ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター   作:ヘッズ

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最終話 ニンジャスレイヤー・アンド・マジカルガールハンター・バーサス・ニンジャマジカルガール#5

♢スノーホワイト

 

 スノーホワイトの視界の端に超高速で流れるネオン看板や招き猫などのオブジェクトが映る。それはかつて新幹線の車窓から見た風景以上の速さで流れていた。

 これは相当な速度で自らの身体が動いている。正面を見ると黄金の立方体が少しずつ近づいていた。

 スノーホワイトはこめかみに血管を浮かせながら歯を食いしばり力を入れる。この異様な空間は何なのかなど様々な疑問が浮かぶが、今すべきはフォーリナーXXXによって作られた鎖で拘束されたこの状態から脱出することだ。

 だが鎖の拘束は強力で指一本すら動かせない。それで懸命に力を込める。何が起こるかは分からないが、このままでは絶対にマズいという予感を抱いていた。

 体感時間で数分だろうか、拘束が弱まり右手の指が動かせるようになった。手のひらを大きく広げるとそれに連動するように右肘の拘束が緩み、右肩の可動域が少しずつ広がっていく。

 そこから右手を使って、左腕や脚に絡みついている鎖を引き剝がしていき体の自由を得る。

 拘束から逃れられた。次は止まらなければ、腕を突き出し体を捻るなどするがスピードは一向に衰えない。すると進行方向上に直径10メートル程度の立方体の浮遊物体が数十個見える。スノーホワイトはその浮遊物体に体をぶつけ何度も進行方向を変えながら減速し続ける。

 十回ほど浮遊物体にぶつかると動きは完全に止まる。そこから窪みを利用し這い上がり立方体の上辺に立ち周りの景色を見渡す。

 ネオン看板がそこら辺にあるが文字化けしてよく見えない。そしてはるか下には緑色の海のようなものが見えた。

 

 ここは異世界のどこかだろうか?非現実的な光景もそうだが、身体の感覚もネオサイタマや元の世界に居た時より現実味がない。数秒ほど思考を巡らせ己が置かれている状況の悪さを認識する。ここが異世界だとしたら相当にマズい。

 異世界に出るにしても入るにしてもフォーリナーXXXの魔法が必要になる。だからこそ今まで元の世界に戻れずネオサイタマに居続けたのだ。そして今も同じ状況だ、いやさらに状況は悪い。

 今まではフォーリナーXXXの存在を感じられた。それはネオサイタマに居るという証でもあり、見つけて魔法を使わせれば帰られるという可能性があった。

 だが今はフォーリナーXXXの存在は感じられない。それはこの異世界から脱出する方法が無くなったということでもある。脳裏にこの異様な空間で朽ち果てる姿が鮮明に浮かび上がる。 

 魔法少女に変身すれば肉体でもなく精神も強靭になる。だが異世界、しかも物語に出てくるような文明レベルが落ちても最低限の生活が出来る場所ではなく、文明も何もない異様な空間だ。そんな空間から出られないと認めてしまえば精神は病み発狂してしまう者も居るかもしれない。しかしスノーホワイトは挫けず脱出する方法を模索する。

 この世界から出たとすればフォーリナーXXXはニンジャスレイヤーの元に向かっているだろう。そこでニンジャスレイヤーが破れたとすれば、相手は野放しになる。

 ネオサイタマで好き勝手暴れ、多くの者を虐げ搾取し不幸にする。それはネオサイタマだけではなく、他の異世界に移動しそこの住人達も悪い魔法少女によって不幸になる。

 

 そんな事はさせない。自分が描く理想の魔法少女は、懸命に生きて散っていった魔法少女達が自分に託した理想の魔法少女像は、悪い魔法少女が悪事を働こうとしているのに何もせずに勝手に絶望するなんて望まない。絶対に諦めず最後まで足掻き続ける。

 フォーリナーXXXは下に向かった。そこ行けばこの世界から脱出するヒントを掴めるかもしれない。行動方針が決まれば行動に移すのみだ。スノーホワイトは立方体から下に向かおうと足を踏み出す。

 

──キンカクテンプルに向かわれては困る──

 

 それは肉声ではなく魔法で聞こえた声だった。そして全く聞いたことがないタイプの声だった。

 スノーホワイトの魔法は多くの者の声が聞こえる。人間は勿論、生物ならどんな声も聞こえ、幽霊やAIなどの非生物の声も聞いたことがある。だがこの声は聞いただけで不安になる耳障りな声だった。

 声が聞こえた方向に振り向くと空間に亀裂が入っていた。そこから何かが這い出てくる。それは砂嵐ノイズが人型になったような存在だった。その人型ノイズは迷いのない動作で襲い掛かる。

 スノーホワイトの手にはいつの間にルーラと同じ形の武器が握られていた。その不可解な現象に意識を向けず襲撃者に意識を集中させ、横薙ぎで首を切断する。そのノイズは断末魔を挙げながら霧散していく。

 今のは何だ?スノーホワイトは謎の襲撃者について思考しようとするが中断する。まだ困った声は消えていない。すると次々に空間に亀裂が入り、人型ノイズが這い出てスノーホワイトを取り囲む。

 

「「「「「「「「「「「「ドーモ、インクィジターです」」」」」」」」」」」」

 

 人型のノイズは一斉に頭を下げ挨拶する。その声は僅かなズレもなく声が重なったことで大音量になっていた。

 

「キンカクテンプルが何か知りませんが、私はそれに向かうつもりはありません。退いていただけますか?」

 

 スノーホワイトは12体程に増えたインクィジターに意識を向けながら、敵意が無いと伝える。姿形や雰囲気から没交渉な可能性が高い。正当防衛といえど分身の一部を倒してしまったが、戦わないで済むなら戦いたくはない。

 

「「「「「「「「「01000110亞キン0100殺011カ薇麝00%10ク」」」」」」」」」」

 

