銀魂×リリカルなのは   作:久坂

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予告していた通り、今回から『真伝・紅桜篇』です。

タイトルに『真伝』とか書いてありますけど、特に意味はないです。新訳みたいにちょっとカッコよくしてみたかっただけです。

紅桜篇を執筆するにあたり、原作を読み返したんですけど、やっぱりリリカルなのはのキャラを絡ませるのは難しいです。今回もあまり絡んでないけど、次回からちゃんと絡ませるので見逃してほしい。

あとたぶん、今日中にもう1話投稿できると思います。


真伝・紅桜篇
人の家を訪ねてきたらちゃんと用件を言え!


 

 

 

 

 

蛾は闇を飛んでいた。

 

真っ暗な闇の中を、蛾はただひたすらに飛ぶ。

 

闇を恐れ…光を求め…ただひたすらに……

 

光を見つけた蛾はその周りを飛び続ける。

 

だが、その時はもう自らの意志とは関係なく……

 

蛾は光から──放れられなくなっている。

 

 

「各々方、万事に抜かりの無いようお願いいたします」

 

 

「フフ…この私がそんな些細なミスを犯すとでも?」

 

 

「心配しなくても大丈夫ッスよ、先輩」

 

 

「当面、表立って動くのは拙者だけでござるからな」

 

 

「行きましょう……我々の伝説の幕開けです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×リリカルなのは

『真伝・紅桜篇』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょいと失礼。桂小太郎殿とお見受けする」

 

 

夜の江戸の街……月明かりが照らす街の架け橋の上を歩いていた男……桂の背後から、編み笠を被った浪人と思しき男が声をかけた。

 

 

「……人違いだ」

 

 

「心配いらんよ、俺は幕府の犬でもなんでもない」

 

 

「犬は犬でも、血に飢えた狂犬と言ったところか。近頃巷で辻斬りが横行しているとは聞いていたが、噛みつく相手は選んだ方がいい」

 

 

「あいにく俺も相棒もアンタのような強者の血を欲していてね、ひとつやり合ってくれんかね?」

 

 

そう言うと浪人は、腰に差していた刀に手をかけ、鞘から僅かに刀身を見せる。だがそれは見慣れた鉄の色ではなく……血のような紅色の光沢を放っていた。

 

 

「!…貴様、その刀」

 

 

その異様な刀を見た桂は、すぐさま振り向き自身の腰に差した刀に手をかけようとするが……その刹那の間に、すでに浪人は桂の背後に佇んでいた。

 

 

「アララ、こんなものかィ」

 

 

そして次の瞬間……桂の身体から夥しいほどの鮮血が噴き出し、力なく倒れたのであった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

翌日……『万事屋銀ちゃん』にはある珍客が来訪しており、その客と向かい合う形でソファに座っている銀時とフェイトと神楽は、揃って気まずそうな表情をしている。

 

 

「お茶です」

 

 

珍客……エリザベスにお茶を出した新八は、すぐに銀時たちの座るソファの後ろに下がった。

 

 

「………あの……今日は何の用で?」

 

 

恐る恐る銀時が尋ねるが、エリザベスはプラカードも出さずに無言無表情のままで佇む。

 

 

「……何なんだよ、何しに来たんだよこの人。恐えーよ、黙ったままなんだけど。怒ってんの? 何か怒ってんの? なんか俺悪いことした?」

 

 

「わかんないよ、私はエリザベスと知り合ったの最近だし…銀時たちの方が詳しいでしょ?」

 

 

「いや俺らもあいつの事はよくわかんねーから。何の生物なのかも知らねーし、何で怒ってんのかもわかんねーから」

 

 

「つーか怒ってんですかアレ、笑ってんじゃないですか?」

 

 

「笑ってたら笑ってたで恐いよ。何で人ん()来て黙ってほくそ笑んでんだよ。何か企んでること山の如しじゃねーか」

 

 

「新八、お前のお茶が気に食わなかったネ。お客様は新八じゃなくてフェイトが淹れたお茶を飲みたがってるネ」

 

 

「え? そんな理由で?」

 

 

