ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター   作:ヘッズ

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前話の話で記載したフォーリナーXXXのステータスを修正しました


第十二話 下らなくて大切なもの#1

「なんで、俺が行かなきゃいけねえんだ」ブスザワは愚痴をこぼしながら錆びた鉄階段を上がっていく。こんなものバイトにやらせればいいのに、だがこれが伝統だ。サラリマンとしては上が決めた伝統には逆らえない。ブスザワはファントムサマー出版のコミック雑誌フジサンの編集だ。

 

編集とはコミック作家のサポーターのようなもので、原稿を回収し、必要な資料を集め、時には作家にアドバイスをしながら作品を作り上げていく。コミック雑誌フジサンは今ネオサイタマで最も売れている。その編集であればカチグミと言える。センタ試験を突破し、精神を摩耗し鈍化させ友人を裏切ってまで就職した。だがブスザワは不満だった。

 

カチグミといえる編集だがフジサンは編集内のヒエラルキーでは最下位だった。編集のヒエラルキーは担当作家の売り上げで決まる。売り上げが多い作家は既に別の編集が担当しており、有望な新人作家の編集になろうにもベテラン編集に囲われている。担当できるのは見込みがない残りカスだ。

 

それでは売り上げは伸びない。売り上げが伸びなければヒエラルキーは上がらない。堂々巡りだ。ブスザワは担当作家の家に着くとイラつきながらチャイムを連打する。「おおおおおお客様ドスエ」数秒後扉の向こうから走る音が聞こえ、扉が開いた。

 

「ドーモ、ブスザワ=サン」ボサボサ頭の20代の男がぎこちない笑顔を浮かべながら出迎える。この男がブスザワの担当するコミック作家だ「ドーモ、カワタ=サン。オジャマシマス」ブスザワは尊大な態度で中に入り真っすぐ進み部屋に向かう。

 

部屋は本棚と机があるだけで、書類も散乱しておりタタミを覆いつくし、本が塔のように積み重なっていた。「モンキーでも分かるベースボール」「ディーマックのバッティング理論」「ネオサイタマ野球史」などベースボール関連の書籍ばかりだ。

 

机の上も床と同じようにケシカスやペンが散乱して散らかっていた。ブスザワは足で書類を払いのけタタミに座った。「原稿」「どうぞ」カワタは茶色の封筒を渡すとブスザワは乱雑に封筒から紙を抜き出しパラパラと読み始めた。カワタは正座しその様子をじっと見つめる。

 

「貰っていく」ブスザワは読み終わると原稿を茶封筒にしまう。それを見てカワタは胸をなでおろした。「あと編集会議で打ち切り決まったから、あと3週分で終わらせろ」「打ち切りですか!?」カワタは思わぬ言葉に普段以上の声で聞き返した。

 

「待ってください!やっと主要キャラを出して、ここから丁寧にキャラ描写をしてバックボーンを膨らませるんです」カワタはブスザワに縋りつく「ウッセエゾコラ!」ブスザワはヤクザスラングを吐きながらカワタを払いのける!コワイ!「アイエエエ……」カワタは肉食動物に狙われた草食動物めいて委縮する。

 

「そんな悠長にやってる暇があるかコラー!もっとキャッチーな要素入れろコラー!」ブスザワはカワタを蹴りつける。なんたる非道!こんな蛮行が許されるのか!?だがニュービー作家の地位は極端に低く、編集による非道はコミック業界ではチャメシインシデントである!

 

「アイエエエ…」カワタは右腕を守るようにカメめいて体を丸くして暴行に耐える。「ふん。これでツーアウトだ。バカ!早く辞めちまえ!」溜飲が下がったのか暴行を止めゴミを見るような目で見下ろし家を後にした。「バカハドッチダー!」カワタは怒りのままに右手をタタミに振り下ろそうとしたが、思いとどまり左手を振り下ろした。

 

「そっちがベースボールコミックを描けって言うから描いたのに!それで打ち切りだと!フザケルナ!」プレス機めいて左手をタタミに振り下ろす。カワタが描いた「ファストボール」はカワタが描きたい題材ではなかった。何よりベースボールについて興味がなくルールすら知らなかった。

 

