ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター 作:ヘッズ
◇フォーリナーXXX
懐かしい。それがネオサイタマに帰ってきた時の第一印象だった。この湿気と重金属酸性雨の独特の匂い。来た当初は何も思わなかったが、離れてみると思ったよりこの土地に馴染んでおり、愛着を持っていたことに少しばかり驚いていた。
ニンジャ魔法少女になった当初はアマクダリ解体の為にヤクザ事務所を襲い、アマクダリ関係者をおびき寄せていた。だが突如活動を止め、ネオサイタマから出て別の世界に行った。
ニンジャという種族は大体魔法少女と同じぐらいの強さだ。ニンジャと魔法少女の力を併せ持ち絶対的自信を持つフォーリナーXXXだが、アマクダリのニンジャを全員倒すとしたら、それなりの準備が必要と考えていた
フォーリナーXXXはRPGでボスに挑む際は可能な限りレベル上げを行い、装備を整えてから挑むタイプだった。その行為を現実でもおこなった。
今まで巡った世界に行って、使えそうなアイテムや武器を片っ端から収集していく。今までは魔法少女の強さで何とかなったので、武器を収集する必要もなく見向きもしなかったが改めて探すと有用な物が多くあった。
回復アイテムやバフアイテムや魔法少女の魔法のようなものができるようになるアイテム。
ゲームをプレイしているとレベル上げや装備を整えすぎてヌルゲーになることがある。異世界のアイテムにニンジャ魔法少女の力、これではヌルゲーかと思ったがゲームオーバーはもっと嫌いだった。
体感時間で3ヶ月ぐらい異世界を渡り歩き、集められる限りの武器やアイテムを収集しネオサイタマに帰還する。
「出かけたのが日曜日だから、丁度1週間か。案外時間が経ってないな」
Aの世界の1週間がBの世界では1ヶ月という具合に異世界ではそれぞれ時間の流れが異なっている。大よその目安をつけることは可能だが、収集作業に熱中しすぎてネオサイタマでは時間が経ち、アマクダリが崩壊しているということがあればつまらない。だが1週間なら流石にアマクダリは崩壊していないだろう。
フォーリナーXXXはニンジャ魔法少女の状態を解除し、ニンジャであるフォーリナーXXに変身する。XXXの状態だと魔法少女の特性を引き継いでしまったのか空腹感がなく、食事を楽しめない。それが唯一の不満点だった。
アマクダリ壊滅ミッションを始める前の景気づけに前夜祭でもするか、フォーリナーXXは当てもなく歩き始めた。
ホストクラブ、居酒屋、高級バー。カジノ。いつも寄っていた店に入ろうとしたが、今日はどうにもフィーリングが合わず入らなかった。中々店が決まらずブラブラ歩き1時間が経過し徐々にイライラが溜まっていた。
そこら辺のモータルを使って遊ぶか。そんな考えが頭に浮かび、どのモータルを使うかと物色しているとある看板が目に留まった。『BARハッソウトビ』看板通りバーだろうが、今まで足を運んだバーと違い、明らかに場末感が漂っていた。
そういえば依然プレイしたゲームの舞台も場末のバーだった。ゲームみたいにバーテンダーや客と洒落て下らない会話を楽しみ、落ち着いた雰囲気で過ごすのも悪くない。フォーリナーXXはBARハッソウトビに向かった。
「いらっしゃいませ」
店に入るとバーテンダーが声をかけてきた。30代ぐらいの男、イケメンでもなくブサイクでもなくごく普通。ダーツをしているサラリーマンっぽいの1人。カウンター席には男女のガラが悪いカップル2人、ヤクザっぽいのが1人。アウトローっぽいのが1人。店内をざっと見て客層を確認し、カップルの横に座る。
「いらっしゃいませ、今日が初めてですか?」
「そう、明日から大仕事をするから、景気づけのカクテルくれ」
「味の好みや嫌いなカクテルはございますか?」
「さあね、当ててみな」
「かしこまりました。少々お待ちください」
バーテンダーは一瞬めんどくさそうな表情をするが、直ぐに業務用の笑顔を見せ後ろの棚を物色し、シェイカーに複数の酒を入れかき混ぜる。そしてグラスに黄色いカクテルを入れ最後に何かを入れ目の前に差し出した。
「お待たせしました。サーチライトです」
「これがどう景気づけのカクテルなんだ?」
『非常に明るいボンボリの真ん中はかえって見えにくい』というミヤモト・マサシのハイクがあります。大仕事になる分だけ落とし穴は思わぬところに潜んでいます。注意喚起の意味を込めて作りました」
