ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター 作:ヘッズ
◇スリートラスト
「ドーモ、スリートラスト=サン、ドラゴンナイトです」
怒りを抑えながら目の前のニンジャ達を見定める。1人は男で未成年のガキのニンジャで大したことはない。もう1人は薙刀を持ったニンジャ、女で未成年のニンジャは珍しい。だが男のニンジャより明らかにカラテが上だというのはアトモスフィアで分かる。2人を視界に入れながら中段の構えをとる。
スリートラストはアマクダリのアクシスである。アクシスとはアマクダリの精鋭部隊でありアクシスになる前は下部衛星組織シエイカンに所属していた。メンバーは全員カタナを使うニンジャで、日夜ドージョーで研鑽を積んでいる。そのあり方はニンジャ組織というより一種のニンジャクランのようだった。そこで頭角を現しアクシスに選抜された。
今この場に居たのはアクシスの仕事であるアマクダリ支配領域においてのニンジャによる戦闘の鎮圧でもなく、カワタ捕獲のミッションの支援で来たわけでもない。唯休日を利用してシエイカンのメンバーと旧交を温めるために訪れていた。
ミッションの為に出払ったメンバーを待つため、暇を潰している時にロングウェアハウスが爆発四散する瞬間を目撃した。
ロングウェアハウスは今ではカラテで上回っているがシエイカン時代のメンターであり、友人でもあった。今日もアドバンズド・ショーギをして、サケを飲んで、粛清対象のモータルを辻斬りして楽しく過ごすつもりだった。
セクトのニンジャを殺したニンジャを処分するのはアクシスの仕事でもある。だがアマクダリの指示もなく事後承諾が認められるケースでもアクシスが独断で動く事は許されない。何らかの処分は下されるだろう。それでもいい、ロングウェアハウスの敵をシエイカンのメンバー以外に譲るつもりはない。スリートラストは戦闘を開始することをアマクダリに告げ、意識をドラゴンナイトと女ニンジャに集中させる。
まずはロングウェアハウスを殺した男のニンジャから殺す。間合いを詰めようと息を吸い踏み出そうとした瞬間に女ニンジャが間合いを詰め突きを放つ。
スリートラストは咄嗟に防御する。攻撃しようとした瞬間を狙いすましたかのような一撃、先手を取ろうとしたが先手を取られた。スリートラストは防御に回る。
女ニンジャは薙刀を巧みに操り攻撃の軌道を変化させる。軌道を変化させる技は珍しくはないが避けにくい。まるで無意識に防御しにくい箇所を狙っているようだ。致命傷は避けているが何箇所かは斬りつけられている。
防御に気を取られている間にドラゴンナイトが左から回り込んできていた。女ニンジャを相手にしながら素手の間合いに入られたら少々面倒だ、攻撃を防御しながらタイミングを計り、間合いに入った瞬間両手で持っていたカタナを左手に持ち替え、右手のサイバネアームで女ニンジャの攻撃を防御し、左手でドラゴンナイトの喉にノールックで突きを放つ。
「突き!」
声に反応するようにドラゴンナイトは即座にブリッジする。突きは喉があった場所を通過しドラゴンナイトはバックフリップで間合いを取りながらスリケンを放ち、切っ先でスリケンの軌道を変える最小限の動きで防ぐ。
手応えからして決まるはずだったが女ニンジャの声でギリギリ回避した。完全に読まれた。女ニンジャは相手の攻撃を読むニンジャ気配察知能力がかなり高いようだ。予想以上にカラテが強い。
女ニンジャはさらに攻撃を繰り出す。中段への突き、カタナで受け止める。下段への足払いはジャンプで躱す。上段の右袈裟斬り、並みのニンジャならカタナを掲げ防ぐところだが、スリートラストは防御せずカタナを振り上げる。狙いは指、指を切り落とせば相手は武器を持てず攻撃は届かない。攻防一体の技だ。
女ニンジャは攻撃動作の最中に両肘を引き、指への攻撃を回避しそのまま突きに移行する。ルーラが体を貫こうと向かってくるが右のサイバネアームでルーラを殴りつけギリギリで軌道を逸らす。だが完全に回避できず左肩が切り裂かれる。
指への攻撃を読み切り、肘を引いて回避しそのまま突きの攻撃。まさに攻防一体の技、どこまで察知できる?まさか動きの全てを読めるのか?