だがブスザワに売れるからと半ば強引に描かされる。それでもベースボールについて調べ研究し、自分なりに面白い作品を描いていた。だがその努力も無駄になった。これでツーアウトだ。フジサンで連載する作家は3回連続で短期打ち切りされると二度とフジサンでは描けない契約になっている。それを業界ではスリーアウトと呼ばれている。

 

そしてカワタは2回短期打ち切りになった。もはや後がない。「どうする?どうする?どうする?」カワタは膝を抱え座り込む。今住んでいる家も仕事道具も買った資料も全てファントムサマー社から借りている。これでスリーアウトになれば一斉に取り立てられる。借金センター、殺人マグロ漁船行き、カワタは将来の不安に必死に耐えた。

 

◇スノーホワイト

 

「5分後に組手で」

「分かった」

 

 スノーホワイトとドラゴンナイトはいつも通りネオサイタマ内をパトロールし、締めの組手を行うためにいつもの廃工場に向かった。ドラゴンナイトはソワソワした様子でリュックサックから雑誌を取り出し読み始めた。すると首を垂れ失意のどん底と言わんばかりに落ち込んでいる姿があった。

 

「どうしたの?」

「打ち切られた……巻末だったし覚悟してたけど、実際ショックだ……」

 

 ドラゴンナイトの言葉には主語が足りなかったが、何を言いたいかはすぐに分かった。週刊漫画雑誌フジサンで連載しているお気に入りの漫画が打ち切られたのだ。

 以前ドラゴンナイトがやたら薦めてくるので一度読んだが特に印象には残らず、寧ろ興味を示さなかったことを残念がる姿のほうが印象に残っている。スノーホワイトの琴線に触れなかったが、ドラゴンナイトの琴線に大いに触れたようで、毎週毎週楽しみにしていたのは傍から見ても分かった。

 気持ちは分かる。幼い頃は魔法少女もののアニメが終わった時はこの世の終わりのように泣き叫んだのを薄っすら覚えている。そして次週には新しい魔法少女ものが始まり悲しみを忘れ、次の作品に夢中になっていたのも覚えている。

 だが漫画だとその作者が次週に新しい作品を描くことはまず無い。1か月、2か月、もっと時間がかかるかもしれない。その精神的ダメージは計り知れない。

 

「今日はやめておく?」

「やる」

 

 スノーホワイトは気を遣って声をかけドラゴンナイトは短く力強く返事をして立ち上がり、組手を開始した。

 

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」

 

 喉への貫手、鎖骨へのチョップ、顔面へのジャブ、左わき腹へのミドルキック。ドラゴンナイトは全力で打ち込みスノーホワイトは防御しいなす。ドラゴンナイトは距離を取るとジツを使い竜人へと変化する。

 ドラゴンナイトのリュウジン・ジツ、このジツにより攻撃力は上がり、尻尾が生えることで手数も増え、牙が生え噛みつきも致命傷になり得る。この状態の攻撃を受ければスノーホワイトでも重大なダメージを負う。魔法で攻撃の意図を察知し防御しいなし攻撃に転じる。

 依然攻撃は当たらないが、最初の頃と比べると攻撃の雑さがなくなり避けづらくなっている。随分と成長した。その成長を感じると同時に調子の悪さも感じていた。

 やはり漫画が打ち切られたのが尾を引いているようだ。現に『打ち切られて困る』という声も聞こえてくる。スノーホワイトの魔法は無意識の困った声を拾い上げる。組手中に声が聞こえるということはそれだけ重大な事と雄弁に語っている。

 スノーホワイトはドラゴンナイトの唐竹割りチョップを十字受けしそのまま小手返しで極めると同時に組み倒し足刀を叩き込もうとした瞬間動きを止め、背を向けて走り始めた。思わぬ行動にドラゴンナイトは驚きながらもネックスプリングで起き上がり追走する。

 スノーホワイトはひび割れた窓の前に止まり振り向かずドラゴンナイトの前に手を翳す。それを見てドラゴンナイトは足の爪を床にめり込ませ急停止する。

 

「どうしたのスノーホワイト=サ……」

 

 ドラゴンナイトは目の前に思わず言葉を飲み込み、スノーホワイトも思わず注視する。窓の外にはボサボサ頭の男がいた。その男は二人を見つめながらニンジャナンデ……とうわ言のように呟き目がうつろだが、持っているペンは淀みなく動きスケッチブックに描きこんでいた。

