ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター   作:ヘッズ

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第十四話 重要な一日#6

◆◆◆

 

22:00

 

そこはハリケーンが通り過ぎたバイオ米畑めいて荒れていた。「仁」と書かれた掛け軸、本来なら「仁義」と書かれていたが義の文字は銃弾によって潰れていた。ダルマの両目は塗りつぶされており、片眼は返り血によるものだった。壁には弾痕が至る所に打ち込まれ穴あきチーズめいている。

 

壁だけではない、黒塗りのソファーもオガーニックスギ製の机も穴だらけだ。そして壁にはレッサーヤクザ5人が雛人形めいて置かれている。それぞれが痛みに耐えウラミ・チャントを呟いている。その相手は部屋の最奥でグレーターヤクザの襟首を掴みインタビューをしている。ドラゴンナイトだ。

 

「インタビューの時間だ」「アイエエエ…許して…俺達はただシノギを…グワーッ!」ドラゴンナイトは顔面を殴る。最低限の手加減をしているがニンジャの力で殴られたら無事で済まない!鼻骨骨折!「じゃあマジメに働けよ!」「グワーッ!」「薬物ばら撒くなよ!」「グワーッ!」「モータルに迷惑かけるなよ!」「グワーッ!」

 

ドラゴンナイトはグレーターヤクザを殴り続ける。ナムサン!顔面が福笑い人形めいて変形していく!「ヤメロ…」レッサーヤクザは今にも消えそうな声で訴えるが一向にやめない。(((弱い人を傷つけたらダメだよ)))ドラゴンナイトの手がピタリと止まる。ニューロン内で響いたのはイマジナリースノーホワイトの声だった。

 

(((悪い事をするドラゴンナイト=サンなんて嫌いだな)))「イヤーッ!」ドラゴンナイトのパンチがグレーターヤクザの顔をギリギリ通過、壁にはクレーターめいた破壊跡が作られる。「アイエエエ…」グレーターヤクザはしめやかに失禁。「アマクダリを知っているか?」「アマクダリ?何?」うつろな目で答える。ドラゴンナイトは舌打ちする。

 

「次だ。知っている限りのヤクザ・クランの居場所を教えろ」「上を売るだなんてソンケイが…」「早く教えろ!死にたいのか!」「アイエエエ!そこの棚に赤い名簿があります!」ニンジャアトモスフィアの前にソンケイは粉砕。ドラゴンナイトは棚の扉を破壊しながら名簿を取り出し、メモ帳に書き写していく。

 

「これに懲りたらヤクザなんて辞めてマジメに働け、奪った金は返せ、でなければまた来るからな!」ドラゴンナイトはヤクザ達に凄むと出口から出ていく。「チクショウ!俺達が何したっていうんだよ!」レッサーヤクザは悔し涙を流し叫ぶ。その叫び声はしばらく事務所内に響き続けた。

 

◆ドラゴンナイト

 

 ドラゴンナイトはパーカーのフードを深く被りながら、アオダイショウ・ストリートを周囲に注意を払いながら歩いてく。

 

「クソ!」

 

 感情を吐き出すように叫ぶ。怒気とニンジャアトモスフィアを察知したのか、行きかう人々の数人が体をビクッと震わせ足を止める。正体不明の感覚に戸惑いながら再び歩き始める。

 メモ帳を開いて先程書き記したページを見て舌打ちする。アマクダリを探す一環としてヤクザクランにインタビューを敢行してきたが、改めてネオサイタマにおけるヤクザの多さを実感し辟易する。

 どうして犯罪に走る?例えマケグミでも懸命に生きている人も大勢いる。そんな人をヤクザは平気で喰い物にしようとしている。他人の痛みが分からないのか?

