『平和は歌を聴きに来ない』   作:-)

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※書いてるうちに長くなった&前回をどうしてもあの場面で締めたくなったので分割。


幻槍VS撃槍

 「ばっ……かアホ!! 動機じゃなくて原因を聞いてんだマヌケすかたん!!」

 「えーそこまで言う―? かなりかっこよく助けた感じなのにまだ足りない? クリスちゃんてば欲しがりさーん」

 「かっこの是非に限らずなぁ! た、助けなんてそもそもいらねーってんだよ! つーか何時まで抱いてんだ! あたしの肌は安かないぞ!?」

 

 慌てて立ち上がり、響から距離を取る――クリス自身驚くほどにあっさり立ち上がることが出来た。

 

 「お安くない? そっかそっかー、それなら今日は得しちゃったなー」

 

 えへえへ笑う響をジロリと睨んで、やがて一つ、溜め息を吐く。

 先ほどまでなかった力が沸いてきているのは、この間抜けな笑顔のおかげに違いなかった。クリス的には若干不本意だったが。

 その笑顔のおかげで、クリスの胸中に漂っていた黒い妄想もまた、完全に離散していた。

 あの悪趣味な黒色がこの馬鹿であるだなんて、今なら鼻で笑ってしまえそうだった。

 

 (そしてあたしは、そういう笑顔のこいつを結局戦場(こっち)から引き離せない情け無しなわけだ)

 

 代わりに、別の影が差していた。

 より黒い影が、より深いところにまで。

 

 「さぁて! それじゃあこっから先はわたしに任せて、クリスちゃんはちょっとお休みしてて!」

 「あぁ? 誰に言ってる。こんぐらい……」

 「だめだめ! 無理無茶無謀はわたしのお役目なんだから、取っちゃやーだよ!」

 

 そう言ってクリスへウィンクを決め、響はクリスを救い出してきた方にざっと向き直った。

 

 「さぁさぁさぁ、師匠曰くのアンノーン! 次はわたし、と……」

 

 颯爽と登場して以降、怒涛の勢いを保っていた響の語調が崩れ去る。

 二度、三度とまばたきし、三度、四度と目をこすり、四度だか五度だか頬を叩く。

 だが何度何をしたところで、その眼に映る景色が変わることは無かった。

 顔つき髪型、姿かたち、身に纏ったシンフォギアまで全く同一な少女が相対しているという、世に二つとない状況は。

 

 「う、うぇぇ!? な、なにこれ? えっ、隠し子? お父さん……!?」

 「落ち着け馬鹿、シンフォギア纏ってんだから身内ってこたないだろ」

 

 衝撃は受けているのだろうが、響の割とコミカルな反応に安堵しながら、クリスもまた改めて”立花 響”を見遣る。

 

 そこには、“立花 響”が悠然と立っていた。

 本当に、ただ立っているだけ。

 

 (なに?)

 

 だが、クリスとしては、いささか予想外の状況だった。

 

 (あいつ、もう動けたのか? なのに、動かなかった?)

 

 ”立花 響”は拳が地面に突き刺さるかして動けなくなっているのだと考えていた。彼女の傍に穴が穿たれているのが見えるので、この予想は恐らく当たっている。

 だが、今こうしてクリスらのことを眺めている辺り、クリスが思っていたよりずっと早く”立花 響”はその拘束から抜け出ていたのだろう。

 そうして自由になって、クリスらの方に向き直り……ただその様子を見ていた。何の追撃もすることなく。

 

 遭遇してからずっと“立花 響”が奇行を見せていたのは事実だ。

 しかし火蓋が切って落とされて以降は、ずっと無機質な程に淡々とした攻めを見せ続けていた。そこから受けていたイメージとは大きくかけ離れた事態だった。

 一体何故か。

 

 その答えの候補は、目の前にあった。

 

 状況を整理しかねている、本物の響。

 目の前に、自分と同じ姿をした存在が現れて、混乱し、立ち竦む。

 

 ――その状況は、目の前の”立花 響”にも当て嵌まるのではないか?

