ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター 作:ヘッズ
◆ヴィルスバスター
アマクダリ電算室では所属のニンジャや外部の非ニンジャのエスイー(タイピング肉体労働者)のタイピング音が規則的に響いている。ヴイルスバスターは直結していたLAN端子を外し、アンコドーナッツを咀嚼する。アマクダリ傘下の企業と敵対する企業の機密情報を盗んできた。これで株価は暴落し吸収合併されるだろう。
アンコドーナッツを齧りタイピング音に耳を傾ける。自身は物理タイピングをしないが音を聞くのは好きだった。音を聞くだけでワザマエが分かり、腕が立つ者のタイピング音が重なり合う音はリラックス効果をもたらしてくれる。
業務終了まであと一時間、あとはダラダラと時間を過ごすだけだ。暇つぶしにソリティアでもやろうと立ち上げるがアマクダリネット上に連絡が入る。
「サンシタがヘマしたな」
ヴィルスマスターは愚痴をこぼす。コミック作家のカワタをインタビューするという重要度としては最低ランクのミッションを発令されたが、担当した下部衛星組織が失敗した。しかも所属のニンジャ二人がカワタを護衛しているニンジャに殺されたらしい。
いくらサンシタと云えどニンジャが殺されたとあってはミッションランクも上がる。逃げた進行方向の下部衛星組織に連絡、さらにアマクダリエージェントかアクシスへの出動要請も打診しなければならない。帰り際に仕事が入るのが一番堪忍袋が温まる。
一通りの連絡を入れてコミック作家のカワタが乗っている車両の検索を開始する。メーカーや車種などそれなりに詳細に報告しているので探すのは難しくない。これで雑な報告だったらセプクを申請しているところだ。
LAN端子をUNIXにケーブルを繋げコトダマ空間に侵入する。まずはメガロハイウェイの保守警備を請け負っているメガコーポの監視カメラ映像を入手する。アマクダリから申請すれば映像を見られるが、ハッキングして手に入れたほうが遥かに速い。大手以外のメガコーポのセキュリティなんてショウジ戸みたいなものだ。
すぐにハイウェイの保守警備を担当しているメクコ社のセキュリティにコトダマ空間を通して侵入する。そこは体育館のような内装で中には水が満たされておりマグロが遊泳している。ヴィルスバスターは球体のバリアを張り水を跳ね除けて進み、最奥の掛け軸に触れる。監視カメラの映像は手に入った。
映像を調べてみるが報告に上がっている車は映っていない。報告はでっち上げか?だがそんな事をすればセクトの制裁が待っている。それだったら報告を上げずミッションを続行するはずだ。掛け軸を凝視すると僅かに偽装された痕跡が見られた。報告が上がっていなければ見過ごしていたかもしれない巧妙さだ。これはヤバイ級のハッカーの仕業だ。
洗剤とブラシを出現させ掛け軸を清掃していく。汚れは頑固で中々落ちづらかったがしばらく続けると偽装前のデータをサルベージした。データを見ると報告に上がっていた車が通っていた。念の為に購入履歴から調べたが確かにカワタが購入した車だ。だが一通りデータを見たが下部衛星組織の構成員とカワタを護衛しているニンジャとの戦闘映像は見つからなかった。
よほど隠したいようだ。これも見ることができるがサルベージするのは相当時間が掛かるので、今することではない。
あとは映像に細工するであろう監視カメラのネットワークに先回りし待ち伏せする。そうすれば鉢合う。余裕があればIPアドレスを暴いて拉致しネットワークセキュリティ部門で働かせる。そうなればいま所属しているどのニンジャより働くだろう。
ヴィルスバスターは息を潜めて侵入者を待った。
◇ファル
中に入ると体育館のような内装と広さで水が天井付近まで満たされている。さらに中にはサメが泳いでいた。同じような構造に同じようなセキュリティ。似たようなセキュリティでは簡単にハッキングされるぞ。ファルはハッキングしている身でありながら、この会社のセキュリティの甘さを憂いた。