「そりゃそうだろ。地味な茶坊主が淹れたお茶より、美女が淹れたモンならたとえドブ水でも喜んで飲むのが男ってもんだよ」

 

 

「いや、どんなシチュエーションでも流石にドブ水は飲みたくないです。つーか誰が茶坊主!?」

 

 

「つーワケでフェイト、ちょっと茶ァ淹れなおしてやってくんない?」

 

 

「うん、わかった」

 

 

4人でコソコソと相談した結果、新八に代わってフェイトがお茶を淹れてくることになった。

 

 

「えっと…私が淹れたお茶です」

 

 

「……………」

 

 

フェイトが淹れなおしたお茶をエリザベスの前に置く。しかしエリザベスは無反応で、尚も無言は続く。

 

 

「オイなんだよォ!! 全然変わんねーじゃねーか!」

 

 

「いだっ!」

 

 

「コラ銀時! 神楽に八つ当たりしないの!」

 

 

「そうですよ! だいたいアンタも美女が淹れたモンはドブ水でも飲むとか言ってたでしょーが!!」

 

 

「んなモン飲めるワケねーだろボケェ!!」

 

 

「何逆切れしてんだアンタ!!」

 

 

「ちょ、もうホントいい加減にしてくんない? なんで自分宅でこんな息苦しい思いをしなきゃならねーんだよ。あの目見てたら吸い込まれそうなんだけど」

 

 

と……銀時たちがエリザベスの対応に四苦八苦していると、その時部屋の電話が鳴った。

 

 

「あ、ハイハイ万事屋ですけど」

 

 

それを見た銀時は、しめたと言いたげに笑みを浮かべながらその電話を取って対応する。

 

 

《Master》

 

 

すると同時に、フェイトの懐からそんな電子音声の声が聞こえた。それを聞いてフェイトは、懐からバルディッシュを取り出す。

 

 

「バルディッシュ? どうしたの?」

 

 

《A message has been sent by Ms,Hayate》

 

 

「メッセージ? はやてから?」

 

 

そう言いながらフェイト席を立ち、バルディッシュから投影されるタッチ式の空間モニターを指で操作しながら、はやてから届いたというメッセージの内容を確認する。

 

 

「新八、こうなったら最後の手段ネ。アレ出そう」

 

 

「え? いやでもアレ銀さんのだし、怒られるよ」

 

 

「いいんだヨ。アイツもそろそろ乳離れしなきゃいけないんだから。奴には親がいない、私たちが立派な大人に育てなきゃいけないネ。それにいざとなったらまたフェイトが買ってきてくれるアル」

 

 

「最終的にはフェイトさん頼みなんだ……」

 

 

新八と神楽がボソボソと相談していると、そんな2人にフェイトが声をかけた。

 

 

「新八、神楽、悪いんだけど…私ちょっと抜けていいかな? 今はやてから大至急、真選組の屯所に来てほしいってメールが届いて……もしかしたら管理局絡みのことかもしれないし……」

 

 

「はやてさんから? いいですよ、元々フェイトさんは管理局(そっち)が本業なんですし」

 

 

「エリーの相手は私たちに任せるアル!」

 

 

「本当にゴメンね…終わったらすぐに戻って来るから!」

 

 

申し訳なさそうにそう言いながら、フェイトは少々急ぎ足で玄関へと向かい、そのまま出かけて行った。

 

 

「おーう、俺もちょっくら出るわ」

 

 

すると出掛けたフェイトも続いて、電話を終えた銀時も出掛けようとする。

 

 

「あっ、ちょっと、銀さんまでどこ行くんですか!?」

 

 

「仕事~。お客さんの相手は頼んだぞ」

 

 

「ウソつけェェェ!! フェイトさんに便乗して自分だけ逃げるつもりだろ!!」

 

 

新八が部屋を出て行く銀時の背中に叫ぶも、銀時はこちらを振り返ることなく出て行ってしまった。そんな銀時の態度に青筋を浮かべた新八と神楽はお互いを見やると、最後の手段を実行した。

 

 

「いちご牛乳でございます」

 

 