 インクィジターはキンカクテンプルという言葉に大きな反応を見せると一斉に襲い掛かる。スノーホワイトは交渉が決裂したのを確信した。

 1体の飛び蹴りで襲い掛かるが半身で躱すと同時にルーラで心臓部を貫き、引き抜くと同時に横薙ぎで3体の首を飛ばし、下から這い寄る1体を踏みつぶす。

 相手は弱い。このまま全滅させて下に向かうと算段を立てる。だが5体ほど倒したはずのインクィジターの総数は減るどころか、20体にまで増えていた。

 スノーホワイトは最速で相手を倒していくが、それ以上のスピードでインクィジターは増殖し、気が付けば取り囲まれていた。

 スノーホワイトはルーラを振るいながら相手を倒しそのまま近くの立方体に向かって跳ぶ。このままでは数の暴力で押し切られると判断し逃走を図る。本来であれば下に向かいたかったが、余裕がない。

 

「「「「「%§¶ファファファ00インインインクィジターはゆるゆるゆる許さないです」」」」」

 

 インクィジターは即座に後を追う。その数は倍々ゲームのように増えていき、スノーホワイトはその気配を感じながら逃げ続ける。このままではジリ貧だ。何とかしなければと思考を巡らせるが、一向に打開策は浮かばず終わりのない逃走を続けるしかなかった。

 スノーホワイトは急ブレーキをかけて停止する。進行方向には立方体の足場はなく。辺り100メートルには足場になるような物体はない、遥か下には緑色の海が見える。いつの間にか行き止まりに追い込まれていた。どうする?来た方向とは逆だが一か八か下に飛び込むか?

 ふと異様な気配を察知し後ろを振り向くと目の前にはドリルのように回転するインクィジターの姿が飛び込んできた。咄嗟にルーラを構えて受け流し、相手は後方に飛んでいく。

 だがそれだけでは終わらなかった。2体3体とドリル回転するインクィジターが次々と襲い掛かる。スノーホワイトは必死に防御する。だが体は削られ、ルーラは粉々に砕け、最後は右腕が吹き飛んだ。

 

「「「「「「「「「「 010101010許01010101010sa010101010101ない」」」」」」」」」」

 

 インクィジターはノイズが混じった音声を発する。その数は数えるのが困難なほど増加し、文字通りスノーホワイトの周りを覆い尽くしていた。そして一斉に人差し指を差すと同時に指が緑色に輝き始め辺りを照らす。

 これは致命的な攻撃がくる。死の予感が過りながら必死に打開策を探すが方法は見つからない。インクィジターの指先の光が強まっていく。それは死へのカウントダウンを想起させ焦りを募らせる。

 スノーホワイトの脳裏に次々と映像や音声が浮かび上がる。実家の景色、家族との何気ない会話、友人達と下校している時に見た夕焼け、そして魔法少女としての活動の日々だった。

 魔法少女時代で浮かび上がるのは魔法少女狩りとして活動の映像ではなく。魔法少女試験が始まる前の時のものだった。

 人助けをした相手のお礼の言葉や笑顔、チャットで魔法少女談義を咲かせたり、皆で決めポーズを考えたりと楽しい記憶が蘇る。

 そしてラ・ピュセルの姿、一緒に魔法少女としての活動をして、終わり際に鉄塔で見た月、本当に綺麗でラ・ピュセルの楽しそうな表情は本当に眩しかった。

 

(ラ・ピュセルが助けてくれないかな)

 

 スノーホワイトは僅かに笑みを浮かべながら内心で呟く。誰かに助けを求め状況に流され続ける。それは魔法少女試験が終わる前のスノーホワイトであり、弱さの象徴だった。

 だが絶望的な状況の前に打開策が浮かばずついに心が挫けた。その結果、必死に変えようとしていた弱いスノーホワイトが顔をのぞかせ、死んだはずのラ・ピュセルに助けを求めるという妄想を抱いてしまった。

 

「伏せて!スノーホワイト!」

 

 スノーホワイトは身を屈める。空想に浸りながらも理想を貫こうと鍛えた体が反射的に動いていた。

 

「「「「「グワーッ!」」」」」」

 

 目の前には上下真っ二つなり苦悶の表情を浮かべた大量のインクィジターが爆発四散し、緑色の花火を咲かせていた。何が起こった?突然の状況変化に全くついていけず、キョロキョロしながら声がした方向を振り向く。スノーホワイトは思わず口を手で覆い、涙が零れるのを必死に抑える。

 目の前には騎士が立っていた。要所要所を籠手、胸当て、脛当て等で固めているが、女性らしさも残し、胸元や太腿などは露わになり、女性的な肉付きをしている。顔に視線を移すと紫のアイシャドーに爬虫類のような特徴的な瞳と視線が合う。信じられないが見間違えるはずがない!

 

「わが名は魔法騎士ラ・ピュセル!盟友スノーホワイトの剣として馳せ参じた!正義の剣の錆となるがいい!」

 

 死んだはずの魔法少女ラ・ピュセルがそこに居た。スノーホワイトが願ったあり得ない妄想は現実となっていた。

 

 

♢ラ・ピュセル

 

「そうちゃん、身体に気を付けてね。無理しないでね」

「うん、あとまたそうちゃんって言ったな。魔法少女の時はラ・ピュセルって呼んで欲しいって言ったのに」

「ごめんね。そうちゃん。あっ、また言っちゃった」

「もうそうちゃんでいいよ。理想のスノーホワイトがそうちゃんって言うなら、僕も呼ばれたがっているのかも」

 

 ラ・ピュセルとスノーホワイトはハニカミながらゆっくりと草原を歩く。その様子が睦まじいのか空に浮かぶ太陽は笑顔を浮かべている。

 今ラ・ピュセル達がいるこの世界は現実世界ではない。ここはねむりんが居る夢の世界と呼ばれる場所だ。そしてこのスノーホワイトも本物のスノーホワイトではない。

 

 ねむりんは魔法少女でスノーホワイトやラ・ピュセルとは知り合いで、N市で行われた魔法少女選抜試験での最初の脱落者である。だが肉体は死んでも夢の世界ではねむりんの残留思念的なものが存在していた。

 そして、ねむりんがいる夢の世界を乗っ取ろうとした悪党魔法少女が現れた。その悪党は魔法少女を夢の世界を乗っ取る為の栄養源にするために様々な時間軸から魔法少女を夢の世界に呼び寄せた。その栄養源として呼び出された魔法少女の1人がラ・ピュセルだった。