ファルはルーチンワークのように論理肉体にスクリューをつけてサメに見つからないように進んでいく。今のところハッキングはバレておらず、アマクダリの追っ手も来ていない。偽装工作が功を奏していると考えていい。だが全く安心できない、石橋を叩き続けて進まなければ。
するとサメと目が合いかけたので視線から逃れる。行動パターンは完全に把握している。サメに見つかりハッキングが発覚することはない。
サメを横目に見ながら奥に進んでいくがファルの論理肉体は目を見開く。サメがバラバラに分解された大量のピラニアに変化、ファルに視線を向けて襲い掛かる。論理肉体から大量の魚雷を作り出しピラニアを撃墜していく。魚雷の煙が視界を満たしていく。
「まさかあそこまで上がってニューロンが焼かれていないとは驚きだ」
視界が晴れるとそこには紫のラバースーツを着た男が現れた。ファルは反射的にwho isコマンドを打ち込む。すると男の後ろに名前が現れる。
───ヴィルスバスター
忘れもしない。アマクダリネットにハッキングした際に見つかり、カウンターハッキングにより危うくAIが破壊されかけた。電子妖精型のマスコットとして電脳戦には多少なり自信が有ったが、その自信は砕かれた。
「コミック作家のカワタ=サンの件で絡んでいるとはな、これもブッダの導きかもしれん。今度こそIPアドレスを見つけ物理肉体を拉致し、自我を研修してセキュリティ部門で強制労働だ!」
ヴィルスバスターの体が分裂し増殖していく。多重ログイン、その数の暴力で攻撃プログラムとして作り出した魔法少女達が次々と破壊された姿を思い出す。
前回と同じ状況ならば逃げの一手だ。だがファルは抗戦する為にプログラムの魔法少女を次々と作り出していく。
前回はアマクダリネット内、云わば相手のホームグランドで戦ったようなものだ。だが今回は企業のネットワーク内、条件は五分五分。さらにあれ以降スノーホワイトのサポートの為にコトダマ空間に入り活動してきた。あの時と比べてさらにコトダマ空間に適応している。
相手はアマクダリのネットセキュリティ部門の最高責任者クラスだろう。ここでカウンターハッキングして脳を焼き切れば戦力を削れ、アマクダリネット内に容易に侵入できるようになり、スノーホワイトの情報を消去できるようになる可能性は有る。
数十人のヴィルスバスターが足にスクリューをつけ高速で突進してくる。ファルに数メートルで激突するというところにマフラーの魔法少女、ウィンタープリズンが前に巨大な壁を作り出す。複数のヴィルスバスターは壁に激突し霧散する。残りは激突する前に停止するが四方に壁が現れ閉じ込められる。そして四方の壁の内側からさらに壁が現れ残りは押し潰される。
後方から気配を感じ振り向くと、同じように複数の増殖したヴィルスバスターが現れ手裏剣を投げる。ファルはすかさず忍者の魔法少女リップルを生み出し迎撃する。リップルが腕を振るうたびに無数の手裏剣と苦無が投げられ、ヴィルスバスターの手裏剣を相殺し本体に突き刺していく。手裏剣と苦無は的確に急所に刺さっていき、分裂したヴィルスバスターは一人残らず霧散していく。やれる。前回のような実力差は感じない。互角、いやこっちが優勢だ。
「前回よりタイピング速度が上がっているようだな。俺はリスクを取らない主義でな。必要なことは分かったし撤退させてもらう」
ヴィルスバスターの肉体が突如爆発四散する。四散した肉体が金魚となり全方位に逃げていく。ウィンタープリズンとリップルに攻撃させるが全部は仕留めきれず、何匹かは空間から消えていった
◆ヴィルスバスター
ヴィルスバスターはLAN端子を外し、ザゼンドリンクを飲みながら目頭を揉む。やはりヤバイ級のハッカー相手は疲れる。やろうと思えばニューロンを焼き切ることも可能だが、こちらもニューロンを焼き切られる可能性もある。そんなリスクは御免被る。