エリザベスに出されたのは、銀時がとっておいたいちご牛乳。これを出すと後で銀時がうるさいのだが、今の新八と神楽にとってはどうでもよかった。

すると、今まで何の反応も示さなかったエリザベスが初めて動いた。テーブルの上に置かれたいちご牛乳を、どこか想いはせるようにジッと見つめる。

 

 

そしてその大きな目から……一筋の涙がポロリと零れ落ちた。

 

 

「泣いたァァ!! やったァァァ、そんなに好きなの!?」

 

 

「グッジョブアル新八、よくやったネ!!」

 

 

「……アレ? やったのかコレ」

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

「えーと……確かこの辺だよな」

 

 

一方…エリザベスの相手を新八たちに押し付けて出てきた銀時。どうやら仕事というのは本当らしく、紙にメモした住所を見ながら依頼人の家を探していた。

 

 

「む? おい、銀時ではないか」

 

 

そんな銀時の後ろから歩み寄り、声をかける1人の女性。

 

 

「あ? シグナム?」

 

 

その女性とは、現在はやてと共に管理局から真選組に出向しているシグナムであった。

ただし服装は真選組の制服ではなく、江戸での私服なのか、淡い紅梅色の着物に深紫色の袴という和服姿に、足袋と草履をはいていた。

更に腰には刀の代わりに愛剣とも言えるアームドデバイス──『レヴァンティン』を差しており……まさに女侍のような姿だった。彼女の元々の雰囲気も相まって、まったく違和感がなかった。

 

 

「珍しいとこで会うもんだな」

 

 

「そうだな。銀時は……またパチンコか?」

 

 

「違げーよ。何で会って真っ先にその発想が出てくんの? お前俺にどんなイメージもってんの?」

 

 

「見たままのイメージだが?」

 

 

首を傾げながらシレっとそう発言するシグナム。言葉自体は失礼だが、残念ながら銀時の全身からは基本的にダメ人間のオーラが出ている為、あながち間違ってはいないのだ。

 

 

「仕事だ仕事! ここら辺の刀鍛冶に電話で呼ばれたんだよ」

 

 

「刀鍛冶だと?」

 

 

刀鍛冶と聞いた途端、シグナムの眉がピクリと反応した。そして顎に手をあてて何かを考え込むようにして押し黙ってしまう。そんなシグナムに、銀時は怪訝な顔をしながら声をかける。

 

 

「あのさァ、用がないならもう行っていい? 依頼人待たせてるし」

 

 

「ん? ああ……いや待て──私も同行していいだろうか?」

 

 

「は?」

 

 

立ち去ろうとした銀時を呼び止め、そう問い掛けるシグナム。そんな突然の提案に、銀時は目を丸くする。

 

 

「いや…なんで?」

 

 

「少し気になる事があってな。決してお前の仕事の邪魔はしない。だから頼む」

 

 

「……まァいいけど」

 

 

「すまない」

 

 

真剣な表情でそう頼み込むシグナムに、銀時は何も聞かずに同行を許可したのだった。

 

 

それからしばらくして……シグナムを同行者に加えた銀時は、ようやく依頼人のいる刀鍛冶の店に到着した。

作業中なのか工房の中からは、鉄を叩く甲高い金属音が鳴り響いている。つんざくようなその音に耳を塞ぎながら、銀時は中にいる2人の若い男女に声をかける。

 

 

「あの~すいませ~ん。万事屋ですけどォ」

 

 

しかしその声は鉄を叩く音にかき消されており、まったく気づかれていない。なので今度は少し大きめに声をかける銀時。

 

 

「すいませーん、万事屋ですけどォ!!」

 

 

「あーー!! あんだってェ!?」

 

 

「万事屋ですけどォ!! お電話頂いて参りましたァ!」

 

 

「新聞なら要らねーって言ってんだろーが!!」

 

 

男の方からやっと反応が返ってきたと思ったら、まるで見当違いの答えが返ってきた。

 

 

「バーカバーカウ〇コ!! どーせ聞こえねーだろ──あだっ!!」

 

 

そんな彼らにイラついた銀時は少し小声で悪口を言う。だがその瞬間、男の手から離れた金槌が銀時の顔面に直撃したのであった。

 

