テリー 冒険のその後   作:ストイコピクシー

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第22話 教育という名の鎖

ゲント族の族長をチャモロにするという話を流したその日の晩、コンコンとチャムの部屋のドアをノックする音が聞こえた。来たか。チャムはそう思い、入れと言った。

チャムの予想通りザンテが一人で入ってきた。

「チャム様、お話があります。いえ、あの、直接チャム様に教えて頂きたいのです。なぜまだ若い、いえ幼いチャモロ様なのです?ゲント族の族長は代々血筋に関係なく最も魔力の高い者、たくさんの人々を癒してきた者がつく座であったはずです!チャモロ様はまだ下級の回復呪文しか使えず、医療現場にも出ていない。どう考えてもこれはおかしい!」

ザンテの言葉は少しずつ熱をおびてきて最後は少し叫ぶような形となった。

「ふむ・・・、こんな夜遅くに族長であるわしの部屋に入ってきて、詫びのあいさつもせず、わしの決めたことに異を唱えるか・・・」

チャムの言葉に我に返ったようにザンテは眼を伏せた。

 

「チャモロを次のゲント族長と決めたのは潜在能力の高さだ。お前だってわかるだろう?チャモロの秘めたる魔力はわしよりも高い。将来性を期待してのことだ。そして器の大きさもある。チャモロはまだ幼いが、村の者や患者たちすべてに好かれておる。あの幼い子に相談事までする者があらわれる始末だ。実績がないというなら・・・、そうだな、いずれ現れる勇者パーティーの一員にでもしようか?船を手に入れるために勇者一行がここに寄る時がくるだろう。その時仲間にしてやればいいのだ。これで満足したか?」

「なっ!?私とて潜在能力の高さは負けておりません。修行により成人しても尚、魔力は増え続けております。それに・・・、それに教会のシスターや同じゲント族の友人のマールは私を良き医者、友として見てくれています。勇者一行の供をゲント族から出さねばならぬというならば、私が行きます。最上級の呪文が使える私なら即戦力となるはずです!」

ザンテは力説した。

「はっきり言いおって・・・。お前は未熟なチャモロより自分をゲント族の族長としろと言いたいのだろう」

チャムの言葉にザンテは歯ぎしりしながら答えた。

「・・・そうです!チャム様の御考え、ゲント精霊崇拝、ルビス様や教会の教え、人体の構造・医療、世界の歴史等すべてを理解してゲント族を正しく導くことができるのは私です。チャム様、もう一度御考え直しください。私はチャム様を師として、父親として・・・」

「マホトーン」チャムはザンテに呪文封じの魔法をかけた。

「くうっ・・・」ザンテは頭を目に見えない輪にかけられたような、頭の中にモヤがかかった様な感じとなった。チャムから教わったマホトーンをかけられた状態の時の話の様に。

「私のかけたマホトーンにより、お前は呪文を使うことができない」チャムはザンテに言った。

「ザンテ、ゲント族長としての命令だ。跪け」

「ううっ」チャムがそう言うとザンテは言われた通りに膝をついた。

「悲しいものだな。拾い育てた子に裏切られるというのは・・・」椅子から立ち、近づいてくるチャムにそんなつもりでは・・・とザンテが言おうとした時、チャムの右手の人差し指がザンテの頭に触れた。「メダパガネ」チャムは敵を混乱させるメダパ二の上位呪文をザンテに唱えた。例えば、なかなか口を割ることのない犯罪者や、被害者を前にしても反省することのない加害者に過去のトラウマを呼び起こされることを目的とした、ゲント族の族長のみに、口伝によって引き継がれ使用することのできる精神操作呪文である。

 

ザンテの頭の中に過去の忘れたくても忘れられないトラウマがよみがえった。幼いころイタズラをされて癇癪をおこした自分が相手を睨みつけるだけで怪我をさせてしまったこと。