それに相手がハッキングしていることを分かれば充分だ。後はハッキングされたカメラ周辺と相手が進んでいるその進行方向か、メガロハイウェイから一般道に降りるゲートに下部衛星組織のニンジャを向かわせれば捕まえられるだろう。
時計を見ると定時まで残り5分を切っていた。必要な事はやった。後は引継ぎをして終りだ、残業するはめにならなくて良かった。ヴィルスバスターは急いで業務日誌を作成し始めた。
◆◆◆
「スノーホワイト、ハッキングがバレたぽん」インテリジェンスバイクの自動操縦でメガロハイウェイを走るスノーホワイトにファルは報告する。「バレたって何を?」「アマクダリにハッキングしたということだぽん」「車や私たちの映像は?」「それは大丈夫ぽん。けどファル達が高速に乗っているのはバレたと考えるべきぽん」
ファルは細心の注意を払ったつもりだったが発覚してしまったウカツをせめる。だがファルのハッキングにミスと言うミスは無く、見つかった原因は生きていたトサケンの報告によるものであることをファルは知らない。「今後もハッキングできるの?」「出来るけど見つからなようにするのに手間が掛かるから時間がかかるぽん」
「高速を降りるゲートまであと何分?」「あと5分ぽん」「そこで高速を降りよう。このまま走っていたら捕まる」「ファルも同意見だぽん。ネオサイタマは無駄に道路が多いぽん。高速を降りても他の道を使っても時間はそこまで変わらないぽん」スノーホワイトはファルとのミーティングを終えるとカワタの隣を並走し伝えた。「次のゲートで降ります」
カワタは頷き一般道のゲートに向かう。ギャバーン!自動精算機にトークンを支払うとゲートバーが上がる。その間にカワタの車とインテリジェンスバイクが通り過ぎる。ゲートを通り過ぎたのを確認するとスノーホワイトとドラゴンナイトはドアからリーフに上がり、スノーホワイトはバイクに乗り移った。
「スノーホワイト達の姿はカメラに映っていないぽん。でもハッキングしたのはいずれバレるから場所を割り出されるぽん」ファルは悔しそうに呟く。時間稼ぎとしてもそこまで長くないだろう。だがやらないよりマシだ。やらなければすぐに見つかってしまう。スノーホワイトは無言で頷きドラゴンナイトに語りかける。
「またカワタさんを狙って敵が、ニンジャが来る。最大限に警戒して」「了解」ドラゴンナイトは最大限にカラテ警戒を張る。スノーホワイトは運転席に並走し話す。「カワタさんも検問が有っても私が突っ込めと言えばそのまま突っ切ってください」
カワタを守るためにドラゴンナイトとスノーホワイトはアマクダリとことを構えている。そのカワタが弱気になってアマクダリの検問で止まったら全てが無駄になる。そうならないように努力はするが、もしその場面が訪れたら躊躇せずに突破してもらいたい。「ガッチャ!生きてコミックを描くためならなんだってやるさ!」カワタは高揚しながら答える。
スノーホワイトは周りを見渡しながらシミュレーションを行う。ハイウェイ下にはさらに別のハイウェイとビル群がある。離れているがニンジャと魔法少女なら跳んで移れる、ビル間を移動。またはハイウェイに降りてトラックなどに乗り移りながら目的地を目指す。ニューロン内でいくつもの逃走方法が浮かび上がる。
「敵、後!浅葱色の服の3人のバイカー!」スノーホワイトのシミュレーションは中断される。後ろから追っ手が来ている、声からしてアマクダリだ。待ち伏せされたか。「イヤーッ!」ドラゴンナイトはスノーホワイトの声を聞きスリケンを投擲!浅葱色のバイカー達は何かを振ってスリケンを弾く。ワザマエ!手に持っているのはカタナだ!
「イヤーッ!」ドラゴンナイトは構わず連続スリケン投擲!今度は直線ではなく左右に弧を描きながら向かっていく。目標は後輪のタイヤ、バイクの上からでは防ぎきれない。だがバイカー達は隊列を組みお互いの死角をカバーし合いスリケンを防ぐ。なんたるチームディフェンスか!