「なんでこれが、そのミヤモト何とかのハイクになるんだ?」
「カクテルがボンボリの光、カクテルに入れたウメボシが見えにくいものです。味は酸味が利いています。苦手でしたら作り替え…」
フォーリナーXXはバーテンダーが喋り終わる前にカクテルを一気に呷ると、口に含んだカクテルをバーテンダーの顔に吹きかけ、グラスを顔面に投げつけた。
「グワーッ!」
バーテンダーは顔を手で押さえて蹲る。
まず顔が気に入らない、声のトーンが気に入らない、喋り方が気に入らない、出すカクテルが気に入らない、味が気に入らない。
フォーリナーXXの独自の採点で着実に減点を積み重ねたバーテンダーは理不尽な暴力を受けていた。
店内の空気は一変し、客達は一瞬畏怖の視線を送った後露骨に視線を逸らした。
「おいネエチャン、ここはゆっくり酒を楽しむ場…グワーッ!」
フォーリナーXXはがんを飛ばし凄んできたヤクザ風の男の襟首を掴むと、上に投げつけ頭を天井にめり込ませた。
タフガイ気取りの良識派ヤクザっぽい行動が気に入らない。ついでに髪型が何か気に入らなかった。
「グワーッ!」
ダーツをしていた客のところに一瞬で詰め寄り、ダーツボードに向かって体ごと投げつけダーツの矢にした。投げ方が気に入らない。
頭はダーツボードにめり込み、パワリオワーと狂ったようにファンファーレが鳴り続ける。そしてカウンターで蹲っているバーテンダーの首根っこを掴み、店内中央に投げつけた。
「全員正座」
「「「「アイエエ…」」」」
フォーリナーXXは叫ぶことなく抑揚のない声で喋り、男女のカップルとアウトローとバーテンダーは震えながら正座する。彼らはフォーリナーXXの威圧感の前に軽いNRSに陥っていた。
「おい、そこのカップル。何か面白い事言え」
「えっ、何で…?」
「イヤーッ!」
「アバーッ!」
フォーリナーXXは正座している女の首をチョップで切り飛ばす。血が勢いよく噴き出て、首は壁や床を反射して女の目の前に転り、虚ろな目と視線が合う。
「「「アイエエエ!」」」
男と他の2人は絶叫する。
フォーリナーXXの暴行の理由は唯一つ、気に入らなかったからである。毎日ここまで理不尽に暴力を行使するわけではない。気に入らない人間がいても無視し、不味いカクテルを出されてもちゃんと練習しろよと笑って激励することもある。
ただ今日の時間、気温、体調、様々な要素が合わさった結果、ヤクザ風の男を天井にめり込ませ、サラリーマンをダーツボードにめり込ませ、客達を正座させ首を飛ばしている。
フォーリナーXXは気分によって行動する。それは人間誰しもそういう側面があるが、フォーリナーXXは顕著だった。
笑って赦した行動でも10分後には怒り理不尽に暴力を与える。その基準を周りは全く理解できない。その行動原理の根底にはニンジャ魔法少女は優れた存在であり、劣っている人間を慈しむも虐げるも好き勝手にしていいという思考があった。
「おい、面白いこと言え」
「アイエエ…昨日カナコとファックした時…」
「下ネタで笑いを取ろうとするな。イヤーッ!」
「アバーッ!」
男の首を切り飛ばす。
「おい、お前自慢話しろ」
「ジュニアハイスクールの時…」
「昔の話すぎる。イヤーッ!」
「アバーッ!」
アウトロー風の男の首を切り飛ばす。
「今まで来た客で一番印象に残ったのは?」
「アイエエエ!助けて!」
「イヤーッ!」
バーテンダーの首を切り飛ばす。首が壁や天井を反射し入り口に向かい、いつの間に居た女の胸元に向かいキャッチされる。
反射的に女の情報を瞬時に検索し、数コンマ秒後に答えが出る。スノーホワイトだ。今まですっかり忘れていた。
ネオサイタマに来ることになった原因の魔法少女、その魔法少女と出会ったのがこんな場末のバーか、出会うならもう少し劇的な場所ならそれっぽいのに。奇妙な偶然と締まらない状況にフォーリナーXXは大笑いした。
◇ファル
目の前の女はフォーリナーXと名乗った。あまりに突然の出来事に反応が遅れたが備え付けられた魔法少女探知機でも反応を見せて右半身の顔もフォーリナーXに間違いない。
だが反応が普通の魔法少女の時と違う、それにあの左半身、まるで自分の左半身を切り取り、別の人間の左半身をくっつけたようだ。あの姿は情報にない。さらにフォーリナーXXXとも名乗った。この名前にも意味があるのか?