 そして栄養源の魔法少女を留まらせるために当人達にとって理想的な存在として生み出された存在が理想のスノーホワイトである。

 結局は呼び出された他の魔法少女によって悪党は成敗され、呼び出された魔法少女達は夢の世界から元に居た世界に帰ろうとしていた。

 

「今何か言った?」

「言ってないよ。どうしたの?」

「いや、スノーホワイトの声がした気がして」

「本物のスノーホワイトじゃない?」

「でも別れた場所と別の方角から聞こえたような。あっ、まただ」

 

 ラ・ピュセルは目を閉じ耳に手を当て集中し声が聞こえる方向に歩き始める。確かにスノーホワイトの声が聞こえてきた。詳しい内容は分からないが、楽しいや嬉しいではなく、辛いや苦しいや悲しいという感情が籠った声が聞こえてきた。

 

「元の世界に帰らないの?」

「ちょっと確認してからにする。スノーホワイトに何か有ったら嫌だし」

「私もついていく」

 

 2人は辺りを謎の声の主の捜索を始める。森を抜け山を登りながらひたすら進む。体感として数キロは走ったが、声は着実に大きくなり近づいている実感がある。

 

「何だこれは?」

 

 ラ・ピュセルと理想のスノーホワイトは足を止め、ある場所をじっと見つめる。空間の一部が黒く染まり01と緑色で書かれた文字が見える。一目見ただけでこの世界において異物であるのが理解できる。

 

「ここなの?」

「うん、この奥から聞こえてくる」

 

 ラ・ピュセルは不安そうに尋ねる理想のスノーホワイトの声に力強く頷く。間違いない、最初はかもしれないだったが、今は絶対と言えるほど確信を抱いていた。そしてゆっくりと黒い空間に手を伸ばすが緑色の放電が走り手が弾かれる。

 

「大丈夫そうちゃん!?」

「大丈夫、少し痺れただけだから、しかし中に入れないのか」

 

 手首を軽く振りながら黒い空間を見つめる。あの空間に間違いなくスノーホワイトは居て、悪い状況に陥っている。今すぐにでも助けたいが中に入れないとなるとどうしようもない。

 

「とりあえず、ねむりんに相談するか」

 

 ラ・ピュセルは独り言のように呟く。夢の世界はねむりんの庭のようなものだ。何か知っているかもしれない。ダメだとしてもこれは明らかに異常であり、報告すべき事案だ。2人は元来た道を戻る。

 

「う~ん?」

 

 ぱじゃま姿の魔法少女ねむりん、正確に言えばねむりんの残留思念的な存在はおっかなびっくりした様子で人差し指をつんつんと黒い空間を触り、ねむりんアンテナと呼ばれる髪にくっついている雲に顔が着いた物体と相談する。

 

「何なの?これが夢の世界の崩壊の予兆的なモノとか?」

「アニメ的にはありがちだけど、そういったモノじゃなくて害はないかな」

「そうか。それでこの空間の先に私が入れるように出来る?」

「う~ん、ねむりんが一緒に着いていけば可能だけど、ねむりんの管轄外というか、何が起こるか分からない場所だと思うよ。結構危ないよ。本当にスノーホワイトの声が聞こえるの?」

 

 ねむりんは不安と疑いの眼差しでラ・ピュセルを見つめる。この世界はねむりんの庭であり最も適応できているという自負がある。その自分が聞こえずラ・ピュセルが聞こえているとなると、幻聴ではないかと思わず疑ってしまう。

 その目を見たラ・ピュセルは何かを決意したように息を吸い込むと右腕を勢いよく突っ込む。黒い空間は放電し緑色の光が勢いよく光る。

 

「ウオオオ!」

「そうちゃん!?」

「ダメだよラ・ピュセル」

 

 理想のスノーホワイトとねむりんは思わずラ・ピュセルの体を掴み後ろに引き戻す。ラ・ピュセルの腕から煙があがっていた。

 

「そうちゃん何してるの!?」

「ねむりんが行きたくないなら自力で行かないと」

「そんな事したら黒焦げになって死んじゃうよ」

「あの先でスノーホワイトが苦しんでいるかもしれない、困っているかもしれない。そう思ったら居ても立っても居られない。それに違ったとしても困っている人が居るかもしれない。それを放っておくなんて魔法少女じゃない」

 

 スノーホワイトならきっと同じことを言って同じことをする。スノーホワイトのパートナーとして隣に並ぶためには同じ行動をすべきだ。正しいことをするために痛みや恐怖から逃げない。それが魔法少女だ。

 ラ・ピュセルは理想のスノーホワイトの静止を振り切り再び黒い空間に歩みを進める。その前にねむりんが立ちふさがる。

 

「ねむりんも着いていくよ」

「いいの?行きたくないんじゃ?」

「正直に言えば行きたくないよ。でもねむりんだって魔法少女の端くれだし、ああ言われちゃあね。それにスノーホワイトもラ・ピュセルもこの世界を救ってくれた恩人だしね。恩人の為なら人肌脱ぐよ~」

 

 ねむりんはラ・ピュセルに親指を突き立て白い歯を見せる。それを見てラ・ピュセルはありがとうと静かに笑った。

 

「気を付けてね、そうちゃん…」

「うん、行ってくる」

「約束して、危なかったらすぐに戻ってくるって。私は死んでまで人助けはしなくていいと思ってる。きっと本物のスノーホワイトもそう思ってるよ」

「分かった。困っている人を助けても、スノーホワイトを困らせちゃダメだよね」

 

 ラ・ピュセルは不安そうなスノーホワイトの肩に手を置く。正しい魔法少女で居るのも大切だが、大切な人を困らせ悲しませたらダメだ。

 

「行ってくるね~」

「行ってきます」

 

 2人は手を振りながら黒い空間に侵入していく。その様子を理想のスノーホワイトは静かに手を振りながら後ろ姿を見守った。

 

◆◆◆

 

「うわ」

「なんか色々と凄いね」

 

 2人は開口一番に呟く。予想としては多少の違いはあれど夢の世界のような場所に行くと思っていた。だが着てみれば辺りは暗黒に包まれ、所々にネオン看板が散乱しているという悪い夢で出てくるようなサイケデリックな場所だった。