 ヤクザは何を生み出さず弱者から搾取する不必要な存在、それがドラゴンナイトの認識だった。本当なら手に入れた金を奪い取り抹殺したかった。だが脳内で作り上げたスノーホワイトが諫める。

 そんなことしたらヤクザと同じだよ。清く正しいドラゴンナイト=サンのままで居て。

 それらの声がドラゴンナイトを踏みとどまらせ、不満や欲求の捌け口としてのモータル殺害はまだ行っていない。

 

 コミックやカートゥーンで正義のヒーロー達の活躍を見て正義の心を学び、スノーホワイトと行動を共にして争いごとを解決することで、正義のヒーローに近づいたような気がする。

 今はどうだ?スノーホワイトは離れ、センパイを死なせ、敵を討つためにヤクザに暴力を振るっている。そんなことをしながら巨悪のアマクダリの痕跡を全く辿ることができない。何て体たらくだ、自嘲的に笑う。

 だが自嘲的な笑みはすぐに消える。嘆いていても始まらない。何としてもアマクダリの尻尾を掴み壊滅させる。それが己の為すべきことであり、センパイへの弔いだ。

 

───ドラゴンナイト=サン

 

 スノーホワイトの声が聞こえてくる。また幻聴か、ドラゴンナイトはそう決めつけ構わず歩く。だが幻聴は何度も聞こえてくる。思わず声がした方向を振り向く。そこには本物のスノーホワイトが居た。

 

◇スノーホワイト

 

23:00

 

 ようやく会えた。一方的にこちらから関係を切っておきながらもこうしてアマクダリに殺されることなく無事で居ることに安堵した。魔法少女に変身していなければ感情を抑えきれず涙を流していただろう。

 フードを深く被っているので細かく見えないが顔に疲労感が色濃く刻まれている。両親から聞いたがずっと家に戻っていなかったようだ。どこで寝ているのだろうか?ちゃんとした食事を摂っているのだろうか?心配事が次々と浮かんでくる。

 

「何の用?」

 

 ドラゴンナイトの言葉の節々から怒りが滲み出ている。当然だ、別れの言葉の1つもかけず離れた人間を快く思う訳がない。それでもそうちゃんと同じ顔で怒りをぶつけられるのは少し心が痛む。

 

「大事な話があるの。少し付き合って」

「今忙しいから無理」

「アマクダリを探すのに?」

 

 アマクダリという言葉に仕草でも心の困った声でも動揺が見て取れる。これでアマクダリを知っていることが確定した。

 

「分かった。付き合う」

 

ドラゴンナイトは首を縦に振った。

 

 

「はい、これ」

 

 スノーホワイトは床に座るドラゴンナイトにザゼンドリンクを手渡し、そのまま対面に座った。ドラゴンナイトは無言で手に取ると封を開けずそのまま床に置いた。これも怒っているというポーズだろう、甘んじて受け入れる。

 周りを見ると懐かしい光景が広がっていた。パトロールが終わり最後の組手訓練を行っていた廃工場、少し訪れなかっただけで随分懐かしいように感じる。ここならまだアマクダリに見つかっておらず、落ち着いて話せると思い話し合いの場所に選んだ。

 

「まず、スノーホワイト=サンが何でアマクダリを知っているの?」

「ニンジャスレイヤーさんって覚えている?その人からアマクダリについて聞いて、色々調べて悪い組織と知った」

 

 ドラゴンナイトはニンジャスレイヤーを思い出すように視線を動かす。この様子から見てニンジャスレイヤーがドラゴンナイトに会ったのは嘘ではないようだ。

 

「それでカワタさんの一件、あれもアマクダリが絡んでいた。理由は知らないけどカワタさんを亡き者にしようとしていた」

「なっ!?」

 

 ドラゴンナイトは思わず立ち上がりこちらを睨みつけるように見る。好きな漫画家がアマクダリに殺されようとされていた。その思わぬに事実に動揺と怒りが渦巻いている。

 

「ドラゴンナイトさんは何でアマクダリを探そうとしているの?」

「センパイが…サワムラ=センパイが殺された!」

 

