ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター 作:ヘッズ
◆フォーリナーXXX
激しい頭痛に襲われ思わず目が覚める。目を開けるが視界はボヤけ赤黒の人型と白色の人型が居るのしか分からない。そして徐々に視界が鮮明になってくると目の前にいる人物が判明する。
ニンジャスレイヤーとスノーホワイトだ。
2人の姿を認識した瞬間口の中の水分が瞬く間になくなり寒気が走る。早く離れなければ、頭より早く体が反応するが束縛されている感覚に襲われる。
体を見てみると椅子に座らされ、ロープで何重に縛られて身動きが取れない状態にされている。それに頭痛や体の異変とは異なる要素で力が入らない。このロープに何かしらの魔法が掛けられているのか?
そして肩口から垂れる黒髪を見て魔法少女の変身が解け、ニンジャ魔法少女フォーリナーXXXではなく、唯のニンジャのフォーリナーXXであるのに気づく。
早く変身して魔法でどこかの異世界に飛んで逃げなければ。魔法少女に変身した瞬間に今までとは比べ物にならない痛みが全身に駆け巡り思わず変身を解除する。
魔法少女のダメージは変身解除しても再び変身すれば引き継ぐ。戦いの時に痛みは感じなかったが、ニンジャスレイヤーとスノーホワイトに散々斬りつけられ殴られ蹴られたのだ。ダメージは相当でありこの痛みも当然だ。
「目が覚めたかフォーリナーXXX=サン、インタビューの時間だ」
ニンジャスレイヤーが髪の毛を掴むと強引に顔を上げさせ目線が合う。あの親の仇をみるかのような目、戦いの時と一切変わらない憎悪を秘めている。汗が吹き出し全身に悪寒が走る。
「オヌシはアマクダリと敵対しているようだが、アマクダリについて知っている情報はあるか?」
「知らねえ、取り敢えず暴れてアマクダリが来たら返り討ちにしてただけだ」
数秒ほど考え込んだのちに正直に話す。散々殴られ蹴られた憎き敵だ、そんな奴に情報を話す義理はない。だが目の前にいるニンジャは狂人であり、自分に対し恐ろしい程の憎悪を漲らせている。少しでも相手の機嫌を損なえば何をされるか分からない。フォーリナーXXは怒りをグッと押し込め相手を刺激しないようにする。
ニンジャスレイヤーはスノーホワイトに視線を向け、スノーホワイトは静かに首を縦に振る。それを見てニンジャスレイヤーが数歩下がる。どうやら今の言葉を信じたようだ。そして代わりにスノーホワイトが前に出て目線が合うように屈む。
「私の要求は1つだけ。魔法で私を元の世界に連れて行って。そうしたらアナタを監査部に連れていく。監査部は魔法少女の警察のようなもの、そこで裁きを受けなさい」
「裁きってどうなるんだ?」
「ネオサイタマでの悪事だけでも良くて魔法少女資格の剥奪、他の世界での悪事が発覚すれば監獄に行くか、最悪処分される」
「嫌だ!魔法少女じゃなくなったら、自由じゃなくなる!」
フォーリナーXXXは思わず叫ぶ。魔法少女でなくなったら自由で無くなる。好きな場所に行き好きなように行動する自由が無くなってしまう。ニンジャ魔法少女でなくなってしまう。何の価値も無くなってしまう、それは何事にも耐えがたい事だ。
「それに元の世界に連れていけって命令できる立場か?お前はワタシの魔法がなければ元の世界に戻れない。遜って土下座してお願いする立場だろうが、それに魔法少女じゃなくなるって分かっているのに戻るバカが居るか!」
フォーリナーXXの語気が荒くなる。ニンジャスレイヤーは理屈が分からない狂人だが、スノーホワイトは違う。理知的であり狙いも分かる。
スノーホワイトの願いを叶うも叶えないも自分次第、行く末は己が握っているのだ、主導権はこちらが握っている。恐怖が薄れ尊大な態度を取り始める。
