ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター 作:ヘッズ
◇カワベ・ソウスケ
「おい、セブンニンジャ読んだか?」
「セブンニンジャ?どこのコミック?」
「フジサンだよ、読み切りから連載したやつ」
「あ~あ、あのニンジャの読み切りか、描き方が好きじゃなかったな」
「設定がぶっ飛んでいて面白いぞ、作中のネオサイタマは裏からニンジャが支配していて、そのニンジャは徳川だったんだよ」
「何それ?ギャグ?」
「シリアスだよ、他にもニンジャ同士が殺し合う前にアイサツするんだよ「ドーモ、〇〇=サン、××です」って感じにさ」
「なんでアイサツするんだよ。さっさと殺せよ。益々ギャグめいてきたな」
「そこ聞けばギャグだけどストーリーは復讐ものでシリアス重点だから」
「何か興味沸いてきたな、来週から読んでみる」
ソウスケは机で寝たふりをしながらニンジャ聴覚で生徒二人の会話を聞いて小さくガッツポーズを浮かべる。カワタの新連載「セブンニンジャ」を読んでいる生徒が読んでない生徒に勧めて興味を示した。良い傾向だ。さらにカワタが仕掛けたフックの部分に見事に興味を示した。さすがプロのコミック作家だ。
週刊フジサンでは掲載順が明確な人気のバロメーターになっており、セブンニンジャは連載4週目で真ん中ぐらいである。前作のファストボールはこの時期で巻末だったので明らかに人気であるのが分かる。だが1ファンとしては不満だった。
セブンニンジャはフジサンで人気ナンバーワンになれる作品だと思っている。その為にはできる限りの努力をしなければならない。
作品の面白さをアピールする。ダメだ、ムラハチされている自分がそれをすればセブンニンジャがクールじゃないと思われ逆効果だ。不本意だができることは何もしないことだ。ソウスケは悔しさを堪えながらイマジナリーカラテトレーニングを開始した。
◇スノーホワイト
「政府を影で操るニンジャは実は徳川、スノーホワイトの世界の徳川家康だった。トンデモ設定だぽん」
ファルはネット上であるデータをスキャニングしたものを読み呆れながら呟く。スノーホワイトも週刊フジサンを読みながら無言で同意した。
カワタの作品が連載されてからはスノーホワイトも週刊フジサンを毎週読み、セブンニンジャも読んでいる。今週号では主人公の親を殺したニンジャが所属している政府機関を影から操っているのが江戸時代から生きている徳川家康で、家康はニンジャであるという衝撃の真実が明かされた。ドラゴンナイトの着想が使われてきっと喜んでいるだろう。
「でもこれはあながち荒唐無稽じゃないかも」
「どこがだぽん?家康が生きていたら400歳以上だぽん。魔法少女でもそんな長生きできないんだから、ニンジャもそんな長生きできるわけないぽん」
「そこじゃないよ、ニンジャが政府を支配しているってところ」
「アマクダリかぽん」
スノーホワイトはファルの言葉に頷く。ニンジャスレイヤーの困った声で行政や司法に根付いていると知られたら困るという声を聞いた。事実だとしたらニンジャ組織が世の中を支配するという漫画のような出来事が起こっている。
「スノーホワイト言っておくけど……」
「分かっている。アマクダリには手を出すなでしょ」
「これは何度でも言わせてもらうぽん。絶対に手を出すなぽん」
「できる限り手を出さないから」
こちらからはできる限り手を出さない。そう絶対ではない。もしドラゴンナイトに危害が及んでしまったら敵対する。ファルもスノーホワイトの心中を察したのか、やれやれと言ったようにため息をつく。
「しかしアマクダリとしてはどう思っているだろ?作中でアマクダリと酷似した組織が描写されているから、存在が認知されるのを恐れて連載を辞めさせることもできそうだけど」
スノーホワイトは自身の考えを何気なく口に出す。すると小馬鹿にしたような声が返ってくる。