 歯を食いしばり唇から血を滴り落としながら答える。その答えは困った声を聞いていて分かっていた。『サワムラ=センパイを殺したアマクダリを見つけられないと困る』という声がガンガンと響いていた。こうして自らの口から聞かされることで事実と実感させられる。

 

「センパイは…アマクダリの陰謀のせいで!野球賭博のせいでハラキリに追い込まれた!だからアマクダリは絶対に潰す!潰してやる!」

 

 ドラゴンナイトは涙を滲ませ、叫び声が廃工場を震わせる。スノーホワイトは見えないように手を強く握った。

 ニュースでサワムラが切腹自殺したと聞き、その後のニュースを聞いて不可解に思いながらもそういう一面もあるのだろうと碌に調べず勝手に納得してしまった。

 

「何で!あの日からボクから離れたんだよ!それさえなければ!スノーホワイト=サンと相談できて…いいアイディアが浮かんで…そうすればセンパイだって…」

 

 スノーホワイトの両襟を掴みながら声を荒げるが途中から今にも消えそうな声量になる。

 もし一緒にいればサワムラは死なずに済んだかもしれない。そう言いたいのだろう。それは一方的な責任転嫁、サワムラを死なせてしまった自責の念を少しでも和らげるためにスノーホワイトに擦り付けている。

 その心情は声を聞いて分かる。だがスノーホワイトは一切否定しなかった。

 サワムラと会ってから暫くしてアマクダリ関係者に捕捉された可能性が浮かび上がった。このまま一緒に行動すればドラゴンナイトもアマクダリに捕捉される可能性がある。その危険を考慮しドラゴンナイトから離れた。

 自分のミスがなければドラゴンナイトと一緒に行動できて、サワムラの死を阻止できたかもしれない。責任の一端はある。

 

「ドラゴンナイトさん落ち着いて聞いて」

 

 スノーホワイトはドラゴンナイトの嗚咽に心を締め付けられながらも両肩に手を置き、優し気に話しかける。その声に落ち着きを取り戻したのか、嗚咽が止まりスノーホワイトの目を見る。それをきっかけに話し始める。

 

「まずカワベ建設が買収されて、両親が逮捕されそうになった」

「買収?逮捕?」

「買収先に吸収合併された。これでドラゴンナイトさんの両親は経営権を失いクビになる。カワベ建設は無くなったの」

「無くなった?」

 

 ドラゴンナイトの目が泳ぐ。会社を買収されるということは富や地位を失うことだ。その事実を咀嚼しきれていないのだろう。だがそれだけならまだマシだ。今のドラゴンナイトには命の危険が迫っている。

 

「そしてドラゴンナイトさんがアマクダリに敵対している事がバレた。その一環として自宅に押し入って両親を逮捕して、どさくさに紛れて3人を拉致しようとした。恐らく人質にしようとしたのだと思う。でも安心して、両親は無実だし3人は私が安全な場所で匿っているから」

 

 ドラゴンナイトは無意識にザゼンドリンクの封を開けて飲み干す。鎮静作用が聞いたのか落ち着き始め、スノーホワイトの次の言葉を待っている。

 

「ネオサイタマから脱出しよう。いずれアマクダリの追手がドラゴンナイトさんの元に来る。その前に逃げるの。ネオサイタマから出ればアマクダリの手から逃れられるかもしれない。手筈は整っているから。貧乏になってネオサイタマから出るのは辛いけど、生きるのが最優先だよ。ね?」

 

 富を失い夜逃げ同然に故郷を離れる経験をしたことがないので、気持ちは理解できず知った顔でと思うかもしれない。でもアマクダリに無残に殺される未来よりマシに決まっている。

 

「行かない」

 

 ドラゴンナイトは拒絶するように告げる。思わず我が耳を疑った。

 

「どうして?」

「ボクはアマクダリを潰さなきゃいけない。センパイの為に、これからのハイスクールベースボールプレイヤーの為に、何よりアマクダリによって苦しむ人々のために」

 