 これはニンジャに出会ってしまった一般人が見せる症状だ。主にニンジャナンデとうわ言を言い、痙攣や失禁や嘔吐し失神する。だが目の前の男性は典型的な症状を見せながら、何かに憑依されたように手を動かし続ける。

 

「アバーッ!」

 

 男は奇声をあげ倒れこむ。スノーホワイトはすぐさま男を抱きかかえて様子を見る。失神している。そして地面に落ちたスケッチブックに何気なく視線を向ける。そこには殴り描きのように少女と少年と竜のような異形、そしてニンジャという文字が大きく書かれていた。

 

◆◆◆

 

「ザッケンナコラーッ!」カワタは舌打ちをしてヤクザクラクションを鳴らす。前方の車は進路を譲ることなく挑発めいて減速する。カワタはもう一度クラクションを鳴らし強引に前の車を追い越す。車窓からは天高くそびえ立つカスミガセキジグラットとその周りを浮遊するツェッペリン達が見える。

 

これがネオサイタマの夜だ。最近は締め切りに追われ外に出ることなく、コミックを描き続けた。だが連載は打ち切られもう締め切りに追われることなく熟睡できる。そのことに安堵したがすぐに不安がニューロンに過る。早く次回作を描かなければ。原則的に短期打ち切りは2回までだが、あくまでも原則である。

 

フジサンでコミックを描きたいという作家はボウフラめいて多い、早く次回作のプロットを提出しなければ枠を奪われる。だが何を描けばいい?デビュー作はヒーローアクションのジャンルでカワタのオリジナルではなかった。ストーリーは別の者が考え、それを描く作画と呼ばれるポジションだった。

 

正直内容はブルシットだったがこれを描かないとクビにすると脅されて、仕事と割り切って描いたが短期打ち切りされる。短期打ち切りの責任は作画のカワタに押し付けられた。ストーリー担当はコミックマニアのカチグミの息子で、絵は描けないがフジサンで連載したいという要望で描かされたものだった。

 

カチグミの圧力には逆らえず強引に連載し、絵のタッチも今流行のタッチに矯正させられた。絶対に売れると無駄にコミック単行本を大量に作らされたが当然売れず、作りすぎた分の損失は一部背負わされた。次作は編集に売れるからとベースボールコミックを描かされ絵のタッチも矯正させられたものだった。

 

そして短期打ち切りだ。次は売れなければならない。売れなければ借金塗れだ。何を描けば?何を描けば売れる?カワタのニューロンはUNIXめいて答えを導き出そうとするが一向に答えは導き出されなかった。そこで気分転換すればアイディアが降りるかも知れないと、車でネオサイタマを毛細血管めいて張り巡らされた首都高速をドライブしていた。

 

だがニューロンにこびり付く黒い靄は一向に晴れなかった。「アイディア出ろ!」カワタはネオサイタマ湾岸上に浮かぶプラント工場に向かって叫ぶ。足元には数本のバリキドリンクの瓶が散乱していた。カワタはプラント工場には何一つ興味はなかった。だが知り合いのコミック作家がプラントを眺めるとアイディアが浮かぶと言っていたので来ただけだ。

 

プラントを見てアイディアが浮かぶなんてオカルトだ。だがオカルトに縋り付くほど追い詰められていた。「出ろよ!アイディア出ろ!」カワタは狂人めいて叫びながらペンとスケッチブックを握る。プレッシャーへの逃避と錯乱すれば違う何かが見えてくること期待しバリキをオーバードーズ一歩手前まで摂取していた。

 

だが期待とは裏腹にアイディアは一切浮かんでこなかった。「次は廃工場でも行くか」カワタは路肩に止めていた車に乗り込むキーを回しアクセルを踏んで発進させる。廃工場も知り合いが今の作品を思いついた場所だ。こうなったらとことんオカルトに付き合ってやる。

 

「到着!」カワタは勢いよく車のドアを開ける。向かった場所は家から車で数十分程の場所にある廃工場群だった。知り合いは廃工場を見るとアイディアが浮かぶと言っていたが、決まった場所というのは無いので一番近い廃工場を選んだ。敷地に入るといくつもの工場が立ち並び、野ざらしになった重機は重金属酸性雨で変色している。

 

廃工場はギャングやヤンクの拠点になりやすく、侵入すれば暴行を受ける可能性がある。カラテ段位二桁を持っているならともかく、カワタは典型的なナードで体は一切鍛えておらずカラテ段位はゼロである。通常の判断能力なら訪れないだろう。だがヤバレカバレである今のカワタには判断能力は無いのである!