 

「ラ・ピュセルはどう?」

「問題ない」

「よかった。とりあえずバリアーっぽいの張ったけど、機能しているっぽいね。それでスノーホワイトっぽい声は聞こえる?」

「聞こえる。あっちからだ」

「わかった。とう!」

 

 ねむりんはラ・ピュセルの手を取ると飛び上がる。そのスピードはかつてN市最速の魔法少女トップスピード以上に速かった。そのスピードにラ・ピュセルは驚愕していた。

 

「なんでそんな事できるの?」

「何かこの世界はねむりんが居た夢の世界と似ているみたい。だからあっちで出来たことはこっちでもほぼ出来るみたい。やったー」

 

 ねむりんはハッハッハと嬉しそうに笑い声をあげ、ねむりんアンテナも満面の笑みを浮かべる。その能天気な光景にラ・ピュセルの緊張感は若干薄れていた。

 それから体感時間で数時間は飛んだ。その間にねむりんが暇つぶしに何か話を聞かせてとせがまれたので、魔法少女活動から魔法少女アニメの持論について熱く語っていた。

 

「ねむりん!止まって!相当近い!」

「了解、ねむりんアンテナ感度最大~!」

 

 ねむりんはラ・ピュセルの真剣みに帯びた声に応じる様に唇を引き締めアンテナを展開し、アンテナの表情も眉を吊り上げていた。

 ラ・ピュセルは首を左右に勢い良く振って辺りを見渡す。これが声の最大限なのか強弱で位置を判別できない。あとは目視によって確認するしかない。

 すると視界の端に白い何かが砂嵐のようなノイズに追いかけられている姿を捉える。焦点を合わせると白い何かは人型であると分かる。一方砂嵐も人型で数も多い。

 そして白い人型にさらに焦点を絞る。白色の学校の制服風の服、飾られた花びら、ピンク色のショートヘア、間違いないスノーホワイトだ。

 

「ねむりん!見つけた!あそこにスノーホワイトが居る!」

「本当だ!ってヤバイ状況っぽい。ラ・ピュセル捕まって」

 

 ラ・ピュセルはスノーホワイトに向かって飛んでいくねむりんの手に捕まる。向かっている間はスノーホワイトの様子を見る事に全ての意識を集中する。スノーホワイトの表情には焦りや恐怖が強く刻まれていた。

 それを見るたびに胸が締め付けられ身が裂けそうになると同時に相手に対して魔法少女あるまじき憎悪がこみ上げてくる。

 今すぐにでもスノーホワイトを助けたいが距離が遠すぎる。このスピードならあと20秒ぐらいで駆けつけられる。1秒があまりにも長く数十時間に感じていた。

 

 あと10秒というところで人型のノイズがドリルのように回転してスノーホワイトに突っ込んでいく。

 スノーホワイトは懸命に防ぐがコスチュームの切れ端が舞っていく。あと少しだけ耐えてくれと唇を噛みしめながら堪える。さらに持っていた武器の破片みたいなものが飛び散り、何かが吹き飛び粉みじんになる瞬間を視界に捉える。

 スノーホワイトの腕が飛んだ。あまりの出来事に思考が停止する。その間に人型のノイズはスノーホワイトを取り囲む。そして現実を咀嚼し理解する。その瞬間に怒りがつま先から頭まで駆け巡る。

 ラ・ピュセルは持っている柄を投げ捨て剣を振り被る。固有魔法は「剣の大きさを自由に変えられるよ」であり、剣を大きくすれば離れた敵にも攻撃できる。

 だが相手との距離はかなり離れていて優に1キロメートルはあった。そこまで届くほど大きくすれば巨大になり過ぎて到底剣を振り切れない。それは魔法少女の活動で十二分に理解していた。それでも構わず魔法を使う。スノーホワイトを守る。スノーホワイトを傷つける相手を倒す。頭にあるのはその2つだけだった。

 

「伏せて!スノーホワイト!」

 

 このまま剣を振り切ればスノーホワイトを斬ってしまうと理解できる理性は残っていた。警告を済ますと怒りを全てぶつけるように剣を振るう。

 全長約1キロメートルという非現実的な剣を難なく振るい。多くのノイズを切り捨てる。

 

◆◆◆

 

絶体絶命のスノーホワイトのピンチに死んだはずのラ・ピュセルが駆け付けた!ALAS!何という奇跡!「ラ・ピュセル!」スノーホワイトは思わず傍に駆けつけたラ・ピュセルに抱き着く。「スノーホワイト!その腕は大丈夫!」一方ラ・ピュセルは悲し気に右腕に視線を向ける。

 

「これ?痛みはないよ。それより何で?だって……ラ・ピュセルは……」スノーホワイトはその後の言葉を止める。ラ・ピュセルは確かに死んだ。それは間違いない。だが口にしてしまえば今起こっている奇跡が無くなり、居なくなってしまうような気がしていた。

 

「何でって?それはスノーホワイトの助けって声が聞こえたから、私はスノーホワイトを守る剣だ。駆けつけるのは当然だろ」ラ・ピュセルは頬を掻きながら恥ずかしそうに呟く。その言葉にスノーホワイトは流れる涙を隠すように頭をラ・ピュセルの胸元に埋めた。「また未来でって言ったけど、こんなに早く会えると思わなかったよ」

 

ラ・ピュセルは嬉しそうに呟く。今目の前に居るのは夢の世界で会ったスノーホワイトではなく、いつも隣に居る優しくて少し臆病なスノーホワイトだ。アトモスフィアで分かる。きっとこの世界でも誰かを助けるために戦っていたのだろう。「また未来で?」スノーホワイトは不思議そうに首をかしげる。未来で会おうと約束した覚えはない。

 

「01000110亞意0100殺011螺薇麝00%10」スノーホワイト達にインクィジターが襲い掛かる!まだ生き残りが居た!2人は迎撃する態勢が整っていない!「ねむりんビーム」ZAAAAP!極彩色の光線がインクィジターを焼き尽くす!光線の先には額に両中指と人差し指を額に着けたパジャマ姿の少女がいた。

 

