テリーのルーラにより、一行はクリアベールの町に到着した。
「ここ知ってるよ!ジョンがいて、ベッドが空を飛ぶんだよ!」スラリンは言った。
「スラリン、それは上の世界の話では・・・、あれ、どちらでしたっけ?上と下の世界を行ったり来たりしていたのでよくわからなくなりますな」ピエールは戸惑っていた。
「なんだ、お前ら、この町知っていたのか」テリーは少しがっかりした。勝手に自分が穴場だと思っていたのだ。なぜかこの町のベッドは寝心地が良く、深く眠ることができた。テリーは門番の兵士に事情を話し町に入り、宿屋では少し多めにゴールドを払っていた。ピエールはテリーが自分とスラリンに気を使わせないようにしているのだろうと思った。一行は宿屋の一室を借りた。テリー装備品を脱ぎながら話した。
「ピエール、スラリン。メシとお湯は用意するように頼んだからさ、お前らは先に寝ててくれ。共同風呂があるんだけど、魔物は勘弁してくれだってさ。ヒデーよな。俺は久しぶりに町に出て酒でも飲んでくる。メシもそこで済ませるよ。本当に先に寝てていいからな。明日からガンガン鍛えるからな!よく寝とくんだぞ」
「テリー、僕も行きたい!行きたい!」そう言うスラリンをピエールは注意した。
「おとなしくしなさい、スラリン。お前は今日けっこう呪文を使っています。きちんと睡眠を取り、魔力を回復させるのです」
「ピキ~。わかったよ。わかったよ」スラリンも納得した様子だった。
「へへっ、子供はもう寝る時間だよ、スラリン。じゃあ、大人の俺は出ていくよ。洗濯は帰って来てから頼むからな」テリーはそう言って宿屋から出て行った。
わかりやすい人だとピエールは思った。きっと今日のドランゴとのやり取りで落ち込んでいるのだろう。まっすぐだったレックと違い、テリーは影や迷いがある。だからといってレックよりもテリーが魅力がないわけではない。テリーはドランゴの前で自分は弱いと言っていた。そうかもしれないとピエールは思っていた。ピエールの知っているテリーはバトルマスターなりたてだったのだ。あの時は正直、テリーよりも自分の方が強いという自信があった。それがこの数ヶ月ですっかり追い抜かれてしまった。おそらくずっと一人旅をしながら、相当の鍛錬と戦闘をしてきたのだろう。そして、さらに強さを求めている。もう充分に強いと思われる彼を動かすものは何だろうか?
テリーがどう思っているのかわからないが、テリーはナイトである自分にとっての主(あるじ)だ。魔物である自分たちを人間の町に入ることが出来るように手配し、一緒の部屋で寝てくれる。これだけでも自分は彼を尊敬する理由となる。彼の力になれる様にしっかりと役目を果たさなければ。ピエールはそう思った。
宿を出たテリーは門番に声をかけて町の外に出た。あまり遅くならないで下さいよと言う門番にテリーは手を挙げた。あの青年は本当に顔に出るなと門番は思った。あの恰好はまだ冒険をしていて、あの表情は何か落ち込むことがあったのだろうと門番は思った。世界を救った英雄の一人でありながらあのルックスだ。俺なら貴族や金持の商人の娘の婿になる。もしくはどっかの城の宮廷剣士とかでもいいなあ。こんな事を考える俗な俺だからしがない一般兵で、魔王がいなくなっても鍛えているからテリーは英雄なのだろう。門番はそう結論付けた。テリーに遅くならないように言ったが、今の平和な時代をつくってくれた彼が少し遅くなったからといって門を閉めたりするつもりはなかった。
テリーは森の中に入り、木に寄りかかって座った。目からポロポロと涙が出てきた。今日ほど自分で自分が嫌いになった日はない。ピエールの提案を受けたからといって、またドランゴを戦いの日々に戻してしまうところだった。魔物と人間が争わない世界とするために魔王を倒したはずだ。だが、今自分がやっていることは何だ?魔王がいる時代と変わらない、いや、魔物が積極的に襲ってこない分、魔王がいる時よりもたちが悪いことをやっているじゃないか。ミレーユ姉さんの言う通りだ。俺だけ前に進んでいない。俺だけ自分のプライドを、「我」を守るためだけに同じ所にいる。
それでも、自分の中で答えは出ている。俺は戦い続ける。俺は強くなり、あのダーマダンジョンをクリアし、「勇者」となる。そうすれば、俺はきっと変われるはずだ。堂々とドランゴの前でも、ミレーユ姉さんの前でも自分が勇者だと言える。デスタムーア討伐の旅で味わった屈辱もきっと晴れる。今は自分の信じる道を進むんだ。前に・・・。
門番は空から流星のように光る人間が下りてくるのを見ていた。テリーがルーラによりクリアベールの町に帰ってきた。
「ギリギリセーフだろ?」テリーが門番言った。
「ギリギリアウトですよ、テリーさん。もう、門を閉めますからね」門番が答えた。
「テリーさん達のおかげで人を襲う魔物が減ってきてるのは良いんですがね。私ら兵士は仕事が無くなりますよ」でも、まあと門番は笑いながら続けた。
「なんか昔話とかおとぎ話とかで聞いたんですけどね。テリーさん。魔王だか竜王だかいなくなって、魔物が少なくなってきたんですって。勇者様が魔王だか竜王だか倒したから。そしたら世界はどうなったと思います?」
「は?いや、平和な時代になったんじゃねーの?」テリーも少し興味をひかれる話だった。
「人間の神官が魔物の軍つくって、人間を襲わせたって話ですよ。最後はその神官が自分を生け贄にして邪神をよびだしたんですって。結局その邪神もその時代の勇者様に倒されたって話ですけどね」この時代の英雄の知らない話を自分が知っているという優越感なのか門番は得意げに言った。
「なんだそりゃ。その神官は何がしたかったんだ?」テリーは呆れて言った。
「私が思いますにね、テリーさん。この話の教訓は人間の敵は魔物だけじゃないって事だと思うんですよね。魔物がいるから私ら人間の敵は魔物だって思っているけど、その魔物がいなくなっちまったら、敵がいなくなる訳で。そしたら無理矢理でも敵を作らなきゃいけなくなる訳ですよ。人間ってのは。平和になっちまったら、飽きてしまうんですよ。人間は」門番はそう言って町の門を閉めた。
テリーが町の中に入っていくのを確認した後、門番はマウントスノーに赴任している兵士仲間から聞いた話を思い出した。マウントスノーからさらに北にある洞窟に邪神を崇拝するシドー教と名乗る教団が住み着いたらしい。そいつらはその極寒の地を聖地ロンダルキアとよんでおり、死者を生き返らせる呪文の研究をしているとかで気味悪くて仕方ないと仲間の兵士は言っていた。
バカバカしい話だ。邪神崇拝とか言っている奴らに限っていざ魔物が目の前に現れたら必死で命乞いをするに決まっているのだ。どうせ社会に順応できない奴らの集まりだろうと思い、この話をテリーにしなかった。
もしこの門番がこの時、この話をテリーに報告し、テリーたちがすぐに調査に赴けばシドー教が力を付ける前に壊滅させていただろう。だがそうはならなかった。
こうして因果の糸は切れることなく紡がれていくのである。
門番の与太話として適当に考えたのですが、マウントスノーの村人の時間を50年とめていた(たぶんそうだったかなと)雪の女王の能力を、うまくのちの設定に絡ませることができないかと、話を継ぎ足しました。
短編なら、この門番の話で完でもいいのですが、色々考えているのでまだまだ続きます。
多分・・・。