 その志は清く正しい。魔法少女なら100点満点の回答であり、理想の魔法少女像の1つだ。だがそれでは死んでしまう。断言できる。ドラゴンナイトはアマクダリを潰せない。

 

「気持ちは分かるよ。でもアマクダリの力は強大で、ドラゴンナイト=サンでは太刀打ちできない。例え逃げたとしても誰も責めないから」

「そういう問題じゃない。負けるから逃げる。死ぬから逃げる?ブルシット!そんなのヒーローじゃない!それにスノーホワイト=サンは何してたんだよ!アマクダリの事を知っていたのに?何もしなかったの?アマクダリの脅威にモータルが苦しめられているかもしれないのに何もしなかったの!?」

 

 ドラゴンナイトが語気を荒げ責め立てる。その言葉を聞き反射的に睨みつける。確かにアマクダリについて知っていたが壊滅させようと動かなかった。

 そんな暇があればフォーリナーXを探し元の世界に帰るべきだ、異世界の出来事だから干渉すべきではない、そう言い聞かせていた。だがスノーホワイトの本音は違っていた。

 スノーホワイトはアマクダリよりドラゴンナイトを優先させた。異世界で出会った岸辺颯太との生き写し、本来なら得られたはずの日々を取り戻すために、ドラゴンナイトに危険が及ばないようにアマクダリに積極的に関わらなかった。

 元の世界と同じようにパトロールで困っている人を助けた。ドラゴンナイトと別れた後も不眠不休で人助けをした。だから充分だろう。

 それにアマクダリから捕捉されない為に尽力した。ファルにアマクダリのネットワークに入ってもらい、ブラックリストに入っていないか確認してもらった。目を付けられないように細心の注意を払ってパトロールをした。でなければヤクザ事務所を襲撃してアマクダリに捕捉され、殺されていた。人がどれだけ苦労したと思っている。元の世界で辛い思いをしてきたのだ、別世界で少しばかり楽しい思いをして何が悪い。

 もしスノーホワイトがドラゴンナイトと出会わなければ、ファルの言葉を無視してアマクダリ壊滅に動いていただろう。だがドラゴンナイトに出会ってしまった。その瞬間に魔法少女としての理想より、失われた青春を再現し守る事を選んだ。

 

「あと、父さんと母さんは保護しなくていいよ。スノーホワイト=サンは無実だと言うけど違うよ。カワベ建設は仕事を受注する際に不正を働き、下請け業者に渡るはずの金を着服していた。母さんもどうせ知っていて見逃していたんだ。ちゃんと裁かれないと。それでネオサイタマに留まってアマクダリに殺されてもインガオホー。あっ、でも兄さんは良い人だから逃してあげて」

 

 ドラゴンナイトはついでのように喋る。

 背筋がゾッとする。本当に両親が死んだとしてもどうでもいいという表情をしていた。これがあのドラゴンナイトか?本心ではないと疑ったが偽りない本音だ。その証拠に魔法でも両親が死ぬと困るという声が聞こえない。

 これは両親を憎んでいることもある。だが時折見せていたニンジャの残虐性、その冷徹さが両親にぶつけられているようだった。それはまるで種族が違うものに対する無慈悲さにも思えた。

 

「本気で言っているの?」

 

 スノーホワイトは無表情で無感情な声で問いかける。例え憎んでいても最後は庇うのが肉親だろう。それなのに正しいことだといえ、死地に留まらせようとする心境が理解できなかった。

 

「うん。とにかくボクはネオサイタマに残ってアマクダリを潰す」

「私にすら勝てない程凄く弱いのに?」

 

 スノーホワイトは同じように無感情な声で告げる。それが神経を逆撫でしたのかドラゴンナイトは威嚇するように睨みつける。

 

「アマクダリのニンジャには私より強いのが多くいる。私より遥かに弱いドラゴンナイトさんが勝てる道理があるの?それにどうやってアマクダリを探すの?ヤクザを襲っても永遠に見つからないよ。ハッキングとかで調べないと」

 

