銀魂×リリカルなのは   作:久坂

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最後がだいぶグダグダになった。


ごめんなさい。


雨の日には傘を忘れずに

 

 

 

 

 

 

旧市街地の港に停泊している鬼兵隊の船の中にある工場区画。

薄暗い空間の床や壁にはいくつものコードが這っており、巨大な円筒状のカプセルがズラリと並んでいる。そしてそのカプセルの中で培養されているのは、紅色に鈍く輝くの刃……紅桜の刀身だった。

 

 

そして今、その空間にいる3人の男。

 

 

1人はこの紅桜の開発者である刀鍛冶──村田鉄矢。

 

 

「酔狂な話じゃねーか」

 

 

そんな鉄矢の隣に立つ派手な着物の男──高杉晋助が、カプセルで培養されている紅桜を眺めながら呟く。

 

 

「大砲ブッ放してドンパチやる時代に、こんな(もん)作るたァ」

 

 

「そいつで幕府を転覆するなどと大法螺ふく貴殿も充分酔狂と思うがな!!」

 

 

「ククク…違いない」

 

 

鉄矢の言葉に同意するように笑う…深紫色の着物に黄色い帯、更にその上から白衣を袖を通さずに肩に羽織った男──ジェイル・スカリエッティ。

 

 

「そしてその大法螺に付き合う私たちもまた、酔狂というものなのだろうね」

 

 

「法螺を実現してみせる法螺吹きが英傑と呼ばれるのさ。俺はできねー法螺はふかねー」

 

 

高杉が、ふっと笑みを浮かべる。

 

 

「しかし流石は稀代の刀工、村田仁鉄が1人息子…まさかこんな代物を作り出しちまうたァ。鳶が鷹を生むとは聞いたことがあるが、鷹が龍を生んだか」

 

 

「まったくだよ。一介の刀工が、刀を作る為に機械(からくり)技術まで取り入れるとはね。技術者として、驚嘆に値するよ」

 

 

スカリエッティもまた、感心したように笑う。

 

 

「稀代の天才科学者スカリエッティ殿にそう言って頂けるとはありがたい!! そして貴殿が考案し、紅桜に取り入れた魔導師の魔力を吸収し、己が力とする『魔力蒐集システム』!! アレのおかげで紅桜は更なる高みへと進化したことには礼を言おう!!」

 

 

「なに…これからは幕府だけではなく、時空管理局と戦うことも視野に入れておかなければならないからね」

 

 

「頼もしいねェ。侍も剣もまだまだ滅んじゃいねーってことを見せてやろうじゃねーか」

 

 

「貴殿らが何を企み何を成そうとしているかなど興味はない! 刀匠はただ斬れる刀を作るのみ! 私に言える事はただ一つ──この紅桜(けん)に斬れぬものはない!!」

 

 

紅桜を生み出すカプセルに手のひらを添えながら、鉄矢はそう叫んだのだった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

頭を下げていた鉄子が顔を上げると、銀時が納得したように呟いた。

 

 

「なるほどね、高杉が……事情は知らんがオメーの兄ちゃん、とんでもねーことに関わってるらしいな。で? 俺はさしずめその兄ちゃんにダシに使われちまったわけだ。妖刀を捜せってのも、要はその妖刀に俺の血を吸わせる為だったんだろ。それとも俺に恨みをもつ似蔵に頼まれたのか……いや、その両方か」

 

 

肩をすくめて銀時が言うと、鉄子は顔を俯かせる。

 

 

「……ずいぶん勝手な話だね」

 

 

そんな中で、今まで黙って話を聞いていたフェイトが怒気を滲ませた声色でそう呟いた。

 

 

「話を聞く限り、あなたは全てを知っていたんでしょう? 知っていて、何も言わなかった。そのせいでウチの主人は重傷を負わされたのに、そこへ今さら何とかしてほしいだなんて……いくら何でも勝手が過ぎるよ」

 

 

「……スマン、返す言葉もない」

 

 

フェイトの射抜くような視線に耐えながら、鉄子は絞り出すように言葉を紡ぐ。

 

 

「アンタの言う通り、全部知ってた…だが…事が露見すれば兄者はただではすむまいと…今まで誰にも言えんかった」

 