「ねむりん!」スノーホワイトは思わず叫ぶ。ねむりんも魔法少女選抜試験で命を落とした魔法少女だ。ラ・ピュセルが居るだけでも奇跡的なのに、さらにねむりんまで現れ助けてくれた!おお、ブッダよ!アナタは何と慈悲深いのですか!「無事でよかったよスノーホワイト」ねむりんはスノーホワイトに近づく。

 

「ありがとう、ねむりん」スノーホワイトはねむりんの手を取り、涙声で礼を言う。「ねむりん達は何でここに来たの?」「ラ・ピュセルがスノーホワイトの声が聞こえるって言うから、それを便りに来たんだよ。ここは夢の世界に似ているから、ねむりんフルパワーだよ。助けてもらった恩は返すね」

 

ねむりんはボディービルダーめいて力こぶを見せるようなポーズを決める。一方スノーホワイトは再び首をかしげる。ねむりんを助けた覚えはない。寧ろ生前は世話になりっぱなしだった。「む、覚えていないのかな~残念」ねむりんは肩をがっくりと落とす。「そもそも、どうやってここに来たの?」スノーホワイトは思わず2人に質問をぶつける。

 

ねむりんの魔法は「他人の夢に入れるよ」だ。フォーリナーXXXのように異世界を行き来できる魔法ではない。「え~っと、夢の世界に黒い空間があって、そこを抜けたらこの場所に着いた」スノーホワイトはねむりんの答えに納得できなかった。

 

ニンジャスレイヤーが住む世界にはオヒガンと呼ばれる世界がある。そこはアノヨ、ヴァルハラ、ゲシュタルトなど様々な名で呼ばれる超自然的な精神世界が存在し、コトダマ空間はネットワークにオヒガンが混じった空間である。そしてスノーホワイトが住む世界にも同じような精神世界が存在していると唱える学者もいる。

 

それは集合的無意識と呼ばれ、夢も集合的無意識であり、複数人が同じような内容の夢を見たという事例があるが、集合的無意識のイメージを同時に感じ、夢として見ているとも言われている。オヒガンと集合的無意識は似た性質を持つ精神世界であるが、交わることは決してなかった。

 

だがフォーリナーXXXの魔法によりスノーホワイトの世界からネオサイタマへ、物理世界からコトダマ空間と移動し、それにより道が生じ繋がり本来交わるはずのないオヒガンと集合的無意識は繋がる。その結果がねむりんの夢の世界に出来た歪であり、そこからオヒガンに行けるようになっていた。

 

ねむりんは夢を司る魔法を使え集合的無意識の住人ともいえる。集合的無意識とオヒガンは似たような性質があるがゆえに極めて高いコトダマ空間適性を得ていた。だからこそコトダマ空間で自由に動けていた。そしてスノーホワイト達とねむりん達の認識に齟齬があるのはコトダマ空間の性質が由来となる。

 

コトダマ空間は過去と現在と未来が行きかう不思議な空間である。かつてニンジャスレイヤーも未来では会うが、現時点で出会っていないシルバーキーとコトダマ空間で出会っている。それと同じ現象がスノーホワイト達にも起こっていた。

 

ねむりんとラ・ピュセルはスノーホワイトにとっては過去の人物だ。スノーホワイトは未来でねむりんによって夢の世界に誘われ再会するが、今のスノーホワイトはまだ夢の世界に行ってはいない。一方ラ・ピュセル達は今しがた夢の世界に来たスノーホワイトと分かれたばかりだった。

 

「さてと、スノーホワイトを助けて一件落着ってわけにはいかなそう」ねむりんはうんざりと呟く。「「「「「ドドドドドーモ、インクィジターです」」」」」周りには多重ログインめいて大量増殖したインクィジターがいた。「とりあえず倒そう。スノーホワイトは休んでいて」「私も戦う」スノーホワイトはルーラを生成して左手で構える。

 

「だめだ、休んでいて」「早く撃退して、悪い魔法少女を追わなきゃいけないから」「分かった。さっさと倒して悪い魔法少女を追いかけよう」ラ・ピュセルはスノーホワイトを一瞥して背中を合わせる様にして剣を構える。

 

先程までは一緒に魔法少女活動をしているスノーホワイトのアトモスフィアがあった。しかし今のスノーホワイトにはそれらが無く決断的意志を感じた。優しさの中に強さを持った夢の世界で会ったスノーホワイトの姿だった。「ねむりんもがんばるよ」ねむりんもフィクションめいた構えを作る。

 

「トゥ!」ねむりんはカートゥーンヒーローめいた飛び蹴りをインクィジターに放つ!「グワーッ!」インクィジターは爆発四散!「トゥ!」「トゥ!」ねむりんはインクィジターを足場にして連続跳び蹴り!あまりの速さにねむりんが多重ログインめいて増える!なんたる魔法少女にも不可能な非現実的なカラテか!

 

「「「「グワーッ!」」」インクィジターはタマ・リバーの花火めいて連続爆発四散し辺りを照らす!「う~ん、ちょっとグロいかも。もっとメルヘンチックに倒したいけど無理みたい。ごめんね」爆散するインクィジターを見て眉をひそめながら 連続跳び蹴りを繰り返す。

 

「「「「イヤーッ!」」」」大量のインクィジターがバイオピラニアめいてスノーホワイトとラ・ピュセルに襲い掛かる「ハァアア!」ラ・ピュセルは剣を巨大化させインクィジター達をサイコロステーキめいて切り捨てる!タツジン!だが取りこぼした一部がラ・ピュセルの後頭部に襲い掛かる!

 

「グワーッ!」スノーホワイトがインクィジターをケバブめいて刺殺!「01000110亞意0100殺011螺薇麝00%100010101」インクィジターが意味不明な声を挙げながらスノーホワイトに襲い掛かる!「「「「グワーッ!」」」」スノーホワイトは連続突きで撃退!あまりの突きの速さで残像が壁を作る!明らかに現実世界よりカラテが増している!

