銀魂×リリカルなのは   作:久坂

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本日2話目です。


一難去ってまた一難

 

 

 

 

 

 

「あ、あんたは! 人斬り…人斬り似蔵ォォ!!」

 

 

目の前に現れた辻斬り……岡田似蔵の姿を見て、新八が叫ぶ。

 

 

『岡田似蔵』

盲目の身でありながら異常な嗅覚で敵を察知し、一撃必殺で仕留める居合の達人。以前、万事屋に舞い込んで来た橋田屋の事件の際に、銀時と戦った人斬りである。

 

 

「件の辻斬りはアンタの仕業だったのか!? それに銀さんにシグナムさんも…なんでここに!?」

 

 

「目的は違えど、アイツに用があるのは一緒らしいよ新八君」

 

 

「嬉しいねェ、わざわざ俺に会いに来てくれたってわけだ」

 

 

似蔵はそう言って薄ら笑いを浮かべると、同時に地面を強く蹴って後ろに飛ぶ。似蔵に剣を突きつけていたシグナムはすぐさまレヴァンティンを振るうが、その刃は僅かに届かなかった。

 

 

「チッ……」

 

 

「んん? 嗅ぎ覚えのない女の匂いだが、アンタも強そうだねェ。夥しいほどの血の匂いがするよ」

 

 

剣を避けられたことに舌打ちを漏らすシグナム。そんなシグナムに対して、似蔵はその異常な嗅覚で彼女の強さを感じ取ってそう評価しながら、地面刺さっていた刀を抜き取る。

 

 

「コイツは災いを呼ぶ妖刀と聞いていたがね、どうやら強者を引き寄せるらしい。桂にアンタ、こうも会いたい奴に合わせてくれるとは、俺にとっては吉兆を呼ぶ刀かもしれん」

 

 

「桂? 桂小太郎のことか?」

 

 

「!! 桂さん!! 桂さんをどうしたお前!!」

 

 

似蔵の口から出てきた桂の名にシグナムは眉をひそめ、新八は大声で問う。

 

 

「おやおや、おたくらの知り合いだったかい。それはすまん事をした。俺もおニューの刀を手に入れてはしゃいでたものでね、ついつい斬っちまった」

 

 

桂を斬ったというその言葉。しかし銀時は動じず、静かに似蔵を見据えながら言った。

 

 

「ヅラがてめーみてーなただの人殺しに負けるわけねーだろ」

 

 

「怒るなよ。悪かったと言っている。あ……そうだ」

 

 

似蔵は思い出したように、懐に手を入れる。そしてそこから取り出したのは……ひと房に束ねられた長い黒髪だった。

 

 

「ホラ──せめて奴の形見だけでも返すよ」

 

 

それを見た新八とエリザベスは愕然と目を見開く。桂を斬ったという言葉を実感させるには十分すぎるほどの証拠だった。

 

 

「記念に毟り取ってきたんだが、アンタらが持ってた方が奴も喜ぶだろう。しかし桂ってのは本当に男かィ? この滑らかな髪……まるで女のような……」

 

 

その瞬間……銀時の木刀が振り下ろされ、同時に似蔵は刀を横に構えてそれを防いだ。ギリギリと押し合いをしながら、銀時は青筋の浮かんだ顔で似蔵を睨む。

 

 

「何度も同じこと言わせんじゃねーよ。ヅラはてめーみてーなザコにやられるような奴じゃねーんだよ」

 

 

「クク……確かに、俺ならば敵うまいよ」

 

 

静かな怒気が込められた銀時の言葉に対して、似蔵は尚も薄ら笑いを浮かべてそう返した。

 

 

「奴を斬ったのは俺じゃない。俺はちょいと身体を貸しただけでね。なァ…『紅桜』よ」

 

 

そう語る似蔵の刀を握る右腕から…まるで触手のようなコードが何本も皮膚を突き破って出現し、それはメキメキと耳障りな音を立てながら似蔵の腕と刀に纏わりついていく。

 

 

「なっ!?」

 

 

その異様な光景に、銀時は驚愕で目を見張るのであった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

一方その頃……定春を連れた神楽は桂の匂いを追って、港にまで足を運んでいた。

 

 

「すっかり暗くなってしまったアル。定春、もう帰らないと銀ちゃんはともかくフェイトに叱られるネ」

 

 

夜になってしまった空を見上げながらそう言う神楽。そのセリフから、彼女の中での万事屋夫婦の評価が伺える。

 

 

