ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター   作:ヘッズ

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第十一話 バース・オブ・ア・ニューエクステンス・バイ・マジカルヨクバリケイカク#2

 

ブブブーン、ブンブンブブブ、ギャバーン、ギャバーン、ボーナスチャンス!店内ではBGMとゲーム音声が混じり合い会話が困難なほどの爆音が響き渡り、サイケデリックな光が包み込む。ここはゲームセンター「ウチムソウ」、はぐれ若者や無軌道大学生がモラトリアムを消費するために訪れる遊戯施設だ。

 

ゲームセンター「ウチムソウ」のゲームの中で一際人が集まっているゲーム台がある。禅TANK、電子タンクを操作し敵を撃破する対人シューティングゲームで、ネオサイタマで一番ホットなゲームだ。自宅でもプレイ可能だが強固な回線が必要であり、電子インフラが整っていないプレイヤーは直接ゲームセンターにプレイしにくる。

 

10台の筐体にプレイ待ちの行列とプレイを見るギャラリーで人が溢れかえっている。プレイ待ちの人間は速くゲームオーバーになって代われとネガティブオーラと目線を向け、ミスを見つければ自分方が上手いと自尊心を保つ、「終了ドスエ」電子マイコの声が無感情に終了の合図を告げプレイヤーは悔しそうに見つめながら席を立つ。

 

このゲームセンターでは連続プレイは禁止されており、やるには行列の最後尾に並ばなければならない、そして列の一番前のメガネのプレイヤーはトークンを握りしめ席に向かう。歩きながらシミュレーションを行い深呼吸でヘイキンテキを保つ。今日こそ自己ベストの更新だ、だが席には別の人物がすでに座っていた。ナムサン!横入りだ!

 

横入りとは行列に並ばず一番前に入りプレイする行為だ。これはかなりシツレイであり、ムラハチは免れない!「横入りはダメ、マナー重点!」メガネのプレイヤーは甲高い声を張り上げ、他のプレイヤーも怒りと侮蔑の視線をぶつける。その人物はめんどくさそうに振り向く、

 

その人物は女性だった。金髪に碧眼で髪は三つ編みにしても腰元まで届く長髪で黒のショートパンツに黒のショートキャミソール、その上にレザージャケットを羽織っている。その胸は豊満だった。メガネのプレイヤーはその露出度の高さと官能的な体を見て生唾を飲み込む。だがゲーマーの良識と矜持が行動を促す。「最後尾に並んでください、それがマ…」メガネのゲーマーは全てを言う事ができなかった。

 

頬に伝わる痛み、殴られた?だが女は微動だにしていない、何で?「邪魔」女性は苛立たしいようにメガネゲーマーに呟く。「アッ、ハイ」メガネゲーマーは即座に返事し女性はトークンを入れてゲームを開始した。「レディ・トゥ・スタート」「アクション始点」無機質なマイコ音声が発せられる。

 

「何だあの女」「マブだからって調子に乗りやがって」「どうせ下手くそだぜ」「ファーレンハイトか、どうせデザインが良いからってだけで使っているんだろ」ゲーマー達はネガティブオーラを女性に一斉に向ける。並のゲーマーなら怯んで操作ミスをするだろうが、女性は全く気にしていなかった。

 

「ポイント点」「ポイント点」「ポイント倍点!」「ポイント倍点!」「セプク・ポイント点!」「セプク・ポイント点!」電子音声のアナウンスが次々と流れる。女性は巧みに電子タンクを動かし浮遊させ攻撃を躱し、電子弾丸を敵に命中させる。「あの女ワザマエじゃね?」「いやあれぐらいゴロゴロいるよ」ギャラリー達は精一杯の虚勢をはる。

 

画面では電子タンクが横転しながら弾丸を躱し、巨大な電子タンクを撃破する。ワザマエ!「おい六連続テック・ロールだと!?」「しかも巨大タンクをデス・オブ・アキレスで倒した!クール!」ギャラリー達からネガティブオーラは消え失せ、次々に繰り出される高等テクニックに賞賛の声を上げる。一帯には異様な熱気が漂っていた。

 

女性は熱気に当てられることなく、目視不能なスピードでレバーを動かし、高等テクニックをマシーンめいて繰り出していく。「終わりドスエ」「ウオオオーッ!」ギャラリーから歓声が上がる。画面には一位という文字が点滅する。これは獲得ポイントが歴代一位になった証である!