 

一帯からは不気味なアトモスフィアが醸し出され、風が吹けばどこからか異音が聞こえてくる。もしオカルト信者がいればオバケが出てくるだろうと恐れ戦くだろう。だが今のカワタは寧ろオバケを見れば新連載のアイディアが思い浮かぶかもと、全く恐れていなかった。

 

「ブブブーン、ブンツブンツ」お気に入りのリキシ、ストロングロードの入場テーマを歌いながら落ちていた鉄パイプを片手で振り回し上機嫌で歩く。何という無用心さ!もしヤンクやギャングがいれば数秒でネギトロになっているだろう!だが奇跡的に攻撃されていない。

 

「ン?」カワタの耳に何かが聞こえてくる。これは風の音ではない、人の声だ。普段ならヤンクやギャングと推測し逃げるが、バリキによって正常な判断を失っており声の方向にゾンビめいたゆっくりとした速度で向かっていく。「イヤーッ!」これはカラテシャウト?カラテマンの秘密特訓か?バリキと期待感で心臓の鼓動が速まる。

 

声がする廃工場に向かう。そこには色付きの風がぶつかり合っていた。その瞬間ニューロンがスパークする。ガイオン、廃工場、コワイ、兄貴と2人、カワタのニューロンに断片的なワードが浮かび上がる。カラテシャウト、圧倒的なパワー!ニンジャ、ニンジャ!ニンジャ!ニンジャはコミック上の存在ではない!実在したのだ!

 

「ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」ニンジャの存在を認知した瞬間カワタにNRSが襲い掛かる。吐き気がこみ上げ失禁しニューロンの防衛機構が意識を遮断する。カワタのDNAに刻まれたニンジャへ根源的恐怖が体中を満たしていく。それと同時に別の意識が芽生える。

 

これだ!俺が描きたかったコミックはニンジャだったんだ!カワタは無意識にスケッチブックを手に取りペンを走らせる!何たる精神力!屈強なアウトローやレジェンド級の職人等の屈強で強靭な精神を持つモータルはNRSを発症しないことがあるが、カワタのコミック作家としてのプロ意識と描きたいという欲求が複雑に絡み合った精神がNRSに耐えたのだ!

 

カワタはペンを走らせる。ニンジャと魔法少女のカラテをモータルが捉えるのは不可能であり、色付きの風がぶつかり合っているようにしか見えない。だがカワタは構わずインスピレーションの赴くままに描いていく。

 

「アバ…アババ……」カワタのNRSはますます深刻化していく。それでもペンを走らせるのを止めない!すると色付きの風が突如カワタに向かってくる。風は動きを止め、姿を現した。一人はティーンエイジャーの少女。もう一人はドラゴンが人の形になったようなミュータントだった。「アバーッ!」この瞬間NRSは最高潮になりカワタの意識は途絶えた。

 

 

◇ドラゴンナイト

 

「悪い事しちゃったな」

 

 ドラゴンナイトは申し訳なさそうに呟く。この男性は偶然か意図したのかは分からないが、廃工場に来てドラゴンナイトとスノーホワイトのカラテを目撃してしまったのだ。モータルがニンジャを見たり、そのカラテを見てしまうと体に変調をきたしてしまうのは知っていた。

 とりあえずどこかで安静にさせ意識を取り戻すのを待つか。こちらに否は無いが、このままカラテを続ければ無意識でニンジャの存在を感知し症状を悪化させる可能性が有り気が引ける。そしてそのまま放置して帰るのはさらに気が引ける。

 

「どこかで安静にさせよう」

「そうだね。その前にジツを解除しようか」

 

 スノーホワイトの指摘にドラゴンナイトは自身のウカツに気づく。今はリュウジン・ジツを使用している状態だ。この状態はモータルに与える影響は凄まじく。以前ジツを使った時にその姿を見たモータルが重度の変調をきたした事があった。これでは意識を失っていても悪影響を与えてしまう。ドラゴンナイトはジツを解除する。

