する世に変わると楽観視していた。
だがソガ・ニンジャによる支配は続いていく。リュウジン・ジツを使えないならばドージョーを開きミームを伝えようと考えた。しかしタツ・ニンジャの人付き合いが苦手で有り、権謀術数などの政治力や知力は無く知名度は極端に低かった。さらにカラテの戦闘でしか用途が無いリュウジン・ジツを学ぼうとするも者はいなかった。そんなタツ・ニンジャの居場所は無く逃げるように日本から出ていく。
●放浪
タツ・ニンジャはシルクロードを辿るように西に向かう。各都市もソガ・ニンジャの影響は絶大で有り、リュウジン・ジツを振るう時も場所も無かった。そして流れ着いた先はウェールズ、ウェールズの国旗にはドラゴンが描かれており、それに縁を感じたタツ・ニンジャは当時フランスとの百年戦争の真っ最中であるウェールズに加担した。
●百年戦争
しかし戦争と云えどリアル・ニンジャが力を発揮する舞台は無く、通常の状態のカラテで対応可能なミッションばかりおこなっていた。そんな日々にタツ・ニンジャは腐っていた。そしてある日ジャンヌ・ダルクを殺せというミッションを与えられた。
ジャンルダルクが対峙する戦場でタツ・ニンジャはリュウジン・ジツを使った。
モータル時代にドラゴンに心打たれ、それからニンジャになり自身の理想を体現したリュウジン・ジツ。それを使う機会は全く訪れずもはや我慢の限界だった。
このまま敵味方関係なく暴れまわり始末しに来た敵味方のリアル・ニンジャと戦う。それは自殺行為だったが、ジツを使うために命をかけた。タツ・ニンジャのカラテが決まると思った瞬間、ジャンヌダルクはタツ・ニンジャのカラテを防いだ。
●ドラゴン・ニンジャとの戦い
このジャンヌダルクは影武者であり、その正体はドラゴン・ユカノだった。タツ・ニンジャは驚きながらも構わず全力でドラゴン・ユカノに攻撃する。
鱗による耐久力、全てを焼き尽くすカトン。翼での飛翔によるエアロカラテ。それを生かす繊細なカラテ。タツ・ニンジャは持てる全てを出した。
そのカラテはユカノが失っていたドラゴン・ニンジャとしてのカラテを徐々に引き出していく。戦いは10分程度でリアル・ニンジャ同士のカラテとしては短い時間だった。だがそのカラテは熾烈を極めた。そしてドラゴン・ニンジャの不完全ながらソウル・ブロウナウトが決まり勝敗は決した。
「アバ……私の負けだ……ガイデンネームは何だ……」「ドーモ、タツ・ニンジャ=サン。ドラゴン・ニンジャです」タツ・ニンジャは衝撃を受ける。ドラゴ・ニンジャだと!?まさか空想上の生物ドラゴンはドラゴン・ニンジャのメタファーだったのか!タツ・ニンジャは死に際にニンジャ真実にたどり着く。
「偽物に憧れ、偽物の再現し超えようとジツを開発して、本物に敗れた。滑稽な人生だ。ハッハッハッ」タツ・ニンジャは笑いながら泣いた。ソガ・ニンジャに縛られ腐りきり、やっと決心をつけて使ってこの様だ。本物はこの偽物のブザマサを軽蔑しているのだろう。ドラゴン・ニンジャを見る。その視線は軽蔑ではなかった。
「空想上のドラゴンを再現したそのカラテ、ドラゴンの強靭さと力強さ、ニンジャの精密さと繊細さが兼ね備えた見事なカラテでした。貴方は偽物ではない。誇りをもってキンカクテンプルに向かいなさい」ドラゴン・ニンジャは厳かに敬意を持って告げた。
「本物のお墨付きか。光栄だ」タツ・ニンジャはニヤリと笑った。色々有ったがこうして本物と戦い認められた。この人生は無駄ではなかった。「ジツを継承するアプレンティスは?」「いない、私で終わりだ」「残念です」ドラゴン・ニンジャは介錯の構えをとる。「ハイクを詠みなさい」タツ・ニンジャは大きく息を吸い込み叫んだ。
「ドラゴンは!いずれの世に!必ず降り立つ!」「イヤーッ!」「サヨナラ!」タツ・ニンジャは爆発四散した。
こうしてタツ・ニンジャは死んだ。ユカノはタツ・ニンジャとの戦いでかつての力を取り戻したが、すぐに力を失ってしまった。