「考えすぎぽん。漫画なんて妄想の世界だぽん、政府を裏で支配するような組織が信じるわけ無いぽん。それにニンジャもフィクションの存在としてはポピュラーだし、秘密結社が支配するとかいう陰謀論と超常的存在と結びつけるなんて寧ろベタぽん。そんなの気にしていたらキリがないぽん」
「そうだね、ちょっと考えが飛躍しすぎた」
それもそうだ。仮に自分の世界で魔法少女が存在するというマンガを描いたとしても、存在が明かされると干渉しない。寧ろ魔法の国の広報部門が自ら魔法少女の存在を知らせようと魔法少女もののマンガやアニメを作っているぐらいだ。
「そういえば、今日も来なかったぽん」
ファルは話題を変え僅かに落胆の色を見せながら話す。ワザズシでフォーリナーXの手がかりを得てからはその周辺を重点的にパトロールし、時には張り込みも行った。だが1週間経っても現れなかった。ネオサイタマに来て初めて得た手がかりが成果に結びつかない苛立ち、ここまで長期滞在させてしまった罪悪感と不甲斐ないという困った声が聞こえていた。
「騒ぎを起こしたしもう来ないつもりかもしれないぽん」
「でもエーリアスさんの証言を聞く限り、来る意志は有ると思う」
スノーホワイトはファルの推論に反論する。エーリアスの証言では迷惑料を置いてまた来ると言っていた。今は何かしらの事情で来られないだけでいずれは来る。というよりそれぐらいしかフォーリナーXの手がかりが無いのが現状だった。
「あと気になる事があるぽん」
「何?」
「ここ最近でヤクザの組が次々と壊滅しているらしいぽん」
「ヤクザ同士の抗争じゃないの?」
「それだったら系列の組とか抗争している組の系列が壊滅するぽん。でも系列とか関係なく無差別に壊滅しているぽん。不自然ぽん」
それは不自然だ。抗争ではないとすれば全てのヤクザに恨みがある集団か個人の行動か、それとも正義感に基づく行動か。
「ファルはフォーリナーXに関係あると思う?」
「分からないぽん。ただ報告しただけだぽん」
ファルは体を左右に振る。確かにこれだけでは何も分からない。とりあえず頭の片隅に入れておこう。するとIRC通信機にドラゴンナイトから通知がくる。その通知を見て直様移動を開始した。
◆◆◆
そのマンションは作られてから相当の年月が建っており、外壁もクリーム色だったのだろうが大分くすんでいる。玄関前も管理人が仕事をしていないのか散らかっており、ゴリラズ・マンションとオスモウフォントで書かれた銅製の看板は錆びついている。
ゴリラズ・マンション、ネオサイタマで最低ランクのマンションだ。そのマンションの玄関前にスノーホワイトとドラゴンナイトは集合していた。「ごめん急に呼び出して」「いいよ、それでどうしたの?」「いや、ここにカワタ=センセイの家があるんだけど、スノーホワイト=サンと一緒に来てくれって連絡があって」
ニンジャと魔法少女を呼び出す要件とは何だろうか?荒事ではなければいいのだが、案外引っ越しの手伝いでタンスでも運んでくれという頼みかもしれない。スノーホワイトはいくつかの予想を浮かべながらカワタの自宅に向かう。だがカワタから言われた言葉は全く予想外のものだった。
「スノーホワイト=サン!ドラゴンナイト=サン!コミックを描くのを手伝ってくれ!」家に上がると90℃の角度でオジギするカワタが出迎えた。「手伝い?何をですか?」ドラゴンナイトを思わず聞き返す。「コミックを描くのをだ」「ボク達じゃできないですよ。それはアシスタントの人達の仕事ですよ」
コミックを描くのは作者一人で描いていると思っている読者は少なくないが、実際はライン工めいて分担作業をおこなっている。その事実はコミック愛好家には周知の事実であり、ドラゴンナイトも知っていた。「アシスタントは全員食中毒で病院だ。俺だけが無事、まさにサイオーホース」カワタは自虐的に笑う。
ALAS!何という事だ!ドラゴンナイトは思わず固まる。コミックを描くのは膨大な作業量が伴う。一人で描くのは不可能であり、アシスタントと分担して描く。それでも厳しい作業量であることは変らない。そしてカワタの作品は週刊連載である!