「だったら自分の意志で魔法を使って元の世界に帰りたくなるように何度でも暴力を行使する。したくないけど、貴方のような悪党魔法少女をこれ以上野放しにするわけにはいかないから」
スノーホワイトは真顔になり驚くほど抑揚のない声で呟く。嘘ではない、心が折れ屈服するまで暴力を振るうつもりだ。だがここで屈するわけにはいかない。スノーホワイトが言う事が本当であれば元の世界に帰った瞬間に終わる。
どんな責め苦にも耐えながら逃げる機会を窺い脱出する。これから訪れる苦痛を想像し思わず体が強張る。その時耐える以外にもう1つのアイディアが浮かび上がる。従うふりをして別の世界に置き去りにすればいい。
「私の魔法は嘘を見破る。従うふりをしても無駄だから、心の底から帰ると思うまで何度も暴力を行使する」
スノーホワイトの言葉を聞き思わず体がビクッと震える。アイディアを思いついた瞬間に思考を読んだように釘を刺された。今の言葉が思考を読めるという何より証拠だ。スノーホワイトに嘘は通用しない。
「そしてオヌシがマホウを使わずスノーホワイト=サンを元の世界に戻すつもりがないなら、私がオヌシを殺す」
「ハ!?ナンデ!?」
「ニンジャだからだ。本来なら生かす道理はない」
ニンジャスレイヤーは目を血走らせながら割り込むように喋る。ニンジャだから殺す。なんという理不尽だ。だがこのニンジャの言葉に一切の嘘偽りはない。現に今でも殺したいという殺気が漏れている。
スノーホワイトだけなら耐え忍び脱出の機会を窺うという希望があった。だがニンジャスレイヤーが居るならば別だ。スノーホワイトは自分を倒し元の世界に連れて帰る。ニンジャスレイヤーは自分を殺す。2人は共闘していたが最終目的が違う。
今のところはスノーホワイトの目的を優先しているが、それが出来なければニンジャスレイヤーの目的を遂行しようとしても何ら不思議ではない。
与えられた選択肢は2つだがどちらも破滅に突き進む。何て理不尽な2択だろうか、ならば第3の選択肢、2人を殺し自由になるしかない。
その選択肢を思いついた瞬間吐き気が込み上げ嘔吐する。涙目になり歯をカチカチと鳴らしながら2人をチラリと見て即座に俯く。
ニンジャスレイヤーの憎悪に満ちた表情、スノーホワイトの決断的な意志が籠った氷のような無表情、そして2人に馬乗りになって痛みつけられた記憶がフラッシュバックする。
ここが人生における分水嶺だ、死ぬ気で足掻け。どうにかして活を入れて戦おうとするが、体中が震え寒気が止まらず反抗する意志を根こそぎ奪っていく。無理だ、ニンジャ魔法少女でも絶対に勝てない。
フォーリナーXXX対ニンジャスレイヤーとスノーホワイトの戦いは互角であった。もしもう一度戦えばフォーリナーXXXが勝てる可能性もある。だがそれは通常の力を発揮できた場合である。
ニンジャスレイヤーとスノーホワイトに痛めつかれた記憶はフォーリナーXXXの心に二度と治せない程の深い傷を刻み込みトラウマと化した。
そのトラウマは戦う意志と力を著しく奪う。仮にどちらかと一対一で戦っても二度と勝てないと理解してしまう。
「分かった……スノーホワイトを連れて元の世界に戻る」
フォーリナーXXは振り絞るように呟く。これは事実上の敗北宣言だった。心は完全に折れていた。どちらの選択肢も地獄であることは間違いないが、スノーホワイトを連れて元の世界で裁きを受けるほうが僅かにマシだ。例え奇跡と呼べるほど低い確率でも無事に切り抜ける確率に縋るしかなかった。
ニンジャスレイヤーは言葉の真偽を確かめるようにスノーホワイトに視線を送り。スノーホワイトは静かに頷くのを見ると、フォーリナーXXの元に近づき肩に手を置く。
「万が一小細工を弄して罪を逃れ同じような事をすれば、ニンジャとしてオヌシを殺しにいく」