 

「大層兄思いの妹だね。兄貴が人殺しに加担してるってのに、見て見ぬフリかい?」

 

 

「…………」

 

 

責めるような銀時の言葉。しかし自分にそれを反論する資格はないと自覚している鉄子は、あまんじてそれを受ける。

 

 

「……刀なんぞはしょせん人斬り包丁だ。どんなに精魂込めて打とうが、使う相手は選べん──死んだ父がよく言っていた、私たちの身体に染みついている言葉だ」

 

 

死んだ父・村田仁鉄の言葉を口にしながら、鉄子は話し始める。

 

 

「兄者は刀を作ることしか頭にないバカだ。父を超えようといつも必死に鉄を打っていた」

 

 

鉄子の脳裏に思い浮かぶのは、父が亡くなって鍛冶屋を継ぎ…ガムシャラに鉄を打っていた鉄矢の姿。

 

 

「やがて、より大きな力を求めて機械(からくり)まで研究しだした。妙な連中を付き合いだしたのはその頃だ。連中がよからぬ輩だということは薄々勘づいてはいたが、私は止めなかった。私たちは何も考えずに刀を打っていればいい。それが私たちのお仕事なんだって……」

 

 

何度か止められる機会はあった。しかし鉄子はそれを見て見ぬフリをし、自分たちは刀を打っていればいいと言い訳をして、目をそらし続けていた。

 

 

「わかってたんだ。人斬り包丁だって。あんなのもの、ただの人殺しの道具だって、わかってるんだ。なのに……悔しくて仕方ない」

 

 

語るに連れて、鉄子の目元から涙が零れる。

兄がしたことは許されることではないことは理解している。だが全ては、鉄矢の父を超えたいという純粋な願いから始まったことを知っている。

毎日毎晩遅くまで鉄を打ち続け…機械(からくり)に関する資料を読み漁って良くない頭を悩ませ続け…必死の思いで刀を作っているのも知っている。

だからこそ、それを人殺しの道具として使われることが鉄子には耐えられなかった。

 

 

「兄者が必死に作ったあの刀を…あんなことに使われるのは悔しくて仕方ない……でももう、事は私1人じゃ止められない所まで来てしまった。どうしていいかわからないんだ…私はどうしたら……」

 

 

「どうしていいのかわからんのは俺の方だよ」

 

 

今まで黙って話を聞いていた銀時はが、「よっこらせ」と言いながらと腰を上げた。

 

 

「こっちはこんなケガするわ、ツレが2人もやられるわで、頭ん中グチャグチャなんだよ。オラッ、こんな慰謝料もいらねーからよ」

 

 

不機嫌そうな顔色で、鉄子がお詫びとして持参した大金の入った封筒を、彼女の前に乱暴に投げる。

 

 

「さっさと帰ってくれや。もうメンドくせーのは御免なんだよ」

 

 

吐き捨てるようにそう言い放った銀時の言葉に……鉄子はもはや何も返す言葉もなく、追い出されるようにして万事屋を後にしたのであった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

「う"ぉえ"!」

 

 

喉元を擦りながら船内の通路を歩くまた子。

 

 

「あーいったぁー。くっそォ似蔵の奴めェ、調子に乗りやがって」

 

 

先ほど紅桜によって締め上げられたまた子は、似蔵に対して毒づく。

同時に彼が使用していた紅桜に畏怖の念を抱く。あの剣を使ってホントに大丈夫なのだろうかと考えてしまうほどに危険を感じていた。

そんな事を考えながら通路を歩いていると、ちょうど前を横切ろうとした部屋から1人の浪士が勢いよく転がって来た。

 

 

「離すネェェ!! 私にこんなことしてタダですむと思ってるアルかぁぁ!!」

 

 

「てめーら全員アイゼンの頑固な汚れにしてやっからな!! でもその前にアイゼンを返せェェ!!」

 

 

そして直後に聞こえてくる少女の甲高い声。中を覗いてみると、そこには昨夜捕らわれた神楽とヴィータが壁に両手を拘束されながらも暴れていた。

 

 