「ドーモ、ハジメマシテ、シエイカンのロングウェアハウスです」中央にいるロングウェアハウスが代表で名乗る。彼らはこの地区を担当するニンジャ組織シエイカンのメンバーだ。アマクダリから報告を受けスノーホワイト達が通りそうな場所でメンバーが待ち伏せしており、そしてスノーホワイト達が3人担当する場所に来たのだ。
アイサツを終えた直後ロングウェアハウスの前にスノーホワイトのバイクが迫っていた、スノーホワイトは後ろを振り向きながらルーラを突く。見た限りまだ通信機を操作した様子はない、この3人を行動不能にさせ連絡を入れさせない。インテリジェンスバイクに操作を任せ攻撃に専念することで一気に仕留めるつもりだ。
「イヤーッ!」ロングウェアハウスは片手では防ぎきれないと判断し両手でカタナを持ちルーラを弾く。両手を離したことで加減速できずスノーホワイトの間合いで一方的に攻められる。「ロングソード=サン、スイッチブレード=サン。こいつは俺が引き受ける。ターゲットを確保してこい」
ロングウェアハウスは防御しながら指示を出す。2人は援護しようと考えていたが指示を受けカワタ確保に向かうためにスノーホワイトを追い越そうとする。するとスノーホワイトはロングウェアハウスとの距離を開けシートに立ち上がりルーラをなぎ払った。「グワーッ!」ロングソードはルーラで斬られダメージによりバイクから落下!
ロングウェアハウスは何とか防御!スイッチブレードはロングウェアハウスが防御したことでルーラのスピードが減速され何とか防御でき軽傷で済む。スイッチブレードは斬られた箇所を手で抑えながらスノーホワイトを見つめる。
スノーホワイトは3人との間合いを測りベストな距離とタイミングで技を放った。片手持ちでルーラを振ったことで予想以上に間合いが伸び対応できなかった。もしロングウェアハウスが防御して減速していなければロングソードと同じように斬られていただろう。何たる瞬時の判断力とそれを実行するカラテか!
「早く行け!」ロングウェアハウスの喝でスイッチブレードはアクセルを回しカワタの車に向かう。スノーホワイトも後を追う。「お前の相手は俺だ」ロングウェアハウスは行動を読みスノーホワイトの右に付ける。スノーホワイトは瞬時にルーラを右腕で持ち迎撃する。アクセルを回せずバイクに指示も送れず、これではスイッチブレードを追えない!
「イヤーッ!」ドラゴンナイトはスイッチブレードに向けてスリケン投擲!スノーホワイトは釘付けにされている。対処しなければ。スリケンは直線と左右に弧を描き向かっていく。「そんな手は通用するか!」スイッチブレードはバイクを急加速!左右のスリケンは目測を誤り外れる!大分距離を詰められた。このままでは近づかれる。
「アクセル全開!」ドラゴンナイトはカワタに指示を出す。「お…おう!」カワタは一瞬遅れたアクセルをベタ踏みする。これで数秒時間を稼げる。その間に落す。「イヤーッ!」ドラゴンナイトは膝立ちになりスリケン投擲に意識を集中させる!「イヤーッ!」スイッチブレードはスリケンを弾き車に近づく。ゴジュッポ・ヒャッポ!
「ヌウ!」バイクのタイヤにスリケンが掠りコントロールを僅かに失う!「グワーッ!」スリケンが肩に刺さる!コントロールを取り戻そうと数コンマ意識が向き防御が疎かになり、その隙をつかれた!「グワーッ!」スリケンは胴体やバイクにきりたんぽめいて刺さっていく。
バイク上という不利な場所でのイクサが勝敗を分けた。スイッチブレードは自身とバイクを守らなければならなかった。フーリンカザンはドラゴンナイトにあった。「イヤーッ!」スイッチブレードはボールめいてアスファルトに転がる前に持っていたカタナを投げた!なんたる悪あがき!