ニンジャスレイヤーの手の力が強まる。いくらニンジャスレイヤーでも異世界を移動して殺しに来るわけはない。いやこのニンジャなら絶対にやるはずだ。フォーリナーXXXのトラウマがニンジャスレイヤーの存在を遥か大きくなり、絶対不変の事実となっていた。
奇跡的に難を逃れても破滅する。その絶望とニンジャスレイヤーへの恐怖で失禁していた。
◆◆◆
ドラゴンナイトは体を引きずるように階段を上り屋上に出る。外に出ると夜空から重金属酸性雨が疎らに振降り。ネオサイタマの夜は今日も変わらずネオンの洪水で溢れていた。ヨロシサン製薬のコケシツェッペリンが威圧的に空を飛び、旅客機誘導用ホロトリイ・コリドーの横で大きな旋回しながら自社商品のPRをしている。
屋上の縁に肘をつきながら夜景を見つめる。「ビョウキ」「トシヨリ」「ヨロシサン」目に焼き付く程見た文字列だ。いつもなら気にも留めないが、今はいつも以上に意識を向けている。明日にはアマクダリから逃れるためにネオサイタマを発ち岡山県に向かう。故郷から離れるという感傷がドラゴンナイトの心に満ちていた。
「ここに居たんだ」ドラゴンナイトは背後を振り向くとスノーホワイトがいた、「大丈夫?」心配そうに声をかけながら近づく。ドラゴンナイトは実際重傷だった。フォーリナーXXXによって様々な箇所の骨を折られた後に人質として拉致され、スノーホワイト達が来る前に死なないようにと治療されたがそれは最低限だった。
スノーホワイト達はフォーリナーXXXのイクサの後にニンジャスレイヤー達が利用する闇医者の元に連れて手術をした。手術は十数時間にも及び、手術は成功しニンジャ回復力とスノーホワイトが持っているマジックアイテムによって、自力で歩けるまで回復していた。そしてニンジャスレイヤーとスノーホワイトも戦いの傷を癒していた。
ドラゴンナイトは目を伏せるとスノーホワイトを避ける様に迂回しながら出口に向かうが足がもつれ転倒し、スノーホワイトは駆け寄る。「来ないで!」ドラゴンナイトは大声で拒絶する。その言葉と悲痛な表情にスノーホワイトの足は思わず止まる。
「ボクは命惜しさにスノーホワイト=サンにフォーリナーXXXとイクサをさせた!大切な人を殺そうとしたんだ!ボクは最低の腰抜けだ……」ドラゴンナイトは地面に伏し懺悔室に向かう信者めいて独白する。フォーリナーXXXにベイビー・サブミッションされ、ニンジャスレイヤーとスノーホワイトも負けたと聞かされ心が折れていた。
2人ではフォーリナーXXXに勝てない。そしてフォーリナーXXXは2人とイクサしようとしている。それは阻止しなければならない。自害すればニンジャスレイヤーはともかく、スノーホワイトは自分を奪還するという理由がなくなる。守るために命を絶つ。憧れたカートゥーンのヒーローがした英雄的行為、だが出来なかった。
死にたくないと願い、2人なら勝てるかもとブッダに縋ってしまった。それが極度の自己嫌悪に陥らせた。フォーリナーXXXを倒されたが結果論に過ぎない。それに2人はイクサによって重傷を負った。今では治っているが怪我の様子は闇医者から訊いており、それがさらに自責の念を駆り立てさせた。
スノーホワイトはドラゴンナイトの傍に近寄ると膝をつき手を取ると子供を慰める母親めいた声で呟く。「そんな事ない」ドラゴンナイトは顔を上げるがすぐさま伏せる。「ドラゴンナイトさんが最低の腰抜けなら、私はもっと最低の腰抜けだから」「え?」ドラゴンナイトは思わぬ言葉に顔を上げる。
「私は昔とても弱くて怖がって何も選ばずに、ただ流された。そのせいで大切な人が多く死んだ」スノーホワイトの表情が一瞬歪むがすぐに優し気な表情に戻る。ドラゴンナイトは唇を噛みしめる。自分の場合は結果的にスノーホワイトは生き残った。だがスノーホワイトは大切な人を失った。その心境は想像を絶し胸が締め付けられる。
