モンハン リアル補正 ~英雄の軌跡~   作:ふーてんもどき

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書きたい話ができたので、久しぶりの投稿になります。メインのタイトルとは少し気色が違いますが、そこはどうか見逃してください。
『続』とありますが、前回の『古龍観測録』を読まなくてもお楽しみいただけます。




続 古龍観測録

 

 伝説とは、語り継がれるがゆえに伝説なのだ。

 時を経て、大事件にあらゆる尾ひれが付き、幻想的に話が彩られてこその、伝説である。そうなるまでは大抵、それはただの事件であり、この世の出来事の内だ。

 しかし稀に例外というものが出てくる。

 誰しもが記憶に強くとどめることになる、尋常ならざることがあるのだ。

 これは伝説になるのだろうという、確信めいた思いを掻き立てる出来事が。

 

 

 

 

 

 どこぞの週刊紙は、ドンドルマの街は夜こそ輝くと紹介したことがある。それは的を射た見解であり、ハンターの総本山たる大都市は、夜になれば酒場という酒場にならず者じみたハンター達が集まり、そこいら中でドンチャン騒ぎをしている。

 しかし大通りから外れて住宅街へ行けば、さすがに夜の静けさが取り戻され、その中にひっそり紛れるようにして営む店もまた、騒ぎとは無縁の、穏やかな空間を提供するものである。

 

 その日は雨だった。

 それもスコールのような大雨なので、祭り囃子みたく聞こえてくるはずのバカ騒ぎも、激しい雨音にかき消されていた。

 密集した住宅街からさらに街の端へと行き、もはや家とも呼べぬ場所に住む、正真正銘のならず者どもの住処。その一角に、安譜陳を精一杯きれいにしたような小さなバーがあった。

 灯りは壁にかけられた蝋燭だけの薄暗い店内で、二人の男が酒瓶とグラスが乱雑に乗っかったテーブルを挟んで何事かを話し合っていた。

 一人は頬がこけた痩せぎすの中年で、欠けた歯と痘痕だらけの人相がいかにも悪人の印象を与えている。汚ならしい格好からも、この辺りの貧民街の人間であることは明白だ。

 もう一方の男は対照的で若く健康そうで、いかにもまともな職に就き、まともな生活を送っているように見受けられた。格好こそラフだが、座り方の品位からしてこの辺の浮浪者とは違っていた。

カウンターの奥にいるマスターは、いかにも怪しげな客二人にまるで興味関心がないようで、淡々と店仕舞いの支度を始めていた。

 

「お会いできて光栄です。正直ホッとしています。なにぶん若輩者なので、こういった場所での振る舞いも分からず、ひょっとすれば身ぐるみを剥がされる覚悟で来たものですから」

 

 そう言ったのは、若い小綺麗な男の方だ。

 痩せぎすの中年は赤ら顔で口をへの字に曲げ、安物の蒸留酒を自分のグラスに注いだ。中年の足元には既に空っぽの酒瓶が二本転がっている。

 

「ずいぶんお喋りだな。良いとこの奴らは皆そうなのかい」

 

「どうでしょう。気分を害されたならすみません。良いとこかどうかはさておき、私がお喋りなのは自覚しています。記者は人と話すのも大切な仕事なのでご容赦ください」

 

 記者と名乗る若い男はぺらぺらと滑らかな調子で言った。

 中年はそれを鼻で笑い(笑うというよりは粘っこい鼻水を啜ったような音だったが)グラスの中の酒を半分、一気に飲んで荒い息を吐いた。

 

「なら場合ってもんを考えるんだな。次に長たらしくくっちゃべったら、瓶で頭かち割るぞ」

 

「気を付けます」

 

 短い記者の答えに満足したようで、中年は残り半分の酒をあおり、鬱陶しげな表情を潜める。

 

「それで、約束した物は持ってきたんだろうな」

 

「これですね」

 

 記者が手提げ鞄から取り出したのは、薄く小さい木の箱だった。

 金銭が入ってそうには見えないそれを中年は記者から受け取り、中身を確認した。

 

「おお、これこれ」

 

 木箱から葉巻を一本取り出す。中年の取材報酬はその高級そうな葉巻のようだ。

 

「ハサミは持ってるかい」

 

「専用のがありますよ」

 

 記者はギロチン型のカッターを中年に渡した。葉巻の吸い口を切るためだけの、贅沢な道具だ。

 

