モンハン リアル補正 ~英雄の軌跡~   作:ふーてんもどき

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大切なもの

 青年は昂っていた。目の前の存在が放つ威光に酔いしれている。

 フルプレートの鎧兜一式。

 お金を貯めること、苦節3年の今日。訓練生時代の支援金さえも切り詰めて、青年はようやく憧れの鎧兜を手にしたのである。

 上質な鉄鉱石とマカライト鉱石のみを使って作られた、まさしく『騎士』が身に付けるような贅沢な逸品だ。

 

「お前さんが言った通り、ドスファンゴの突進にも耐えられる代物だぜ」

 

 隣でタバコをふかしている鍛冶屋の主人が自慢気にそう言った。

 

「しかし物好きだねぇ。今どきこんな注文、どこからも入ってきやしないぜ。最初聞いたときはオイラ、驚いちまったよ」

 

 青年がフンスッと鼻息を荒く吹かせた。

 

「いやあ、ロマンだろ、おやっさん。これを夢見ない男がいるなんて信じらんねえや」

 

「ま、確かにな。ロマンたっぷりだわな」

 

 ピカピカに磨き上げられたプレートが眩しい。

 胸部分に施された飛竜の彫り物は、青年がどうしてもと頼み込んだ装飾だ。これのせいで費用がバカ高くなったが、本人はてんで気にしていない様子である。

 

「んじゃ、所有者登録する前に、試着済ませちまうか。これが専用のインナーな」

 

「おうともさ」

 

  鍛冶屋に言われて、待ってましたとばかりに、折り畳まれたインナーを受けとる。紐や輪っかなんかが付いていて、これを着ないことには鎧を固定できないのだ。

 試着室がないので、狭い採寸室で下着姿になる。

 半裸になり、腕に力瘤を作ってみて自分の肉体美に惚れ惚れする。実際にはハンターとしては痩せ型の体型だが、青年は至って満足そうだった。

 

「さっさとしろ」

 

 ポージングを決めているところを急かされて、顔を赤くしながら全身タイツのようなインナーを慣れない手付きで着る。恥ずかしいのか、チラチラと鍛冶屋を何度も横目で見る。鍛冶屋の呆れたようなため息。

 

「き、着れたよ。なんかスースーする。これだけだと変じゃないかな」

 

「ああ、変態だな。ギルドナイトが飛んでくるぜ」

 

「態は余計だろ!?」

 

 鍛冶屋は全身タイツの客に辛辣な感想を浴びせつつも、鎧を着るのを手伝ってやる。

 

「いちおう一人でも着れるように作ったが、すこぶる面倒だからな。できれば誰かに手伝ってもらえ」

 

「うん、ありがとさん」

 

「じゃ、まずは脚の装甲からだな。違和感ねえか?」

 

 思ったよりも上質な履き心地に、青年は感動した。耐熱性と肌触りの観点から、ケルビのなめし革を裏地に使った効果である。

 次々に各部位のパーツが取り付けられていく。一言一句、鍛冶屋の説明を聞き流さないよう努めながらも、これを着て集会所で凱旋するであろう自分に惚れ惚れしていた。

 

「ほれ、これで完成」

 

 口元以外を覆う兜を最後に被り、騎士の青年は完成した。座ったままで、鏡に映る鎧姿の自分に釘付けになっている。

 

「ちょっと立って歩いてみな。屈伸とかもして、変なとこがねえか確認しろや」

 

「おう!」

 

 立ち上がるだけで意気揚々。膝から下に力を入れたその時、青年はふと違和感を覚えた。

 

「ん? どうした。早くしろよ。俺は仕事上がりの酒を飲みたくてウズウズしてんだよう」

 

「う、うん」

 

 そうして青年は立ち上がって動作を確認した。

 問題ないと言って、また脱ぐのを手伝ってもらう。汗が滲んでいる手の平をズボンで擦って、所有者登録と後納金の支払いを済ませ、布でくるんだ鎧をリアカーに乗せる。

 鎧を積んでいるとき、すでに鍛冶屋は飲みに出かけてしまっていた。

 なんて親父だ、と思いつつ、緩やかな上り坂が続く自宅までの道を、リアカーを引いて行った。

 

 

 

 

 

 