「その後はどうしたの?」「何日も泣いて落ち込んで、決意した。何も選ばず自分の弱さに後悔しないように頑張ろうって」ドラゴンはスノーホワイトをじっと見つめる。スノーホワイトは最初から強く、完璧な存在だと思っていた。だが自分と同じように弱さを持っていたが、トレーニングによって強くなった。
「じゃあ、ボクもスノーホワイト=サンみたいになれる?」「勿論、だってドラゴンナイトさんはフォーリナーXXXから私を助けようとしてくれた」スノーホワイトは力強く答える。気絶して元の姿になりフォーリナーXXXから襲われそうになったのを助けようとしたとファルから聞いた。
一撃でやられ実力差は分かっているはずなのに立ち向かった。死の恐怖で何もできなかった自分とは雲泥の差だ。そんな正義の心を持っているのであれば、自分より強く清く正しいニンジャになれるはずだ。「だから気にしないで、そして必要以上に自分を責めないで、無理しない範囲で強くなって、自分に出来ることをして、お願い」
スノーホワイトはドラゴンナイトの手を握り締め懇願するように呟く。過去の弱い自分に決別するように鍛錬を積み、悪い魔法少女を倒すために戦い何度も危険な目にあった。その生き方に後悔は無いが、何度も無茶を繰り返し破滅的な生き方であるという自覚はあった。ドラゴンナイトにはそんな生き方をしてもらいたくない。
ニンジャの力であれば破滅的な生き方をしなくても充分に人助けは出来る。何よりドラゴンナイトには死んでほしくない。正義のために危険を冒さず、出来る範囲で人を助け、大人になって恋をして結婚して家族が出来て幸せに生きて欲しい。それが唯一の願いだった。「分かった」ドラゴンナイトはスノーホワイトのシリアスなアトモスフィアに思わず頷く。
正義を為してもいいが自分の命を最優先する。それがスノーホワイトの望みであれば、応じよう。好きな人が悲しむ姿を見たくはない。「それに私がフォーリナーXXXと戦ったのは悪い事をして許せなかったから、ドラゴンナイトさんが居ても居なくても戦った」「そうなの?じゃあ自殺したらイデオットじゃん」「そうかも」「ヒドイ」
ドラゴンナイトは演技めいて肩を落とし、その仕草にスノーホワイトはクスクスと笑う。今までこのような軽口は言わなかった気がする。また1つ親密になった。「あとドラゴンナイトさんに言わなきゃいけない事がある」「何?」「私はニンジャじゃなくて魔法少女なの」「知ってる」ドラゴンナイトはあっさりと返事した。
♢スノーホワイト
「知ってたんだ」
「うん、フォーリナーXXXがスノーホワイトはマホウショウジョだって言ってた。最初は揶揄ってると思ったけど、今の言葉でそうなんだって分かった」
スノーホワイトは返答を聞き納得する。前々からドラゴンナイトから聞こえていた「ニンジャでなければ困る」という心の声が聞こえないので薄々気づいていた。
「それで魔法少女についてどれぐらい知ってる?」
「こっちの世界のニンポ少女みたいなもので、変身を解くと人間に戻る。あの学校の制服を着て黒髪のコケシカットめいたヘアースタイルの女の子はスノーホワイト=さんだったんだ」
「そう」
スノーホワイトは笑いを堪えながら頷く。確かに強引に見ればコケシ人形の髪型のように見えなくもないが、必要最低限ぐらいにはオシャレに気を遣っているがコケシの髪型と思われるのは少しばかりショックだった。
ドラゴンナイトはスノーホワイトの様子に訝しみながらも話を続ける。
「そしてこの世界とは別の世界から来た。本当なの?」
「そう。魔法少女は魔法、ニンジャのジツみたいな力を使える。フォーリナーXXXは『異世界に行けるよ』で色々な異世界で悪事を働いていたから捕まえようとしてネオサイタマに来た」
「捕まえる?スノーホワイト=サンはマホウショウジョのマッポなの?」
「そう」