「物持ちが良いんだな」

 

「趣味なもので。それも葉巻と一緒に差し上げますよ」

 

「ふん。金持ちは気前がいいな」

 

 憎まれ口を叩き、中年はマッチを擦って葉巻に火を灯した。ゆったり煙を吸って、溜めてから吐き出す。バーによく似合う、独特の匂いが立ち込めた。

 

「さて、では取材に移りますかね。是非お聞かせください。あなたは『彼』を見たのでしょう?」

 

 記者の言葉に、中年は酔っ払って惚けた顔を引き締め、または引き吊らせ、その目は真剣さを帯びた。

 

「『彼』ね。見たさ。見たともさ。これまでも何度となく話してきたが、誰も信じなかった。あんたは信じるのかい」

 

「信じますとも。それが私の勤めですから」

 

 中年が追加の酒を注文する。無表情のマスターが席までやって来て、愛想もなく酒のボトルをテーブルに置いていった。

 新しく酒を注ぎ、今度はそれを舐めるように飲みながら、中年の男は語り出した。

 

「では話そう。そうさな、あれは人間じゃあなかったよ」

 

 

 

 

 

 

 俺は今ではこんな所で腐っちゃいるが、若い頃は方々の辺境を巡るトレジャーハンターだったんだ。ギルドに登録していない、非公式のフリーのハンターだがね。

 鬱蒼とした熱帯雨林。

 熱砂と寒波が行き交う砂漠。

 灼熱の活火山。

 色々な場所に行った。ポイントはできるだけ人が嫌がりそうな、つまり人間が寄り付かなさそうなところに行くことだ。そうすりゃ獲物はたくさん採れるし、誰それに犯罪者として訴えられることもないからな。

 

 あ? 今までで行ったところで一番良かった場所? おまえの用件とは関係ないだろ......ふうん、次に書く特集のネタにねぇ。まあ、シガーカッターも貰っちまったし、いいか。

 一番良かったっていえば、海だな。モガって知ってるだろ? そう、辺鄙なところさ。俺はあの頃は基本野宿の生活だったが、あそこは過ごしやすかった。

 昼に吹く潮風は気持ちがいいし夜もあまり寒くならない。景色も良くて、なにより飯が美味いのよ。透き通った海に潜ればな、蟹やウニが簡単に採れるんだ。

 あそこにいる間は、トレジャーってよりはバカンス気分だったな。

 

 逆に一番厳しかった所は、まあ間違いなく雪山だな。火山の暑さも相当しんどかったが、極寒の地獄に比べればなんてことはない。寒すぎて身動きできなくなったこともあった。

 ほら、俺の右手の小指がないだろう。凍傷で切り落としたのさ。足の指も二本ほどないが、まあ雪山のハンターにはよくある話だ。

 

 そうそう、これから話す本題も、雪山での出来事だぜ。それくらいは調べてきてるか。うん、フラヒヤ山脈だ。

 俺は麓の村をベースキャンプにして探索をしていた。俺みたいなグレーゾーンのハンターが泊まりに来るような村は、結構あるものなのさ。

 そんときは雪山草のブームが来ててな。あの雪下で育つ甘い山菜が、高額で飛ぶように売れた。

 俺もそれを狙った。体力も経験も、人一倍自信に溢れていたから、イカれハンター以外の人間は寄り付かないような高所に登っていった。俺もイカれてたんだと思うよ。

 洞窟を抜けるのはモンスターに襲われる可能性が高いから、岩肌をよじ登った。酸素が薄いんで、ランポスの鳴き袋に麓の空気を入れて持って行ってな。すげえ膨らむけど破けねえんだ。休憩のときに少し吸うだけでもだいぶ違うものさ。

 そんで手付かずの雪原を掘り返し、夢みたいな量の雪山草を採り、有頂天になって帰り支度をしていた。

 

 思えば兆候は、その時にやってきた。

 

 山は天気が変わりやすいなんてのは子供でも知っているが、あれは酷かった。大抵慣れていれば遠くの雲の形から天気の予想ができるもんだが、その時はなんの前触れもなかった。

 どこにもなかった雲が意思を持ったように集まり出して、気付けばブリザードが吹き荒れていた。こうなってしまうと、行くことも退くこともできなくなる。

 マイナス10℃の中で立ち往生することの恐怖が分かるか? さらには吹雪の強い風が体力をことごとく奪っていくんだ。あれは地獄だった。

 