「ヅラならきっと大丈夫アル。アイツがちょっとやそっとで死ぬ訳ないアル。今日は一旦帰って、明日また捜……定春?」

 

 

欠伸をしながら帰ろうとする神楽だが、その時、定春がおすわりした状態で止まったのが目に映った。

 

 

「定春、ここからヅラの匂いするアルか」

 

 

「ワン」

 

 

肯定するように鳴く定春。その視線の先には、港に停泊する巨大な船があった。

 

 

「なんだろ、あの船?」

 

 

そう疑問を口にした瞬間…近くから「オイ」という声と人の気配を感じた神楽は、すぐさま身を隠して様子を伺う。するとそこに現れたのは、3人の浪人だった。

 

 

「どうだ? 見つかったか?」

 

 

「ダメだ、こりゃまた例の病気が出たな。岡田さん……どこぞの浪人にやられてからしばらく大人しかったってのに」

 

 

「やっぱアブネーよあの人。こないだもあの桂を斬ったとか触れ回ってたが、あの人ならやりかねんよ」

 

 

「どーすんだお前ら。ちゃんと見張っとかねーから。アレの存在が明るみに出たら……」

 

 

そんな会話をしながら船へと向かって歩いて行く浪人たち。彼らの口から出てきた「桂を斬った」という言葉を聞いて、神楽は浪人が去ったのを確認してから紙と筆を取り出し、この港の場所を示す地図を描き始める。

 

 

「定春、お前はコレを銀ちゃん達の所へ届けるアル。可愛いメス犬がいても寄り道しちゃダメだヨ」

 

 

そしてその地図を定春に託し、それを銀時達に届ける為に定春は走り出した。

 

 

「上に乗っかっちゃダメだヨ~」

 

 

そう言いながら、走っていく定春を見送る神楽。その姿が見えなくなったのを確認すると、畳んだ日傘を肩に担ぎながら意気揚々と言った。

 

 

「よし、行くか」

 

 

「どこにだ?」

 

 

「!?」

 

 

突如、背後から聞こえた声。その瞬間、神楽はほぼ反射的に振り返りながら日傘を横薙ぎに振るう。

 

 

だがそれは──ガキィィン…っという金属音と共に、防がれてしまった。

 

 

「あっぶねーな、何すんだよ」

 

 

その声の主の正体を見た神楽は、思わず大声でその名を叫んだ。

 

 

「お…お前は──ゲボ子!!」

 

 

「ヴィータだ!」

 

 

そこに立っていたのは、神楽の日傘を銀色の光沢を放つ槌型のアームドデバイス──『グラーフアイゼン』でガードしていたヴィータであった。

私服と思われる着物を着たヴィータに対し、神楽は日傘を引きながら尋ねる。

 

 

「お前こんなところで何してるアルか?」

 

 

「そりゃこっちのセリフだ。何でガキがこんな時間にこんな所うろついてんだ。補導すんぞ」

 

 

「ガキがガキ扱いすんじゃねーヨ。今は大事な仕事中ネ。知り合いのペットに行方不明になった飼い主を探して欲しいって頼まれたアル」

 

 

「いやフツー逆じゃね? なんでペットが飼い主の捜索願出してんだよ」

 

 

「そんな事はどっちでもいいネ。とにかく私は忙しいアル。お前の相手はまた今度ナ」

 

 

「待て」

 

 

そう言って踵を翻して船に向かおうとする神楽の肩を、ヴィータが掴んで止める。

 

 

「お前…あの船が何だか知ってて向かおうとしてんのか?」

 

 

「知るわけないネ。けどあの船にはヅラがいるかもしれない…だから探しに行くだけアル」

 

 

「ヅラ? ヅラって…桂小太郎のことか?」

 

 

「あ、ヤベ」

 

 

思わず真選組であるヴィータの前で桂の名前を出してしまった神楽。しかしそれに対してヴィータは、どこか険しい面持ちで舌打ちをした。

 

 

「チッ…桂があの船にいるだと……ってこたァほぼ確定じゃねーか。仕方ねェ、すぐにはやてに連絡を……」

 

 

「隙ありアル!」

 

 

「あ、てめっ!!」

 

 

考え込むようにブツブツを呟いていたヴィータの隙をついて、神楽は一目散に船へと向かって走って行ってしまった。凄まじい速力であっという間に遠のいて行く背中を愕然としながら見送ったあと……ヴィータは自分の頭をガシガシと乱暴に掻きながら叫ぶ。

 

 

「あーもう!! 連絡はあのバカを連れ戻した後だァ!!」

 

 

そしてヴィータも急いで船へと向かって走って行ったのであった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

──ドゴォォォン!!

