ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター   作:ヘッズ

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この話にはニンジャスレイヤーもスノーホワイトも出てきません。



第十一話 バース・オブ・ア・ニューエクステンス・バイ・マジカルヨクバリケイカク#1

◇フォーリナーX

 

 芽田利香は我儘で強欲で自由が好きだった。自分が欲しい物は手に入り、自分がやりたいことを好きな時に好きなだけ自由にやる。それが当然だと思っていた。

 利香だけではなく、人は我儘で強欲であり産まれてから誰も利香のようにありたいと思っている。

 それらは社会のルールや親の躾により考えは強制され、社会や世間と折り合いながら、できるだけ欲しい物を手に入れようと努力し、やりたい事をやる時間を作る。そうやって自分の欲求を満たそうと努力する。

 しかし利香は社会や親から矯正されることなく我儘で傲慢だった。そう有り続けたのは利香が優秀だったからだ。

 

 容姿は100人に聞けば100人が美人と答えるほどの美貌だった。いずれは女優かモデルか、すでに芸能事務所からいくつものスカウトから誘いがかかっていた。

 運動能力も他の子供たちよりも遥かに優れており、徒競走でも県内で常に1位、サッカーや野球なども特に練習しなくても、地元のチームではエースストライカーやピッチャー四番を任せるほどの実力だった。

 記憶力も学習能力も知能も高く授業も一度聞けばすぐに覚えられ、テストも常に学年1位だった。またその知能の高さで人格者を演じ完璧な交友関係を築き外面は完璧だった。

 

パーフェクト超人、出木杉ちゃん、それが利香のあだ名だった。

 

 そんな利香を両親は甘やかし、好きなものを与え、好きなことをやらせた。本当なら親としてしっかり教育しなければならなかったが、そうはいかなかった。

 両親達はとある企業を経営しており何とか会社を大きくし地位を高めたい、そう思いながらも自分達にもその部下にも才覚がなく半ば諦めていた。そんな時に利香が産まれた。

 鳶が鷹を産むとはまさにこのことだった。神童と言われるほどの圧倒的な才覚、娘なら会社を大きくし地位を高めることができると確信した。それからは娘の機嫌を損ねないように我儘を許しつつ、さり気なく会社を継ぐにあたって必要な習い事をやらせ、会社を継ぐように誘導していく。利香は自分の意志か親によって誘導させられたのか分からないが、今のところは親の会社を継ぐつもりでいた。

 

 そして10歳になった頃に転機が訪れる。利香は国が指定する難病に罹ってしまい、入院生活を強いられる。

 病気に罹り入院生活を始めた当初は両親達も忙しい合間を縫ってお見舞いに来てくれた。食べ物、娯楽品、利香が欲しい物は可能な限り与えた。最初の頃は頻繁にお見舞いに訪れ、病気を治すために惜しみない金を投資した。この病気が治れば利香は元通りになる、そして会社を継ぎより大きく発展させ地位を高めてくれると信じていた。

 だが治療は長期間に及び症状は一向に治らないどころか、利香から次々に奪っていく。体も難病のせいで弱くなり、運動どころか外出するのも困難になっていった。食事も決められた物しか食べられず、好きなアイスも焼肉も天ぷらも寿司も全て食べられない。食べられるのは不味い病院食だけだ。

 そして利香を何とか宥めすかし、やらせていた勉強も病気に罹る前とは別人のように答えを間違えていく。難病により運動能力どころか、知能や記憶力すら並以下になってしまった。利香は神童ではなくなった。

 神童では無くなった利香を見て悟る。自分たちは利香の我儘を許し自由を与え、少なくない投資を行ってきた。だがそれは無駄になった。両親は絶望し利香を見限った。

 治療方針も積極的な根治から現状維持に変更した。治療方法を積極的に見つけようとすればそれだけで莫大な費用が掛かる。それだったら生命維持を重視したほうが金が掛からず、その金を会社の運営に回したほうが建設的だ。

 見舞いに行く回数もめっきり減り、月に一回くればマシぐらいだ。そして利香の欲しいは全く与えなくなった。

 その扱いに利香は憤慨した。どうしてもっと見舞いに来ない!どうしてもっと欲しい物を与えない!その言葉に両親は答える。

 