 俺はなんとか岩の隙間に身を捩って入れ、難を逃れることにした。あとは風が止むのを祈り、運に任せるのみさ。

 無事に帰れることだけを考えるようにしながら、意味がわからん吹雪の中で縮こまっていた、そんな時さ。

 

 銀色の龍が舞い降りたんだ。

 

 図鑑ですら見たことこともない龍だった。

 俺がいる場所からはかなり遠かったが、ホワイトアウト寸前の視界で、やけに奴の姿がはっきり見えた。金属質の滑らかな甲殻は、フラヒヤの雪よりも冷たい印象を受けたな。

 厳めしいそいつの面を見て、俺はこの吹雪の原因が奴にあることを、本能で実感した。

 あれが伝説に聞く、古龍ってやつなんだな。

 

 思い返せば、その日の雪山はなんだか様子がおかしかった。

 モンスターが一匹もいないのさ。普段群れをなしているポポたちも、そのポポを探して回る白ランポスも、やたらめったらに縄張りを広げる雪猿のブランゴも。

 避けても見かけるはずのモンスターの、一切合切がいなかったんだ。

 野生っていうのはすごいな。地震や台風が来るときにはそれを予感して、避難するんだからな。

 つまりだ。あの銀色の龍、クシャルダオラは、そんな大自然の権化ってことだ。

 

 クシャルダオラが一歩踏み出せば奴を中心に突風が吹き荒れ、雪を舞い上がらせた。

恐ろしかったが、この世のものじゃないみたいに神秘的だった。

 

 息も潜めてそいつに魅入っていると、あることに気が付いた。

 クシャルダオラの角の長さが、不揃いなんだ。

 奴の後頭部には何本も角が生えているが、頭頂に近い一際大きな二対の角の右側が、少し短かったのよ。見間違えかとも思ったし、またはもともとそんな形なんだろうとも思った。

 しかし、あの神々しい生き物の一部にしては不自然だと、理屈ではない確信があった。

 だからと言ってクシャルダオラに傷を付けた者がいるなんてことも、到底信じる気にはなれなかったね。同じ古龍同士が戦えば、そういうこともあり得るのか?天災の喧嘩なんて想像もしたくねえが。

 

 だが認めざるを得なかった。奴に対抗する存在がいることを。

 

 クシャルダオラが突然咆哮をあげた。研ぎ澄まされた金属が割れたような、甲高い雄叫びだった。何十メートルと離れているのに、俺はあの時ほど死を側に感じたことはない。

 その直後、爆音が鳴った。

 それは生き物の声じゃなかった。クシャルダオラに向かって、爆発物が放たれたのさ。自然にはない人工の燃焼だ。クシャルダオラに届くことはなく、暴風に弾かれたがな。

 吹雪を掻き分けるようにして現れたもう一つの存在を見て、俺はついに寒さで頭が狂っちまったのかと思ったよ。

 

 考えられるかい。

 古龍の前に人間が立ちはだかっていたんだぜ。

 

 

 

 

 

 

「それが、『彼』であると」

 

 それまで一言も発っさず、中年の男の話に耳を傾けていた記者は、震える声でそう聞いた。

 

「たぶんな。お前が探している奴かどうか、俺は知らんが」

 

 中年は三本目の酒瓶を脇にどけた。もう空になっていたが、中年は顔が赤くなっている以外に酔った様子はない。

 アルコールよりも、当時の強烈すぎる記憶が、彼の脳を占領しているようだ。

 

「何をやっているのか全部分かったわけじゃねえ。凄まじくてな、呆然と見ているしかできなかった」

 

「戦っていたのですよね」

 

「そう、そうだな。一人の男が、古龍と戦っていた。男は現れたとき、銃を持っていた。ハンターがよく使うボウガンより、いくらか軽量化されているようだったな。あの爆発はきっと、そいつでクシャルダオラに榴弾を撃ち込んだんだ」

 

「銃でクシャルダオラと渡り合っていたと言うんですか」

 

「いや、獲物はそれだけじゃなかった。短刀、短槍、他にもいろいろ持っていたかな。どれもハンターにしては小さすぎる武器だった」

 

「小さいとは......どれくらいでしょう」

 

「昔のことだからな、そんなのは覚えてねえよ。そうさな、長さは少しでかい包丁くらいじゃないか?」

 