得意技を回避され動揺を覚えたせいか躊躇が生まれる。それを見逃す相手ではなく追撃される。だが突如反転し全速で駆け出した。向かう先はもう一人の男がいる方向、ドラゴンナイトも突然の行動に目を点にしている。
「イヤーッ!」
カラテシャウトと同時に金属音が響く。もう一人の背後にカンフーシューズのニンジャが現れショートカタナを振り下ろし、女ニンジャがそれを防いでいる。ビルを駆け上がり背後からアンブッシュしようとしたのを感じ取ったのか。
「ドーモ、はじめまして、フレイムタンです」
◇スノーホワイト
「カワタさんと一緒に逃げて!」
スノーホワイトは声を張り上げドラゴンナイトに指示を送る。ニンジャの本能に従ってアイサツしようとしていたが動きを止め、隅に隠れていたカワタを回収しに走り出す。フレイムタンは阻止しようと走り出すが妨害する、
「スリートラスト=サン!そのモータルを奪え!」
フレイムタンは応戦しながら指示を送る。スリートラストはカワタとドラゴンナイトの元に向かおうとするが、フレイムタンから離れスリートラストの妨害をする。その隙にフレイムタンが駆け寄ろうとするがルーラを振るって牽制する。2人の中間地点に入り近寄らせないように相手の困った声を聞いて行動を読み妨害する。
ダメージはいらない。手打ちでもとにかく速い攻撃で動き出しを止める。時間としては数秒程度だったがそれで充分だった。ドラゴンナイトは翼を駆使して建物の間を移動し数10メートルは離れていた。
「なんでここに居るフレイムタン=サン?」
「さっき居たコミック作家のカワタ=サンの拉致&インタビューのミッションに俺が駆り出された。スリートラスト=サンは?」
「俺は偶然この地区に居て、地区にいるニンジャが殺害されたのでアクシスとして処分を実行していた」
「バカめ、独断専行は懲罰だぞ」
「構わん」
2人が言葉を交わしている様子を見ながら神経を研ぎ澄ます。スリートラストはネオサイタマで戦ったニンジャの中で一番格闘能力が強い。攻撃を防ぎながらのドラゴンナイトへの突き、指を狙った斬撃、両方防げたがあれは背筋を冷やした。そしてフレイムタンというニンジャの攻撃を防いだときにスリートラストと同等の実力と感じ取った。
仮に2対2の状態になったらどちらかのニンジャを倒しきる前にドラゴンナイトは殺される。他のニンジャに襲われたら加勢できないが、先の脅威より今生かす事を考えなければならない。
とりあえず作戦は成功した。だがもっと距離を稼ぎたい。相手が動いた瞬間反応できるように体を脱力させ魔法を研ぎ澄まし、魔法の感度を上げる。
「2人でさっさと始末してもう1人のニンジャの後を追うぞ」
フレイムタンがスリートラストに指示を出し、短刀と鉄扇を構える。後を追おうとして妨害されるより、ここでスノーホワイトを無力化し後を追ったほうが速いと判断したようだ。
「気をつけろ、ニンジャ気配察知能力が並じゃない。半端な攻撃じゃ読まれてカウンターを喰らう」
「ホウ、仮にもアクシズのお前にそこまで言わせるとなると、それなりのカラテのようだ。しかもこんな女のガキとは驚きだ。おい、アマクダリに来る気はないか?入るなら命は助ける」
「おい!」
「優秀なニンジャをスカウトするのはセクトにとって有益なことだ。どうだ。セクトに入ればある程度は好きにできるぞ」
「断ります」
無表情で即答する。唯マンガを描いていただけのカワタを襲い、アシスタントを殺し、情報を引き出した後は殺そうとし、カワタを守ろうとしたドラゴンナイトも殺そうとした。何故そんな組織に入らなければならない。むしろ解体したいぐらいだ。
「そうか、なら死ね」
フレイムタンは冷淡に言い捨てると鉄扇で短刀を叩く。短刀は赤く染まり炎を帯びる。スリートラストも中段の構えをとり、殺気を孕んだ目線で睨む。場の緊張感は一気に高まる。
先に動いたのはスノーホワイトだった。真横に駆け出す。態々2人を相手にすることもない。今の会話でドラゴンナイトが逃げる時間は充分に稼いだ。ここで2人を巻いてからドラゴンナイトと合流する。だがスノーホワイトの動きに反応したフレイムタンが連続側転で追いつき側宙から攻撃を繰り出す。
「ハイヤーッ!」