 

ギャラリー達は歴史的瞬間に立ち会って喜びを表現するようにさらなる歓声をあげる。「実際超絶!」「本当に人間か!?」ギャラリーは興奮を抑えきれないように喋り始める。ギャラリー達が言うのも無理ないほどのプレイだった。あれができるのは神話的プレイヤーのヤマダ・アトラス、そしてニンジャぐらいだろう。

 

そして最近になってもう一人実現可能な生物がネオサイタマに現れた。女性はプレイヤーネームを打ち込む。フォーリナーX、魔法少女である

 

♦♦♦

 

フォーリナーXは髑髏めいた月を見上げながらため息をもらす。禅TANK、自分の世界の数十年前レベルのグラフィックのゲーム、元の世界なら見向きもしないゲームだったが暇つぶしでやったら予想外に面白かった。だが歴代記録を抜いたことで興味と情熱が失せ、費やした時間に対する虚しさすら感じていた。

 

格闘ゲームやシューティングは魔法少女の能力ならあっと言う間に上達して、頂点に上り詰めてしまう。やはりゲームはRPGやシミュレーションやノベルゲームだ、そこには魔法少女の能力は関係ない、だがネオサイタマではそのジャンルのゲームは全く発展していなかった。そのことを思い出し再びため息をついた。

 

「ヒュー!禅TANKマブだったぜ!」フォーリナーXの後ろから声がかかる。顔に入れ墨を入れた屈強な男達が5人居た。「だが横入りはシツレイだぜ、プレイヤーの皆に迷惑料を払わねえとな。代表として徴収しに来ました!」この男性達は武装してゲーマー達に強盗を働くカツアゲマンだ!

 

だがカツアゲマン達は知らない、カツアゲ&ファックしようとした女性が魔法少女であることを!「ちょっと奥に行こうぜ」「は…はい」フォーリナーXは一瞬獰猛な笑みをこぼした後、バイオミニ水牛めいて声を震わせながら路地裏に向かう男達についていった。

 

「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」路地裏に悲鳴が響き渡る。悲鳴が聞こえなくなるとフォーリナーXが満足げな顔を見せながら出てきた。「結構持ってたな。今日はこいつらの家に泊るか」カツアゲマン達はフォーリナーXに返り討ちにあい逆にカツアゲされていた。

 

フォーリナーXの禅TANKを極めてしまった寂しさと虚しさがカツアゲマンに向けられて、いつも以上に痛めつけられていた。不運!少しばかりストレス解消できたフォーリナーXは禅TANKのBGMを口ずさみカツアゲマンの運転免許証に書かれている住所に向かった。

 

「次は何しようかな~」フォーリナーXはカツアゲマンの家にあったオスモウチョコを食べながら、テレビの電源を入れてザッピングを始める。するとネオサイタマ・シティ・ポリス24時間が放送されており、チャンネルを固定した。サイバーサングラスを装着し手慣れた手つきで操作しVRモードにして番組を見始めた

 

フォーリナーXの魔法の効果として、訪れた異世界の歴史や文化や知識が一部を除いて強制的にインプットされる。初めて見た機械でも一般人が使えるレベルなら難なく操作できる。この効果でカルチャーギャップに悩むことなく生活でき、ネオサイタマに来てから数カ月だが、まるで現地人のように順応している。

 

「キッヒヒヒ、見つかってるよ、バカだな」テレビではカツアゲ現場に出くわしたマッポとカツアゲマンの争いの様子が放送されている。フォーリナーXの主な収入源はカツアゲだった。先程のようにカツアゲマンを誘いカツアゲしたり、サラリマン達からカツアゲしていた。

 

その金でゲームセンターで遊んだり、暇つぶしにヤクザをぶん殴ったりと自由気ままに生活していた。一切の我慢をせず抑圧されず好き勝手行動する。それはどの異世界でも同じでいつも通りだった。

 

「ちっ!」フォーリナーXは突如舌打ちしながら癇癪を起したようにオスモウチョコを投げつけた。オスモウチョコは粉々に砕け窓を破壊した。イライラする、ニューロンがモヤモヤする。フォーリナーXもその原因は分かっていた。まずはスノーホワイトの存在だ。魔法少女はどの世界でも強者であり、食物連鎖の頂点だった。

 

