ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター   作:ヘッズ

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最終話 ニンジャスレイヤー・アンド・マジカルガールハンター・バーサス・ニンジャマジカルガール#12

◆ファル

 

 襲い掛かるゴブリンがデイジーのデイジービームによって原子分解され、巨大化されたチェルナーマウスに潰され地面のシミになる。これは勿論本人でなくファルの攻撃コマンドがイメージされたものである。そしてゴブリンも防衛プログラムがイメージされたものだ。

 ファルはコトダマ空間に入り監視カメラのネットワークに入り映像をいじくる。スノーホワイトやドラゴンナイトがアマクダリに見つからないようにやり始めたが、これらの作業も慣れたものだ。

 管理している会社は数社のみで同じような防衛プログラムを何回も攻略している。もしハッキングのタイムアタックが有れば最速であるという自負がある。

 今はスノーホワイト達が移動するルートの監視カメラをハッキングしている。それと同時にアマクダリネットに触れないようにしつつ、アマクダリの動きを監視する。

 

「大丈夫痛くない?」

「大丈夫、けどしょうがないとは言え締まらないな」

 

 ドラゴンナイトの頭がスノーホワイトのレインコートの背から現れ、恥ずかしそうに呟く。スノーホワイトはドラゴンナイトを背負いながらネオン看板を飛び石にして雑居ビルの屋上に上がると、そこを全力疾走で走りジャンプし、別のネオン看板に着地する。

 満足に動けないドラゴンナイトとネオサイタマを回ろうとすれば必然的にこうなる。魔法の袋に入れれば問題無いが、それではネオサイタマの風景や匂いや広告の音声が楽しめないとスノーホワイトが却下した。

 ファルとしては外に出るのは反対だった。フォーリナーXXXとの戦いは間違いなくアマクダリに調査され、そこからスノーホワイトが辿られても不思議ではない。そもそもドラゴンナイトはアマクダリに指名手配されている。ますます隠れているべきだ。

 それでもスノーホワイトはリスクとドラゴンナイトの幸せを天秤にかけて外に出る選択を選んだ。であれば主人の望みをかなえるのがマスコットの務めだ。

 

「それより私が行きたいところばっかり行ってごめんね」

「いいよ、家はもちろんアジトとか学校とかはアマクダリが見張っているかもしれないし、そうなると行きたいところはないから」

 

 ネオサイタマを散策すると決めたがアマクダリに見つからないようにと考えると行先はかなり限定されてしまった。そしてお互い譲り合った結果、スノーホワイトが行きたい場所を巡ることになった。

 

「着いたよ」

「ここは」

 

 ドラゴンナイトは不思議そうに辺りを見渡す。目の前にあるのは古ぼけたアパートがあるだけ、何が見たいのか見当もつかないだろう。だがファルにはスノーホワイトにナビを頼まれた際に目的は分かっていた。

 スノーホワイトは錆びついた鉄階段を上がり左奥の部屋で止まり呼び鈴を押す。数秒後勢いよく扉が開いた。

 

「ドーモ、ユキコ=サン!お久しぶりです!」

「お久しぶりですコバヤシさん。夜分遅くにすみません」

 

 柔道着を着た眼鏡の女性がテンション高めで出迎える。彼女はコバヤシ・チャコ、ネオサイタマに着いて初めて出会った人間である。彼女が居なければスノーホワイトは死んでいた可能性があり、ある意味恩人である。

 

「いえいえ!こんな時間までニンポ少女になるための人助けなんて流石ですね!ん?背負っているのは……あ、分かりました!怪我人を助けたのはよかったが休む場所がなくここに来てくれたと!ドーゾ!遠慮なく休んでください」

 

 コバヤシは背負われているドラゴンナイトを怪しむが、即座に都合よく解釈し嫌な顔をせずに出迎えた。

 

「ドーゾ、つまらないものですが」

「ドーモ」

「ありがとうございます」

 

 2人は差し出された茶を受け取り会釈する、コバヤシは自分のお茶を置くと2人の対面に座り目を輝かせる。

 

「ニンポ少女の修業は大変ですか?何か手伝える事が有れば何でも言ってください」

「それなんですが、今日は報告というか、ニンポ少女の修業が終わりニンポの国に帰ることになりましたので、別れの挨拶をしにきました」

 

 ドラゴンナイトは勢いよくスノーホワイトの方を向く。いきなりニンポ少女と言えばその反応は至極当然である。

 そしてスノーホワイトは話を合わせろと言わんばかりにアイコンタクトを送り、それで何か察したのかドラゴンナイトはすぐに視線をコバヤシに戻した。

 