 

 

「ぐふっ!!」

 

 

轟くような爆音と共に、真ん中部分が大破する橋。そこから落ちて川に投げ出される銀時と、それを橋の上から見下ろしている似蔵。

 

 

「おかしいねオイ。アンタもっと強くなかったかい?」

 

 

「……おかしいねオイ。アンタそれ──ホントに刀ですか?」

 

 

似蔵が手にしていた刀……紅桜はすでに似蔵の右腕とコードで繋がっており、紅色に輝く刀身は生き物のように脈を打っていた。

 

 

「刀というより生き物みたいだったって、冗談じゃねーよ。ありゃ生き物ってより、化け物じゃねーか」

 

 

似蔵は川に立っている銀時に向かって飛び降り、刃を容赦なく振り下ろす。その衝撃で柱のように水飛沫が舞うが、その刃の先に銀時の姿はない。

 

 

「!」

 

 

似蔵の嗅覚が何かを感じ取ったと同時に、屈んで背後に回っていた銀時が木刀を横一閃に振るうが、寸での所で紅桜で受け止められる。

 

しかし銀時はすぐさま似蔵の膝裏の関節部分に蹴りを入れ、体勢を崩させて転ばせる。そしてすかさずコードまみれの右腕を踏み付け、木刀を振り上げる。

 

 

「喧嘩は剣だけでやるもんじゃねーんだよ!」

 

 

そのまま木刀を振り下ろそうとする銀時。しかし突然、ガクンっと木刀が動かなくなった。見てみると……なんと似蔵の右腕から伸びたコードが触手のように木刀の刀身に巻き付いていた。

 

 

「!!」

 

 

その隙に似蔵は、膝蹴りで銀時を体の上からどかせると、すぐに立ち上がって紅桜を構える。

 

 

「喧嘩じゃない、殺し合いだろうよ」

 

 

そしてそのまま体制を崩している銀時に向かって、紅桜を思いっきり振るった。

 

 

だがその時──

 

 

 

「そうか──ならば助太刀も卑怯とは言わんな?」

 

 

 

「!?」

 

 

似蔵の耳にそんな声が聞こえてきたと同時に……銀時との間に割って入って来たシグナムの剣が、激しい金属音を響かせながら紅桜を弾き返した。

 

 

「シグナム……」

 

 

「下がれ、銀時」

 

 

銀時を背中で庇うようにして立ちながら、レヴァンティンの剣先を似蔵へと向けながら構えるシグナム。

 

 

「おやおや、今度はお嬢さんが相手かい?」

 

 

軽い口調でそう言いながら、標的をシグナムへと変えて紅桜を振るう似蔵。その攻撃をシグナムは真っ向からレヴァンティンで受け止め、ギリギリと鍔迫り合いに持ち込む。

 

 

「んー? 妙な手応えだ。お嬢さんのその剣…ただの剣じゃないねェ」

 

 

「当然だ。我が魂……炎の魔剣レヴァンティンを舐めるな!」

 

 

そう叫びながら、紅桜を力強く押し返すシグナム。似蔵は咄嗟に後ろに大きく飛んで距離を開けると、その口元にニタリとした笑みを浮かべる。

 

 

「クク…なるほど、魔剣か……どうやら俺とアンタは、似た剣を持つ者同士らしい」

 

 

「一緒にするな。貴様のような異形の剣と、レヴァンティンが同じなわけがないだろう」

 

 

「まァ確かに違うかもねェ。なにせこの紅桜は──魔をも喰らう妖刀だからねェ」

 

 

言うや否や……似蔵は再び紅桜でシグナムに斬りかかる。それに対してシグナムも、レヴァンティンを振るって迎え撃つ。

 

 

「お嬢さん…よくよく嗅いでみれば、奇妙な匂いが混ざってるねェ。ただの人間じゃないだろう? ひょっとしてアレかィ? 管理局の魔導師って奴かィ?」

 

 

「それがどうしたァ!!」

 

 

「いやね、だとしたらアンタは……この紅桜とは相性最悪だねェ」

 

 

そんな会話をしながらも、剣は振り続けられる。

 

 

何度も休みなく鳴り響く甲高い金属音。両者の剣が幾度となく激突する。防げる攻撃は防ぎ、かわせる攻撃はかわしながら剣閃を振るう。一瞬の気の緩みも許さぬ攻防。お互いに一撃も攻撃を当てられぬまま、それを何度も繰り返す。

 

 

しかし永久に続くかと思うほどのその攻防は……突然終わりを迎えた。

 

 

──ガクン!