 淡々と話す言葉にドラゴンナイトは口を噤ませる。これらの言葉は本人が思っている困った声だ。ドラゴンナイトは反論しない。

 

「うるさい!ボクはスノーホワイト=サンみたいな腰抜けじゃない!何が有ってもネオサイタマに残りアマクダリを潰す!」

 

 ドラゴンナイトは癇癪を起したように声を張り上げる。進もうとする道は破滅しかないことを無意識で分かっているはずだ。

 だがサワムラを死なせた罪悪感や贖罪心や英雄願望や自己陶酔が混じり合って雁字搦めになっている。

 ならば強引に鎖を外す。清く正しく生きようとする気持ちは大切だ。気持ちがなければ始まらない。だが力がなければ意味がない。

 悪意は力で平然と正しさを潰していく。それはN市の魔法少女選抜試験で骨の髄まで思い知らされた。ドラゴンナイトが行おうとしているのは自殺だ。自殺しようとしている人を止めるのは魔法少女として正しい事だ。

 

 スノーホワイトは魔法の袋から紙とペンを取り出し書き始め、文字を書いた紙をドラゴンナイトの目の前に掲げた。

 

「読んで」

「えっと。スノーホワイト、以下乙はドラゴンナイト、以下甲と立ち合いを行い敗北した際にはアマクダリ壊滅に協力することを誓い、いかなる理由があっても協力できない場合は自害する。また甲が敗北した際はアマクダリ壊滅を断念し、甲の家族とともにネオサイタマ脱出することを誓い、いかなる理由があっても実行できない場合は自害する」

 

 ネオサイタマは契約書社会と聞いたことがある。契約書でもって相手を縛り破った者は社会的名誉を失い、それを何としても避けるらしい。それを逆手にとって契約書でドラゴンナイトの行動を縛る。

 

「私はこう見えてもヤバイ級のハッカーなの。危険を冒せばアマクダリのネットワークに侵入し機密情報を得られる可能性がある」

「ヤバイ級のハッカー…」

 

 ドラゴンナイトは驚きで唾を飲み込む。ネオサイタマではハッカーのランクはスゴイ級、テンサイ級、ヤバイ級で区分されており、ヤバイ級はほんの一握りで大手企業のデータベースを掌握するのも朝飯前らしい。全てファルから聞いたことであり、ヤバイ級というのもファルの自己申告だ。

 

「私の助力はアマクダリ打倒には大きなプラスになると思う。それに言ったけど私より強いアマクダリニンジャは多く居る。私程度を倒せないと話にもならない」

「分かった。受けるよ」

 

 ドラゴンナイトは指をかんで血判を押し、スノーホワイトも同じように指をかんで血判をおす。これで契約は成立した。反故すれば自害しなければならない。

 何て不平等な契約だ、スノーホワイトの表情が曇る。今までの組手の結果を見てもドラゴンナイトが勝ったことは一度もない。何か秘策でも有るのかと考えたが、心の声を聞いた限りではなさそうだ。

 勝ち目のない戦いと分かっていながらも友の無念を晴らすために、己の正義を全うする為に挑む。まさにテレビで描かれていた魔法少女だ。

 一方自分はどうだ?策を弄し正義の心の持ち主の意志を挫こうとしている。まさに悪役だ。だがそれでも構わない。

 ドラゴンナイトを、別世界のそうちゃんを生かすために魔法少女を一時的に辞めさせてもらう。もう二度とそうちゃんが死ぬのは見たくない。

 

◇ファル

 

 お互い構えを取って立ち合いが始まった。

 事前の結果から見てもどう考えてもスノーホワイトが有利である。鉄板もいいところだ。だが可能性があればドラゴンナイトの覚醒ぐらいだろう。

 魔法少女の強さはある意味思いの強さで決まる。思いの強さが普段の何倍もの強さを引き出し格下が格上に勝つことがある。

 だがドラゴンナイトは魔法少女ではなくニンジャだ。そしてニンジャの様子を見た限りでは覚醒はない。ただ強い者が順当に勝つという結果が圧倒的に多い。

 

