ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター 作:ヘッズ
これからは週一を目途に投稿したいと思います
「激しく前後に動く!ほとんど違法行為!」リビングにあるTVにはネコネコカワイイのライブ映像が流れている。その前には一人の少女が陣取りノートに何かを書き込みながら食い入るように映像を見つめている。少女の名前はナナコ、有力ネオサイタマ県議員のヨミザワ・オオマルの孫娘である。
その表情は険しく死んだマグロめいた目をしていた。「続きは有料コンテンツドスエ」画面にノイズが走る。ギャバーン!ナナコはリモコン操作で即座に課金、ノイズが晴れネコネコカワイイの姿が映し出される。「ワタシ達も人間だったら飲みたいです。ヨロシサンのバリキドリンク!これを飲んで放送を見てね!」
「シールを集めてライブチケットを応募しよう。子供達も大丈夫。バリキドリンクキッズを飲んで応募してね」曲の合間にネコチャンとカワイイコがヨロシサンの商品を紹介し、後ろの液晶では購買欲を過剰に煽る映像が流れていた。ナナコの様子を母親のナツキは心配そうに見つめている。
ネオサイタマのTVプログラムは過剰消費プロパカンダに汚染されており、幼いナナコには見せたくはなかった。だがオオマルの息子で秘書を務めている夫のチュウマルは家に居られずナナコに構ってやれないからと金銭を多く与え、ナナコは躊躇なく投入し有料コンテンツを視聴する。
このままでは教育に悪いのではないか?しかしナナコはネコネコカワイイがアピールする商品は何一つ購入しない。すでにプロパカンダに惑わされない知能を養ったのか?ナツキは娘のことを測りかねていた。
ナナコは時計を見ると即座にネコネコカワイイの番組からチャンネルを変える。「ニンポ少女スミレ!」画面からアニメーションが流れる。ナナコの目は死んだマグロめいた目から一転し目を見開き、バリキ中毒者めいて目を輝かせた。本当に楽しそうだ、ナツキはナナコの様子を見て笑みをこぼす。番組は前半パートが終了しCM時間に入る。
「これでワタシ達同じニンポ少女!ヒマワリクナイ!」ギャバーン!購入!「ニンポ少女変身セット!」ギャバーン!購入!「ニンポキャンディー!」ギャバーン!購入!ナナコはパプロフの犬めいてCMが流れる度に商品を購入していく。ネコネコカワイイの時は全く買わなかったが今では見事に過剰消費プロパカンダに踊らされていた。
「ニンポスリケンセット」「残高が不足しているドスエ」リモコンから電子マイコの声が流れる。ナナコは振り返り雨に打たれた捨てられた子ネコめいた視線をナツキに送る。日々のお小遣いは決められている。同年代の子供より多く与えているのにこれ以上の消費は許さない。ナツキは首を横に振り、ナナコは肩を落としTVに顔を戻した。
「おかあさん。スリケンセット買って」番組が終わり2人で食事を摂っているなか、ナナコが切り出す。「ダメです。おこづかいで何とかするっておじいちゃんとお父さんと約束したでしょ」「でも…」「でもじゃない。それにネコネコカワイイの有料コンテンツに課金しなければいいでしょう。それなら買える」
ナツキは優しい口調で諭す。だがナナコはブツブツと独り言を言い不満そうな態度を見せた。「何?言いたいことが有るならはっきり言って」「ママには分からないもん!ごちそうさまでした!」パンと大きな音を鳴らして手を合わせると、食器を持って洗面台に置くと勢いよく2階へ駆けていった。
それが出来れば苦労しない。ナナコが所属するクラスでは複雑なパワーバランスが生じている。政治家の娘という環境と才能によって、パワーバランスに左右されず快適に学校生活を送るために必要なものを察知していた。それはネコネコカワイイの知識だ。知識を得て権力者と話を合わせられればムラハチにあう心配はない。
でなければニンポ少女シリーズのグッズを買う金を減らしてまで課金コンテンツに金を払わない。ネコネコカワイイには全く興味がない。だが勉強だと思えば知識だけは頭に入る。幸いナナコは記憶力が良く勉強もそこまで苦では無かった。