だがスノーホワイトは魔法少女でありフォーリナーXより強い。元の世界でも魔法が使えなければあのまま行動不能にさせられ、監査部に連行されていた。そしてスノーホワイトはネオサイタマにまだ居る。ネオサイタマに来た際に事故で死んでいることを期待していたが甘くはなかった。

 

スノーホワイトのせいで見つからないようにと行動にブレーキが掛かっている事に気づいていた。それが腹立たしかった。そして魔法少女についてである。魔法少女は確かに凄い、圧倒的な身体能力に魔法に美貌、まさに生物として非常に優秀である。だが優秀故に完璧ではない。

 

魔法少女は食事も睡眠も必要としない、だが空腹時にとる食事の美味しさや睡眠の心地よさはニューロンに刻み込まれている。さらに魔法少女には性欲が無い、性行為の快感を味わいたく試しにやってみたが全く快感ではなかった。それに毒に耐性があるせいか酒を飲んでも酔えず、麻薬類も効果が無い

 

食欲、睡眠欲、性欲、それは不必要として魔法少女から取り除いたのだろう。それらの人間に必要な欲求は最大の娯楽であると気づいた。だがそれを味わうことはできない。芽田利香は難病に罹っており、医療体制が整っていない状態で行動すればそれだけで死亡する可能性がある。

 

故に魔法少女になってから殆ど人間に戻っていない。フォーリナーXは病気の根治を決意し、異世界で様々な薬や奪い医者を誘拐し、勤め先の協力を得て治療を試みた。だが今現在も病気は治っていない。その二つの要素がフォーリナーXを苛立たせた。

 

「ヤクザでも殴るか」こういう時はストレス解消に弱者をいたぶるに限る。魔法少女は食物連鎖の頂点、それにスノーホワイトはこの世界に完全に適応はできない、ヤクザが暴行されるというニュースにも載らないような事件からたどり着けるわけがない。さあ、どうやって痛めつけようか、フォーリナーXは胸躍らせながら割れた窓から出発した

 

 

 

ヘラクレスマンション、タヌキストリートにあるこのマンションは一見普通に見えるが、ヘンタイポルノ、違法麻薬、チャカガンショップ等多くの違法店舗が夜な夜な営業している闇社会のデパートである。その一室でまた一つの闇商売が行われていた。

 

タタミ20枚のスペースに六人ほどの人間が居た。性別年齢は様々だが絶望感と焦燥感が混ざったような感情が渦巻いていた。それを黒服達が監視するように囲む「ヨロシイデスカ!ヨウゴザンスネ!」サラシを巻いた男性が声を張り上げ腕を広げる。彼は壺振りと呼ばれるディーラーだ。右手にはダイスが二つ、左手にはツボと呼ばれる入れ物だ。

 

壺振りは客たち一人一人をじっくりと見る。「入ります!」手首のスナップでダイスをツボに入れ、そのままタタミにツボを叩きつける。「さあ、張った張った!」「ウオーッ!丁だ!「半!」「丁!」女性の掛け声を合図に参加者は丁半と叫びながら木札を出す。これは丁半と呼ばれるギャンブルだ。

 

サイコロの目が奇数か偶数か予想し当てるゲームで、江戸時代から存在するトラディショナルギャンブルである。壺振りはツボをゆっくりと上げる「四五の半!」サイコロは4と5の目が出ている。「チクショーッ!イカサマだ!」男性はタタミを叩き叫ぶ。

 

「俺の時だけ外れる!イカサマだ!」「そんなことはありません、うちのギャンブルは公平です。運は表裏一体です。今はダメでも必ず運が向きます」黒服が男性の肩に手を置き優し気に声をかける。「そんなことない!そのサイコロを……」「ダッテメコラー!イッチャモンコラー!」ヤクザスラング!コワイ!

 

「イカサマが見つからなかったらどうなるか分かるんかコラー!」「アイエ!スミマセン!」男性は即座に土下座!賭場においてイカサマを指摘し見つけられなければ指を一本二本ケジメ程度ではすまないペナルティが課せられるのだ!「分かってくれればいいんです」黒服はアルカイックスマイルを向ける。

 

「ところで資金が無くなったようですが、お貸しします。契約書にサインを」「アッハイ」男性は放心状態のまま金を借りた。だが法外な利息が発生することを男は知らない。この賭場を開いているのはデーモン・カミツキガメクランであり、客たちの半分はカミツキガメクランから金を借りている債務者だ。

 

借金を返す当てがなく返済のチャンスとして賭場に招待されたのだ、だがこれは完全な出来レース、債務者達は絶対に勝てず借金はさらに膨れ上がり、悲惨な未来を辿ることが運命づけられている!ナムサン!何たる非道行為!だがマッポはワイロによって摘発することは無い!