―――今までは優秀だったから我儘を許した。だが優秀で無くなったのだから我儘を許さない。

 

 利香は理解した。今までは優れていたからゲーム機もマンガも食べ物も与えられた。だが今は優秀じゃない、心の底でバカにしていたダメな奴以下だ。自由に好きな事をやるには能力が必要なのだ。能力がなければ何もできない。それが世界の真理だ。

 

 それ以降は全く印象に残っていない、ただ生きて時間が経過しただけ、起きて、不味い病院食を食べ、親からもらった何回もクリアしたゲームをやり、何回も読んだマンガや小説を読み返す。だがこれは能力が無い者の末路、

 

 節制、我慢。それは利香が一番嫌いな言葉だった。だが今は節制や我慢ばかりが常に付きまとっている。病気になった当初なら怒り悲しみ暴れていただろう。だが今は節制や我慢を許容し怒る気力すら無い。それほどまでに精神は摩耗していた。

 そして15歳になったある日、二度目の転機が訪れる。その日は10月15日の満月だった。昼間に寝すぎて夜は眠れないだろうと考えながら満月を眺めていたので、よく覚えている。

 

「こんにちは、良い夜ですね」

 

 その女性は上下ジャージの地味な格好だった。だが容姿は美しく、キレイと言うよりカッコイイ系の宝塚の主役といった感じだった。そして何よりも驚いたのがその登場の仕方だった。

 ジャージの女性は入り口からではなく窓から入ってきた。1階の場合ならそれは可能だろう。だが今利香がいる病室は4階だ。4階から上がってくるなど並の人間には不可能だ。

 以前の利香ならこの侵入者に脅威を感じ警戒しただろう。だが今の利香は深く考えることができず、それどころか退屈で代わり映えのない日々を送っていた中に現れたミステリアスで刺激的なイベントに少しだけワクワクしていた。

 

「誰?」

「私は魔法少女、そして君も魔法少女だ」

 

 自称魔法少女は朗らかにそう告げた。だがそれだけでは以前の利香でも理解できなく、今の利香なら猶更である。説明を求めるとあっさりと説明してくれた。

 要約すると魔法少女は超人的な力と魔法を使え、自分には魔法少女になる資質があり、魔法少女にならないかとスカウトにきたそうだ。利香は二つ返事で承諾した。ジャージの魔法少女は「思いきりが良いね」と笑いながら手を頭に当てた。その瞬間光に包まれる。

 

 まず服装が変わっていた。パジャマではなく、黒一色のフラメンコを躍る際に着るようなドレスを身に纏い、童話に出てくる魔女のようなつばが異様に大きい黒の三角帽子を被っていた。そして体も変わっており、カサカサだった肌は赤子のような瑞々しさで、髪もサラサラヘアーと形容できるほどになっていた。さらにショートヘアーだった髪はロングヘア―と呼べるほど伸びており、色も黒から金髪になっていた。

 プロポーションも変化しており、幼児体系だった体はグラビアモデルのように腹には括れができるほど引き締まり、胸もお尻も大きくなっていた。何より体中にエネルギーが溢れている。指を数センチ動かしただけで分かる。神経が何十本も通っているような感覚、これは病気に罹る前に感じていた以上だ。今ならあれ以上に体を自由に動かせるだろう。

 ジャージの魔法少女から鏡を受け取り姿を見ると顔も変わっており、瞳も黒から碧眼になっており、容姿もさらに美しくなっていた。

 

「じゃあ、夜のお散歩に行ってみよう」

 

 ジャージの魔法少女から差し伸べられた手を受け取ると夜の世界に駆け出した。この日は一生忘れないだろう。利香は夢中で街を駆け巡った。

 川の石を足場にするように屋根や電柱を足場にしながら移動し、100メートル世界記録を遥かに更新するスピードで走り、放置自転車をチリ紙を投げるようにポイポイと投げていく。利香は街を駆け巡る中ずっと笑っていた。それは入院生活で笑ってない分を取り戻すようだった。

 

「楽しかった?」

「うん!」

 