 記者は舌を巻いた。

 相手は人間の何倍もの巨体を持つモンスターである。いくら切れ味が良くても、包丁程度では役に立たないことなど素人でも想像に難くない。

 

「すげえ光景だったぜ。突発的に、次々と雪原が吹き飛ぶんだ。何もしていないように見えたが、たぶんあれはブレスだったんだろうな。まるで不可視の大砲のようだったよ」

 

「25年前、ギルドナイトの精鋭部隊が敗北を喫したという、あの」

 

「しょうがねえだろうな。あれは人間が対抗できるものじゃなかった」

 

 記者が固唾を飲み込む。

 人間が太刀打ちできないことなど百も承知だ。

 しかし、今話しているのはまさに、その人間が天災に立ち向かっている話なのだ。

 一人の男が伝説へと挑んだ、現実の話だった。

 

 中年の男の語り口調には熱が宿り、その様子はケチな浮浪者から、世界中を飛び回る探検家のものになっていた。

 そんな彼が話す英雄譚はお伽噺のようでありながら、どこまでも現実味を持っていた。

 

「ブレスは『彼』に当たらなかった。ノーモーションに見える敵のどこに注意しているのか知らんが、雪の足場の悪さなどものともせずに避けやがる」

 

「避けるって、どのように」

 

「さあ、転がっていたりもしたが、気付けば別の場所に移動していた感じだ。敵が攻撃しようと意識する、それ以前に行動しているようだった」

 

「クシャルダオラには絶対強者としての意地があったんだろう。避けながらも距離を詰める『彼』に対して、奴はその場から動かなかった。

自身の異能に絶対の自信があったんだ。もしくは、それ以外の戦い方などしたことがなかったのか」

 

「『彼』は間合いまで辿り着いたよ。ブレスを神憑り的な反応で避けきり、どうやったのかクシャルダオラが纏っているはずの暴風の鎧すらすり抜け、片手で持った短筒からさらに榴弾を放った」

 

 

 

 

 

 

 大自然が慄いていた。

 世界を跨ぎ地上を遥か見下ろす山脈の高峰。何者をも寄せ付けない凍てついた場所。

 雲と雪と風が支配するこの世ならざる地で、鋼の龍と、人間の男が、雌雄を決していた。

 

 一直線にクシャルダオラの頭を穿つはずたった榴弾は暴風にさらされ、目標間近で軌道を大きく曲げる。

 しかしその瞬間に、何にも当たっていないのに、火薬仕込みの弾丸は爆発した。『彼』が仕込んだ、発射後すぐに爆発するよう細工した特製の弾だった。クシャルダオラの風の性質と、第六感的な反応速度すら計算の内に入れている。まるで、この一瞬のためだけに設えたような代物だ。

 一瞬だけクシャルダオラの集中が途切れ、風のバリアが乱れる。

 その隙を無駄にせず、『彼』はクシャルダオラの喉元に、いつの間にか構えていた短槍を突きつける。

 狙うは龍の急所。逆鱗の隙間、その一点。

 針を縫うような正確さで放たれた突きは、翼で力任せによって起こされた風圧に止められる。クシャルダオラが持つ、強者に似合わぬほどの危機察知能力が成せる判断だった。

 『彼』は槍を突き通すことも退くこともせず、目の前に来た鋼の翼をがっつり掴んだ。

 翼と共に急激に中空へ上昇した『彼』がついさっきまでいた所を、鋼鉄の巨腕が振り抜かれる。分厚い雪の層が消え去り永久凍土の地面が現れた。古龍の信じがたい膂力。

 だが『彼』も、その力は人間離れしていた。台風より猛々しく振り上がった翼を掴んだまま、片手一本で己の体勢を維持していたのだ。

 直後繰り出される第二の刺突。

 凄まじい金属音を立て火花を散らし、翼の付け根に短槍の切っ先が潜り込む。

 クシャルダオラが嘶いて再び暴風を撒き散らす。それにフワリと乗るようにして『彼』はクシャルダオラから距離をとった。

 握る槍には僅かに赤い血が着いている。穂先からたったの1センチ弱。

 それはクシャルダオラの異常な防御機能を示していると同時に、天災と並び称される古龍に、凡百の存在である人間が傷を負わせた証だった。

 

