ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター 作:ヘッズ
◇フォーリナーXXX
深夜の4階テナント室内、上座に位置している席にあるUNIXの稼働音が空しく響き、UNIXの画面に映し出される緑の光が「お客様ファースト」「真心込めて」「お客様は神様です」と書かれたショドーと飛び散り酸化した血痕がついた壁、そしてフォーリナーXXXと手足を拘束されたドラゴンナイトを怪しく照らし出す。
ここはマゴコロテイネイ社、4階建ての自社ビルで1階は工場になっており、お手製の高品質LANケーブルを製造している。ネオサイタマには珍しい高品質な商品と丁寧な接客で確かなニーズがある企業である。
この日も4階で部長が顧客の為にと深夜までサービス残業を行っていた。だがフォーリナーXXXに押し掛けついでのように殺され、死体は気持ち悪いとそこら辺の異世界に不法投棄された。
フォーリナーXXXは少しばかり質の良い椅子に背を預け、腕を組みながら目を瞑る。そしてUNIXの画面は生体LAN端子を接続せずキーボードにも触れていなのに勝手に動き、高速で数字が羅列される。
これは無線アクセス、ハッカーの間でオカルトとされているコトダマ空間を認識した者だけができる特殊な技術である。フォーリナーXXXはソウルの力を得るためにキンカクテンプルに近づいた際にコトダマ空間を認識していた。
コトダマ空間を通したUNIXへの無線アクセスが出来ることを知ったのはニンジャスレイヤーとスノーホワイトと戦った後だった。
あの2人をいかにドラマチックに殺すか、ドラゴンナイトへのインタビューなどを通してアイディアを思いついた。サワムラ・イチジュン。ドラゴンナイトのソンケイを集めたセンパイ。そしてスノーホワイトとも顔見知りだ。
サワヤカプリンスはメディアに騒がれ、ハラキリ自殺した。その原因になった試合はジングウスタジアムで行われた。そしてスノーホワイトがドラゴンナイトの元から離れたのもこの試合の後らしい。友人のセンパイが散った場所でスノーホワイトも散る。中々に良いシュチュレーションだ。場所も広くて良い。
2人と戦う場所はジングウスタジアムで決定だ。テーマはラスボスに挑む主人公達であり、最終決戦の場所としては悪くはない。
フォーリナーXXXは異世界のアイテムを使いニンジャスレイヤーとスノーホワイトの場所を把握し、メッセージを送った。日時は特に考えず勢いでてきとうに決めた。
メッセージを送った後ある考えが過る。ただ野球場で戦うだけじゃ詰まらない。もっとラスボス戦っぽく演出したほうが楽しいでは。フォーリナーXXXは今までの人生経験─主にRPGゲームの記憶─からアイディアを捻りだし、アイディアを実現する為に行動を始める。
必要なのは雑魚敵、中ボス、ステージギミック。
雑魚敵はアマクダリと戦った際にいたサングラスの雑魚達、確かクローンヤクザと呼ばれる男達がいい。あの人格を統一された感じの無個性ぶりと弱さと数の多さはまさに雑魚敵だ。
そして中ボスはニンジャがいい。数は4人、5人でも悪くは無いがやはり中ボスといえば四天王だろう。
ステージギミックは謎解き系だろう。プレイしている時は難しくて面倒くさくコントローラーを投げたくなったが、今思えばあれは必要な要素だ。ニンジャスレイヤーとスノーホワイトにも体験してもらう。
アイディアが纏まり、フォーリナーXXXはクローンヤクザ集めから開始する。生身だとあまりにも雑魚すぎるので、銃火器もついでに集めたい。意気揚々とネオサイタマに出るがさっそく躓く。
クローンヤクザはどこで買えるのか?フォーリナーXXXは魔法で来た異世界の一般常識などのある程度の知識はインプットされる。だがクローンヤクザはアンダーグランドな存在であり、インプットされていなかった。
今から聞きこむのも面倒だとやる気が削がれているなか、元の世界のPCについて思い出す。PCで検索すれば大概のことは知ることができた。ネオサイタマでも案外そういうものかもしれない。
フォーリナーXXXは早速居座っている家のUNIXを使い調べ始める。そこでコトダマ空間を使った無線アクセスを習得し、必要な情報を収集した。
コトダマ空間を使ったアクセスは楽しかった。論理肉体でネットワークの海を漂い、実体化しモンスターとなったプロテクトを解除していく。まるでVRゲームのようだ。