 ウェイトレス姿の受付嬢が、目をパチクリさせて青年を見つめている。

 鎧を受け取ってから数時間後、クエストを受注して準備を済ませた青年は、鎧を身に纏い桟橋の上に立っていた。

 

「ちょ、ちょっとあんた。何よその格好」

 

 受付嬢が聞く。不意打ちを突かれたように、困った顔をしている。

 青年は兜越しでも表情が分かるほど自慢気な声で言った。

 

「前から言ってたろ。マカライトをふんだんに使った鎧を注文したって」

 

「ええ......あれ冗談とばかり......それにしてもあんた、その格好でクエスト行く気なの?」

 

「当たり前だろ」

 

「でもこれから行くのって、キノコ取ってくる依頼じゃないのさ」

 

 受付嬢の呆れた声。

 

「へっ、ついでにランポスやブルファンゴも狩ってきてやるぜ。『ついでに』な!」

 

 青年の張り切りすぎな啖呵に、受付嬢は頭を抱えた。

 彼女と青年は子供の頃から付き合いがある関係だが、今回の彼の馬鹿さ加減は過去最大級だった。

 受付嬢は肩から下げていたカバンから革製の包みを取り出した。それを青年に勢いよく突き出す。

 

「これ、持っていきなさい」

 

 青年が露骨に顔をしかめた。

 

「ええー、小さな船しか借りられないから、荷物は少なくしておきたいんだけど」

 

「つべこべ言わずに!」

 

 文句を一蹴されて、背負っていたポーチに無理矢理その包みを入れられる。

 

「なんなんだよ、毎回毎回」

 

 腕を組んで受付嬢はフンッ、と鼻を鳴らした。

 

「餞別よ。中身はナイショ。困ったときに開けなさいな」

 

「いっつもそう言うけどよぉ、前なんか石ころ詰めてやがったじゃねえか」

 

「でも役に立ったでしょ。」

 

 青年は嫌そうに、フェイスガードの下で眉を寄せる。

 受付嬢は勝ち気そうな顔に反して、柔らかく笑った。少女っぽさが残る、綺麗な笑い方だった。

 

「今回のはまともよ。あんたソロでやってるからって最近調子に乗っちゃってさ。見てて危なっかしいんだもん」

 

「ふぅん。心配してくれてんだあ。幼馴染みだもんなあ。ん?」

 

 からかうような青年の言葉に、受付嬢はその可憐な容姿からは想像もできない見事な回し蹴りを、青年の尻にぶち当てた。金属の固い音がなる。お尻もキッチリ、丈夫な鎧で守られていた。

 

「うっさい! 客が減ったら困るって話よ。さっさと行って帰ってきな」

 

 受付嬢のキツい激励に「効かねー」と笑いながら船に乗り込む。待ちかねていたアイルーがすぐに船を漕ぎ出した。

 遠くなっていく船を、兜を被った青年の顔が見えなくなるまで、受付嬢は手を大きく振って見送った。

 

 

 

 

 

 

「旦那、どうしたニャア」

 

 水夫のアイルーがそう聞いた。

 陸を離れてちょうど半日が経った。今はとっぷり日が暮れた、新月の夜である。月明かりが無い分、空を埋め尽くす星々がよく映えている。

 クエストに備えてもう眠らなければいけない時間だが、青年はモゾモゾと頻繁に動いて、ちっとも寝る気配がなかった。眠るために脱いだ兜を抱えたまま横になって、右へ左へ寝返りを打ち続けている。

 

「慣れない鎧で寝苦しいニャ?でも、その状態でぐっすり寝られないと厳しいのニャ。実地は一日で終わるクエストだからまだしも、大型の討伐クエストなんか行くときには鎧で寝るなんて日常茶飯事ニャ」

 

 ニャーニャーとお節介なアイルーに苛立って、短く返事をする。

 

「知ってるよ。放っておいてくれ」

 

 モゾモゾは止まらない。むしろ、時間が立つごとに頻度が多くなっている。しばらく経って、寝付けないアイルーが抗議に出た。

 

「あのー、寝れないんでそろそろ静かにして欲しいニャ。船の番は交代制だから、休めるときに休みたいのニャ」

 

 青年の動きがぴたりと止まる。いやに不自然な静止だった。背中に観念したような哀愁が漂っている。

 

「......なあ、相談なんだけどさ」

 

「ニャ」

 

「ウンコ、したいんだけど」

 