ドラゴンナイトも迎撃しようとするがカタナは車に突き刺さる。スイッチブレードはバウンドしながら後方に転がっていく。刺さった場所に視線を送る。エンジンに刺さり爆発、ニューロン内で最悪の映像が浮かぶ。だが車は問題なく走行していた。安全を確認するとスノーホワイトを援護するためスリケンを生成し構える。
「おい!ヤバイ!ブレーキが利かない!」車内からカワタの悲鳴のような声が聞こえてきた。「止めらんないの!」「無理だ!サイドブレーキも利かない!ファック!」あのカタナのせいか、ドラゴンナイトは舌打ちする。前方にはカーブ地点があり車のスピードから考えて残り20秒でぶつかる
「カワタ=センセイ!ブレーキ利かなくても曲がれる!?」「何とかするしか……ヤバイ!ヤバイ!ハンドルも利かねえ!」ナムサン!カワタの乗る車は今や超特急棺桶と化した!ドラゴンナイトの表情が引き攣る。CRASH!車はノーブレーキで壁に突っ込んだ!CABOOM!直後に爆発!
◇スノーホワイト
「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」
スノーホワイトは表情が恐怖と焦りに染まりながらバイク上でロングウェアハウスの攻撃を防御する。原因はロングウェアハウスの攻撃の熾烈さではない、それは前方にいるカワタとドラゴンナイトの状況のせいだ。
魔法でカワタの困った声が聞こえてきた。車のハンドルもブレーキも利かなくて困るという声が聞こえてきた。視線を向けるともうすぐカーブだと言うのに一向に減速しようとしない。2人の元に駆けつけようにもロングウェアハウスの執拗な妨害で動きが取れない。減速やハンドル操作で距離をとって駆けつけようにもロングウェアハウスの巧みな操作でそれをさせない。
「駆けつけたいようだがさせんぞ。捕獲が第一目標だが事故死しても問題ない。お前と連れのニンジャを殺せればな!」
ロングウェアハウスの攻撃の熾烈さが増す。このままではカワタは死ぬだろう。魔法少女やニンジャならともかく、あの激突に人間は耐えられない。
車は壁に向かって無慈悲に進んでいき激突した。激突音が起こり運転席と助手席は完全に潰れていた。直後に爆発音、ガソリンが引火したのだろう。車体は燃え上がり黒煙が立ち上っている。この状態ではニンジャや魔法少女でも死亡する可能性がある大惨事だった。
「これでターゲットと連れのニンジャは死んだな…ん?」
事故の様子を見た者は皆運転席に居たカワタの生存は無理と諦めるほどの惨状だった。だがスノーホワイトの表情には絶望も悲しみも浮かんでいなかった。
いつもの無表情を浮かべながらロングウェアハウスと剣戟を交わしながら直進する。まるでブレーキを踏む様子はない。ロングウェアハウスもブレーキを踏む様子はなく直進する、その様子はさながらチキンレースのようである。
2人は車の後方に激突する。衝撃により後輪が跳ね上がり宙に舞った。スノーホワイトはいつの間にシートに立っており、重力でシートから落ちる直前に跳躍し、ハイウェイの壁を乗り越えビル群に落ちていく。魔法少女の身体能力ならばどこかのビルや下のハイウェイに無事に着地できるのはシミュレート済みであり、予定通りの行動だった。
夜を過剰なまでに彩るネオン看板を視界に入れながら着地点を探す。後ろにはロングウェアハウスがいた。スノーホワイトを追って同じように跳んでいた。進行方向には雑居ビルの屋上がある。一瞬右を向いた後、前方回転で着地しすぐに振り返りルーラを構え落下地点に入る。目線の先にはロングウェアハウス、空中で身動きがとれないところを迎撃する。
相手もスノーホワイトの狙いを読んでいるようで上段の構えをとりながら落下し、重力の力を乗せた渾身の一撃でルーラごと斬りつけるつもりでいた。
スノーホワイトは腰をひねり斜め上に突きを放つ。ロングウェアハウスもカタナを振り下ろす。カタナとルーラがぶつかる瞬間、ロングウェアハウスの側頭部が貫かれた。
「サヨナラ!」
体は爆発四散しカタナだけが屋上の床に落ち乾いた音を鳴らす。スノーホワイトは横を向き隣のビルを見上げる。その視線にはドラゴンナイトがいた。ドラゴンナイトはスノーホワイトを一瞥すると後ろに歩き始め視界から消える。数秒後に視界に現れたドラゴンナイトはカワタを抱き抱えスノーホワイトが要る屋上に降りてくる。
その姿には先程まである部分が違っていた。背中から翼のようなものを生やしている。それは鳥の翼ではなく、コウモリとかが生やしているような翼の形状だった。翼がブレーキの役目となりゆっくりと減速し音もなくふわりと着地した。
◇ドラゴンナイト
「どうやって来たの?」
「バイクでカワタさんが乗っていた車にぶつかって、その勢いを利用してジャンプした」
