ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター   作:ヘッズ

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第十四話 重要な一日#3

◆◆◆07:00

 

訪れた客達は帰り大概の店は営業時間を終え静寂が訪れている。その静寂を破るようにカラスがゲエーゲエーと鳴きながら上空にあるLANケーブルに止まり周りを見定める。「ゲエー」カラスは目標を定めるとゴミ袋に向かって行く。ゴミ袋には残飯が多くありカラスにとっては貴重な栄養源だ。

 

「ゲエー!?」ゴミ袋にあと数センチで嘴が触れるというところで目の前にホウキが突如現れる。ホウキの持ち主は黒髪の少女だ。「ゲエー!」カラスは羽を羽ばたかせ空に舞うと少女の頭部に向かってナパームめいて急降下する。少女はホウキを振るってカラスを叩き落とす。

 

「ゲエー!?」カラスは地面に落ちると敗走兵めいた情けない声をあげながら離脱した。少女、ヤモト・コキはそのカラスを複雑そうな表情を見せながらカラスの後ろ姿を目で追う。心は少し痛むが最近カラスによるゴミ漁りが増えており、もし見かけたら少し痛めつけておけとザクロから言われている。

 

ヤモトは手際よく店先を掃除していく。人が居なくなった朝のニチョームのアトモスフィアは夜とはまた違った雰囲気があって好きだ。いつも通り自分の店の向かいの三軒と両隣の店先も清掃しゴミを片付ける。「どーも」ヤモトの後ろから声をかけられる。後ろを振り向くと意外な人物がいた。

 

「ドーモ、スノーホワイト=サン。どうしたのこんな時間に?」ヤモトは驚き少し緊張しながら尋ねる。こんな朝に来るのもそうだが、アトモスフィアに切迫感がある。「ザクロ=サンはいますか?」「店が終わって寝ている」「起こしてもらえますか、訊きたいことがあります」

 

「わかった。ちょっと待って」就寝している人間を用事で起こすのは一般的に奥ゆかしくない行為だ。スノーホワイトなら知っているだろう、それでもするという事は余ほどの事だ。ヤモトはしめやかに頷くと絵馴染に戻りザクロの寝室に向かう。「ザクロ=サン起きて」「ウ~ン、今何時?」「7時」「7時?あと3時間」ザクロは布団に包まる。

 

「スノーホワイト=サンが来ていて重要な話があるみたい。少しだけ話を聞いてあげて」「スノーホワイト=サン?」「うん、以前アタイと一緒に戦ったニンジャ、覚えている?」ザクロは半覚醒ニューロンを起こし思い出す。確かヤモトと同世代の女ニンジャ。それが何の用だ?

 

「お願い困っているみたい」「分かったわよ。起きるから」ザクロはゆっくりと体を起こす。「ちょっと化粧するから待ってもらって」「でも…」「アータ、客にすっぴんで出させるつもり、そんなの乙女の恥よ」「うん分かった」ヤモトは渋々と納得し出口に向かって行く。ザクロは後を追うように洗面台に向かい化粧を始めた。

 

「ドーゾ」ザクロはカウンターから未成年用のソフトドリンクを対面に座るスノーホワイトに出す。「ありがとうございます」スノーホワイトは頭を下げるがソフトドリンクに口を付けずザクロに視線を向ける。「ネオサイタマから正規の方法以外で出る方法はありますか?」「いきなり本題?しかも穏やかじゃない」

 

ザクロは和ませるように軽い口調で言うがそういうアトモスフィアではないと察し口を噤む。「一応確認するけど真っ当な方法以外でネオサイタマを出れば違法行為、その片棒を担げって言っているのアータ分かっている?」「分かっているつもりです。でも頼れる人がザクロ=サンしか思いつかなくて…」スノーホワイトは懺悔者めいて重苦しく答える。

 