 

 「ねぇ! ちょっといいかな?」

 

 響の快活な叫び声が、クリスをとりとめのない想像から引き戻された。

 響の声は、”立花 響”へと向けられていた。

 

 「わたし、立花響! 好きなものはご飯で、もっと好きなものは大盛りご飯!」

 

 両手を広げて、朗らかに笑い、明るく話す。

 破壊痕や燻る火やらが辺りに散らばる戦場には全く似合わぬ自己紹介。

 

 「良かったらさ、あなたの名前も教えてよ! ほら、私達ってなんだかとってもよく似てるしさ、きっと仲良くなれると思うんだよね!」

 

 似ているとかいう話ではない。何もかもが瓜二つなのだから。人が人なら卒倒しかねない不気味さがある。

 だがそれさえも響にとっては、仲良くなれる糸口でしかなかったらしい。

 

 多少の動揺はあっても、それさえ忘れてしまうほど、”誰かと手を繋ぐこと“にどうしようもなく一生懸命になってしまう。

 これ以上にない馬鹿の一つ覚え。だがただ一カ所にのみ伸ばし続ける腕だからこそ、その手は心の奥の奥を掴んでくる。

 自らもまた、手を掴まれた一人であるから、クリスもその強さはよく知っていた。

 

 (だが、今回はどうしようもなく相手が悪いな)

 

 そういう風に、クリスの目には映っていた。

 

 ”立花 響”は、ずっと黙りこくっていた。

 クリスの罵倒に対してしていたのと同じように、延々と、その鉄面皮で言葉を受け止めるばかりだった。

 

 「えっと……あっ! もしかしてクリスちゃんにしたこと気にしてるのかな? だいじょぶだいじょぶ、わたしも一緒に謝ったげるから! ねークリスちゃん!」

 

 拒絶されることはままあっても、一切合財無視されるのは流石に堪えたのだろう。クリスへと向ける響の視線は、助けを請うような哀愁に満ちていた。

 受けたクリスは、コンコンと、地面を足で蹴り鳴らした。

 「えっ、何? 絶対許さんのジェスチャー?」と困惑を見せる響だが、そうではない。クリスは自らの体の動き具合を見ていたのだ。

 響の゛お話゛を黙って見守っていたのも、つい先の競り合いで負ったダメージからためが半分だった。

 

 フォニックゲインは得ていないので、ギアの損壊は修復していない。

 しかし今しがた確認した限り、身体の方は動く。アームドギアもほぼ万全。そうであれば、戦線復帰には事足りる。

 待っていた理由のもう半分として、響の好きに話させてやりたい気持ちもあったが、ここまでやって無反応ならもう効果は望めまい。

 

 (……そういうやつが、自分の生き写し程度で動揺する理由もないか)

 

 “立花 響”の動かなかった理由は、やはり妄想でしかなかったらしい。

 そんなことを頭に過ぎらせながら、クリスは“立花 響”に目を向けつつ、響に対して選手交代を告げる声を掛けようとした。

 

 そうして口から飛び出したのは、全く別の言葉。

 

 目を向けた”立花 響”の瞳の中に、クリスは光を見たのだ。

 怪しげな光。自分と一戦交える直前にも見えた、あの異常なほど冷淡な戦闘行動の前触れを。

 

 「危ねぇっ!!」

 「えっ!?」

 

 響の元に駆け寄り、突き飛ばすと共に自分も合わせて跳び下がる。

 クリスと響が二方向に離れて空いた空間に、一瞬の内に飛び込んできた”立花 響”が、その剛腕を叩きつけた。

 

 砕けた地面に、響の表情が驚愕から困惑に変わる。

 一方的にとはいえ話しかけていた相手が、淡々とこちらの命を抉り取らんとする。他にもない理不尽だったが、響の困惑の原因はそこにはなかった。

 

 「ちょ、ちょっと待ってよ! わたしは戦う気なんて!」

 「向こうはその気だ! 割り切れとは言わねぇが無理なら下がれ!」

 

 元々告げるつもりだった言葉を響に投げる。

 そうしてる間に、”立花 響”は一息で体制を整え、響に向かい飛び掛かった。

 

 「狙いはそっちか!?」

 