「おめでとうございます!これで正式なニンポ少女になったんですね」

「はい、これもコバヤシさんのお陰です。コバヤシさんの姿を見て、どんな強い相手でも立ち向かう勇気をもらいました。ニンポの国に帰っても絶対に忘れません」

「ウレシイヤッター!」

 

 コバヤシは涙を浮かべながらスノーホワイトの手を取る。流石のスノーホワイトも戸惑いながらも好意的な表情を浮かべていた。

 

「そうだ、ちょっと待ってください!」

 

 コバヤシは勢いよく箪笥に向かうと引き出しを漁り始め何かを取り出しスノーホワイトに渡した。

 

「ドーゾ、モコテック・オタミのアンコヨーカンです。餞別に受け取ってください。そしてニンポの国でニンポ少女の皆さんと分けてください」

「ありがとうございます」

 

 スノーホワイトは一瞬迷ったが素直に羊羹を受け取った。

 

◆◆◆

 

「あの人は何なの?発狂マニアックス?」

「そんな風に言わないで」

「ごめん」

 

 コバヤシの家を後にした2人は次の目的に移動する。ドラゴンナイトは何気なく質問しスノーホワイトの声色が厳しくなる。確かにバカにしているがあれを見たらそう考えても仕方がないとファルは同情していた。

 

「それでスノーホワイト=サンとはどんな関係なの?」

「ネオサイタマに飛ばされて、死にそうになった時に介抱してくれて、この世界について色々と教えてくれた恩人かな」

「それで何でニンポ少女と思い込んでるの?」

「色々事情が有ってニンポ少女ですって名乗ったから」

 

 スノーホワイトはバツが悪そうに俯き、その様子を見てドラゴンナイトは揶揄う。いつの間に随分と気安くなったものだ。

 

「コバヤシさんは凄いんだよ。私がピンチなのを見てニンジャ相手と理解し、実力差を実感しながらも戦いを挑んだ」

「ゴウランガ」

 

 ドラゴンナイトは思わず感嘆の声を挙げる。ニンジャだからこそモータルとニンジャの差を理解し、その勇気ある行動に尊敬の念を抱いているのが分かる。

 

「そして、ニンジャに勝った」

「ワッザ!?どうやって」

「呪文を唱えたら相手に雷が落ちて倒した」

「それって偶然じゃない?」

「かもしれない、それでもコバヤシさんの想いが雷を当てたと思いたい」

 

 スノーホワイトはそうであって欲しいと祈るように呟く。コバヤシの家に足を運んだのは感謝の気持ちと別れの挨拶をするのもあるが、コバヤシの存在をドラゴンナイトに知ってもらいたかったのだろう。

 人間でありながらニンジャを撃退するという奇跡を起こした。それは清く正しい心が起こしたものであり、ドラゴンナイトに何かを感じてもらいたいと思っている。

 

◆◆◆

 

 2人は次なる目的地に移動する。ネオンの光は徐々に弱くなり、年季の入った住宅が立ち並ぶ住宅街に向かう。

 

「次も誰かと会うの?」

「そう、今度はドラゴンナイトさんも知っているよ」

「誰だろうって、どうしたの?」

 

 スノーホワイトは突如止まる。その行動の意図はまるで読めず、ドラゴンナイトも訝しむ。だが数秒後にドラゴンナイトの表情が険しくなり、さらに数秒後に何かが飛び出してきた。それは猫だった。ドラゴンナイトは驚きと嬉しさが混ざったような表情になる。

 

「ニャー」

「ドーモ、マタタビ=サン、ドラゴンナイトです。その脚どうしたの!?」

 

 この猫はニンジャ猫のマタタビだ。ドラゴンナイトは目を見開き大声を出す。そういえばマタタビが左前脚を自ら切ったのを知らなかったのだ。

 

「ニャー」

「ボクのことはいいよ!それよりその脚はどうしたの!?」

「ニャーニャー」

「そうなの?それなら仕方がないけど、ニンジャキャットはケジメを知っているのか」

 

 ドラゴンナイトは納得した素振りを見せる。相変わらず精神科に行けと言いたくなる光景だ。電子妖精はもちろん魔法少女でもマタタビとは会話できない。意志相通ができるのはニンジャだけである。

 