 今度はアイルーが固まった。

 青年は我慢が限界に近いのか、また忙しなく動き始める。

 青年のすかした屁が臭くて、アイルーは顔をしかめた。鼻を押さえているために、ダミ声で答える。

 

「じゃあ鎧脱いですればいいニャ」

 

「え、でも、面倒臭いし」

 

「さっさとするニャ」

 

 アイルのー言葉には気迫がこもっている。

 このフルプレートの鎧、クエスト出発前に試しに一人で着てみたら、ぐうの音も出ないほど四苦八苦させられたのだ。クエストが終わるまでは脱ぐものかと決めていたが、便意という不測の事態に、早くも決断を余儀なくされた。幼馴染みの受付嬢が知れば、チョップを放たれるだろう間抜けっぷりだった。

 

 今日はよく急かされるなあ、なんて思いながら渋々、アイルーに手伝ってもらって鎧を脱いだ。気を遣ってか呆れてか、そっぽを向いているアイルーに感謝しつつ、夜の海原に失敬した。

 

「ハンターって、大変なんだな」

 

「たぶんそのハンターは旦那だけだニャ」

 

 

 

 

 

 

 空が白み始めた早朝に起きれば、もう狩り場である島がすぐそこにあった。小さな船なので、そのまま砂浜に乗り上げる。

 

「しっかし貴族はすげえよな。バカ高い報償金払ってでも、この島の特産キノコが食いたいなんてさ」

 

「僕らの税金が彼らの懐に入ってると思うとイライラするニャ」

 

 アイルーの辛口な物言いに苦笑し、また猫の手を借りて鎧を着る。武器の点検もバッチリで、背負った槍の穂先が、太陽の光を反射しキラリと光る。

 万全の状態。しかし青年は腰を下ろしたまま動かない。

 陽射しの熱で鎧の肩越しに蜃気楼の揺らめきが見える。じりじりと熱されていく中で、青年はまだ動こうとはしなかった。

 

「旦那。どこか具合でも悪いのかニャ?」

 

「いや、そうじゃないけどさあ......」

 

 青年の濁した返事に、アイルーが肉球でパシパシ背中を叩いた。

 

「なら早く行くニャ。僕らアイルーの仕事は日払いだから、少しでも早く済ませて時給単価を上げなければならないのニャ」

 

 可愛い見た目にあるまじき発言である。

 青年はそうしてようやく、腰を上げてよろよろ森の方へ歩いて行った。新米ハンターにしたって酷い、どうにも頼りない足取りに、アイルーは首を傾げるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 ベースキャンプから大分離れて、青年は出っ張っている木の根に座り込み、息を吸って叫んだ。

 

「ん重いいいぃぃ」

 

 すっぽり全身を覆い隠している鎧兜の内側で、青年は滝のような汗を流していた。

 土地ゆえの蒸すような暑さもあるが、何より鉄とマカライトをふんだんに使った鎧の重さは尋常ではなかった。まるで拘束具を付けて歩かされている囚人の気分である。

 

「くそっ、ここまでとは思ってなかったぜ」

 

 鍛冶屋で試着した時から、違和感は覚えていた。あれ、思ったよりもヤバイぞ、と。

 しかし実際に狩りに出てみて、ついに認めざるを得なくなった。

 

「これ着てハンターやるの無理じゃん......」

 

 ガックリ項垂れる。上げていたフェイスカバーが音を立てて閉まる。

 青年はうんざりした。

 視界は遮られているし、音の方向も兜の中で反響して分かりづらい。何より歩くだけで、普段走るのと同じくらいの体力を消耗していた。

 圧倒的な防御力を誇る半面、ハンターとして必要なもののほとんどを失ってしまったわけだ。なぜフルプレートが世の中から姿を消したのか、青年は泣きながら痛感した。排泄も満足にできないのだから踏んだり蹴ったりである。

 

「三年間......三年間の努力が無駄になった......キノコ採って、もう帰ろう......」

 

 グローブのせいで器用さの欠片もない手付きで、ギルド支給の地図と依頼書を広げる。

 今回お目当てのキノコが寄生する木は、現在地から島をグルリと回り込み、緩やかな丘を登った先に群生しているらしかった。

 長い道のりにさらに気が滅入る。

 仕方なしと、重い足を引き摺るようにして、再び歩き出す。草木を掻き分けて一時間も進めば、島の反対の海岸に出る。人間サイズのヤドカリが潜伏している目印である砂の噴出に注意しつつ、地図と照らし合わせながら島の中央に向かう。