一応は監査部に所属しており魔法少女の警察のようなものだが、実際は好き勝手に悪党魔法少女を捕まえる自警団のようなもので、仕方がなしに監査部に組み込まれた形で有り、警察という意識は全くない。
「それでスノーホワイト=サンのジツじゃなくてマホウはどんなの?使えるんでしょ?」
「私は『困っている人の声が聞こえるよ』って魔法」
「なるほど、だから行く先々でトラブルがあったのか、ということは……ア~~~!」
ドラゴンナイトは顔を手で覆い地面に伏せてジタバタする。本来なら痛いはずだが羞恥心が勝っているのか構わずジタバタしている。隠し事をしたくないと思って魔法について喋った。そして思った以上に察しが良く、スノーホワイトさんが好きだとバレたら困る、やましい事を考えていたら困るという声が大音量で響いていた。
魔法少女になりたてのスノーホワイトであれば、赤面して対応に窮していただろうが、今は声が聞こえながらも平然と接せる精神を持っていた。
「それで謝らないといけない事がある。聞いてくれる?」
スノーホワイトは正座でドラゴンナイトに向き合う。腿に置いた手を無意識に強く握りしめ唇を噛みしめる。ドラゴンナイトはスノーホワイトのシリアスな雰囲気を察したのか、ジタバタするのをやめ正座しようとするが体が痛むせいか組みづらく、スノーホワイトに了承を得てアグラを組んで見つめる。
「かつてラ・ピュセルって言う魔法少女が居た。幼馴染で街で一緒に人助けしてた」
「それって、ボクとスノーホワイト=サンがやってたパトロールみたいな感じ?」
「そう。他にも魔法少女がいるけど一番仲が良かった」
「幼馴染って言ってるけど、そのラ・ピュセルは人間の時はどんな人なの?」
「同い年で男の子」
「男!?ニンポ少女じゃなくてマホウショウジョって男でもなれるの!?」
ドラゴンナイトはこれ以上ない程に目を開く。魔法少女といわれて中身が男と言われればそれは驚くだろう。ある意味想像通りのリアクションに思わず口角が上がる。
「優しくて頼りになって、私にとって理想の魔法少女だった。でもラ・ピュセルは死んだ」
スノーホワイトの言葉は無意識に感情が籠る。月日が経ちあの異様な空間でラ・ピュセルと出会い心の整理が済んだと思っていたが、それでも魔法少女選抜試験でラ・ピュセルが死んだと報せられた当時の心境が蘇り感情が揺さぶられる。
一方ドラゴンナイトはこちらが申し訳なくなる程悲し気な表情を見せていた。
「それでドラゴンナイトさんの容姿がラ・ピュセルの人間の姿、岸部颯太に瓜二つだった」
ドラゴンナイトは思わぬ話の流れに思わず目を見開く、スノーホワイトはそれに構わず話を続ける。
「身長も髪型も声も顔も全部そっくりだった。最初はそうちゃんが実は生きていて、ネオサイタマに流れ着いたんじゃないかって想像したぐらいだった。でも話すと違っていて、ドラゴンナイトさんというこの世界で生きている人だった。そして偶然にも私とラ・ピュセルと同じように人助けをしていて、一緒にやらないかって誘われた。ラ・ピュセルと一緒にパトロールしている時は本当に楽しくて、そうちゃんと瓜二つのドラゴンナイトさんと一緒に過ごせば、あの時のように幸せな時間を過ごせるかなって」
「それがどこが悪いの?」
「私はドラゴンナイトさんを見ていなかった。ドラゴンナイトさんを通してそうちゃんを求めていたんだよ」
相手が自分に向ける好意については魔法を通して知っていた。好いている相手はその想いを蔑ろにし、過去の幻影を求める出汁にされた。男性にとってこれほど酷い行為があるだろうか。
スノーホワイトの言葉にドラゴンナイトの表情が曇り、心臓が思わず締め付けられる。最初は過去の思い出に浸る為に一緒に行動した。
