その時にならなきゃ伝わらない事もある。
ただ“その時”がいつ来るかなんて誰にも分からない。
▼▼▼▼
目の前が真っ暗になりそうだった─────
俺がこんな姿だから、二人に迷惑をかけているというのに、
目の前で大変な事が起こってるのに、足がすくんで動けない。
「あっはは!どう!?信用していた奴に裏切られる気分は!?」
fifthはそんな光景を楽しでいるのか、さっきよりも笑顔で俺達を見ている。
太宰さんは言葉も発さずに中原さんに刺していたサバイバルナイフをゆっくりと引き抜いた。
「はぁ・・・はぁ・・・くそっ太宰がぁ・・・。」
立っていられる状態じゃない中原さんはその場に倒れ込んで太宰さんをこれでもかと睨みつける。
「・・・・・・。」
しかし、太宰さんは一向に口を開こうとしない。
「あー楽しかった!じゃあねぇ・・・・・・今度は“自分の腹に刺してよ、そのナイフ”。」
「ゔぁ・・・・・・。」
「太宰さんっ!」
「太宰っ・・・。」
今度は、太宰さんが“自分の腹にナイフを刺した”。
綺麗な血が鮮やかに飛び散る
「えっとぉー・・・seventhは“コイツ”は殺してもいいって云ってたよね、third?」
「・・・・・・嗚呼、そう云っていた。」
「じゃあ・・・殺しちゃおっか!」
不味い不味い不味い不味い
此の儘では確実に太宰さんは殺されてしまう。
俺に、俺に出来る事は───────
「・・・ンな処でくたばんじゃねぇ糞太宰っ!!!!!!」
咄嗟にナイフを蹴り落とした中原さんは太宰さんをこれでもかという程の力でぶん殴った。
「中也・・・・・・。」
「はぁ・・・はぁ・・・・・・・。」
こんな場面でも中原さんは太宰さんのために・・・
「何してくれてるの!?もうー!!」
向こうも中原さんの行動に驚かされてるようだ。
「何か・・・太宰さんだけでも助かる方法を・・・・・・・・・・・・あ!」
よく見たら敵の後方に沢山積み重なった木材がある。
あれを崩せたらかなり時間稼ぎになる筈だ。
「よし・・・・・・!」
射出ベルトに手をかけた瞬間、自分は如何するのかという疑問が浮かんだが、そんな事より“目の前で困ってる人を助ける”のが最優先だ。
「・・・・・・いっけえええぇええ!!!!」
「えっ!!?何何ちょっうぁああああ!!!!?」
「くっ・・・・・・・・・!!!」
見事ボールは命中して敵に木材が降りかかった。
「太宰さん!」
「・・・工藤君。」
「俺と中原さんの事はいいから今は逃げて!!」
「なっ・・・・・・何を云ってるんだ?私だけが逃げても君と中也が・・・。」
分かってる。
分かってるよそんな事。
「今逃げても捕まるのがオチなら手前が逃げて応援頼んだ方が手っ取り早いンだよ!!!ぐだぐた云わねぇでさっさと逃げやがれこの包帯男!!!」
怪我してるのによく喋れるな中原さん・・・
「・・・・・・工藤君、中也。」
太宰さんは傷口を抑えながら立ち上がる。
「・・・・・・私より先に死んだら許さないからね。」
その顔はひどく切なそうで、でも、どこか安心しているような顔で────
「「・・・もちろん。」」
「手前より先に死ぬなんて有り得ねぇからな。」
「ふっ・・・・・・。」
俺と中原さんの返事を聞いてから太宰さんは重い足取りで其の場を後にした。
「無事に向こうまで着いたらいいけど・・・・・・っうぁ!?」
しまった。
「小童が・・・・・・侮れんな。」
「君のせいで逃がしちゃったジャーン!」
足には巻きついた“地面”。
thirdって呼ばれてた男の異能力だろう。
「っ・・・中原さんは?」
「流石に限界みたいだね。気絶してるよ。」
「・・・限界に近い状態で元相棒を助けるなんて・・・我には理解し兼ねる。」
「そんなん僕も理解できないから!」
ゆっくりと二人が近づいてくる。
「結構痛かったんだよー?」
「・・・取り敢えず任務完了だな。」
俺はその言葉を最後に目の前が真っ暗になった────────
▼▼▼▼
「・・・此れはどんな状況なの?」