 

このような非道行為は珍しいことではなく、別の場所でも行われている。これが東のソドムと呼ばれるネオサイタマなのだ!ピンポーン!突如チャイムが鳴る。マッポのガサ入れか?部屋のアトモスフィアがピリつく。壺振りは手を止めサングラスをつけた男性、エリダを見る。エリダはこの賭場の責任者だ。

 

今日はこの6人の予定だ。エリダは顎で黒服を動かすように指示をする。黒服はドアの覗き穴から訪問者を確認する。金髪に碧眼で髪は三つ編みにしても腰元まで届く長髪、黒のショートパンツに黒のショートキャミソール、その上にレザージャケットを羽織っている。フォーリナーXだ!

 

「どちら様で」「ここでギャンブルができると聞きました。お金も持ってます」フォーリナーXはバッグを開ける、そこには札束が複数あった。「少々お待ちください」黒服は女性に告げるとエリダに様子を伝える。「どうします?紹介状はないです」この賭場は紹介状がないと原則的に参加することができない。「俺が確認する」エリダは覗き穴から見定める。

 

「どうぞお入りください」エリダは扉を開けフォーリナーXを招き入れた。エリダは自身の経験からこの女性はマッポや他のヤクザクランの手先ではないと判断した。ならば奪いつくす。一気に奪ってオイランに堕とす。金利でじっくりと毟り取る。借金を背負わせハニートラップ要員にする。ヤクザ的経済学が瞬時にいくつもの方法を出していた。

 

「すみません、身体検査とバッグの検査をしてよろしいですか?」「はい」サングラスの男は体とカバンを調べる。拳銃もないサイバネ武器も無い、エリダは殺気のようなものを感じ見上げる。だがそこには捕食されるとも知らない餌がいるだけだった。「ではお楽しみください」エリダは営業スマイルを見せた。

 

女性はエリダの思惑通り負け続け金を吐き出し続けた。だがエリダは訝しむ。一見悔しそうにしているが、他の6人と比べ焦りや絶望感のリアルさが無い。こんな金を吐き出しても問題がないのか、それとも金を取り戻せる手段があるのか、長年のヤクザ生活で培ったセンスがニューロンをチリチリさせる。

 

「おい!何で負け続ける!イカサマだろ!」暫くして負け続けて堪忍袋が温まったのかフォーリナーXが声を荒げる。「そんなことはありません、うちのギャンブルは公平です。運は表裏一体です。今はダメでも必ず運が向きます」黒服は男性と同じような対応を取ろうとフォーリナーXの肩に手を置いた。

 

「グワーッ!」フォーリナーXは男の手首を掴み握りつぶした。骨が砕けた音と悲鳴が部屋に響き渡る。「ザッケンナコラー!」エリダは懐から瞬時に懐から拳銃を抜き、黒服達も遅れるように拳銃を抜いてフォーリナーXに躊躇なく発砲した。「「「「「グワーッ!」」」」」エリダは右手を抑えて悲鳴をあげる。黒服達は…ナムアミダブツ!即死だ!

 

フォーリナーXは発砲される前に即座に立ち上がり跳躍し壁の上隅にへばりつく、その間に木の札を手に取り黒服と壺振りの頭部とエリダの拳銃を握っていた手に投げつけたのだ!魔法少女の攻撃にモータルが反応しろというは余りにも酷と言えよう!そしてエリダを殺さなかったのはワザとだ、魔法少女感覚はエリダが責任者であると見抜いていた。

 

イカサマはズルいよな、罰としてこの賭場の金全部くれよ。フォーリナーXはエリダにそう言おうとしていた。だがニューロンがそれを止めた。あり得ない光景だった。殺したはずの壺振りはブリッジをしており、起き上がる動作を利用して足の甲に乗せた木の札をフォーリナーXに蹴りつけた。その威力は頭をスイカ割りめいた惨状にするほどだ。

 

「ウワッ!」フォーリナーXは全力で回避し壺振りから距離を取った。その表情は先程までの捕食者の顔ではなく、驚愕と困惑で混乱するモータルのようだった。普通の人間なら確実に死ぬ。偶然か?フォーリナーXのニューロンに答えは浮かび上がらない。しかし読者の皆様は理解できるだろう!壺振りの男はニンジャである!