 

 

「!?」

 

 

何の前触れもなかった。決して油断したわけでも、ましてや気を緩めたわけでもない……にも関わらず、シグナムの右足が力が抜けたように落ち、体制を崩してしまった。

 

 

「しまっ……ぐああっ!!」

 

 

そこへ強烈な一撃をレヴァンティンの上から叩き込まれ、そのまま体ごと後ろを弾き飛ばされてしまう。

 

 

「くっ……」

 

 

シグナムは顔をしかめながらも、左手を川の底につけて側転の要領で着地し、体制を立て直した。

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

 

 

「おいおい、どうしたお嬢さん? もうバテちまったのかィ?」

 

 

そう言われてシグナムは、自分の体がおかしいことに気がつく。肩で呼吸をするほど息が上がり、今にも崩れ落ちてしまいそうに震える両脚、全身を襲う虚脱感。

これだけ見ればただの疲労だと思うだろうが、シグナムは何百年も昔から戦場で戦ってきた騎士。その彼女が全力とはいえ、ほんの十数回斬り合っただけで疲労するなど、生半可な体力はしていないのだ。

 

 

「貴様……何をした……?」

 

 

「ククク……さてねェ」

 

 

とぼけるように笑う似蔵を見て、何かされたことを確信するには十分だった。しかしそれが何かはわからない。わからないが、このまま続けていたらいずれ体力が尽きてしまうことは目に見えている。早々に決着をつけなければならない。

 

 

「……致し方あるまい」

 

 

小さくそう呟くと、シグナムは意を決したようにレヴァンティンを強く握り締める。

 

 

「レヴァンティン!! カートリッジロード!!」

《Explosion!!》

 

 

すると、レヴァンティンから1本の薬莢のようなものが排出される。そしてその瞬間、レヴァンティンの刀身に凄まじい炎を纏う。

シグナムが使用したのは『カートリッジシステム』。圧縮魔力を込めたカートリッジをロードすることで、瞬時に爆発的な魔力を得る機能のことである。

 

 

本来ならばシグナムは生身の人間を相手に魔法は使う気はなかった。

しかし紅桜と一体化した似蔵は明らかに異常……もしここで取り逃がせば、後々厄介なことになるのは一目瞭然。ゆえにシグナムは、確実に決着をつける為に魔法を使用したのだ。

 

 

「オォォォオオオオオ!!!」

 

 

咆哮に似た叫びをあげながら、一直線に似蔵へと向かって駆け出して行くシグナム。

 

 

「紫電一閃!!!」

 

 

そして燃え盛る炎を纏った刀身が縦一直線に振り下ろされ……似蔵が頭上で横に構えた紅桜と衝突した。一拍遅れて周囲に轟く衝撃……剣と剣がぶつかったことでギャリギャリと音を立てて舞い散る火花。

 

 

シグナムが放った紫電一閃は、レヴァンティンの刀身に魔力を乗せた斬撃。その威力は驚異的であり、更にはレヴァンティン本体の絶対的な強度と切断力も相まって、たとえ相手がどんな剣だろうと打ち砕くことができるだろう。

 

 

 

 

 

そう──相手が普通の剣だったならば……

 

 

 

 

 

「クククク……」

 

 

「!?」

 

 

不気味に聞こえる似蔵の笑い声。それに呼応するように、激しく脈を打ち始める紅桜。

 

 

それを見てシグナムは気づいた……レヴァンティンの刀身に纏われていた炎が段々……段々と紅桜の方の刀身に吸い込まれ始めていたことに。

 

 

──炎が……いや……魔力が吸収されているだと!?

 

 

紅桜が吸収しているのは炎ではなく、炎を構築している魔力そのもの。それも炎の魔力だけではない。レヴァンティンの刀身と紅桜の刀身を伝って、シグナム自身の魔力も吸収されていた。

 

そこでシグナムは自分を襲った謎の虚脱感の正体に感づいた。レヴァンティンと紅桜がぶつかり合う度に少しずつ魔力を奪われていたのだ。そして魔法によるプログラムで身体が構築されているシグナムにとっては、体力そのものを奪われるに等しいだろう。

 

 

「言っただろう? この紅桜は──魔をも喰らう妖刀だと」

 

 

そしてついに、レヴァンティンの炎が全て吸収され……シグナムの渾身の一撃が不発に終わってしまった。

 