だが共に過ごすにつれてその人となりや、ニンジャという魔法少女と同じ大きな力も得て、魔法少女以上に悪に染まりやすい存在になりながら、弱者を搾取せず虐げずにフィクションのヒーローのように清く正しくあり続けようとする生き方に感銘を受けていた。今ではネオサイタマで出来た大切な友人だと思っている。
だからこそ打ち明ければならないと考えていた。だがそれも自分が楽になるための偽善であり、いたずらにドラゴンナイトを傷つけるだけの行為かもしれない。
「ごめんなさい、本当にごめんなさい」
スノーホワイトは泣き崩れる様に何度も謝る。その弱弱しい姿にドラゴンナイトの手が肩に置かれる。
「実際ショックだった。でも目的がそうであってもボクはスノーホワイト=サンに出会えて本当に良かったと思っている。スノーホワイト=サンはボクのメンターだ。その優しさと正義を貫く気高さが目標だった。もし出会わなければ悪の道に進んでたか、弱くてどこかで死んでいた。サイオーホースだよ」
スノーホワイトは思わず俯く、困った声でショックの度合いが手に取るように分かる。それでも必死に励まそうとしている。その姿は清く正しい魔法少女であり、あまりにも眩しい。
「それで一つ訊きたいけど、ボクとのパトロールは楽しかった?」
「うん、楽しかった。それは本当だよ」
「良かった。スノーホワイト=サンはボクより何倍も辛い体験をしてきた。だったら少しぐらい楽しいことしてもブッダも怒らないし、その手助けになれたら嬉しい。何よりボクも実際楽しかった。スノーホワイト=サンも楽しかった。ボクも楽しかった。Win―Winさ!」
ドラゴンナイトは笑顔を見せサムズアップサインを作り、スノーホワイトはありがとうと何度も礼を言う。
嘘だと思われたら困る。信じてもらえなかったら困る。そんな心の声が幾つも聞こえてくる。ドラゴンナイトは慰める為ではなく本心で言ってくれている。それはスノーホワイトの罪悪感を消していてく。
最初は打算での付き合いだったが、今では出会えて本当に良かったと思っている。ラ・ピュセルやハードゴアアリスのように、そして彼女達に胸に張れるような清く正しい魔法少女になる。それがスノーホワイトの行動指針だった。
そして今日、ドラゴンナイトのように、そして胸が張れるような魔法少女になるという想いが加わった。
◆ドラゴンナイト
「そういえばお礼を言ってなかった。ありがとうスノーホワイト=サン、ボク達の為に国外逃亡の手続きをしてくれて」
「いいよ、困っている人を助けないのは腰抜けだし、ドラゴンナイトさんも同じ立場だったら、同じことをしてくれた」
「しかし荷物に紛れるなんてマケグミ・クラス以下だね。お母さんは卒倒しそう」
「ごめん、アマクダリの監視の目が厳しいみたいで、普通の席は無理みたい。怪我もあるし良い席にしたかったんだけど」
「気にしないでいいよ、スノーホワイト=サンが頑張って用意してくれたんだ。文句言ったらこうだ。シュッ、シュッ、いててて」
「ダメだよ、そんな事しちゃ」
スノーホワイトはカラテ演舞をしようとして痛がる姿に笑みを見せながら優しく諭す。その笑みに釣られるようにドラゴンナイトも笑う。
2人はお互いが抱いて思いを打ち明けることで罪悪感が無くなり、いつも以上にお喋りを続ける。
ドラゴンナイトは痛みを堪えながら話し続ける。明日にはネオサイタマを発つ。つまりスノーホワイトとは二度と会えないという意味でもある。
スノーホワイトはシンカンセンまでドラゴンナイトを護衛した後にこの世界から去る。仮にネオサイタマ、この世界に居れば会えるが、別の世界に移動した相手と会う手段はない。
もしかすればそのようなジツを持つニンジャか、SFめいた技術が確立するかもしれないが可能性は無いと考えるべきだ。
最後の思い出としてスノーホワイトと一緒にネオサイタマをパトロールがてら廻りたい。そんな思いがニューロンに過るが、即座に打ち消す。