フォーリナーXXXはコトダマ空間を通した無線アクセスに夢中になり、遊び半分で企業機密にハッキングしながら準備を進める。
クローンヤクザや銃火器を買う金はハッキングで自分の銀行口座に入れておいた。店に行って強奪できるがいちいち店に行くのは面倒くさい。ネット通販のように金を払って店側から運んでもらう。
中ボス担当のニンジャ達は裏仕事を請け負っているフリーランスニンジャとコンタクトし、契約を取り付け口座から依頼料を払っておいた。
仕事内容はスノーホワイトの殺害、ニンジャスレイヤーは知る人は知る存在らしく、恐れをなして依頼を拒否されたら面倒なので、存在は伏せておいた。
ギミックについては諦めた。謎を考えるのも思ったより難しく、ギミックを設置する時間も足りない。
ニンジャは無事に揃えることはできたがクローンヤクザはそうはいかなかった。販売先はメガコーポや大手ヤクザであって個人で買えるものではなかった。金さえ積めば買えるだろうと高をくくっており、この事実を知ったのは調べ始めてから暫く経った後で、仕方がなく大手ヤクザを襲撃した後、金を振り込んでクローンヤクザを買わせて何とか調達できた。準備が整ったのは指定日の1日前だった。
その後は暇つぶしのハッキング遊びができる高性能のUNIXを求め、目に付いたマゴコロテイネイ社に侵入し部長のUNIXを使用し現在に至っている。
フォーリナーXXXはハッキングをしながら、異世界のアイテムを使ってスノーホワイトとニンジャスレイヤーの動向を確認する。
特に変化なし、このままだと其処からジングウスタジアムに向かうだろう。主要道路にクローンヤクザを配置し迎撃させる。そして突破してスタジアム付近に配置した四天王達が出迎える。それを突破してフィールドに入ったら十字架に貼り付けにされるドラゴンナイトとふてぶてしく待ち構える自分。音響設備を使ってBGMを流し、アナウンサーにナレーションをさせるのもいいかもしれない。
脳内で設定を作り舞台を作り上げる。これがこんなに楽しいとは思わなかった。ゲームでRPGを作るというものがあるが、ただめんどくさいだけで面白さを感じなかった。作るよりプレイするほうが楽しいに決まっている。
その考えを改めなければならない。今なら寝食忘れてプレイするだろう。今回はかなり突貫だが今度行く異世界ではもっと綿密に長期的に計画を立てよう。
ターゲットと仲良くなり裏切ってラスボスとなり、ステージギミックも沢山作り、中ボスも雇った奴じゃなく、ターゲットと因縁をしっかり作りぶつける。
フォーリナーXXXはハッキングしながら歯を見せて獰猛な笑みを浮かべていた。
「なあ、こいつとこいつどっちを1番手にしたほうがいいと思う。アタシとしては1番手は巨漢キャラがかませっぽくて良いと思うけど」
フォーリナーXXXはハッキングをいったん中断して、ドラゴンナイトの顔前に雇ったニンジャの写真を突きつける。ドラゴンナイトは生気を失い濁り切った目で写真を無言で見つめる。その様子にため息をつく。
「何か知らないけど元気だせよ。ダイジョウブダッテ! スノーホワイトとニンジャスレイヤーがお前を助けてくれるって! 前回はたまたま勝ったけど紙一重だっただけだ。ニンジャスレイヤーは実際ヤバイし、スノーホワイトも魔法少女で正義の味方だ。魔法少女は思いの強さで覚醒する。正義の味方が覚醒して悪い敵を倒す。王道パターンだろ」
思いつく限りの励ましの言葉をドラゴンナイトに喋る。内心は負けるなどこれっぽっちもおらず覚醒が起きても叩きつぶす自信があり、万が一スノーホワイトが覚醒しても優れている自分が覚醒しない道理がないので覚醒して実力差は変わりない。2人に勝機は無い。
だがドラゴンナイトがそう思っては困るのだ。最後まで2人が勝つという甘い希望を信じ込んで声援とかを送ってくれなければドラマチックにならない。
「なあ、菓子喰うか?どっかの世界の王家御用達の菓子だ。異世界の菓子を食えるなんてお前だけだぞ」
魔法の袋から菓子を取り出しドラゴンナイトの口に押し付ける。だが一向に口を開かない。気が変わって口に入れて吐き出されたりしたらもったいない。
フォーリナーXXXはドラゴンナイトに押し付けていた菓子を自分の口に放り込む。いざとなったらハイになれる薬でも投与してテンションを上げさせるか、だが欲しいのは自然な感情であり、投与しすぎて廃人になったら困る。