 ランゴスタをやり過ごし、肉食竜の気配に怯え、コンガのなわばりを避けて行く。

 そうして登り、さらに一時間が経った。

 

「つ、着いたぁ」

 

 肩で息をしながら、青年は尻餅をついた。登りきった所に開けた場所があり、目的の木々が疎らに生えていた。

 キノコは木の根元の土に埋まっているらしいので、キノコ漁りをしているモスを目印にする。モスがそこで土を堀り始めたら、可哀想に押し退けて横取りするのである。

怒ったモスに突撃されること10回。モスに謝りながらもようやく、目標の数のキノコが採れた。

 

「ああ、腹へったなあ」

 

 太陽の傾きから見て、もう正午にさしかかろうとしていた。早い時間に出発したはずなのに、この体たらくは笑えてくる。体力を使いすぎて、背中とお腹がくっつきそうだった。

 食料を探してポーチを探る。ギルドから支給される携帯食料が、中に入っているはずである。

 

「あ、あれ?」

 

 ゴソゴソゴソゴソと、ポーチの中身をかき混ぜて見るごとに、青年の顔から血の気が引いていった。

 

「うあ、ああ......忘れた、のか......」

 

 訓練生でもしないようなミスだった。鎧ばかりに気が行って、肝心なことすらままならないでいた。端から見れば自殺志願者である。

 調理のための着火器具も持ってきていないし、近くにすぐに食べられそうな物も見当たらない。自分をぶん殴りたい衝動に駆られるが、疲労困憊でそれすら億劫である。

 

「くそっ、あいつの言った通りになっちまった」

 

 最近調子に乗っている、と言ってきた受付嬢の顔が思い浮かぶ。

 確かにそうであったと認める他ない。モンスターの攻撃に負けない鎧を着て餓死しましたなんて、笑えもしない。運良くこのまま生きて帰ったところで、受付嬢に何て言えばいいのか分からない。ただただ恥ずかしかった。

 受付嬢のことを考えていると、彼女から革袋を受け取っていたことを思い出した。ポーチには先日、彼女にねじ込まれた状態のままの袋が、ちゃんと入っていた。

 

「ったく、今度は何入れやがったのか......」

 

 悪態をつきつつ紐を解く。中身を見て、青年は押し黙った。

 干した果物にクルミなどの木の実、そしてたっぷりの干し肉が入っていた。雑多に詰め込まれているのが彼女らしい、温かな餞別だった。

 

「あいつ......」

 

 しばらく呆けて、それから勢いよく手を合わせ、手でいっぱいに鷲掴んで頬張った。

 

「ぐ、ぐぅ。くそう、くそう......」

 

 青年は泣きながら木の実を噛み締める。

 情けなさとありがたさで、心がぐちゃぐちゃになっていた。忘れてきた携帯食料とほとんど変わらない食事なのに、こっちの方がずっと美味しく感じられたのだ。

 食べ切って水を飲んで一息つくと、鎧が少し軽くなった気がした。力が湧いてきて、もうちょっと頑張ろう、と前向きな気持ちになれた。

 

「ンニャ、ニャニャっ」

 

 立ち上がったその時、茂みの奥から一匹のアイルーが飛び出してきた。野生じゃない。服を着ている。

 落ち着いて見れば、それはベースキャンプで待っているはずの、仲間のアイルーだった。

 

「どうしたんだお前。こんなとこ来て」

 

 そう言うと、アイルーは乱れた毛並みを舐め整えてから心外そうに答えた。

 

「どうしたって、旦那がなんだか体調悪そうだったから、心配して見に来てやったのニャ。ほら、支給品も忘れて行っちゃったし、お腹空いてるでしょ?」

 

「そっか......」

 

「規定外の仕事だニャ。感謝するがいいニャ」

 

「うん、ありがとう」

 

 アイルーは薬や携帯食料を青年に渡すと、魚の燻製を取り出してかじり始めた。青年ももう一回、干した肉やら果物やらの保存食を食べる。

 

「やっぱ、さっきのが一番だったな」

 

「ん、なんか言ったニャ?」

 

 なんでもないよ、と青年は笑う。

 

「ところで旦那、採ったキノコはどこにあるニャ?」

 