ザクロはこの時初めて繕った感情ではない素の感情を見た気がした。ヤモトはザクロに視線を送り、ザクロは頷く。「それでどこの誰を逃したくて何をしたの?これは答えてもらうわよ」「はい、逃してもらいたい人は友達とその家族で4人です」「名前は?」「カワベ・ソウスケとその家族です。覚えてますか以前来た中学生ぐらいの男の子のニンジャ」

 

「ああ、ドラゴンナイト=サンね。それで何をしたの?」「詳しくは知らないですが無実です。ある組織に狙われているみたいで」スノーホワイトは言葉を濁らせながら答える。「無実ね?それは真実なの?仮に犯罪者を匿えば立場が悪くなる」ザクロは猛禽類めいた鋭い目つきを見せる。

 

スノーホワイトは息をのむ。心の声で分かる、ザクロは任侠心とニチョームというコミュニティが被るリスクで揺れながらも冷静に測り、リスクに傾けば躊躇なく切り捨てる厳しさがある。「無実というのは語弊があったかもしれません。大切な人とその家族です。家族を失って大切な人が悲しむのを見たくありません」

 

スノーホワイトは包み隠さず話す。ドラゴンナイトは家族と不仲だった。でも親を失えば悲しむに決まっている。大切な人が悲しむのは見たくない。「大切な人を悲しませたくない。分かるわ、大切な人の涙は辛いもん」ザクロはスノーホワイトの肩に手を置いてウンウンと頷く。

 

ヤモトも同意するように小さく頷いた。「それである組織ってのは?こう見えても顔が広いのよ」ザクロは胸を張り想の姿を見ながらスノーホワイトは思案する。アマクダリと関わってしまう事で不利益を被るかもしれない。だが隠すのはダメだ。アマクダリが居ないと思い関わったらザクロ達を騙すことになる。フェアではない

 

「アマクダリ、それが狙っている組織です」ポツリと意を決したように呟いた。その瞬間ザクロとヤモトのアトモスフィアが明らかに変わった。「本当に?勘違いじゃなくて?」「はい、これだけは事実です」「ちょっと待って」ザクロはシリアスな表情を浮かべながらカウンターを出て2階に上がり戻ってくる。その手には携帯端末があった。

 

「匿って欲しいって人はドラゴンナイト=サンとカワベ・セイジュウロウとソウイチロウとヨシコの4人?」「はい」「悪いけど、その4人を逃す手伝いはできない」ザクロは俯き加減で告げヤモトも同じように俯いていた。「はい」スノーホワイトは無表情を作り答える。

 

『私たちがアマクダリの構成員と知られたら困る』『4人はアマクダリに指名手配されていると知られたら困る』そういった困った声が聞こえていた。ニチョームはすでにアマクダリの傘下だった。唯一頼れる相手が敵の傘下だった。かなりマズイ状況だが、2人は今のところアマクダリに報告する気がないのが救いだ。

 

「無理言ってすみませんでした。すぐに出ます」ここに居ることがバレたらザクロ達に迷惑がかかる。店を出ようと席を立とうとするとザクロが声をかけた。「フドウ・ストリートのマガメ=サンを尋ねなさい。上手くいけばネオサイタマから逃してくれる。けど相当無理難題をふっかけられるから覚悟して、そしてワタシから聞いたって絶対に言わないで」

 

「ありがとうございます」スノーホワイトは奥ゆかしく頭を下げて店から出て行く。「悔しいねザクロ=サン。スノーホワイト=サンが頼ってきたのにアタイは何もできなかった」ヤモトは力いっぱい拳を握る。先のニチョーム襲撃の1件でニチョームに対する締め付けはさらに強くなった。

 

きっかけもアマクダリに目をつけられたゲイマイコを匿いキョートに逃そうとしたのが始まりだった。締めつけが強い今の状態で同じことをすれば失敗する可能性は極めて高い。ザクロも同じ判断を下した、そんななかで逃亡の手段を提示した。自分は何もスノーホワイトの為にできなかったのに。

 

