ダンジョンで見た目だけじゃなくガチになるのは間違っているのだろうか? 作:両義
「ふむ、意外とやれるな」
ロキ・ファミリアは流石最強ファミリアの一角。すぐさま平静を取り戻し、弓や魔法などでキャンプにヴィルガ達を近づけさせないようにしていた。しかし矢はその体液で溶けて効きづらいようであり、魔法も詠唱の関係か連発はできない。
だからこそある程度近づいたモノは志貴が相手していた。
「さながら無明の月ってか」
腐食液を急停止で避け、踏み込みの跳躍からトップスピードで頭上を取るとナイフを切り払う。どうもそこに弱点?があるらしく、ヴィルガは灰となった。
元々、志貴は伝位されるだけに途轍もない身体能力をしていた。家も裏方ともいえる仕事をしていたため真剣も使い慣れてる。そしてふざけたことにゲームの中の技をある程度生身でできてもいた。
流石に分身とかそんなのは無理だったが……ハイスペックとなった体は元々できていた技を完成に近づけ、できなかった技をできるまでにさせていた。
それにこのナイフ。家にある自分のではあったが、腐食液を切っても溶けないことから何か改造されてるだろう。
「15……まぁそれなりに慣れてきたか?」
横を通り抜けるように15体目を両断すると志貴の視界が……いや、先ほどアイズの向かった先で赤い火柱の束が上り詰めた。志貴は先ほどの状況から考え、アイズの仲間の仕業だろうと帯にナイフをしまった。それを裏付ける様にアイズを含んだ数人の団体がこちらに向かってきた。
「みんな!! 大丈夫かい!!」
「あっ団長!! はい、けが人は少し出ましたが……」
金髪の少年?は団長らしい……しかしその見た目からは想像できないほど……いやその団体でも飛びぬけた存在感を発してるから間違いないか……後二人もそうだが…… と志貴は考えているとその団長が志貴の方へと向かってきた。
「はじめまして……かな? 僕はフィン・ディムナ、【ロキ・ファミリア】の団長をしている」
「……神成志貴だ。好きに呼んでくれ。後話してる暇もそうなさそうだぞ?」
志貴のその言葉と同時に木々がなぎ倒される音が響き渡る。そしてフィンの親指が疼き始めた。
「みたいだね」
ロキ・ファミリアの誰もがその方角を振り向き、武器を再装備し臨戦態勢に纏い直した。
どれほど待ったか。
大した時間はもしかするとかかっていないのかもしれない。だが長く感じた。
油断なく音源の方角を見つめていたフィン達の視界にそれは現れた。
「なっなんですか? あれ」
「……あれも下から来たってか?」
「多分……と言うかあのサイズ……迷路ぶっ壊してきたのかしら?」
「かもね……」
およそ6
先ほどのモンスターと同じく芋虫を連想させる下半身は変わらない。ただ、小山のように盛り上がっていた上半身は滑らかな線を描き、人の上体を示していたのだ。
エイ、または扇に似た厚みのない扁平上の腕には二対四枚で、後頭部からは何本も垂れ下がる管の様な器官がある。
濃厚な色彩が及ぶ顔面部分には鼻も目も口もないが、線の細さから女性のものを連想させた。が、大きく盛り上がった腹部が女性的な要素を全て台無しにしていた。妊婦と表現できそうだがあまりにも醜い。
フィンはすぐに思考する。どう考えてもあれを破裂させれば途轍もない腐食液が飛び散る。
先ほどのティオネの状態からもそんなモノを団員……いや、第一級冒険者達でも耐えきれるとはとても思えない。
ならばそこから導かれる答えは……
「総員、撤退だ」
「「「「っ!!!!!」」」」
撤退だった。
「速やかにキャンプを破棄し、最小限の荷物を持ってこの場から離脱する」
「おい、フィン!逃げんのかよ!」
「あのモンスターをほっとくの!?」
「僕も大いに不本意だ。『でもあのモンスターを始末して』、かつ被害を最小限に抑えるにはこれしかない。月並みの言葉で悪いけどね」