「イヤーッ!」

 

 ドラゴンナイトはスノーホワイトの周りを回りながら手裏剣を投げていく。さらに羽を生やして浮遊することで、上からの攻撃を加えていく。

 だがスノーホワイトは難なく避けルーラで弾いていく。ファルの目から見てもドラゴンナイトの手裏剣はニンジャスレイヤーと比べ質も数も劣っていた。

 

「リュウジン・ジツ!イヤーッ!」

 

 ドラゴンナイトは手裏剣投擲を止め、ジツを使用して接近戦に持ち込む。

 拳を叩き込み、蹴りを放ち、尻尾を振るい、羽を回し、口を開けて噛みつく、身体の全てを使っての連撃、どれもまともに喰らえば致命傷の一撃だ。短期決戦を狙いこの連撃で決めるつもりだろう。スノーホワイト対策として心が読めても対処できない攻撃をするという方法があるが、全てのエネルギーを込めて短期決戦を狙うやり方は悪くはない。

 だが全身全霊の攻撃をスノーホワイトは表情一つ変えず躱していく。その光景はいつもの組手と同じ光景だった。

 ドラゴンナイトは顔を紅潮させながらも歯を食いしばり攻撃を続ける。ニンジャといえど生物だ、無呼吸で長時間の全力運動はできない。終わりは近づいている。

 

「ハァ!」

 

 ドラゴンナイトは動きを止め深く息を吸う。それを狙いすましたかのようにスノーホワイトは動いた。ルーラの柄で足を払うように下段打ちを放つ。ドラゴンナイトは反応できず受け身を取れないまま背中を床に叩きつける。

 スノーホワイトはそのまま馬乗りになりルーラの柄を喉にめり込ませる。このまま失神させるつもりだ。

 ドラゴンナイトは目を見開きルーラを握り跳ねのけようとする。だが顔は益々紅潮していく。先の攻撃で力を使い切りこの不利な態勢では厳しい。足をばたつかせ呻き声をあげながら抵抗する。次第に足はパタリと落ち、声も聞こえなくなった。失神した。

 結果はスノーホワイトの圧勝、これでドラゴンナイトはアマクダリに手を出すことなくネオサイタマから出ることになる。

 スノーホワイトが望んだ結果を得たが、その表情は全く晴れやかではなかった。

 

◆◆◆

 

00:30

 

ドラゴンナイトは勢いよく体を起こす。スノーホワイトとの立ち合いは!?首をキョロキョロ回すとスノーホワイトの悲しそうな表情が目に入る。その瞬間ニューロンが過去の記憶を再生する。「負けたんだ」スノーホワイトは無言で頷いた。「じゃあ、約束通り…」「分かってる。アマクダリには手を出さないし、家族でネオサイタマから出る…」

 

ドラゴンナイトは言い聞かせるようにゆっくりと呟く。書面で書かれていることは絶対だ。例え書面を隠滅しスノーホワイトを亡き者にしたとしても、契約を破った事実は永久に心に刻まれる。その罪悪感に耐えられるネオサイタマ住民はいない。

 

「アマクダリを潰すと決意してから、結構ハードトレーニングして、カラテを積んだつもりだった。でも結局ベイビー・サブミッション。センパイのアダウチすらできない。弱いって辛いね」ドラゴンナイトは俯きながら押し殺すように喋る。その声はスノーホワイトの心をやすり掛けにして痛めつける。

 

これで良かったのか?ドラゴンナイトと一緒にアマクダリ壊滅に尽力すれば良かったのか?自問自答を繰り返す。「スノーホワイト=サン、ボクの代わりにアマクダリを潰してくれない?」「それは約束できない」スノーホワイトは奥ゆかしく首を横に振る。「そうだよね、死ぬかもしれないのにそんなことできないよね」ドラゴンナイトの目に諦念の念が帯びる。

 

