ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター 作:ヘッズ
第十一話 バース・オブ・ア・ニューエクステンス・バイ・マジカルヨクバリケイカク#4の後書きに芽田利香のイメージイラストを追加しました
ハナサキ・ハイスクールのベースボールクラブが所有するマイクロバス内、そこは異様なアトモスフィアに包まれていた。ネンブツチャントを唱える者、必要以上にグローブを磨く者、血走った目で携帯端末から流れる映像を見つめる者、泣き出している者、皆が平常心とは程遠い。あと6時間後には人生が決まる。
全国ハイスクールベースボールカップ、通称ニカワトーナメント。この大会に出場するステータスとメリットは計り知れない。進路においても進学すれば名門大学への無条件入学に学費の免除、就職ならメガコーポへの入社からエリートコースが約束される。プロ野球に入るにしても出場者は厚遇され、非出場者はムシめいて扱われる。
だが負ければメリットを得られない。それどころか野球に全てを突きこんできた彼らには社会で生きるスキルは一切ない。結果、マケグミとして生きるか野垂れ死ぬか、犯罪者になって捕まり刑務所で人生を過ごすかの3択。それがニカワに出られなかった野球ジョックの末路だ。
生徒達だけではなくコーチのアメガクレも平常心ではない。学校運営においてニカワ出場は圧倒的な宣伝効果がもたらされる。アメガクレは就任から3年以内でニカワ出場を公約し、賄賂やハニートラップやヤクザクランを使った脅しなど、キャンディー&ウィップで有望選手を獲得してきた。
そして今日を逃せばチャンスはない。負ければ使った経費は全額請求される。そうなれば返済の為に臓器を売るか、カニコウセンでの過酷な労働が待っている。どっちみち今後の人生は暗黒だ。何が何でも勝たなければならない。
ニカワトーナメント設立者のマサオカは野球を通して生徒たちの健全な成長を願いトーナメントを作った。だが今はどうだ!ニカワトーナメントは大人たちのオナーとマネーを得るための道具と化して薄汚れてしまった!オヒガンのマサオカがこの現状を見れば嘆き悲しみセプクしているだろう!
「おい!サワムラ=コウハイ!昨日何処に行っていた!」サワムラの隣に座っている3年のゼンコウインが血走った目で話しかける。「ジンジャです」「ジンジャだと!何勝手に出歩いている!メディアに取り上げられているからと調子に乗っているな!試合に勝てたのは俺達センパイ達!4番の俺のおかげだ!ソンケイを忘れるな」「はい。ソンケイしてます」
サワムラは作り笑いを浮かべた後ゼンコウインに見えないように顔を顰める。確かにピッチャーが抑えても点を取らなければ勝てない。だがセンパイのミスもカバーしている。1年がレギュラーになるのは奥ゆかしくなくセンパイ達も気に入らないのは分かるが見苦しい。嫉妬、ネンコ。ここでの野球は不純物が混じりすぎている。
カワベは野球を辞めたが良かったのかもしれない。野球フリークには耐えられないだろう。もっとシンプルに考えられないものだろうか、野球が好き、好きなもので負けたくないから練習する。練習すれば上手くなり勝てる。簡単な話だ。ゴチャゴチャと考えるからメンタルを乱される。バンザイチャントで見送りをする生徒達を見ながらため息をついた。
◇スノーホワイト
コンクリートがむき出しで碌に内装がされていないビルの一室、床にはロープで捕縛されたスーツを着たサラリマン、ヤクザ、そしてニンジャ。ニンジャには殴打の跡が見られ気絶していた。スノーホワイトは無表情で見下ろす。
発見できたのは全くの偶然だった。1人でパトロールしている最中に何良からぬことを考えている人が居たのでその人や携帯端末やUNIXを調べていたら、毒の効果を試そうと実験を企んでいたことが分かった。毒の受け渡し会合日を調べ取引場所に待ち伏せして関係者全員を捕縛した。中にニンジャが居たのは予想外だったが何とかなった。
「この毒どうするぽん?」
「袋に入れておく」
スノーホワイトは厳重に封がされた小瓶を拾い上げ魔法の袋に入れた。毒物を考え無し捨てれば被害が出るかもしれない。その点魔法の袋に入れておけばとりあえず安全だ。それに何かに使えるかもしれない。ファルに毒について調べてもらってパンデミックを起こすような危険な物でなければ、敵に使えるかもしれない。
「もう間に合わないか」