 

「あっ、ボクが運ぶよ」

 

 スノーホワイトが男性を運ぼうとするので、慌てて運ぶのを代わる。男性は変調のせいで失禁し嘔吐している。正直言えば代わりたくはないが、そんな人をスノーホワイトに運ばせるわけにはいかない。ドラゴンナイトは顔を顰めながら男性を廃工場の壁にもたれ掛かせ、持ってきたミネラルウォーターとタオルを使って、男性の汚れを拭いた。

 

 男性が意識を取り戻すのはいつになるだろう?このまま何時間も意識を取り戻さず、足止めを喰うのはゴメンである。まずはイマジナリーカラテで時間を潰して、それでも意識を取り戻さなかったら、スノーホワイトと相談して多少強引に起こすか、身分証明書から住所を調べ送り届けるか。すると男性が持っていたスケッチブックが目に留まる。

 

 こんな場所で何を描こうとしていたのだろう?気になる。人の物を見るのは勝手に見るのはシツレイだが、介抱した礼として少しばかり見てもブッダも許してくれるはず。ドラゴンナイトの好奇心が自制心を勝りスケッチブックを手に取る。

 

「ワオ。実際ワザマエ」

 

 スケッチブックを見て思わず声をあげる。この抽象的だが躍動感ある少年と少女の姿、そして異形の人型。これはスノーホワイトとリュウジン・ジツを使った自分だろうか。ラフスケッチだが技量の高さが分かる。

 コミック好きが一度は通る好きな作品の模写、ニンジャになる前のソウスケも例に漏れず行ったが、絵のスキルは無く酷い出来だった。そしてニンジャになりニンジャ器用さにより寸分違わない模写はできるようになった。だが模写は上手くなっても自身のニューロンで新しい構図や動きを思い浮かべ描くことはできなかった。それだけにスケッチブックに描かれている絵にはオリジナリティが有り惹かれるものがあった。

 ページを次々に捲っていく、夜のネオサイタマを颯爽と駆けていくバイカー、迫力あるオスモウ、臨場感あるベースボールのワンシーン。どの絵も魅力的だった。

 

「あんまり良くないと思うよ」

「ゴメン、凄いよこの人の絵、実際ワザマエだよ」

 

 スケッチブックを見るドラゴンナイトをやんわりと諫めようと声をかけるスノーホワイトに興奮気味に声をかける。スノーホワイトも絵を見てその技量に感心の表情を浮かべる。この絵はスゴイ、きっとその道のプロフェッショナルだろう。だがどこかで見たことがある絵だった。どこで見た?ニューロンで検索するが答えは出てこなかった。

 

「ウウン……」

 

 すると男性が意識を取り戻す。ドラゴンナイトはスケッチブックを閉じ男性の隣に置き数歩離れ、スノーホワイトはしゃがみ込み声をかける。

 

「気分は大丈夫ですか?」

 

 男性は頭を振りながら周りをキョロキョロと見る。

 

「車に乗って……ヨロシサンのプラントに行って……廃工場に来て……ウッ!」

「大丈夫ですか?」

 

 スノーホワイトは声を掛けながらミネナルウォーターを手渡す。男性は親指と人差し指で眉間をもみながら手の伸ばして丁重に断る。

 

「大丈夫、だんだん良くなってきた。ドーモ、カワタ・ミツハルです」

「どーも、カワタさん。雪野雪子です」

「ドーモ、カワタ=サン、カワベ・ソウスケです」

 

 カワタは座りながらアイサツし、スノーホワイトとドラゴンナイトはアイサツを返す。

 

「それで君たちはニンジャだね」

 

 いきなりの直球の質問。ドラゴンナイトは思わず唾を飲み込む。スノーホワイトからできる限りニンジャであることは秘匿しろと言われており、注意を払って秘匿していた。今回はカラテする姿を見られてしまったが、大概のモータルは変調の影響で記憶が欠落しニンジャについて忘れることを知っている。だがカワタは二人をニンジャと認知していた。

 

「ニンジャなんていません。まだ調子が悪いみたいですね。病院に行くなら宜しければ付き添いますが?」

 