 

「……何をしておるのだ貴様は?」

 

 

そんな銀時に対して、シグナムは呆れたようにそう呟いたのであった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

それから銀時とシグナムは、部屋の奥に通されてようやく話を聞ける形になった。彼らの前には依頼主の男女が並んで座ると、男の方が声を張り上げて話し始める。

 

 

「いや、大変すまぬことをした!! こちらも汗だくで仕事をしているゆえ手が滑ってしまった! 申し訳ない!!」

 

 

「いえいえ──ぜってー聞こえてたよコイツら」

 

 

男の謝罪に銀時は答えながら、ボソッとそう呟いた。

 

 

「申し遅れた、私たちは兄妹で刀鍛冶を営んでおります! 私は兄の鉄矢!! そしてこっちは……」

 

 

「………………」

 

 

兄の『村田鉄矢』が大声で自己紹介をしたのに対し、妹の方は黙って視線を逸らした。

 

 

「オイ、挨拶くらいせぬか鉄子! 名乗らねば坂田さん、お前を何と呼んでいいかわからぬだろう鉄子!!」

 

 

「お兄さん、もう言っちゃってるから。デカイ声で言っちゃってるから」

 

 

「すいません坂田さん!! コイツ、シャイなあんちきしょうなもんで!」

 

 

妹の『村田鉄子』に叱咤する鉄矢に、銀時がツッコミを入れながらそう言うが、鉄矢は聞いていないのか話を続ける。

 

 

「ところで坂田さん! お1人でいらっしゃるとの話でしたが、そちらのお連れの方はどちら様でしょうか!!」

 

 

「ああ、すまない。私はただの付き添いだ。気にしなくても……」

 

 

「おっと失礼いたしました!! 男女の仲に他人が口を出すなど野暮でしたな!!」

 

 

「オイ、最後まで聞け。どうしてそうなる」

 

 

シグナムを見ながらそう言う鉄矢。それに対してシグナム自身が弁明しようとしたが、それを大声で遮られて自己完結されてしまう。

 

 

「お兄さん、こいつは別にそんなんじゃねーから、俺ちゃんと嫁がいるからね」

 

 

「でね!! 今回貴殿に頼みたい仕事というのは……」

 

 

「オイ、無視かオイ。聞こえてなかったのかな……」

 

 

「というか聞いているのか? むしろ聞こうとしているのか?」

 

 

銀時やシグナムの話など一切聞かずに、仕事の話を始める鉄矢。

 

 

「実は先代……つまり私の父が作り上げた傑作『紅桜』が何者かに盗まれましてな!!」

 

 

「ほう!『紅桜』とは一体何ですか?」

 

 

「これを貴殿に探し出してきてもらいたい!!」

 

 

「アレェェ!? まだ聞こえてないの!?」

 

 

「紅桜は江戸一番の刀匠と謳われた親父の仁鉄が打った刀の中でも最高傑作といわれる業物でね! その鋭き刃は岩をも斬り裂き、月明かりに照らすと淡い紅色を帯びるその刀身は、夜桜の如く妖しく美しい! まさに二つとない名刀!!」

 

 

「そうですか! スゴイっすね! で、犯人に心当たりはないんですか!?」

 

 

「しかし紅桜は決して人が触れていい代物ではない!!」

 

 

「お兄さん!? 人の話を聞こう!! どこ見てる? 俺のこと見てる!?」

 

 

「何故なら紅桜を打った父が1ヶ月後にポックリと死んだのを皮切りに、それ以降も紅桜に関わる人間は必ず凶事に見舞われた!! あれは……あれは人の魂を吸う妖刀なんだ!!」

 

 

「!!」

 

 

妖刀……そう聞いた途端、黙って静観していたシグナムがピクリと反応し、目を僅かに鋭く細めた。だがそれには誰も気がつかず、そのまま話を続けた。

 

 

「オイオイちょっと勘弁して下さいよ! じゃあ俺らにも何か不吉なことが起こるかもしれないじゃないですか!!」

 

 

「坂田さん!! 紅桜が災いを呼び起こす前に何卒よろしくお願いします!!」

 