「久しぶりに会えて嬉しいよ。会おうにもどこに居るのか分からないし」

「ニャー」

「『こちらも事情が有って離れられなかった』それなら仕方がない。それでやり残しは終わったの?」

「ニャーニャーニャー」

「『飼い主の家族は生きていて、今は一緒に暮らしている』それは良かった。ねっ、スノーホワイト=サン」

「そうだね」

 

 2人と1匹は近くの路肩に座り再会を喜び近況を話す。ドラゴンナイトはマタタビの言葉を訳しスノーホワイトに伝えながら話している。

 ドラゴンナイトの声色や表情が明るい。明日にはネオサイタマを去りスノーホワイトと別れるのを忘れているような陽気さだった。

 

「それで言いにくいんだけど、ボク達はネオサイタマを離れるからお別れのアイサツをしようかなって」

「ニャー」

「『どこに行くか?』ボクは岡山県、スノーホワイト=サンはもっと遠く。多分2度とネオサイタマには戻れない」

「ニャーニャー」

「『本当に世話になった。2人が居なければ敵を討てなかった』それは困っている人を助けないのは腰抜け、いや友達なら当たり前だよ」

 

 マタタビは深々と頭を下げる。そして残っている右前足をスノーホワイトとドラゴンナイトに差し出す。これは握手だろう。2人はそれぞれ右前足を握った。

 

「マタタビさん、カツタロウ君と末永く幸せに暮らしてください」

「ニャー」

「『スノーホワイトさんも』じゃあマタタビ=サンまたいつか、もしネオサイタマに戻れたら会おうね」

「ニャー」

 

 スノーホワイト達とマタタビは手を振り別れの挨拶をする。そしてスノーホワイト達とマタタビは同時に飛び去る。

 

「最後にマタタビ=サンと会えてよかったよ。復讐を終えてからカラテが全く感じられないから心配してたんだ。でも飼い主の家族と一緒に暮しているなんて本当に良かった」

 

 ドラゴンナイトは自分のことのように嬉しそうに語る。ドラゴンナイトにとってマタタビは初めてのニンジャの知り合いだ。ともに目的を達成し、種族は違えど友人と思っている。だからこそスノーホワイトは最後に会わせようとしたのだろう。

 

◆◆◆

 

 それから2人はネオサイタマの各地を巡った。その間に2人は共に過ごした思い出を語り合っていた。流行りの店でクレープを食べた事、自動販売機に潜んでいる奇妙な生物を退治した事、期末テストで60点以上取らなければ絶交すると言った事、ラウンド無限大で勝負し、その後は寿司を食べた事、重大な出来事から明日には忘れてしまいそうな些細な出来事を話していた。

 スノーホワイトは笑顔だった。人に好印象を与える為の作った笑顔ではなく、自然な笑顔であるのは感情の機微に疎い電子妖精でも理解できた。その笑顔を見ただけでもこの外出をしてよかったと思っていた。時間は瞬く間に過ぎ、夜明け間近まで迫っていた。

 

「そろそろ帰ろうか?」

「じゃあ!あと一ヶ所だけ行っていい?ここからすぐ近くだから」

 

 スノーホワイトは首を縦に振り、ドラゴンナイトは口頭でルートを説明し移動していく。言葉通り数分程度でその場所に辿り着いた。そこはありふれた雑居ビルの屋上だった。ファルにはその場所が何なのか分からず、スノーホワイトも同様だった。

 そしてドラゴンナイトがある方向を指さす。その先には黒焦げた廃ビルがあるだけだ。ファルにはそのビルの何なのかは分からなかった。だがスノーホワイトは指さされた方向を見て懐かしむ。

 

「あの時は本当に助かったよ。もしかしてボクの困った声とか聞こえていた?」

「うん」

 

 ファルは2人の会話を聞いてこの場所に来た理由を理解する。ここはスノーホワイトとドラゴンナイトが初めて出会った場所だ。偶然火災現場の近くに居たスノーホワイトは即座に取り残された者を救助しに向かった。その先にドラゴンナイトも居た。

 

「あれから5ヵ月ぐらいか、本当に色々有ったよね」

「そうだね。本当に色々有ったね」

 

 2人は無言で火災現場跡を見つめる。2人の胸中には様々な思い出が去来しているのだろう。そして別れの時間が迫っているのを実感しているのだろう。

 

「え~っと、スノーホワイト=サンはもう分かっていると思うけど~区切りというか、言っておかないと一生後悔するし~後悔は死んでからすればいいマインドで言っておこうというか~」

 