短刀と鉄扇を使った高速コンビネーションがスノーホワイトを襲う。スノーホワイトはルーラの柄で防ぐ。フレイムタンはさらに下半身に蹴り技を見舞う。しかしそれは魔法で察知しており膝を押し込むような蹴りで技の初動を防ぐ、相手はバランスを崩し連撃は一瞬止まる。
その一瞬を埋めるようにスリートラストが左から間合いを詰めての突きを放つ。カタナが点で迫ってくるような錯覚を起こすブレがない高速の突き、それも魔法で察知しており、首に浅い切り傷を作りながら体を回転させながら回避、そのエネルギーをそのまま生かしてルーラを横薙ぎさせスリートラストを斬りつける。スリートラストは体を反ってブリッジ、体を反った瞬間に斬撃を横から右斜め下に変化させる。
「イヤーッ!」
スリートラストは咄嗟の判断で通常の両手と頭で体を支えるブリッジではなく、頭のみで支えるブリッジに変え、空いた両手で迫り来るルーラをカタナで弾いて斬撃を強引に軌道変化させ致命傷を回避し、ルーラは二の腕を浅く切り裂きながら床に当たる
フレイムタンは間合いを取ると短刀を目の前に掲げて鉄扇を小刻みに動かし短刀を扇ぐ、すると火炎放射器のように炎が吹き出す。これが相手の魔法か、直様魔法の袋から業務用消火器を取り出し液体を噴射し炎を相殺し、周りは消火液の粉で白く染まる。
消火液が煙幕となりフレイムタンは予想外の対処法に動揺している今なら逃げられる。消火器とルーラを持ちながら全力でビルの淵に向かう、が、それより速くスリートラストが突っ込んできていた。
頭、肩、脇腹、腿、様々な箇所への連突、というよりデタラメに突いているだけだ。だがこういった狙いをつけない攻撃は魔法で察知しにくい、さらに消火器のせいで視界も悪い。その場に留まり防御する。腕章と肩、スカートと右太腿に浅い亀裂が入り血がしぶくがそれ以外の致命傷への突きはしっかり防げた。
スノーホワイトは息を吐き体を弛緩させる。この状態で襲われれば間違いなく死ぬだろうが心配はいらない。視界が晴れるとスリートラストとフレイムタンは消えていた。
本来ならドラゴンナイトを追跡させないために足止めしなければならないのだが、どうやら諸事情で別の案件で駆り出され、この1件には関わらないようなのでほうっておく。
強かった。個々の実力もそうだが対強敵への複数での戦闘の訓練をしているのか、コンビネーションも巧みでお互いの隙を埋め合っていた。もし同じ程度の使い手があと2人加わっていたら即逃げの一手を打つだろう。
「ファル、ドラゴンナイト=サンは?」
「どうやら電車に乗って移動しているようだぽん」
両親や友人達が魔法少女に人質に取られる対策としてファルのプログラムで瞬間的に電脳空間に引き釣りこめるようにしている。ドラゴンナイトの携帯端末にも同じプログラムを入れており、ファル曰く『コトダマ空間への適性がない人間は死ぬのでリスクが高すぎる』ということなのでプログラムを作動させることは余程のことがない限りしないが、GPSとしては機能している。
「あと偽装工作は……」
「やっているぽん。監視カメラの映像を消したり、進行方向とは逆のカメラとかをハッキングして目的地がキョート大使館と分からないようにしているぽん。でもバレる可能性は覚悟しておくぽん」
ファルは念を押すように告げる。このネオサイタマに来てファルの存在のありがたさが身にしみる。もしファルが居なければアマクダリにもっと早く補足され、数の暴力でやられたかもしれない。
「私はドラゴンナイトさんとは別のルートで大使館に向かう。案内して」
「徒歩、電車、車のどれだぽん?」
「徒歩で」
「了解ぽん。まずあの一際高いビルに行くぽん」
スノーホワイトは駆け出しビルの淵からジャンプして別のビルの屋上に着地、そして別のビルのフェンス上からジャンプする。無事で居てくれ。そう祈りながらネオサイタマの夜を駆けていった。
◆スリートラスト
仕留め損なった!己の未熟さ、状況の変化、様々な要因に対して恨み言を心の中で唱える。あの女ニンジャと戦闘の最中にアマクダリから緊急指令が入った。
――ニンジャスレイヤー、フォーリナーXXXが支配領域内で構成員と戦闘を開始した。アクシスは至急現場に迎え。