廃人になった姿を見せつけるのもラスボスっぽいムーブだが、今回はそういう方向にはいきたくない。どうやって元気づけようかと頭を悩ませながらハッキングを再開した。
◇ドラゴンナイト
ドラゴンナイトは自己嫌悪の極致に居た。
フォーリナーXXXからニンジャスレイヤーとスノーホワイトに勝ったと自慢げに聞かされた。実際には意識を失っており勝った姿を見ていたわけではなく、悪党の言うことを信じる理由1つなど何一つない。だがベイビー・サブミッションされた記憶が信じさせた。
スノーホワイトとニンジャスレイヤーはドラゴンナイトにとって強さの象徴だった。だがフォーリナーXXXは強さの象徴が挑んでも勝てない巨悪だ。
ニンジャになったとしても無敵の存在になったわけではない。一歩間違えれば死んでいた相手もおり、ゲームメーカーには敗北しスノーホワイトとの組手では一回も勝てていない。
格上がいるのは分かっている。だがフォーリナーXXXは格上というレベルではない。どう足掻いても勝てない相手、その事実を痛みと恐怖で体中に刻み込まれた。
アマクダリを解体しセンパイの無念を晴らせれば死んでも構わないと思っていた。だがフォーリナーXXXの絶対的な力によってその想いは粉々に砕かれた。
死ぬのが怖い、生きたい。
フォーリナーXXXがスノーホワイトにメッセージを送った時は慮ったような風に自分の事を放っておいてフォーリナーXXXと戦わず逃げて欲しいと口にした。
だが本心ではない、スノーホワイト達が救援に来てくれてフォーリナーXXXを倒して生きたいと心の底から願っていた。
死への恐怖がドラゴンナイトの心を侵食していく。フォーリナーXXXがスノーホワイトとのエピソードを聞いた時は喋るつもりはなかった。何故悪党にスノーホワイトの情報を与えなければならない。決断的な意志で口を紡ぐつもりだった。
だが喋らなければ殺す。そしてスノーホワイトとドラゴンナイトに果たし状を送り、2人は絶対に来ると経歴を通して説明され、無駄死にするぐらいなら喋って助けを待つのが賢明だと説得された。
フォーリナーXXXがドラゴンナイトを思って言ったのではないのは分かり切っている。全て自分の為、自分の為にスノーホワイトの情報が欲しいだけだ。
だがドラゴンナイトの決断的意志は飴細工のように砕け話していた。
スノーホワイトとニンジャスレイヤーは勝てない。万が一勝てたとしても激しい戦いになるだろう。その戦いにドラゴンナイトはお荷物である。フォーリナーXXXは言葉では実力を持って叩きつぶすと言っているが、不利となったら人質を取るなど卑劣な手を使うだろう。それはこの数日間で分かった。
スノーホワイトを思うなら、枷にならないために自決しなければならない。だが死の恐怖が体を縛る。
正義の心を胸に抱き高潔で仲間を思う正義の味方、それがドラゴンナイトの理想であり、強くなくてもその精神は失っていないつもりだった。
だが現実は違った。生きるために友達が死地に来ることを願い、友達の為に自決できず、死の恐怖に怯える。ヒーローに憧れ勘違いした惨めで無力なガキ、それがドラゴンナイトだ。
その事実に気づいてしまい、自身を傷つけるように自己嫌悪の沼に深く深く沈みこんでいた。
◆◆◆
「次はどんな感じだ」フォーリナーXXXの論理肉体はメガコーポのネットワークセキュリティに侵入しながら呟く。セキュリティごとに構築されるイメージが異なっていく。魔法使いと騎士が守る城、近未来的なタワー。古代ローマにあったといわれるコロッセオ。その多種多様な世界に入り突破していく。それは一種のアトラクションだった。
イメージはネットワークに蓄積された情報とフォーリナーXXXのニューロンのコトダマ・イメージが構築されたものであることを知らない。今度のイメージは満月が浮かぶ竹林、満月の隣には黄金立方体が漂っている。この黄金立方体はどのイメージにもあった。疑問に思ったがすぐに考えるのをやめ侵入を開始する。
暫く進むとパブリックイメージのサムライが襲い掛かってくる。それらをカラテで撃破して先に進む。そして最後の一体が襲い掛かる。フォーリナーXXXは同じように撃破しようとパンチを打つ。「ンアーッ!」だが吹き飛ばされたのはフォーリナーXXXだった!ニューロンに動揺が走る!
