ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター 作:ヘッズ
◇スノーホワイト
「個人差が有るかもしれませんが、ニンジャはスリケンを生成することができます。こうやって」
「なるほど」
「ニンジャのスリケン投擲はピストルより遥かに威力は高く速いです。こんな感じに」
ドラゴンナイトは手裏剣を生成し投げる。一個目は真っすぐ飛び、二個目と三個目が其々左右に曲線を描き、一個目の手裏剣に当たった。だがカワタには目視できなかったようで説明を求め、ドラゴンナイトが解説を始めた。
漫画家のカワタと出会った翌日のパトロールは三人で同行することになった。張り切っているドラゴンナイトはヤクザ事務所に乗り込む等派手な事をしようとしていた。
こういう時は何かしらトラブルを引き起こすものだ。意図的に派手な事はしないように、ゴミ拾いや酔いつぶれたサラリーマン同士の喧嘩の仲裁など元の世界のパトロールのように慎ましく地味な活動に努めた。
もしヤクザの抗争やテロが発生すれば鎮圧するつもりだったが、幸いにもそのような事案は起こらなかった。ドラゴンナイトとカワタは不満げだったがスノーホワイトは胸をなでおろしていた。
カワタの不満な様子を感じ取ったのかドラゴンナイトがパトロールを早めに切り上げて、組手をしようと提案してきた。恐らく組手でニンジャの能力を見せつけようという魂胆だろう。それぐらいの見栄なら可愛いものだ。その提案を承諾しいつもの廃工場に向かった。
そこでスリケン投擲や瓶切りを見せてニンジャの力を思う存分見せてカワタを感嘆させ、その様子を見てドラゴンナイトは自慢げな表情を浮かべていた。
「じゃあ、いつもの三倍減速ぐらいで」
「分かった」
その後は組手だ。といっても普通にやれば一般人には目視不可能なのでスピードを落としておこなった。それでも普通の格闘技の試合程度には速い。
ドラゴンナイトは見栄えを意識してか踵落としやソバットやサマーソルトキック等派手な技を繰り出していた。それらの技は隙が多く単発で当たるものではない、いつでも相手を制することはできたが花を持たすという事で単純な防御で済ます。カワタは二人の組手を一心不乱にスケッチに描いている。
「イヤーッ!」
顔面に真空飛び膝蹴りを繰り出す。余裕をもって防御、すると左足を首に巻き付け、空かさず右足も首に巻き付けてバク転の要領で体を一気に逸らした。狙いは読めたが敢えて技を受ける。しかしこのままでは脳天が地面に突き刺さり痛いので、頭が突き刺さる前に両手を着けて、両手の力で飛び足の拘束から脱出する。すると組手終了の合図が鳴り、拍手が廃工場に響く。
「実際凄い。アクションスターが裸足で逃げるような動きだ。これでも手加減しているんだろ?」
「はい、動きは本番と似ていますが、本気でやればモータルには目視できません。それで参考になりましたか?」
「ああ、かなり」
その言葉にドラゴンナイトは心底嬉しそうな笑顔を見せる。スノーホワイトもその笑顔に釣られるように頬を緩ませた。
取材されることには反対だった。ドラゴンナイトがニンジャであることを知る人数は極力減らしたほうがいい。取材されれば詳細に調べられ、モデルにしたキャラクターが世間に発信される可能性があるのはリスクがある。
いざとなれば魔法少女らしからぬ行動だが恐怖によってカワタの口を固くさせようと思っていた。
だがドラゴンナイトをモデルにしたキャラクターが出てもあくまでも漫画の世界だ。ニンジャは一般的に空想上の存在と認知されているので、まさか同じ能力を持ったモデルが実在しているとは思われないだろう。何より嬉しそうにしているドラゴンナイトの姿を見て、口を挟むことはできなかった。スノーホワイトは基本的にドラゴンナイトには甘かった。
「あとニンジャにはジツと呼ばれる特殊能力があります」
「ニンポみたいなもの?」
「そんなものです。ボクは何というかドラゴンが人型になるというか、人がドラゴンになるというかそんな感じです」
ドラゴンナイトは歯切れ悪く喋る。手っ取り早くジツを使えばいいのだが、使えばカワタの精神に多大なショックを与え変調をきたす可能性がある。それを考慮したのだろう。カワタは何となくイメージが掴めたのか、特に質問をしなかった。