ニンジャスレイヤー。アマクダリに敵対し多くのニンジャを殺してきたセクトの脅威だ。
フォーリナーXXX。最近になってアマクダリに敵対姿勢を表したニンジャであり、支配領域内のヤクザクランを壊滅させ、下部衛星組織のニンジャを殺している。その2人が別箇所に現れた。
有事に対応するのがアクシズの仕事だ。方や目下の脅威である2人、方や重要度の低いミッションのターゲットを護衛し、下部衛星組織のニンジャを数人撃退し殺したニンジャ。どちらを優先すべきかは明らかだ。
フリーのニンジャであれば私情を優先できたが、アマクダリアクシスとしては許されない。アマクダリを抜ければ追跡できると一瞬頭に過るが、すぐに打ち消す。足抜けしようとすれば死の制裁が待っている。
「俺はニンジャスレイヤーに、お前はフォーリナーXXXの方へ迎え、あとガキと女のニンジャについて報告しておけ」
「ヨロコンデー」
フレイムタンが別れ際に当然のように命令する。同じアクシスの一員だがネンコが存在し、一番後に入ったスリートラストが雑務をしなければならない。面倒だがニンジャ組織にもネンコは存在する。
移動しながらアマクダリネットに報告をあげる。ドラゴンナイトについて報告をあげて女のニンジャにについて報告しようとするが腕が止まる。
あのニンジャについて全然情報がない。そういえばあのニンジャは名乗らなかった。それに顔もマスクで隠し服装もレインコートを着ていて特徴もない。特徴といえば小さな袋から消火器を取り出すという物理的に有り得ない現象、あれがジツなのかもしれない。
そしてワザマエ。アクシズ二人でも殺しきれなかったカラテ、あれほどのニンジャがセクトの情報網にも挙がっていないのは驚きだ。さらに得意技である突きを3度も躱され防がれた。突きに対しては絶対の自信を持っており、少なからずショックである。
だが真のヒサツワザはまだ出していない。戦う機会があればヒサツワザでその身体を貫き、男のガキのニンジャの首と共にロングウェアハウスの墓前に置いてやる!
ロングウェアハウスは死んだ。生前の思い出を脳内で再生させ感傷に浸りながら集合地点に向かった。
◇ドラゴンナイト
ドラゴンナイトとカワタはサッキョー・ライン鉄道を使ってキョート大使館に向かっていた。
車を失ったこの状態では移動手段は電車での1択だった。電車なら車で移動するのとたいして時間が変わらず、何より人ごみに紛れることができる。これなら追手の目から逃れることが容易だ。スノーホワイトは車移動を選択したが、行動決定権はドラゴンナイトにあり電車移動を選ぶのは自然な流れだった。
改札を抜けホームにたどり着くと丁度電車が止まる。サラリマン達が帰宅する時間なせいか車内はかなり混雑していた。これが噂に聞く帰宅ラッシュか、あまりの混雑でアバラが折れる乗客も居るという。ドラゴンナイトは不安に駆られながら電車に乗り込んだ。そして不安は的中した。
乗客の圧力は今まで感じたことのない強さで体をドラゴンナイト、そして前にいるカワタを容赦なく押し潰そうとする。ドラゴンナイトは身体に力を入れカワタとの間に僅かなスペースを作る。
もし力を抜けばたちまちカワタの怪我した右手を押しつぶすことになる。もうバリキドリンクの鎮痛効果は切れており、脂汗を流しながら痛みに耐えている。この状態で押しつぶされればカワタは地獄を見ることになるだろう。
後ろの乗客が肘で背中を殴打してくる。スペースを作る分他の客の圧迫率は高まり、スペースを作っているのを見たのか抗議の意味を込めて執拗に連打してくる。だが止めるつもりはない。元はと言えば怪我しているのに優先席を譲ってくれと言っても寝たふりをして決して譲らなかったのが悪い。それがなければこんなことせずに済んだのだ。恨むなら優先席に座っていた客を恨んでくれ。
「しかし、スゲエなこの客の数」
「はい、実際多いです。想像以上でした」
「これを体験すると自宅で仕事ができるコミック作家で良かった」
カワタは痛みを紛らわすように軽口を叩く。相槌を打つように笑みを見せながらスノーホワイトについて考える。
