「ここにいるのは久しぶりじゃないかしら?テリー」
ミレーユは微笑みながらテリーへ言った。デスタムーア討伐後はスーパースターのマスター職のままとなっているミレーユは、弟であるテリーからみてもまぶしい程であった。
「占いで俺がどこにいるか位わかるんだろ、姉さん」
修行を邪魔されたことが迷惑だと言いたそうな態度でテリーは答えた。
「そうね。私があなたに会いたい時に、あなたが私のわかる場所に居てくれるといいのだけど。アークボルトの兵士長さんも、あなたに会いたいって言ってたわよ」
テリーはため息をついてミレーユの言葉に答えた。
「また、アークボルト直属の兵士にならないかという話か?断るよ。アークボルトの兵士達からは得るものがない」
「兵士じゃなくて剣術の教官よ」
「どっちでも同じだ。それに・・・」
アークボルトの兵士達が知っているのは、ドランゴを一人で倒したテリーだ。その後デュランの下僕となり、パーティーの足手まといとなったテリーを知らない。
「テリー、前を向きなさい。あなたは魔王デスタムーアを倒した勇者パーティーの一員。
それでいいじゃない。レックはレイドック王子に、ハッサンはサンマリーノで大工、チャモロは、たくさんの人を魔法で癒しているわ。アモスさんは、モンストルで結婚して子供が出来るって言ってたわ。バーバラはいなくなってしまったけど、もう一つの世界のどこかできっと幸せに暮らしているはず。あなたが山奥に連れて行ったドランゴも、また卵を産んで子育てをしてるんじゃないかしら。魔王討伐の旅は終わったのよ。あなたも次の行動に移っていいはずよ」
テリーは苛立たしげに答えた。
「姉さん、俺はまだ自分が許せないんだ。俺の旅はまだ終わっていないんだよ」
雷鳴の剣を手にいれ、この世界の魔王だと思っていたディランに挑み、敗れ、強くなりたいという欲望に負け、ディランの下僕となった。そのテリーを救ってくれたのは、アークボルト・マウントスノーの洞窟で出会い、弱くて群れることしか出来ないと思っていたレック達だった。パーティー加入直後は自分がこのメンバーの主力になると意気込んでいたが、すぐにレック達の戦闘力の高さに圧倒された。
伝説の武器・防具をまとい、勇者として雷をあやつる強力な呪文や特技により魔物を殲滅するレック。彼の放つギガスラッシュを見た時、雷鳴の剣の力を借りて放つ自分のいなずまが恥ずかしくなった。屈強で大柄な体格をしていながら、グランドクロスによるグループ攻撃や、回復呪文も使えるハッサン。ひらひらと攻撃をかわし、呪文や特技で魔物を翻弄するミレーユ。高度な回復、治療、蘇生呪文だけでなく、強力な攻撃呪文も使う事が出来るチャモロ。レックやハッサンのように前衛で戦う力を持ちながら、補助的な呪文を使い、仲間をサポートするアモス。圧倒的火力を持つ攻撃呪文を何発も打つことができる強大な魔力を持つバーバラ。
後にテリーを慕い仲間になったドランゴは強力な火炎・吹雪を習得していき、すぐにパーティーの主力となった。
それに比べて仲間になったばかりの自分はどうだ。数えきれる程の剣技しか持っていなかった。呪文も使えなかった。教会で教えられる冒険者としての力量、いわゆるレベルは
ドランゴ以外は皆自分の倍近くあるだろうということは容易に想像できた。
戦士をマスター職にした後、なぜかすぐに上級職のバトルマスターになることができた。だがバトルマスターになりたてのテリーはレック達のパーティーにおいて前衛で戦う力は持っていなかった。バトルマスターでいる間は、レックやハッサンといった前衛で戦う者が大きなダメージを受けた際に交代して戦闘に加わるバックアップ要員というのが役割だった。前衛として戦い続ける力はまだ持っていないというのが、パーティー内のテリーの評価だった。
バトルマスターをマスター職とした後は、回復呪文用の僧侶となり、後衛での支援担当となった。僧侶をマスター職とした後、パラディンもしくは賢者を目指すのか考えたが「狭間の世界」の強力な魔物と戦う場合、大きく体力(HP)を落とす魔法使いになっても役に立たないと考え、武道家になりパラディンを目指すこととなった。そうしている間にレック達はデスタムーアを倒し、魔王討伐の旅は終わった。テリーとしては何も手ごたえの残らない旅だった。後方で前線の者を援護しているだけで、最低でも戦う姿を見ているだけで、経験値と熟練度は身に付いた。だがこれは自分の力で得たものではない。結局最後まで、自分と他のメンバーの差を埋めることはできなかった。