 

「ラ・ピュセル、私もだよ」スノーホワイトは背中越しにポツリと呟く。その言葉にラ・ピュセルはバツが悪そうに笑う。ラ・ピュセルから『スノーホワイトと一緒に戦えて嬉しいとバレたら困る』という声が聞こえてきた。ラ・ピュセルは夢の世界でスノーホワイトに一緒に肩を並べて戦おうと約束した。今その約束が叶い嬉しかった。

 

しかし戦いは魔法少女の本分ではないとも理解し、戦いを楽しんでいると知られたら嫌われてしまうと思い、それが困った声に現れていた。一方スノーホワイトも同じだった。魔法少女の本分は戦いではなく人助けだ。それでも過去は守られてばかりだったラ・ピュセルを守れるのが嬉しかった。

 

「ねむりん、危ないから戻ってきて!」「了解」ねむりんは指示に従いラ・ピュセルの傍により、スノーホワイトも声を聞いて傍による。「ハアァァァ!」ラ・ピュセルは巨大化した剣の刃ではなく刀身が当るように握りを変えて、ハンマー投擲めいて回転する!ラ・ピュセルを中心に竜巻が発生!何たる魔王塾出身者でも不可能なカラテか!

 

「「「「グワーッ!」」」」インクィジター達は竜巻に巻き込まれ爆発四散する!魔法少女は想いの力、精神によって強さが上下する。今のラ・ピュセルはスノーホワイトを間一髪で助け、夢だった肩を並べて戦うというシュチュエーションに最高に気分が高まり、かつてないほどカラテが上昇していた!

 

「0101010簑01010101覇01010101」インクィジター達は襲い掛からず、3人を観察するように静観する。「ありがとう2人とも、あとは大丈夫だから元の世界に帰って」スノーホワイトは告げると下に移動する。目的はインクィジターを倒す事ではない、ネオサイタマに帰る事だ。今が逃げられるチャンスだ。

 

スノーホワイトは落ちながらインクィジターの様子を確認する。追ってこない、キンカクテンプルに近寄るつもりはないと理解したのか。「待ってスノーホワイト」「ねむりん達もついていくよ」ラ・ピュセルとねむりんが追い掛けるようにスノーホワイトの横に並ぶ。「あの化け物みたいなのが居るかもしれない」「そうだよ」

 

「分かった。じゃあお願いするね」スノーホワイトは一瞬考え込んだ後笑みを浮かべながら了承する。この世界は未だに全容を掴めていない、この空間では明らかに自分より強いねむりんとラ・ピュセルが居るのは心強い。何より死んだ2人と再会し一緒に過ごすという奇跡を1秒でも長く味わいたい。

 

ねむりんはスノーホワイトとラ・ピュセルの手を掴み、下に向かって滑空移動する。その移動スピードはフォーリナーXXXがスノーホワイトを掴んで上昇するスピードと同等だった。3人は7つのトリイゲートを通り過ぎ下に向かっていく。するとねむりんは停止し、ある方向を指さす。そこには空間に亀裂が入り白い光が漏れていた。

 

「たぶん、ここから出られるよ。これ使って」ねむりんは手を合わせると鍵のようなものを生成し、スノーホワイトに渡そうとするがその手が止まる。「あっ、まだ調整が必要だからラ・ピュセルとお喋りしながら待っていて、大丈夫、この世界で長居しても、スノーホワイトの世界では数秒程度だと思うよ」

 

ねむりんは不自然な笑みを浮かべながら、飛び立っていき、スノーホワイトとラ・ピュセルだけになる。「じゃあ、お喋りする?」「いいよ」スノーホワイトが少し他所他所しく切り出すとラ・ピュセルは頷き、2人はその場に座り込んだ。

 

♢スノーホワイト

 

(ありがとう、ねむりん)

 

 スノーホワイトは心の中で礼を言う。本来であれば一秒でも速くネオサイタマに帰らなければならない。だがネオサイタマに戻るとなると、もう少しだけラ・ピュセルと一緒に居たいという気持ちに後ろ髪を引かれる。

 その気持ちを察したのかねむりんは席を外し、時間の流れが違うからいくらでもお喋りしても問題ないという大義名分を与えてくれた。

 魔法少女狩りとして鉄仮面と揶揄される事もあり、ポーカーフェイスが身に着いたと思ったがこうも簡単に考えがバレたと思うと少しだけ恥ずかしくもあった。

 

「スノーホワイトが今居るのは?どんな世界なの?」

「今いるところはネオサイタマって都市、基本的に私達の世界と一緒かな、歴史も結構似ている。でも所々変かな。寝間着は柔道着だし、空にはマグロの形やこけし人形の形をした飛空艇がコマーシャルを流しているよ」

「何か凄いね」

「あと魔法少女モノもあるよ」

「へえ~、魔法少女モノがあるんだ。異世界でも流行ってるんだ」

「といっても魔法が忍術になってニンポ少女モノって呼ばれている。でも内容は変わらない」

「ニンポ少女か、何かアメリカの人が考える変な日本のアニメみたい」

 

 2人は取り留めのない会話を続ける。スノーホワイトは異世界について喋って何か影響が出ないかと心配したが、その心配はすぐに消えていた。

 何気ない会話が楽しく心を癒していく。脳裏には魔法少女活動の後で鉄塔の上で喋り合った日々の記憶が蘇っていた。

 

「ねえ、スノーホワイト、どうしてもそのネオサイタマに帰らなきゃならないのか?ねむりんなら夢の世界経由で元の世界に帰せるかもしれない」

 

 ラ・ピュセルは心配そうに尋ねる。道中でお互いの事を教え合った。ラ・ピュセルは夢の世界に召集された死ぬ前のラ・ピュセルであり、その夢の世界で未来のスノーホワイトに出会った事、スノーホワイトは悪い魔法少女を追ってネオサイタマに来たのを教えた。

 ラ・ピュセルの困った声が大音量で響き渡る。スノーホワイトが危ない目にあったら困ると心配する声が次々に聞こえる。

 

「それは出来ない。このまま元の世界に戻ったらフォーリナーXXXを野放しにすることになる。それだとネオサイタマの人々が苦しむ。他の世界に行ってもっと多くの人が苦しむ。私がやっつけて止めないと」

 