スノーホワイトは逃すためにあの場に残った。あのスリートラストはかなりのカラテの持ち主だ。こちらを一切視認しないで放った突きは恐ろしく、思い出すだけで背筋が凍る。全く反応できずスノーホワイトが声をかけなければ喉を貫かれていた。
あのニンジャだけでも危険だというのにもう1人ニンジャも居る。ビルを駆け上がり背後からカワタを奪取しようとした動き、全く感じ取れなかった。それもスノーホワイトが反応して防いだ。あれもかなりのカラテの持ち主だ。その2人に果たして勝てるだろうか、ネガティブなイメージが過るが打ち消す。
きっと勝てる。仮に勝てなくとも逃げ切れるはずだ。それよりスノーホワイトはカワタの護衛を託した。それに応えることを考えろ。万が一ニンジャが襲いかかっても対応できるようにニンジャ第6感を集中させるが一瞬緩む。
アクターとの戦い、ハイウェイでの攻防、それ以外でも相手の襲撃に備えて気を張っていた。ダメージや極度の緊張感が心身を蝕んでいた。しっかりしろ!送り届けるまで気を緩めるな!自身に喝を入れ警戒を続けた。
『次はチノ・ステイション。チノ・ステイションドスエ』
車内に電子マイコアナウンスが流れ、ドラゴンナイトとカワタは下りる準備を始める。
「スミマセン、降ります」
ドラゴンナイトは手刀を切りながら乗客達をかき分けて進んでいく。手刀を切りながら頭を下げて進むのが人込みをかき分けて進むときのマナーだ。これをしなければ誰一人協力せず電車からは降りられない。
手刀を切りながら進んでいくが中々たどり着けない。降車口は乗車した扉とは真逆の位置であり、長い距離を移動する2人はそれだけで迷惑であり、舌打ちをして露骨にどこうとしない客もいる。申し訳なさを感じながらも強引に押しのけ、発車ギリギリというタイミングで降車した。
「大丈夫ですか?」
「実際痛い。痛みで涙を流したのはガキの時以来だ」
カワタは涙を流しながら手を抑えている。降りる時に乗客の体が接触したのだろう。ホームを降りた後は改札を通り地図でキョート大使館までのルートを確認する。徒歩で30分ぐらいの距離だ。これでこの逃走劇は終り、カワタは助かりネオサイタマを離れてコミックを描く。
これでお別れか、折角出会えたのに別れることは寂しいと感傷に浸っているとカワタのIRC通信機から音が鳴る。
「もしもし、兄貴か。今チノ・ステイションでこれから…分かった。駅の通りで待っている」
通話を終えるとドラゴンナイトの方に振り向き告げる。
「兄貴からで、あと5分後に車で迎えに来るだと。それまで通りで待っていよう」
迎えか、これで一安心だ。ドラゴンナイトは何気なく背後を振り向く。その瞬間目が合った。その人物は背後のビルから飛び降りると物理法則を無視した落下速度でこちらに向かってくる。落下地点はドラゴンナイトだ、受ける。避ける。様々な選択肢が浮かぶ。
受けるのは無理だ。この威力ではガードは突き破られる。ならば避ける。だが避けたとしても近くにいるカワタは落下の衝撃の余波で無事では済まない。
ドラゴンナイトはカワタに向かってタックルのように突っ込みその場から全力で離脱する。離脱してからコンマ数秒後、謎の人物が着地する。コンクリートは蜘蛛の巣状にひび割れ衝撃波が背中を押す。バランスが崩れそうになりながら前回りで背中から着地しカワタを保護する。
カワタは苦悶の声をあげる。ニンジャのタックルを受けたのだ、下手したら骨が折れたかもしれない。だが緊急事態だ。許してくれ。謎の人物はファイヤーパターンのニンジャ装束を纏っていた。そしてアイサツした
「ドーモ、ドラゴンナイト=サン、ロケットブースターです」
◆◆◆
「ドーモ、ロケットブースター=サン。ドラゴンナイトです」ドラゴンナイトはアイサツする。「やはりキョート大使館に逃げ込もうとしたか、予想通りだ」「何で分かった?」カワタがロケットブースターに問いかける。素性がバレれば実家の圧力でコミックが描けなくなる可能性を考え、素性は秘匿していた。
ロケットブースターはその問いに邪悪な笑みを浮かびながら答える。「ゴウダ=サンを知っているか?あの老いぼれからインタビューした。今頃タマリバーでラッコの餌になっている頃だ」「貴様!」カワタは激昂し飛び掛かろうとするがドラゴンナイトが止める。ロケットブースターはその様子を嗤いながら眺める。