 

「残念だったねェお嬢さん。この紅桜は…魔導師との戦闘も想定して作られているんだよ」

 

 

「がっ……」

 

 

そこへ更に追い打ちをかけるように、似蔵の右腕のコードが触手のようにシグナムに纏わりつき、首や体…腕や脚などを締め上げていく。

 

 

「感謝するよお嬢さん。これでまた…紅桜は進化する」

 

 

「がはっ!!」

 

 

そのまま絡み付かせたコードでシグナムの体を振り回し、軽く減り込むほどの勢いで壁に叩きつける。それによって、口から肺の空気と一緒に血反吐を吐くシグナム。額からも、血が滝のように流れ始めている。

 

 

「シグナムさァァァん!!」

 

 

川の上からその戦いを見ていた新八の絶叫が響き渡る。今すぐにでも飛び出しそうな勢いだが、それをさせまいとエリザベスが抑えている。

 

 

「せめてもの礼だ、一瞬であの世に逝かせてあげるよ」

 

 

似蔵はその言葉を最後にコードを引っ込め、シグナムの体を解放すると同時に……紅桜の刀身を高々と振り上げる。

 

 

「さよなら……お嬢さん」

 

 

そしてそのまま、一直線に紅桜を振り落とした。

 

 

 

 

 

だがその時──似蔵の背後から木刀を垂直に構えた銀時が姿を現した。

 

 

 

 

 

シグナムが似蔵と戦っていた間も、銀時はずっと息を潜めて機会を狙っていた。今すぐにでもシグナムの助けに入りたい気持ちを押し殺して、ただひたすらに勝機を待った。そうでもしないと…あの人の皮を被ったような化け物に勝てないと確信していたからだ。

 

 

そしてついにその時がやって来た。人がもっとも油断するであろう、勝利を確信した瞬間。そこを狙って銀時は、全力で地面を蹴って飛び出し…持てる力の全てを木刀に込めて…似蔵の背後から渾身の突きを放った。

 

 

 

「──無駄だよ」

 

 

 

しかしその攻撃も……似蔵は身を捻って回避した。

 

 

「忘れたのかィ? 俺の鼻に死角はないよ」

 

 

その理由は似蔵の持つ獣並の嗅覚。似蔵は最初から、銀時の奇襲はお見通しだったのだ。

 

 

「!?」

 

 

似蔵はそのまま右に捻った体を半回転させて、その勢いのまま紅桜を振り回す。それに対して銀時は、ほとんど反射だけで突き出していた木刀を引き戻し、それを盾にして受けることに成功した。

 

 

だが完全に威力押されてしまい、木刀はへし折れ…銀時の体は反対側の壁に叩きつけられてしまう。

 

 

「ぐふぅ!!」

 

 

「銀さんんんんんん!!」

 

 

「ぐっ…」

 

 

叫ぶ新八の声を聞きながら、銀時は呻きながらも何とか立ち上がろうとする。

 

 

──ブシュ…

 

 

だがその瞬間……銀時の胸に横一直線の、赤い線が刻まれて裂ける。そこからドクドクと溢れる己の血を見て、銀時は顔を引きつらせながら呟く。

 

 

「オイオイ、これヤベ……」

 

 

しかしその言葉は最後まで続かず…追い打ちをかけるように突き出された似蔵の紅桜が、銀時の脇腹を刺し貫いた。

 

 

「ブフッ……」

 

 

口からも血を吐き出す銀時。その光景を見て、新八は愕然と目を見開いていた。

 

 

「後悔しているか? 以前俺とやり合った時、何故殺しておかなかったと。俺を殺しておけば、桂もアンタも、あのお嬢さんもこんな目には遭わなかった。全てアンタの甘さが招いた結果だ──白夜叉」

 

 

そう言って似蔵は、銀時のかつての異名を口にする。

 

 

「あの人もさぞやがっかりしているだろうよ。かつて共に戦った盟友達が、揃いも揃ってこの様だ。アンタ達のような弱い侍のためにこの国は腐敗した。アンタではなく俺があの人の隣にいれば、この国はこんな有様にはならなかった。士道だ節義だくだらんものは侍には必要ない。侍に必要なのは剣のみさね。剣の折れたアンタ達はもう侍じゃないよ。惰弱な侍はこの国から消えるがい……」

 

 

そう語りながら剣を引き抜こうとした似蔵は異変に気付いた。抜けない……銀時の脇腹に刺さったまま、紅桜が微動だにしないのだ。

 

 

「剣が折れたって?」

 