ナナコは階段からリビングを覗き込みナツキが来ないのを確認し、部屋からノートを取り音をたてないようにすり足で移動する。これはニンポ少女シノビのキャラクター、シノビツキミソウが使っていたニンポ、サイレントウォークだ。これで誰も存在に気づかない。ナナコはシノビツキミソウになりきり、移動していく。
向かう先は父親の部屋だ。ドアノブに手をかけバイオ水牛めいた動作で扉を開ける。父親からは部屋には入るなと言われていた。言いつけを破って入室している、罪悪感が心臓の鼓動を加速させる。引き続きナナコはサイレントウォークで移動する。
足元に視線を向け床に置かれている「はいと言わせるネゴシエーション」「バカをダンスさせるマナー」と書かれた本に触らないようにしながら移動する。「シノビツキミソウにはトラップが分かるのだ」本の位置で侵入者を感知する。先週の話でシノビヒマワリがウカツにも本に触れて位置が変わったことで侵入がバレて叱られたシーンがあった。同じ失敗はしない。
細心の注意を払いながらUNIXがあるデスクに辿り着き椅子に座り電源を押す。ギャバーン!起動音が鳴り画面にはパスワードを入力してくださいと表示される。「1111っと」ナナコは人差し指でボタンを入力するとディスプレイにはオコシヤスという文字が表示される。
何たる単純なパスワード!これではセキュリティはショウジ戸同然である!故に幼いナナコでも簡単にアクセスできてしまった。チュウマルはハック&スラッシュ等の家に侵入に対するセキュリティは堅牢なものにしていた。だが中からの侵入については全く考慮していなかった。
故に毒矢トラップや電撃トラップなどを全く設置していなかった。一般的な政治家のUNIXならナナコは既に3回死んでいるだろう。「えっと、これがマで」ナナコはIRCを立ち上げて左右の人差し指でキーボードを見ながらゆっくりと文字を打ち込む。数分後やっと文字を打ち込みニンポサバトという文字をクリックする。
「今週のニンポ少女ヒマワリについて」「シノビちゃんカワイイヤッター!」「ツキミソウの左手のマークの意味」画面上には様々文字が表示される。ナナコは数秒眺めた後今週のニンポ少女ヒマワリについてという文字にカーソルを合わせてクリックする。すると大量のチャットログが表示される。
ここはニンポ少女について語るIRC掲示板である。ナナコは両親からIRCネットワークは危険なので使用するなと注意されていた。だが学校生活ではニンポ少女について語る場はなく、我慢できなくなりIRC上に語る場所を求めて、ニンポ少女を語るチャット、ニンポサバトに辿り着いた。
ナナコは過去ログを読み終わると進行しているチャットを眺める。ナナコのタイピング能力ではチャットに参加できない。だがニンポ少女ファンが楽しそうに話しているのを眺めているだけで満足だった。1時間程チャットを眺めると別のチャットに移動する。「ニンポ少女シロコ」このチャットを見るのが今日の主目的だ。
ナナコも幼いながらニンポ少女は現実に存在しないのではと思い始めていた。その時にシロコについて知った。シロコはIRC上でついた名前で本名ではない。可憐な少女が落とし物を探してくれたり、迷子を捜してくれたという目撃情報がまるでニンポ少女だと話題になっていた。一連の行動はナナコが知っているニンポ少女だった。
本当に居るなら会ってみたい。その気持ちが抑えられず親に叱られる恐怖とお小遣いの減額されるリスクを顧みずニンポサバトにアクセスしている。「センタ試験用の勉強を教えてくれた」「友達が逃げ出した飼い猫を探してくれたって言っていた」「お金を貸してくれた」ナナコは情報をノートに一つ一つ書き込んでいく。
ここに書かれている情報は虚実が混ざっている。ナナコにそれらを判別することは難しく、目撃地など情報を全て記録していた。「シロコが前後交際を申し込んできました」ナナコは書き込みを凝視する。前後交際、どういう意味だ。後で母に聞いてみよう。文字をノートに書こうとしたがそのログはいつの間に消えていた。
不思議な出来事に首を傾げるが、すぐに忘れチャットを読んでいく。「シロコと連絡先を交換しました。ここをクリックすれば特別に教えます」本当か!?ナナコは驚きで眼を見開く。「気になる人は下のアドレスをクリックしてください」マウスを動かしアドレスにカーソルを合わせる。ナムサン!これはワンクリック詐欺だ!