 ドラゴンナイトが煮え切らない言葉を繰り返す。その態度はファルからしても苛つかせられる。一方スノーホワイトは息子が何かを1人でしようとしているのを黙って見ている母親のように静観していた。

 するとドラゴンナイトは大きく深呼吸をして自分の顔を叩いた。その目は何かの覚悟を決めた目だった。

 

「ボクはスノーホワイト=サンが好きです。最初はルックスがカワイイで好きになったけど、今はそのヤサシミや決断的な意志のカッコよさとかメンタル面も含めて全てを愛しています」

 

 ドラゴンナイトの顔は耳の先まで真っ赤になりながらスノーホワイトから視線を離さず見つめ続ける。

 後悔するとか区切りと言っていたのは愛の告白の事だったのか、スノーホワイトの魔法によってドラゴンナイトの恋心は筒抜けであり、本人もそれは承知している。それでも伝えた。

 正直に言えば不毛だ。スノーホワイトとはもう2度会えず、男女関係を結べず何の意味もない。自己満足だ。

 

「ごめんなさい。私はドラゴンナイトさんを大切な友達だと思っているけど、恋愛対象に見られない」

 

 スノーホワイトは深々と頭を下げて気持ちを伝える。ドラゴンナイトはやっぱりかと諦念の表情を見せるが、もしかしてと希望を持っていたのか涙目になっていた。

 

「勘違いしないで、ドラゴンナイトさんはダメってわけじゃない。優しいし真面目だし、きっと私より素敵な人が好意を寄せてくれる」

「それじゃあ……」

 

 ドラゴンナイトは何かを言おうとするが言葉を噤む。それを見てスノーホワイトは少しだけ動揺しフォローするように言葉を続ける。

 

「違うの。私はたぶん誰も好きにならない。いや、好きになっちゃいけない。皆に誇れる魔法少女として歩み続ける。その過程で誰かを好きになったり、楽しんだりする暇はない」

 

 スノーホワイトは無表情になる。それは魔法少女狩りと呼ばれ悪党魔法少女から恐れられる姿だ。これからも理想の清く正しい魔法少女として、人生の大半を捧げるその過程で色々な物が零れ落ちる。今は高校に通い友達も居て一般的な視点から見れば幸せだろう。だがその先は分からない。

 魔法少女活動によって友達と疎遠になるかもしれない、定職につけず困窮するかもしれない。それでもスノーホワイトは後悔せず理想の魔法少女を目指す。

 ドラゴンナイトは両手を力いっぱい握りしめブツブツと呟いている。そんなのは間違っていると否定したいのだろう。だがスノーホワイトの覚悟の前にはどんな言葉も届かないと理解してしまった。

 

「じゃあ!スノーホワイト=サンはどうしたら誰かを好きになったり、楽しんだりできるの!?」

「全ての悪党魔法少女が居なくなって、皆がラ・ピュセルやアリスみたいに清く正しい魔法少女になった時かな」

「だったら約束して!悪いマホウショウジョが居なくなったら、誰かを好きになったり、楽しんだりするって!その為ならボクは何でもする!だから必要になったら呼んで!絶対に助けるから!」

「ありがとう」

 

 スノーホワイトは静かに微笑む。それは魔法少女狩りではなく、素のスノーホワイトの表情だった。すると徐に西方向を振り向く。その先から太陽の光がネオサイタマを照らす。基本的に晴れる日がないネオサイタマだが、今日は珍しく雲一つない晴天だった。

 

◆◆◆

 

「間もなくチョビッコビン社キョート行109便は定刻通り発車ドスエ、パスポートとチケットをお忘れなく」ネオサイタマ・ステイションに場内アナウンスが流れる。ネオサイタマからキョートに行く方法は2つのみ、飛行機による空路とシンカンセンによる陸路である。

 

「最初はダイミョウ・クラスのお客様からドスエ」アナウンスに従いダイミョウ・クラスの乗客がシンカンセンに乗車する。ダイミョウ・クラスはメガコーポの重役クラスが乗る。乗客の表情は皆リラックスしている。車内では最高級のスシやオイランサービスなど様々なサービスが出迎え、日々の仕事の疲れを癒してくれる。

 

「次にカチグミ・クラスのお客様ドスエ」アナウンスに従いカチグミ・クラスの乗客がシンカンセンに乗車する。カチグミ・クラスはメガコーポの中間管理職クラスが乗車する。サービスはダイミョウ・クラスには劣るが、重油まみれのイルカが泳ぐ姿など、日本の原風景を楽しめる貴重な体験を与えてくれる。

 

