チャム達とゲントの村へ来たザンテは建物の整然とした造りに驚いた。
「キレーな家ばっかだな。それに家と家の感覚もほとんど同じっつーか・・・」
「数学と建築学の知識があればそう難しいことではない。ザンテ、お前は将来大工か建築家になりたいのか?」
ザンテの言葉にチャムがこたえるとザンテはいやそういう訳じゃないんだけどさとプイッと横を向いた。ザンテの住んでいた村と違い過ぎて驚いたのだ。同じ「村」だからこれほど差があるとは思わなかった。
「ザンテ、お前の知りたい答えを探す手伝いはしてやる。私が今回のように任務で外に出る時はお前もついてくるんだ。この村にケガ人や病人が来た時は私が診るからお前も一緒にいろ。そうでない時は午前中は村の農作業の手伝い、午後は自分で勉強をするなり本を読むなりしろ。夕方に私が時間が空いていたら私がお前に世界の話や呪文の稽古をしてやる」
「うん。わかった」チャムの言葉に当たり前の様に頷くザンテの周りでゲント族の者たちは驚いていた。たった一人の孤児をゲント族の族長がつきっきりで面倒をみるなどなかったからである。だが仕方ないという想いもあった。「魔族の落とし子」の面倒など誰もみたくない。
「ザンテ、ここがゲント族の誇る書物倉庫だ」
チャムがザンテを招き入れたその部屋には何千冊もの本があった。チャムの命令でチャムには護衛を付けず、チャムとザンテの2人きりとなっていた。
「神の使いとされるゲント族という我々の立場上、歴史・宗教・魔法の類の本が多い。そうだ、お前の村には教会が無かったと言っていたな」
「うん・・・。大地の精霊ルビス様に食べ物の感謝のお祈りをするくらいだった。教会から派遣されたって人は時々来てたけど、村の人たちが追い出してた。教会を邪教とか言ってた・・・」
土着の信仰である精霊崇拝の人々からすると唯一の神は教会の神であるとする教会の考えはなかなか受け入れにくい。だがそれでも世界中に教会があることを考えると教会の宣教活動はうまくいっているのだろう。
「我々ゲント族にも癒しの精霊とも生と死を司る精霊とも言われるゲント様を崇拝しつつ教会の教えも取り入れている。世界には色々な考え方を持つ者がいるのだ。拒否するだけでなく、理解し、場合によっては受け入れなければならん」
「その精霊と教会ってそんなに違うの?」
「一番わかりやすいのは魔法に対する考え方だな。ルビス様をはじめとする精霊崇拝は魔法はこの世界に漂う精霊の力を借りて行うものだとしている。例えばメラなら火の精霊、ヒャドなら水の精霊だな。精霊に力をかしてもらうために清き心と体でおらねばならぬという訳だ。教会は魔法は魔法陣の構築、つまり魔法の使用者である人の力で行うものとしている。様々な計算式により魔法陣を作り出し、その魔法を放つ。魔法使いや僧侶、さらに賢者と言われる者がかしこさが高いのはそのためだと言われている。なぜこのような違いが出来たのかというとその宗教のおこった土地柄の違いの為だと思われる。穏やかで豊かな自然により恵みを受けてきた人々は自然に感謝し、自然の力を借りて魔法を生み発達させた。逆に暑さ、寒さがはっきりしていて雨も不定期にしか降らないような厳しい自然の元で生まれた宗教は自然に頼らず、自然の力に対抗するために自らの力で作り出した魔法が生まれたと言われている。
興味深いのは歴史だ。かつてアレフガルドと言われていた世界がありそこは精霊ルビス様を信仰する世界だった。しかし、ガイアと言われる上の世界の教会の神を信仰する人々が時々下の世界に落ちてくるようになった。精霊崇拝に教会の教えが入りアレフガルドはどうなったか?答えは出ていない。一説には、ガイアの教会より伝わった魔法の力でアレフガルドの人々は王族や選ばれた人間しか使えなかった魔法が一般の人まで使えるようになったと言われているが、別の説では余計なものが混ざりアレフガルドの魔法は退化し弱くなっていったと言われている。
歴史家の間では今我々の住む地はガイアかアレフガルドかという論争がある。アレフガルドではルビス様は大地の精霊でなく創造神ルビス様と言われていたという歴史書もある。世界を造る程の神であったのだ。そのアレフガルドは大陸が数百年の間形を変えることがなかったという。しかし我々の住む世界はどうだ?地殻変動がよく起こり大陸は形を変え続けている。数百年後には世界の形が全く変わっているだろうという者もいる。ルビス様の力が及ばない、及びにくい世界であるためこうなっているのだ。よって私はこの世界がガイアが地殻変動で形を変えた世界であると思う。
この論争とは別に、ルビス様がこの世界におられるという説もある。サンマリーノより西の海での航海中に「これより北上すると邪悪なもの棲む島に行く」との旨の女性の声での警告を聞いた船乗り達の証言が多くあるのだ。その声を無視して北上もしくは接近し上陸した船が邪悪な者の棲む島にある難破船らしい。レイドック軍の船かもしれんとのことだ。この話が真実であるなら、ルビス様はどこにおられるのか・・・天空か、海底に神殿を作っておられるのか?これにも様々な・・・」
そこまで言ってチャムはザンテがキラキラとした目で自分を見つめている事に気付いた。
「なんだよ、チャム様。その続きは?早く話してくれよ・・・」ザンテは言った。
「・・・今の話、面白かったか?」
チャムは自分が調子にのって話し過ぎたことを恥じながら言った。
「「スゲー面白えよ!そんな話してくれる人いなかった。俺ってそんな広い世界にすんでいたのか!」
「ここから先は本で読め。ああ、それから今私が話した事はすべてが真実とは限らんぞ。本の内容が全部本当の事が書いてあるかどうかわからん。作者の憶測であるかもしれんしな。その中で自分で真実であるという事を探すのだ」
「わかった。ああ・・・、けど字が・・・」
「幼児向けで字を教えているクラスがある。そこに入って学ぶんだな」
「俺、結構いい年なのに。恥ずかしい・・・」
この世界の識字率などしれている。育ての親や村の者でも読み書きが充分ではなかったのだから恥じることはないとチャムは言った。
「ザンテ、お前には精霊の力を借りる魔法も魔法陣を使う教会の魔法もすべて覚えてもらうぞ。同じ呪文でもどちらのやり方もできるようにな」チャムは言った。
「うう・・・、俺そんなことをしなくても頭の中で願うだけで・・・」
そう言うザンテの頭にチャムは手をのせホイミと言った。
「どうだ?頭はスッキリしたか?」
「え?う、うん。なんか頭の中のモヤモヤが取れたような・・・」
「ハハハ!私はただお前の頭の上に手をのせただけだ。何の呪文も使っとらんよ。ただ、お前は頭の中のモヤモヤが取れたと言った。暗示というやつだ。ホイッと身を治すからホイミという呪文になったという説もある。言霊の力もバカにできんだろう?」
チャムは続けていった。
「ザンテ、これは願えば叶うというお前の力を制御するための修行だと思え。世界がお前に合わせるのでなく、お前が世界に合わせるのだ」
ザンテはうんうんといった感じでとりあえず納得した様子だった。
そうだ。人間の世界の常識を身につける度に、お前の非常識な魔の力は削がれていく。後はタイミングだ。それまでお前の望んだこの恵まれた環境でストレスやフラストレーションを溜めることなくおとなしくしておいてくれよとチャムは思った。