「イヤーッ!」
ファルはフォーリナーXXXに対する推察、スノーホワイトは思わぬ遭遇で動揺している間、いち早くドラゴンナイトが動いた。
知り合いではないので余計な思考が入らず、バーの客を殺したから倒すというシンプルな思考で動いていた。フォーリナーXXXはスノーホワイトに意識を集中しており、ドラゴンナイトへ意識が向いていない。これは決まる。
「グワーッ!」
ドラゴンナイトのチョップは片手であっさりと叩き下ろされ、もう片方で殴られ体は壁にめり込み、手足をぐったりとして崩れ落ちた。
今の一連の動き、薄っすらとしか見えなかった。それ程までに速くネオサイタマに来る前の動きとは明らかに違っている。
スノーホワイトもそれに気づいたのかドラゴンナイトの元へ駆け寄り容体を確かめたい衝動を抑え、フォーリナーXXXを見定めることを優先していた。
「この世界の礼儀に則ってスノーホワイト=サンと言っておこうか、アンタにはほんの少しばかり感謝しているよ。ボコボコに殴られて、必死こいて魔法使ってネオサイタマに辿り着いて、新しい力を手に入れた。だからボコボコにされたけど探してまでやり返そうとは思わなかった。でも目の前に現れたからにはしょうがない。ボコるわ」
フォーリナーXXXは臨戦態勢を取る。言葉通り自分から探そうとは思わなかったのだろう。だが目の前に現れたならついで恨みを晴らす。まるで蚊が目の前に現れたから叩いて殺す程度の出来事のようだ。
「その人達はあなたが?」
「そうだけど」
スノーホワイトの問いに悪びれも無く答えた。その答えを聞いた瞬間魔法の袋からルーラを取り出し構える。体中から怒気が溢れている。
魔法少女が人を殺した。詳しい経緯は知らないがスノーホワイトの基準では問答無用で悪党魔法少女だ。魔法の国が管理していない世界でも関係ない、悪い事をする魔法少女がいれば勝手に裁き逮捕する。それが魔法少女狩りスノーホワイトだ。
「あなたを逮捕して監査部で裁いてもらいます」
「やってみろ魔法少女」
その言葉を合図にスノーホワイトが動いた。一気に距離を詰めての中段への切り払い、フォーリナーXXXは防御姿勢を一向にとらない。これは決まる。そう確信した瞬間スノーホワイトは攻撃動作を止めルーラを左に立てる。その瞬間体は高速でスライドした。
そこには身長は140センチ程度の人型の生物がいた。オレンジ色の瞳に黒一色の非人間的肌、頭にはヘルムを被っておりてっぺんから青い炎が吹き出ている。映像資料で見た魔法で召喚された悪魔に似ている。
その生物がスノーホワイトを殴った。防御していなければ多大なダメージを受けていただろう。
「どうだ、これが新しい力、マンキヘイだ」
フォーリナーXXXは自慢げに喋りかけ、マンキヘイは鼻息荒くしながら威嚇する。今の腕力とスノーホワイトの険しい表情でかなりの強さだと判断できる。
「さらに」
フォーリナーXXXは魔法の袋に手を入れてマンキヘイに何かを投げつける。するとその手には背丈以上の巨大なランスが握られていた。
マンキヘイは一気に間合いを詰めよりランスを突く。一瞬で巨大化したと錯覚してしまうような速さで迫ってくる。スノーホワイトは辛うじて防ぎ、マンキヘイは連続で突く。その突きは凄まじく残像を作り上げるほどだ。
この身体能力、今まで会った魔法少女でも上位クラスだ。そんな身体能力を持った生物を作り出すこれは魔法なのか?だがフォーリナーXXXの魔法は異世界に行く魔法だ。理屈が合わない。
スノーホワイトはその場に留まりながら連続突きを防御している。だが突如バックステップを踏む。数コンマ後足首があった場所に何かが通り過ぎ、足首から鮮血が噴き出る。マンキヘイの手には巨大な鎌が握られていた。