週刊連載をしている間はジゴクに居るのと変わらないと言われ、アシスタントと協力してもその過酷さに多くのコミック作家が体を壊し連載を終わらせた。アシスタントの協力なしで描くのはほぼ不可能!できたのはコミック界のレジェンドであるゴウ・カイだけである!
そして1週間で描けなかった場合、業界用語で原稿を落としてしまえば一気に信用を失い、編集からのプッシュは受けられず作品が人気になる事は無い!原稿を落とす事は死と同じ意味なのだ!
「他に知り合いのアシスタントは?」「いない」「編集に集めてもらえば」「編集とは仲が悪い、この状況を打開するどころか、ほくそ笑むだろう」「ブッダ」ドラゴンナイトは思わず天を仰ぐ。スノーホワイトもマンガについては知らないがカワタとドラゴンナイトの困った声を聞けばどれだけ厳しい状況か理解できた。
「それで何でボク達を」「ニンジャだからだ、ニンジャなら何とかしてくれるかもしれない!むしろそれしか術がない!頼む!手伝ってくれ!」カワタは再び頭を下げる。スノーホワイトは厳しい顔を浮かべる。魔法少女は超人だが万能ではない。身体能力は上がっても絵や歌などのスキルが劇的に上がるわけではない。
それらのスキルは本人のセンスが大きな比重を占める。そして姫川小雪の絵のワザマエは並であり、とても手伝えるワザマエではない。ドラゴンナイトも同じように厳しい顔を浮かべていた。「ニンジャは万能じゃないです。ボクが出来るのは絵のコピーぐらいで役に立てるか、スノーホワイト=サンは?」「私も絵は上手くない」
「だそうです。スミマセンが……」「絵のコピーはできるんだな!」カワタは興奮気味に喋りながらドラゴンナイトの肩を掴む。「ファストボールのキャラのコピーは描いたことはあります。でも見本が無いと書けませんし、オリジナルのファンアートも描けません」「充分だ、これを描いてみてくれ」
カワタはドラゴンナイトをアシスタントが使用しているデスクに座らせ、1枚の写真を置いた。外から撮られた雑居ビルだ「この背景をコピーしてくれ」「分かりました」ドラゴンナイトは徐に描き始め、カワタは祈るように見守る。「終わりました」暫くするとドラゴンナイトはペンを置く、紙には写真と同じ雑居ビルが描かれていた。ワザマエ!
「さすがニンジャ!これならやれる!」カワタは嬉しそうにドラゴンナイトの肩を叩いた。ニンジャは略奪者である。太古にはモータル影から支配し、文明や芸術を産ませ搾取した。ニンジャは文化や芸術を生み出すアイディアやインスピレーションはない。それはソウル憑依者も同じである。
だが模倣はできる。絵のコピーは視覚情報をペンで出力する。それは相手の動きを再現するカラテトレーニングに似ている。つまり絵のコピーはカラテである!ニンジャであればニンジャ器用さとカラテがあれば絵のコピーは可能である!