時計を見ると14時を回っていた。計画では会合は12時予定だったがトラブルが有ったようで今の時間だ。決勝戦は12時開始なのですぐに球場に向かえば途中から見られたかもしれない。だが2時間経てば詳しくは知らないがもう終わっているだろう。この計画さえなければ一緒にドラゴンナイトと一緒に観戦しても良かったが、人命に関わっていたのでこちらを優先した。
壊れた窓から空を見ると太陽が燦燦と輝いていた。今日は珍しく晴れており気温も高い。元の世界では暑いのに頑張るなとクーラーが利いた家で他人事のように思っていたが、知人の先輩が投げていると思うと少しだけ心配になる。
◆◆◆
パパパー、パパパーパーパー。「「「「「オーオー、シマッテコーゼ!シマッテコーゼ!」」」」スタンドからブラスバンドクラブの生徒達の演奏と試合に出られなかった部員の大声援チャントが聞こえる。選手たちは全員ユニフォームを着てマルボウズと呼ばれるトラディショナルなヘアースタイルで応援している。
「シマッテコー……ガハッガハッ…」「声を出さんか!イヤーッ!」「グワーッ!スミマセン!指導アリガトウゴザイマス!」声を落とした選手にセンパイが教育的指導殴打。コウハイは45°のオジギで感謝の意を示す。殴られた。アイツがさっさと抑えれば延々とチャントをしなくても済むのに。コウハイはマウンドの同級生を忌々しく見つめた。
九回の裏ツーアウトフルベース、5-2でカスガ・ハイスクール3点ビハインド、バッターは4番プロ入り候補のチョウジマ、クライマックスに向けて球場のボルテージは最高潮に達する。マウンドのサワムラはロージンと呼ばれる白い粉を塗りたくる。額や頬には大量の汗が浮かんでいた。
初回は絶好調だった。球威や変化球のキレも抜群でミットに寸分たがわず入っていく。だが回を重ねていくごとに球威やキレは落ちていき、コントロールも乱れていく。それは奇妙な感覚だった。投げた手応えは絶好調時の感覚だった。だが球の球威とキレは悪く、コントロールも悪い。
調子が悪かったなら分かる。だが今は絶好調だ、そんな事はありえない。サワムラは奇妙な感覚に苦しみながら懸命に投げて抑える。あと1つアウトを取れば試合終了で勝ちだ。だが疲労は限界だ。本当なら交代を申請するが控えのピッチャーは疲労が溜まっているサワムラ以下の実力である。
「タイム!」ベンチからタイムの指示が送られ、伝令の選手と内野の選手がマウンドに集まる。伝令内容は激励だろうか、そんなものは必要ない。体力は限界だが気力は充分だ。チョウジマを抑えて、試合に勝つ!だがベンチからの指示は予想外のものだった。
「サワムラ=コウハイ、これを使え」サワムラは審判に隠すように渡された物を見て激怒する。ナムサン!紙やすりだ!野球に詳しい読者ならば理解できるだろう!ボールに意図的に傷をつけて変化球のキレと変化量を増幅させる通称エメリーボール!これはヤバイ級の反則で発覚すれば社会的なオナーを失う!
コーチのアメガクレは勝つためにサワムラにエメリーボールを強要したのだ!ナムアミダブツ!ニカワベースボール大会に出る為にはここまでしなければならないのか!アメガクレにはスポーツマンシップの欠片も残っていないのか!?「フザケル……」サワムラは激情のあまり声を出そうとするがセンパイのボディーブローで強制的に黙らされる。
「やれ、サワムラ=コウハイ。俺達の将来が掛かっているんだよ。お前の下らないブルシットなスポーツマンシップとエゴで多くの人生を破壊するつもりか?やれ」「やれよ」「やれ」「やれ」ALAS!チームメイト達はエメリーボールを止めるどころか、サワムラに強要している!スポーツを通して健全な精神が養われるというのはでまかせか!
「やりません」サワムラは決断的に拒否。チームメイト達を睨みつける。「やれ」「やれ」「やれ」「やりません」「やれ」チームメイトとサワムラはお互い意見を曲げない。「ちょっと長すぎないか」すると審判が駆け寄る。タイムの制限時間が迫っていた。「スミマセン」キャプテンが笑顔で応対し元のポジションに戻る。
サワムラのポケットには紙やすりがいつの間にか入っていた。ベンチを見るとアメガクレがオーガめいた表情で睨みつけている。サワムラはポケットに手を入れて抜く。手には何も持っていない。フザケルナ!野球を汚すな!振りかぶって投げる。
1球目インハイストレート。「ファール!」2球目インハイストレート「ボール!」3球目アウトコース変化球「ストライク!」4球目インローストレート「ボール!」5球目アウトコース変化球「…ボール!」チョウジマは際どいコースを見送りカウント3-2。「「「「ウオー!」」」」会場はフリークアウト!