 咄嗟にアームドギアを突き付けるクリスだったが、今のガトリング形態では響を巻き込みかねない。

 ボウガン、ライフル、“立花 響”だけを打ち抜ける形態を頭の中に走らせ選ぶ。そしてアームドギアを変形させる――

 

 「そうだよ、割り切れない! だから!」

 

 その刹那に、叫びが響いた。

 叫びの主は、響。叫んだ言葉は、胸に響く想い。

 

 「わたしの想いを、そこに足す!!」

 

 叫ぶと同時に、強く構える。瞬間、弾ける音があった。

 響が纏う橙のガングニールより溢れ出した曲が、響と共に、己が主に降りかかる拳に向かい立ったのだ。

 そうして紡ぎ上げられるのは、どんなものにも真っ直ぐぶつかる不退転の行進曲――!!

 

 『譲れない! 抱いた この気持ちだけは!!』

 

 “立花 響”が拳を振るった。切り裂くような乱撃。流れる歌に形が有れば、ズタズタな醜態を晒していたことだろう。

 

 『真っ直ぐ全開! 止まらないんだ!』

 

 だが、響の歌は止まらない。

 響自身もまた、止まることなく動き続け、“立花 響”の猛撃を全て完璧に捌いている。

 さながら映画のワンシーン。中盤よくあるアクションパート。そうであるなら、響にやれないはずがない。

 誰が言ったか、これから言うか、『映画はなんでも教えてくれる』。

 

 と、早くも焦れたか“立花 響”が動きを変えた。

 

 一歩分跳び下がり……次の瞬間に、開けた距離が零と化す。

 

 『この手とどっ――!?』

 

 音を抜き去るスピードで、放たれたのは回し蹴り。

 振り上げられた爪先が、響の頭を打ち抜いたように思えた。少なくとも、響を巻き込む危惧から手を出せずに見守る他なかったクリスには。

 

 だが、その状態で“立花 響”の動きが止まった。

 脚を限界まで振り上げた不自然な体勢。普通ならありえない停止。

 対して止まらない――響く歌。

 

 『……この手届く――距離までは!!』

 

 ニッと笑う響の顔と、打ち込まれた”立花 響”の脚。二つの間に一手速く、響の腕が割り込んでいたのだ。

 加えてそれだけでない。

 ガングニールの腕部ユニットが有する、シリンダー状の機構。その機構が、見事に”挟み取っていた”。”立花 響”の爪先を。

 

 「繋いだこの手は離さない……だから私とお話をぉっとぉ!?」

 

 響のしてやったりな表情が一瞬で崩れた。繋がった爪先をそのままに、“立花 響”がそに脚を振り回しだしたのだ。右へ左で、絶え間なく。

 もちろん響は離すまいとするものだから、脚が振られるまま同じく右へ左、がっくがっくと揺れ続ける。さすがにその場で踏みとどまってはいたが。

 

 「ちょっ、ちょっと待って待って待って! えっ、そんな嫌!? もしかして手汗すごいかなわたし!?」

 「アホ言ってんな! 今抑えるからお前は歌っとけ!」

 「えっ、いやでも今は歌うよりこの子と話し……」

 「逃げられたら話も何もねぇだろ!」

 

 確かに激しい動きに腕部ユニットのシリンダーが緩みつつある。抜けだされるのも時間の問題だ。

 響の方から体勢を変えることが難しい以上、引き続き抑えておくにはクリスの言う通り歌を紡いでシンフォギアの出力を引き上げる他ない。

 

 繋いだこの手を放してしまえば、その先には間違いなく拳を交える結果が待っている。

 そうであるなら、響にその選択肢はない。

 

 『――ずっと! ずっと! 追いかけてく! 転んだって立ち上がってく!』

 

 言葉を対話で届けられないならばと、響は自らの思いを歌に込め、より声高に歌い上げる。この手が離れないようにと、強く地面を踏みしめて。

 

 『繋がる手から伝える 精一杯の……ハート! 届け! この魂よぉぉおお―――!!」

 

 争う必要はきっとない。手を取り合いたい。そのための道を迷わない。どうかこの想いが届きますように。

 