「ああ、それならあそこに......」

 

 横に置いてあった袋を取ろうとして、青年は絶句した。

 影も形もない。

 慌てて探そうとしたら、すぐそこで、モスがそのキノコを入れた袋を食い破っているのを見つけた。苔を生やした豚が、袋に顔を突っ込んで一心不乱にキノコを食いまくっている。

 

「ぎゃああああああああ」

 

 青年とアイルーと揃って悲鳴をあげた。

 太陽がそんな一人と一匹を笑うように、西へと傾き始めていた。

 

 

 

 

 

 

 その翌日、街に戻った青年は、クエスト達成の報告をしに集会所へ出向いた。カウンターで頬杖をついていた受付嬢が、入ってきた青年を見て叫ぶ。

 

「ああっ!あんた、遅かったじゃない。なにしてたのよ」

 

「わりぃわりぃ。ちょっと色々あってさ」

 

 納得していない表情の受付嬢。

 

「ふうん。まあ、無事ならそれに越したことはないけど......その格好で来たってことは、依頼は失敗したってことかしら?」

 

「え?」

 

 青年がすっとんきょうな声を出して聞き返す。

 

「てっきり鎧で凱旋してくるものだと思っていたから。キノコを掲げてね」

 

 青年の今の格好は、大部分が革でできている、ごく一般的なハンターのものだった。

 青年はムスッとして、相変わらずからかってくる受付嬢の前に納品用の袋を置く。

 

「あるから、ほれ」

 

 袋に指定のキノコが入っているのを確認して、受付嬢は意外そうに言う。

 

「あら。じゃあどうして鎧来てこなかったのよ。行く前にあんだけ見せつけてきたくせに」

 

「あー、それなんだけど」

 

 青年が言いにくそうに頭を掻いて目を泳がせる。

 

「重くて、無理だった」

 

 受付嬢は目を丸く見開き、次の瞬間には、腹を抱えて笑った。口元に手を当てて堪えているが、ブフッと隙間から笑い声が漏れる。

 

「笑うなよ」

 

「んくっ、うふ、あはははっ。だから言ったでしょうに」

 

 恥ずかしがって明後日の方を向く青年に、受付嬢はもうニヤニヤしているのを隠そうともせず聞いてくる。

 

「じゃあ、あの鎧どうするの?家に飾っておくの?」

 

 冗談めかした口調に、青年は「そりゃあね」と肩をすくめて言った。

 

「今はまだ無理だから、着れるようになるまではお蔵入り」

 

 受付嬢が青年の言葉に感心したようで、ピタリと笑うのを止めた。てっきり諦めるものだとばかり思っていたが、真剣に鍛えるつもりのようである。

 

「へえ。あんだけ装備装備って言ってたあんたがねえ。少し見直したわ」

 

「見損なってたのかよ。ショックなんだけど」

 

「ふふっ、まあ、頑張りなさいな。期待はしてるんだから」

 

 受付嬢はまた笑った。さっきまでの嫌味やからかう表情とは違う、静かな微笑み。

 青年は不覚にも彼女の笑顔にときめいた。出掛ける前にも見た、彼女がたまにする、柔らかな笑い方だった。

 それが、彼女の言葉が嘘でもお世辞でもないと証明していた。

 

 

 

 

 

 船着き場の小さな桟橋で、中年の鍛冶屋とアイルーが並んで座って、海を眺めながらタバコをふかしている。

 アイルーが言った。

 

「おっちゃんはハンターにとって、何が一番大切だと思うニャ?やっぱり装備かニャ」

 

 鍛冶屋が少し間を空けて答える。

 

「んなもん知らん。まあ、強いて言うなら」

 

「言うなら?」

 

「大抵、気付かないうちに手に入ってるもんさ」

 

 

 

 

おわり

 




鎧の大変さを書きたいと思っていたら、いつの間にかありふれたコメディになっていました。書き手としてまだまだ未熟な証であります。

実際のところ、青年が鎧を問題なく運用できるまで鍛え上げたら、悲しいことに鎧はキツくて入らなくなっていることでしょう。フルプレートの鎧は作ったが最後、その採寸した時の体型を維持しなければ、着れなくなってしまうらしいですから。

欲を言えば、排泄に関することをもっと生々しくやりたいですね、はい。需要があるかは分かりませんが。
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