「お前らみんな銀ちゃんとフェイトにボコボコにされても知らないかんな!!」

 

 

「そうだぞコルァ!! はやてだってキレたら超コエーんだぞ!! 眼下の大地を白銀に染められっぞコラァ!!」

 

 

2人とも捕まる際にまた子やトーレによって深手を負わされたハズなのにピンピンしており、それを抑えようとした浪士を何人も蹴り飛ばすほどに元気だ。

 

 

「ハァー、もうボロボロなんスけど」

 

 

その様子に溜息をつきながらまた子は部屋の中へと足を踏み入れ、部屋に置かれた木箱に腰かける武市に声をかける。

 

 

「だからさっさと始末しようって言ったんスよ。ガキ2人になんスかこのていたらくは、武市先輩」

 

 

「なんの情報もつかんでないのに殺してどうするんですか。それにね、この年頃の娘はあと2、3年したら一番輝く……」

 

 

「ロリコンも大概にしてくださいよ先輩」

 

 

「ロリコンじゃありません、フェミニストです」

 

 

さっさと始末した方がいいと進言するまた子に対して、自称フェミニストの武市は聞く耳を持たない。それどころか2人の少女をガン見している。

 

 

「あのチャイナの娘を見てください。一夜にしてあなたに撃たれた傷が塞がっているし、それにあの尋常ならざる強力、そしてあの白い肌」

 

 

「先輩、いい加減にしてください」

 

 

「だからおめ、違うって。フェミニストって言ってんじゃん、ただの子供好きの」

 

 

「だからそれただのロリコンじゃないっスかァ!!」

 

 

頑なにフェミニストと言い張る武市に対してまた子が怒鳴ると、武市は「もういいですよ」と言った。

 

 

「あなたには理解できそうにないからバカが」

 

 

「オメーがバカ」

 

 

「アレですよ、私が言っているのはこれは『夜兎』の特徴と一致しているということです…死ね」

 

 

「お前が死ね」

 

 

そんな暴言の応酬をしながらも、また子は『夜兎』という聞き覚えのある単語に喰いついた。

 

 

「夜兎ってあの傭兵部族『夜兎』ッスか。晋助様を狙って雇われたプロの殺し屋ってワケっスか? じゃああっちの小さいガキもッスか?」

 

 

「オイ、小さいは余計だろ」

 

 

「あちらの小さくて可愛らしいお嬢さんは時空管理局の魔導師らしいです。それもかなりの腕利きだとトーレ殿が言っておりました」

 

 

「魔導師? こんなチンチクリンがっスかァ?」

 

 

「侮ってはいけません。この子は言うなれば魔法少女です。魔法少女には無限の可能性が秘められているのですよ。そう例えば…彼女に魔導師が使うデバイスと呼ばれる道具を渡せば、魔法少女のお約束とも言える変身シーンが……」

 

 

「先輩、ホントもう勘弁してください」

 

 

「だから違うって言ってんじゃないですか。私はね、ただフェミニストとして変身シーンでハダけた青く瑞々しい肉体の全てをこの目に焼き付けようと……」

 

 

「何も違わないっス。ただの度し難いロリコンっス」

 

 

もはやまた子の武市を見る目は先輩を見るモノではなく、汚物を見るような冷め切った目だった。

 

 

「おいアホ共…さっきから人の事をロリだのチビだの言ってっけどな、アタシを見かけで判断すんなよ。プログラム体だから成長しねーだけで、実際はオメーらより大分年上だかんな」

 

 

先ほどから目の前で繰り広げられるコントのようなやり取りを見て、何となく遠まわしに自分が小バカにされていると察したヴィータは、顔に青筋を浮かべながらそう言い放つ。

 

 

「なんですとォォォォ!!?」

 

 

その言葉に過剰に反応した武市が叫びながら立ち上がる。

 

 

「という事はアレですか、あなたはもしや永遠に熟す事のない肉体を持ったロリコン達の希望『エターナルロリータ』というものですか!? まさかロリコン界の伝説と言われる存在をこんな所でお目にかかれるとは、ロリコン冥利に尽きるというものです!! ありがとうございます!! 因みに私はロリコンじゃなくてフェミニストです」