「それも言うならワタシもよ。あんなのはオマケ」ザクロは肩をすくめ卑下するように呟く。「今は耐えましょう。耐えてアマクダリから自治権を取り戻して、頼ってきた娘達を助けるんだから!」「うん」ヤモトはザクロの言葉に力強く応えた。

 

◇ファル

 

 魔法少女の変身を解いたスノーホワイトはニチョームの通りを歩く。この時間といえど女子高校生が居るのが珍しいのかすれ違う人は好奇の目線を向けるが、スノーホワイトは構わず歩いていた。

 

「望みの綱は辛うじて残ったぽん」

 

 ファルは明るい口調で話しかける。

 頼った先が敵の傘下という最悪な状況だがスノーホワイトはいつも通り表情を崩さなかった。期待していなかったのか、それとも魔法で相手側の事情を察したのか。それとも両方か。

 しかしファルにとってカワベ家を逃すのは関心が薄いことだった。スノーホワイトがやっているから手伝っているが優先すべきことはフォーリナーXを捕まえて元の世界に戻ることだ。ドラゴンナイトの家族を守ることでもなく、アマクダリに敵対することでもない。そこのところを今ひとつ分かっていない気がする。

 

「スノーホワイト、元の世界に帰るのあきらめてないぽん?」

「諦めてないよ」

「じゃあ何でフォーリナーXを探さないで、ドラゴンナイトの家族を生かすためにあれこれしているぽん?」

「無実の人が殺されそうになっているのをほっとく魔法少女でいいの?」

「よくはないぽん」

 

 ファルは思わず言い淀む。はぐらかされたが困っている人を助けないのは魔法少女としては相応しくないし、スノーホワイトにやってほしくない。

 

「それでマガメって人について分かった?」

「片手間で調べているけど、軽く調べた程度ではわからないぽん」

 

 ドラゴンナイト達の両親を見つけた後すぐにドラゴンナイトを捜索するように指示を受けた。だが今のところ居場所を把握できていない。恐らくフードを深く被るなどして対策を施しているようで監視カメラの映像から判別できない。

 そしてマルチタスクでザクロからその名前を聞いた瞬間にコトダマ空間に入って調べてみたが、情報は出てこなかった。これだけでも一筋縄でいかないのが分かる。

 それからスノーホワイトは全く喋らず、フドウ・ストリートに向かった。

 

◆◆◆10:00

 

ブブブーンブーンブーン、どこからか聞こえるファンの起動音が重低音ベースめいてコンクリートの打ちっぱなしの部屋に響いている。スノーホワイトはファルが入っている魔法の端末の画面を見ると数字が高速で羅列されている。すると数字の5が表示されると9、6、3と次々と表示され数字の羅列は止まる。

 

『正解ドスエ』電子マイコの声が流れると目の前の鉄扉からガチャリと音が鳴り、扉が開いた。「ありがとう」「これで最後にして欲しいぽん」ファルはうんざりとしながら答え、スノーホワイトは扉の奥に進んでいく。

 

スノーホワイトはフドウ・ストリートに着くと聞き込みを開始した。明らかに治安が悪い場所でスノーホワイトもヨタモノ達に何回も襲撃されたが魔法少女に変身し穏便に撃退し、マガメについてインタビューした。ヨタモノ達はマガメを知らなかったが知っている可能性のある人物を辿り、居場所を特定した。

 

ストリートの人間は口が固く、IRCネット上に情報が拡散されていないことだけのことはあったが、スノーホワイトの魔法にかかれば人の心などショウジ戸に過ぎなかった。居場所を突き止めて侵入するとそこには数々のトラップが仕掛けられていた。トラバサミ、自動ガトリング、落とし穴、バイオバンブーで作られた槍。

 

並みのハック&スラッシュチームなら5回はネギトロかキリタンポめいた死体になっていただろう。だが魔法少女の身体能力とファルのヤバイ級のハッキング能力を駆使すれば突破するのはベイビー・サブミッションであった。しばらく歩くとそこはタタミに囲まれた部屋があった。ここで行き止まりのようで中央にスピーカーだけが置かれている。