 強い願いのこもった歌は奇跡をもたらす。かつてのフィーネとの戦いのように。

 そして今もまた、奇跡はあった。

 

 「よっしゃつかまえたぁっ!!」

 

 疲労困憊のクリスが、“立花 響”を羽交い締めにしたのだ。

 クリスは腕力がそう強いほうでもないし、傷だらけのイチイバルからは力技に打って出るほどの余力を感じられない。

 だが、クリスの発揮する力は、“立花 響”を確かに抑え込んでいた。

 

 外部からの歌でも、一応フォニックゲインは得られる。だが、今彼女に宿った力がそれではないことは、その必死の形相から明白だった。

 その名は気力。響の歌にこもった想いを受け取って、尽きた精魂を今一度絞り出している。

 

 不安定な姿勢。双方向からの片脚と全身と拘束。

 この短時間で予想外の馬鹿力を発揮してきた“立花 響”だったが、もはや身をよじるばかりで抵抗らしい抵抗を出来ていない。

 こうなれば後は根性勝負。そして、強く唄い上げられ続ける歌により、唄う響も、聴くクリスも、気合は十全。負ける気がしない。

 

 ……そう、歌だ。

 歌は、未だ唄われ続けている。

 

 それ故の必然があった。

 同時に、皮肉でもあった。

 その歌にかき消され、響もクリスも聞き落としてしまっていたのだから。

 歌が引き起こしたもう一つの奇跡を。

 

 その奇跡は、初め小さな唸り声として発露していた。

 段々と大きさは増していき、やがて響き続ける歌の隙間から漏れ聞こえ出す。遂には上から塗りつぶすほどの怒声に膨れ上がっていった。

 

 そこで、ようやく取り押さえている二人も唸り声に気づいた。その主にも。だが、後者については、理解に少しの時間を要した。

 

 この場にいるは三人。一人はその口から歌を紡ぎ、一人は歯を食いしばるの忙しい。

 となれば喉を鳴らし声を漏らす余裕があるのは残す一人のみではある。

 だが、この短期間ながらそれが与えた無感情な印象は、その声の主としてあまりにそぐわなかったのだ。それほどまでに、感情に満ちた声だった。

 

 しかしどれほど印象から外れていても、その声の主は変わらない。

 憤怒、苦痛、あらゆる負の感情を煮詰めたような声を発しているのが――

 

 ――目の前の“立花 響”であることは、揺るぎない事実であった。

 

 「ぐ……ぐぅぁ……!! あぁぁ……!!」

 「ちょっ、どうし――」

 「あ、あ“あ”あ“あ”あ“ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 掛けられた響の言葉は、唸り声から変貌した咆哮に掻き消された。

 それと同時、“立花 響”が発揮した剛腕が、響の拘束を引きちぎり、クリスの腕を振りほどく。

 両者を圧倒した暴力は、しかし二人への攻撃には転じられなかった。

 ガングニールの腕部ユニットに力で勝ったその脚は、地に付くと同時に膝を折った。

 クリスの拘束を容易く外したその腕は、ただ己の頭を抱えるばかり。

 

 「あ“ぁぐぅ!? がっ! い”ぃぃぃ!?」

 「ねぇちょっと!? 大丈夫!? しっかりして!」

 「近寄るな馬鹿! 明らかにおかしいだろ!」

 

 心配げに声かける響。警戒の声を飛ばすクリス。

 それぞれ個性を伺わせる二様の反応。

 しかし、どれほど特徴的なの色を付けたところで、全て無意味だった。

 次の瞬間には、その両方がただ驚愕一色に塗り替えられたのだから。

 

 その驚愕は、絶対的なまでの“黒色”をしていた。

 

 「ぐぅぅ……あ“あ”あ“あ”ぁぁぁぁぁ――――っ!!!!」

 

 これまでで一際はうるさく耳障り叫びと共に、“立花 響”の全身が変貌を始めた。

 元から灰黒かった纏うギアから、まだ人らしい色をしていた肌にいたるまで、その全身が黒へと染まる。

 その中で唯二つ、見開かれた両目だけが、爛々とした真紅の光を灯していた。

 