これはハッキングか?フォーリナーXXXは動揺しながら分析する。遊び半分でハッキングしてきた。そして誰かが自分にハッキングしてきた。インガオホー!フォーリナーXXXは無線接続を切る選択肢を思い浮かべるが、ニンジャ魔法少女第6感が拒絶する。その判断は正しい。もし強制的に接続を切ればニューロンに多大なダメージを受けてしまう。
サムライは白黒の人型に変化していた。「オモシロイ!逆にニューロンを焼き切ってやる!」論理肉体は大剣を2つ作り出し人型に向かって行き斬りかかる!「ンアーッ!」白黒の人型は両手で大剣を受けるとケリキックで蹴りつけワイヤーアクションめいて彼方まで吹き飛ばす「やるな!」フォーリナーXXXは体勢を立て直し突っ込んでいく。
フォーリナーXXXは竹を足場にしニンジャでも実現不可能なスピードで周りに飛び跳ね攪乱する。「イヤーッ!」背後への一撃を白黒の人型は防ぐ、何たるヤバイ級のゲームプレイヤーめいた反応速度か!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」フォーリナーXXXはピンボールめいて飛び跳ね攻撃するが全て防がれる!
フォーリナーXXXのハッキング能力は圧倒的なタイピング速度によるものだ。タイピング速度というカラテでセキュリティをねじ伏せニューロンを焼く。ハッキング歴は浅いが高いコトダマ空間への適性とニンジャ魔法少女の力でヤバイ級のハッカーの実力を持っている。即ち相手もヤバイ級のハッカーである!
ネットワークで初めて遭遇するヤバイ級ハッカー、その実力にニューロンが撤退を告げるがニンジャ魔法少女であるプライドが拒絶する。戦って相手のニューロンを焼く!フォーリナーXXXは辺りを埋め尽くすほどの槍を作り出し射出する。だが同じように大量の蝶が現れ槍に纏わりつく。KABOOM!槍は爆発四散!
その間に白黒の人型は間合いを詰める「ンアーッ!」ローキック!「ンアーッ!」ミドルキック!「ンアーッ!」ゼロコンマ1秒以内で繰り出される3連撃!フォーリナーXXXはキリモミ回転し竹を破壊しながら吹き飛ぶ。その姿を見て白黒の人型は手をクイクイと曲げ挑発した。
「カスが!」フォーリナーXXXは激昂し襲い掛かる!「イヤーッ!」イーグルの形をした炎が白黒の人型に襲い掛かる!だが水柱が発生し全て消失!「イヤーッ!」空から落雷が襲い掛かる!だが避雷針が地中から生えて雷を吸収し散らす!白黒の人型はピストルを作り出し発砲!BLAM!BLAM!「ンアーッ!」両腕が吹き飛ぶ!
フォーリナーXXXは両腕を作り出しながら歯ぎしりする。目の前の相手は自分よりワザマエだ。脱出コマンドを何回も試したが、コマンドを打つより速く攻撃されコマンドを打てない。このままではニューロンが焼き切られる。「こんなの遊びなんだよ!」フォーリナーXXXは強制ログアウトの準備をする。
死んだら終わりだ。ハッキングなんて所詮お遊びだ。こんなお遊びより優先することがある。リアルファイトなら絶対に負けない。幾つもの言い訳をニューロン内で言い、逃げることを正当化していく。あとゼロコンマ数秒で脱出できる。強制ログアウトの衝撃に備えるために歯を食いしばる。
──WASSHOI!
「ンアーッ!」フォーリナーXXXの体に強制ログアウトとは別の衝撃が襲い掛かる。意識は現実世界に戻り後頭部に強烈な痛みが駆け巡り、目の前にはUNIXの画面が高速で近づき激突し液晶が粉々に砕ける。フォーリナーXXX吹き飛びながらも即座に受け身を取り後ろを振り向く。
そこには居るはずのないニンジャスレイヤーとスノーホワイトが居た。何故居る!?先ほど隠れ家に居るのを確認したはず!困惑と動揺がニューロンに駆け巡る。その間にスノーホワイトはドラゴンナイトを抱えると即座に魔法の袋に収納していた。この瞬間今までの苦労が水泡に帰すのを悟った。
「何してんだ!テメエラ!」2人と戦うに相応しい場所を見つけた。折角苦労してクローンヤクザを揃えた。中ボスのニンジャを揃えた。全てはドラマチックに殺す為に用意したものだ!全てが台無しではないか!それは3日3晩ショーギを打ち続け、オウテツミをかけた瞬間盤上をひっくり返されたショーギ指しめいた怒りだった。
「ドーモ、フォーリナーXXX=サン。ニンジャスレイヤーです」ニンジャスレイヤーは決断的な殺意を双眸に宿しながらアイサツし、スノーホワイトは静かな怒りを双眸に宿らせながら見つめた。