ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター 作:ヘッズ
◆04:00
「これでいいんだな、アガメムノン」チバは苛立ちを隠さず葉巻を咥える。圧倒的なキリングオーラを纏い、並のサラリマンが居たらその場で失禁していただろう。ネヴァーモアに火をつけさせ煙を吹き会議スペースには紫煙が充満する。「はい、これが正しい判断です」アマメムノンはアルカイックスマイルを見せながら慇懃に礼をする。
「チッ!」チバは顔を顰め舌打ちをする。ニンジャスレイヤー、フォーリナーXXX。この2人がアマクダリに敵対的行動をとるニンジャの代表格である。さらに謎の敵対女ニンジャにアマクダリ傘下のヤクザクランを襲っているニンジャが現れた。どうやらアマクダリを探っているようで、ヤクザクランからインタビューして情報を得ようとしていたようだ。
イデオットめ、何たる短絡的思考。そんなニンジャなどすぐに見つけられると思ったが街の監視映像などが消されていた。高度なハッキング技術だ、そのせいで特定するのに時間が掛かった。だが特定できた。名前はドラゴンナイト、カワベ建設の次男カワベ・ソウスケである。
ニンジャになってヒーロー気取りか。チバは映し出された映像に向け侮蔑の視線を向ける。アマクダリに逆らうものがどうなるか思い知らせる。家族友人は皆殺し、このチンケなコーポは倒産させ関わった者全員追い込み、アマクダリに関わったことを心底後悔させて惨たらしく殺し見せしめにする。その予定だったがアガムノメンが異議を唱えた。
カワベ建設が特許を所有するアロンボンドを使った建築法と従業員の技術は有用であり、皆殺しをするのは得策ではない、ヤクザのメンツとして皆殺しにしたかったがアガメムノンの説明に妥協し、アマクダリ関連の会社の子会社化で手を打つ。チバのヤクザ経営センスがメンツより利益を選んだ。
その後は株主を暴力とハニートラップとマネーで篭絡させ株を譲渡してもらい、嘘の情報で株を暴落させ買い叩き買収する。計画の立案から買収まで僅か1日!何たる電撃的な買収か!末端のメガコーポと云えどここまで短時間で買収するのは不可能である。その為にはメディア、司法、官僚や政治家を抱きかかえなければならない。
それを実行できるのがニンジャ秘密結社アマクダリ・セクトである!「肉親は殺すぞ」「ご自由に、必要なのは特許と技術力です。それさえ手に入れれば問題ありません。では失礼します」アガメムノンは奥ゆかしくオジギし会議スペースから退出した。「フン!またボクに知らせずコソコソと!」チバは葉巻を吸う。
カワベ建設を買収するのはアガメムノンの息がかかった会社だ。その特許と技術力で何かをしようとしている。それを聞きだそうとしたがはぐらかされた。何をするか知らないが今のうちに支配した気になっておけ、最後に笑うのは自分だ。チバは葉巻を灰皿に押し付けると携帯端末を手に取る。
「ボクだ。カワベ・ソウジュウロウと妻と長男を攫え。緊急事態以外では殺すな」
◆◆◆
「ウォーッ!何だこれは!」カワベ・ソウジュウロウはゴルフクラブを手に取り鎧や高級浮世絵などを次々と破壊していく。携帯端末から流れるエマージェンシーコール音で起こされた。カワベ建設が買収させられた。その一報を聞いた時は耳を疑った。何かのジョークか?
だが株チャートを見ると株価は下落され、株の半分を別企業に取得され経営権を奪われた。就寝から2時間での買収、あまりの手際の良さに全く抵抗できなかった。
「俺の会社が!俺の苦労が!」ソウジュウロウは狂ったようにゴルフクラブを振るう。その騒ぎに妻のヨシコと家に泊っていた息子のソウイチロウが駆けつける。
「どうしたの父さん!」「カワベ建設の株の過半数を奪われた」「え?それって?」「そうだ!経営権を失った!」ソウジュウロウの叫び声にヨシコは思わず膝をつき、ソウイチロウはヨシコを支える。買収されたコーポの責任者の末路は悲惨である。自分の会社を守れないマヌケとしてオナーを失い、マケグミに転落する。
「そんなウソよねアナタ!」ヨシコはソウジュウロウの足元に縋りつく。カチグミの娘に生まれ、カチグミの夫と結婚してカチグミとして生きていた。そんなヨシコにマケグミ生活なんて耐えきれるわけがない。ソウジュウロウはヨシコに目を向けず天井を見上げ続ける。「ウウーッ!」ヨシコはその態度で現実であることを認識させられた。
「ソウスケにこのことは伝えたの?」ソウイチロウは尋ねる。ソウジュウロウは目を見開き怒鳴りつける。「あんな家出したカスなど知るか!野球も勝手にやめてナードに堕ちて!実際迷惑だ!あのカスのせいでこうなったんだ!」ソウジュウロウはソウスケに責任転嫁し暴れ始めた。「ウウーッ!」母は咽び泣く!