 利香とジャージの魔法少女は鉄塔の頂上に登り街を眺める。空が豆粒のように小さい、広く人がいつも見ていた病室の窓より遥かに高い景色、何より風が気持ちいい、いつもは空中で気温は管理され人工的な風しか感じられない、でも今は自然の風を一斉に浴びている。普通の人には何ともないことだが、利香には感動的ですらあった。

 

「じゃあ、名前をつけようか」

「名前?アタシは芽田利香」

「ちがうちがう。魔法少女としての名前、魔法少女には名前が必要なんだ」

「フォーリナーX!」

 

 利香は即答する。フォーリナーXは利香のマイベストゲームの主人公のデフォルトネームだ。頭の中にこの名前が思い浮かんでいた。

 

「フォーリナーXね、いい名前だ。それで魔法は『異世界に行けるよ』か」

 

 利香はジャージの魔法少女の言葉を聞いて思い出す。魔法少女は魔法を一つ使え、それが『異世界に行けるよ』ということか。異世界が有ることに驚いたが、魔法少女がこの世界に居るのだから異世界の一つや二つは有るだろう。それにしても異世界か、ファンタジーだろうか、それとも近未来だろうか。利香はゲームや漫画や小説で得た知識で異世界を思い描く。

 すると利香の体に魔力が高まっていた。それを察知したジャージの魔法少女は危険を感じたのかすぐに離脱する。塔から離れる最中に利香の姿が消えるのを確認した。

 

 そして行ったのはRPGゲームのような剣と魔法の異世界だった。利香が最初に想像したThe異世界といえるような世界、そこで利香は我儘に強欲に自由に過ごした。モンスターや魔王をぶちのめし、好きなだけ遊び好きなだけ食べた。

 登場人物が現世で死亡し、異世界に転生して強大な力をもって何の努力もせず、チヤホヤされ富や名声や恋人を手に入れるのを「なろう系」と言うが、利香はそれが好きだった。

 病気に罹る前は努力しなくても何でもでき容姿も良かったのでチヤホヤされており、なろう系の主人公のようだった。だが病気により全てを奪われた。だが今の自分はそれだった。この世界では魔法少女より強い生物は存在せず、何の努力もせず敵を倒しその強さに尊敬される。

 

 利香は人生の絶頂だった。だがそうは長くは続かなかった。体感時間として2年ぐらいだろうか、第六感的な何かがこの世界から出ろと告げる。最初は気のせいかと思ったが、次第にその何かが自身の中で真実味を増してきたので、元の世界に戻ったら使えるかなと貴重品を出来るだけ手に持ち、元の世界に帰った。

 

 気づけば鉄塔の頂上に戻っていた。太陽の位置からして昼ぐらいだろうか、大体2年過ぎているから、病室から突然抜け出して2年も経てば、病院や家族は大騒ぎしているだろう。いや家族は騒がないか、それに2年じゃあ事件になっても記憶から風化している。

 一応確認しておくか、鉄塔から下りて病院に向かおうとしたら、何かが猛スピードで迫ってくる。それはジャージの魔法少女だった。2年前ぐらいのことなので思い出すのに多少時間がかかった。

 

「戻ってきたか、急に魔法は使うなよ、色々と説明しなきゃいかないことがあるんだから」

「久しぶり、いや~楽しかった。まるでなろう系主人公だったよ。はい、お土産、エリクシール」

「エリクシール何それ?」

「RPGネタは分かんない?とりあえず行った世界の高級品」

 

 フォーリナーXは万病に効くといわれる薬をジャージの魔法少女に手渡した。本当ならあげたくは無かったが魔法少女にしてくれたお礼だ。それにもう一つあるので問題ない。

 

「その荷物は何だ?何が入っている?」

「異世界で貰ったもの、これは全部アタシの物だからな」

「ちょっと見せてくれないか?」

「いいよ、でも見るだけだからな」

 

 そう言い回収した残りの物を自慢げにジャージの魔法少女に見せる。雷の力を宿すといわれる剣に、精霊の加護を宿すと言われた手甲などあの世界のエピック級やレジェンダリー級の一品を譲り受ける、または強奪したものだ。それらを見ながらジャージの魔法少女はふむふむと言いながら見定めていく。

 