「最後はマケグミ・クラスのお客様ドスエ、ハリーアップ重点ドスエ」アナウンスに従いマケグミ・クラスの乗客がシンカンセンに乗車する。「ハリーハリーハリー!」乗務員が乗客たちを急かす。ネオサイタマのシンカンセンにおいて定刻通りに発車するのは絶対である。それは乗客が列車に乗れなくても関係ない。

 

ダイミョウ・クラスの客が乗車に手間取り、時間がタイトになっていた。発車まで残り時間は1分、全てのマケグミが乗るのは不可能である。乗れなければチケットが無駄になるとマケグミ達は我先にと争う。そして争うだけ時間はロスし乗れる人数は減ってしまう。なんたる不平等、これがネオサイタマである。

 

そしてマケグミ車両のさらに後ろ、そこは貨物車両になり物品を運んでいる。「ドッソイ、ドッソイ」スモトリ従業員が荷物を運ぶ。そこに色付きの風が通過する。「ドッソイ?」スモトリは訝しむが、仕事のノルマを達成できなければケジメなので、無視して荷物運びに励む。

 

「もう大丈夫です」スノーホワイトが声をかけると4つのズタ袋の口から頭が出る。これはドラゴンナイトを含めたカワベ一家である。スノーホワイトが運んだのだ。4人はアマクダリの目から逃れるために荷物に紛れてキョートに行き、そこから岡山県に行く手筈になっている。「コワイわ」母親は思わず弱音を吐く。「大丈夫だ」それを父親が気丈に励ます。

 

「襲撃されないかな?」「それはブッダに祈るしかない」長男が不安を漏らすとドラゴンナイトがおどけた態度で励ます。スノーホワイトはその様子を心配そうに見つめる。ネオサイタマの新幹線は列車強盗にあう場合がある。さらに襲撃されれば最後尾の貨物車両が最も危なく、最も切り離されやすい。そうなれば生存は絶望的だ。

 

シンカンセンが襲われるなど元の世界ではあり得ない。ネオサイタマのマッポーぶりを改めて実感させられる。本来であれば飛行機やせめてマケグミ・クラスでの移動を望んだがアマクダリの監視は厳しく、このようなリスクがある方法でしか国外逃亡できなかった。スノーホワイトは襲撃されないように祈った。

 

「ダイジョウブダッテ!強盗ぐらいボクのスリケンで撃退できるし」ドラゴンナイトはスノーホワイトにスリケン投擲のモーションを見せる。「じゃあ元気でね。ドラゴンナイトさん」「スノーホワイト=サンも無茶しないでね」2人はお互いに手を差し出し握手をする。お互いの温もりをニューロンに刻み込むように力強く握る。

 

「まもなく発車ドスエ」場内アナウンスが流れ、スノーホワイトは急いで外に出ようとする。「スノーホワイト=サン、ユウジョウ!」ドラゴンナイトが呼び止めるように声をかける。その目には涙が溜まっていた。「ユウジョウ」スノーホワイトも同じように声をかける。そして色付きの風になって外に出た。

 

「無事に出たか」ネオサイタマ・ステイションを出るとトレンチコートの男性が震えている女性を引き連れて待っていた。男性はニンジャスレイヤー、女性はフォーリナーXXである。「はい。わざわざ来てくれてありがとうございます」「アマクダリの追手が来るかもしれん。そうなればインタビューで情報を得られる可能性がある」「そうですね」

 

スノーホワイトは相槌を打つ。嘘だ、いや正確に言えば本音もあるが、ドラゴンナイトが心配で来てくれたのだ。「ニンジャスレイヤーさん、改めてお世話になりました。貴方がいなければフォーリナーXXXを捕まえられず、元の世界に帰られませんでした」スノーホワイトは90度の角度で頭を下げる。

 

(((ニンジャを殺せなくて困る)))大音量で困った声が聞こえ、スノーホワイトは平静を装いながら無意識に二の腕に触れる。ニンジャスレイヤーに潜むもう1つの精神は発する声、それは底知れないニンジャへの憎悪を宿している。それはニンジャでなくて慄いてしまう。その存在が何かは最後まで分からなかった。もし尋ねたとしても答えないだろう。

 

そしてニンジャスレイヤーはその底知れない憎悪を常に抑えている。なんという精神力だ。戦闘力もそうだが心も強い。それを含めてカラテが強いとこの世界では評するのだろう。「あと訊きたい事があるのですが?」「なんだ?」「ドラゴンナイトさんが私に向かってユウジョウと声をかけたのですが、どのような意味があるのですか?」