 

「聞けやァァァ!!コイツホントッ、会ってから一回も俺の話聞いてねーよ!!」

 

 

相変わらず人の話を聞かず、頭を下げる鉄矢に銀時は怒りを込めて叫ぶ。その時、ふと鉄矢の隣に座っていた鉄子がボソッと言った。

 

 

「……兄者と話す時は、もっと耳元に寄って腹から声出さんと……」

 

 

「えっ、そうなの。じゃっ……」

 

 

鉄子からのアドバイスを貰った銀時は早速鉄矢の隣にしゃがみ、耳元で叫んだ。

 

 

「お兄さァァァァァァん!! あの…………」

 

 

「うるさーい!!」

 

 

「ぶべらァ!!」

 

 

しかし帰ってきたのは……バチコーンっと強めに放たれたビンタであった。

 

 

そんな騒動が目の前で起きているにも関わらず、シグナムは正座したまま何かを考えるように顎に手をあてて、ポツリと呟いた。

 

 

「妖刀……やはりあの件と関係が……」

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

「ごめんなぁフェイトちゃん、急に呼び出して」

 

 

「ううん、それはいいんだけど……一体どうしたの?」

 

 

一方その頃……真選組の屯所に呼び出されてやって来たフェイトは、客室で出された座布団の上に正座して佇んでいた。

フェイトの目の前には彼女を呼んだ張本人であるはやてと、その両隣には近藤と土方の姿があった。3人とも真剣な面持ちをしている。そしてはやてが、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「フェイトちゃんは、私らが真選組に出向することになった理由は言うてたやんな?」

 

 

「え? うん…確か、江戸に逃げ込んだ凶悪な脱獄囚を捕まえる為…だったよね? 結局、誰が脱獄したのかは教えてくれなかったけど」

 

 

「せやな……フェイトちゃんに余計な心労をかけへん為に隠しとったんや。なんせそいつは──フェイトちゃんにとって深い因縁のある相手なんやから」

 

 

「!!」

 

 

その言葉を聞いた途端……フェイトの脳裏に、ある男の顔が浮かび上がる。そして自然と流れた一筋の冷汗が、フェイトの頬を伝う。

 

 

「まさか……!!」

 

 

「そうや」

 

 

震える唇で発したフェイトの言葉に頷きながら、ついにはやてはその男の名前を告げる。

 

 

「無限の欲望と呼ばれた天才科学者──ジェイル・スカリエッティ」

 

 

「ジェイル・スカリエッティ……奴が…江戸に……!!」

 

 

『ジェイル・スカリエッティ』

数年前にミッドチルダで起こった『J・S事件』の際に、当時はやてが部隊長を務めていた『機動六課』の活躍によって逮捕された次元犯罪者。

『違法研究者でなければ間違いなく歴史に残る天才』とさえ称される天才科学者であり、生命操作・生体改造・機械技術・医学などの多くの分野で高い知能を有している。

 

 

その男が牢獄から脱走し、この江戸に潜伏しているというのを聞いて、険しい表情をするフェイトは無意識に両手を強く握り締めていた。

 

 

「話はそれだけやないんや」

 

 

そんなフェイトにはやてがそう告げる。

 

 

「このスカリエッティの脱獄には……ある男が関わってるんや」

 

 

「ある男? それって…?」

 

 

スカリエッティの脱獄に協力者がいると聞いて驚きながら、フェイトは静かに尋ねる。そしてはやては、重苦しい表情でその名を告げる。

 

 

「攘夷浪士の中でもっとも過激で危険な男──高杉晋助」

 

 

「!?」

 

 

はやての口からその名が出た瞬間、フェイトは大きく目を見開いた。何故ならフェイト自身、その男の名を知っているからだ。

 

 

『高杉晋助』

かつて銀時、桂、坂本と共に攘夷戦争を戦い抜いた戦歴を持つ。現在はもっとも過激で危険な攘夷志士として幕府から追われている男である。

 

 