スノーホワイトが異世界に移動するならフォーリナーXXXの魔法を使うしかないだろう。そしてフォーリナーXXXは闇医者がいるこのビルの一室で拘束されている。
もしスノーホワイトが離れている間にフォーリナーXXXに魔法を使われたら、この世界に置き去りになる。危険性を考慮すれば今すぐにでも魔法を使わせて元の世界に帰るべきだが、家族4人を護送するために待ってもらっている。こうしてお喋りしているだけでもボーナスタイムである。
「フォーリナーXXXが殺されないでよかったね。殺されたらスノーホワイト=サンが元の世界に帰られないし、それにニンジャスレイヤー=サンは何というか……悪いニンジャは決断的に殺す気がするし、今までやってきた悪事を考えれば許さないと思うけど」
「それは私が頼み込んだ。殺されたら元の世界に帰られなくなるし、ニンジャ魔法少女と云っても最初は魔法少女だから、魔法少女の法で捌くと言ったら、渋々納得してくれた」
「よく納得してくれたね」
「もしあちらの世界でモータルを虐げればそちらに行って絶対に殺しに行くって脅してた」
「ニンジャスレイヤー=サンならあり得そう」
いくらニンジャスレイヤーでも異世界を移動できない。それでもどうにかして移動してフォーリナーXXXを殺すかもしれないと思わせる奇妙な信頼感がある。
「確かに、でも納得してくれて本当に良かった。もし殺そうとしたら戦っても止めないといけないから、もう二度と戦いたくない」
「え!?ニンジャスレイヤー=サンと戦ったの?」
「色々有ってね」
「どんな戦いだった!?」
ドラゴンナイトは前のめりになってスノーホワイトに訊く。2人は強さの象徴であり、もし2人が戦ったらどうなるだろうという、カートゥーンのヒーロー同士が戦ったらどちらが勝つかという脳内遊びのように想像した事がある。
ある意味夢のカードが実現していた。興味が無いわけが無い。スノーホワイトは苦笑いを浮かべながら戦いの詳細を語りはじめる。
「あっ!」
「どうしたの?」
話の途中でドラゴンナイトが突如声を挙げ話の腰を折る。スノーホワイトは不思議そうにドラゴンナイトに視線を送る
「フォーリナーXXXに魔法を使わせて元の世界に帰るんだよね」
「そうだけど」
「でも使ってくれるの?スノーホワイト=サンはフォーリナーXXXをボコボコにしたから怒って使わないかも、インタビューして強引に使わせるの?それより2度と関わりたくないってマホウを使って逃げるかもよ。早くマホウを使わせないようにしないとマズいよ」
「ああ、それなら大丈夫」
スノーホワイトは慌てて部屋に戻ろうとするドラゴンナイトの手を掴み、焦るなと手で制する。
「それは無いから安心して」
「ナンデ?安心ナンデ?」
「説明するより、見てもらったほうが早いか、歩くの辛そうだから担ぐね」
スノーホワイトはドラゴンナイトをそっと肩に乗せて歩き始める。一体どういう訳なのだろうか?ニューロンを駆使して考えるが答えは見つからず、フォーリナーXXXが居る部屋に向かう。
部屋は薄汚れた簡易ベッドがあるだけで後は雑多に物が置かれている物置のような部屋だった。ベッドの上ではニンジャスレイヤーがアグラを組みながら深呼吸を繰り返している。そして部屋の奥の中央には見知らぬ黒髪のロングヘア―の女性が椅子に座り、縄に括りつけられ身動きが取れずにいる。
「あの女の人だれ?」
「フォーリナーXXX、今は魔法少女の変身を解いて、元の姿に戻ってる」
そういえばモータルだったがニンジャになり魔法少女に変身すればニンジャ魔法少女になれると自慢げに話していた気がする。だから姿が変っているのか。姿が変っているのには納得したが、その様子は納得できなかった。
目の光りはなく何かに怯えた表情をして涙や鼻水や涎で顔が酷いことになり、スノーホワイトの姿を認識したとたんに小さな悲鳴をあげた