 スノーホワイトは静かに首を振る。ねむりんの力で再びネオサイタマに行けるなら考えなくもないが、出来るという保証がない以上帰るわけにはいかない。

 そして手のひらを強く握りしめる。大好きな魔法少女が悪事をするのが許せない。他の世界の人が魔法少女を悪く思ってしまうのが許せない。ラ・ピュセルはフォーリナーXXXを認めない。決意を固める様に動機を思い浮かべていく。

 

「やはり、未来のスノーホワイトは私が知るスノーホワイトとは違うのだな」

「どのへんが?」

「やっつけるなんて言わずに、『こんなの魔法少女らしくない』って必死に説得すると思う」

 

 ラ・ピュセルは思い出すように笑みを浮かべる。その笑みはスノーホワイトの心に棘を刺す。確かに昔の自分であれば泣きながら懇願するだろう。それで止めてくれればいくらでもする。

 だが今まで捕まえた魔法少女やフォーリナーXXXはその姿を見てゲラゲラと笑いながら暴力を行使し、信じられないと動揺する姿を見て腹の底から笑うだろう。魔法少女としての本質を見失った者が蔓延っているのが現状だ。

 

「ねえラ・ピュセル、夢の世界で会った私や今の私は嫌い?」

 

 スノーホワイトは僅かに声を震わせながら尋ねる。やっつけると言ったがかなりマイルドにした表現だ。

 ネオサイタマに戻ってから行うのはルーラで切り裂き石突きで殴り暴力で屈服させ改心させる。それでも改心しなければ魔法の国の監査部に送りつける。

 その姿を見たらラ・ピュセルは目を覆い失望するかもしれない。自分だってTVの中の魔法少女のように相手の良心に訴え続け改心させたい。だが現実はあまりに非情で誰も耳を傾けない。

 それはTVの中の魔法少女のような愛や勇気が足りないからかもしれない。暴力という手段を選んだ時点で魔法少女失格なのかもしれない。それでも理想の魔法少女であるために挫けそうになっても頑張り続けている。

 

「私が知っているスノーホワイトは少し弱虫だけど頑張り屋で優しい理想の魔法少女だ。でも今のスノーホワイトは気高く逞しくカッコイイ」

 

 ラ・ピュセルは一瞬照れながらも真っすぐな瞳でスノーホワイトを見据え答える。カッコイイはこの年頃の男の子にとっては最大重要項目らしい。その基準で言えば最大級の誉め言葉だった。

 

「今のスノーホワイトの考えになったのは色々有ったからだと思う。きっと凄い事が。悪い魔法少女をやっつけるとか手段は変わっても、スノーホワイトの根っこの部分は変わっていない。だから私はスノーホワイトを肯定して断言する。魔法少女スノーホワイトは今もこれからも清く正しい理想の魔法少女だ」

 

 スノーホワイトの手をラ・ピュセルは優しく包み込み温もりが伝わる。悪い魔法少女を摘発して魔法少女狩りと呼ばれるようになってもこれが清く正しい魔法少女なのかと常に自問自答を続けていた。

 リップルやファルは己の活動を肯定してくれる。それでも自信を持てなかった。もしラ・ピュセルやハードゴアアリスが見たら何と言うだろうか?

 ラ・ピュセルは励ますために言った建前かもしれない。実際に見たら軽蔑するかもしれない。それでも肯定してくれたという事実は何よりの支えとなっていた。

 

「あっ、ごめん!馴れ馴れしかったかな」

「そんなことない」

 

 ラ・ピュセルは慌てて手を放そうとするが、スノーホワイトが逆に握りしめる。お互いの身体は肉体でなく精神体のようなものだ。それでもラ・ピュセルの温もりが、そして優しさや親愛が伝わってくるような気がして、少しでも触れ合いたかった。

 スノーホワイトは数秒間握りしめる。ラ・ピュセルは顔を紅潮させながらも強引に手を振りほどかずじっとしていた。

 

「ねむり~ん!調整終わった~?」

 

 スノーホワイトは遠くに行ったねむりんに聞こえるように声を出す。その表情はとても晴れやかだった。

 

「じゃあ、これを亀裂に差し込んで」

 

 ねむりんから受け取った鍵を亀裂に差し込むと空間に白い長方形が作られる。

 

「ねむりん本当にありがとう。私だけだったらここで死んでた」

「気にしないで、知り合いと冒険するのは初めてだから楽しかったよ」

 

 ねむりんはフワフワと浮かびながら答える。いつもチャットで話を聞いてくれたねむりん、彼女との思い出は楽しい記憶として残り続けている。その姿を記憶に刻み込もうとじっと見つめた。

 

「出来るのであればスノーホワイトの剣として馳せ参じたいのだが」

「大丈夫ラ・ピュセル、私はあの頃の泣き虫じゃなくて少しだけ強くなったから」

「ではスノーホワイトの武運を祈っている」

 

 ラ・ピュセルは演技がかった動作で片膝立ちし激励の言葉を送る。絶体絶命のピンチを救ってくれた。それは弱いスノーホワイトの象徴である。魔法少女狩りとしては恥じるべきなのだが、心の底から嬉しかった。

 そして魔法少女試験が終わってからの魔法少女スノーホワイトを肯定してくれた。それはこれからの魔法少女生活を支える最高の激励だった。

 

「じゃあね」

 

 スノーホワイトは2人に手を振ると白い長方形に向かって歩みを進める。だが数歩手前で歩みを止め振り返り告げる。

 

「ラ・ピュセル、最後に…お願していい?」

「いいよ」

「そうちゃんって呼んでいい?そして私を小雪って呼んで」

 

 幼い頃は愛称であるそうちゃんと呼んでいた。そして魔法少女として再会すると魔法少女ラ・ピュセルであり、そうちゃんと呼ぶのを禁止した。

 ビジュアルイメージは騎士であり、言動や仕草も騎士らしく心掛け愛称で呼ばれるとイメージが崩れると、2人きりでも嫌がっていた。

 スノーホワイトも意思を尊重し、うっかりと呼びはするが自分の意志で呼びはしなかった。それでもラ・ピュセルは魔法騎士ラ・ピュセルであると同時に幼馴染の岸辺颯太でもある。そして魔法少女スノーホワイトではなく、姫川小雪として話したかった。

 

「いいよ、小雪」

 