 

「やれ!ダイスマスター=サン!やれ!」エリダは殺意むき出しに叫ぶ。「ヨロコンデー」ダイスマスターは無感情に返事をすると親指にダイスを乗せてフォーリナーXに向けて弾いた。そのダイスは超常的軌道を描きながらフォーリナーXに向かって行く。フォーリナーXは動揺しながらも必死に回避する。だが数個のダイスが肉を抉り、残りは壁を貫通した。

 

(((ポンコツ魔法め!肝心のところを教えない!)))フォーリナーXは痛みに耐えながらニューロン内で己の魔法の役立たなさを呪った。訪れた異世界の歴史や文化や知識が一部を除いて強制的にインプットされる。だが今回はその一部にニンジャについての知識が入っていたのだ!

 

「イヤーッ!」マシンガンめいてダイスが発射される!「アバーッ!」フォーリナーXは参加者を肉の盾にして被弾回避!参加者は即死!フォーリナーXは肉の盾を投げつける!ダイスマスターは肉の盾を蹴り上げて回避、肉の盾はネギトロと化す!

 

フォーリナーXは死体や障害物を使って何とか致命傷を避ける。フォーリナーXはニンジャが魔法少女と同等の戦闘力を持っている事が分かった。異世界に訪れ続け初めて現れた自身の生命を脅かす生命体、その事実に動揺し普段の力が出せず、超常的な軌道を描くダイスを避けられず被弾し続けた。

 

「グッ……」フォーリナーXはダメージに耐え兼ね膝をつく、二の腕や脚部から血が流れ足元のタタミを赤く染め、部屋の床や壁はダイスによって抉られ穴だらけになっている。6人の参加者と黒服達の死体は肉の盾にされ全員ネギトロになっていた。「まだ殺すなよダイスマスター=サン!こいつはクランに歯向かった事をジゴグで後悔し続けさせる!」

 

エリダはサディスティックな笑みを浮かべながら指示を出す。「手足を切り取ってファックトイレとして闇金持ちに売り飛ばしてやる!やれ!」「ヨロコンデー」ダイスマスターは無感情に呟き手足を打ち抜こうとする。その瞬間大量の光と爆音に部屋が包まれた。

 

フォーリナーXは異世界アイテム収集のためにスノーホワイトと同じ何でも入る袋をもらっていた。そして使ったのはある異世界の住人の特殊能力で光と音を詰め込んだ玉、ネオサイタマで言えばスタングレネードだ。「グワーッ!」エリダは悲鳴を上げて床に伏せる。ダイスマスターは指示を無視して急所に向けてダイスを発射した。

 

だが光と音の影響かフォーリナーXの急所を外していた。さらにフォーリナーXは袋からアイテムを取り出す。巨大化した蚊のような風船がダイスマスターに向かっていき針を無慈悲に突き刺した。これも別の異世界で手に入れたアイテムの一つだ。「グワーッ!吸血グワーッ!」蚊の風船は血を吸い上げ、原型を留めないほどに膨れ上がる。

 

ダイスマスターは血を急激に吸われた影響か膝をつき倒れこむ。その瞬間全力でスプリントしたフォーリナーXが蹴りを顔面に叩き込んだ。「サヨナラ!」首は蹴り飛ばされ爆発四散!蚊の風船も許容量を超えて破裂四散!ダイスマスターの血が部屋中に飛び散る!「何なんだあれ!」フォーリナーXは返り血に塗れながら恐怖と怒りをぶつけるように叫んだ。

 

ここまで生命の危機を感じたのはスノーホワイトの時以来だ。スタングレネードと吸血装置、これは訪れた異世界で獲得して気まぐれで袋に入れておいたものだ、フォーリナーXは魔法少女の強さを絶対視しており、武器は先ほどの二つぐらいで残りは嗜好品がほとんどだった。そして吸血装置はもう無く、スタングレネードは残り一つ、まさに奥の手だった。咄嗟に思い出して引っ張り出せたのはラッキーと言うほかない。