「インタビューの一環でクスリでも打ったの?」
「フォーリナーXXXは私とニンジャスレイヤーさんに手痛くやられたせいで、極度のトラウマを抱えたみたい。だから私達が近くに居るだけでこんな感じになる。そして許可なく魔法を使うなと指示したから魔法は使わない」
ドラゴンナイトのニューロンに野球部時代の記憶が蘇る。ニュービー時代に投げる球が全て打たれてしまうほど実力差と相性が悪い打者がいた。
時が経ち成長し贔屓目で見ても抑えられるはずなのに、過去の嫌な記憶が蘇ったのか体が竦み良いボールが投げられず、何度も打たれた。それの強化版だろう。
ジツを使うにも心身がある程度万全でなければ使えない。それはマホウでも同様だろう。今のフォーリナーXXXの状態であれば魔法が使えなくても不思議ではない。
「スノーホワイト=サン、フォーリナーXXXをあの袋に入れないの?かさばるし、何か攻撃されてもあの袋じゃできないし」
ドラゴンナイトはスノーホワイトが所持している袋に視線を向ける。あの袋だが理屈は分からないが4次元空間になっており、人間ぐらいなら入るのは経験済みだ。それに自己嫌悪に陥って上手くニューロンが働かなかったが、今思えば攻撃しても恐らく外に出られないので安全である。
「それだとフォーリナーXXXが私達の姿を感じられないし、万が一正気に戻って魔法を使われて逃げられたら私が帰れない」
「どういうこと?」
「フォーリナーXXXが魔法の袋の中を異世界と認識すれば脱出できる」
確かにあの中は不思議な空間で現実世界とは異なる。だがそれを異世界と認識すれば魔法が使える。過大解釈しだいで何でも出来そうだ。マホウはある意味何でも有りかもしれない。
「それだったら、ここで監視してビビらせておいたほうが良さそうだ」
ドラゴンナイトはフォーリナーXXXを一瞥する。あの圧倒的な強さを誇ったフォーリナーXXXがここまで無惨な姿になった。
だが心は全く痛まない。過去の行いや自慢げに語る武勇伝は反吐が出るような悪行ばかりだった。当然のインガオーである。いやまだ足りない。
「あの、ニンジャスレイヤーさん、1つお願いがあるのですが、よろしいですか?」
スノーホワイトはニンジャスレイヤーの目の前に立ち声をかける。ニンジャスレイヤーは深呼吸をやめ目を開く、それを了承の合図と捉えスノーホワイトは話しかける。
「暫くの間フォーリナーXXXの見張りを任せて、私達は外出してもよろしいでしょうか?私は明日にはこの世界を去りますので、最後に思い出作りとしてドラゴンナイトさんとネオサイタマを回ったり、お世話になった人に挨拶したいと思っています。我儘を言っているのは重々承知していますが、何卒宜しくお願い致します」
スノーホワイトは90度に頭を下げる。これはドゲザを除くネオサイタマにおいて最敬礼である。先程話している際に思い出作りとしてスノーホワイトと最後のパトロールをしたいと考えた。それが困った声として伝わったのだろう。その読心力に驚くと同時にスノーホワイトの気遣いに感謝する。
「ボクからもお願いします。どうしてもスノーホワイト=サンと一緒にネオサイタマを回りたいんです。ニンジャスレイヤー=サンには迷惑はかけませんから」
ドラゴンナイトも90度に頭を下げる。ニンジャスレイヤーは2人が頭を下げる様子を無言でじっと見つめる。その緊張感に思わず唇をなめる
「好きにするが良い」
ニンジャスレイヤーはポツリと呟くと目をつぶり深呼吸を再開した。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
2人は同時に礼を言い頭を上げる。無茶なお願いをしているという自覚はありダメだろうと思っていただけに意外な答えだった。
これが最後の思い出作りだ。ドラゴンナイトはニューロン内でどこに行こうかと計画を立て始める。