クリックした瞬間IPアドレスを逆探知されハック&スラッシュチームを送り込まれる。架空の請求を送り平常心を失わせ口座に振り込ませるなど様々な方法で金を搾取する。最近新興ヤクザクランで流行っているシノギである。「これはワンクリック詐欺、注意、押しちゃダメ」ナナコは思わず手を止める。
よく分からないがアブナイようだ。押さないでおこう。注意喚起してくれた書き込み主の名前を見る。ブラウン・チャイルド。名前の意味は分からないがこの人には感謝しなければならない。その後も目撃情報や考察をノートに書き込む。暫くすると目が痛くなった。頃合いだろう。UNIXの電源を落とし、細心の注意を払って部屋を出た。
ナナコは自分の部屋に戻りベッドに仰向けになりながらノートを開く、チャットの情報と自身の推理によってシロコに会う方法を思いついた。あとは実践するだけだ。ニンポ少女シロコの姿を想像しながら眠りについた。
◆◆◆
「ラララ~ララ~ララ~楽しい買い物、楽しい思い出、ヤマカワデパートが提供します」ショッピングモール内では陽気なポップスが流れ、天井には青空と疑似的な太陽光が照らし、室内でも晴天の屋外を歩いているように演出する。客達も陽気なアトモスフィアに影響されたような笑顔を作り談笑しながら歩く。
ここはヤマカワデパート、カチグミ専用ショッピングモールだ、入場者は一定の地位と収入を持つカチグミのみであり、それ以外は入場ゲートで弾かれてしまう。さらにガードマン達は強力な武器を持っており、怪しい者は無条件に攻撃可能であり誤認でも罪に問われることがない。
ナナコはフリルがついた特注品を着て一人悠然と歩く。そう一人である。ネオサイタマにおいて誘拐事件はチャメシインシデントであり、いくらカチグミ専用のショッピングモールでも幼い少女を一人で歩かせるのは危機感の欠如と言える。だが周りには客に紛れ込み油断ならないアトモスフィアを醸し出す男女が数名居る。ヨミザワ・オオマルのSPである。
ナナコは独自のプロファイリングでシロコに会うためにヤマカワデパートに行こうとした。だがその日両親は用事があり出かけられなかった。次の日曜に出かけようと諭すが断固拒否した。その日を逃せば次に会える可能性は一か月後だ、我慢できない。ナナコは祖父に泣きついた。
祖父はナナコを溺愛しておりお願いを承諾し、自身のSPでもカラテ10段以上の猛者をナナコの護衛に当たらせた。ナナコは周りを見渡し息を吸い込む「エ~ン、エ~ン、大事な財布を無くしちゃったよ~困ったよ~」その涙声と声量に買い物客達も一斉に目を向ける。だがすぐに視線を移し自身の買い物に集中する。
何たる無関心!これが大都会のカチグミの冷たさか!「どうしたの?財布無くしちゃったの?」ガードマンが膝を突きナナコに問いかける。SP達はすぐに対応できるように物陰から携帯用銃器を構えいつでも打てるように構える。「なんでもないです」ガードマンの問いに能面めいた無表情を作り足早に立ち去る。
シロコは困っている人を助けてくれる。ならば会うために自ら困った人になればいいと結論付けた。だがチャットではナナコのようにシロコに会おうと困ったふりをした人が居た。だがシロコに会うことができなかった。フェイクではダメだ、本当に困らなければ。SP達に財布を隠させ時間が過ぎれば財布を処分するように頼んだ。
中にはエピック級のニンポ少女グッズが入っている。失うのは非常に困るがシロコに会うためなら必要な犠牲と覚悟だ。万全の体制で臨んだが来たのはガードマンだった。来て欲しいのはシロコだ、ガードマンではない。