 

「さてと……」フォーリナーXは老人めいてゆっくり立ち上がりエリダの元に歩み寄る。「何かめんどくさそうな事になりそうだから、早く済ますぞ。売上金全部寄越せ」「アイエエ……」「寄越せって言ってんだよ!殺すぞ!」「アイエエ!」エリダは悲鳴をあげ四つん這いになりながら金庫に向かう。

 

ダイスマスターが、ニンジャが殺された。それは余りにも衝撃的だった。クランの最大戦力が死んだ。それを殺した女が目の前にいる。売上を献上すれば上位ヤクザクランの上納金を収められず死の制裁が訪れる。だが今は当面の危機を凌ぐことでエリダのニューロンはいっぱいだった。

 

エリダは893893の順でダイヤルキーを回す、金庫の中には札束や貴金属やトロ粉末が保管されていた。フォーリナーXはそれらを無造作にバッグに入れる。「アバーッ!」フォーリナーXはエリダを殺害する。これは手間賃と迷惑料と怪我したことに対する復讐だった。

 

「何起こったんだコラー!」「カチコミかコラー!」外が騒がしくなってきた。全員を相手してもいいが怪我と疲労で面倒だ。フォーリナーXは歯を食いしばりながら、このツキジめいた部屋から脱出し夜のネオサイタマに消えていった。

 

 

◇フォーリナーX

 

 部屋の中ではパンキッシュなアップテンポの曲が流れる。部屋にはフォーリナーXがソファーに座りながら、琥珀色の液体を飲んでいた。ブランデーだがバーボンだが分からないが酒を飲みたい気分だったので飲んでみたが、相変わらず酔うことはできなかった。酒なんて酔えなければ、唯の変な臭いと変な味の液体にすぎない。残りをグラスごと壁に投げ捨て壁を汚した。だが他人の家なので気にすることはない。今日もカツアゲした人物の家に勝手に泊まっていた。

 流れているパンクバンドぼっけもんの曲「チェストネオサイタマ」ネオサイタマの音楽でお気に入りの曲だ。普段ならテンションを上げてくれるのだがフォーリナーXの気は全く晴れなかった。

 音楽だけではない、小説を読んでも、元の世界から持ってきた携帯ゲーム機で遊んでも、最高級のクラブで遊んでみても、今までならそれなりに楽しかった娯楽も今は楽しくなく、心に常に靄がかかっていた。

 その理由はわかりきっている。あのダイスマスターと呼ばれていた存在のせいだ。魔法少女以外で生命の危機を感じさせた初めての相手、彼奴が特別なのか、それとも彼奴以外に強い奴がネオサイタマにはゴロゴロいるのか、その実態はまるで分からなかった。そのせいでヤクザ虐めもダイスマスターのような奴が出てくるかと思い、ブレーキをかけてしまう。自分が我慢し節制させられている。その事実は非常に不愉快だった。

 ここでは自由気ままに生活できない、いつも通り派手に行動してヤブヘビしたら困る、ここは他の世界に移動できるまで大人しく過ごし、別の世界でいつも通り、強欲に我儘に自由気ままに生活しよう。フォーリナーXは自分に言い聞かせる。

 

「なんでそんな事しなきゃならない!アタシは魔法少女だ!優れているんだ!強いんだ!」

 

 ヒステリックに騒ぎながら暴れまわり、家具やテレビや壁など目に映る物は手当たり次第破壊する。

 魔法少女になってからはストレスを感じていなかった。元の世界でも雇用主にはそれなりに優遇してもらい、娯楽品なども自身の欲を満たせるほど購入できた。異世界でも魔法少女の力で好き勝手生きられた。だが今スノーホワイトとニンジャによってそれができなくなった。

 フォーリナーXは人間で言えば20代後半だが、ストレスフリーで生き続けたことで幼い頃から精神年齢は殆ど成長していない。そこに今まで体験したことのないストレスを与えられ魔法少女で強化された心の強さでも許容できなくなっていた。自分の思い通りにいかないから暴れる。それは幼子が玩具を買ってもらえないからと駄々をこねるのと何も変わらなかった。

 

「クソ!」

 

 息を乱しながら悪態をつき部屋を出て行く。魔法少女の力で無遠慮に荒らされた部屋はまるで室内に大型台風が通ったような荒れ果てた惨状だった。

 

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