次投げるボールは決めている。ムービングボール、ストレートと同じスピードで不規則にボールが動く、投げられるピッチャーはいるがサワムラほどボールは動かない。テクニックは分からない。自然と投げられるようになっていた。これがサワムラというピッチャーの最大の武器で有り生命線。
サワムラは振りかぶって投げる。ブチブチ、肩と肘から嫌な音がして激痛が走る。だがサワムラは痛みに耐えてボールを投げる。指の引っ掛かり、ボールへの力の伝わり方、完璧なムービングボールだ。ボールはミットに向かって行く、ボールは全く動かない。チョウジマはバットを振りぬく。ボールは放物線を描きスタンドに飛び込む。
パワリオワー!グランドスラムドスエ!電子マイコアナウンスが流れファンファーレが鳴り響く。チョウジマは喜びを爆発させながらベースを回り、ホームベースを踏むとチームメイトから手荒い歓迎を受ける。5-6、ハナサキ・ハイスクールは負けた。
◆カワベ・ソウスケ
最後に投げたボールはムービングボールだ。他の者には分からないだろうが、長年一緒にトレーニングしムービングボールを習得しようと観察した情報とニンジャ観察力があれば判別できる。だが疲労かミスか分からないがボールは動かなかった。まさかの結末だったが当事者ではないせいか、身を悶えるような悔しさではない。サワムラは凄いピッチャーだがまだ1年だ。ここまで活躍できたのは上出来とも言える。
だがサワムラはセプクしたいほど悔しいだろう。しかし悔しさを糧にしてトレーニングを積めば必ず勝てると信じていた。
ソウスケはセンパイが負けた光景を見たくないとスタジアムを去ろうとするが足が止まる。左腕の肘と肩を抑えて苦悶の表情を浮かべている。まさか怪我か?グランドではカスガ・ハイスクールのメンバーが喜び、応援席では歓喜の声を上げ、ハナサキ・ハイスクール側はオツヤめいて静かだ。ソウスケはそれらをシャットアウトし食い入るようにサワムラの様子を見つめる。
グランドでは選手が整列し応援してくれた者たちに感謝のアイサツをしに向かう。サワムラは歯を苦縛りながら歩いていく。だが変だ。チームのメンバーは誰もサワムラを心配し労おうとしない、むしろ憎しみの感情を見せている。
「応援ありがとうございました!」
キャプテンが声は張り上げ頭を下げる。選手を迎えたのは労いの言葉と拍手ではなくブーイングだった。
何で守れないんだよ!あと少しだったのに!コンジョウナシ!ホントバカ!
耳を塞ぎたくなる罵倒だ。あと一歩でニカワに出場できるという期待をちゃぶ台返しされた反動と憎しみは分かるが、あまりにも酷すぎる。そして罵倒はピッチャーであるサワムラに向かう。
ピッチャーは野球の花形であるが、チームが負ければ矢面に立たされることがある。ある意味宿命だ。だが平均得点10点の強力打線を最終的にはホームランで6失点だが9回までは2失点で抑えた。大健闘だ。文句を言うならチャンスを全て潰した4番のゼンコウインとかいうデクノボウだ。
増上慢!天狗野郎!夜のピッチングに勤しんでいたか!?
怒りで血が逆流する。誰だ!誰が言った!ニンジャ聴覚を総動員して犯人を捜す。即座に殴り倒そうと思ったが深呼吸をして強引にクールダウンする。ここで暴力沙汰を起こせばハナサキ・ハイスクールの公式戦出場停止の処置もありうる。ハイスクールベースボール協会は暴力沙汰には厳しい、迷惑が掛かるのはサワムラだ。
数回深呼吸をしたことでギリギリ耐えられる。殴らないが後で二度とそんな野次を吐くなと脅しておこう。そんなことを考えながら息を吸い込み声を張り上げる。
「サワムラ=センパイ!ナイスピッチング!」
思わぬ応援に応援団達は一斉に視線を向ける。少し恥ずかしいが構わず続ける。
「最後まで見事に投げぬきました!下を向かないで胸を張ってください!」
ソウスケの存在に気付いたのが歯を食いしばりながらサムズアップポーズを向ける。ソウスケもサムズアップポーズで応え、足早に球場から出ていく。
負けた直後のピッチャーに慰めの言葉はさほど意味はない。だが褒めてくれる人間も居るということをあの場で伝えておきたかった。サワムラは責任感が強いから暫く抱え込むだろう。1週間か2週間か、それでも立ち直れなかったらスノーホワイトとサワムラと3人で野球に誘ってみよう。案外良い気分転換になるかもしれない。