暴れまわる父と崩れ落ち狂ったように泣く母を他人事のように見ながら、自分の将来と弟のことについて考える。カレッジは退学して肉体労働だろうな、ソウスケは案外ガッツがあるから適応できそうだ。「父さん、母さん、マインドチェンジしよう。失ったものは仕方がない。善後策を…」「イヤーッ!」「グワーッ!」
ソウジュウロウのパンチがソウイチロウに突き刺さる!血迷ったか!?「何が善後策だ!」「グワーッ!」「カワベ建設は俺の全てだ!」「グワーッ!」ソウジュウロウは馬乗りになりパンチを叩き込む。「会社を救う方法を考えろ!」「グワーッ!」「何のために高い金と裏金を払ってカレッジに通わせていると思っている!」「グワーッ!」
ソウイチロウは一方的に殴られる!「そうよ考えなさいソウイチロウ!アナタはソウスケと違うのよ!」ヨシコは夫の暴行を止めるどころか母も殴りつける!何たるマッポ―的な光景か!ソウイチロウは父と母の変わりように涙を流す。ソウスケはこの変わりようを見なくて幸福かもしれない。強く生きろよ。意識が遠のく中弟の幸せを願う。
『オキャクサマドスエ!』突如インターホンが鳴り響く。両親は一瞬手を止めるがすぐさま殴打する!「思いつけ!」「グワーッ!」「思いつきなさい!」「グワーッ!」 「思いつけ!」「グワーッ!」「思いつきなさい!」「グワーッ!」CRAAASH!突如の破壊音!複数の足音が鳴り響く。黒スーツとサングラスをつけた双子めいた4人の男が侵入してきた。
アンダーグランドの住人ならお気づきだろう。これは暗黒メガコーポであるヨロシサン製薬がかつてモータルでありながら護衛のニンジャを殺し、総理大臣を暗殺したレジェンドヤクザであるドゴジマ・ゼイモンの遺伝子を元に作ったクローン人間、クローンヤクザである!
「なんだ!?どうやって入ってきた!?」「「「「ドーモ、ネオサイタマ税務局です!逮捕しに来ました!」」」」ロボットめいた無機質さで宣言する。「ネオサイタマ税務局だと!何の罪状だ!」「「「「それはセンセイが説明します。センセイ、ドーゾ!」」」」すると白いコートの男が悠然と歩きながらエントリーしてきた。
「まず緊急措置として防犯装置は破壊した。こちらでは一切弁償しない。そして罪状は粉飾決算に脱税に…あとは色々だ。妻と息子も関与の疑いがあるから同行してもらう!」「バカな!そんなのやってない!それにお前らには逮捕権は無い!弁護士を呼ぶぞサンシタ!」「ご自由に、でも来るかな?」白コートの男は嗤いながら促す。
「モシモシ、マルイ=サンか?税務局の奴が逮捕しに来た!弁護してくれ!何?弁護できない?バカな!?モシモシ?モシモシ?」ソウジュウロウは忌々しく睨みつける。「来ませんよ。それにネオサイタマ市警から委任状をもらっている勝手に確認しろ」ソウジュウロウは書類を受け取る。そこには確かに市警の重役の名前とハンコが押されていた。
「分かったな。さっさと来い」白コートは黒スーツに指示をして手荒に連れていく。ソウジュウロウの言う通りネオサイタマ税務局に逮捕権はない。では何故逮捕できるのか?白コートの襟もとを注意深く見ていただきたい!天下という文字をあしらったバッチ。これはアマクダリ・セクトの構成員の証である!
そして部下達もアマクダリのバッチをつけている。そして粉飾決済や脱税の罪は捏造である。だが司法と警察を掌握しているアマクダリにとって罪を捏造するなどベイビー・サブミッションである!