だからこそ決断しなければならない。誇りと責任。そして忌むべき判断。
その時七色の粒子群が舞った。そして……
這うような悪感が背筋を伝う。
「退h……」
フィンの命令より早く、モンスターがまるで笑ったようにし……
それは轟音と共に起爆した。鱗粉なんて生易しいものなどではない。その爆発は明らかに普通では防げないもの。
その爆風はフィン達を飲み込もうとし、
「……シキ?」
アイズの声に周りもその自分達の前に立つ人物、志貴を見た。
複数名の第一級冒険者達は見ていた。鱗粉がまかれた瞬間、志貴は即座に皆の前に立つと蹴りを放ったのだ。
ただそれは土を巻き上げるように、いや地がめくりあげられるほどの蹴りと言うこと。蹴撃に鱗粉の大半がはじかれ、巻き上げられた土砂に爆発の威力が殺された結果、防御に成功した。
「遠距離爆撃か。これはもう芋虫じゃないな」
志貴はそう言うとナイフを抜き放つ。そして何でもないかのようにすたすたとモンスターへと近づいて行った。
「待つんだ!! 今そいつを倒したら……」
「あの芋虫みたいに爆発するってか?」
それは志貴も分かり切っていた。あの質量の腐食液が飛び散ればどうなるか。だがそれはただ倒せばの話。
けだるげに志貴はフィン達の方を振り返る。フィン達の表情は驚愕と言うべきか。ただ唯一、アイズは不安げに見ていた。
「要はあれだろ? あの芋虫が
「そんなことやれるならとっくにやっている!!」
「……なら一応防御の体勢だけはとってろ。あんたらには聞きたいことがあるからな」
「……シキ……」
よりいっそう不安げを強めたアイズに志貴はため息をつく。
あって数時間も立ってないのに何というか感性が強いのやら……だがまぁ、【謝罪】はしたが【罪滅ぼし】はしてないしな。
「不安ならみんなをちゃんと守ってろ。さっきの虫の時の風……アイズなんだろ?」
「えっ……うん……」
「……あんだけ力強く優しい風なんだ、こいつの攻撃ぐらい防げるだろ」
志貴は感じ取っていた。彼女の周りには風が纏われている。それは確かに吹きもしてない風。だが彼女を守ろうとする風。
アイズもひとりで行ける……いや、多分このモンスターにとってアイズは天敵だろう。
……しかしこれ以上彼女だけに負担はかけられない。
「……それにさ……気に入らないんだよな……」
志貴は見つめる。モンスターだからこそ考えは単純かもしれない。そこは別に否定しない。
だが……
「濁ってるんだよな……」
志貴の眼にはそのモンスターは濁って見えていた。自分勝手な理由とはわかっている。こんな無理やり混ぜられたものを見ていたくはない。
「気に入らない……なら、殺さなくっちゃな!!!」
瞬間……志貴の眼は虹の纏った蒼に染まり、黒と白の混じった線と点が色濃く世界を覆う。
そしてそのまま駆け出すとモンスターは勢いよく腐食液を噴出した。志貴は左手を振るうとまるで皮膚が溶けるように義手が露になる。
「あれは……義手ですか!?」
後ろからの驚愕の声を無視し、手首を捻ると前腕部分が割れ、ナイフが飛び出す。そしてそのままキャッチし投擲した。
ナイフは腐食液を引き裂き、モンスターの上腕……線を切り裂き片腕をもぎ取った。
「!!!!!!!!」
理解できない声で悲鳴を上げモンスターは走り寄る志貴を見る。そしてそのまま志貴を押しつぶさんがごとくのしかかってきた。
それが逆に志貴にとって願ってもないことと知らず。
「ほう、いらっしゃいってか」
志貴は少し前かがみになりモンスターを視る。そして……
「………見えた」
【直死の魔眼・五景崩落】
急加速し、すれ違い様の斬撃。そして血振りするように志貴はナイフを振る。
「死が……俺の前に立つな……」
ロキ・ファミリアが唖然と見る中、モンスター数本の切れ込みが走る。それは次々と数を増やし、爆発もすることなく灰となった。
志貴君は別に中二病ではありません。ある種の暗示です。