「ボク達があのビルに居るってことは分かっていたの?」
「無事ならあの辺に居るかなと思って、それで探していたら丁度目が合って、予想が当たってよかった」
ドラゴンナイトは呆れと感嘆を混ぜたような笑いを見せる。あの爆発音からして車の周りは炎上していただろう。その証拠に衣服が若干焦げている。居ると分かっていたということは車から脱出して壁を飛び越えたのが見えたのだろうか。それでも躊躇なく炎のなかに飛び込み壁を越えた決断力、やはりスノーホワイトは凄い。
「それで、その背中の翼はどうしたの?」
「ああ、何か生えてきた」
曖昧な答えにスノーホワイトは納得していないようだが、それしか答えようがなかった。カワタの車が暴走し壁に激突5秒前、ドラゴンナイトは運転席のドアを力ずくで強引にこじ開けて車のリーフの上に引き上げ抱えながらジャンプした。
カワタを生かすために咄嗟の判断だった為方向も飛距離も何も考えず跳んでいた。2人は壁の頂上部を乗り越えようとしたところで車は爆発した。爆風は大きくドラゴンナイトの態勢を崩す。
壁を越えた視界に見えたのは別のハイウェイとビル群、それを見てドラゴンナイトは絶望する。遠い、この勢いではどこのビルの屋上や看板にも着地できない。このまま落ちれば遥か下の地面に着地しなければならない。それは着地ではなく落下だ。カワタを抱えている状態でも、いやそうでなくても落下の衝撃で死ぬだろう。何か手はないか、脳を最大限酷使するが答えが浮かび上がらない。
シラクサ よく左 ふわふわローン ヨロシコスメティック 洗練されたオナタカミ
視界にはネオン看板の文字が高速に流れていく。文字ははっきりと見え看板の汚れの1つ1つすら見える。これが噂のソーマトーリコールか。
突如背中に痛みが走る。反射的に背中を見るとコウモリのような翼が生えていた。ドラゴンナイトは本能のままに脳から翼に指示を送る。すると手や足を動かすように翼は羽ばたかせる。鳥のように浮遊することはできなかった。だが体は重力落下を無視して確実に前に移動していた。
これならば助かる。必死に翼をはばたかせ目の前に見えるビルの屋上にカワタを怪我させないように背中から着地した。
「ハハハ、ニンジャは翼を生やして飛べることもできるのか、本当に何でも有りだな」
カワタは今起こった出来事を受け止めきれないのか、半笑いで呟く。それはこちらのセリフでもある。翼を生やし飛ぶ、正確に言えば滑空できるとは夢にも思っていなかった。これもリュウジン・ジツの影響だろうか。
ドラゴンナイトに宿ったタツ・ニンジャのソウル。かつては翼を生やし恐ろしいエアロ・カラテの使い手でもあった。ソウルを憑依した時点では本来の力を引き出せていなかった。だが経験を積んだことで徐々にソウルの力を引き出せるようになり、今しがた翼を生やせるようになったのだ。
「そうだ、スノーホワイト=サンは?」
体の新たな変化からスノーホワイトに意識を向ける。後ろでバイクに乗ったニンジャと交戦していたがどうなった?まさかやられてはいないか?様子を見に行くべきか?この後のカワタの護送は1人でやるのか?脳内で今後の行動や不安が浮かび上がる。車が壁にぶつかった辺りでは黒煙が舞っており視線を向ける。
すると壁の上を何かが飛び越えた。あれは人だ。ドラゴンナイトの目はスノーホワイトの姿を捉える。
スノーホワイトは無事だ。安堵で体の力が抜けるがすぐに入れ直す。後ろから浅葱色が見える。あれはスノーホワイトと交戦していたロングウェアハウスだ。直線距離で50メートルほど離れている。すぐにスノーホワイトの落下地点に駆け寄り援護すべきだ。
駆け寄ろうとした瞬間スノーホワイトと目が合い動きを止める。その視線は何かを訴えかけており、とりあえず動くなというメッセージを込められているのが分かった。
数秒後スノーホワイトは着地し直様後ろに振り向き迎撃態勢をとる。ロングウェアハウスもそれを見て落ちながら上段の構えをとる。それを見た瞬間スノーホワイトの視線の意味を理解した。
ドラゴンナイトはスリケンを生成し構える。タイミングを見誤るな。スノーホワイトは薙刀を突き上げようと体が動く、今だ。相手の落下速度を予想し、目標地点に向けて全力で投擲する。スリケンは空気を切り裂き、スノーホワイトの薙刀とロングウェアハウスの刀が接触するという瞬間にロングウェアハウスの側頭部に命中し爆発四散した。
◆◆◆
「あの視線は自分が引きつけている間にアンブッシュしろって合図だったんだね!ギリギリで気づけてよかったよ」ドラゴンナイトは意気揚々とスノーホワイトに話しかける。あの瞬間アイコンタクトで会話した。それは2人の意思疎通ができている何よりもの証だ。とうとうその領域にたどり着いたのだ!