罪を重ねて徹底的にオナーを貶める。それがチバの思惑だ。「早く乗って」クローンヤクザは乱暴に3人を車の後部座席に乗せ。2人が運転席と助手席に乗り発進する、2人と白コートはもう一台の車に乗る。「出せ」「ハイ」白コートの指示を出しクローンヤクザはアクセルを踏んだ。
「イヤーッ!」白コートは突如ドアを蹴破り身を乗り出しながらリボルバーを取り出し発砲!BLAM!BLAM!目標は前方の車に落下してくる謎の人物!謎の人物は槍を回し銃弾を弾き、そのまま運転席に槍を突き刺した。「グワーッ!」クローンヤクザの声が響き渡る。そしてすぐさま運転席の窓を突き破り車内に侵入しクローンヤクザを投げ捨てる。
「ザッケンナコラーッ!グワーッ!」悲鳴が響き車は急停止し数秒後に車内から出てきた。「ニンジャ案件かよ」白コートは悪態を突きながら車中のクローンヤクザを呼び込む。「ドーモ、はじめまして、リボルバージャンキーです」リボルバージャンキーが挨拶をした瞬間、謎の人物は目前まで迫っていた。女性だった。
◇スノーホワイト
「ファルはドラゴンナイトさんの家の監視を強化して。私も行く」
「どこにぽん?」
「ドラゴンナイトさんの家」
スノーホワイトはラーメン名人の屋根に上ると電柱や電線を足場にしてパルクール移動を開始する。ここからコガネモチ・ストリートは全力でも10分以上かかる。急がなければ。
フォーリナーXの反応の消失、ドラゴンナイトのヤクザの襲撃、カワベ建設の買収、最近は立て続けに自分にとって良くない事が起こっている。こういう時はとことん悪い方向に物事は向かって行く。そんな予感があった。
気にしすぎだろうか?そう思うが万が一ドラゴンナイトの家族に何かが起こったら顔向けできない。勝手な都合で離れて傷つけた罪悪感と、友人であり岸辺颯太の生き写しである大切な人の家族を失わせて悲しませるわけにはいかないという義務感が向かわせた。
暫くパルクール移動するとコガネモチ・ストリートの検問が見えた。防壁を軽く飛び越え中に侵入し屋根伝いに移動する。
「スノーホワイト、家に黒塗りの車が2台止まったぽん」
「こっちも見えた」
ファルの報告と同時に目視する。夜明け前で余計な明かりが無いせいで闇に包まれているが魔法少女の暗視力は黒塗りの車を捉えた。
まずは様子を見て状況を把握し動く。状況によっては何もしない可能性があるが仕方がないと割り切る。近づいていくうちに魔法の射程距離に入り声が聞こえてくる。
『会社が倒産して困る』
『カチグミから転落して困る』
『痛くて困る』
『こいつ等を攫えないと困る』
『無茶な命令をされたら困る』
『疲れて困る』
ドラゴンナイトの家族は黒塗りの車に来た奴に誘拐されようとしている。相手は5人でそのうち4人はクローンヤクザだ、以前出会ったが声がまるで同じだ。家まで残り100メートルというところでドラゴンナイトの家族たちが家から出て車に乗っていく。このままでは連れていかれる。
スノーホワイトは勢いを殺さずドラゴンナイトの家族が乗っている車の運転席に向かって行く。すると後方の車の後部座席から男が飛び出し躊躇なく発砲した。相手は殺人に躊躇が無い荒事担当のようだ。ルーラで弾を防ぎながら分析する。
そして勢いそのまま屋根から運転席にルーラを突き刺した。クローンヤクザの絶叫が響き渡る。すぐさまルーラを引き抜き、運転席のドアをはぎ取りクローンヤクザを車外に投げ捨てる。
「ザッケンナコラーッ!」
助手席のクローンヤクザが銃を構える。発砲される前に後頭部を掴みダッシュボードに叩きつける。
「ファル、ブレーキどこ?」
「真ん中のペダルぽん!」
ブレーキを思いっきり踏む。すると急ブレーキがかかってしまい、ドラゴンナイトの家族たちは座席に顔から突っ込んでしまう。
「すみません。あとすぐに戻りますので、そこで待っていてください」
ブレーキの件を謝り何者かと尋ねる前に車外に出る。残りは3人。
「ドーモ、はじめまして、リボルバージャンキーです」
白コートが挨拶する。この男はニンジャか、スノーホワイトは躊躇なくリボルバージャンキーに向かって行った。
◆◆◆
「キサマ!アイサツしろ!」リボルバージャンキーは怒りと動揺が綯交ぜになりながらスノーホワイトを罵倒する。アイサツ前の距離は約20メートル、リボルバージャンキーの間合いだった。だがアイサツ無視というニンジャには想定不可能な行動で一気に間合いを詰めた。
「ドスで突っ込め!イヤーッ!」「「ヨロコンデー!」」リボルバージャンキーは指示を出しながら発砲しバックステップ、反動の勢いを利用し通常のバックステップの距離の倍だ!「「グワーッ!」」スノーホワイトは弾丸を弾き、突っ込んできたクローンヤクザの首をルーラで斬る。首からスプリンクラーめいて緑色の血を吹き出す。
「イヤーッ!」リボルバージャンキーは懐から鉄板を投げる。鉄板がスノーホワイトの周りを浮遊する。BLAM!BLAM!BLAM!弾丸は一発以外スノーホワイトに向かわず鉄板に向かって行く!ミスショットか?否、狙い通りである!跳弾させることで乱反射を繰り返し弾丸の軌道を複雑にさせ、同時に動きを封じる檻を作り射殺する。
リコシェショット、ジツと射撃のワザマエを使ったリボルバージャンキーのヒサツワザである!一度ワザが発動すれば加速度的に増え複雑な軌道を描く弾丸の前に無様なダンスを踊り続け最後は死ぬ。「踊り狂えサンシタ!」
「グワーッ!」リボルバージャンキーの腹にルーラが突き刺さる!「バカナーッ!?」苦悶と驚愕の声を上げる!リコシェショット破れたり!リコシェショットは時間が経つごとに弾丸と鉄板が増え、加速度的に弾丸の軌道が複雑になり檻も強固になる。そのヒサツワザに対してスノーホワイトは迷いなくなく踏み込んだ。
間合いを詰められると困ると声が聞こえていた。もし鉄板の動きや弾丸のミスショットにコンマ数秒でも気を向ければ、檻が完成しリコシェショットの餌食になっていただろう。だがスノーホワイトは一切気を向けず檻から脱出した。タツジン!