 

 

「先輩、もう疑いようもない位ロリコンがダダ漏れッスよ」

 

 

息を巻いて熱弁する武市に本気で引きながら、また子は話を続ける。

 

 

「腕利きかどうかはともかくとして…江戸にいる魔導師ってことはコイツ幕府側の人間っスよ。だとしたらこっちのチャイナも幕府の回し者なんじゃないッスか?」

 

 

「それがチャイナ娘さんは何を聞いても『ヅラ』しか言わないヅラ」

 

 

「先輩、それナメられてんスよ。フェミだかロリだか知んないスけど、キモイっスってマジで。見ててくださいよ、こんな小娘ひとひねりで」

 

 

武市を押し退け、また子が神楽の前に立つ。

 

 

「やいてめっ…」

 

 

「ペッ」

 

 

その時、神楽はまた子の顔面に痰を吐きかけた。当然、それはまた子の逆鱗に触れる。

 

 

「てんめェェェェ! 自分の立場わかってんスかァァ! 殺してやる!!」

 

 

「ちょっ、ダメだって。あと2、3年したらすんごい事になるってこの娘」

 

 

「止めないでください武市変態!!」

 

 

「先輩だから、変態じゃないから」

 

 

怒りに任せて銃をぶっ放そうとするまた子を、後ろから武市が羽交い絞めにして止める。そんな彼らの姿を見て、ヴィータは誰にも聞こえない位の声量でポツリと呟いた。

 

 

「……なんで晋助はこんなアホ共を仲間にしたんだ?」

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

今朝方に定春が持ち帰って来た地図を頼りに、新八はひとり旧市街地の港までやって来た。そしてやたらガラの悪そうな浪人たちによる警備の硬い巨大船を発見し、物陰に隠れながらその船の様子を伺っている。

 

 

銀時が動けない今、自分が行くしかない。間違いなく神楽はあの船にいると当たりをつけながら周囲を見回す。船に忍び込もうにも、船の周りは強面の浪人たちがウヨウヨいて、とても近づけそうにない。

 

 

どうしようかと、新八が頭を悩ませていたその時……新八の目に奇妙なモノが映った。

 

 

それは……見覚えのある白いペンギン……エリザベスが和服にロン毛のカツラを被った出で立ちで浪人たちに混じって歩いている姿だった。

 

 

そして新八は、心の中で叫ぶ。

 

 

 

──なんか変なのいるぅぅ!!

 

 

 

そんな格好で船へと向かって歩くエリザベスは、当然のごとく浪人たちに止められた。

 

 

「オイ何だ貴様、怪しい奴め」

 

 

「こんな怪しい奴は生まれて初めて見るぞ」

 

 

「怪しいを絵に描いたような奴だ」

 

 

もっともである。

そんな光景を新八は心の中で色々ツッコミながら覗いていると、エリザベスが浪人たちに対してプラカードを見せた。

 

 

【すいません、道をお伺いしたいんですが】

 

 

「あ?」

 

 

【地獄の入口までのな!!】

 

 

次の瞬間……エリザベスの口からバズーカ砲が出てきて船を砲撃した。突然のことに腰を抜かしながらも、浪人は叫ぶ。

 

 

「何してんだてめェェェェ!!」

 

 

「くせ者ォォ!! くせ者だァァ!!」

 

 

瞬く間に浪人が集まってエリザベスを取り囲む。それを見た新八は思わず物陰から飛び出すと、同時にエリザベスが腰にさした刀を投げ渡された。

 

 

【早く行け】

 

 

──エリザベス先輩ィィィ!!