一方スノーホワイトは浮かない顔をしながら奥ゆかしく相槌を打つ。1人で対処するつもりだった。だが心の声で『スリケンを外したら困る』と聞こえた瞬間スリケンは投擲されており、ロングウェアハウスは爆発四散していた。ドラゴンナイトの行動はスノーホワイトの意図したものではない、これは一方的な勘違いである。
スノーホワイトはドラゴンナイトに手を汚して欲しくなかった。だが騒動に巻き込まれ少なくとも3人のニンジャを殺し心を痛めていた。そしてドラゴンナイトは命を奪った事への罪悪感を一切抱いていない。面影を重ねている岸部颯太ならその正義感と優しさから苦悩するだろう。改めて2人は違う人物であると認識させられ、少しだけ恐怖を覚えていた。
ドラゴンナイトはモータルを踏みにじることなく必要以上に痛めつけず、悪事も働くことなの無い比較的に善良で奥ゆかしいニンジャと言える。だが決してブッダのような聖人君子ではない。自分や大切な人を害するものは殺せる精神を持っており、ニンジャの精神は基本的に殺伐である。
「これからどうする?車もスクラップになって足が無いぞ」カワタは徐に質問でスノーホワイトは今後の行動を考える。車で大使館まで移動するつもりだったが車が壊れてしまい、移動手段はなくなった。このままタクシーで移動するか?それとも周りを巻き込むことを懸念して遠慮していた電車を使うか。
「とにかく移動しましょう。この騒ぎで敵が寄ってくるかもしれません」とりあえずこの場を離脱し、その後は臨機応変に対応する。スノーホワイトの提案に2人は頷き、ドラゴンナイトはカワタを米俵めいて肩に担いで移動の準備を整える。
「敵が来た」スノーホワイトの言葉にドラゴンナイトは即座を開始する。2人は看板やビルの屋上を足場にし、全速でパルクール移動をする。そのスピードとかかるGや風圧は凄まじく肩に担がれていたカワタは恐怖で叫んだのち気絶していた。
「敵はまだまけない?」スノーホワイトは首を横に振る。まくどころか距離は縮まっている。後ろを振り向けば浅葱色の羽織を来た長髪の男の追っ手が見えている。このままじゃ追いつかれるだろう。「2人で倒そう」このまま逃げ続け他のアマクダリニンジャが来たら不利になる。ここはすぐに相手を無力化すべきだ。ドラゴンナイトは首を縦に振る。
スノーホワイトとドラゴンナイトは雑居ビルの屋上に着地する。そこにはバーベルやサンドバックや木人形などが置いてあり、DIYされたトレーニングジムだった。「イヤーッ!」ドラゴンナイトは振り向きざまにスリケンを追っ手に投擲する。追っ手はカタナを抜き切っ先をスリケンにそっと触れた。スリケンは軌道を変え後方に飛んでいく。
「ドーモ、ハジメマシテ、スリートラストです」