「この誘拐は貴方の意志ですか、それとも誰かの指示ですか」スノーホワイトはルーラを喉元に突きつけインタビューを始める。「知らない…」「アマクダリですか。アマクダリの誰の指示ですか?」「な…」リボルバージャンキーの顔がバイオサバめいて青くなっていく。
スノーホワイトの魔法であれば相手が知られたくない秘密が困った声として聞こえてくる。この魔法の前では隠し事は不可能である!スゴイ!「ドラゴンナイトというニンジャを…」次の質問をしようとした瞬間ルーラの穂先が左目に突き刺さる!「グワーッ!」そのまま石突で顔面を殴打!リボルバージャンキーはピクリとも動かなくなった。
「何かあったぽん?」「義眼の機械で私の姿をサーバーみたいなのに送っていた」「それはマズいぽん!阻止できたかぽん!?」「声が聞こえた瞬間潰したからたぶん」スノーホワイトは穂先についたサイバネアイを引き抜き踏みつぶした。「これでアマクダリが家族を狙っているのは分かった。逃げないと」
スノーホワイトは魔法の袋から瓶を取り出し、セイジュウロウ達が居る車に向かって行く。「どーも、ユキノ・ユキコです。私は貴方たちの味方です。身柄を保護しに来ました」最上級のアルカイックスマイルを見せる。「何なんだよお前は……」ソウジュウロウは声を震わせながら距離をとり、ヨシコは夫に抱き着き、ソウイチロウも警戒心を露わにする。
スノーホワイトは僅かに表情が渋る。車内に侵入して圧倒的な暴力を見せたのだ、警戒するのは当然か、「すみません。少しだけ手荒なことをさせていただきます」スノーホワイトは左手でソウジュウロウの頬を掴み強制的に口を開けさせ、瓶から取り出した錠剤を入れる。すぐさまヨシコとソウイチロウにも同じようにして錠剤を入れる。
「何を…」3人は言い終わる前に意識を断つ。スノーホワイトが入れたのは魔法の国製の睡眠薬だ。飲んだ瞬間最低3時間は強制的に寝てしまう。「寝させてどうするぽん?」「ファル周辺の映像は消せる?」「大丈夫だぽん。それでどうするぽん?」スノーホワイトは3人の首根っこを掴み魔法の袋に入れ、変身を解いた。
なんたる暴挙!読者のなかに魔法少女について精通している方が居ればこの行為がいかに愚行かおわかりだろう!魔法少女が変身を解けば只のモータルである。もしその状態でニンジャに会えばゼロコンマ数秒でネギトロになるだろう。
ニンジャに会った瞬間変身すればいいと考える方も居るかもしれないが、変身するのにはコンマ数秒かかる。そのコンマ数秒がニンジャにとってどれだけ隙だらけかお分かりだろう!「何しているぽん!変身を解くなんてトチ狂ったぽん!?」ファルは鱗粉をきなこの粉めいてばら撒きながら甲高い声で罵倒する。
スノーホワイトは無表情で説明する。「トチ狂ってないよ。まずスノーホワイトの姿を撮られたと仮定する。そうだとすればスノーホワイトの姿で見つかればアマクダリに襲われる」「まあ、そうだぽん」「でも姫川小雪の姿はアマクダリは知らない、ファルが周辺の監視カメラの映像を消せば見つからない」
「なるほど」ファルは思わず頷く。セオリー無視の行動で動揺したがスノーホワイトの理屈には一理ある。「これでバレずに移動できる」「どこ行くぽん」「ニチョーム」スノーホワイトは車を出て歩き始める。アマクダリが攻めてきた。早く何とかしないと。その歩くスピードはいつもより少し速かった。