子供のころ育ててくれた親がザンテを生かして育ててしまったことを後悔しているときの話を聞いてしまった日の気持ち。それでも優しくしてくれた両親や村人たちが盗賊たちに殺され、絶望感と無力感を味わった時。怒りのままベンおじさんを焼き殺してしまった時。先日のアンナとの会話。そして大恩あるチャム様に逆らってしまったこと。罪悪感を伴う様々な思いがザンテの頭の中を占領した。ザンテは両手で頭を押さえ、大声で泣き出した。

「だれか居らぬか!?ザンテが自分をゲント族族長にせよと謀反をおこした。こやつを牢に入れてくれ」

待っていた様に2人のゲント族の僧が部屋に入ってきてザンテを抱えて出て行った。

 

ザンテ達がいなくなった後、ザンテが友と称する若いゲント僧侶のマールが部屋に入ってきた。

「本当にこれで良かったのでしょうか?ザンテは医者として患者の方々一人一人に真摯に向き合っておりますし、自分が魔族の落とし子と知っているためか身分の低い者、罪を犯した者にも平等な態度で接しております。チャム様を大変尊敬しており、本当の父親の様だと・・・」

「この村ではそうかもしれぬ。お医者様、お医者様と人に頼られ感謝され、高等な教育を受けたゲント僧達と語り合い、親と慕っておるわしがいつも見守っておるこの村ではな。だがもし、ザンテが外の世界に出て、人間の醜さを知ったら、私利私欲や金のために親・兄弟・子さえも殺す人間の本性を知ったら、やつはどう転ぶかわからん。もしザンテが敵意を人間の方に向けてしまったら、勇者も現れていない今、誰がやつを止められる?死者と話すことができ、願うだけでイオナズン程の爆発を起こさせる力を持っていたやつを誰が止めきれる?無詠唱のイオナズンなどマスタークラスの賢者がようやく到達できる場所だろう。今しかないのじゃ。ゲントの村の教育により正しい常識、良識、道徳、倫理が身につき、親代わりであるわしに逆らうことができない今こそが、魔族の落とし子を始末できる最大のチャンスなのじゃ」

そう言った後で、その教育とは自分たち人間にとって都合のいいだけのものじゃろうなとチャムは思った。

 

「今現在、我々人間が魔王と呼んでいるのはムドーのみじゃが、世界中に起こる異変を考えるとムドーだけが魔王とは思えん。人間を見守り、天空の城に住まうとされているゼニス王が世界にはびこる魔物たちに対して何も行動を起こされないのはなぜか?不敬な話ではあるが魔物たちにやられてしまったのではないか?レイドック城やアークボルト城に匹敵する大きさを持つグレイス城がいつのまにやら廃墟になったという話も聞く。これらの異変の背後にはムドーと同等、いやそれ以上の力を持つ魔王がいるのではないか?同時多発的に異変が起こるならそれらの魔王を束ねる者がいるかもしれん。大魔王という存在が。そう考えると一時の感情のみで世界の脅威となりかねない者をこれ以上増やすわけにはいかん」チャムは言った。

わかりましたとマールはうなずいた。

「マール、お前は時々牢に行き、ザンテに声をかけ続けろ。ザンテが絶望の末に暴走するのを防ぐためだ。数日かけて、今度は少しずつ、体を弱らせていく」

食事に毒を入れ、さらに毒入りの空気を流すのだとマールは気付いた。自分にも監視がつくだろうとマールは思った。まだまだ死にたくないのでゲント族を敵に回すような馬鹿なマネをしないとマールは誓った。そしてそんなマールの性格を知ったうえでの「魔族の落とし子の話し相手となる」という仕事を与えていたチャムの人選だった。

「ザンテが完全に弱りきったら、アマルム処刑場で処刑を行う。魔族の落とし子を生かし、育てることがどれだけ罪か世界中に知らしめるのだ」

 

人間の敵が、魔王となりえる者が生まれる因果よ、ここで断たれてくれ。

チャムは精霊ルビスに強く祈ったのだった。

 

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