「これはマギアって世界でパクってきた武器で、鎌、ランス、ハンマー、剣の4種類に変化するその世界ではエピック級の一品だ。まあアタシから見れば良くてレア級だけどな」
フォーリナーXXXは謎の武器について見せびらかすように説明する。
暴力のプロと呼ばれる魔法少女ならあり得ない愚行だ。説明しなければどれだけアドバンテージがあったか、だが説明しても厄介さは変わらない。
武器が瞬時に変わる事で間合い、タイミング、軌道も変化していく。その変化に対応することは難しくシンプルな分攻略しづらい、その証拠にスノーホワイトは決定打を与えられずにいる。
そしてフォーリナーXXXはマンキヘイとの戦いを腕を組みながら観戦していた。
「それでこれはお気に入りの剣で、さらにミギルって世界の技術を使えばアタシのジツを付与できるようになった。魔法少女は毒耐性が有るが、ジツと毒耐性どちらが強いか試そうか」
フォーリナーXXXは目玉が刻まれた長剣を取り出し、襲い掛かった。
「イヤーッ!」
マンキヘイとフォーリナーXXXは同時に攻撃を繰り出す。スノーホワイトは右からマンキヘイの剣の切り上げを石突で軌道を逸らし、フォーリナーXXXの切り下ろしを刃で軌道を逸らす。
「やるな!ギアを上げるぞ!マンキヘイ!」
口笛を吹き賞賛の言葉を投げながら攻撃を続ける。言葉通り攻撃の熾烈さは徐々に上がっていく。マンキヘイの攻撃でも手を焼いていたのにフォーリナーXXXも加わってきた。戦闘力が低ければ問題無いのだが、どう低く見積もっても武闘派魔法少女級だ。
マンキヘイがランスの攻撃を繰り出し、スノーホワイトは半身になり腹の肉を僅かに抉られながらも躱す。ランスは勢い余って対面にいるフォーリナーXXXの元に向かう。
「イヤーッ!」
フォーリナーXXXはランスを足場にしてジャンプし前宙しながら頭上から斬りつける。スノーホワイトはルーラの柄で防ぐ。場所が入れ替わったマンキヘイとフォーリナーXXXは同時に振り向き攻撃をしかける。
スノーホワイトはマンキヘイの攻撃で同士討ちを狙ったが即座に対応した。この2人は身体能力もさることながら、熟練のパートナーのように息を合わせて攻撃を繰り出す。その攻撃の前にスノーホワイトは全てを防御に費やす。
それでも太腿が抉られ、二の腕が切り裂かれ、頬やこめかみからは血が流れている。どれも重傷ではないが針で縫うほどの傷だ。これではジリ貧だ。いずれ致命的な一撃を受けるのは時間の問題である。
相手の魔法に仕掛けが有れば魔法で看破し、されたくない行動をする。それがスノーホワイトの強みだ。白兵戦でも魔法を使って攻撃を躱し、先読みでカウンターをすることができる。だがその魔法にも弱点はある。
圧倒的な攻撃の質と量でのごり押し。これをされると為す術がなくやられてしまう。魔法少女になった当初なら可能かもしれない、だが今は多くの悪党魔法少女と戦い強くなり、実行できる魔法少女は居ないと思い始めていたがこうして目の前に現れた。
ファルの頭に逃走の二文字が思い浮かぶ。どうにかして隙を突いて距離を取り逃げる。だがその案を打ち消した。
仮に逃げ切られたとしてもこの場にはドラゴンナイトが居る。もし逃げ切られた憂さ晴らしでドラゴンナイトを殺そうとしたら?ファルが考えつくということはスノーホワイトも考えている。その可能性がある限り逃走が選択することができない。
スノーホワイトはドラゴンナイトの身を案じ行動し続けた。その想いがやっと実を結んで安全が確保できそうだという時にフォーリナーXXXが現れ、ドラゴンナイトがスノーホワイトの枷となっている。ファルはドラゴンナイトを忌々しく見つめる。
「イヤーッ!」