「スカリエッティが収容されとった第9無人世界『グリューエン』の軌道拘置所を高杉とその一派が襲撃し、スカリエッティの脱獄を手引きした。拘置所に設置されとったサーチャーの映像に高杉晋助の姿が映っとったから、まず間違いあらへん。あの男がどうやって次元世界に渡ったんかは謎やけどな。更に同日……同じ高杉の一派と思われる別動隊に『ラブソウルム』と『キリーク』にある拘置所を襲撃され…ウーノ、トーレ、セッテの3人のナンバーズが脱獄した」

 

 

「ナンバーズまで……」

 

 

『ナンバーズ』

スカリエッティの部下に当たる12人の姉妹たちの総称。戦闘機人と呼ばれる人の身体に機械を融合させた強化人間であり、それぞれが並外れた戦闘能力を誇っている。

スカリエッティの逮捕後…12人中7人のメンバーは罪を認め捜査に協力し、更正プログラムを受けることで社会復帰を許されたが……それ以外の4人は別々の拘置所へと収容された。

 

 

しかしスカリエッティの脱獄に伴い、その収容されていた3人のナンバーズも脱獄したらしい事をはやての口から伝えられた。そこでふと…フェイトは疑問を覚える。

 

 

「……待って、もう1人のクアットロは? 彼女は脱獄しなかったの?」

 

 

「しなかった…というより、クアットロが収容されとる『ゲルダ』は襲撃されへんかったんや」

 

 

「それって…クアットロは見捨てられたってこと?」

 

 

「かもなぁ。あの子は目的の為なら生みの親(スカリエッティ)すらも切り捨てようするほど冷酷な思想の持ち主やったから、流石にスカリエッティも見限ったんかもしれへんな。でもしばらくはゲルダの拘置所の警備も強化されて、更に厳重な監視下に置かれることになったらしいけど……まぁその話は今はええわ」

 

 

そう言ってはやては一旦そこで区切ると、話の内容を本題に戻す。

 

 

「問題は高杉とスカリエッティが手を組んだ…ってことや」

 

 

「んで…それについても、ウチの監察が入手した確かな情報が入ってる」

 

 

はやての言葉を引き継ぐように、はやての隣に座っていた土方がタバコの紫煙を燻らせながら口を開く。

 

 

「噂じゃ高杉は……」

 

 

人斬り似蔵の異名を持つ

『岡田似蔵』

 

赤い弾丸と恐れられる拳銃使い

『来島また子』

 

変人謀略家として暗躍する

『武市変平太』

 

正体は謎に包まれた剣豪

『河上万斉』

 

天才科学者と称される次元犯罪者

『ジェイル・スカリエッティ』

 

 

「奴らを中心に、あの鬼兵隊を復活させたらしい」

 

 

「鬼兵隊って確か……攘夷戦争時代に、高杉晋助が率いてた義勇軍のことだよね」

 

 

「ああ。文字通り鬼のように強かったって話だ」

 

 

「けどどうして、その鬼兵隊にスカリエッティが……」

 

 

「高杉の狙いは恐らく、強力な武装集団を作りクーデターを起こすことだ。その手段の1つとして、優れた技術者が必要だったのだろうと、俺たちは推測している。そのスカリエッティがどんな奴かは知らねェが、天才科学者と呼ばれる位だ。天人の機械(からくり)技術を利用して強力な兵器を開発していてもおかしくねェ」

 

 

「その高杉がまた江戸に現れたという情報も入っている。奴らが行動を起こすのも近いのかもしれん」

 

 

「もうすでに山崎さんだけやなくて、ヴィータやシャマル達も監察として江戸中の怪しい場所を捜索してもらってる。見つけるのも時間の問題や」

 

 

近藤と土方とはやてが揃ってそう口にする。

 

 

「そこでや……フェイトちゃんにも執務官として私らに協力してほしい」

 

 

「……………」

 

 

話の流れからそう進言されるのを予想していたのか、フェイトは真剣な表情ではやての顔を見据える。

 

 

「魔法の使用許可ももう取ってある。私らと一緒に戦ってください……フェイト執務官」

 

 

そう言ってはやては、フェイトに対して深く頭を下げたのであった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

その頃……新八と神楽、そして定春はエリザベスの案内で橋の上にやってきていた。

 