「ユキノ=サンもジツを使えるの?」
「はい、人のイエスとノウが分かります。例えばコインを右手に持っている時に、コインを右手に持っていますかと質問すれば、持っているか持っていないが分かります。ドラゴンナイト=サンのジツに比べれば大したことのないジツです」
スノーホワイトは恐縮そうに話す。人に魔法を説明しなければならない時にはこのように申告している。実際には魔法でイエスとノウも分かるので嘘はついていないとも言える。ドラゴンナイトも自身のジツはこれであると思い込んでいる。
「ドラゴンナイト、それはコードネームか何か?」
「ニンジャになると別の名前、ニンジャネームを名乗りたくなるんです。恐らく他のニンジャもそうだと思います。ソウスケさんのニンジャネームはドラゴンナイト、私のニンジャネームはスノーホワイトです」
カワタはニンジャネームか呟きながらスケッチブックにメモしていく。
「ところで他のニンジャに遭遇したことがあるなら、ニンジャネームとジツを教えてくれないか」
「いいですよ、まずはヘッドハンター、ジツは……」
ドラゴンナイトが語る間にスノーホワイトも出会ったニンジャについて思い出す。ネオサイタマに来て両手で足りない程度にはニンジャと出会った。だがいざ思い出そうとすると名前が思い出せない。
最初に出会ったニンジャや魔法を使わせない空間に引きずり込むニンジャは覚えているが、名前が全然出てこない。容姿と名前がハッキリと思い出せるのはニンジャ猫のマタタビとニチョームで知り合ったヤモトとネザークイーン、そしてエーリアスとニンジャスレイヤーだ。
案外意識していないと覚えていないものだ。魔法少女だったら知り合った魔法少女も捕まえた魔法少女も全員覚えている。その時スノーホワイトの脳内である考えが浮かぶ。
「それでスノーホワイト=サンはどんなニンジャに会った?」
これは言っていいものか、だがアイディアが採用されるかはカワタ次第だ、言うだけなら問題ないだろう。スノーホワイトは意を決した。
「ニンジャネームはヴェス・ウィンタープリズン。女性ですが王子様のように綺麗な人です。髪は茶髪のショートカット、服装は拘束具のようなベルトがついたコートにマフラーをつけていました。優しくて強くてお父さんみたいでした。ジツは周りの物体を壁に変化させることができます。
次はシスターナナ。女性でヴェールを被って修道服のような服で、でもスリットが入っていたり白いストッキングをガーターベルトで吊るしていたり、あと胸の谷間と胸の上にベルトがあってちょっとエッチな感じです。でもいつもニコニコして誰よりも優しいお母さんみたいでした。ジツは皆の力を増幅させることができます。とてもシスターナナらしいジツです。
ねむりん、女性で金髪、毛先は紫でサイドの部分は地面につくほど長くて、丈の長いパジャマを着ています。凄く聞き上手でいつの間にいっぱい喋っちゃって、お喋りしている時は本当に楽しかったです
次はハードコア・アリス、女性で黒一色のエプロンドレスを着て、目の下には濃い隈があって不健康そうで不気味に見えますが、でもちょっと不器用だけど、どんな時でも他人を思える優しい娘なんです。魔法は自己再生です。どんな怪我でも瞬時に治せます」
スノーホワイトは思い出すように語る。今でも細部がくっきりと思い出せる。ヴェス・ウィンタープリズン、シスターナナ、ねむりん、ハードコア・アリス。
そしてあと一人、この人の存在は是が否でも伝えたかった。スノーホワイトはドラゴンナイトを一瞥して話を続ける。
「そしてラ・ピュセル、女性で篭手や脛当てや胸当てをつけて中世の騎士みたいですが、でも胸元や太腿などは露わになっています。性格は騎士のように高潔で誇り高くて、でも気弱なわた……仲間を励ましてくれて」
胸中には感傷が満ちる。理不尽な殺し合いに巻き込まれて混乱し落ち込む自分を守る剣になると誓ってくれた優しい騎士、でも本当は魔法少女が好きな年相応の男の子。
岸辺颯太。
颯太も理不尽に殺された。それでも最後まで誰かを守る騎士で有り理想の魔法少女であったはずだ。