 

「ドーモ、マガメです。ここまで来られたということは中々のハック&スラッシュのワザマエだ」スピーカーから機械的な声が流れる。スノーホワイトは辺りを見渡し魔法を使うが周辺に人の気配は感じられなかった。「どーも、雪野雪子です。本日はマガメさんにお願いがあって来ました」スノーホワイトは丁寧に挨拶する。

 

もしマガメが対面にいれば困った声から弱みを握り交渉を有利に進められるが、これでは無理だ。「俺の存在は誰から聞いた?」「秘匿します」マガメの問いに抑揚なく答える。ザクロから聞いたと言わないように言われた。絶対に言うわけにはいかない。「イイネ守秘義務。口が固い人は好きだ。それで要望は?金か労働次第で引き受ける」

 

「カワベ・ソウジュウロウ、カワベ・ソウイチロウ、カワベ・ヨシコ、カワベ・ソウスケ。この4人をネオサイタマから逃してください」スノーホワイトは淡々と告げる。ドラゴンナイトの家族がアマクダリに狙われたということはドラゴンナイトの動きを封じ誘い出そうとしているのだろう。

 

アマクダリはドラゴンナイトに害を与えようとしており、居場所をまだ把握していないということが分かる。このままではいずれアマクダリにやられる。その前にネオサイタマから逃さなければならない。「M&Aされたカワベ建設のCEOと家族ね」「この4人はアマクダリに狙われています」「ワッザ!?」

 

スピーカー越しの加工された機械的声でも狼狽する様が伝わってくる。アマクダリを知っているようだ。ある程度のアンダーグランドの住人ならアマクダリはアンタッチャブル案件のようである。「……やってやらないこともない。だが危険度ヤバイ級のミッションをこなしてもらう」マガメは苦々しく呟いた。

 

スノーホワイトのオイランロイドめいた無表情が僅かに緩む。拒否すると思っていたが受けてくれるとは思っていなかった。「条件とは?」「スゴイテック社重役ユカワ=サンの家にあるカタナのロウサイをゲットしてこい。それができれば手配してやる」ロウサイはナンバンとカロウシに次ぐレジェンダリー級の名刀である。

 

「盗むのですか?」「違う、返してもらうだけだ。あれは俺のものだ。不当に奪われたのを取り返す」「やります」スノーホワイトは即答する。盗むのならこの件を引き受けるつもりはなかったが不当に奪われたのを取り返すのなら、魔法少女としてはギリギリ大丈夫だ。

 

「期限は?」「できるだけ早く。取り返してきたらここに持って来い」「わかりました。受け取る時はマガメさんご本人が来てください」「おい、条件提示ができる立場か?」マガメは小バカにするように言う。スノーホワイトはマガメの言葉に反応せず無表情で沈黙する。

 

本人にあえばそのカタナが本当に奪われたのか魔法で判別できる。そうでなければユカワのところに返す。いくらドラゴンナイト達を助けるためでも盗みはできない。「とりあえずロウサイを取り返してこい、そしたら考えてやる」マガメは数秒間の沈黙の後、下から軽端末がせり上がってくる。「連絡端末だ、その後の指示を送る」

 

スノーホワイトが手に取るとスピーカーの起動音が消える。通信を切ったようだ。「魔法少女が人間にこき使われるなんて」ファルはため息混じりで呟く。人を守る為と云えど人間の欲の為に利用されている。マスコットとしては屈辱的なことだった。「私に選択権はない」スノーホワイトはあっさりと呟く。

 

「人を助けるためだから見逃しているけど、悪いことをして助けようとするならファルは協力しないぽん」「分かってる」正規の手順を踏まず国外に出るのは立派な犯罪だ。だが罪もない人を助けるためなら許容範囲である。だが人を不幸にする行為を強要されたらやらない。線引きを明確にしなければ魔法少女でいられなくなる。

 

 ファルはすぐにターゲットについて調べ始めた。

 

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