 

スノーホワイトは意味も分からず同じように声をかけたが、一連の行為には大きな意味があった気がした。「お互いの友情を確認する行為だ。返答しなければムラハチされる。友情を確認し合ったから裏切るな等の実質的には他人への牽制にすぎぬ」ニンジャスレイヤーは淡々と説明する。

 

「そうですか、教えてくださりありがとうございます」スノーホワイトは礼を言う。そんなわけはない。ドラゴンナイトの言葉に込められた意味はそんな欺瞞的なものではない。もっとエモーショナルで尊いやり取りである。「ではそろそろ元の世界に戻ります。変身して」「ハイヨロコンデー!」フォーリナーXXはビクリと震えながら魔法少女に変身する。

 

「ではお元気で」「オタッシャデー」2人は別れのアイサツを済まし、フォーリナーXXXのアトモスフィアが変化する。これは魔法を使う前兆だ。「待って」突如スノーホワイトが魔法の使用停止するように指示を出す。「どうした?」その行動にニンジャスレイヤーは眉根を僅かに動かし訝しむ。

 

スノーホワイトの心は揺らいでいた。アマクダリというニンジャ組織はこれからも弱者を虐げ搾取するだろう。ニューロン内で非道を尽くすニンジャの姿が浮かび上がる。それを見過ごして帰るのは正しい魔法少女の行いだろうか?ラ・ピュセルやアリスは納得してくれるだろうか?

 

このままネオサイタマに留まり、ニンジャスレイヤーに協力してアマクダリ解体に尽力すべきではないだろうか。「いらぬ」ニンジャスレイヤーはスノーホワイトの迷いを見透かしたように決断的に言い放つ。「ですが……」スノーホワイトは言葉を紡ごうとするが有無を言わさないアトモスフィアによって口を噤む。

 

「これはニンジャの問題であり、この世界の問題だ。別の世界のマホウショウジョであるオヌシが介入する問題ではない。オヌシはマホウショジョとして為すべきことを為せ」「そうですね」スノーホワイトはポツリと呟く。人は全てを選べない。ここの世界でアマクダリと戦っている間に、元の世界で悪党魔法少女や悪党によって誰かが苦しむかもしれない。

 

どちらかを選ばなければならないなら、ネオサイタマではなく元の世界を選ぶ。清く正しい魔法少女として悪党魔法少女が悪事を働き蔓延らせるわけにはいかない。それが為すべきことだ。「じゃあ、魔法使って」スノーホワイトはフォーリナーXXXに指示を出す。そのアトモスフィアに揺らぎや迷いはない。

 

スノーホワイトに酩酊に似た感覚が襲う。これはネオサイタマに飛ばされた時の感覚に似ている。ソーマト・リコールめいてネオサイタマの記憶が蘇る。濃密な体験だった。パトロールで人助けをして、何人ものニンジャと戦った。今まで培った力でニンジャを倒し、何人もの人を救えた。

 

そして力及ばず救えなかった人も居た。野球をこよなく愛しアマクダリに弄ばれ散ったドラゴンナイトが敬愛する先輩サワムラ、それらの人の犠牲が無駄にならないように糧として清く正しい魔法少女として生きる。そしてスノーホワイトはまるで最初からいなかったように消える。ネオサイタマから居なくなった。

 

◆◆◆

 

(((イヤーッ!)))ドラゴンナイトはヤリめいたサイドキックを放つ。スノーホワイトは半身で避けると同時に絡みつく回転する。ドラゴンナイトも即座に同じ方向に回転する。シンカンセン貨物室内、ドラゴンナイトはズタ袋に潜みながらイマジナリーカラテを実践する。例え体が動かせなくてもカラテトレーニングはできる。

 

(((グワーッ!サヨナラ!)))イメージのドラゴンナイトがスノーホワイトに頭を踏み砕かれ爆発四散する。「実際強い」ドラゴンナイトは笑みを浮かべながら呟き、イマジナリーカラテを再開する。それはトレーニングと同時にスノーホワイトから授かったインストラクションの確認でもあった。

 

「フゥー」ドラゴンナイトは15敗目でイマジナリーカラテを中断する。そして懐から携帯端末を取り出し動画を再生した。スノーホワイトとの思い出はニューロンに刻み込まれ、一生覚えているだろう。だが物質的思い出も大切だ。これは絶対に手放せないエピック級のアイテムである。ドラゴンナイトは愛おしそうに映像を見ていた。

 




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