 

ポツリと囁くような、銀時の声。

 

 

「剣ならまだあるぜ。とっておきのがもう1本」

 

 

鮮血にまみれた顔で笑みを浮かべながら、突き刺さった紅桜の刀身を両手と脇で強く掴みながらそう言い放つ銀時。

 

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」

 

 

すると……そんな銀時の言葉に応える様に、橋の穴から飛び降りてきた新八が、雄叫びを上げながらエリザベスから奪い取った刀を振り下ろす。そして紅桜ごと、似蔵の右腕を斬り落としたのだった。

 

 

「アララ、腕が取れちまったよ。ひどいことするね、僕」

 

 

腕が落とされたにも拘わらず、似蔵はまるで他人事のような口調でそう言う。そんな似蔵に対し、新八は刀を構えながら威嚇するように叫ぶ。

 

 

「それ以上来てみろォォ!! 次は左手をもらう!!」

 

 

対峙し合う新八と似蔵。だがその時、橋の上からピィィィっと笛の音が聞こえた。

 

 

「オイ! そこで何をやっている!!」

 

 

「チッ、うるさいのが来ちまった」

 

 

どうやら騒ぎを聞きつけたらしく、何人もの役人が駆け付けたらしい。それを見た似蔵は、忌々し気に舌打ちを漏らす。

 

 

「勝負はお預けだな。まァ、また機会があったらやり合おうや」

 

 

そう言い残して、似蔵は紅桜を拾い上げてそのまま逃げて行った。それを役人たちが追いかけて行ったが、捕まらないだろうと新八は何となく予想した。そして似蔵がいなくなってすぐに、倒れている銀時とシグナムに声をかける。

 

 

「銀さん! シグナムさん! しっかりしてください!!」

 

 

「志村か……すまない……助かった……」

 

 

「シグナムさん!!」

 

 

新八に礼を言うと同時に、ガクリと頭を垂れるシグナム。どうやら気を失ってしまったらしい。

 

 

「へッ…ヘヘ。新八、おめーはやればできる子だと思ってたよ」

 

 

「銀さん! 銀さーん!!」

 

 

そして銀時も、そう言いながらゆっくりと目を閉じ…意識を手放したのであった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

その頃……桂の行方を捜して巨大な船に潜入した神楽と、それを止める為に追いかけてきたヴィータ。2人はコソコソと物陰に隠れて甲板の様子を伺いながら、小声で言い争いをしていた。

 

 

「オイ! この船はヤベ―かもしれねーって言ってんだろ! さっさと引き返すぞ!!」

 

 

「さっきからうるさいアルなァ。そんなに恐いなら1人で帰ればいいネ」

 

 

「アホか! 肝試しじゃねーんだよ!! いいかよく聞け、この船はアタシが監察の仕事で見張ってた船で、もしかしたら奴らの……」

 

 

「にしてもこの船、中は広いアルな。おっ、あそこに船員らしき奴がいるアル。アイツにちょいと道案内させるネ」

 

 

「だから人の話を聞けよォ!!」

 

 

ヴィータの話には一切耳を貸さず……神楽は船頭に立つ派手な着物を着た男を脅して、船内を案内させようと考え、物陰から飛び出して男のもとへと歩いて行く。ヴィータも慌ててそれを追いかける。

 

 

「オイ。お前この船の船員アルか? ちょいと中案内してもらおーか。頭ブチ抜かれたくなかったらな」

 

 

日傘の先端に仕込まれた銃口を男の頭に突きつけながら、そう脅しをかける神楽。しかし男は振り向かず、キセルの煙を燻らせる。

 

 

「オイ、聞いてんのか」

 

 

「!? 待て神楽!! そいつは──」

 

 

追いかけてきたヴィータがその男の後姿を見た途端、狼狽したような口調でそう叫ぶ。

 

 

そして男がゆっくりと振り返ると……その男は、どこか狂気に満ちた笑みを浮かべていた。

 

 

「!!」

 

 

その笑みを見た神楽は夜兎の本能が働いたのか、警戒心を露にする。そしてヴィータはというと…体を小刻みに震わせ、小さな両手を強く握り締め、鋭い眼光で男を睨みながら……呟くように言った。

 

 

 

 

 

「高杉…晋助……!!」

 

 

 

 

 

つづく




少しだけ紅桜の仕様を変えております。


あと今回思った以上にシグナムが大立ち回りしてくれた。

すまん銀さん、後に控えてる戦闘シーンは気合い入れて書くから許して欲しい。
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