フォーリナーXXXは袈裟切りを繰り出す。スノーホワイトは躱しきれず体を切り裂かれ、痛みで怯んだ隙にマンキヘイのハンマーが打ち付ける。咄嗟に右腕でガードするが、骨が砕ける鈍い音を鳴らし体はドアを破壊しながら店内を飛び出て、バウンドしながら放り出される
「スノーホワイト!」
ファルは思わず声を上げる。スノーホワイトは声にこたえるように立ち上がろうとするが崩れ落ちる。右腕は歪な方向に曲がり、体を見ると斬りつけられた箇所がくすんだ七色に染め上がっていた。
「魔法少女にはこれだけ斬りつけないと毒が回らないのか。そしてマスコット持ちだったのか」
フォーリナーXXXとマンキヘイはゆっくりとした足取りで近づいてくる。ジツと毒耐性どちらが強いかと言っていたが、このくすんだ七色は毒の影響か。そしてジツということはニンジャ?
「フォーリナーXXX、アンタはニンジャの力が使えるのかぽん!?」
ファルは質問を投げかける。1秒でもいい、スノーホワイトが体力を回復し、打開策を考える時間を作るべくAIを高速稼働する。
フォーリナーXXXはスノーホワイトの懐からファルが入っている携帯端末を拾上げ喋り始める。
「そうだ。ワタシは魔法少女とニンジャの力を手入れた!ニンジャ魔法少女だ!」
「そのマンキヘイもジツかぽん?」
「そうだ、ジツで召喚している」
「どうやってニンジャの力を手に入れたぽん?」
「色々有ってニンジャになって、ニンジャになってから魔法少女に変身したらこうなった」
この劇的な戦闘力の向上、マンキヘイという謎の生物の召喚。これらもニンジャと魔法少女の力が合わさったと考えれば何とか納得できる。だがそれにしてもデタラメすぎる。
「マギアとかミギルとか言っていたけど、それは別の世界で手に入れたのかぽん?」
「そうだ。ニンジャ魔法少女になったおかげで、行った世界なら何処でも行けるようになってな。それで前に行った世界から調達してきた」
「他にもどんなアイテムがあるぽん?」
「そんなに聞きたいのか?」
「気になるぽん」
「いいだろう、特別に教えてやる。まずこれがナーガで手に入れた…」
魔法の袋からアイテムを取り出し手に入れた過程と効果を語り始める。フォーリナーXXXは精神年齢が幼く自己顕示欲が強い。そしてアイテムを取り出すと時に余計な説明を加えた。きっとコレクター特有の承認欲求があるはずだ。そう考えてアイテムが気になると切り出したが見事にはまった。
ファルは説明を聞き流しながらスノーホワイトの様子を観察する。呼吸が荒く肌の色も七色になったままだ。この状態では倒すどころか逃げるのも無理だ。
ファルは決意する。ここは自らの力で切り抜けるしかない。その為の策はいくつか用意してある。
「マスコットが欲しかったんだよな。なあ、そのゴミカスのマスコットなんて辞めてワタシのマスコットになれよ」
「条件が有るぽん。スノーホワイトを殺さないで元の世界に返してほしいぽん」
「やだよ」
「そうしないと一切働かないぽん。元の世界に返してくれたら粉骨砕身で働くぽん。今の戦いではっきり分かったぽん。アンタの手にかかればスノーホワイトなんて取るに足らないぽん。そんな弱者を生かして、ファルをゲットできるなんてお得だぽん。こう見えてファルは魔改造されまくって他の電子妖精より優秀だぽん。レアだぽん」
「レアか」
コレクター心を擽るように語り掛ける。こっちの方がお得だ、こっちのほうが賢い選択だ。ファルの思惑通り悩み始めブツブツと独り言を言っている。その瞬間光に包まれフォーリナーXXXの体は忽然と消えていた。
「やった。成功だぽん」
ファルの立体映像が飛び跳ね、マンキヘイはオロオロと慌てふためいている。
元の主人キークの手によって改造された機能の1つで、マーキングすることによって対象を電子空間に隔離できる。