颯太だけではない、五人はあの地獄のような殺し合いの場でも争いを否定し、人を思いやれた理想の魔法少女達。彼女たちは理不尽に無慈悲に死んだ。だからこそせめてフィクションの中で生きてほしい。そしてその気高さと優しさを作品を通して読者に影響を与えて心に刻まれて欲しい。そう思っていた。
「へえ~、いつの間にそんなニンジャと会ったんだ。会ってみたいな、今どこに居るの?」
「今はネオサイタマにはいない。遠い…遠い場所に行っちゃって会えない」
スノーホワイトは極めて平静に言う。そのせいかドラゴンナイトのニンジャ観察力でも心中を察することができなかった。ドラゴンナイトは純粋な興味で尋ね悪気は無いのは分かっている。だが改めて五人は死んだことを再認識して悲しんでいた。
「その五人のニンジャのビジュアルはこんな感じかな」
カワタはスノーホワイトにスケッチブックを見せる。ラフスケッチだがそこには細部は違うにせよ、あの時N市にいた魔法少女の姿がいた。
それからスノーホワイトは今まで会ったニンジャとジツについて語り、三人でどんなジツが有りそうかというアイディアを語り合った。スノーホワイトはその際に知り合いの魔法少女の魔法もジツのアイディアとして話した。
「良い話を聞かせてもらったよ。今の話を参考に読み切りを描くから、出来上がったら一番に見せるよ」
「アリガトウゴザイマス!でも連載じゃないんですか?」
「読み切りが編集に通って、その読み切りが評価されたら連載かな」
「厳しいですね」
「実際厳しい、でもこの作品を俺のライフワークにするつもりだ」
カワタは力強く宣言し、その言葉にドラゴンナイトは感銘している。一方スノーホワイトは全く別の事を考えていた。
「もし連載になったら、私達が話したニンジャは作品に出るんですか」
「まだ分からない」
「もし、出すのならウィンタープリズンもシスターナナもねむりんもハードゴア・アリスもラ・ピュセルも悪役とかじゃなくて、私が話した人物像にしてください。そうじゃなければ出さないでください」
不躾な要望であることは分かっている。キャラクターは作者のものだ。聖人にしようが極悪非道の悪党にしようが作者の自由だ。それでも人物像を捻じ曲げられることなく、自分が知る五人であって欲しかった。
「分かった。可能な限りそうするよ」
カワタはしっかりとスノーホワイトの目を見据え頷いた。その態度に誠意を感じた。
「じゃあ帰るけど、車に乗っていくかい」
「近くですし、走って帰ります」
「そうか、じゃあお休み」
「お休みなさい」
「お休みなさい」
カワタは二人に別れの挨拶をすると車に乗り廃工場を後にした。その後ドラゴンナイトは一緒に帰ろうと誘ったがそれを断り廃工場にはスノーホワイト一人だけになった。
「随分とセンチメンタルだぽん」
誰もいないのを確認するとファルの立体映像が浮かび上がりおどけるように声をかける。
「そう思う?」
「思うぽん。でもミームの伝達は人の本能かもしれないぽん。間違っては無いぽん」
「ミームって?」
「文化,情報,経験,知識,技術,概念,考え方とかぽん。この場合は五人の主義主張とかだぽん」
「五人の気持ちが他の世界で伝わるんだね。何か不思議」
「今度はロマンチシズムかぽん、いつからそんなんになったぽん。泣く子も黙る魔法少女狩りとは思えないぽん」
「そうだね」
スノーホワイトは自嘲するように笑う。今は魔法少女狩りの仮面を被っているが、根の夢見がちな少女の部分は治っていないかもしれない。だがそれもいいだろう。そうでなければミームは伝えられない。
五人の存在は記録に残っている。だがそれはどんな魔法が使えて、クラムベリーの試験に巻き込まれた魔法少女がどのように死んだかという無機質な記録だ。
あの試験の生き残りはスノーホワイトとリップルだけだ。だがリップルはアリスとラ・ピュセルとは関りが無く、ウィンタープリズンとシスターナナとは顔を合わせた程度だと言う。
もうミームを伝えられるのはスノーホワイトしか居ない。全てを知れたとは思えないし間違っているかもしれない。でも交流で感じた考えや感情を伝えたい。暫くの間五人との日々の記憶を思い出し感傷に浸った。