「エ~ン、エ~ン、大事な財布を無くしちゃったよ~困ったよ~」ナナコは場所を移しデパートの各地で行った。だが来たのはシロコではなくガードマンだった。それを繰り返していくうちに時間は消費していきナナコの表情は次第に病人めいて青ざめていく。「ウッ…」腹部に痛みが走り、そそくさとトイレに向かう。SPも付いて行く。
個室に駆け込むと大きく息を吐く。どうしよう、このままではタイムリミットが来てしまい財布が処分されてしまう。「お嬢様大丈夫ですか」扉の向こうからSPが声をかけてきた。よし約束は無効にしてもらう。やはりエピック級のグッズを失いたくない。「ねえ、やっぱり財布…」「イヤーッ!」「グワーッ!」突然のカラテシャウト!
BLAM!BLAM!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」銃撃音にカラテシャウト!何が起こっているかは分からなかったが只なる事が起こっているのは本能的に理解できた。ナナコは恐怖を感じ、耳塞ぎ目を閉じ出口に背を向けしゃがみ込んだ。早く!早くどっか行ってくれ!ネンブツチャントめいて祈り続けた。
無我夢中で祈り続けると背後から人の気配を感じた。反射的に振り向くとそこにはマスクで顔を隠し服と顔に返り血を浴びた女性が立っていた。「ドーモ、ヨミザワ・ナナコ=サン。アブダクトです。拉致しに来ました」「アイエエエ!ニンジャナンデ!?」ナナコは目の前の女性がニンジャだと本能的に理解しNRSを起こす。
アブダクトは即座に手で口を押えた。「少女をイジメる趣味はない、だが騒げばそれも辞さない。イイネ?」ナナコは首を縦に振った。「イイ子だ」アブダクトはナナコを右手で抱きかかえると床に手を翳す。すると床がテンポラリーな回転ドアになり下の階に降りていく。
「人ナンデ!?」「イヤーッ!」「アバーッ!」アブダクトは下で用を足していた女性をストンピング!不運にも個室にいた女性は即死!そのままジツで床を変化させ2階に降りていく。
「人ナンデ!?」「イヤーッ!」「アバーッ!」アブダクトは下で用を足していた女性をストンピング!不運にも個室にいた女性は即死!そのままジツで床を変化させ1階のトイレに降りていく。
「人ナンデ!?」「イヤーッ!」「アバーッ!」アブダクトは下で用を足していた女性をストンピング!不運にも個室にいた女性は即死!そのままジツで床を変化させB1階のトイレに降りていくと個室のドアを開けてトイレを出て地下駐車場に向かって行く。
ナナコはゴア死体を見ても騒がなかった。NRSにより意識が薄れていた。ただ分かる事はアブダクトが悪い人間であり、自分は酷い目にあうという事だ。「……けて」「う~ん、ネンブツチャントか?小さいのによく知っているな」アブダクトは嗤いながら耳を傾ける。「助けて、シロコ」
「シロコ?流行りのカトゥーンヒーロー?今のカトゥーンは詳しくないからわからないな」「ニンポ少女!」ナナコはアブダクトを睨み、声を張り上げる。シロコは困っている人を助けてくれる。今は財布を失う事なんてどうでもいいぐらい困っている。ならばシロコは助けてくれるはずだ。
「クックックッ。ニンポ少女とは懐かしい。ガキの頃見たな」アブダクトは嘲笑う。「シロコは居るもん!助けてくれるもん!」ナナコは顔を赤くしながら反論する。この瞬間はアブダクトへの恐怖よりニンポ少女をバカにされた怒りが勝っていた。「ニンジャは居るがニンポ少女はいないよ。お嬢ちゃん」アブダクトはニヤニヤと嗤いながら頭をポンポンと叩く