「ンなもん俺に聞かれても困るわ・・・。」
「エリスちゃん!折角の贈り物を無下には出来ないだろう!?さぁ着るんだ!」
「厭だ!!助けてアイ、ハットリ!!!!リンタロウが気持ち悪い!」
今、灰原と服部は森鴎外によってポートマフィア本部の首領の部屋に連れてこられた訳だが、、、、、
「何で来て早々オッサンと子供の追いかけっこ見なあかんのや・・・。」
「そんなもんあの二人が特殊って事でいいじゃない。」
「それで終わらせてええ話じゃない気がするけどなぁ・・・。」
かれこれ三十分、二人はその光景を見させられている。
「だから助けてって云ってるでしょ!?」
「あー・・・はいはい。森さん、ええ加減にしてそろそろ話を・・・。」
「・・・・・・そうだね。エリスちゃん!此の服を着るのはまたの機会にしよう!」
「・・・・・・・・・諦めてはないのね。」
「・・・・・・さてと、話はあの会話を聞いて大体理解してくれたかな?」
すっかり仕事モードに切り替えた森に服部と灰原は感心しながらも会話を続ける。
「・・・えぇ。まさかアポトキシン4869の情報が他の組織に渡っているなんて考えもしなかったわ。」
「まぁ、弱い人間は金に釣られやすいからねぇ。」
「情報敵に回した兄ちゃんがどうなっとるかが一番気になるわ・・・。」
「・・・・・恐らくもう消されてるんじゃない。」
「えっ・・・。」
そんな事簡単にやってのける組織だから、と呑気に珈琲を飲む灰原に服部は内心驚いていた。
どんだけ非常識な組織なんだ!・・・と、
「・・・あ、処で何時になったらその・・・“武装探偵社”ってとこに行くんか?其処に俺ら行かなあかんのちゃうか?」
「嗚呼、其の事ならもう少し待ってくれれば・・・。」
「・・・???」
何を云っているのか理解出来ないでいると、扉の向こうから声が聞こえた。
「・・・・・・芥川です。客人を連れて参りました。」
「入っていいよ、芥川君。」
扉が開くと黒い外套を羽織った青年が眼鏡をかけた顔立ちのいい男を中に連れ込んだ。
「待ってたよ。・・・・・・“武装探偵社”の国木田独歩君。」
「・・・・・・本日此処に来たのは此方に“灰原哀”と“服部平次”が居るとの情報を受けたので来ました。・・・二人は何処に?」
国木田と名乗った男と森の間に緊張感が走る。
「・・・私が灰原哀で、こっちの方が服部平次よ。」
「むっ・・・・・・そうだったのか。」
「・・・・・・メンタル強すぎやろ・・・。」
余りにも呆気なく正体をバラした灰原に焦る服部だったが、自分達に危害を加えるような訳でもないので、服部は密かに安堵する。
「・・・・・・国木田君。私は今から“武装探偵社”に向かうつもりだが構わないかね?」
「別に構いませんが・・・・・・・・・はぁ!!?今なんと・・・?」
「だから、私も二人と一緒に武装探偵社に行くつもりなんだが、構わないかい?」
「・・・・・・・・・。」
突然の発言にド肝を抜かれている国木田。
・・・一組織のトップがそんな事を笑顔で話す訳がないから仕方ない。
「・・・社長が何と云うか・・・。」
「社長が何か云う前にマフィアが妙な事をするなら“名探偵”が黙っていないのでは?」
「・・・確かに・・・・・って、まさか乱歩さんはこうなることを予測して・・・!?」
「相変わらず底が知れないねぇ。」
どんどん話がまとまっているような気がしなくもないこの雰囲気に服部は灰原に耳打ちする。
「なぁ・・・・・・此れって若しかしなくても・・・・・・。」
「此の展開は誰でも予想できるんじゃないの・・・。」
服部と灰原を差し置いて話していた森と国木田は話が纏まったようで、森が笑顔で二人を見た。
──────そう、今日一番とも言えるような笑顔で。
「今から私と国木田君、芥川君、服部君、灰原君の五人で“武装探偵社”に行くよ。」
「・・・・・・・・・矢っ張りそうなるんかい!」
「・・・・・・。」
───────────何も知らない五人は武装探偵社に向けて出発するのであった。