それを見てスノーホワイトはさらに心が締め付けられる。ドラゴンナイトの身を守った後の第一目標は元の世界に帰る。その為にフォーリナーXを探す事だ。確かにアマクダリの存在は見過ごせないが、それでもリップルや両親や友人達への思いや元の世界への郷愁を捨てられない。

 

「とりあえず、両親達がいる隠れ家に向かおう」「うん」ドラゴンナイトはスノーホワイトの後を付いて行く。

 

道中2人は無言だった。会うのはこれで最後になるかもしれない。色々と喋りたかったが、スノーホワイトはドラゴンナイトの思いを断ち切ったという罪悪感から、ドラゴンナイトは仇討ちを阻止したスノーホワイトへの怒りからお互いわだかまりを抱え、素直に喋れなかった。この時間電車は動いておらず、隠れ家までは徒歩移動だ。このままでは気まずい

 

「私はアマクダリを潰す事はできない。でもニンジャスレイヤーさんならやってくれる」スノーホワイトは突然呟く。ニンジャスレイヤーは悪しきニンジャに憎悪を漲らせている。そのスタンスでいればアマクダリとぶつかるだろう。ニンジャスレイヤーのカラテにはまだ奥がある。そのカラテと決断的意志があればやれるかもしれない。

 

「そうかもね」ドラゴンナイトはポツリと呟いた。その一言から30分間無言だった。するとスノーホワイトが足を止める。「困っている人でも居た?」ドラゴンナイトが先読みするように質問する。「うん」「ボクも行くよ。こうしてスノーホワイト=サンと一緒に何かをすることになるのも最後かもしれないし」

 

「分かった」スノーホワイトは僅かばかり頬を緩ませながら頷いた。2人は声がする方に向かう。するとスノーホワイトの表情が険しくなる。声からしてカツアゲ程度の揉め事だと思っていた。だが途端に命の危険レベルの揉め事にまで発展していた。スノーホワイトは走り、ドラゴンナイトも後に付いて行く。

 

スノーホワイトは『BARハッソウトビ』のネオン看板横の扉前で立ち止まる。この店内で何か起こっているようだ。2人は扉を開けるとツキジめいた光景が目に飛び込んできた。中は薄暗く紫色のネオンライトで照らされ妖しげなアトモスフィアを醸し出している。

 

ダーツボードにはダーツではなく人間がめり込み、パワリオワーとファンファーレが狂ったように鳴り続ける。ナムサン!天井には前衛的なオブジェめいて人がめり込んでいる。そして中央には4人が正座しており、3人の首は無くスプリンクラーめいて血を吹き出していた。ナムアミダブツ!

 

「イヤーッ!」「アバーッ!」そしてたった今4人目の首がボトルネックカットチョップで飛び、スノーホワイトに向かってストライク返球される。黒髪の女は首の行方を目線で追い2人を視界に捉える。すると驚きで目を見開き即座に獰猛な笑みを浮かべ大笑いした。「キヒッヒッヒ!スノーホワイトだ!マジか!こんな事があるんだな!ゴウランガ!」

 

スノーホワイトは魔法少女の名前を呼ばれた動揺で、ドラゴンナイトは下手人がスノーホワイトの知り合いかという困惑で動きを止める。「オイオイ覚えてない?そうか、この顔じゃあ分からないか」黒髪の女は突如姿を変えた。それは奇妙な姿だった

 

右半身が金髪碧眼、黒いフラメンコドレスめいた服に鍔の広い三角帽子、左半身が黒髪黒目エメラルド色のニンジャ装束にメンポをつけている。チンミョウ!さらによく見ていただければ左右の顔の作りが違うのが分かるだろう!一体どのようなテックを使えばこのような姿になるのだろうか!?

 

スノーホワイトの鼓動が跳ね上がる。見間違えるわけがない、あの左半身はフォーリナーXだ。「ニンジャ式で名乗っておくか、ドーモ、スノーホワイト=サン。フォーリナーX改めフォーリナーXXXです」

 

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