ロケットブースターはアマクダリのエージェントである。カワタ捕獲ミッションが発令された時点でファントムサマー社に訪れ、ゴウダの存在を調べ上げインタビューした後に殺害したのだ!ナムアミダブツ!「殺してやる!」カワタはドラゴンナイトの腕の中で怪我の痛みを忘れて暴れる。
カワタがキョート出身と知っているのはゴウダだけである。ゴウダはネオサイタマでコミックを描く切っ掛けを作ってくれ、色々と世話を焼いてくれた恩人だ。その恩人は自分のせいで殺された。彼が何故殺されなければならない!ブッダは何を見ている!
「カワタ=サンは大使館に行ってください」「ダメだ!あいつは俺が殺す!」「早く行って!ここで死んでもゴウダ=サンは喜ばない!」ドラゴンナイトは声を張り上げる。ゴウダ=サンは喜ばない。カワタのニューロンでその言葉が何度もリフレインする。「分かった」カワタは意を決し走り始める。
「イデオットめ!見過ごすわけがないだろう。イヤーッ!」ロケットブースターは跳躍。何たる高さ!その跳躍はニンジャ脚力の三倍より高い!さらに空中にある地面を蹴るような動作を見せる。するとロケットブースターはロケットめいてカワタに向かって行く!
何たる重力と物理法則を無視した動きか!これはバクハツ・ジツ。足の裏を爆発させることで非凡な跳躍が可能になり、空中で使用すれば方向転換し飛ぶように移動することが可能である!「イヤーッ!」カワタの元に向かうロケットブースターの前にドラゴンナイトが現れチョップを繰り出す!チョップをガードするが推進力は失われ落下する。
ドラゴンナイトの姿はリュウジンに変化していた。さらに背中には翼が生えていた。ドラゴンナイトは即座にリュウジン・ジツを使用し跳躍、さらに羽を羽ばたかせ推進力を加える。そして羽を使ってその場に浮遊し迎撃した。何たるエアロカラテか!
ドラゴンナイトとロケットブースターは対峙する。ドラゴンナイトの体にはカラテとキリングオーラが漲っていた。「アイエエエ!ニンジャナンデ!」この光景を見てしまったモータルはNRSで気絶!「イヤーッ!」「イヤーッ!」2人はモータルに構わずその場でイクサを開始した。
◆◆◆
早く!早く来い!カワタは片足を貧乏揺すりさせながら時計を見る。まだ1分しか経っていない。まだ1分だと!?5分は経っているだろう!?時計がぶっ壊れているんじゃないのか。すると視界に青いナンバープレートをつけた黒い車両が見えた。あれは大使館の車だ。カワタは狂ったように手を振り、車は目の前に停車した。
「大丈夫……」「早く出せ!」横柄な態度に文句を言おうとするがその威圧的なアトモスフィアに押され車を急発進する。「信号なんて無視しろ!ASAPで大使館に向かってくれ!」「落ち着け、何が有った?」「ニンジャの友人が追手のニンジャと戦っている!他にも追手が来ているかもしれない!」
ケイジはカワタのシリアスな態度とニンジャと言う単語を聞いて目の色を変える。目の前の信号はイエローシグナルだったが、躊躇なくアクセルを踏んで通過する。運転セオリーではイエローシグナルでは停車しなければならないが完全に無視した。「兄貴、大使館についたら、ニンジャを連れてドラゴンナイト=サンの救出に向かってくれ!」
「ニンジャ?居るわけないだろう。というよりニンジャの存在を信じてない。ニンジャにお前が襲われているといったら自我科への通院を勧められた」「何で居ないんだよ!大使館ならニンジャの1人や2人雇っておけよ!」「落ち着け!」ケイジはカワタに強引にザゼンドリンクを飲ませた。
「ニンジャどころかケビーシすら呼べない。キョート出身ではない人間のために動けない。お前を迎えに来られたのも特例だ。全く来て正解だ」「クソ!」カワタはシートを力一杯殴る。亡命してもドラゴンナイトやスノーホワイトが死んだら夢見が悪すぎる。カワタは手を組みブッダに二人の無事を祈った。
◆◆◆
「グワーッ!」KRASHH!!ドラゴンナイトは吹き飛びながらラーメンショップ『クリアウォーター』にエントリーする。突き破った扉からロケットブースターはツカツカと悠然とエントリーする。「アイエエエ!ニンジャナンデ!」客達はNRSに陥り失禁!