 恐るべき体幹でクシャルダオラの背後に降り立った『彼』がダメ押しの攻撃をかける。

 まるで見えているかのように、クシャルダオラは死角から迫る槍を尻尾で弾き飛ばし、巨体を瞬時に百八十度回転させる。

 『彼』の神経は極限まで研ぎ澄まされていた。

 槍は投擲されていて、すでに彼の手には別の武器が握られている。銃も雪の上に放り出し、両手で短くも斧のように無骨な刀剣を上段に構えていた。

 

 クシャルダオラが振り向く。

 『彼』はその頭部を狙い、渾身の一撃を振り下ろさんとした。

 

 

 

 

 

 

「それから先のことは分からん。さらに強いブリザードが吹き荒れ、視界が完全に白一色になっちまったからな」

 

「決着は、決着はどうなったのです」

 

「それが分からなかったんだよ。しばらくすると吹雪は夢だったみたいに止み、空は晴れ渡った。そしてその場にはもう、クシャルダオラも『彼』もいなかった」

 

 そこまで語り終えて、中年の男は一息ついた。いつの間にか身を乗りだし、拳に力を込めて話していたのだ。

 記者も緊張を解いたように、ハンカチを取り出して額の脂汗を拭いた。

 

「ありがとうございます。この度は素晴らしいお話を聞けました。貴方のような人がいてくれて良かった」

 

「俺の若気の至りで偶然そこに居合わせただけさ。奴らにはお互いを殺すこと以外眼中になかった。しかし分からんね。なんで今になって、十年以上も前の話を取り上げようなんて思ったんだ」

 

 中年の男は葉巻を吹かして記者に訪ねた。煙の向こうで記者が答える。

 

「実はまだ公になっていない話なのですがね。つい最近、あるモンスターの遺骸が発見されたのですよ」

 

 まさか。

 酒と煙草の酩酊も忘れ、中年の男はまじまじと記者を見た。

 

「風翔龍、クシャルダオラです」

 

 公にされていないということは、必然、秘匿性がある情報だということだ。

 インタビュー先の中年と寡黙なマスターしかいない夜中の店内だとはいえ、それを漏らしてしまう記者も、伝説の熱に浮かれているようだ。

 

「バカな」

 

 独り言のような呟きが漏れる。常識の範疇を越えた前代未聞の大事件だった。

 

「ある巨大遺跡にて、名門の探検隊が見つけたようです。寿命で死んだとも考えられます。むしろその方が自然ではある」

 

「古龍も不死身じゃない」

 

 中年の男の言葉に、記者は深く頷いた。

 

「そう、貴方ならばそう言えるでしょう。だからこそ私はコンタクトを取ったんです。まだ私が子どもの頃だったかな。まことしやかに囁かれていた、ある一人のフリーハンターの噂。クシャルダオラの一件を聞き付けてから四方八方に手を伸ばし、あらゆる所に聞き込みをかけ、ようやく貴方に辿り着けた。本当に、いい話が聞けましたよ」

 

「ご苦労なこった」

 

 記者の熱弁に照れ臭そうに視線を逸らし、吸いきった葉巻を灰皿に押し付ける。すでに記者から受け取ったほとんどの葉巻を吸ってしまっていた。

 

 立て付けの悪い店の扉が軋んで開き、ドアベルが来客を告げた。冷えた外気が入り込んでくる。

 新しい客は背の高い男で、使い古された外套を着ていた。いかにも貧民街の人間のように、顔は傷だらけで歩き方も足を悪くしているのか、どこかたどたどしい。

 

 それで区切りとするように、記者は中年の男に改めて礼を述べ、支払いを済ませて店を出ていく。

 中年の方もほんの少し、外套の男を見つめてから、浮浪者のくたびれた雰囲気に戻って、夜の貧民街に去っていった。

 

 

 

 

 

 

「ずいぶんとご無沙汰だったな」

 

 二人が出て行ってから、マスターがカウンター席に座った外套の男に口を利いた。注文もされていないのに、一杯のカクテルが男の前に置かれる。

 男は外套を脱ぎ、カクテルを美味そうに一口飲んでから、傷だらけの顔で微笑んだ。

 

「なぁに。最近、良いことがあったからさ」

 

 

 

 

 

 

おわり

 




人間の限界はどこにあるのかなあ、などとたまに思ったりします。自分を限界まで追い込んだことなど無いので想像も及びませんが。
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