「居るもん!シロコに助けられた人は実際多いもん!」「へえ~誰が言っていたの?」「アイアールシーの人!」「クックックッ!」アブダクトは堪えきれないとばかりに大笑いし、笑い声は地下駐車場に反響する。「どうせステルスマーケティングか企業のCMの一環だ。それに得が無いのに人助けをする狂人なんてネオサイタマにはいないよ」
ナナコは言葉の意味を考える。母親の手伝いをするにしても常に見返りを求めていた。見返りを求めず人の手伝いをしたことはない。つまり無償で人助けをするシロコは居ない?「居るもん!居るもん!居るもん!」ナナコは自身の邪念を振り払うように泣き叫ぶ。アブダクトは泣き叫ぶ様子を楽し気に見つめる。
子供の夢や甘っちょろい考えをぶち壊すのは楽しい。ティーンエイジの夢を壊すのも良いが、幼いキッズの夢を壊すのはまた楽しい。「居るもん!居るもん!」「じゃあ何でシロコ=サンは来ないのかな?ナナコ=サンはこれからひどい目にあうのに!」「来るもん!助けてくれるもん!」アブダクトはさらに煽り感情を逆撫でさせ嗜虐心を満たす。
「居るもん!居るもん!居るもん!」ナナコは狂ったレコーダーめいて泣き叫ぶ。アブダクトの笑顔が次第に渋っていく。いくらトロが美味くても、そればかり食べすぎれば飽きるし腹が満たされて食べたくなくなる。ナナコの声は最早不快なノイズだった。喉でも潰すか、アブダクトはムシを見るような目で見ながら左手でチョップの形を作る。
「グワーッ!」アブダクトの肩に激痛が走る!思わずナナコを手放しブザマにトラックに挽かれたカエルめいて地面に寝そべる!ナナコは宙に放り投げられるがアンブッシュ者がキャッチする。「私がいいって言うまで耳を塞いで目をつぶっていてね」ナナコは涙で歪んだ視界で自身を抱きかかえる者を見つめる。ピンク髪で白い服を着た少女だ。「もしかしてシロコ?」その問いに少女は答えず笑顔を向け、ナナコをそっと地面に置いた。
ナナコは言いつけを守り、目を閉じる。「ドーモ、アブダクトです。どこの…グワーッ!アイサツしないなんてグワーッ!グワーッ!」耳にはアブダクトの叫び声が聞こえてくる。だが次第に声が小さくなっていく。「もう目を開けていいよ」抱きかかえられる感覚と同時にマリアめいた声が聞こえてくる。
目を開けると先程の少女の背中が見えた。少女はナナコを背負いながら非常階段を上がっていた。「ねえシロコでしょ!?ニンポ少女のシロコでしょ!?」ナナコは先程の恐怖を忘れNERDZめいた歓喜の視線を向ける。少女は困ったような顔を見せた。「ゴメンナサイ。シロコに会いたいからって財布を無くしたってウソついて、バチが当たって、ニ…ニン…」
ナナコは言葉を詰まらす。NRSの影響でアブダクトの存在をニューロンが忘却し始めていた。「違うよ、ナナコさんは悪くない。これは悪い夢、家に帰って寝れば忘れちゃうから」少女はナナコの頭を撫でながら答える。「ねえシロコは何で困っている人を助けるの?」ナナコは真剣な瞳で少女の後頭部を見つめる。
アブダクトは得も無く人を助ける人間は居ないと言った。シロコもそうなのだろうか?ニンポ少女はテレビでは困っている人を助けていたが、本当は得が有るから助けていたのか?得が無ければ助けないだろうか?自分を助けたのも政治家の孫だからだろうか?「困っている人を放っておけないからかな」