 ラ・ピュセルは何かを察したのか反論せず小雪と呼び、スノーホワイトはそうちゃんと呼び返す。

 

「そうちゃんと一緒に魔法少女として人助けをしてマジカルキャンディーを集めて、鉄塔でお喋りして、本当に……本当に楽しかった。あの日々は私にとって一生の宝物だから」

「楽しかったって、僕達はずっと魔法少女として人助けするんだろう」

「そうだね」

 

 スノーホワイトはその言葉に一瞬動揺するが笑顔で動揺を隠す。目の前に居るラ・ピュセルは自身に起こった事は知らない。ならば悟らせてはならない。魔法少女活動で培ったメンタルコントロールで感情を抑え込む。

 

「もしかして小雪と分かれちゃうの?引っ越し?」

「ううん違うの、さっきのは言葉の綾、今までも楽しかったし、これからも一緒に居て楽しいんだろうなって」

「そうだね。これからもずっと魔法少女でいよう。中学卒業しても高校でも人助けしてさ、もしかして地元を離れたとしても連絡を取り合って、お互いが住んでいる場所に行って人助けしよう。就職して結婚しておじいちゃんおばあちゃんになっても魔法少女であり続けよう」

「そうだね。ずっと魔法少女でいよう」

 

 濁流のように表に出てきそうな感情を抑え込むように心臓に手を当てる。それが出来たらどれだけ素敵だろうが、だがその未来は絶対におとずれない。

 

「そうちゃんは理想の魔法少女だって言ってくれたけど、そうちゃんこそ理想の魔法少女だよ。優しくて強くて自分で選んで行動できる。私の目標はそうちゃんだから」

 

 魔法少女選抜試験が始まり、状況に流され怯えるだけの自分を守り一緒に生き残ろうと行動した。ラ・ピュセルこそ理想の魔法少女だ。

 

「面と言われると照れるな。じゃあお互いがお互いの良いところを見習って頑張ろう」

 

 そうちゃんは手を差し出しその手を取る。そのぬくもりを体に刻み込むようにぎゅっと握った。小雪と呼ぶ優しげな声、仕草の1つ1つを脳に刻み込んでいく。

 

「じゃあね、そうちゃん!」

 

 スノーホワイトは何度も手を振りながら後ろ歩きで白色の長方形の中に消えていった。

 

 

◆ファル

 

 重金属酸性雨が魔法の端末を打ちつける。気が付けばフォーリナーXXXとスノーホワイトの姿が消え、魔法の端末が路上に放置されていた。

 恐らくフォーリナーXXXが魔法を使って異世界に飛んだ。しかし自分はスノーホワイトと一緒に飛ばされなかった。服と同様に連れていかれると思ったが、許可されなかったのか?

 ファルはフォーリナーXXXの魔法について考察を始める。すると空間から突如フォーリナーXXXが突如姿を現す。周りを一瞥すると魔法の袋から恐竜のような生物を取り出し、それに乗って離れていく。

 ファルは考察を中断し魔法少女センサーを起動する。そのセンサーの範囲から瞬く間に離れると監視カメラをハッキングし追跡する。スノーホワイトはまだ戻らずこの世界に戻す術も知らない。今出来ることはスノーホワイトが即座に追えるように追跡する事だ。

 

 それから十数秒後ぐらいにスノーホワイトが姿を現す。

 

「スノーホワイト!」

 

 ファルは思わず声をあげる。戻ってくれると信じていながらもこのまま戻らないのではと不安が膨らみ続けていた。

 

「ファル、フォーリナーXXXは?」

「この場に居ないぽん、監視カメラをハックして追跡中ぽん」

「たぶんニンジャスレイヤーさんのところに向かっているはず、案内して」

 

 スノーホワイトは立ち上がろうとするが左わき腹に視線を向け一旦止まる。ファルは即座に容体を確認する。消える間際にフォーリナーXXXの攻撃を受けたのだった。左わき腹の傷は致命傷ではないが、戦闘不能で適切な治療を受けなければ死ぬレベルだ。

 するとスノーホワイトは魔法の袋から糸と針を取ると左わき腹を縫合する。電子妖精に表情筋は存在しないが、もし存在すれば思わず顔をしかめていただろう。

 いくら魔法少女でも麻酔無しで縫合は相当に痛い。しかも自分で縫合するとなれば痛みや恐れで手が多少なり止まるはずだが、その手は一切止まらず傷を縫合し飛び立ち、看板や壁を伝ってビルの屋上から屋上へ移動する。

 

「痛くないぽんというより何で動けるぽん?」

 

 ファルは思わず問いかける。いくら傷を縫ったところで怪我治るわけではない。あの傷は普通であれば戦闘どころか、動き回るのも困難だ。だがいつもと変わらず動けている。あまりにも不可解だった。

 

「こんな傷でへこたれている暇はない。私は魔法少女としてフォーリナーXXXを止めないといけない」

 

 スノーホワイトは基本的に感情を見せない。リップルなどに会えば素の表情を見せるが、それ以外では魔法少女狩りというキャラクターを演じる様に冷静に淡々と喋り行動する。だが今の言葉には感情がむき出しになっていた。

 そしてさらなる変化にファルは訝しむ。スノーホワイトの左わき腹の怪我が驚くべき速さで治っている。魔法少女の回復力は凄まじく、骨折程度なら半日もあれば治る。だが左わき腹の傷はそんな生易しいものではない、この治癒スピードはN市の魔法少女ハードゴアアリスを思わせるほどだ。

 

 

 さらに移動スピードも怪我をしているが通常時より速い。これなら怪我が治り速度はさらに増すだろう。今までスピードを抑えていたとは考えられない。だとしたら身体能力が向上したとしか考えられない。これらの現象に対する答えに心当たりがある。

 

 魔法少女は感情で動く生物だ、気の持ちようによって驚くほど弱体化し逆に強化される場合もある。そして感情の振れ幅が極端に高まると、まるで十数年鍛えたかのように一瞬で強くなるケースがある。それは覚醒と業界では呼ばれている。

 スノーホワイトは覚醒したのかもしれない。それは魔法少女として1つ上の段階に上がった証でもある。

 

 

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