 「こいつは……!!」

 「嘘、なんで……!?」

 

 響、クリス、共にに見紛うはずがなかった。

 人の形を保ちながら、しかし見る者に強く獣を想起させるその姿。

 

 「暴、走……!?」

 

 

 「があ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”――――――っ!!」

 

 

 一層に強さを増した叫びと共に、“立花 響”が、素早く、荒々しく、拳を振り上げる。

 それと同時に、叫びの中でそれとも違った異音が轟いた。

 拳もまた、黒に塗り上げられておりはっきりとしないが、クリスの目は確かにそこにあった変化を捉えた。

 

 拳に備わるシリンダー。先まで“立花 響”の脚を捉えていたのと同じもの。

 ここまで何の音沙汰も見せることなかったその力が、“立花 響”の振り上げる腕の中で、確かに火を灯している――

 

 そう、知覚した刹那に既に、力は、既に振り下ろされていた。

 

 轟き渡る炸裂音。

 アスファルトがめくれ飛ぶ。

 力の圧が叫んだ言葉を、辺りに燻る炎を、全て掻き消し吹き飛ばす。

 

 炸裂音は、長きに渡り響続けていた。

 

 それでも何時しか止み、辺りを静寂が包む。

 

 「い、ててて……クリスちゃぁん大丈夫だった?」

 

 響がクリスに問いかける。両者の顔は、非常に近い。

 

 「……庇ったお前を心配させろ」

 

 “立花 響”の暴走した力が炸裂する直前、響はクリス諸共その場から飛びのいていたのだ。思考も何もない、殆ど反射による早業だった。

 

 「私はこんなのへいきへっちゃら、なん、だけど……」

 自らが押し倒す形となっていたクリスを助け起こして、響は当たりを見渡した。

 

 解放された力は膨大であったように感じた。

 だがそれに反し当たりの被害は小さかった。

 道路のダメージは甚大ながら、その範囲は“立花 響”が立っていた周囲のみに留まっている。

 

 しかしそれ以上に何よりも、

 

 「……やっぱり、どこにもいないよ。あの子」

 

 見渡したどこにも、人の影はなかった。

 

 「なぁ、さっきの」

 「うん、わたしがデュランダルの影響とかで暴走しちゃったのとおんなじやつだと思う」

 「だよな? でもだったらなんだよこの状況。嵐の前の、ってわけでもなさそうだが」

 

 響の暴走は、周囲への破壊行動として発露する。それは二人の共通認識だった。

 だが現状は違っていて、あれだけ激しく荒れ狂っていながら、その当人は一発かましてさっさと逃げ出したときたものだ。

 

 「ったく、なんだってんだ今日は。ミステリーは突然にってレベルじゃねぇっての」

「いやホント、私もお目覚めからのクライマックス百連発でもうくたくただよ~。あっ、でもクリスちゃんが無事でよかったよかった!」

 「……まぁ、礼は言っとく」

 「出来れば目を見て顔向けてワンモア!」

 「調子に乗んな馬鹿」

 

 結局響に目を向けることなく、クリスはその場にどっかと座り込んだ。

 今のクリスに、自分から響へと合わせる顔などなかったのだ。

 

 彼女の参戦した時点で、窮地にあった命と散々乱れていた心を救われた。その後も、結局響に助けられてばかり。自身の消耗やイチイバルの損傷など、言い訳にはならない。

 

 こっちの響にも、あっちの黒い“立花 響”にも、終始圧倒され続けるばかりで終わってしまった。

 

 (こんなんじゃ駄目だ。こんなんじゃ、このままじゃ、何の意味ないじゃねぇか……!!)

 

 本部が送ってきたであろう迎えの車の音が、遠くから近づいてくる。

 それに気づいた響が、クリスに嬉々とした声を掛けてくる。

 

 それらの音全て、クリスには届いていなかった。

 クリスに今聞こえるのは、己の心中に響く自省の声だけ。

 それ以外の音など、すべて自分に関わりのない遠い世界での音と変わらなかった。

 




※やっと作中時間で夜が終わる……
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