「本当に?人助けするとご褒美にニンポのセンセイからお菓子貰ったりしてないの?」「貰ってないよ」少女の答えにナナコの顔は晴れやかになっていく。暫く歩くと少女は背負っていたナナコを下ろした。「真っすぐ歩けば、SPさんって分かる?」「うん」「そのSPさんが居るから、疲れたからお家に帰るって言って」「うん」
「ありがとうシロコ!」ナナコは力いっぱい手を振って駆け出して行った。
◇スノーホワイト
「それでどうだった?」
「アマクダリ案件だぽん。何でこうアマクダリに出会っちゃうぽん」
「これは偶然で、意図的にアマクダリのニンジャを狙ったわけじゃないから。それにアマクダリだからって無視するわけにはいかない」
「分かっているぽん。とりあえずデパートの監視カメラをハックしてスノーホワイトの映像を消しておくぽん」
「ありがとう」
スノーホワイトはドラゴンナイトのアジトで座布団の上で正座しながらファルの報告を受ける。相手のニンジャの端末をファルに調べてもらうとアマクダリの構成員の一員で、ナナコは政治家の孫娘で誘拐してアマクダリの傀儡にしようとしたらしい。
フォーリナーX捜索とパトロールを兼ねてヤマカワデパートに訪れていた。カチグミしか入れないのだが、そこは魔法少女の力を使えば侵入するのは容易い。そこでナナコの存在を感知した。
ナナコは財布を無くしたと泣いていたが心の声で『シロコに会えないと困る』と声高に言っていた。
魔法少女として活動していくうちにスノーホワイトはニンポ少女のシロコという架空のキャラクターとして認知され始めていた。調べていると主な活動は道案内してくれた、重い荷物を持ってくれた等ボランティア程度という認識で、ヤクザと戦ったとかニンジャと戦った等のバイオレンスな行為は知られていなかった。
ファルと相談しこれならばシロコからアマクダリに嗅ぎつけられることは無く、ファルも満更でもなかったので特にシロコの存在を消す事はなかった。そしてファルはニンポ少女について語るニンポサバトというサイトを管理人に許可を取らず勝手に管理し始め、名誉を貶めるウソの書き込みは問答無用で削除し始めた。
その結果かシロコの認知度は高まり、その姿を一目見ようと困っているふりをして助けを求める人が現れた。スノーホワイトの魔法の前では考えは筒抜けであり、そういった者達には姿を見せず、幼い少女の夢を壊すのは忍びないと思いながらナナコの前に姿を現さなかった。
時間が経ちこのままでは財布を失うことが分かり、それはさすがに可哀そうなので財布だけは探そうと思った矢先にアブダクトの存在を感知した。すぐにナナコの元に向かったがSPは殺されナナコは攫われた後だった。
相手のジツと心の声で地下駐車場に向かっているのを察知し地下駐車場で迎撃し捕縛した。今頃トイレの客殺害の罪で警察に捕まっているだろう。
スノーホワイトは自身の手を見つめながらナナコの質問を思い出す。
―――何で困っている人を助けるの?
それが理想の魔法少女だから、そう答えようとしたが止めた。その答えでは自らの意志ではなく、誰かの意志でやらされているようにも捉えられる。それはナナコが憧れるニンポ少女ではない気がする。人の為に無償の愛で助けるのがニンポ少女で魔法少女だ。だからそう答えた。
ナナコはいずれニンポ少女が現実にいないと知るだろう。だがそれでも理想のニンポ少女を演じる。信じる者に夢を見させる。それはニンポ少女も魔法少女も変わらない。
魔法少女のお仕事 終り