 スノーホワイトは笑顔を見せながら話す。流石スノーホワイト、ニンジャ観察力を持っても質問に対する動揺などの反応が全く見えていない。さらに言葉も上手い。ニンジャは世間ではフィクションの存在だ。朧げな記憶で聞いたかもしれないが、ティーンエイジャーにハッキリと断言され、暗に自我科に行った方が言われれば恥のあまりこれ以上追及できない。

 

「いやニンジャは居る。子供の頃ニンジャに遭遇した。そのニンジャ達も君たちと同じようにカラテシャウトを発し色付きの風と化していた」

 

 カワタは確信を持った目でスノーホワイトを見つめる。ダメだごまかせない、ドラゴンナイトは不安げな視線をスノーホワイトに向ける。

 

「だとしたらどうしますか、誰かに言いますか?でも大の大人がニンジャが居るなんて言いふらせば、社会的地位が危うくなると思いますが?」

 

 スノーホワイトの声色は優し気なままだが、内容は脅迫めいている。

 

「別に言いふらすつもりはない。ただ君たちを、ニンジャを取材させて欲しいだけだ。俺はコミック作家で次回作はニンジャを題材にした作品を描くつもりでいる」

「コミック作家?もうデビューしているんですか?どこの雑誌で描いているんですか?」

 

 あの絵のワザマエ、コミック作家だったのだ。それなら納得できる。今まで静観していたドラゴンナイトが興味深さそうに問いかける。話の取っ掛かりを見つけたと感じたのか、カワタはスノーホワイトからドラゴンナイトに視線向ける。

 

「コミックフジサンで「ファストボール」というコミックを描いていた。知っているかい?」

「ファストボール!?」

 

 ドラゴンナイトは無意識に声が大きくなり上ずる。その声にスノーホワイトは思わず振り向き、カワタも驚いたような様子を見せる。

 ファストボール!?今ファストボールと言ったか!?作者の名前はカワタだった。ペンネームにしてはあまりに普通だと思っていたが、本名だったのか。スケッチブックの絵を見た時の既視感、スケッチブックの絵はファストボールの絵とは似ていなかったが、何かしらの類似点を感じ取ったのだ。しかしこんな偶然があるのか!?

 

「はい読んでます!毎週楽しみにしていました!」

 

 スノーホワイトより前に出て、しゃがみ込みながらカワタの目を見据えて喋りかける。憧れのベースボールプレイヤーに出会ったような表情と声色は完全なファンボーイだった。

 

「あのワンとノノムラの一打席勝負は特に好きです!これから盛り上がってくるところで打ち切りだなんて、ブルシット!見る目が無さすぎる!他に打ち切る作品何ていくらでも有るだろう!あと握手していいですか!?」

「ありがとう。こんな熱心な読者が居て嬉しいよ」

 

 カワタはドラゴンナイトの熱意に若干引き気味になるが、すぐにファンに対応するように外向きの笑顔で握手した。

 

「それでカワタ=センセイは何故こんな場所に?」

「次回作の構想を練ろうと色々な場所をドライブしていたんだ。それでこの廃工場に着いて、君たちを見たんだ。それでカワベ=サンとユキノ=サンはここで何を?」

「ハイ、ネオサイタマをパトロールして、最後にここでカラテトレーニングをしています!」

「ネオサイタマをパトロールとは具体的には?」

「はい、悪い奴やニンジャからモータルを守る為にパトロールしています!」

「ニンジャ!?他にもニンジャが居るのか!?」

「はい、実際戦って倒しています!」

 

 カワタの質問に答えていく、スノーホワイトは喋りすぎであると視線で注意するがドラゴンナイトは全く気付いていない。

 

「なるほど、明日もパトロールとここでカラテトレーニングをするつもりかい?」

「はい、そうです」

「よかったら、明日ここで取材させてくれないか?」

「ハイ、ヨロコンデー!」

 

 ドラゴンナイトは直立不動で返事をし、約束を取り付け、連絡先を交換しカワタは工場から去っていく。

 ファストボールが打ち切りという最悪な一日から作者に出会うという最高の一日に劇的に変化した。しかも次回作はニンジャを描き取材まで申し込まれた。これはもしかすると有るかもしれない。ファンなら一度は夢見る作品の登場人物のモデルになるというチャンスが。

 

「よし!組手の続きをやろう!」

 

 ドラゴンナイトは意気揚々と構える。その後は精神状態に左右されたのか抜群の動きを見せた。

 

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