「イヤーッ!」ロケットブースターはバクハツ・ジツで一気に駆け寄り膝を叩き込む。シンクウ・トビヒザゲリだ!ドラゴンナイトはクロスガードでブロック。だがその威力はガードしてもなお衝撃で鼻から出血させた。「イヤーッ!」ドラゴンナイトの右フック!ロケットブースターの体がノーモーションで後ろにスライド!パンチが空を切る!
「イヤーッ!」ロケットブースターのジツを利用したミドルキック!威力とスピードは通常の2倍だ!「グワーッ!」蹴りが脇腹に突き刺さり、テーブル席に座っていたモータルを巻き込んで吹き飛ぶ。ドラゴンナイトは歯を食いしばり立ち上がる。リュウジン・ジツでニンジャ耐久力が上がってもなお甚大なダメージを与えていた!
「どうしたコミック作家がどうなったか心配か?安心しろ。お前をサンズリバーに送り込んだ後にすぐに後を追ってくる」ロケットブースターは挑発しながら冷静にドラゴンナイトのダメージを観察している。
ドラゴンナイトは一向にペースを掴めずにいた。原因はロケットブースターのバクハツ・ジツによるものだった。バクハツ・ジツを使った左右前後のスライド、体を動かさずバクハツ・ジツの推進力のみの移動し、その予備動作が読めず攻撃は回避され容易に間合いを外され潰される。
間合いの掌握はニンジャのイクサにおいて極めて重要な要素であり、間合いを支配されたドラゴンナイトは圧倒的不利である。なんたる己のジツを理解し最大限利用した高機動カラテか!ドラゴンナイトはニューロンをフル稼働して打開策を考える。カラテは相手のほうがワザマエ、ならばどうする?するとスノーホワイトとの会話を思い出す。
(((逃げる?嫌だよそんなこと)))(((違うよ。逃げるんじゃなくて撤退、一旦その場から離れて自分が有利な状況や場所に移動する。自分の長所を最大限に生かせる場所に移動すれば、強い相手にも勝てる。もしピンチに陥ったら思い出して)))
「イヤーッ!」ドラゴンナイトはバク転からバックフリップで後方の窓を突き破りながら店外へエスケープする。ロケットブースターもすぐさま後を追う。ドラゴンナイトは看板とビルの壁を足場にして駆け上がり雑居ビルの屋上に着地し、全力スプリントで屋上の淵から跳躍した。
ナムサン!何たる自殺行為!飛んだ先には看板やビルが無い。このままでは遥か下の地面に着地しなければならない。着地の際に衝撃を受け流すグレーター受け身を習得していないドラゴンナイトでは衝撃に耐えきれず爆発四散する!落下運動を始めたドラゴンナイトの翼がはためかせる。体は下ではなく水平に移動していく。
翼を使えば並のニンジャより跳躍距離を稼げる。「その手は俺に通用しない!」後ろからロケットブースターが迫っている。そのスピードはドラゴンナイトより速い!バクハツ・ジツを使い追ってきていたのだ!ドラゴンナイトの跳躍よりロケットブースターの跳躍力は上だ。ロケットブースターは無防備な脊髄へチョップを叩き込む。
◇ドラゴンナイト
脇腹が痛い。さっきのミドルキックによるものだ。アバラが折れているかもしれない。それだけじゃない。肩が痛い。太腿が痛い。頬が痛い。全身が痛い。ニンジャアドレナリンが出ていてこの痛さだ。アドレナリンの分泌が治まったらもっと痛いんだろうな。
何でこんな痛い思いして戦っているんだろう?脳内で自問自答が浮かぶがすぐに答えが出る。あいつがカワタを殺そうとし、ゴウダを殺したからだ!