「これは使えるな」

「何か言った?」

「何でもない、それよりこれ全部売ってくれないか?」

「売るね。それより良い方法がある」

「どんな?」

「あんたから金を奪う」

 

 利香は挑発するように睨みつける。エリクシール的な物はあげたがそれ以外は与えるつもりはない、これは私のものだ、誰にも渡すつもりはない。拳を握り締め急所に打ち込もうする。するとジャージの魔法少女はそれを見透かしたように笑った。

 

「それは名案だ、だが止めておいたほうがいい」

「なんで?名案なんだろ」

「第一に買うのは私の上司で私じゃない、それに私は金を持っていない」

「ならアンタをボコボコにして上司の場所まで連れて行かせ、上司もボコボコにして金を奪えばいい」

「それも止めておいたほうがいい。魔法少女にも組織がある、私達をボコボコにする、または殺せば君を捕まえに追っ手が来るだろう。君がいくら強かろうが年中追っ手に追いかけられるのは疲れるぞ」

 

 その言葉に意志が揺らぎ握りこぶしを開く、確かにそれは面倒だ。その心を読むようにジャージの魔法少女は言葉を紡ぐ。

 

「別に全てを売れとはいわない、お気に入りがあれば持っていればいい。全部持っていても邪魔なだけだろう。それにここで暮らしていくなら金は必要だ。異世界生活で気づいたと思うが魔法少女には睡眠も食事も必要なく、ホームレス生活も楽勝だが、ちゃんとした家での生活と比べれば快適さは雲泥の差だ。それに君の好きな漫画やゲームも買える。盗むとか奪うとか考えたかもしれないが、そういうのは監査部に案外見つかり、魔法少女資格剥奪ということもある。ちゃんと金で買うほうが利口だ」

 

 ベラベラと喋るが言っていることが正しい部分もある。確かに異世界では最初はホームレス生活だったが、暮らしていけるが快適とは言えなかった。それに監査部と言われる組織がいると仮定して魔法少女剥奪は何としても避けたい。

 

「分かった。いくつか売ってやる」

「話が早くて助かる」

「あと今は西暦何年の何月何日?」

「今は〇〇年の10月18日だけど」

 

 まだこっちの世界では2日と半分程度しか経っていないのか、正直軽い浦島太郎状態は覚悟していたが、異世界とこっちでは流れる時間が違うらしい、ならばまだ失踪騒動は収まっていないだろう。

 

「ところで、これからどうするの?」

「どうするって?」

「あの病室に戻るの?病室に戻って不自由で退屈な入院生活に、それ以前に魔法少女の変身を解いて人間に戻るの?」

 

 フォーリナーXはその質問に答える事ができず言葉を詰まらす。異世界生活で魔法少女の体の素晴らしさを痛感した。それなのに難病に侵された貧弱な身体に戻ろうとは思わない、例えるなら魔法少女の体は最新の携帯ゲーム機のゲーム、人間の体は30年前の携帯機のゲームだ。最新のゲームになれた状態で30年前のゲームなどやろうとは到底思えないと同じことだ。

 だがそれは芽田利香の人生を捨てることになる。いくら魔法少女フォーリナーXの姿で自分は芽田利香であると主張しても誰も信じないだろう。それについては構わないが問題はフォーリナーXとしての生活だ。

 このまますぐに異世界に行くことを考えたが、魔法を使うにもどうやらインターバルが必要なようで体感的にそれは二三日では終わらない、最低でも一ヶ月は必要だ。そしてその間の生活はどうする?金は奪えないし労働で金を得ることもできない。ならホームレス生活か?せっかく魔法少女になれたのに何故そんな我慢をしなければならない。これでは人間の時と一緒だ。

 

「よかったら、私達のところで働かないか?今なら住むところも提供し給与も出す。それで自由気ままに生活できる」

 

 ジャージ姿の魔法少女から図ったような提案、一瞬怪しんだがすぐにやめた。家が手に入り金も手に入る。良い事尽くめだ。特に考えることなく二つ返事で承諾し、こうしてフォーリナーXは雇われ魔法少女となる。主な仕事は異世界の物品を収集し売買、その仕事で生計を立て魔法少女になってから10年間が経過した。

 

 

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