「もしかしてスノーホワイト=サンも…」「すみません、私にはできないです」スノーホワイトは首を横に振る。スノーホワイトのカラテはドラゴンナイトより上だが、ニンジャ器用さと同等の器用さは魔法少女には備わっていなかった。カワタは落胆するがすぐに顔を上げる。「それでもやって欲しい事はある。今はヘルプ・キャットハンドだ」
「改めてオネガイシマス!」カワタは再び90℃の角度で頭を下げる。二人はカワタのオジギを見た後お互いの顔を見合って静かに頷いた。
◇スノーホワイト
魔法少女になって人助けのために様々なことを行ってきた。テロ組織の壊滅、落とし物探し、放置自転車の整理、酔っ払いの介抱。大きな事から小さな事まで色々だ。だがマンガを描く手伝いをすると思わなかった。こんなこと魔法少女のアニメでもやっていなかった。だがカワタは困っているので立派な人助けだ。気を入れなおして原稿に向かう。
原稿にはキャラクターや背景が描かれて完成しているように見えるが、まだまだ未完成であり、今から仕上げをおこなう。
仕上げは集中線を描き、ベタとホワイトを塗っていく。これは技術が低いアシスタントに任せる作業でスノーホワイトでも出来る可能性があると任された。
まずは集中線と呼ばれる作業を行う。キャラクターの周りに線を引いて躍動感を出すテクニックだ。線に強弱をつけなければならず線の引き方にはコツがあり、カワタに簡単にレクチャーしてもらった通りに実践する。魔法少女にはニンジャ器用さは無いが、体を自由自在に動かす身体操作能力は人間より優れており直ぐにコツを掴んでいた。
「チェックお願いします」
指定された線を引き終わると原稿を持っていきカワタに不備が無いかチェックしてもらう。手ごたえとしては上手くできていたが、プロの目で見ればダメかもしれない。カワタが原稿を見る姿を緊張しながら見つめる。
「OKだ、次は指定された部分のベタとホワイトよろしく」
スノーホワイトは胸をなでおろし、すぐに原稿を持っていき作業を開始する。
ベタは指定された部分をペンで黒く塗りつぶす作業で、ホワイトは修正液で白く塗りつぶす作業だ。これもカワタに簡単にレクチャーを教えてもらい、その通り行っていく。慣れない作業で苦労するが魔法少女になっていることで集中力が増加しているので、何とかこなしていく。ベタとホワイトが終わるとカワタにチェックしてもらい、OKをもらう。
これで原稿が1ページ完成した。ふと時計を見ると作業開始から4時間程度は経っており、日は完全に落ち夜が深まっていた。初めての作業だがここまで時間が掛かるなんて、これでも作業が少ない方だ。背景を描いているドラゴンナイトとマンガの大部分を描いているカワタはもっと時間がかかる。
ページ数は残り18ページ、果たして終わるのだろうか?スノーホワイトは一抹の不安を抱いた。
「2人とも今日は終わりだ」
カワタは2人の作業工程と時間を見て切りが良いと判断したのか、作業終了を呼びかける。
「まだ途中ですよ。それにまだまだ出来ます」
「あとは俺が引き継ぐ、もう10時だ、未成年をこれ以上働かせたらロウキに怒られる」
ドラゴンナイトは余力をアピールするがカワタは諫める。その言葉に素直に頷いた。
「明日スクールが終わったらすぐに来ます」
「本当にスマナイ。特にスノーホワイト=サンは俺の作品のファンでもないのに手伝わせて…」
「ヨロコンデー、これも人助けですので、普段とやっていることは変らないですから」
ネオサイタマの言葉で気にしないでと言う。その言葉にカワタは気が安らいだのか表情から申し訳なさが減っていた。
「う~ん実際疲れた。カラテとは違う筋肉使うというか、カラテとは別の頭を使うというかとにかく疲れた」
「そうだね。私も初めての作業で疲れちゃった。でもドラゴンナイトさんは背景描いて私より何倍も大変だから凄いよ」
2人はカワタの仕事場を後にして帰路につきながら今日のアシスタント業務について語り合う。魔法少女となり体力は人間より増えているがそれでも疲れた。慣れない作業ということもあるが主に気疲れだ。
漫画の原稿は一種の商品だ。商品を作る手伝いをするのは初めてだった。それにカワタはミスしてもリカバリーできると軽く言っていたが、スノーホワイトの作業が下手で修正に当たれば自分の作業が遅れる。自分の作業が遅れれば原稿が間に合わない可能性が出てくる。原稿が間に合わなければマンガ家として終わる。そんな重大な仕事を手伝うのは魔法少女で強化された精神力でも堪える。
だが成り行きでも手伝うことになったのだ。カワタの人生が掛かっているならやらなければならない。とりあえずドラゴンナイトと別れたら線引きの練習でもするか。それとハウツー本でも有れば買って読むか、スノーホワイトはカワタから借りたペンを握りながら、今後の予定を考えていた。