ゴウダについてはカワタから話を聞いている。世話になった恩人を無慈悲にゴミのように殺した。カワタが苦難の末描き上げたセブンニンジャ。自身の信念が籠り、描く事を生涯のライフワークにすると言った作品。それをどんな理由かは知らないが奪おうとしている。
知人の仇を取り、知人の命と夢を守る。それだけで充分に戦う理由になる。でもそれだけではない。
カワタ=センセイはゴウダ=サンから『こんなファックな世の中でも少しだけ生きてやるかと思えるようなコミックを作ってくれ』と言われたそうだ。セブンニンジャがそれだ。迫力ある絵、登場人物の信念や生き様、それらが心を奮い立たせ胸躍らせる。
父親は会社では不正をするし、母親は自分の気持ちを理解せず、自身の体裁の為に口を出してくる。正直ファックだ。嫌気がさす事も有る。世の中は醜く汚い。センター受験を合格して大学を卒業して、醜く汚い世の中に溶け込みいずれ醜く汚くなるのか、そんなことを考えると嫌気が差すし気も滅入る。それでも希望を持って生きている。それはスノーホワイトとの日々が楽しいのも有るがセブンニンジャが読みたいからだ。
今戦っているのはエゴだ!セブンニンジャの続きが読みたいからカワタを助ける!セブンニンジャが読みたいからロケットブースターを倒し、カワタの後を追う。
ドラゴンナイトは反転しロケットブースターを見据える。翼を使って数秒ほど空中に留まって迎撃する。ビルに上がり跳んだのは逃げる為ではない。身動きが取れない空中で迎撃するためだ。
その場で体を捻り回転する。繰り出すのは最もリーチがある尻尾の一撃。今まで相手に見せていなかった。相手は初めての一撃で対応できない。
「イヤーッ!」
カラテシャウトを発しながら尻尾を振るう。だが尻尾から感触は何一つ伝わっていなかった。空振りだ。相手を見ると目測より後ろに下がっていた。ロケットブースターは攻撃を察知しバクハツ・ジツで後ろにスライドしていたのだ。
「そう来ると思ったわ!イヤーッ!」
ロケットブースターは再加速して間合いを詰める。狙うは無防備な脊髄への一撃、拳に力を込めて打ち込む。ドラゴンナイトはその瞬間さらに体を捻り、翼をプロペラのように体に水平にして回転した。
「グワーッ!」
ロケットブースターの目は切り裂かれる。切り裂いたのはドラゴンナイトの翼の被膜の下部だった。
ドラゴンナイトに宿りしソウルであるタツ・ニンジャ。かつては翼をエアロカラテの飛翔のためではなく、武器として使用できるように肉体を作り替えた。プロペラのように水平にすることで全方位へ斬撃を繰り出すことが可能だった。被膜がここまで硬く鋭利な物とは知らなかった。尻尾の攻撃が避けられた瞬間に体を回転させ翼を動かしていた。結果ダメージを与えることに成功した。
ロケットブースターは目を切り裂かれ頭から落下していく。すぐに翼を元に戻し羽ばたかせロケットブースターの両腕を足で抱え込むように締め付ける。この態勢はジュージツの禁じ手の一つ、パイルドライバーである。
2人の体は重力落下で落ちていく。ロケットブースターは数秒後の未来を予測したのか懸命に振り解こうとする。ドラゴンナイトも態勢を維持しようと全力で足に力を込めて締め付けた。
「サヨナラ!」
ロケットブースターの頭はコンクリートに突き刺さり爆発四散。ドラゴンナイトは尻尾をバネのようにして落下衝撃に耐える。爆発四散による爆風と落下の衝撃を吸収しきれなかったことで体は宙に放り投げられ受け身も取れずコンクリートに背中を強かに打ち付ける。息ができない。それでも強引に呼吸を繰り返すと肺に空気が入った。肺に入った空気を吐く。その動作を何度も繰り返す
落下から数十秒後、ドラゴンナイトはゆっくりと体を起こした。カワタを追わなければ、ふらつく足に活を入れながらゆっくりと歩き始めた。