提督は夜の街に行ってみたい。   作:鉄仮面

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艦娘の皆には、内緒だよ?

「性欲を持て余す」

 

 毎日濁流の様に襲いかかる激務をこなし、後は寝るだけとなった自分の口からそんな呟きが漏れた。

 

 疲れているのだろう。理性はそう囁いている。

 

 でも本当にそれだけなのか。本能は腕を組みながら唸っている。

 

 何が言いたいと理性が聞けば、フッと鼻で笑った本能がある問答を投げてきた。

 

 

 オナ禁して今日で何日目だったかな? と。

 

 

 エウレーカ! と叫んで全裸で飛び出したい衝動に駆られるのをグッと我慢する。そうだ。そうだった。本能の正鵠を射た意見に、理性はもはや、はわわと叫ぶばかりの存在へと成り果てる。

 

 モテたいからと家を飛び出し陸軍の門を叩くも、適正があると言われ無理矢理海軍へ押し込まれたあの日の慟哭を思い出す。

 まぁ、その数週間後に艦娘という美少女ばかりの部隊を指揮しろと言われ、万歳三唱を心の奥底であげて喜んだのけれども。

 

 だがそれは間違いだ。間違いだったのだ。

 着任当日から激務に次ぐ激務に、当時妄想した甘い日々は悠久の彼方へと遠ざかる。何故狙ったように攻勢が強まるのか。身内にスパイがいるんじゃないかという疑念に駆られるぐらいには忙しかった。

 

 あっという間に日々が過ぎてゆき、1週間、1ヶ月、そして半年。

 烏兎匆々の半年であった。

 だが、何の甘い展開もなかった涙そうそうの半年でもある。

 しかし、だからと言って、うら若き乙男がムラムラしなかったと、そんな事があるのだろうか。否、断じて否である。

 

 

 

 ―――むっちゃムラムラしてました。だって上から下までみんな可愛いし美人だし美少女なんだもん。お尻もオッパイもおっきいのもちっさいのも色とりどりなんだもん。無理だって。抗うのは無理だって。

 秘書艦と2人きりになった時、自然と手が豊かな、或いはささやかな胸に、お尻へと手が伸びてしまう。自制心は日々削られていくばかりであった。

 

 されど、あゝされど! 辛い日々を共に過ごした艦娘達我が仲間、我が部下達に、劣情を抱き続ける程自分は恥知らずでは無い。

 

 オナ禁しようと理性が提案してきたのは1ヶ月前の話だ。13人の円卓決議が始まり、過半数が賛同した。もうこっそり撮ったあんなのやこんなのに負けたりしない。半年かけて集めたピンナップを燃やす……のはちょっともったいなかったのでタンスの奥底へと封印した。多分魔王を封印する勇者も、こんな気持ちだったのかもしれない。

 

 

「でも、人間ってそんな風にできてないんだね」

 

 

 身体の主導権を握った本能が呟く。理性はまだ奇襲の混乱を立て直せずにいる。1ヶ月前に賛同した我が円卓共も全員一致でウンウンと頷いている。おのれブルータス。お前も、いやお前らもか。

 

 

「もう自分を虐めるのは止めよう」

 

 

 だが、オナ禁を止めても何も解決しない。艦娘達に襲いかからんばかりの欲求不満は高々自慰行為で解決できるものではない。

 

 目の前でバルンバルンと動く山脈に、フリフリと動く桃に、というかあの魅力的を通り越して、もはや性の権化と言える彼女達へ我慢をするのは(提督でありながら!)不可能だ。手を出すのは時間の問題だろう。理性が反逆の拳を振り上げながら、そう叫ぶ。

 

 本能は不敵に笑い、理性の拳を受け止める。

 

 そんなことは分かってる。本能は応える。

 

 私に良い考えがある。本能は拳を構える。

 

 

「風俗が、あるじゃないか―――」

 

 

 高らかに振り上げた光速の拳に理性が車田飛びをし、頭から思考の水面へ追突する。

 

 だが性病の問題が……と理性が反論する。フフフと本能は人差し指を理性へ向ける。

 

 

「既に、性病予防が万全な店は調べがついている」

 

 

 いつの間に! 本能はどうやらこっそりと我が体を操っていたと見える。だとすればこれは計画的な反逆―――。

 気付いた時にはもう遅い。ぐわぁああ! く、クロコダイーン! と理性が光速の貫指にボロボロと崩れていく。そこへ、本能はトドメを指す。

 

 

「それに―――初めては経験豊富な美人のお姉さんだと、誓ったろ?」

 

 

 天啓である。

 そうか。そうだった。先輩も、同期もみんなそう言っていた。オッパイが大っきくて、エロくて、優しいお姉さんが初めてがいい。と。何て、冒涜的。何て、下衆で低俗な発想。衆目の面前で呟こうものなら、あっという間にリンチされるも是非も無し。

 

 だがこれは真理だ。真理。圧倒的真理……ッ!

 

 男の、じゃない……。

 

 自分……ッ!

 

 自分の……真理……ッ!

 

 本能と理性が手を取り合っている。この小さな、ポケットの中の戦争は恒久的な平和を享受せんと平和条約が締結されたのだ。涙無しでは語れない。戦争は終わったよ、バー○ィ……。

 

 壁にかけられた外套を羽織り、部屋を後にした。軋む木造廊下の床をゆっくりと踏み出した。これは、私にとっては小さな一歩だが、この鎮守府にとっては大きな一歩となるだろう――。

 

 

 

 

 

 

 

「今から外出したいとか貴様馬鹿か? 糞して寝てろ」

 

「くぅーん」


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