 

「じゃあここで見つけたっていうの? それ」

 

 

エリザベスが口から取り出したのは、布に血が染みついた小さな入れ物だった。

 

 

「血染めの所持品……おまけにここ数日、桂さんの姿を見てないなんて。どうしてもっと早く言わなかったんだエリザベス」

 

 

エリザベスは俯いて、プラカードを掲げた。

 

 

【最近巷で、辻斬りが横行している。もしかしたら……】

 

 

「……エリザベス、君が一番わかってるだろ。桂さんはその辺の辻斬りなんかに負ける人じゃない」

 

 

「でもこれを見る限り、何かあったことは明白。早く見つけ出さないと、大変なことになるかも」

 

 

桂の所持品を見つめて言った神楽の言葉に、エリザベスは涙目になりながらプラカードを出す。

 

 

【もう手遅れかも……】

 

 

「バカヤロォォ!!」

 

 

【ぐはっ!!】

 

 

それを見た新八が力強くエリザベスを殴り飛ばす。そして倒れたエリザベスの胸倉を掴んで叫ぶ。

 

 

「お前が信じないで、誰が桂さんを信じるんだ!! お前が前に悪徳奉行に捕まった時はなァ、桂さんはどんなになっても諦めなかったぞ!! 今お前に出来ることは何だ⁉︎桂さんのために出来ることは何だァ! 言ってみろ! 言えェェ!!」

 

 

エリザベスに対して熱く語る新八。そしてその時……初めてエリザベスの口が開いた。

 

 

「──ってーな、放せよ。ミンチにすんぞ」

 

 

底冷えするかのような低い声。そして口の奥で輝く2つの妖しい眼光。

 

 

「………すいまっせ~ん!」

 

 

それを見て一気に頭が冷えた新八は、青ざめながら土下座したのであった。

 

 

「新八、私は定春と色々探してみるアル。お前はエリーと一緒に辻斬りの方を調べるアル!!」

 

 

神楽は定春に桂に血染めの所持品の匂いを嗅がせると、そう言い残して走って行ってしまった。

 

 

「──ぺっ」

 

 

「………………」

 

 

そして取り残されたエリザベスに唾を吐かれ、新八は気まずそうに顔を引きつらせたのであった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

「で…お前結局、何が目的で俺について来たわけ?」

 

 

場所は銀時行きつけの団子屋『魂平糖(こんぺいとう)』。鉄矢からの依頼を受けた銀時と何故か一緒について来たシグナム。

その帰りにこの店に立ち寄った銀時はシグナムと並んで長椅子に腰かけ、団子を食いながらそう問い掛けた。

 

 

「最近…妙な刀の話を聞いてな、少し調査していたのだ」

 

 

するとシグナムは、湯飲みに入ったお茶をすすったあと……静かにそう言った。

 

 

「妙な刀?」

 

 

「そうだ。刀鍛冶なら何か知っているのではないかと思い、お前の仕事に同行したが……当たりだったようだな」

 

 

「……どういう意味だ?」

 

 

「件の刀もある意味、妖刀のような代物らしい」

 

 

真剣な表情でそう問い掛ける銀時に静かにそう言いながら、シグナムは言葉を続ける。

 

 

「銀時、近頃この辺りで辻斬りが横行しているのは知っているか? 出会った者は皆斬られてしまっているが、その辻斬りを遠目で目撃した者がいてな。その者いわく、そいつの刀は……刀というより──生き物のようだったらしい」

 

 

「………………」

 

 

「盗まれた妖刀と奇妙な刀を使う辻斬り……どうにも無関係とは思えん。お前はどう思う? 銀時」

 

 

シグナムの話を聞いて、何か考えるように顔を俯かせる銀時。そんな銀時に対し、シグナムは更に言葉を紡いでそう問い掛ける。

 

 

そして銀時はふと顔を上げると……シグナムに対して静かに言い放ったのだった。

 

 

「おいシグナム──今まで辻斬りが出没した場所を教えろ」

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

その夜……桂が斬られたと思われる、橋の前にある路地裏。そこでは『打倒辻斬り』のハチマキを巻いたエリザベスが刀を研ぎ、口に含んだ酒を吹きかけていた。どうやら直々に辻斬りと戦うつもりらしい。