これは悪党による人質対策として付けられた機能だが、ネオサイタマに来てからは1度も使っていない。ここでは電脳空間はコトダマ空間と繋がっており、適性が無い者は脳細胞を焼き切られ死亡する。適性を試す方法はなく、保護する人物を危険な目にあわせるわけにはいかない。
だが逆に考えれば死んでいい人物になら使えるということだ。フォーリナーXXXに適性がなければ死亡、適性があってもファルの許可なしでは電脳空間から出ることができない。
一見無敵なように見えるがマーキングするのに時間がかかるので、とても戦闘には使えない。だがファルは会話によって、フォーリナーXXXのコレクション自慢を喋らし、マーキンする時間を稼いだ。コレクター気質が仇になった。
敵は葬った。後はスノーホワイトをどう回復させるかだ。ファルは意識をスノーホワイトに向ける。
「コトダマ空間送りか、味な真似をしてくれるじゃねえか」
ファルは思わず後ろに意識を向ける。そこにはフォーリナーXXXが平然と立っていた。ありえない!確かに電脳空間に送ったはず!
「解説いるか?」
「頼むぽん」
ニヤニヤと勝ち誇った笑みを向けながら携帯端末を拾い上げ語り掛ける。思い通りの反応を見せるのは癪だが、不可解な現象への解を求めた。
「キッヒヒヒ、ワタシの魔法は知っているな?」
「異世界に行ける魔法だぽん」
「そう、異世界に行ける魔法だ。ニンジャ魔法少女になって魔法もバージョンアップしてな、異世界だと思えばどこでも行けるようになった。あとは分かるな?」
ファルのAIは答えを導き出す。フォーリナーXXXは電脳空間を異世界と認識した。そして魔法を使い、電脳空間という異世界からネオサイタマに帰ってきた。
「理解したようだな。さすが電子妖精だけあって頭が良い」
「まさか、そんな方法で」
「ワタシ以外だったらコトダマ空間でニューロン焼き切れたのにな。さてとマンキヘイ」
フォーリナーXXXはマンキヘイに指示を出すと携帯端末を前にかざしながらスノーホワイトの元へ歩いていく。
「特等席でご主人様がやられるところを見せてやるよ」
「スノーホワイト逃げるぽん!」
ファルは甲高い声で叫ぶ。スノーホワイトは声に応じようとせず、近づいてくるフォーリナーXXXを不屈の意志を漲らせながら睨みつける。
スノーホワイトは膝立ちになり片手でルーラを突く。だがその突きはあまりに弱弱しくマンキヘイに簡単に叩き落とされ組み敷かれ手を拘束され、フォーリナーXXXはスノーホワイトの体に馬乗りになる。
「ネオサイタマ風に言えばインガオホーだ」
左手でスノーホワイトの首を掴み逃れられないようにして、ファルが入っている携帯端末を持つ腕を上げると、タマゴを割るようにスノーホワイトの顔面に叩きつけた。顔面にめり込み肉が潰れ、骨が折れる瞬間がカメラに映し出される。
「やめてくれぽん!」
ファルは泣き叫ぶように懇願するが、一向にやめなかった。携帯端末で殴る耳を塞ぎたくなる音が規則正しいリズムで響き続ける。自分の体がマスターを痛めつける道具にされる。屈辱の極みだ。もし肉体があれば涙を流していただろう。
音が止まりフォーリナーXXXは立ち上がる。そこには変身が解けて気絶している姫川小雪の姿があった。
「これであの時は借りを返せたな。あとはどうするかな~モータルにファック&サヨナラでもさせるかな」
小雪の首を持って吊るしあげながら、顎に手を当てて悩まし気に首を傾げる。マズい。誰か、誰か助けてくれ。
するとフォーリナーXXXは突如首を勢い横に曲げる。すると前方にある『とまり木』のネオン看板が突如割れて火花を散らせながら明滅する。
「ドーモ、ドラゴンナイトです。スノーホワイト=サンはどこにやった!その女の子を離せ!」