 

 

彼の漢気に新八は涙を流し…「うおおおおお!!」と叫びながら船へと向かって走って行ったのであった。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

その頃万事屋では…鉄子を帰らせたあと、銀時は寝室の布団の上で寝転がって天井を見上げていた。

 

 

「ちょっと安心した」

 

 

「あ?」

 

 

「銀時のことだから、ボロボロの身体を引きずってでも行くと思ってたから」

 

 

枕元に座るフェイトがそう言うと、銀時は「フン」と鼻を鳴らす。

 

 

「でも今の銀時は重傷だから、行っても何の役にも立たないよね」

 

 

「そうだな」

 

 

「あの鍛冶屋の人にはつい強く当たっちゃって申し訳なかったけど、仕方ないよね」

 

 

「そうだな」

 

 

会話するのも億劫だと言いたげに、ゴロンと寝返りをうってフェイトに背を向ける銀時。

 

 

「銀時は昔からそうだったよね……」

 

 

その背中を見つめながら……ポツリと呟く。

 

 

「いつもフラっといなくなったと思ったら、1人で勝手にどこかで無茶やらかして、なのに何事もなかったようにフラっと帰って来て……たくさん傷ついて、こっちがどれだけ心配してても、そんなこと知ったこっちゃねーって顔して……自分の護りたいものを護る為に、全部1人で背負い込んで、たった1人で戦ってる……ホント、昔から何1つ変わってないよ」

 

 

一旦そこで言葉を区切り、未だにこちらに向けている背中に向かって、囁くように言い放つ。

 

 

 

「だから……行くんだよね──銀時」

 

 

 

そう言うと、銀時はこちらを向いた。背を向けたままだが、肯定も否定もせず、視線だけは真っ直ぐとフェイトを見据えている。

 

 

「こうなる予感はしてたんだ。昨日はやてに、脱獄したスカリエッティと高杉が手を組んだって聞かされてから」

 

 

スカリエッティが脱獄した話は初耳だったのか、銀時は「あのヤブ医者が……」と小さく口にする。

 

 

「ホントにもう……結婚したら少しはヤンチャも控えてくれると思ったんだけどなぁ。でも仕方ないよね……ここで行かなきゃ、私が好きになった銀時じゃないよね」

 

 

フェイトはどこか嬉しそうに顔を綻ばせてそう言った。

 

 

「でも1人じゃ行かせないよ。もちろん…私も行く。夫の背中を護るのは妻の役目だから」

 

 

綻ばせていた顔を引き締めて、確固たる意志を感じさせる声色でそう言い放つ。

 

 

「本当ははやてに、スカリエッティ逮捕の為に執務官としての捜査協力を頼まれてたんだけど……それは断ったよ」

 

 

フェイトはゆっくりと立ち上がり、部屋の隅に置いてあるタンスの前まで歩く。

 

 

「私が戦う理由は、もう1つだけじゃないから」

 

 

上段の引き出しを開けて、中をゴソゴソと漁りながら話を続ける。

 

 

「時空管理局の執務官としてスカリエッティを捕まえる為に……『万事屋銀ちゃん』の一員として依頼主の為に……坂田銀時の妻として夫を護る為に……そして──」

 

 

そう言いながら、フェイトはタンスの中から1冊の本を取り出した。寺子屋で使う教科書のような、年季の入った古ぼけた本だった。

 

 

 

「松陽先生の弟子の1人として──高杉を止める為に戦う」

 

 

 

「……まだそんなもん持ってやがったのか」

 

 

フェイトの持つ教本を見ながら、銀時はゆっくりと上半身を起こす。そして後頭部を掻きむしりながら、呆れ口調で口を開く。

 

 

「やれやれ……どうやら俺たちァ、夫婦そろってバカみてーだな」

 

 

「フフ…そうだね」

 

 

フェイトは微笑みながら、あらかじめ用意していたキチンと折り畳まれているいつもの銀時の一張羅を差し出した。

 

 

銀時はそれを受け取り、さっと袖を通して手早く着替えを済ませる。

 

 

そして2人そろって靴を履き、玄関の戸を開いて外に出る。

 

 

未だに雨は降り続いている。

 

 

「銀時」

 

 

名を呼ばれ、差し出されたのは黒布に花柄がプリントされた、フェイトお気に入りの番傘。

それを受け取って頭上で傘を広げると、銀時は隣に立つフェイトの顔を見ながら、囁くように言う。

 

 

「行くぞ」

 

 

「うん」

 

 

言葉にするととても短いやり取り。だがこの夫婦にとって、それ以上の言葉はいらない。

 

 

2人は同じ傘の下で肩を並べながら……行くべき場所へと向かって歩き始めたのだった。

 

 

 

 

 

つづく

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