 

 

「ちゃーすエリザベス先輩!! 焼きそばパン買ってきましたァ!」

 

 

【俺が頼んだのはコロッケパンだ】

 

 

「いやコロッケパン売り切れてたんでェ、似たようなヤツ買ってきましたァ。すみませんッス」

 

 

その後ろには、完全にエリザベスのパシリと化した新八の姿もあった。

 

 

「どうッスか? 辻斬りの奴来ましたか? でもやっぱり無茶じゃないッスかね、辻斬りに直接桂さんのこと聞くなんて。まだ犯人が辻斬りって決まったわけじゃないし──ぎゃあああ!!」

 

 

そう言いながら新八がエリザベスに近づくと、その瞬間振り向き様に斬りかかられた。咄嗟に屈んで回避した新八は当然、大声で怒鳴る。

 

 

「何すんですかァァ!? ちょっとォォォ!!」

 

 

【俺の後ろに立つな】

 

 

「うるっさいよ!! どっちが前だか後ろだかわからん体してるくせに!!」

 

 

ゴ〇ゴのような顔つきでプラカードを出すエリザベスに、新八は青筋を浮かべながらツッコミを入れた。

 

 

「オイ」

 

 

するとその時、突然第三者から声をかけられ、新八はビクッと体を震わせる。

 

 

「何やってんだ貴様らこんな所で? 怪しい奴らめ」

 

 

「なんだァ~奉行所の人か。ビックリさせないでくださいよ」

 

 

その相手が奉行所の役人だと認識すると、新八がホッとして溜息を吐く。

 

 

「ビックリしたじゃないよ。何やってんだって聞いてんの。お前らわかってんの? 最近ここらにはなァ……」

 

 

そう言いかけた役人の言葉が、突然不自然に途切れた。

 

 

次の瞬間……その役人の胴体は真っ二つに切断され、半身はドチャリと耳障りな音で地面に落ち…残った半身からは噴水のごとく血が噴き出した。

 

 

「辻斬りが出るから危ないよ」

 

 

そしてその背後にいた……刀を持つ編み笠を被った男が、代わりにそう囁いた。

 

 

「うわああああああああああ!!」

 

 

突如として出没した辻斬りに、悲鳴を上げる新八。

 

 

「エリ……!!」

 

 

すると、エリザベスがそんな新八を庇うように自分の後ろに彼を蹴り飛ばす。

 

 

「エリザベスぅぅ!!」

 

 

新八の絶叫が響く中……エリザベスに向かって、辻斬りの高々と振り上げられた刀が…一気に振り下ろされる──

 

 

──ガァァン!!

 

 

……ことはなかった。

 

 

突然目の前にあったポリバケツの蓋が飛んだかと思うと、その瞬間には辻斬りの刀は弾かれたように宙を舞い……男の背後の地面に突き刺さっていた。

 

 

「!!」

 

 

「そこまでだ」

 

 

続けて…そんな言葉と共に横から突き出された剣が、辻斬りの首元に添えられる。

 

 

「シ…シグナムさん!!」

 

 

新八は辻斬りに横から剣を突きつけている人物……シグナムの名を叫ぶ。

 

 

そしてガタゴトと音を立てながら、ポリバケツの中から出てくる1人の男。

 

 

「オイオイ、妖刀を捜してこんな所まで来てみりゃ──どっかで見たツラじゃねーか」

 

 

「ぎっ…銀さん!!」

 

 

新八は銀時の名を叫び、木刀を手に持った銀時は辻斬りを相手にそう言った。すると辻斬りは、被っていた編み笠を脱ぐと、その顔を露にした。

 

 

「ホントだ。どこかで嗅いだ匂いだね」

 

 

その男は……人斬りと恐れられる盲目の剣豪──『岡田似蔵』であった。

 

 

 

 

 

つづく




何気にクアットロがハブられてるけど、作者は別にクアットロが嫌いなわけではありません。後々にちゃんと登場させますので、できればあまりツッコまない方向でお願いします。
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