一方でドランゴはパーティーの主力となった。「こごえるふぶき」を習得した頃にはパーティーの主力となり、魔力を消費せずに使う事が出来る吹雪や火炎の特技とハッサンを上回る攻撃力と体力でパーティーになくてはならない存在となった。デスタムーア戦はドランゴの「かがやくいき」がなければ、もっと長く厳しいものとなっただろう。おそろしいスピードで成長するドランゴを見て、それは自分の役目ではないかと思った。
旅の途中で酒に酔ったアモスから言われたことがある。テリーが加入する前にこのパーティーには「スラリン」「ピエール」というスライム族の仲間がいた。2匹ともアモスが「魔物つかい」の職についていた際に仲間にした魔物である。アモス達と同じようにダーマ神殿にて職業につき、同じように職をマスターしていった。穏やかで従順な性格の2匹はレック達からも可愛がられていたという。だが、テリーが加入した際、スラリンをモンスター預かり所へ送り、ドランゴが加入した際、ピエールをモンスター預かり所へ送った。「彼らがいたら、スライム格闘場を制覇できたかもしれないな」とアモスは言った。もちろんアモスは悪気なくただ話したかっただけだろう。もしくは2匹の分まで頑張ろうとかそういう意味だったのかもしれない。
だがその話は、テリーの心を少なからず傷付けた。戦力となっていた者が抜け、戦力にならない者が入ってきたと遠まわしに言われていると感じた。テリーは必死で努力をして他のメンバーに追いつこうと思ったが、同じように努力をし、戦い続ける者たちに追いつけることなどできるはずもなかった。
テリーは自分をスラリンかピエールと変えてもらおうと思った時あったが、狭間の世界で苦しい戦いを続ける仲間たちの前で情けないことは言いたくなかった。
「俺は自分が恥ずかしいんだ。弱い自分が嫌なんだよ。だから強くなる。強さの証である勇者となる。それのどこが悪い?」テリーは言った。
「あなたの気持ちはわからなくもないけど・・・」ミレーユはうなずきながら答えた。
テリーが強さを求める理由は子供のころ、自分(ミレーユ)がガンディーノ王への貢ぎ物にされたからなのだ。そして、テリーが伝説の武具をまとう勇者レックを羨望と嫉妬の眼差しで見ていたことも知っていた。
「でも、そのためにずっと魔物たちを倒し続けるの?」
「1人で剣や呪文の練習をしていたって、職業の熟練度は上がらない。魔物を倒さなくちゃいけないのは姉さんも知っているだろ?」
「魔物たちは自分から襲ってこないのに?」
「魔物による被害は時々聞くよ。無害ってわけじゃない」
「それは人間が山や森の奥、洞窟といった魔物達のテリトリーに入るからでしょう?魔王がいなくなって間もない今はきっと過渡期なのよ。人間はここまで、魔物はここまでっていうテリトリーを決める期間なのよ。共生はできないけど、人間の住みかと魔物の棲みかをきちんと分ければ争いは起こらないと思うわ。魔王のいない今、魔物達を倒し続けるあなたは・・・」
ミレーユはそこで口を閉じた。人間たちを蹂躙していた魔王と同じよ、と言ってしまうところだった。
テリーも、それに対しては何も言わなかった。また別の魔王が現れたら魔物たちは人間を襲うだろう。だったら、その危険を回避するために今のうちに魔物を倒しておくという、遅いか早いかだけの話じゃないか。などという詭弁をいう気にはなれなかった。ミレーユの言うことが正しいと理解しているからである。だが、
「姉さん、だったら、俺の気持はどうしたらいい?このみじめな気持ちはどうしたら無くなるんだ?他の奴らと違って俺は戦いしか知らないんだ。俺は自分が強くなることしか考えてなかったんだ」
「まだ見つかっていないだけよ。あなたの、戦い以外の生きる道が。アークボルトの兵士さんたちにあなたが持つ剣の技術を教える。それもあなたが選択できる素晴らしい人生のひとつじゃないの?ね、だから考えておいて。あなたの未来を」
テリーはとりあえず頷き、それに満足したようにミレーユはルーラで自分の帰る場所へ帰って行った。
姉さん、言いたいことはわかるよ。だけど俺は冒険者だ。世界中を旅している。どの酒場に行っても、昔は強かっただの、昔もっと修行しておけば良かっただの言う冒険者はいっぱいいる。そいつらは弱くてとても醜い。だけど、本当に怖いのは自分がそうなってしまうんじゃないかということだ。今の俺は自分の人生に、魔物を倒し戦い続け強くなっていく以外、よい選択肢があるとは思えない。テリーはそう考え、再びレイルーラの習練を行うこととした。